さて、俺が爆睡したり、エノクにお説教したりしてる内に、なんだかんだで2日の時間が経過した。
俺ことコナーは現在、自室で軟禁状態。
アブノーマリティが逃げ出したりしない限り、赤い霧ことカーリーが入り口付近で見張ってる状態だ。
なにせコナーとかいう奴は、あのカルメン様をいきなりぶん殴る狂人だ。
アインは今、アブノーマリティや頭以上に俺に警戒してるんだろう。
極めて妥当な判断ですわな。
俺も、集団のリーダーであり自分の大切な存在である人に対し、いきなり暴力に訴える奴がいたら、同じことをしてるだろう。
いや同じってか、俺なら普通に殺すかもしらんから、だいぶ有情だわな。
……と、これだけ見ると、相変わらず針の筵と思うかもしれないが。
案外、扱いは悪くない。
てかむしろ良い。
閉じ込められているとはいえ、一日三食の食事は差し入れられているし……。
それを持ってきてくれた研究員と話すことに関しては、カーリーは目を瞑ってくれた。
で、そんな未来のセフィラ組からかけられる言葉も、まあ悪いものではなかった。
「コナー、その、何て言ったらいいかわからないんだけど……私、あなたを支持するわ!
エノク君を実験に使うっていうのは、ちょっと……都市ではそういうこともあるってわかってはいるけど、どうしても難しくて。
こんなことを言うのは本当は駄目なんだろうけど、私、あなたがカルメンさんにパンチした時、ちょっとスカッとしたわ!
だから、その……あんまり落ち込まないでね。カーリーもアインさんも、勿論カルメンさんも、悪意があるわけじゃないのよ」
「……カルメンさんは今、部屋に籠っています。
研究は変わらず続けられていますが……あなたもカルメンさんもいない上、アインさんも塞ぎ込んでしまい、現場の空気は酷いものです。
現時点ではダニエルが指揮を執って事を進めていますが……失って改めて、あなたたちの存在の大きさに気付かされる思いですよ。
早く元の状況に戻ることを期待しておきます」
「そ、その……えっと……ごめんなさい、なんて言ったらいいか……。
あなたの取った手段は、あんまり、褒められたものじゃないと思うの。……でも、あなたにそれをさせてしまったのは、あの場で何もしなかった私たち、だよね。
ごめんなさい、コナー……心のどこかであなたに感謝してる、卑怯な私を、許してほしい」
エリヤは俺に対してかなり同情的。
ガブリエルは中立の立場を保ちながらも、「さっさと復帰しろ」と言ってくれて。
ミシェルはひたすら自分を恥じ入ってはいた。ほんと自罰的な良い子だ。
未来の上層セフィラ組がそんな風な一方。
「……私から言うことは、ない」
「ふふっ、いや、コナーはいつでもどこでも変わらないね〜、うんうん。
研究は少し遅れてしまったけど、きっとこれは必要なことだ。カルメンにとっても、俺たちにとっても、そして君にとってもね。
それじゃあ、またコーヒーを飲みに来てくれるのを待ってるからね~」
相棒(仮)だったカーリーからは無言を。
そして友人であるダニエルからは、嬉しそうなしたり顔でコメントをいただいた。
明確に名前のある関係性だった中層組の2人は、なんとも対極的なリアクションをくれたわけだが……。
「ふむ?」
上層組中層組どちらも、元々想定していた「カルメンを害する者 must die」みたいな感じではなく、むしろめっちゃ寄り添ってくれる感じだな。
……え? ありがとう。でもなんで?
カルメン教過激派の皆さんにしてはだいぶマシというか、なんというか……。
コイツら本当に「カルメンなら釣瓶になって人類救ってくれるよね?^^」とか言ってまだ生きてたカルメンにトドメ刺して井戸に投げ入れた皆さん?
すげえ当たりが柔らかいというか、狂気が足りないというか。
もしかしてアレか? コイツらもあの頃には、先日のカルメンみたいにストレスメルトダウンしてた? 判断がぐにゃあしまくってたのか?
……俺が警戒してただけで、案外L旧研のメンツって……まともだったりする?
「出て行け」
そんなことなかったわ。
アインさんはそりゃもうお冠である。
やっぱコイツカルメンキチだよぉ! 怖い!!
