3級フィクサーパンチ   作:アリマリア

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L社前身旧研究所編
新興宗教の魔の手


 

 

 

 結論から言うと、俺は「都市」に転生した。

 

 終わったわセカンドライフ!!!

 

 

 

 「都市」……Lobotomy CorporationやらLibrary Of Ruinaやらといった、Project Moonが贈るプレイヤーの思考と情緒を破壊することに長けたゲームの舞台。

 

 ゲームの舞台って言うと、なんかファンタジックで素敵な場所のようにも聞こえるだろうが、都市はとてもじゃないけどそんなキラキラしたモンじゃない。

 

 朝目覚めると親が誰かの食糧になってたり、ちょっと家を空けたら愛しい人が殺されたり、油断したら2,000年くらい死ねないまま閉所に閉じ込められたり、10,000年の間記憶を奪われ生きるか死ぬかの煉獄に閉じ込められたりする……。

 そんな、終末的治安の場所である。

 

 改めてクソだな! バーカ滅びろクソシティ!!

 

 

 

 そんな場所に転生した以上、俺にはもはや、真っ当な末路なんぞは望めないだろう。

 

 なにせこの都市のクソったれな点として、自分が幸せになるためには誰かの不幸を搾取する必要がある、というとんでもねぇ大原則があるのだ。

 誰かが幸せになるには俺が犠牲になる必要があるし、俺が幸せになるには誰かが犠牲になる必要がある。

 うーん、これはそびえ立つクソ! 笑うクソの山!!

 

 知らぬが仏の言葉通り、これを知らなければ俺もまだ幸せに生きられたんだろうが……。

 前世で何百時間もの間この都市とお付き合いしてきた身だ、もはやこれは骨身に刻まれている。

 

 穏やかで平和な暮らしを目指したとして、仮にそれが成功したとしても「ああ、今俺が豊かに暮らしているのは多くの人間の死体と尊厳を糧にしてるからなんだよな」とか思ってしまうだろう。

 

 そんな状況で心安らかにいられるか!! 俺は都市から出させてもらう!!

 ……なんて思っても、都市の外である外郭はバケモンひしめく大魔境。

 護衛とかE.G.Oもなしに飛び出せば、君も今日から誰かの食糧だ。

 

 マジで詰んでる。クソが。

 

 

 

 強いて幸運を挙げるなら──これはホントのホントにラッキーなことなんだが──俺がO社の巣で育った子供である点か。

 家はめっちゃ裕福ってわけでもないが、兄と俺を学校に通わせる程度の余裕はあって、両親と兄も別にそこまで悪い人ではない。普通に翼勤めの一般的な羽である。

 

 生まれた頃はまだまだ日本的な価値観が染み付いてたので、裏路地とか外郭に生まれついたら普通に死んでたと思う。

 こればっかりは俺の幸運に感謝したいところだな。

 

 ……いや、そもそも都市なんぞに転生させんな! やっぱクソだよクソ!!

 

 

 

 で、だ。

 肝要なのは、これから先、どこをどう目指すのかって部分。

 

 軽く確認した感じ、現在の時系列はLobotomyの10年以上前らしい。

 L社が有毒煙もくもくしてることで確信できた。やべーよLの巣、ぜってぇ行きたくねえ。

 

 つまりは多分、ここから新興宗教カルメン教爆誕→メンヘラがリスカして自殺→ガリオン襲来、研究所崩壊→煙戦争→L社成立→(10年間の比較的平和な時間)→白夜、黒昼→図書館設立→ねじれ事案→残響楽団とかいう地獄みてぇな展開が待っていることになる。

 

 死ぬわ普通に!!!

