今回も多くの独自解釈を含みます。ご注意ください。
絶望の騎士。
WAWクラスのアブノーマリティにして、かの悪名高き魔法少女族の1人だ。
魔法少女は大体カスである。
人死にが出るかちゃんと構うかしないとすぐメンヘラ化して施設半壊させるカス。
ちょっと運が悪いと結果普通でも脱走して廊下を危険域に変えて事故を誘発するカス。
職員と仲良くなるとすぐぶち殺す対象に変化させ接待プレイを要求してくるカス。
みんな違ってみんなカス!
が、実のところ、この子たちがカスであることにはちゃんと理由がある。
端的に言えば、彼女たちは魔法少女は魔法少女でも、既に闇堕ちした魔法少女なのだ。
愛の魔法少女は、あまりに平和な世界に自分の存在意義を疑い、憎しみの女王となり。
幸福の魔法少女は、他者に幸せをもたらした分自分にも幸せがあっていいはずだと、貪欲の王となり。
勇気の魔法少女は、仲を深めてしまった敵に裏切られ自身への怒りを抑えられず、憤怒の従者となった。
要するに、彼女たちは皆、精神的に暴走したりしているのだ。
多少害悪でも許して……許……いややっぱ許せへんわお前ら。
特に憎しみの女王、お前メンヘラすぎんねん。
Lobotomy時代、初周でお前と死体の山と静オケと寄生樹と急行列車永住させた結果地獄を見たの、今でも忘れられんわ。
てかこっちの研究所でもめんどくせーんだよなてめぇはよぉ! 俺なんか最近、お前への接触禁止令出されたんだからな。
俺が入った瞬間にヒステリック解除して、出て行こうとしたら即ヒスるのやめろ。
なんで俺はアブノマにまでカウンセラーせんといかんのじゃ!!
さて、そのようにカスの集団である魔法少女ですが、ただ1人だけ圧倒的な神アブノマも含まれています。
それが人類の味方枠、絶望の騎士です。
このバチクソに美人な鬱系魔法少女は、他のカス共と違いクリフォトカウンターを持っておらず、ほぼほぼ脱走することはありません。
更にWAW級アブノーマリティであるためエネルギー精製効率が非常に高く、また仮に結果が悪くても特に何も起こらないどころか、作業ダメージがWhiteなので発狂だけで終わり、職員が死ぬことすらないのです。
極め付けに、最初に作業結果良いを出した職員はほぼ全てのダメージを半減するクッソ優秀な加護を付与され、これは皆さんも大好きなあの熱望する心臓よりも付け得とされています。
カス共に悩まされる多くの管理人を助ける、希少な人類の味方枠。
それが魔法少女唯一の良心、絶望の騎士なのです。
まあ脱走したら割と大惨事になるが。
その時は素直に再挑戦しようね。
……で、そんな絶望の騎士なんだが。
こっちの世界の彼女には、あるいはこっちの世界に来た俺には、ちょっとした特異性があった。
「なんか知らんけど、俺騎士と話ができるんだよね」
「それは前から報告を受けていたわね。半信半疑ではあったけど」
カルメンの研究室。
ベッドの上に座るカルメンは、俺の言葉に頷いた。
大半のアブノマは、そもそも喋れなかったり、ずっとボソボソ独り言呟くような奴ばかりなんだが……。
中には、疑似的に対話が可能なタイプもいる。
例を挙げれば、ヤンショタこと銀河の子、メンヘラこと憎しみの女王、かまってちゃんな老婆、狼粘着ガチアンチの赤ずきんの傭兵、メサコン正義マンのペスト医師。
……精神的に問題がある奴ばっかだな!!
