3級フィクサーパンチ   作:アリマリア

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ジェネリックアンジェリカ

 

 

 

 問題。

 生きていて、一番「気持ち良い」と感じる瞬間はいつか?

 

 人生の目標を達成した時?

 ヤクをキメた時?

 セックスしてる時?

 ムカつく相手をぶん殴った時?

 

 人によって異なる答えが返って来そうな問いだ。

 勿論、俺にも俺の答えがある。

 

 それは、うたた寝をしてる時だ。

 

 朝、これといった緊急の用事が入っておらず、停滞した思考でなんとなく二度寝を選ぶ瞬間。

 授業中、クッソ怠い授業を聞き流しながら、春の陽気の中でうとうと船を漕ぐ瞬間。

 ようやく皆の手伝いが終わってできた隙に仮眠を取ろうとして、半端にカフェインが効いてうつらうつらしている瞬間。

 

 意識が現実にあるとも夢に溶けてるともわからない、あのふわふわした感覚は、他の何にも代え難い。

 まだ翼にいた頃は、休日は寮の部屋でうとうとしてるのが俺の二番目の楽しみだったくらいだ。一番目は勿論ダニエルとのコーヒーブレイクだけどな。

 

 

 

 なんで、その時は、すげえ良い気持ちだった。

 

 全身の感覚がぽわぽわしていて、気持ち悪い痛みと心地よい疲労感で思考もふわふわ。

 ぼんやりして思い出し辛いけど、何かをいい感じに成し遂げたような達成感もあって、安心して微睡みの波に意識を委ねていた。

 

 なんていうか、人肌より少し暖かい海の上、ぷかーっと浮いて揺られてるみたいな。

 そんなすごく気持ちの良い、一瞬とも永遠とも取れない時間を過ごしていたんだが……。

 

 

 

「ッ、コナー!!」

 

 なんか、すげえうるさい声に叩き起こされた。

 

 むにゃむにゃ……もうちょっと、あと5分眠らせて……。

 っておい馬鹿揺らすな、いやほんと眠気が飛ぶし俺の命も飛ぶぞ。

 

「コナー、コナー、コナー……! こんな、クソ、馬鹿野郎が……!

 私が残ってれば……ッ!! お前みたいな馬鹿野郎の言葉なんか信じるんじゃなかった! あんなのは嘘だって、わかってたのに……ッッ!!!」

 

 いや、ちょ、うるせえ普通に。

 何、俺今抱きしめられてる? 耳元ですんげえ爆音が鳴ってるんだけど? 本当に声かこれ、俺の耳元で工房製の武器振り回してる可能性もワンチャン。

 

 ……いやでも、やっぱ声だなこれ、聞き覚えあるもん。

 

 てか相棒の声じゃん。

 

 …………あれ?

 ていうか俺、なんで寝てたんだっけ?

 

 ああ、そうだ、確かR社のカスの眷属たちと戦ってて、騎士が……。

 

 

 

「死ぬな、馬鹿野郎! 私のためにお前が死ぬなんて……私はカルメンになんて言えばいいんだ!!

 しっかりしろ!! 相棒!!! さっさと目を覚ませ!!!」

 

 あの、やめて、本当にやめろ。

 揺さぶるな、お前ほんと馬鹿、死ぬ死ぬ死ぬ。

 

 相棒お前、自分にデフォルトでパワー10くらい付いてること自覚しろ。

 1の威力が11になって、今の俺には致命傷になりかねねえんだよ。

 

 え、何、俺こんなので死ぬの?

 ここまで結構頑張ってたつもりだったんだけど、こんなフレンドリーファイアで死ぬの?

 

 流石に嫌だなそれは。

 ちゃんと守り抜いてくれた騎士に面目が立たなすぎる。

 

 仕方ない、起きるか。

 

 

 

「……か、ってに、殺すな……馬鹿は、てめえだばーか……」

「!! 生き、てる……のか……?」

 

 ゆっくりまぶたを開ければ、相棒の驚愕したような顔。

 

 おいお前、俺が死んでる前提で揺さぶってたのかよ。

 死なねえって言ったのに、信頼なさすぎて泣けてきちゃうぜ。

 ……いやまあ、あの時は俺も普通に死ぬ気だったけども。

 

「言ってた、だろ……。俺、体、4割くらい義体だから……まあ、多少やられても、死にゃあしないのよ。

 まあ、流石に今回は、ほんとに死にかけてるんだが……お前の揺さぶりが、致命傷になるかと思ったわ……」

 

 

 

 ……徐々に、意識が覚醒してきて、自分の体の状態を把握する。

 

 左足は偽装が解けて「黒」が露出しちゃってるし、右腕代わりの「白」はどっか行っちゃってる。

 腹は大きく裂けて……「青」の触手まで使ったのか俺、覚えてねー。

 「赤」はどこぞに消えて行方不明。プロト涙剣は左手で握ったままだけど、いや握れてねえわ、人差し指と親指しか残ってねえじゃん。よく最後まで繋がり保てたなオイ。

 

 全身ズタボロで、確かに傍から見れば死体に見えるくらいの無惨な状態だ。

 まあでも、最後まで頭と胸、首は守り抜けたみたいだ。あぶねー、間一髪。

 

 ……ていうか、なんかこの状況、デジャヴを感じるな?

