3級フィクサーパンチ   作:アリマリア

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 今回は特に独自解釈強め。
 Limbusの設定と矛盾したりしてたらごめんなさい。





幕の終了時、光1獲得

 

 

 

 結論から言えば。

 ジョバンニの献身は、コギト研究にとって、非常に大きな転機となった。

 

 これまでの研究・実験結果から得られた知見を元に、極めて慎重かつ精緻に行われたこの実験。

 大きなアクシデントも起きず、ジョバンニには想定通り、精神安定剤や鎮静剤と共に極めて微量のコギトが投与された。

 

 その結果、ジョバンニは……。

 

 その自我を、消し去った。

 

 起きているか寝ているかも定かでない、泥濘の中に溶けるのではない。

 彼の自我は薄まるでもなく、濁るでもなく、混ざるでもなく……何処かへと、消えてしまったのだ。

 ジョバンニの思考人格は、ジョバンニという人間は、その瞬間を以て死んだのだろう。

 

 ……俺が言うべきことではないだろうが。

 願わくば、その終わりが安らかであったのなら……これ以上のことはない。

 

 

 

 そして、同時。

 

 ジョバンニの抜け殻の中からは、未知の物質が検出された。

 

 

 

 調査の結果。

 それは、未だ完全には解析できてはいなかったコギトに含まれる、構成物質の一つであることが判明。

 まるでジョバンニの精神によってろ過されたとでも言わんばかりに残されたそれが、ジョバンニの命と苦痛の対価として得られた成果だった。

 

 サンプルを得られたことで、コギトからこの未知の物質を抽出する技術も確立。

 更なる調査と実験が進められ……この物質の性質は急速に判明していった。

 

 

 

 コギトは、言うならば井戸から汲み上げた集合無意識の欠片。

 何十億という人間の意識が混ざり合った結果、それは混沌とした黒色に染まり、人の意思や人格に対して非常に強い汚染力を持っていた。

 イメージとしては、無色透明な水に墨汁を一滴垂らすようなもの。そのたった一粒で、人の精神は優に塗り潰され、狂うに足るのである。

 

 だが、コギトの一部を抽出・濃縮したこの物質は、大元とは違って非常に純粋だった。

 それには色がなく、故に人を染める力はない。

 ただ、元からあった色を輝かせるが如く、人それぞれが持つ心の在り方をより強靭に、より明らかにする。

 

 

 

 研究所のリーダーたるカルメンは、この物質をこう評した。

 

 各人の持つ様々な価値観や思想を排除した、人類という種の持つ根源的な、前に進もうとする意志。

 ジョバンニの意志が見出した、私たちの、そして都市にとっての新たな希望。

 

 私たちがずっと抑圧してきたもの。

 私たちを解き放ってくれるもの。

 

 これこそが、人類の──

 

 

 

 『光』だ、と。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そんなわけで、光が発見された。

 

 釣瓶系女子カルメンが溶け込み、アインが10,000年かけて都市にばら撒き、アンジェラが妨害して奪い去り、半端にしか撒かれなかったせいで都市がめちゃくちゃになり、図書館で回収され、アンジェラの手によってまーた半端に撒かれた、あの光である。

 

 やりやがったな、ジョバンニ。

 お前の生き様は確かにカルメンの道を拓いた。

 その決意と献身は、俺のような雑魚の予想なんて遥かに越えて、結果を引き寄せたんだ。

 

 せめてその事実が、彼の慰みになるといいが。

 

 

 

 しかし……。

 光、ちゃんと物質だったんだな。ビックリした。

 なんかこう……ふわふわした概念的な何かかと思ってたわ。

 

 てか、つまりアインがやったことって、L社で溜め込んだエネルギー使って精製した洗脳物質を都市中にばら撒いたってこと?

 

 やばー……やってることがどう見てもヴィランサイドなんですけど。

 頭とかいう統制組織、ほんと仕事しねえなお前らな。禁忌さえ破らなきゃなんでもいいのかよ。なんでもいいんだろうな。死ね。

 

 

 

 さて、何はともあれ。

 

 L旧研は今や、お祝いムードの真っ最中である。

 いやまあ、ただ馬鹿みたいに祝うという感じではなく、亡くなった犠牲者への追悼と共に杯を傾けるって感じだけどね。

 

 しかし、それもむべなるかな。

 実に1年弱停滞し、まともな成果を生まなかったコギト研究。

 ここ3か月に限れば、カルメンの方針の転換で悲惨な被害まで出ていたそれ。

 カルメン本人含め、全ての研究員が薄々「これ駄目じゃね? ヤバくね?」と疑い始めていたところに、その内に希望があることが明かされたのである。

 

