3級フィクサーパンチ   作:アリマリア

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 ターニングポイント、その1。





3級フィクサーパンチ

 

 

 

 その時が来た。

 

 

 

「僕も、皆の研究の力になりたいんだ」

 

 

 

 ……エノクが、そう言い出した。

 

 唐突……では、なかった。

 時々話をする中で、それとなく軌道修正していたが、それでも彼の結論はそこに行き着こうとしていた。

 

 だから、その言葉が出るのは時間の問題で。

 カルメンが塞ぎ込んでしまったのは、ある意味、丁度良い契機になったのだろう。

 

 

 

「僕も、研究に参加させてほしい。

 こんな僕でも、力になれることは、変えられることは、あるはずだから」

 

 

 

 L旧研のメンバーが揃った広間で、まるで主人公か何かのように、その中心に立ち。

 エノクは、眠たげなまぶたを見開くこともなく、余りにも平然とそう語った。

 

 

 

 ……現状、L旧研がコギト研究で詰まっている点は、2つある。

 1つは、そもそものコギトの抽出方法の探求。

 もう1つは、コギトの用法用量である。

 

 コギトは、人の深層心理から抽出した薬だ。

 まあ薬っていうか、人の心に影響を及ぼす汚染物質って表現が適切だと思うんだけど、カルメン一派は薬と信じて疑わないらしい。

 

 マジでキチってるわ。

 あらゆる人の集合無意識の欠片だぞ? 何十億という人の意思の塊だぞ?

 そんなもんを個人の意識にぶち込んだらどうなるかなんて、目に見えてるだろうに。

 

 ……ともあれ、だ。

 カルメンたちは、コギトを安定して抽出する方法を探すと同時、それをどれだけ人に投与していいか判断しかねていた。

 

 動物実験はできない。

 人の集合無意識の欠片であるそれを、人ならざるモノに注入したところで、思考がバグったりするだけで何の意味もない。

 だから、実際に人に打ち込んでみて、どれだけの量でどれだけの影響が出るのかを計測しなくてはならないんだってさ。

 

 こわ~。

 完全にマッドサイエンティストやん思考が。普通に恐怖なんだが。

 

 俺としては、そんな洗脳紛いのおクスリ作るより、都市で新しく学校でも作って道徳教育促進した方がずっとマシな成果生むと思うんだけど。

 皆はそうは思わんのかね。もしかして俺って異端すか?w あ~あ、転生者の辛いとこね、これ。

 

 

 

 さて、そんな状況で。

 コギト研究に参加するには到底知識の足りない子供が、協力を名乗り出てきた。

 それもリサと違って非常に利口で、実際の研究内容はともかくとして、その挙手がどんな意味を持つのか、何をすればいいのかを理解している子供だ。

 

 要するに、エノクは自らを実験台にしろと、そう言っている。

 手詰まりになったコギト実験に、少しでも進展をもたらすために。

 

 …………はあ。

 こっちもこっちで覚悟キマりすぎでしょ。

 ガキがよ……視座は低くして、枕は高くして寝てろ……。

 

 ほれ見ろ。リサなんて、俺の腰辺りを不安そうに握って見上げてきてら。

 エノクの言葉が何を意味するかはわからずとも、周りのクッソ不穏な顔した大人たちを見て、嫌な予感がしてるじゃねえかよ。

 

 ……なんで誰も慰めねえの!? 子供が泣きそうになってんだぞ!?

 

 普通こんなふざけた提案一瞬で突っぱねるか、そうでなくとも一旦話を切り上げるだろ! 子供の前だぞわかってんのか!?

 オイオイオイ、(視野が)死んでるわコイツら。ほう、余裕抜き大人ですか。情けないものですね。

 

「大丈夫」

「……うん」

 

 俺はリサの頭を撫でながら、憮然とした顔で事態の推移を見守った。

 

 

 

 結局、その後。

 

 研究員たちは、カルメンに判断を託し。

 カルメンはそれを保留し、一週間後に答えを出すと告げて、自室に戻って行った。

 

 エリヤは、どうしようと慌てまくり。

 ガブリエルは、悲愴な表情で黙り込み。

 ミシェルは、せめてカルメンに声をかけようと追いかけ。

 

 カーリーは、黙ってまぶたを閉じ、煙草を吹かし。

 ダニエルは……何こっち見とんねん、すべきことをせんか。

 

 アインは、いつもの無表情……のように見えて、口端を結んで自責の念が見える表情。

 ベンジャミンは、そんなアインを心配そうに見てる。

 

 

 

 ……くっそ情けねえ大人しかいなくて涙が出ますよ!!!