 

 特に後半、Ruina関連のイベントがヤバすぎる。

 精神的に追い詰められたらねじねじおばさん(カルメン)のクソリプ地獄に襲われ。

 そこらにいた奴が急にバケモンになって襲い掛かって来る可能性があり。

 図書館と残響楽団の蛮行によって、都市のパワーバランスはぐっちゃんぐっちゃんになる。

 

 更に言うと、Lobotomy、Ruina問わず、下手にバッドエンド踏むと世界滅亡レベルの大惨事だ。

 アダムルートや自由ルートに突入したら、巣に住んでようが普通に命が危ない。

 

 まあそんなルートに突入しなくとも、都市じゃ命の保証なんてどこにもねえんだけどな!

 

 もう終わりだよこの都市。

 

 

 

 当たり前のことをわざわざ言うのもなんだけど、俺は生きたい。死にたくない。

 こんな肥溜めみてぇな世界でも、一応は俺の第二の人生。投げ出すようなことはしたくない。

 もっと欲を言うと優雅に文化的に、朝は好きな曲を聞きながらコーヒーを飲んで過ごすくらいの余裕を持って生きていたい。

 

 その実現のために、幼少期からちゃんと頭と体を鍛えてきた。

 割と必死に。親と兄から心配されるくらいに。

 

 ……が、しかし。

 

 残念なことに、俺にはどっちも、あんま才能がなかった。

 

 あの紫の涙に一時師事したっていうのに、どんだけ死に物狂いで修練を積んでも、身体スペックは3級フィクサーレベル止まり。

 すんげえ天才の友達に勉強を教わってひたすら知識を溜め込んでも、入る翼を自由には選べない程度の学力に落ち着いた。

 

 ……欲かくつもりもないけどさァ!

 転生特典として、特色の力とかA並みの知能とかさぁ!! くれても良かったんじゃないかなぁ!?

 

 

 

 ……まあ結局、どんだけ文句言ったって、無い袖は振れないわけで。

 俺は俺の生まれ付いた才能で戦っていくしかない。

 

 有り余る力で自衛、もしくは元凶ぶっ殺ルートは諦めるしかねえや。

 

 俺は1級フィクサーなんかと戦って勝てる程強くもねぇし、頭に狙われたらまあ生き残れない。

 カルメンの希望論的弁舌を叩き折れるだけのカリスマも、Aを越えて活躍できるような知力もない。

 勿論図書館に乗り込んでって司書たちぶち殺せるパワーもないし、ねじれ共との戦闘はもはや無謀だ。

 

 では、その上で。

 俺がこの世界で生き残るには、どうすれば良いか。

 

 しばらくそれを考え続けて…………俺は、すごく嫌な結論を出すことになった。

 

 

 

 図書館で指定司書になって都市卒業するのが一番安牌だな、これ……と。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そんなわけで。

 

 L社初期メンにしれっと紛れ込んでセフィラ&指定司書にしてもらって、上手いこと主人公たちを誘導してトゥルーエンドに到達させるRTA、はーじまーるよー!

 

 レギュレーションはNEW Life(N L)+。

 このレギュでは前世で手に入れた記憶・人格・倫理観を使うことが許可されています。

 

 とはいえ知っての通り、LobotomyもRuinaも、かなりの高難易度ゲーム。

 その舞台である都市もまた、天寿を全うできる人間の方がずっと少ないくらいのハードモードワールドです。

 前世の知識とか使ったところでそう生存率も伸びないので、頑張っていきましょう。

 

 

 

 ……このクソみてえなRTAを走るにあたって、幼少期の下積みはとても大切だ。

 今後プロムン世界の都市に転生することになる追走者兄貴姉貴のために、都市で目的を達成するための大事なアドバイスを残しておこう。

 

 

 

 しっかり綿密なチャートを組んで、ちゃんと自分磨きしましょう。

 

 

 

 筆頭はやはり、戦闘能力を鍛えること。

 

 俺の場合は、すんごい幸運なことに特色フィクサーと知り合う機会があり、なんかようわからんが気に入られたらしく、しばらく師事することができた。

 結果として得たのが3級フィクサーパワーだ。

 2級が出てきたらどうなるかって? まあ普通に死ぬんじゃないですかね。1級とか特色とか頭の奴らは頼むから帰ってくれ。

 