 そりゃまあテンションも上がるというか、「これまでの全ては無駄じゃなかった!」となるわけよ。

 

 

 

 特に達成感があったらしいのは、やっぱりカルメンだ。

 これまでの研究の結実に、そして旧友の死と決意が無駄にならなかったことに、彼女は心底から安堵したらしい。

 諸々をまとめた後、自室で気絶するように眠り込んでしまった。

 「添い寝して」だの「今日は泊まって」だのすら言われなかった辺り、かなりガチで疲れてたっぽいな。

 

 付き添いだった俺は、まずはいきなりぶっ倒れた上司の脈とか取って生存を確認して。

 その体をベッドの上に転がして毛布をかけ、メモに現状整理した情報を残して、ついでに水や軽食を持ってきた後、部屋を出た。

 

 ま、ここ最近は頑張ってたし……今日くらいはコイツにも、ぐっすり休む権利があるだろ。

 

 おやすみ、カルメン。良い夢を。

 

 

 

 さて、リーダーがすやすやである以上、今日ばかりは研究所もお休みだ。

 研究員たちはそれぞれ思い思いに時間を過ごしている。

 

 そもそも酒を好むカーリーや、普段は飲まないけど実は酒癖が良くないエリヤは、同志の事務員たちを集って大広間に集まり、明日の掃除を思うと頭が痛くなる大惨事を繰り広げていた。

 なんなら通りがかった時俺も絡まれた。

 

「おいコナー、私の相棒を名乗るくらいなら酒も飲めるんだろうな?」

「やあカーリー、エリヤ。僕はコナーだ。とんでもねえアルハラ特色フィクサーがおるな」

「ね~~~コナーも一緒にお酒飲も~よ~~~! みーんなすっごく頑張ったんだから、これくらいいいでしょ~~??」

「君はこれまでガチで頑張ってたから、今日は存分に酔っぱらって楽しくしてな。俺は友だちんとこ行かないといけないから……」

「あ? 私の酒が飲めねえってのか?(E.G.O発現)」

「こっちも酔ってんなァ! 『白』でパニック鎮圧した方がいいかなァ!?」

 

 仕方ないのでボトル1杯空ける……フリして、「青」に全部飲ませた。

 触手を飼ってると何かと便利である。みんなも遺跡の遺物を拾って、君だけの触手を育てよう!

 

 しかし……ああ。

 ジョバンニも生きてたら、ここにいたかな。

 酒好きだからな。そこらへんに寝っ転がりながら、べろべろに酔っ払ってるところが目に浮かぶ。

 

「んう? コナー……だいじょぶ?」

「フン、俺の心配をする前に自分の心配をせい! 深酔いはし過ぎないようにね」

 

 はぁ……駄目だ、まだジョバンニショックが抜けきれなくて、どうにもテンションが上がり切らんわ。

 早く色々終わらせて図書館でゆっくりしてえ~~~。

 その時はネツァクに、コーヒーの良さってモンを教えてやりましょうかね。

 

 

 

 大広間が地獄になる一方で。

 ラウンジでは、ガブリエルとミシェルの2人が、何やら穏やかに話し込んでいた。

 

「やあガブリエル、ミシェル。僕はコナー。

 あんま君たちが話してる印象はなかったが、どういう集まり?」

「あ、その……私、お酒飲めないから」

「アルコールを入れると、正常な判断ができなくなるかもしれませんから。それぞれが楽しむのは自由ですが、私は飲みたいとは思えませんね」

「ああ、あの地獄の宴会を回避した感じ」

 

 2人は動的というよりは静的、静かに落ち着いて時間を過ごすイメージだ。

 実際相性が悪いことはないんだろう、ミシェルの淹れた紅茶をしばきつつ、これまでの苦労話などに花を咲かせているらしい。

 

「良ければあなたもどうですか。その服装の乱れも、今日は良しとしましょう」

「お気遣いありがと~ガブにゃんパイセン。俺もお話していきたいとは思うんだが、ダニエルんとこ行くって約束してるから、また今度ね」

「コナーとダニエルって、研究所に来る前からの友だちなんだよね。良ければ今度、その頃の2人の話、聞いてみたいな」

「ミシェルに訊かれちゃ仕方ない、赤裸々な過去回想エピソードでも用意しておきましょう」

 

 精神的に落ち着いた2人とは、割と自然体というか、そこまで背筋を伸ばさずに話ができる。カルメンとかエリヤと比べるとね……。

 俺のストレス解消にもなるし、どこかで時間を見計らって、またお話ししたいところだ。

 

 ……まあ明日明後日はカーリーとお仕事だし、明々後日は一度アインと話す段取り。

 いつ時間が取れるかはわかんないけどね。ワーカーホリックの辛いところだ。

 