 

 

 

 * * *

 

 

 

 一週間後。

 

 カルメンが答えを出すと、皆を呼び出した。

 

 

 

 俺はこの一週間、規定された業務をこなしながらも、他にも色々と動いていた。

 

 感じている不安を誤魔化そうと、積極的に遊びに誘ってくるリサに構い倒したり。

 エリヤのどうすればいいかっていう相談兼愚痴に付き合ったり。

 滅茶苦茶落ち込んでるミシェルを慰めたり。

 不穏な感情を振り払うようなカーリーの訓練に付き合ったり。

 ガブリエルとダニエルの追い込み研究を補佐したり。

 ずーんと沈んでいるアインを無視したりしてた。

 

 つまりはいつもよりもっと働いてたってことだクソ!!

 死ねカルメン!!!

 

 

 

 そんなわけでその日、多分カルメンも寝不足だったんだろうけど、俺も寝不足であった。

 

 昨日はリサとエノクと一緒に寝ようとしてたんだけど、リサがそりゃもうぐすぐす泣くもんだから、エノクと一緒に一生背中擦って慰めてたんだぞ。

 しかもエノクの言葉、視座が高すぎて全然リサへの慰めにならんので、俺は全自動エノク語通訳機になってたんだぞ。

 

 おかげで一睡もできてねえよ。

 べろべろに酔って愚痴を垂れ流す機械になったエリヤを慰めてた一昨日からずっとなァ!!

 ごめん嘘、そういや三日前も「なんとかカルメンさんを止めたいから」っつって研究してたガブリエルとダニエル手伝ってたわ!!!

 ぶっちゃけ今にもぶっ倒れそうじゃボケが!!

 

 明らかにこう、労働基準法とか、何かしらの法に反してるだろうがこの労働環境!

 てめえのせいだぞカルメンマジで!!! 死ね!!!

 

 

 

 そんな悪感情を自らの内に抑え込みつつ。

 俺は、一堂に会したL旧研メンバーの集団の中から、中心に立つカルメンとエノクを眺めた。

 

 目の下のクマも濃く*1、明らかな消耗が見て取れる*2彼女は、エノクの肩を抱いて、思い詰めた表情。

 

 一方エノクは……相変わらず、あまり表情を浮かべてはいなかった。

 ただ、全てを受け入れたような悟りを顔に浮かべているばかりだ。

 解釈違いです。ガキは笑ってろ。ぶっ構い倒すぞ。

 

 

 

 皆の視線を受け、カルメンはその陰った瞳も虚ろに、口を開く。

 

「みんな、集まってくれてありがとう。

 先週、エノクに言われたこと、私はたくさん考えたわ。みんなもきっと考えてくれたと思う。

 その上で……今から、私の結論を言うわ」

 

 頼む~~~、駄目って言ってくれ~~~。

 絶対言わないだろうけど言ってくれ~~~さっさと帰って寝たいんじゃ~~~。

 

 

 

 

 

 

「エノクの決意と提案を、受け入れる。

 都市の人々の病を治す……その点で、エノクは私たちと同じだけの志を持っているわ。

 だから、私たちと同じように、彼の意志を尊重するべきと思ったの」

 

 

 

 

 

 

 よ~~~~~しよしよしよし!

 

 死ね!!

 

 いや!

 

 

 

 殺してやるぞカルメン!!!

 

 

 

「異論がある人は……」

「あるぜ」

 

 三文字で鬱憤を吐き捨てながら、俺は意識を切り替える。

 

 不整脈に跳ねる体、冷たく感覚の薄い手足、霞んで見えにくい視界に、フラついて乱れる思考。

 

 それらの不調が、交感神経の刺激で消し飛ぶ。

 いやまあ、錯覚なんだが。あくまで興奮でそれらを忘れ去るだけだ。

 

 戦いの時、体調不良や気分の落ち込みなんてものは、言い訳にならない。

 だから戦士たらば、常に意識と心を凪に。

 平常通り、高くもなければ低くもない、フラットな実力を出し続けるべし。

 

 師匠から教わった、戦士として持っていて当然の心持ちであり……。

 自分をそちら側に切り替える、精神のセットアップだ。

 

 

 

 

 俺はつかつかと集団から歩み出て、中心のカルメンとエノクに近付く。

 研究者の皆が、緊張の中、俺の行動を見守る一方で……。

 

「ッ!」

 

 ただ一人、その気配の違和感に気付いたカーリーが部屋の隅から飛び出し、研究員の間を縫って俺に迫って来る。

 