では絶望の騎士というアブノマはどうかと言うと、彼女の精神的にもでっけえ傷はあるのだが、しかし基本的に対話は不可能だ。
収容室に入っても、ボソボソとPALEダメージを伴う絶望の独り言を漏らすばっかりとのことだ。
……俺以外には。
なんか俺、普通に騎士と会話できるんだよね。
作業をする時には、彼女の騎士時代の話を聞いたり、裏切られた悲しみを慰めたり、逆に俺のこれまでの話をしたりと楽しくお話している。
絶望以外の感情を失ってるって話だったが、騎士は普通に対話に応じてくれる。
なんなら楽しんでくれてるのか、無言で作業を進めるよりも幾分かダメージがマシになり、ポジティブエンケファリンの抽出量も増えるみたい。
あのクソカス悪堕ちメンヘラみたいな情緒不安定感もなく、むしろ基本的には理性的に対話してくれるので、俺としてもこの時間はそう嫌いじゃない。
まあ肌がチクチクするから我慢は必要だけど、そこはもう慣れたわ。俺がこの研究所でこれまで何回体溶かしたと思っとんねん。
「実際、カーリーが作業をした時より、あなたが作業をしたときの方が効率が良いようだったし……なんであなただけなのかはともかく、実際会話はできてるのかもね。
あのもう一人の魔法少女も、一応話ができるみたいだし。あっちは結果として、より面倒なことになっちゃったけど」
俺は悪くねえ。アイツがクソメンヘラなのが悪いんや。
ていうか、ぶっちゃけアイツと話ができてるのかっていうと微妙なところだし。
「いや、絶望の騎士と憎しみの女王とでは……何と言うか、感覚的な違いがあってな」
「というのは?」
「女王の方は、なんかピンボケしてる。話ができてるようでできてないような、響いてないような感じ。
一方騎士の方は、ちゃんと俺を見て、俺の話を聞いてくれてて、ちゃんと繋がってる感があった」
そして、なんでそんなことになってるかは、ある程度察しが付いている。
俺は鞘に収めた、この1年弱でだいぶ使い慣れたレイピアに手を置いた。
「多分だけど、このプロト涙剣があるからだろうな」
「涙で研ぎ澄まされた剣ね」
「長いから略して涙剣ね。
これはカーリーも報告してるはずだが、E.G.Oを持ってると、その思念……というか、あのアブノーマリティを構築する情感だろうものが聞こえて来る。
俺は長いことそれを聞いていた。カーリーのように捻じ伏せるでもなく、あるいはいっそ無視するでもなく、程々の距離で聞き流していた。
だから、俺の精神がその意志を聞き取れるだけの慣れや耐性、あるいは繋がり、高い同調率でも獲得したんだろうよ」
俺が説明していると、鞘に収まった剣から、涼やかな声が届いた。
『酷いです。聞き流すなんて』
気持ちぷんすこしている。かわいい。
「ごめんて。でも君だって独り言みたいなものだったろ?
君の辛さ、絶望自体は理解してるつもりだよ、心配しなくとも」
絶望は、その人個人のものだ。
同じ体験を有していない以上、本質的にその強い情動を共有することは不可能。
下手な共感のフリなんて何の意味もないし、むしろそれを穢すに等しい行為にもなる。
だから、ただ聞かされ、聞き流し、慰める。
それが互いの心にとって、そして彼女の誇りにとってのベストだろう。
『ああ……主はどこまでも、私の誇りを大切にしてくださるのですね』
……うーん、表層心理を読み取られるって、思ったより恥ずかしいな。きゃっ♡ 騎士ちゃんのすけべ♡
まあ俺も騎士ちゃんの読み取れるから、お互い様なんだけどね。
さっき思わず呟いた言葉に反応したか、カルメンがこてんと首を傾げる。
「……? 誰と話してるの?」
「ん? 絶望の騎士」
「…………今も話せるんだ」
「このE.G.Oは騎士の心の表象だぜ? 元々あっちからの意志の押し付けはできてるんだから、こっちの意志を渡すことができてもおかしくはないだろ。
更に言えば、仲を深めとけば困った時に助けに呼べるかもしれないわけだ。……いや、俺からしても全くもって想定外だったけどさ」
軽く肩をすくめた俺に対し、カルメンは眉をひそめ、椅子の上で姿勢を正す。
そうして、深く考え込むように顎に手を添え、「これはあくまで私の所感だけど」と語り出した。
「E.G.Oによる精神への浸食……それは一方的なものであって、双方向のものじゃなかったじゃない。
アブノーマリティだってそうよ。彼らはただ彼らとしてそこにあって……私たち個人に対して向き合うようなことは、なかったと思うんだけど」
まあ、そっすね。
E.G.Oを通した精神交換……もとい精神汚染は、本来一方的なものだ。
アブノマの感情が自分の中に流れ込み、染められそうになる。
「やめろ」なんて叫んでも何の意味もないし、こっちから何かを返すようなこともできやしない。
そしてそんなE.G.Oの大元たるアブノマも、こっちを見ているようで見てはない。
わかりやすいところで言えば、溶ける愛なんて典型的だ。
「誰か一人の職員に極端に依存する」なんて言われてはいるが、その「誰か」は日毎に、つまりはクリフォト抑止力によって眠りにつく度コロコロ変わる。
要は本当に人を見て「この人!」と執着しているんじゃなくて、「誰か一人に依存する」という性質に従って不特定な個人に引っ付くわけだ。
