ミョ。
あるいは、マオと呼ばれることもある女性。
白いショートカットとオレンジの瞳、凛々しい顔つきが特徴的な彼女は、LobotomyとRuina両方で出て来た、R社の傭兵部隊隊長である。
より正確に言うと、R社第四群、ウサギチーム隊長。
都市において馬鹿みてーな重税のかかる弾丸をバチクソに使いまくる金食い虫たちの長であり、天性ではなく養殖の戦闘狂。
かつて赤い霧が救った者の一人であり、ゲブラーに対して強い執着を向ける戦士。
パーソナリティを並べればこれだけで終わるが、実際には多くのプレイヤーの記憶に染み付いた存在だろう。
そもそもLobotomy時代、彼女はセフィラやL旧研メンツ以外で立ちグラのある非常に希少なキャラクターであり、不可避的にプレイヤーの印象に残り……。
だからこそ、図書館では再会したくないなぁと思いつつも、やはり出て来たことがとても嬉しくもなる相手だ。
両作をプレイした者としては、やはり印象深いキャラクターと言えよう。
ていうか、ストーリーを考慮しなくとも印象には残るだろう。
なにせミョさん、両作共にめちゃくちゃ便利なのだ。
多くの管理人が、ゲブラー抑制やらビナー抑制やら紫の深夜やらで、ウサギチームに大変お世話になり。
多くの召使いが、草食みやら最腕やら複製やらで、デッキ構成の際大変お世話になった。
なんなら彼女がいなければ、エンディングを見ることができなかった者もいるかもしれない。
鬼畜なプロムンに立ち向かう俺たちをいつだって支えてくれるのが、ミョさんという存在なのだ。
白夜なんかよりミョ様の方がよっぽど俺たちのこと救ってくれるからね実際。戦術【最腕】と名付けられた帰属は、熟練した威力で召使いを驚かせた。
で、そんなとってもありがたい僕らのミョ隊長だが、かつて無力な少女であった頃、赤い霧によって救われたという過去が語られている。
なんか組織の勢力争いに巻き込まれて殺されかけたところに、赤い霧が颯爽と駆けつけて逃がしてくれて、それから英雄ってモンに憧れたんだってさ。
……そんなこと、すっかりぽんと忘れとったわこの瞬間まで。
仕方ねーだろ。毎日クソ忙しい上、正直L旧研のことで頭がいっぱいだったし、何よりカーリーが市民助けるとか日常茶飯事なんだもんよ。
今、俺の目の前には、件のミョがいる。
一音節で表現できる日本じゃあんまり聞かない名前の彼女は、LobotomyやRuina時代の彼女とは違い、都市の理不尽な暴虐に怯えぶるぶると体を震わせていた。
ミョさんの強気で戦闘狂な態度は、憧れた英雄を追うための後付けの仮面に過ぎない。
彼女の素、というか幼かった頃の性根は、裏路地に住まう多くの無力な人間たちと同じ。
突然降って湧いた悪運を憎み、しかしそれに反逆することもできず蹲る、卑屈なそれに過ぎないのだ。
一応、俺とカーリーは、彼女に振り下ろされていた人差し指の遂行者の凶刃を防いだ、命の恩人と呼んでいい存在だろう。
しかし、彼女はといえば、次は俺たちに襲われるとでも思っているのか、震えるばかりで感謝の言葉の一つすらもない。
まあ、都市ではこれがデフォルトだ。
誰かを助けたところで感謝なんてもらえることは少なく、むしろ「なんでもっと早く来なかった」とか罵声を浴びせられることの方が多いくらい。
そんな風に何度も裏切られておきながら、それでも懸命に守れるものを守ろうとするんだから、やっぱカーリーとかいう女はL旧研きっての聖人君子である。
「……コナー? どうした」
一瞬凍り付いていた俺に、背後からカーリーが怪訝そうな声をかけてくる。
それを受け、俺は瞬きをする間に意識を切り替えた。
強者でさえ、戦いの中での躊躇は死に直結する。
俺みたいな雑魚がそんなことしてれば命がいくつあっても足りないので、こういう場面での精神的な割り切りはちゃんと訓練して鍛えてあるのだ。
「いや、何でもない。
君、怪我は? 足を斬られたりはしてないか?」
俺は膝を折り、彼女と視線を合わせて聞く。
ちなみに左脚の「黒」を起動し、もし襲われても応戦できるように態勢は整えながら、だ。