 ああそうだな。

 他の誰にもわからずとも、戦士であるお前だけは、俺の害意を察知できるはずだ。

 

 カルメンを害する者を、お前は許さない。

 俺の歩みを止めようと、必ずやその赤い刃を振りかぶるだろう。

 

 俺みたいな雑魚、一薙ぎで簡単に戦闘不能にできる。

 そしてこの距離、この速度なら、十分にその一撃は間に合う。

 

 お前の刃は、確かに俺を止め得るものだ。

 

 

 

 

 

 

 まあ、対策済みなんだけどな。

 

 

 

 

 

 

 人混みをかき分ける一瞬の暇を用いて、俺は義体化した右腕──では、なく。

 

 右腕の形に形成していた、その遺物を起動した。

 

 

 

 肩部からの接続を解除。

 自立飛行、及びモード「祈り」を起動。

 

 武装「白」、展開。

 

 俺から切り離されたことでカモフラージュが解け、それは正体を晒す。

 巨大な杖、あるいは砲塔の形をした、遺跡の遺物が一つ。

 

 それは俺から少し離れて浮かび上がり、どこからか「チリン」と鈴の音を響かせた。

 

 

 

「止まれ、コナーッ!!」

 

 俺ならば受け止めることはできずとも、受け流すことはできるだろうと……。

 そんな信頼と共に、赤い剣は振るわれた。

 

 大切断-縦-である。

 

 オイ馬鹿が、殺す気か。

 普通は縦斬りとか、よくて突進だろうが。

 流石に大切断は殺意が高すぎるわ、まずはてめぇが止まれ。

 

 

 

 ……と。

 普段の俺であれば、ビビって跳び下がりでもしたのだろうが。

 

 今日の俺は、歩みを止めることはない。

 

 何故なら……。

 

 

 

 チリン、と高らかな音が響く。

 

 

 

「なッ、に……!?」

 

 ……何故なら、その斬撃が裂くのは俺の体ではなく、カーリー自身の体だからだ。

 

 

 

 武装「白」。

 武装「赤」を俺のメインウェポンとするのなら、これは俺の切り札だ。

 

 精神汚染効果のあるレーザーを撃ったり、同じ効果の霧をばら撒いたりできる砲であり。

 同時、「一定時間に限り、受けるダメージを全て反射する」とかいう、とんでもねえ機能を秘めた杖でもある。

 

 ……要は、白の便利屋のアレだ。

 多くの管理人が「コイツの対処めんどくせぇ!」と思った、例の武装である。

 

 もうお察しのことかと思うが、俺はイオリに取って来てもらった四色便利屋の武装を使っている。

 「赤」を武器に。「白」を右腕に。「黒」を左脚に。「青」を武器と腹に。

 その多くは義体化手術に伴い、この体の内に埋め込んでいる形だ。

 

 46日を迎えた管理人Xならば理解できるだろうが、コイツらは初見殺しに特化している。

 赤の死に際レーザーで職員を溶かし、白の反射が理解できず職員を溶かし、黒のクソクソカウンターゼロ化で職員を溶かし、青の瞬間移動で職員を溶かす。

 それは多分、あらゆる管理人が味わう、蒼白の洗礼だろう。

 

 

 

 その初見殺しの威力は、この世界でも変わらない。

 

 俺に向かって走り寄りながら、全力の斬撃を見舞おうとしたカーリーは、自らの斬撃をその身に受け……。

 

 受け……。

 

 ……………………。

 

「ちっ、どうなってやがる……コイツも遺物か!」

 

 ……受けてねぇな。

 

 え、嘘、どういうこと?

 俺の目がおかしくなかったら、今跳ね返って来た斬撃を返す刀で迎撃しなかった?

 

 大切断-縦-を大切断-縦-で相殺したの今??

 

 どうなってんだこの女の反射神経!?!?

 

 

 

 ……いや、今はよそ見をしてる時間はねえわ。

 

 「白」の「祈り」は、最長でも10秒強しか持たない。

 俺が絶対反射の盾に守られるのはその間だけ。

 解ければすぐさま、過保護な特色フィクサーが俺を止めに……というかDIE SET DOWNしにくるだろう。さっきまで俺だったものが辺り一面に転がってしまう。

 

 ……だが、逆に言えば、この10秒間。

 俺は誰に止められることもなく、自由に動くことができる。

 

 

 

 そんなわけで速攻即決。

 俺は俺の為すべきこと、為せることを為すのみだ。

 

「え、え、コナー……?」

 

 驚きと共にこちらを見つめるカルメンに、ツカツカと歩み寄り……。

 

 ぐっと、左手を握り締める。

 

 

 

 喰らえカルメン!