幸せなテディだってそうだ。
2回連続で作業すれば二度と離れないようハグする、という性質を持っているが……。
本当にその職員に愛着を持っているのではなく、結局はただ自分の性質に従っているだけ。
感情がないわけではないんだろうが、それは俺たちを通してもっと遠くに向けられている。
銀河の子とかすごいよな。
友だちが死んで泣くのはまあわかるが、次の職員が収容室に入ればすっと起き上がるんだもん。
アレこそ、アブノマがその人個人を見てないっていうわかりやすい例だろう。
結局のところ幻想体というのは、人の心の井戸から抜き出した、局所的な感情の顕れに過ぎない。
ねじれた人間に生半可な言葉による抑止など届かず、自分以外の誰にも、その歪みを正せなくなるように……。
その延長線上にあるアブノマは更に絶対的な存在であって、他者による干渉など受けはしない。
人のように見えても、人のように話せても、人のように振舞っても。
アブノーマリティはアブノーマリティ、結局は化け物でしかない。
……と。
俺もそう思っていたわけだが。
今回はちょっとばかり、予測が外れたらしい。
脳内の引き出しから正しい表現を探しながら、渡されたカップに入ったコーヒーを一口含む。
……ふん、不味くはないな。美味くもないが。
何かもの言いたげなカルメンに、素直に「悪くはない」と伝える。
おい、嬉しそうな顔すんな、まだ美味くはねえ。お前なんぞダニエルに遠く及ばんわ。
思わず苦い顔をしながらも、改めて自身の推論を口にした。
「アブノマは井戸から連なる、局所的な人の意志の表象だ。
ちょい極端なことを言えば、この世界の人間の集合意識の一部であり、同時そのものとも言える」
「うーん……ちょっと拡大解釈気味だけど、そこまでおかしい話でもない、かしら?」
「お前らもまた同じだ。人の無意識領域と繋がっている。
アブノマと違って極端な表象ではなく、むしろ複雑怪奇な構成要素の一つではあるが……それでも、お前らもまた井戸の中身の一部であり、それそのもの」
「……なるほどね」
そこまで言うと、カルメンは頷いた。
どうやら俺の言いたいことを察したようだ。
早くね?
「アブノーマリティやE.G.Oが、私たちとの対話に応じない、私たちとコミュニケーションを取らない……いいえ、少し違うか。
彼らが私たちをコミュニケーションを取る相手として認識しないのは、ある意味で私たちとアブノーマリティは同一の存在だから、ってことね。
言うならば私たちは、鏡に向かって話しかけている……というより、あっちから見れば私たちが鏡に過ぎない。
だからアブノーマリティたちは、私たちに個として向き合うんじゃなく、ただ鏡の前で自分らしくあるだけ……ってことかしら?」
今の段階で、俺のメタ知識込みのトンチキ推理を?
……コイツやっぱバケモンだわ。
今俺が話してたのはだいぶ極端な推論だったし、ある種哲学的でもあり、ある種妄想にも等しいくらいに論拠に薄い話だ。
アブノマや幻想体、井戸に、都市の意志。
そういったものを知っているが故に導き出した、ある種当て推量にも近しいもの。
なんでそれを一瞬で理解できんだよ。人の思考のトレース速度が尋常じゃねえわ。
「キッショ、なんで分かるんだよ」
「酷い! 私なりにコナーの言ってることを噛み砕いただけよ!
それに……ふふん! これってつまり、それだけコナーのことが分かってきたってことよね、私!」
「まあ、そうだな」
「……否定、しないんだ」
まあマジで知られちゃってるし。
体まで開いたんだ。悔しくは思っても、今更無駄にじたばたしようとは思わない。
だからその恥ずかしそうな表情やめろや。
自分で言ってて恥ずかしくなってんじゃねえよ。
しばらくもじもじしてやがったカルメンだが、ふとその表情が険しく歪む。
「……でも、それじゃあなんで、あなたは違うの?
私であり、あなたであるはずのアブノーマリティに、けれどあなたは個として認識されている。『自分ではない誰か』として対応されている。
でもそんなこと、在り得ないはずよね。
あらゆる人が前提として繋がっているのが集合無意識。逆説的に言えば、井戸に接続していない者がいれば、それはもう……この世界の人間じゃない」
おお、鋭いじゃん。ほぼ正解だわ。
俺はこくりと頷いて見せた。
「……え? いや、だって……」
が、まさかそれを肯定されるとは思ってなかったのか、カルメンは間の抜けた表情を見せた。
なんだよ、今のって答えじゃなくてただの途中式かよ。
評価して損した。はい減点失格落単留年退学。
まあ殆ど答え言ったようなもんだし、もういいか。
「ちょっと前にお前が聞いたよな。なんで俺が心の病に罹患してねえのか。
お前の解釈だと、心の病は誰もが共通して抱く罪悪感とやら……つまりは集合無意識なんだろ?
じゃあ皆持ってるはずのそれを持ってねえ俺が何なのかは、予測も付くはずだろ」
「…………や、やっぱりコナーは『サイバーライフ』ってところから派遣されてきた人型AIで……!」
「いつまでそのネタ引きずっとんねんボケ!」
いやまあ俺が悪いんだろうけどね!