ミョがそういうことをするとは思っていないが、都市ではこれくらいの警戒はしといて損はない。実際3回に1回くらいは襲われるしね。
カーリーはそういう不意打ちを警戒して、基本的には要救助者にあんまり肩入れしない。
いやまあ全力疾走で駆けつけてる時点で、都市の人間としては滅茶苦茶他人に肩入れしているが……。
実際に助けた後は、「あっちの方が安全だから逃げな」と告げるくらいだ。
だからその後、結局助けたヤツが死ぬこともあり、カーリーはそれを知る度曇っている。
曇っているが、そもそも光の種なしにE.G.O発現するくらい精神性が頑強なので、そうそう闇墜ちはしない。この女ほんと強いな……。
ともあれ、L旧研のメンバーから無駄な精神負担を取り除くのが、今の俺の課題の一つ。
というわけで、カーリーの代わりに要救助者の保護をするのは俺の役割だった。
ミョはようやく俺たちを味方と認識したのか、こくこくと必死に頷き、つっかえながらも事情を語ってくれた。
どうやらいつも通りに「仕事」に出かけていた時、不意に指間の抗争が始まり、それに巻き込まれてしまったらしい。
激戦区から脱しようにも、戦場の真っただ中を突っ切ることもできず、勢いが収まるまで必死に逃げ隠れしていた。
抗争が穏やかになったのを見て逃げようとしていたが、そこでさっきの遂行者に見つかってしまい、大通りからここまで逃げて袋小路に追い詰められたところだった、とのことだ。
……すげえなこの子。まだ10歳にもなってないだろう未熟な体で、遂行者相手に数分逃げ切ってる。
やっぱ天性のクイックレディなんだろう。正直その才能は羨ましいぜ。
とはいえ、子供が必死に自分の命を繋ごうとして、それに成功したんだ。
そこにあるべきは余計な感情でなく、純粋な賞賛だろう。
「君の奮闘が俺たちの到着までの時間を稼ぎ、君自身の命を救ったんだ。
よく頑張ったな、偉いぞ」
言い、血に塗れたカサカサの白い髪を撫でる。
女性の髪を撫でるのはアレだが、10にもならんガキはむしろわっしわし撫でてやるべきモンだ。
構われずに育った子供なんぞ、まともに育っちゃあくれない。ソースはアンジェラ。
てかそうでなくとも、ガキには構ってやるに限るしね。おーしおしおし、頑張ったな!
驚いたような目で見つめてくる切れ長の目が、徐々に安心の色に染まる。
人肌の温度や感触は、安心感を与えてくれる。ここまで数時間緊張しっぱなしだった子供にとって、俺の手の感触と雑魚スマイルは、心を癒すに能うものだったんだろう。
「う、ううっ……」
「おおっとまだ泣くなよ~、事は終わっちゃあいないんだ。
なにせ、裏路地の夜に入る前に安全圏に逃げなきゃいけない。俺とカーリーは付いて行くわけにはいかないから、君自身の脚でな」
ま、流石にここまで刺してこない以上、警戒は解いてもいいだろう。
最悪ここからお目目赤くきらーんして狂暴化してきても、後ろにいる相棒がGood Byeして終わりだしね。
そんなわけで体勢を崩し、いつも研究手伝いのためにポッケに入れてるメモ帳を取り出して、カキカキ。
中指から下ろされた情報、ここ周辺の路地の地図と勢力図だ。割と金になる情報だが、ガキの命には代えられないだろう。
「はい、これご覧。今丸で囲った範囲が今回の戦場。まずはここを出る必要がある。で、逃げるのはこっち方面。中指側ね。
戦場を出たらすぐ、中指の人を頼るんだ。指はルールさえ守る限り、絶対に君たちを守ってくれる。それで信頼を稼いでるからね。
だから今回も、君が頼れば必ず保護してくれる。それでひとまず、今晩は乗り切れるだろう」
俺はメモを破り、彼女に手渡した。
ぶっちゃけ、巻き込まれた指間抗争を乗り切る方法は、そう多くない。
理想としては戦場となった地区からの脱出だが、そんなもんは血と傷に塗れた戦場において、理想論でしかないし。
現にミョがそうだ。いきなり所属してた地区で抗争が発生し、そのまま巻き込まれてしまい、なんとか逃げようとしたが死にかけていた。