 

 吸血鬼との戦いで死にかけて、相方に心配されるとか……俺、ジェネリックアンジェリカじゃん。

 考えてみれば、多種多様な武装も使うし、髪色と長さも近いし。

 

 じゃあカーリーはジェネリックローランか?

 いやジェネリックっつうか、むしろ戦力的には高級品だが。

 

 

 

「はぁ、クソ……心配させやがって」

「なんだよ、心配してくれたんだ。……本当、優しい奴だな、お前は」

「黙れ。……手当するから、じっとしてろ」

 

 顔を赤くしたカーリーはそう言って、自分の服を切って俺の体に巻き付け、千切れかけた部位を固定しようとしてくれる。

 彼女は裏路地の出身だ、応急手当の技術は高い。……まあかなり雑だけど、このザマだと帰ったらK社アンプルは確定だろうし、今はそれでいいか。

 

 あークソ痛ぇ~~~。師匠のおかげで痛覚刺激にはだいぶ耐性あるんだけど、やっぱこうもボロボロな体を強引に引っ張られたりすると、流石にキツいですわね。

 まあでも生きてるからヨシ!! ありがとう俺の騎士!!

 

 

 

「……お前、あの数の眷属を一人でぶっ潰したのか?」

 

 ふと気になったように、カーリーは周囲を見回す。

 そこに転がってるのは、血と肉と銃の残骸。

 合計400にも及ぶ眷属の死骸が、そこら中に散らばっていた。

 

 カーリーは俺の実力を知ってる。だからこそ、まさかそこまでできるとは思ってなかったんだろう。

 実際それは正しい。何百っていう眷属を千切っては投げするとか、俺にはそんなことできない。

 

「ん? あー……いや、ちょっと……覚醒の仕方が想定外だったっていうか、助っ人が来てくれたっていうか……」

 

 やってくれたのは、俺の騎士だ。

 

 抑止力なしアブノマ、マジすごい。殆ど無双ゲーだった。

 彼女がいなければ俺は今頃、肉塊ミンチで餌になっていたところだろう。食べないでくださーい><

 

「あん、助っ人?」

「……帰ったら話すよ。どうせ今頃大騒ぎだろうし……ああいや、もう収まったのかな。

 とにかくさ、俺も結構辛いんで、早いとこハナに報告して帰ろうよ、カーリー」

「あ、ああ……ああ、そうだな。歩けるか?」

「無理……おぶって……」

 

 最後の最後まで情けなくてごめんね!

 

 

 

 

 

 

 さて、今回の依頼のリザルト。

 

 ハナ協会2課部長からは、本気でおったまげた表情と、かなり多額の報酬をいただいた。ありがてえ。

 これで赤い霧の名は更に広まり、この人の良い2課部長からの覚えもめでたくなるわけだ。サイコーの結果である。

 

 またR社からの要請を受け、俺とカーリーは記憶処理で今回の依頼の一部を忘却。

 凄まじい修羅場だったことは覚えているものの、それが何故起きたのかは思い出せなくなっちった。

 

 なんか俺ブチ切れてたと思うんだけど、なんでだっけ?

 ……いやまあ、なんとなく推察はできるんだけどさ。R社であの物量だったわけで。

 特異点の管理しっかりしろやクソ馬鹿R社がよォ!!

 

 

 

 あと、今回の依頼で、他に得たものと言えば……。

 やはり彼女との相互理解、協力関係……というか、主従関係だろうか。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 研究所に戻ってきた俺たちを迎えたのは、まあ当然ながら、ズタボロの布切れみたいになった俺を見た研究員たち……と、偶然通りがかったリサの悲鳴だった。

 

 わんわんと歳相応に泣きじゃくるリサの髪を、遺物特有の謎防御力で無事だった右腕で撫で、あやしていると……。

 真っ青になったカルメンがすっ飛んできて、俺は報告すらさせてもらえないまま、緊急治療室に搬送。

 そのまま問答無用でK社製アンプルを4本もぶち込まれ、失った体を取り戻すことが叶った。

 

 ……相変わらずK社のアンプル気持ちわりー、肉がめりめり生えて来るんだもんよ。グロ映像だよだいぶ。

 まあでも、おかげで俺は無傷の体を取り戻し、リサも泣き止んでハッピーエンド。

 

 いやあ良かった良かった、今回の仕事も大変だったけどなんとかなりましたね。

 

 じゃあ俺、疲れたから部屋帰って寝るね!

