エアァァァ!(広域合算80~90)(消し飛ぶ敵群)(残るのは赤色の濃霧のみ)
俺の職場復帰から、おおよそ1か月。
俺の相棒でありもう一人のL旧研の用心棒カーリーは、ハナ協会から特色フィクサーと認められ、本格的に「赤い霧」としての伝説を打ち立て始めた。
この嘘か真かもわからない伝説は、フィクサーの間でまことしやかに語られ、枚挙に暇がない。
例えば……。
曰く、赤い霧は一薙ぎで10の敵を血の霧に変える。
恐るべきことに、事実である。
ちょっと前の外郭の化け物との戦闘で、彼女はにょきっとプロトミミクリーの刀身を伸ばし、大切断-横-で薙ぎ払った。
すると、10を数える相手の体が一斉にパァンって弾けて、血の霧が辺りに散布されたわけだ。
すごいや、他人のE.G.Oでも意思によって可変させられるんだなぁ。
……ってんなわけねえだろ! どうやってるんだよそれ!?
同行していた俺が一番ビビったわ。というかビビる目撃者が俺しか残らんかったわ。
既にカーリーはプロトミミクリーだけではなく、彼女だけのE.G.Oを発現させている。
赤黒いスーツのようなそれは、まあ十中八九ALEPH級の代物だろう。しかも特殊効果付きで、着てるだけでバチクソにバフがかかるヤツ。
そうして攻防共にALEPHのE.G.Oが揃ったカーリーは、もはや誰にも止められない最強と化した。
更に、E.G.Oを発現させる過程でその「使い方」を会得したらしく、今や自在にプロトミミクリーの形状を変えたりリーチを伸ばしたりと、やりたい放題になっている。
確かに「彼女程E.G.Oを使いこなす者はいないでしょう」とか語られてたけどさァ! お兄さん流石にここまでとは思ってなかったなァ!!
Lobotomyのコア抑制の時とかRuinaの赤い霧戦の時も、全盛期にはずっと劣ると、知識としては知ってたんだけどさ……。
実際に目にすると、もうなんか圧倒的な才能の隔絶を感じて目が回るわ。
他の伝説だと……。
曰く、赤い霧は人差し指の代行者7人と伝令4人に襲われ、殺した。
これは、嘘である。
いや嘘っていうか誇張っていうか、俺の功績が奪われてる。
代行者2人と伝令1人は俺が殺した。
だから実際に赤い霧が殺したのは代行者5人と伝令3人なんだが、どこかで噂が混じったっぽい。
いやはや、アレはマジで死闘だった。
代行者と言えば、指令に盲目的に従う人差し指共の中でもトップクラスの戦闘力を持つ、とんでもないバケモン集団である。
単体戦力はそれこそ1、2級フィクサーレベルで、それが7人も同時に襲いかかって来たのだ。正直「あ、俺ここで死ぬかな?」と思った。
勿論、そうして集団で襲いかかられたら、カーリーの姉御は大切断-横-なわけだが……。
アイツら家とか車とかの遮蔽物を盾にして上手いことやり過ごしながら近付いてきて、普通に近接戦になってしまったのだ。
多分アレも指令だったんだろうけど、都市の意志さんいやらしすぎるだろ。こっちがやってほしくないことを綺麗にやってくれるわ。
で、赤い霧の金魚の糞で知られる俺も戦闘に貢献すべく、プロト涙剣や「赤」「白」「黒」「青」を総動員して代行者に殴りかかったんだけど……。
まあ強いのなんのって。2人の代行者に綺麗な連携で挟まれると、流石の防御体勢も形無しだった。
ビームとレーザー撃ちまくりで、なんとか不利を誤魔化しつつ伝令を巻き込んで黒焦げミンチにし、そのまま根性で代行者2人ぶち殺したんだけど……。
その頃には俺の体も、割と致命傷ギリギリのライン。
仕方ないから「青」で相打ちするかーと、3人目の代行者に近付いた辺りで……その体が目の前で大切断-縦-され、なんとか命を繋いだ形。
流石の死闘に、カーリーですらE.G.Oを保てないレベルで消耗し、全身からだらだら血を流していた。
……が、骨折とか筋肉の断裂は1本もなかったっつうんだから、どうなっとんねんコイツは。
俺とか全身ボロッカスになってK社製アンプル2本やぞ。エリヤとかミシェルには泣かれちゃったし。
ちなみにカルメンはニコニコ笑顔だった。
「大丈夫だって信じてたからね!」とのこと。
コイツこわ~~~。
他の伝説だと……。
曰く、赤い霧には特色レベルの実力を持った灰色の従者がいる。
真っ赤な大嘘である。誇張も甚だしい。
お察しの通り、灰色の従者とは俺のことだ。
