3級フィクサーパンチ   作:アリマリア

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 原作では叫びはしても笑いはしないし、所詮団子止まりで山程にもならない死体君……。





笑う死体の山(笑う死体の山)

 

 

 

 L旧研の研究が、本格的に暗礁に乗り上げた。

 その事実を悟るのは、彼らの手伝いをしている俺からすれば、そう難しいわけでもなかった。

 

 まあ、妥当な展開だね。

 

 いつの時代も、研究と発明には犠牲が付き纏う。

 だが、今のカルメンはそれを許容できない。あくまでクリーンに、犠牲なく事を進めようとする。

 

 そんな半端な覚悟で、バチクソに犠牲を出しながら突っ走る翼たちに追いつけるわけもないんだよな。

 

 

 

 畢竟、カルメンという女は、現実を見ることができていなかった。

 

 この世界は、他者の苦痛を以て他幸福になることのできない、カスみてえな場所であると。

 悲劇以外の何物も歩かせるに至らないのが人間であると。

 誰もがただ一人、自分のためにしか生きられないのだと。

 

 あまりにも育ちの良い、世界の悪意から隔絶されていた女は、知らなかったんだ。

 

 字義の上では理解していたんだろうな。

 想像の上では親しんでいたのかもしれない。

 

 けれど、現実としてそれを体感したことはなかった。

 

 なまじっか才能があるもんだから、大きな挫折を味わったことがないのも痛い。

 自分の力があれば、そして優秀な人間の力を借りれば、どのような障害も越えられるものだと思っていた。

 その根拠のない妄信は、生温かい巣の空気の中で歪に育ち続け、彼女が生まれ持った高い行動力を伴って『カルメン』という女を構成した。

 

 太陽のようにみんなの目と心を焼き、盲目にして従わせ。

 そのくせ、本物の都市の星として空に昇ることは能わず、ただ不純物として排除され、いずれ掻き消えて辺りを暗闇で満たす。

 

 そんな人工照明、あるいはネオンの星だ。

 

 

 

 そんな彼女の放蕩の結果が、今の研究所である。

 

 無意識領域から抽出するコギト、E.G.O、アブノーマリティ、そしてエンケファリン。

 この内、多少なりとも抽出することが可能になったのは、アブノーマリティだけ。

 そこからE.G.Oやエンケファリンを抽出する技術は、未だ不安定で再現性に欠け……。

 彼らの本命であるコギトに限って見れば、殆ど抽出できていない。

 

 研究所には、副産物であり危険な存在である幻想体が増えるばかり。

 本来研究していた、コギトと心の病についての探求は、遅々として進まない。

 

 皆がそれに焦り、抜け出そうともがき、しかし成し得ず。

 少しずつ、彼ら彼女らの心には、膿が生じ始めている。

 

 

 

 ついでに言うと、ただ研究が進んでないってわけじゃない。

 ついに研究所の中から死者が出たことも大きいだろう。

 

 一週間程前のこと、ついに研究所初のALEPHクラスアブノーマリティ、山田君こと「笑う死体の山」が抽出されてしまった。

 原作でも処刑弾でゴミ掃除しないとひょっこり現れる、脱走魔のクソ団子だったが……。

 クリフォト抑止力の研究があんまり進んでねえ現状のL旧研では、もっと酷い。

 

 具体的に言うと、団子ではなく文字通りの「山」だった。

 あの団子が10個ちょい重なって織りなす山。

 前世じゃ山田君を見て「どこが山やねん、所詮団子やんけ」なんて思ってたけど……なるほど、これを見れば確かに「山」と命名するわな、なんて変に納得してしまった。

 

 ……抑止力がない状況だと、アブノマって変形したり肥大化したりもするんだね。

 初見の時はかなりビビった。いや、ビビったっていうか「!!恐怖」した。

 

 

 

 そんな死体の山は抽出されると同時、その場にいたモブ研究員(オフィサー)を1人喰らった。

 不幸にも彼は抽出された死体の山のすぐ傍にいて、こればっかりは俺にも止めようがなく。

 全身に生えた無数の口が、けたけたと笑いながら、絶叫を上げる彼を喰らっていた。

 

 続いて、その日の抽出主任だったミシェルも喰われそうになり、警備として控えていた俺が慌ててインターセプト。

 「!!!!圧倒」されていた彼女をなんとか部屋から逃がし、やっべえ流石にコイツを外に逃がすわけにはいかんと、収容室の中に押し留めるべく制圧を開始することとなった。

 