 上澄みばっか見てると、3級相当の力ってのは微妙に見えるが……。

 掃除屋の一匹二匹には警戒しなくても良くなるし、気まぐれな悪意にも多少は抗えるわけで。

 これだけで生存率はめちゃくちゃに変わってくる。都市において力は付け得である。

 

 ……まあ俺の場合、幼少期から力に執着してる様を家族に見られ、変に誤解されて、割と騒動になったりもしたが。

 なんとか誤解は解いたし、力も付けたし、結果良ければ全て良し、である。

 

 

 

 次に大事なのは、やっぱり知識と知恵を付けることだ。

 

 特に大切なのがその区の地理状況とルール、巣を保護する企業、勢力図を引く指とその在り方、そして都市において暗黙の了解になっている様々な決まり事。

 これを知らずに終わるなんて、ひっどいイージーミス。子供にありがちなので、注意しなければならない。

 

 そういった知識と同時、知恵を付ける──つまりは、考える頭を作ることも重要だ。

 都市の中で安全に生きようと考えれば、翼に所属するだけの能力を培う他ない。

 ここで「翼に属しても別に安全に生きられるわけではない」というトラップもあるんだが……。

 ま、どんな種も撒かなければ発芽することはない。光の種と同じように。……いやごめん光の種なしでE.G.O発現した怪物いたわ。

 

 翼に所属し、できれば現場ではなく研究職に就き、結果とキャリアを積み上げて程々に成功すれば、多分60%くらいの可能性で天寿を全うできるはずだ。低いわボケ!

 まあ油断すれば、特異点特有の代償でぶっ飛んだり、厨二病クソナードが都市滅ぼす勢いでバケモン解き放ったり、単騎で中指を半壊させる魔法中年が強襲してきたりもするが。駄目じゃねえかクソ!!

 

 

 

 そして、実はこれがかなり重要だと思うんだけど、人脈を作ることも必要だ。

 

 いざという時、頼れる相手がいるといないでは全然違う。

 L社旧研究所にとってのカーリーとかその典型だろう。あの真正の怪物がいなければ、あの研究所絶対もっと早く潰れてただろ。主に外郭のバケモンとか翼の刺客で。

 

 勿論カーリーのような武力だけではなく、頭の良さ、家の太さ、権力を持った人脈もそうだ。

 知り合いに頭がいれば……いや頭はそういう依怙贔屓しなさそうだな。

 知り合いに翼の有権者とかいれば、都市で生きるにあたってめっちゃ有利だろう。幼少期から教育とか付けてもらえるだろうしね。

 

 勿論、俺も人脈を得ようとした。

 その結果は、なんと成功。

 偶然にも同じ翼に暮らしていた、原作で「どんな翼に入るのも思うまま」と言われていた超絶天才エリート少年に取り入り、上手いこと友人関係を築くことができたのである!

 

 飄々として掴みどころのない様子を見せるが、その芯は情に厚い男だ。

 今や一番の友人となった俺を無下にはできまいよ。

 

 クックック。

 俺の好きなように、ボロ雑巾になるまで使ってやるわ!

 

 具体的には……朝に美味しいコーヒーを淹れてもらうとかよぉ!!

 

 対価として、お前の非業な運命は俺が背負ってやるから安心してよね♡

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そんなわけで、今日も今日とて友だちとコミュである。

 

「やあダニエル! 僕はコナーだ!」

「知ってるよ~。君、毎回それから始めないと気が済まないんだねぇ」

 

 いつもの挨拶を交わしながら、俺は友だちの待っていたテーブルへと座る。

 

 家の近くのハムハムパンパンのオープンテラス、時刻は朝の7時過ぎ。

 本日のお仕事に向かうには早すぎる時間で、朝もやの立て込める街並みの中、俺の友だちことダニエルは穏やかにコーヒーカップを傾けていた。

 