だがまず、俺は別にカーリーの従者でもない。一応、俺はカーリーを相棒と呼んでるし、カーリーもそれを認めてくれてる。
……能力的には釣り合わないことこの上ないし、だから従者呼ばわりもまあ仕方ないとは思うけどね。
しかし、特色レベルって評価はちょっといただけない。
くどいかもしれないが、俺の身体性能は3級フィクサー相当なのだ。
これがどのくらいかっていうと、リウ南部2課の鉄山靠ちゃんことメイが、ちょうど3級フィクサーだ。
つまり何が言いたいかっていうと、パッとしない実力ってこったよ。
まったく、一体どこから特色なんて話が出てきたんだか。
噂は誇張されるものとはいえ、俺の身体スペックはあくまで3級フィクサーレベル。
涙剣や各種武装の強さを加味しても、まあ2級が妥当なところだと思う。
……ほら、1級ってアレじゃん? 単騎で南部の中指へし折ったり、抑止力なしWAW級のねじれ制圧したりするじゃん? アレと肩を並べられるとは思えないっていうか……。
強いて言えば、俺も腕が鈍らないよう日々トレーニングはしてるし、涙剣を使う内に段々手に馴染んで来て絶望ちゃんの声も聞き取りやすくなりつつあるので、多少技量面は鍛えられてる……かもしれない。
カーリーとの模擬戦では普通にボコられて終わるので、全然実感がないけどね!
まあアレだろうな。代行者の件と同じく、俺とカーリーの戦績が噂の上で混ざっちゃったんだろう。
あとカーリーも、割と頻繁に俺を相棒として紹介するもんだから、「赤い霧の相棒なんだから強いに違いない」って思われてるのかもしれない。
てか、灰色の従者て。
まあ俺の伸ばした髪の色が灰で、服も地味ーな感じだからそう言われるんだろうけどさ。
俺がめちゃくちゃブチ切れながら敵殺しまくってれば、その内憤怒の従者とか呼ばれるんだろうか?
……と、いくつか例を挙げた通り。
カーリーは順調に赤い霧伝説を残しまくり。
今や誰に見せても恥ずかしくない、どころか誰が見ても震え上がる、最強の特色フィクサーの名をほしいままにしている。
長い間特色を維持する老兵たる我が師匠すら、赤い霧には及ばないだろうと言われることが多い程だ。
……いやまぁ、特色って基本あんま情報が出ないから、そういった戦力比較は全然参考にならんのだけども。
ただ実際、隣に立つ相棒として見ても、今のカーリーはちょっとキレすぎてる。
気分が乗って来てE.G.Oを発現した時の彼女は、ぶっちゃけ最後に餞別として見せてもらった本気の斬撃体勢師匠よりも圧力があった。
特色最強っていうのもなまじ冗談じゃないかもしらんね。
さて、そうして「最強のフィクサー」なんて箔が付けば、そりゃあ良い意味でも目を付けられるわけで。
彼女の下には、かなり高額な報酬の依頼も舞い込んで来るようになっていた。
そしてカーリーはそれを、フィクサーとしての報酬だから普通に懐に入れていいはずなのに、カルメン教の一員として教祖様にお布施している。
その結果、研究所に養ってもらっていたはずの用心棒は、いつの間にか立場が逆転、研究所にとっての大きな資金源となっていた。
まるで仕送りか何かのように、報酬の大部分をカルメンに渡すカーリーに、一応物申してみたこともあるが……。
穏やかな、まるでかつての念願でも叶ったかのような表情で「これでいい」と言われてしまうとやむなし。
仕方ないので、俺の取り分も研究所に納めることにした。まあ俺は金あんまいらんしね。
そうして研究所の資金繰りは一気に好転。
俺たちは用心棒としてだけではなく、時には出稼ぎに都市へと出るようになったのだった。
……とはいえ、あんまり空けすぎないようにしないとな。
ミシェルの密告フラグが潰されてる現状大丈夫だとは思うが、頭は赤い霧が不在の時に研究所を襲ったはずだから。
* * *
で、その日もまた、出稼ぎの日だった。
念のため研究所周辺のバケモン共を薙ぎ払い、脱走魔な死体の山や、最近抽出されたクソカスメンヘラ魔法少女をボコしておいて。
万全の備えをした後、俺とカーリーは都市へと足を伸ばしていた。
「お前、まだ自分のE.G.O出せないのか?」
「無茶言うんじゃないよ相棒、俺みたいな雑魚がそうそうE.G.Oとか発現するわけないでしょうが」
道中の雑談として、すんごい軽く無理を言って来る相棒に肩をすくめる。