 回避と防御を最優先に、左腕でレーザーをぶん回し、右手に握った涙剣で突き刺しまくって、少しずつその山を減らしていって……。

 ようやくあと8団子になったくらいで、押取刀でカーリーが到着、バトンタッチ。

 

 いやぁ……アレは死ぬかと思いましたねホンマ。

 ていうか、ホントに死にかけた。カーリーが来ると同時に気絶しちゃったし。

 

 ひたすらに安全を取って攻撃は避けたんだけど、どうやらあの山の上げる悍ましい笑い声が、常時BLACK属性のスリップダメージを入れていたらしい。

 道理で。なんかチクチクすると思ったんだよな。

 

 そんなわけで、カーリーが部屋の外に叩き出した俺は、心身共に死にかけの重体だったらしい。

 体の3割くらいが液状に溶け出してたんだって。グロぉ~。気絶したから見ずに済んでラッキーだ。

 

 その後、真っ青になったカルメンと、流石に必要だろうと判断したアインが秘蔵のK社製アンプルを使ってくれたおかげで、ひとまず俺は死なずに済んだのであった。

 

 ミシェルには泣いて謝られてしまったが、そこはごめんじゃないよね、ありがとうだよね。ってことで感謝をいただいて、ついでにデートの約束も取り付けて。

 研究所初の人身事故は、こうして幕を閉じた。

 

 え? 笑う死体の山 vs カーリーの結果?

 言う必要ある、それ?

 

 強いて言えば、記録は3分42秒でした。

 完走した感想ですが、ご本人は「初見だから警戒した。次はもっと早くやれる」などと語っております。

 俺が多少削ってたとはいえ、抑止力低い状態のALEPHと殺し合って出る感想、それ???

 

 

 

 この一連の、惨劇と言っていい事件。

 俺としては「まあ都市だしこういうこともあるわな」で済んだ話なんだが……。

 カルメンという光に当てられ浮かれていた研究者諸君にとって、この痛ましい事故は鮮烈だったらしい。

 

 進まない研究、見えない未来、磨り減る資金に、そして人死に。

 それらの環境の変化によって、研究所が……誰より中核たるカルメンが、少しずつ翳っていっているのを、俺は肌で感じていた。

 

 まあカーリーとリサ、エノクを除けば、ほぼ全員が巣の出身だからね。

 こういった悲劇に直面する機会はあまりなかったのかもしれん。

 

 俺? 俺はまあ……うん。紫の涙に頼んで、外郭に出る機会がいくらかあったからね。

 人が喰われたりイジられたり他のモノに変えられたりする光景には、多少慣れてる。

 ていうかそういうのに慣れるため、わざわざ外郭にまで出てたんだけど。

 

 まあでも、こんな雑魚一人が健常であっても意味はなく。

 研究所はゆっくりと、しかし一歩一歩と確実に、破局へ近付きつつあった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「なんか空気悪くね?」

「その……私としては、コナーがそこまで平静なのに、違和感があるくらいなんだけど……」

 

 俺ことコナーは、とあるエリートイケメンな友だちの影響でコーヒー党だ。

 いずれ紅茶党の元調律者とバチバチに火花を散らすことが確約されている身である。

 

 が、それはそれ、これはこれ。

 天使が紅茶を淹れてくれるというのなら、それを拒む程に無粋ではない。

 

 前回ちろっと命を救ったことで取り付けた約束に基づき、俺は目の前の少女、最年少研究員ミシェルの研究室でくつろいでいた。

 

 

 

 ショートカットの赤茶の髪に、どこか自信なさげな瞳。

 そして何より、その若さと小柄さが特徴的な彼女は、将来教育チームセフィラ、「ホド」となる女性だ。

 

 Lobotomy時代は自責の念に駆られた結果、鬱憤を溜め込み過ぎて幻覚を見たり幻聴を聞いたり、果てにはキチゲ解放することもあった彼女だが……。

 そういった罪悪感に囚われていない今のミシェルは、他人思いで引っ込み思案な、天使の如き女の子だ。

 

 ガブリエルが実は良い奴、カーリーが根っこは良い奴、ダニエルが心底良い奴であれば、ミシェルは分かりやすく良い奴だ。他者への気遣いが細やかで温かさがある。

 資料とかも毎回分かりやすく纏めてるのが分かるし、稀に俺にお願いをする時も、間違いようのない明瞭な指示を出してくれる。

 人差し指の指令とかいうカス意志は爪の垢煎じて飲め。

 