 

 

 俺がその対面に座れば、彼は手元に置いた水筒から俺の手元のカップへと、湯気の立つコーヒーを流し込んでくれる。

 サンドイッチさえ買えば飲み物は持ち込みでもいいという緩さが、俺と彼がここを朝の集合場所に選んだ最大の理由であった。

 

「はい、どうぞ~」

「うい、いつもありがとね」

「本当はちゃんと淹れたいんだけど……オープンテラスじゃあ難しいからねぇ」

「いやいや、これめっちゃ美味しいからね。ありがたいことですよ。ほないただきます」

 

 受け取ったコーヒーに口を付ける前に、まずは幾らか薫りを楽しみ。

 次に、一口含んで口内で転がして舌で楽しみ。

 最後に飲み込んで、喉と鼻で楽しむ。

 

 ああ、いい。いいねぇ。

 正直美食ってヤツにはあんまり興味がないんだけど、コイツのコーヒーだけは別だ。

 インスタントとかてきとうに淹れたものとは明確に違う、玄妙なコクのある味わいが最高。

 

 静かに、落ち着いて、そして何より時間をかけて、ゆったりとそれを楽しむ。

 こんな高尚で文化的な時間を持てるなんて、都市では凄まじい贅沢だ。

 

 これこそが、俺の望む状態。

 ずっとこんな時間を過ごせればいいんだが……30分後には仕事が待ってるのが残念なところで。

 

 まあでも、もうしばらくはこんな日々を続けられるわけだし、こんな日々も悪くはないか〜なんて思うわけです。

 

 

 

「ところで、コナー。昨日面白いことがあってねぇ」

「ほう、面白いこととな。なんぞや聞きましょう。

 言っておくけど、俺の『面白い話』のハードルはバチクソ高いぜ?

 あと一週間くらい前に聞いたようなテメェの逆ナン自慢だったら張り倒すぞ伊達男がよ」

 

 穏やかに始まる朝方の雑談、いつも通りのやり取り。

 今日飛んでくるのは、それぞれの部署で起こったことやハプニング、楽しい話の共有だろう。

 

 そう思って、俺は温かいコーヒーを口に含んだのだが……。

 

「僕、昨日裏路地へ拉致されかけてね。その犯人が、とてもおかしな2人組だったんだ。

 具体的に言うと、赤髪の強そうな女の人と、茶髪の綺麗な目の女の人だったんだけど……」

 

「ぶーっ!?!?」

 

 友の顔面……は避けて、虚空に向かってコーヒーブレス(貫通1~3、的中時次の幕に火傷1付与)。

 失礼この上ないし優雅さの欠片もないし、何より最高のコーヒーが勿体ないが、それもやむなしだろう。

 

 なにせそれは、あまりに唐突に、何の前兆もなく、タイムリミットが来たことを意味していたんだから。

 

 

 

 ……まずい。

 とても、まずい。

 

 俺の大事な友だちに、新興宗教カルメン教の魔の手が迫っている!!!

 

「おやおや、大丈夫かい?」

「すまん、気管に入った……。そ、それで?」

「興味深い話をしていたし、今度もう少し話を聞いてみようかなって。

 今度外郭にあるっていう研究所にお邪魔するつもりだよ〜」

 

 あかん洗脳完了しとる!!!

 

 終わったぁ!! これまで綿密に立てて来たチャート全部崩壊したァ!!!

 

 

 







 tips 新興宗教カルメン教

 正義の心に満ちた危険思想集団。
 宗旨は、あらゆる人が自由に生きられる世界。
 所属する教徒たちの能力値がバチクソに高く、普通に都市転覆できるレベルであるため、放っておくととてもヤバい。
 どのくらいヤバいって、都市の中にいるわけでもないのに頭がすっ飛んでくるレベルでヤバい。うおっそれは流石にヤバすぎ……。
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