 

 

 アインとベンジャミンは……なんか二人でしっぽり祝杯を挙げてたんで、流石に気付かれないよう忍び足でスルーするとして。

 

 エノクとリサは、まあ研究員じゃないし、いつも通り。

 廊下ですれ違った彼らは、いつも通りクールと元気いっぱいだった。

 

「やあエノクとリサ、僕はコナー!」

「ちょっとコナー! 最近付き合いが悪いんじゃない!?」

「今日は、何か良いことがあったみたいだね。おめでとうございます」

「えっ、そうなの? 確かに、なんか掃除の時騒がしいなって思ってたけど……。

 じゃあなおさらよ! 最近はお仕事の話ばっかりじゃない、たまには私が遊んであげる!」

 

 ふふんと笑うリサ、そんなリサを温かく見守るエノクに、思わず笑みが漏れる。

 

 いや~、やっぱり元気なガキには癒されますな!

 何故か自慢げに胸を張るリサを抱き寄せてなでりこなでりこ。

 更にエノクも抱き寄せてなでりこなでりこ。

 

 あー、ちょっとばかり傷心になってた心が癒されますわ~~~!

 

「ふっふっふ、ありがとうなリサ! エノクも皆の手伝い頑張ってくれてるみたいで嬉しいぜ!」

「わわっ、ちょっ、抱き上げないで! 子供扱いしないでよね、私もうエリヤさんからいっぱい仕事を任せられてるんだから!!」

「うん、リサもすごく頑張ってるんだ。コナー、たくさん褒めてあげて」

「も~、この子たちは本当に偉いな~~! なーんでこんな良い子なんだろう、天才だからかな!?」

 

 ……本当、この子たちには感謝しないとな。

 

 正直つれーって思うことも多い研究所生活だが、この子たちがいる、この子たちの前で挫けられないって思うと、自然と腹の底に力が入る。

 やっぱいつの時代も、ガキは大人の力の源やな!

 

「ただ、遊ぶのは少し待ってくれな。友だちと予定入ってるからさ」

「え~!?」

「駄目だよ、リサ。コナーにも都合があるんだから」

「う~……わかったわよ! もう、次は絶対だからね!」

「おしわかった、絶対な! 約束! 嘘吐いたら針千本と顔も知らぬ者の棍棒と仇だった者の杭と仲間だった者の短剣と友だちだった者の槍を背中に刺して下水道にな~がす!」

「何そのとんでもない脅迫!?」

 

 そんなこんなで馬鹿笑いしつつ、手を振って2人のキッズと別れた。

 

 ……しれっと手ぇ繋いでたな、あの2人。

 ちょっと前にしっかり話せって言って以来、エノクとリサの距離はいくらか近付いたように思う。

 良いことだ。隣にいるのに分かり合えないっつうのは、何かと寂しいもんだからな。

 

 

 

 研究所メンバーの様子は確かめ終わったので、いよいよ呼ばれていたダニエルの研究室へと向かう。

 

「やあダニエル! 僕はコナーだ!」

「いらっしゃ~い、待ってたよ」

 

 いつもはコーヒーを飲みに来る職員たちが集まりカフェみてえになっているそこには……。

 予想外なことに、ダニエルを除けば人っこ一人いなかった。

 なんとこの居心地の良い部屋を、2人で独占である。贅沢だね~!

 

「お、空いてんじゃーん」

「空けてるんだよ~。呼びつけておいてまともに話せない、なんてナンセンスだろう?」

 

 青い髪をさらりと揺らすエリートおぼっちゃんは、そう言ってニコリと笑いかけて来る。

 んお~~~♡ 良い友だちすぎて鼻血出そう♡ 普通に好きだな、告白とかしようかな。

 

「そりゃあ嬉しい。んじゃ失礼するわよ」

「好きなところに座ってね~」

「本日のメニューは?」

「ちょっと迷ったけど、4区で取れたものを中心にしてみたよ。

 どっしりとした落ち着ける薫りが魅力なんだ~。コナーに出すのは初めてかな?」

 

 この子、他人に飲ませるために、わざわざ巣からたっけえ豆取り寄せてますからね。

 いや取り寄せるっていうか、俺やカーリーが仕事ついでにお使い頼まれてるんだけど。

 お給料の半分近くをここに費やしてるっていうんだからやべーよね。どんな時でもカップを手放さないカフェイン中毒と呼ばれるだけあるぜ。

 

 ……ちなみに、ダニエルは割とガチでカップを手放さない。

 実験の最中ですら持ってるからすごいよな。お風呂と寝る時くらいじゃない、確実に手放すの?