 強いて言えば、意志薄弱で流されがち、そして怖がりなところが弱点か。

 そんな彼女から見て、コナーとかいう奴は、多少腕っぷしが強いだけでイキり散らかし幅を利かせるチンピラに映ったことだろう。

 

 そのため、俺のことを怖がって距離を置いていた彼女とは、これまであまり接点がなかったのだが……。

 あの笑う死体の山事件をきっかけとして、最近は時々話をするくらいの仲になれたのだった。

 

 

 

「ちょっと最近、研究が詰まってて……みんな、ピリピリしてるの」

「知ってる。コギトの抽出も分析も、もう2か月くらいは進展ないもんな」

「その上、先日のアレ、で……コナーとカーリーさんのおかげで収容室には押し込めたけど、もしまた脱出されたら犠牲者が出るかも……って」

 

 当時、目の前で職員が死んだことを思い出したんだろう。彼女は顔を青くし、持っていたお茶菓子をテーブルに置いた。

 

 ……成人すらしてねえ女の子がこんなんなってるの、普通にかわいそすぎない?

 

「大丈夫だよ、アインとカルメンがクリフォト抑止力ってヤツ研究してんだろ? あんなことはそうそう起こらないって」

「うん……でも、やっぱりコギト研究の片手間にしか着手できてないし……それを働かせるだけのエネルギーの抽出も、あんまり進んでなくて。ごめんなさい……」

 

 ミシェルは謝罪の言葉と共に俯く。

 自らが感じる恐怖もそうだが、何より俺にかけた迷惑こそが彼女を苦しめているらしい。

 どんだけ気にすんなっつっても謝って来るんだから、まったく自罰意識の強い子だよ。

 

「気遣ってくれること自体は嬉しいけど……何度でも言うけど、君がそんな顔する必要はないよ。

 俺とカーリーは用心棒だ。君たちを守るために戦うのが仕事。

 もしまたミシェルに何かあったら、俺もカーリーも、当然のように君を守る。君が当然のように研究を頑張ってるようにね」

「あ……うん、ありがとう」

 

 まだちょっとぎこちないけど、少しだけ彼女の緊張が緩む。

 良かった、あの日の俺、ひとまず彼女の安心材料になれるくらいには活躍できたらしい。体を溶かした甲斐はあったな。

 

 続けて、俺は冗談っぽく肩をすくめた。

 

「むしろクリフォト抑止力ってヤツが完成したら、俺たちの仕事なくなっちゃわん? 寂しいな、俺らは失業して外郭放逐だよ、しくしく……」

 

 ふざけるように目元をこすって見せれば、「なにそれ」、とミシェルは笑みを漏らしてくれる。

 

 良かった良かった。

 この子まだ大人ってわけでもないし、マジで良い子なんで、曇った顔はあんま見たくないのよね。

 

 

 

 あくまで俺個人の考えだけどさ。

 Lobotomyの頃のホドのやった「自分勝手な善意」ってヤツ、別に悪くはないと思うんだよね。

 

 誰だって、基本は自分のために行動するもんだ。

 誰かの苦痛を踏みにじって自分の幸福に繋げるのが都市の「普通」。

 そんなクソ環境の中では、誰かのためになろうとする行動自体が既に立派と言える。

 

 だから、その過程がどうであっても良いのだ。

 やらない善よりやる偽善とは良く言ったもので、最後に誰かに何かを為せるのなら、それは善をおいて他にないだろう。

 Ruinaのアンジェラやローランのように、誰かの為の行為や赦しを通して自分自身を救うなんて、ありふれたことなんだしさ。

 

 更に言えば、そんな自分のための善意を悔い、本当に誰かのためになれるよう自分を改められるというのなら、それは善人越えて聖人、いやもはや天使。

 ホドちゃんマジ天使、ミシェルマジ天使である。

 

 そんなわけで、俺はホドやミシェルに同情的だ。

 そのため、ちょっとばかり対応が甘くなってしまうのも仕方がないと思う。

 

 

 

 さて、そんな大天使ミシェルは、アンニュイに溜め息を吐き、その手の中のティーカップを見下ろした。

 

「私はまだ、いいの。コナーとカーリーさんのこと、信じられるから。

 他の人たちも、まだちょっと焦ってるくらいなんだけど……。

 でも、特にカルメンさんがね、少し……落ち込んじゃってるみたいで。それが心配、かな」

「だろうね。アイツ、ここの所研究室に籠り気味だし」

 