コイツが真面目な時にふざけたのが俺だからね! カウンターされても仕方ねえんだけどね!!
溜め息一つ、俺は再びコーヒーを喉に流し……。
頬杖を突いて、淡々と答えを口にした。
「俺の人格と意志は、この都市の意志から独立してんだよ。
体は都市で生まれ、けどそれ以外は違う。
知らんはずの知識もあり、記憶もあり、人格もあった。俺はコナーであって『コナー』ではない……ただそれだけ。
ま、都市じゃおかしなことなんてよく起こるだろ。その好例の一つってわけだ」
肩をすくめて椅子を回し、カルメンに背中を向ける。
この話はここまで、と。そういうメッセージである。
……本当は、こんなことを伝えるつもりはなかった。
カーリーや他の研究員であればともかく、カルメンにはね。
将来のことを考えれば、コイツに自分のパーソナリティを明かすのは良くない。
俺自身がねじれることは多分ないけど、頭ん中でぐちぐちと痛いとこを突かれるのは精神衛生上良くない。
だから、俺の正体についてはてきとうに誤魔化し続け、破滅の時まで逃げ切る予定だった。
それなのに、なんで今、自分の事情を明かしてるのかといえば……。
はい、絆されちゃったからですね。いつもの。
カルメンとは、あのカルメンなんかとだけは、関係を深めるつもりはなかった。
実際、ネオンみたいな眩いだけの光だったカルメンは普通に気に食わなくて、仲良くなる気なんか毛頭起きなかったんだが……。
……俺って案外、チョロいんかなぁ。
自分の罪を知って恥じつつもなお前を向き、それでも誰かの救いに成れたらと望む姿に。
闇を孕んでも光を喪うことのない、その太陽のような瞳の輝きに。
いつの間にか魅入られた。
今や「コイツを応援してやりたい」なんて、そんな馬鹿なことを思ってしまっている。
結局、転生者だろうが何だろうが、俺みたいな雑魚がカルメンの魅了に抗うのは無理だったかなぁ。
いやまあ全部自業自得なんだけどね!
カルメンをこうしちゃったのも俺なんだけどね!
どうしよ、図書館に入った後残響楽団に同調とかしちゃったら。
流石に指定司書まで裏切ったらアンジェラ憤死するんちゃうかな。
背を向け、口を閉ざした俺に対し。
「……あなたがどんなものを抱えているかはわからないけど、確かに言えることがあるわ。
私が、あなたに会えて良かったと思ってるってこと」
カルメンは静かに歩み寄り、首に腕を回して、抱きしめて来た。
「あなたがこの世界の人間だろうが、そうじゃなかろうが。どこで生まれて、どう生きて来た人だろうが、関係ないの。
あなたが生きて、私の隣にいてくれる。私はそれだけで、心の底から嬉しいのよ。
……生きて帰って来てくれて、ありがとう、コナー」
穏やかに、温かく、そう言って……
カルメンはただ、俺の頭を撫でた。
……コイツもコイツで、俺なんかに絆されすぎちゃう???
ちょっと涙声になっちゃってんじゃん。俺が死にかけるのなんてそう珍しい話でもねえのにさ。
いや~、マジでどうしてこうなっちゃったんですかね……。
はい、俺がてきとうにオリチャー連発したからですね! ワハハ、頭がいてぇぜ!!
「まあでも私、隙あらば女の人引っかけて帰ってくるのはどうかと思うわ! 正直!」
「仮にも相手はアブノマなんだけど、女の人扱いなのか……」
『私は女ですが』
「いやまあそれはそうなんだけどね」
「絶望の騎士? なんて?」
「このクソ泥棒猫がぶち殺すぞって」
「!?」
『!?』
パッシブ
「都市の外の者」コスト0
コナー以外に帰属不可。「心の病」に免疫。
また、アブノーマリティに対して対話が可能となり、「井戸」を介する精神汚染に耐性。
(付記)
12話の感想で「ポジティブさだけでWAW級E.G.Oを平然と使ってるのやばい」というご感想をいただいたのですが、まさしく仰る通りで、普通の都市の人ならとっくに絶望に呑まれてます。
しかし、コナーはそもそも井戸と繋がっていないため、アブノマの感情から受ける影響がかなり少なくなります。
普段はいっつも脳内に語りかけられるのでうるさいだけ、心身が弱ってるタイミングでようやく影響され始めるくらいです。
ただ、歌う機械とか寄生樹みたいな、井戸を介して心に語りかけるのではなく、直接洗脳催眠するタイプの精神汚染は普通に効きます。
も の す ご い ハ ゲ ! も効きます。