 

 これが俺の!

 

 ここしばらくの鬱憤も詰め込んだ!

 

 男女平等!! 教育的!!!

 

 

 

「3級フィクサーパァンチッ!!」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 俺は3級フィクサー相当のスペックを持っている。

 当然、筋力とか近接格闘技術もそうだ。

 パンチへ体重を乗せる方法、重心の動かし方、拳の突き出し方まで含め、ある程度は会得している。

 徒手格闘は何かと便利なんでね。持っていて損はないって紫の涙に文字通り叩き込まれたわ。腹パンと共に。

 

 さて、そんな俺の3級フィクサーパンチで頬を殴り飛ばされたカルメンは……。

 50センチくらい吹っ飛んで倒れた。

 

 無論、本気の3級パンチではない。そんなんやったら骨逝くし。

 あくまでクッソ痛いように、しかし後遺症は残らないように加減した殴り方だ。

 

 コナー君はとっても優しいので、クソうざってえ実質敵みたいな存在にも手加減ができるのである。オフィサー君たちは処分弾で優しく殺してあげるからね♡

 

 ……だが、まあ。

 そんな一撃でも、いいトコ育ちのお嬢ちゃんには、余程ショッキングだったようだ。

 

 殴り飛ばされた彼女は、倒れ込んだまま、俺へ呆然とした視線を向けて来た。

 痛みとか恐怖とかより、意味わからんという困惑が勝ってる表情である。

 ……さては寝不足すぎて、痛覚ちょっと麻痺ってのかもわからんね。

 

 

 

 が、俺としちゃあそんな視線に一々反応はしてらんない。

 なにせここからが大一番なのだ。

 

 よぉし、始めるぞ……!

 クソみてぇな茶番兼、遠まわしな自殺をよぉ!!!

 

 音量上げてけ!! (俺の)生前葬だ!!!

 

 

 

「カルメン……お前、心の病を治療したいとか言ってたよな。

 自分らしく生きられない、『そうするしかない』って生き方に囚われた人たちを解放する、だったか」

 

 くっくっく……怪奇・突然の暴力男に戸惑っておるわ。

 本当は丁寧にその戸惑いを解体してあげたいけど、「白」の残り時間が少ないから巻きでいくね。

 

「それで? てめぇが今やってることは何だ?

 まだ10にもならない子供を実験台にする? 後遺症どころか、命の保証もないような薬物の投与実験にか?

 それが都市の組織、翼、裏路地のクソ共がやってることと、どう違うんだ?」

 

 青黒兄妹を実験台にしようとした翼と、今カルメンがやろうとしていることは、何も変わらない。

 捕まえてきたガキに死ぬかもわからん実験をするんだからな。

 

 私が解放するだなんだ言ってはいたが……。

 カルメン。結局はてめぇも都市の人間、都市の病の罹患者なんだよ。

 

 そう突きつければ……カルメンの顔が、更に悲痛に歪む。

 フハハハハ!! どうだ事実に胸が痛かろう!! あと顔も痛かろう。そこはごめんね。ショック療法でもないとお前止まりそうにないしさ。

 

 

 

「ちがっ……だって、」

「だって何だ? ……『仕方なかった』? 『こうするしかなかった』? 『それで多くの人が救われる』?

 ハッ、お笑い種だぜ。それこそ翼と何も変わらん。少数の犠牲を払って多数に便利な技術を提供するアイツらと今のお前、どう違うんだよ。

 お前は結局、誰かの苦痛を食らって自分の幸福に変える、都市の病巣の一つでしかねえ。

 自分がそうだって自覚もねえ感染者が、病を治せると思ってんのか? むしろいたずらに感染を広めるだけだと思うがね」

 

 彼女の表情が、一瞬硬直した後……。

 

「……っ、あ……」

 

 ぼろりと崩れ、涙を零し始めた。

 

 あぁ^~心がぶち折れる音ぉ^~。

 

 良かったなカルメン、生きてる内にその辛さを味わえて^^ 

 これから先、お前が他人に押し付ける心の痛みだぜ、それ^^

 

 

 

 いやしかし、俺、我ながら口悪~。

 まぁそういう風に喋ってるんだから仕方ないけど、どう見ても悪役仕草である。

 

 心の隙間をチクチク刺して土台から崩しにかかるところは、どこぞのクソリプおばさんにも近いかもしらん。

 いやどこぞのっていうか、俺が口撃してるのが、まさにその人なんだが。

 

 ともあれ、一回マウントポジションを取った以上、殴れるだけ殴るべし。

 俺は再び口を開き、熱に任せて言葉を吐き捨てる。

 

「お前はただ自分が辛くて、期待に応えられねぇのが辛くて、思い描いた通りにならないのが辛くて、だから何かが変わると信じたかっただけだろうが。

 人のためなんかじゃねえ。ただお前自身のために、利己的な理由で、子供を犠牲にしようとしてるんだろうが!