 最近、カルメンが俺を追って来る頻度が、明らかに減った。

 心の病の治療という目的に対し、俺を知るのはあくまで婉曲な手段だ。

 それよりも目の前のこと、コギトの抽出方法の模索に専念しているんだろう。

 

 ……要するに、余裕がなくなってきたわけだ。

 なんなら口数まで露骨に減っている。

 チカチカ点滅ネオンさん、切れかけでワロタ。

 

 ちなみに、カルメンに絡まれなくなって、俺の労働量が減ったかと言うと……否。

 その代わりと言わんばかりにエリヤに呼ばれたり、ガブパイセンの研究手伝いする時間が増えたから、結果として拘束される時間はそう変わらないんだぜ!

 

 俺は今日も今日とて疲労困憊。

 こういう研究員とのコミュニケーションタイムという癒しがなければ、潰れてしまいかねないくらいだ。誰か助けて〜><

 

 

 

 と、俺のことはどうでもいいとして。

 

 今はあのチカチカネオン、カルメンの話ね。

 

「ま、上手く研究が進まなくて凹んでるんだろ。

 俺やダニエルなんかは、翼のかなり良いトコに勤めてたのを辞めてここに来た。特にダニエルは、カルメンがいるのなら何かできるんじゃないか、何か変わるんじゃないかと期待していたくらいで。

 それが実際には、研究が思うように進まず、俺たちの期待に応えられない。

 落ち込むのは自然なことだろうな」

「……私たち、カルメンさんの負担になってるのかな」

「いんや、それは違うな。カルメンが追い詰められてるのは、カルメン自身の自信からだ。断じて君たちが悪いわけじゃない」

 

 結局のところ、メンヘラカルメンちゃんの独り相撲なのだ、これは。

 

 自分なら上手くやれる、都市の人々を救えるという、根拠のない妄信。

 それを元に突き進んだ結果、多くの人間の人生設計を狂わせ、成果は出せず、あろうことか副産物が仲間を殺したのである。

 

 都市や外郭に慣れた俺の感性からすれば、「はいはいプロムンプロムン」で片付く話だが……。

 良いトコ育ちで、悲劇のひの字も体験したことのなかったカルメンにとって、自らの判断でこのような悲劇が訪れたという事実は十分に破滅足り得る。

 

 アレは事故だ。別に誰も彼女を責めてなんていない。

 責めているのも責められているのも、彼女自身の心。

 

 彼女を追い詰めるのは彼女自身の自責、彼女を苦しめるのは過去の自分の判断への後悔。

 俺たちに責があるわけでもないし、負担になっているわけでもない。

 

 多分、今のカルメンには、俺たちの声すら届かんでしょ。

 死者の嘆きの幻聴だけじゃね? 聞こえてるの。

 

 

 

 こりゃそろそろかなー、なんて思いながら紅茶を啜っている俺。

 その前で、ミシェルはおずおずと口を開いた。

 

「……何か、力になれないかな。カウンセリングとか」

「無理だねー。他人が救えるのは、助けられる準備ができてる人間だけだ。

 今のカルメンには何言っても届かない。時期が悪いよ時期が〜」

 

 マ~ジで良い子だなぁこの子、なんて思いながらも、すっぱり否定する。

 無理なもんは無理です。今のカルメンはもう色々と駄目である。

 

 アイツに話を聞かせる方法とか、俺が思い付く限り1つしかない。

 

「ま、俺たちが出来ることなんてそう多くはないよ。

 日常の業務を淡々とこなすこと、自分にできる範囲でカルメンに寄り添うこと……それから」

 

 紅茶を口に含み、俺は淡々と口にした。

 

「道を誤りそうな時に、ちゃんと止めること。それくらいでしょ」

 

 

 

 







 Q.ゲロる死体の団子は研究所での大事故で生まれたんじゃないの?
 A.本作の死体君は多分どこかの翼か何かの大事故から抽出された死体君。本編死体君と性能の差はありません。



(付記)
 前回の評価100人に続いて、お気に入りが1,000名を越えました! ありがとうございます!
 というか、気付けば評価が140人越えてました! なんだこのペース!?!?
 改めてご愛読、評価、お気に入り、感想、本当にありがとうございます! とんでもなくモチベーションになります!!
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