E.G.Oって光の種なしだと、当時の特色とか頭とかでも発現できてないんだよ。
プロトE.G.Oに触るっていう契機があったとはいえ、赤い霧が例外 of 例外すぎるだけで、普通は自分の心を殻にするなんざできるわけねーのです。
あとついでに言えば、多分俺はどう足掻いても、自分だけのE.G.Oを発現できない。
そもそも精神が井戸と繋がってないからね、仕方ないね。
「はぁ……いつも思ってたが、そうやって卑下してばかりいると、舐めてかかられるぞ」
「別に卑下してるつもりはないんだけど……裏路地的にはやっぱ、そういうの強く出た方がいいんだ? 俺としちゃあ多少舐められた方がやりやすくて良いんだけどな」
「それが巣の流儀ってわけか? 理解できないな。
場合によるが、舐められると面倒な手合いが寄って来る。フィクサーの箔にもならないし」
「あー、大変ねぇフィクサーやってると。ワイ君はフィクサーじゃないんで……」
「いい加減フィクサー資格くらい取っとけ。便利だぞ」
「やだよぅ……ただでさえクッソ忙しいのに、資格勉強とかしてたら死んじゃうよぅ……」
「フィクサーに勉強なんていらん。私に学があるように見えるか?」
「(笑)」
「殺すぞ」
てきとうに会話を投げ合いながらも、俺たちは今回の作戦地点に向かっていく。
本日のミッションは、指の闘争の助っ人である。
先日の指切りでなにやらあったのか、現在都市東部では人差し指と中指が大激突中。
赤い霧と灰色の雑魚は、かつて人差し指に襲われて迎撃した経緯もあり、中指のお偉いさんに「ちょっと人差し指の代行者3人くらいぶっ殺して^^」とお願いされたのであった。
普段こういうのは指の内部で片付けるのが基本なんだけど、わざわざフィクサー使うとか、マジで何があったんだろね。別段知りたくもないが。
流石は五本指の一角ということもあり、報酬はかなりの多額。
カルメンはほくほくの顔で「じゃあお願いね、2人とも! ボーナスとか出るかもだし、ついでにもうちょっと仕事してきても良いわよ!」と宣った。
マジで怖いヤツになっちゃったよォこの女。
悪いカルメン、略してワカルメンだ。……なんかしたり顔で腕組んでそうな名前だな。
まあ、その瞳の中には確かな罪悪感と羞恥心があったからセーフ。
彼女は確かに、その痛みを忘れず、自らの悪徳を抱いたまま進んでいる。
それを忘れた時が、俺が彼女に従わなくなる瞬間だろう。
と、今はカルメンのことはさておいて。
仕事は仕事だし……今回に限っては、相手が潜在的な敵とも言える人差し指だ。
俺もカーリーも、何も戸惑うことなくこの剣を振るえるというもの。
そんなわけで、人差し指の代行者と、それに付き従ってる遂行者の群れを探し回る。
今回戦場となった裏路地の居住区では、目隠しフェチの人差し指ーズと俺たちの雇い主である中指ーズの皆さんが程々の規模で殺し合いを繰り広げていた。
しかも、敵味方入り乱れた乱戦気味になっており、全体的に戦場がごちゃついてる。
誰がどこにいるかの把握も難しく、こうなるともはや、周辺地区に安全地帯というものは存在しないだろう。
……いやまあ、例外として。
特色フィクサー・赤い霧の横は、極めて安全なのだが。
なにせこの人バチクソ強いので、隣にいる俺のところにまで敵が来ることはそうないんだわ。
あ、ちょうど良いところに4人パーティの遂行者君たちが来ましたね。
果敢に剣を構えてダッシュしてきてます。頑張れあと20メートル。
「ふんッ」
うーんダメみたいですね。
赤い霧さん、ふんッの一言で4人の遂行者薙ぎ払わんといてくださいよ。
ソイツら3、4級フィクサーレベルなんすよ。1人1人が俺と同格なんすよ。
しかもあと18メートルは射程空いてたんすけど。
その剣を鞭みたいに伸ばすのすげえ便利だよね。正直憧れるわ。
へへへ、いやぁ~赤い霧の姉御は流石っすわ!
オイオイお前ら道開けな! 赤い霧のお通りだぜ!!
「後ろ」
「ん」
カーリーの一言で意図を汲み、俺は後ろに向けて右腕に偽装した「白」のレーザーを撃つ。
そこから、相手の精神に作用し狂わせる霧が、広範囲に展開され……。
遮蔽から遮蔽へ走り抜け、こそこそ近付いてきていた小癪な遂行者君の脳を、速やかに破壊。
一般襲撃遂行者君は発狂してその場に倒れ伏し、なんか天に祈り始めた。
いや~~便利便利!