 その自己満足のために、てめぇはよりにもよってこんな子供を、エノクを……!」

 

 

 

「そこまでだ」

 

 

 

 あ、ここまでっすか、ハイ。

 俺は首に据えられた赤い剣を見て……一度、自分に籠った熱を息に乗せて捨て去り、口を閉ざした。

 

 あ、でも最後まで言えなくて悔しいから舌打ちくらいしとこ。チッ、クソがよ!

 

 もうちょっと持ってくれればなーと思って横目で見れば、とっくの昔に「白」は力を失い、からーんと床に転がっていた。

 だらしねえなお前! 30秒くらいは頑張れよ! やっぱ嘘、46日目の夕暮で地獄を見そうだから今のままでいいよ♡

 

 ……と、まあ。

 生意気な態度を取ってはいるものの、自分が相当に温情をかけられているのも理解している。

 

 なにせみんなのアイドルカルメンをぶん殴り、SEKKYOかましたのである。

 ぶっちゃけここで切り捨てられたり突進で吹っ飛ばされることも全然あり得た。警告で止めてくれるカーリーの姉御に感謝感謝だ。

 

 ……いやほんとにね。飛んできたカーリーの拳で気絶が最低ラインだと思ってたんだけど。

 やっぱ一度仲間と認定した相手には超甘いよなぁ、カーリー。

 

 

 

 俺は舌打ちと共に指示通り口を閉ざし、カルメンもカルメンで黙り込んで床を見つめる。

 

 そんなクッソきまずい時間がしばらく過ぎて……。

 次に口を開いたのは、ダニエルだった。

 

「……お互い、ちょっと熱くなっちゃってるかもね~。

 今日中に決めなきゃいけないって話でもないでしょ? 今日は一旦、ゆっくり休むってのはどうかな。

 コナーもカルメンも顔色が真っ青だ、今日ばかりは俺もコーヒーを勧められないなぁ」

 

 うお~~! 俺の友人が神すぎる!

 俺の方はどうでもいいとして、一旦カルメン休ませて冷静にさせてやってくれ。

 

 この女、ストレス溜め込んだ結果判断歪みまくって、言うならば今は絶賛セフィラコアメルトダウン状態ですからね。

 一旦ボコって冷静になればどうかしてたってことに気付くでしょうよ。

 ソースは上層中層セフィラの皆さん。あと紫の涙に初めてボコられた時の俺。

 

 

 

 そんなこんなで、集会は解散となった。

 

 自分に割り当てられた部屋に戻ってる最中も、研究員の皆さんから向けられる視線が槍のようにグサグサと突き刺さってクソ痛かったわ。まさしく針の筵ってヤツ。

 まあ仕方ないけどね。今日やったことを省みれば、嫌われるのは当然だ。そこはむしろ想定通りである。

 

 俺としちゃあ、鬱憤も晴らせて説教もかませて、あのクソキショい宗教も否定できて最高に気持ちええ~~^^という気分だったのだが……。

 まだ演技をやめるわけにもいかんので、ぶすっとした表情を繕っておく。

 

 

 

 さあさあともあれ、本日の愉快なイベントはこれにて終了!

 流石に今日くらいはみんなも俺を放っといてくれるだろうし、後はゆっくり過ごせるはず!

 

 となれば、すべきことは一択!

 就寝だ!!!

 

 久々に寝れるぞ! 今日は寝れるぞ! さっさと寝るぞ!!

 もう限界なんじゃこっちは! 実は今もクッソ眠いんですよこの雑魚は!!

 このやけに高いテンションはお察しの通り深夜テンションだ! 明日の朝が心配だぜまったくよう!

 

 

 

 * * *

 

 

 

 20時間くらい爆睡して、起きた。

 

 そして、昨日のことを思い出し……呟く。

 

 

 

「…………やっちゃった☆」

 

 どうしよっか、ねこれ。

 感情的にオリチャー発動しまくった結果、完走すら危うくなっちゃったんですけども。

 

 

 

*1
俺の方が濃いわボケ

*2
俺の方が消耗してますよカス







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