裏路地なんてクソ理不尽なモンなので、そういうことはままある。
運次第ではビックリするような最悪の運命を辿ったりもするのがこの都市だ。
つまりは、こういうコトはこれからも起こり得るし、次は俺たちが助けられるわけではない。
その時は、この子自身の力で、地獄を潜り抜けなければならないだろう。
今、俺とカーリーがこの子を過度に保護しても、成長の機会を奪うだけ。
俺たちは、魚を与えることも、魚の取り方を教えることもできない。
彼女は生き残るため、自らの見据える目標のため、彼女自身で「生き残る」という勝利と成長を獲得しなければならないんだ。
手伝ってあげられなくてごめんな。
助けたい気持ちはある。今も、これからも。
裏路地の辛さも、彼女の将来に訪れるものを知ってるんだ。
どうにかして掬い上げたい……それこそ研究所で引き取ってやりたいって気持ちはあった。
……だが、駄目だ。
俺たちは頭に反した実験をしてるんだ。どのような形であれ、いずれ見つかって襲撃を受けるだろう。
そしてその時、十中八九調律者に殺される俺じゃ、彼女の人生に責任を持てない。
彼女が正史通りに進めば、裏路地でもそう易々とは死なないだろう。
R社に入社して、孵化場に放り込まれるまではきっと生き残るはずで。
それに……たとえ複製されたものだったとしても、英雄に焦がれる彼女の意志自体は、生き続ける。
エノクやリサのように、おおよそ死が避けられない状況ではない。
順調にいけば、彼女はこれから先も、生きていける。
どちらを選ぶべきかは実に明白だ。
地獄の道連れにするわけにはいかない。
どうか健やかに成長し、俺の分まで生きてほしい。
心によぎった妄執を振り払って、俺は少女と目線を合わせ、尋ねる。
「行けそうか?」
「……うん」
ミョは、しっかりと俺の目を見て、頷いた。
……それから、横にいるカーリーを見て目を逸らした。
まあわかるよ、血塗れバトルモードのカーリー超怖いもんね。俺もトラウマです。訓練中E.G.O発現した時のコイツとか、裸足で逃げ出したくなる。
さて……まだあまり血の香りのしない少女に、これ以上の接触は不要か。
俺は最後にわしゃわしゃと乱暴に頭を撫で、いつものニッコリ笑顔を向けつつ立ち上がった。
「それじゃあね、可愛いお嬢さん。生きてたらどこかでまた会おう」
ひらひらーっと手を振りながら、振り返ってカーリーと共に立ち去る。
もうこれから先どういう未来になるか予測もつかん現状だが、なんか奇跡的に原作ルートに合流できれば、また会うこともあるだろう。
セフィラになった俺にどんな視線を向けて来るか、ちょっと興味をそそられちゃうね。
……いやまあ、赤い霧のお供の雑魚とか、その時にはもう忘れてるかもしれんが。
さっきの大切断とか、あまりにも英雄! って感じだったもんな。
「……お前、相変わらず子供に甘いな」
「老若男女問わず甘い英雄サマに言われたくありませーん」
相棒からのお小言に肩をすくめ、俺たちは戦場のメインストリートに戻ろうとして……。
「あっ、ありがとう、ございましたっ!
赤色のお姉さんと、灰色のお
背後から届いたその言葉に、自然と笑みが漏れかけ、閉口した。
…………いや、まあ。
確かに小柄で、カーリーより15センチ以上身長低いけどさ。
女顔の自覚もあるけどさ。
声も、まあ、ギリ女で通らんこともないけどさ。
正直自分で鏡見ても「男か女かわかんねえな」って思わなくもないけどさぁ……。
「……フッ」
「なにわろてんねん張り倒すぞ」
「知ってるか相棒。赤い霧の従者は女、という説もあるらしいぞ」
「ざけんなや 俺は男や ドブカスが」
ここが月は月でも
絶えぬ苦痛の連鎖の中で生きるか。
ちんこもぎ取られるか。
ひっでぇ二択だなぁオイ!!
「灰色の従者」についてのウワサ
・赤い霧の相棒らしい
・ハナ協会の隠し玉、「灰色」の特色らしい
・美人だけどチビらしい
・両腕から違う色のビームが出るらしい
・その真の名を知るのは赤い霧ただ一人らしい
・女性らしい ←NEW!