遮蔽物の多い市街地戦で、霧の展開がメインである「白」は本当に使いやすい。
「いけるな」
「そだね。これからはこれでいこ」
「ああ」
俺たちも馬鹿ではない。
前回の人差し指襲撃の際の反省から、市街地戦へのメタは既に張っていたのだ。
今回で十分に実用性も確認できた。
今後はこの「白」をメインに使って対応することになりそうだ。
滅多にないカーリーに貢献する機会なので、俺は内心鼻高々である。
雑魚も時には役に立つっしょ? へへ、便利に使ってくだせえよ。
ぷしゅーと排熱する「白」に再び腕のカモフラージュを着せながら、俺は小首を傾げた。
「てか、しばらく歩いてるけど、遂行者ばっかりで代行者いなくね?」
「戦力を引かせたか……あるいは、私たちが来ることが伝わっていたのかもな。ただ、油断はするなよ」
「あいあいキャプテン。あるいはこの状況からして、もう本格的な戦闘は終わった感じかもしれんがね」
俺たちの周りの居住区には、血と骨と肉、武器の残骸、それから人型の一部を切り取ったものがそこそこ転がってる。
本格的な闘争はある程度終わり、あとは残敵掃討か、それぞれ前線を下げて睨み合いのフェーズだろうか。
どうあれ、聞いていた状況とはだいぶ戦況が異なるが……。
まあ、フィクサーの仕事に随行してると、よくあることだ。
俺たちは戦況とか何とか気にせず、仕事を果たすのみである。
「このまま進んで人差し指を殺しながら、代行者を探すぞ」
「民間人は? 守れって依頼は受けてないが」
「……ここは私たちの雇い主である中指の勢力区画だ。最低限の義理は果たす」
「ほんと、相棒は優しすぎるぜ♡ そんなところが素敵♡」
「言ってろ馬鹿が」
普通こういう人情のある戦士って、それに付け込まれて罠にかけられて死んだりするんだけどね。
赤い霧は強すぎるからね。そんなことしても罠蹴破ってぶち殺しに来るんだ。
実際、要救助者のフリをして襲いかかってきた奴らは、全員ミミクリーの餌になっている。
いや~、力ってなんとも圧倒的で絶望的。俺この女の味方で良かった~~~!
* * *
そうして探し回ること、おおよそ20分。
代行者探しはあまり順調ではなく、ようやく2人殺せたくらいの頃合いで。
「ッ!」
「あーもー!」
実に3人目の要救助者を発見し、突進していくカーリーに、俺は追随した。
いやもうほんと優しい! 優しいことは良いことなんだけどさ!
雑魚の身からすると、全速力の赤い霧に追随するの結構大変だし疲れるんだよね!!
そのために毎回「黒」の遺物パワー使うくらいにはね!!
まぁ、おかげで今回も間に合ったわけですが!
建物に挟まれた暗い路地裏に踏み込み、僅か半秒足らず。
今まさに振り下ろされようとしていた遂行者の剣を、俺の涙剣が横から弾き飛ばし。
通り抜け様に振るわれたカーリーのミミクリーが、遂行者の胴体の半分以上を消し飛ばした。
……いや、あの。
剣って相手を消失させるものじゃなくて、切断するものっすよ?
なんか赤い霧パワーと物理法則パワーが戦った結果後者が力負けしてない??
とんでもねえDIE SET DOWNでさっきまで遂行者だったものが辺り一面に転がり、返り血と返り肉と返り骨でべちょべちょに汚れた後。
「カーリーったらもー加減ってもんを知らんのだから」と愚痴りつつ、涙剣を軽く払って納刀し。
俺は努めて笑顔を浮かべ、第三要救助へと手を差し伸べた。
「やあ少女。僕はコナーだ。
悪いね、ショックな映像見せちゃって。
俺らは中指に雇われたフィクサー。君は…………あー……」
言葉が途中で詰まった理由は、まあ、いくつかある。
要救助者が、思ったよりも小さい、多分歳を10も数えないだろうガキだったことが一つ。
そんなロリガキが、頭から血と肉をべしゃべしゃに被り真っ赤に染まってるという、倫理観にストレートパンチをかましてくる光景が目の前にあったことも一つ。
そして……。
その白のショートカットと、薄っすら開けられた橙の瞳に、見覚えがあったことも一つだ。
ミョだこれ!
未来のウサギが草を食みに来たぞ!
(追記)
ダニエルが友だちな二次創作を書きながらLimbusを始めたら、直後のガチャでケセドアナウンサーですってよ奥さん。
こんなことあるんですねぇ。
あと、アナウンサーでは一人称が僕になってた気がするんですが、本作はあくまでLOR準拠なので俺ケセド/ダニエルです。