 

 

 

 ……とは、問屋が卸さなかった。

 カルメンがすぐに俺を、自分の研究室に呼び出したからだ。

 

 まあ、そうなるわな。

 

 とはいえ今回の用件は、流石に色ボケした内容ではなかった。

 そして俺の無茶を咎めるものでもない。まあその依頼を受けるよう言ってきたのコイツだし。

 謝罪と懺悔の言葉はさっきいくつか言われたが、いらんと切って捨てた。頑張ってくれてありがとう、の方が100万倍嬉しいわ。

 

 というかそもそも。

 彼女にとってはともかく研究所にとっては、俺のような雑魚の存在以上に逼迫した問題があったのだ。

 

 ちょっと顔色を悪くしたカルメンが尋ねてきたのは、まさにそれだった。

 

「コナー、絶望の騎士が一時的に収容室を脱走して、どこかへと消えたみたいなの。

 今は戻って来てるけど……もしかして専属作業員のあなたなら、何か知ってるんじゃない?」

 

 そう。

 

 我らが研究所が抱える危険存在、幻想体(アブノーマリティ)

 5つに分けられた危険度の内、上から2番目に該当するWAW級のそれ、「絶望の騎士」が、研究所の中から忽然と姿を消してしまったのだ。

 

 

 

 アブノマの脱走自体は珍しいことではない。

 クソ団子とかゲロカスメンヘラは、毎日とは言わないまでも3日に1度くらいで脱走して、俺やカーリーがしばき倒してるしな。

 

 ……ただ、収容室からならともかく、研究所の外に逃げ出すとなると、話は別だ。

 

 アブノマにはクリフォト抑止力により、収容室の中から、そして研究所の中から出てはいけないという、心理的な抑制がかかっている。

 これによって、何の防御力もないような壁で囲まれた収容室でさえ、アブノマたちを収容することが可能になっているわけだ。

 

 勿論、クリフォト抑止力も未だ万全ではない。

 アブノマが感情的になったり興奮したり絶望したり死体が出たり、その他諸々の事情で収容室自体から抜け出すことは、頻繁にあるが……。

 

 二段階目のセーフティである、研究所内への固定。

 そこまで破られることは、これまでになかった。

 

 まあ、逃げ出したっていうアブノマは、ものの数分で戻ってきたはずなんだけど……。

 今大事なのは、その数分間、絶望の騎士の反応が研究所の中からロストしたという、その事実だ。

 

 科学者である彼女たちにとって、大切なのは再現性の確認と機序の整理。

 一度問題が起こった以上、再発防止は義務と言っていい。

 

 

 

 クリフォト抑止力のない環境下でのアブノマは、そりゃもうヤバい。

 カーリーでさえALEPHクラスとなると手間取るレベルだし、俺も単騎鎮圧となると全武装使ってもHEクラスまでが限度。

 

 なもんで、外部にアブノマが逃げたりなんかすれば、とんでもねえ被害が出るだろう。

 それこそ、急に現れれば……不安定なWAW級のねじれでさえ、30万人の死者を生み出してしまうくらいには。

 

 仮に運良く早急に鎮圧されたとしても、こんな不可思議な存在が頭の目に留まりでもすれば、調査の手が伸びる可能性もある。

 

 様々な面で見ても、アブノマを外に逃がさないのは、研究所にとっての必須事項なのだ。

 

 そんなわけで研究所からしたら、ズタボロにこそなったがまあ普通に生きてた雑魚よりも、アブノマの研究所外への脱走の方がとても重要な事態なのである。

 みんな優しいから俺の治療を優先してくれたけどね。ありがと~みんなだいすき♡

 

 

 

 そして俺は、その答えを知っている。

 いや、なんでそんなことになったのかは微妙に推測交じりになっちゃうけども。

 少なくとも、その騎士がどこに消えたのかは、良く知っているのだ。

 

「あー……うーん……なんて言えばいいかな。

 簡単に言うと、俺が死にかけた時に、絶望の騎士が颯爽と駆けつけて助けてくれたんだよね。

 いや~あれはまさに正義の騎士って感じだったぜ。空飛ぶ剣を10本以上ぶん回して眷属を片付けていく様は、見てて爽快まであったね」

 

「…………????????」

 

 宇宙カルメンになっちゃった。

 

 

 







 アンジェリカ
 ・女性
 ・綺麗な銀のロングストレート
 ・11種類の武器を使い分ける
 ・血鬼との戦闘で死にかけた
 ・相棒に心配されて抱き起される
 ・ありえないくらい強い
 ・変な黒い仮面付けた強い奴を従えている

 コナーくん
 ・男性(見た目は女性に近い)
 ・所々赤のインナーカラーが入った灰のロングウルフ
 ・5種類の武装を使い分ける
 ・血鬼の眷属との戦闘で死にかけた
 ・相棒に心配されてまた死にかける
 ・(自称)雑魚
 ・変な黒い角生えた強い騎士を従えている



(追記)
 コナー君は勿体ない病なので4色武装はカーリーに回収してもらってます。K社製アンプルも付けた状態で打ったから安心!
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