「お前の主張を否定はしない。あの子を使うことに関して、懸念事項があったのは事実だ。
だが、言葉ではなく暴力を以てそれを語るのは、文明なき猿に等しい。
ここは人類を救うべく叡智を集める者たちの居場所。お前は相応しくない」
そんなことなかったことなかったわ。
いや、カルメンの被害にキレてるところは少なからずあるんだろうけど、実際アインが言っている内容は至極道理だ。
裏路地でならともかく、巣の出身が多いこの研究所において、暴力はコミュニケーションツール足り得ない。
「止めるのなら言葉で止めろ」というのは理想論に過ぎないが、しかし正論であることもまた事実だ。
文明人なら手を出すなと言われると、否定の言葉などあろうはずもない。
ぶっちゃけダサいと思っとんねん、説得をパンチに頼んの。
あらやだこのアイン、普通に正気である。
この時期くらいしか見れないんちゃうかな、正気のアイン。SSRだ。確定演出はあっただろうか。
……などと脳内ではふざけながらも、俺は素直に謝ることにした。
「はい。そこに関しては俺も大人げなかったと猛省の至り、申し訳ないことをしたと思ってます。
アイン、お前にも不快な思いをさせたと思う。すまなかった」
「……反省したなら、いい。以後気を付けろ」
正当性のある言葉には、真摯に応えるに限る。
本気で頭を下げた俺に、どうやらアインは少しだけ留飲を下げてくれたようだった。
正気のコイツ、めちゃくちゃ理性的だな……そらコミュ障なのにみんなから慕われるわ。
……丁度良い。ここに来なかった2人のことを聞くとしようか。
片方は2日前に聞いたが、状況に変化もあったかもしれないし。
「カルメンとベンジャミンは?」
「ベンジャミンには研究を続けてもらっている。カルメンは……未だ、一人で考えている」
「いや一人って、まさかノータッチなのか? カルメンに寄り添って肯定するなり一緒に考えるなりしたれよ、長い仲なんだろ」
「…………」
ってコラー! 困ったら黙り込むなーっ!(涙を噴き出しながら人差し指を上に突き出す)
陰キャがよぉ! テメェがそんなんだから結果的に白夜、黒昼が起きるんやぞ!!
「いやまあ、気まずい気持ちは理解するが。そしてそれを引き起こした俺が一番悪くはあるんだが。
それは一旦棚に上げるとして、今のカルメンには近しい他者が必要だろう」
俺はカルメンのアイデンティティーにヒビを入れた。
ぶっちゃけ白夜、黒昼後であれば捻じれる可能性があるくらい容赦なく、彼女の根底にあった自信──自分は病とは遠いところにあり、それを癒すことができるという妄信を打ち崩した。
カルメンは今、自意識を揺らしているはずだ。
だからこそ、ねじ曲がったり変な方向に向かないよう、誰かの手助けが必要だろう。
なあ! 聞いてるかなクソリプおばさんよぉ!!
誰かの手助けが必要なんだよクソリプじゃなくて!!
まあ今回助ける必要があるのはそのクソリプおばさん本人なんだけど……。
アインは俺の言葉を聞き、暫くむっつりと黙って何かを考えて……。
そうして、言った。
「なら、お前がしろ」
「はえ?」
何言ってだコイツ、と珍妙な動物を見るような目を向けた俺に対し。
アインは……アインもまた、珍妙な動物を見るような目で、こちらを見て来ていた。
なんだその目、俺ってそんなキチに見える?
いやまあパンチ至上主義の狂人ではあるが。
「お前が、カルメンを助けろ」
「おい、アイン……」
「カーリー、今は黙っていてくれ」
口を挟もうとした見張り番のカーリーを、しかし声と手で制し。
アインはあくまで冷静に、しかし微かに何らかの感情を伴って、俺に言ってくる。
「……お前は、カルメンが信じた人間だ。
『コナーがいれば、きっと私たちの研究はもっと上手くいく』……彼女はずっと、そう言っていた。
カルメンはお前に何かを見出していた。俺にもベンジャミンにも、ダニエルにも……他の人員の誰にも見出さなかった何かを」
アイツ何口走っとんねん。
ていうか夢見過ぎだろ。こんな雑魚に一体何を求めてるんだ。
……まあ、多分この都市で唯一病に罹患してない人間、都市に組み込まれてない人間って希少な特殊性はあるだろうけどさ。
だからと言って、俺は積極的にカルメンを手伝わないことを既に表明していたわけで。
俺の影響で研究が上手く進む確証なんて、どこにもないだろうに。
これだから夢見がちな理想家はよぉ!
「だから……今のカルメンに言葉を届けられるのは、お前しかいない」
……クソみてえな結論だなオイ。
俺、エリヤに続いてカルメンのカウンセラーもしなきゃならんわけ?
凹ませた本人なのに??
アイツのこと好きでもないのに???
「……手前勝手な要求にはなるが、頼む。
カルメンを、助けてやってくれ」
好きな女くらい自分で救えや童貞クソナードが!!!
アインが童貞だったかどうかは学会でも盛んに議論が交わされていますが、作者は絶対拗らせ童貞だったと思います。