 

 

 

「はい、どうぞ~」

「さんきゅ。……ん、確かに良い香り。いただきます。

 それで、本日の用件は何ぞや?」

 

 どこぞの茶髪のアホが淹れるものと違って、落ち着きのある良い香りのコーヒーを楽しみながら、早速用件を聞いてみると。

 

 ダニエルは、何気なく尋ねて来た。

 

「ああ、別に何かあるってわけじゃないんだ。

 ただ、コナーはここを楽しめてるかなーって」

「楽しめてる? ……研究所ライフを?」

「うん、そういうこと」

 

 

 

 小首を傾げる。

 

 楽しい。楽しいねぇ。

 ……仕事って別に楽しいもんじゃなくね?

 

 いやまあ、楽しい瞬間はあるぞ。

 エノクやリサと遊んだり、成長を喜んでる時とか。

 ガブにゃんパイセンと職員の服装改定案作ってる時とか。

 エリヤとかミシェルを褒めちぎるのも、ぶっちゃけまあまあ楽しいし。

 カーリーと武器ぶん回して依頼をこなすのも、ストレス解消にはなる。痛いけど。

 ダニエルとコーヒーを楽しむのは勿論、至福の時間と言っていい。

 最近は絶望ちゃんと話すのもまあ楽しいって思えるし。

 ……カルメンと一緒に過ごす時間は…………ちょっと一旦、保留とさせていただいて。

 

 そんな風に、テンションが上がったり、つい楽しくなっちゃったりすることは当然ある。

 

 けどまあ……この研究所に勤めてると、やっぱりカスなことは多いんだよな。

 

 抽出現場立ち合いで、死にかけたこともあったし。

 人差し指の刺客にも殺されかけたし。

 新人と仲良くなったかと思ったら実は翼の密偵で、殺さなきゃいけなくなったりもしたし。

 個人的な事情を聞いて感情移入してた事務員が、目の前でひき肉になったこともあったし。

 ……ジョバンニは死を選ぶし。

 

 それらを総合で見ると……。

 

 

 

「まあ都市ってそもそもカスだしな。その中じゃだいぶマシな方かね」

 

 というのが結論となるだろうか。

 

 他の研究所メンバーに訊かれたら「わ~い! たのし~!」って脳停止で応えるところだが……。

 ダニエル相手にそんな雑な嘘は吐きたくないので、素直に応えてみた。

 

 ただ、やっぱりそこは友だちだ。

 期待通り俺の言葉から、暗いニュアンス以上に明るいニュアンスを汲んでくれたらしい。

 

「ふふ、コナーにしては好意的な答えだね? 巣にいた頃は『マジで都市はカス! ゴミ!』って言いたい放題だったのに」

「まあ、ここは比較的善性が強い奴らが多いからな。巣のゴミ共とは違う」

「酷い言い様。みんな、そう悪い人たちじゃなかったんだけどなぁ」

「極度に悪い者なんてこの世にそうはいないさ。皆が少しずつ悪いんだ」

 

 そもそも井戸の中身がぐっちょぐちょの泥水なので、そこと繋がる人の心も少なからず濁るのだ。

 L旧研のメンバーは比較的少ないってだけで、濁りは依然としてそこにあり、それこそが苦痛の連鎖と心の病を引き起こす。

 

 俺はその濁りがどうにも好かん。

 清濁併せ持ち、それらを愛し愛されるからこその人間だと、そんなことは分かっているのだが……こればかりは嗜好の問題だろうな。

 

 

 

「まあでも、最近のコナーは少し楽しそうに見えるけどね~」

「ん、そうか?」

「特にカルメンと一緒にいる時は」

「友だちでも言って良いことと悪いことがあるぞ?」

「いやいや、本気でね」

 

 ダニエルは自分で淹れたコーヒーを一口啜り、くすりと笑って続けた。

 

 

 

「カルメンと並んだ時のコナーは、なんなら俺と話してる時と同じくらい、本音を出せてるように見えるよ」

 

 

 

 

「…………」

 

 …………。

 

 ……………………。

 

 

 

 ダニエルは天才だ。

 

 天才の観察眼は、凡人のそれよりもより精度が高い。

 

 彼の感想は、俺の自認よりも確度の高い情報と言えるだろう。

 

 

 

 俺がカルメンに、そこまで絆されている?

 

 ダニエルと、たった一人の友だちと並ぶレベルで?

 

 

 

 ……マジで??

 

 

 

 …………マジのガチの冗談抜きに???

 

 

 

「得物は貸す。介錯を頼む、ダニエル」

「嫌だよ~」

 

 

 







 (絆されてる自覚なかったんだねぇ、コナー。
 正直、こっちは嫉妬するくらいだったのになあ)
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