3級フィクサーパンチ   作:アリマリア

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闇堕ち前の指揮官

 

 

 

「……何故、お前はこの研究所にいる?」

 

 椅子に腰かけ、俺を睨むように見るアイン。

 鞘の中でブワァアアーッと存在を主張する剣をポンポンなだめながら、俺はその疑問に小首を傾げた。

 

「その疑問には以前答えたはずだけど、忘れちゃったかな?

 頭の理想とここの理想を比べて、ここの理想の方が為された時に対価が大きい。俺にとっても、世界にとってもね。

 更に言うと、俺の大事な友だちもここに来るっていうし……あ、ぼっちのアイン君には友だちっつってもその大事さはわかんないかな^^;」

「…………」

 

 泣いちゃった!!!

 いや泣いてないけど黙っちゃった!!!

 

 

 

 残酷な現実を突き付けるのはかわいそうだが……。

 

 アインには友だちが少ない。

 

 いや少ないってか、いない。

 

 普段から職員と積極的にコミュニケーションを取らないこともあって、こいつは交友範囲がめちゃ狭い。

 強いて言えば、親しいのはカルメンとベンジャミンくらいのもので……その2人とも、友だちと呼べる関係かと問われれば微妙なところだ。教祖と信奉者だし。

 

 

 

 アイン君は頭が良すぎるけど、コミュニケーション能力がないから友達ができないんだね。かわいそ……。

 という憐憫の目線を向ければ、アインは耐え切れず目を逸らした。

 

「……今は、俺のことは関係ない」

「切り返しにちょっと時間空いた辺り、実は気にしてそう」

「気にしていない」

「即座に切り返してきた辺り、ムキになってそう」

「なんだお前は、無敵か」

「死角? ──特にありません。『無敵』です」

「カーリーを呼ぶぞ」

「ヘヘッアインの旦那には敵いませんぜぇ! いやあ俺なんかより一枚も二枚も上手だ、流石は研究所の誇る英才! カルメンさんの右腕! よっ都市最高の頭脳! 脳にちっちゃなスパコン積んでんのかい! 頭が良すぎてA社にスカウトされそうだ!」

「……お前、本当に口が回るんだな」

 

 アインは呆れたような、あるいは羨ましそうな、複雑な視線を向けて来る。

 ふふん、いいだろう。脊髄反射トークは俺がダニエルに勝てる数少ない分野だからね。

 

 ちなみに、口を回すコツは、あんまり相手のことを考えすぎないことだ。

 「これ言って理解できるかな」「これは言わない方が」とか躊躇してたら刹那の隙が生まれる。

 常に意味不明な言葉のラッシュで畳みかけるのがレスバの必勝法である。

 

 

 

 ふふーんとドヤ顔している俺に、アインは溜め息を吐き、ジロリと目線を向けて来る。

 

「あっアイン君の目つきが急に鋭くなった! あの目はアイン君が俺を怒る時の目だ! この特徴からアイン君は別名『何その目怖っ』の異名を持つんだ!

 でもまだ俺は怒られるようなことはしてないぞ! もしかして俺を理不尽に怒ろうとしているのかも!? 一体どんな理由で怒られるって言うんだ……!?」

「真面目に答えろ、コナー」

「ハイ」

 

 流石にこれ以上ふざけるのはまずい。頭かち割られて中身を機械詰めされかねない。

 

 俺、殺されるとしたら調律者か爪って心に決めてるんだ。

 ごめんなアイン、(殺人)童貞をくれるっていうお前の気持ちは嬉しいけど、それに応えることはできない……。

 

 

 

「お前のことは大体調べた」

 

「エッ?」

 

 

 

 内心でふざけ散らしていた俺を前に、アインはデスクの引き出しから、何やら調査資料らしきものを取り出し、読み上げ始めた。

 

「……生まれは2区の巣。4歳の頃、都市悪夢級の事件『知悉皆既』に巻き込まれ祖父が死亡。これを転機に両親はB社を退社し、15区に移転。……すぐに翼に拾われた辺り、優秀な両親らしい。

 家族構成は父、母、兄。家庭の仲は円満、かつてのお前も含め、全員がO社の羽。

 学生時代の評判は程々。成績は勉学・運動共にトップクラスではあったが、普段の素行故に評価は高くなかった。

 また高等部からは、同期にダニエルがいたため、ついぞ勉学で頂点に立つことはなかった。

 幼少期から喧嘩が絶えなかったらしいな? まるで自分の力を誇示し、威嚇するようだったという話だ。

 この悪癖は中等部の中頃、唐突に数日間の休日を挟み、途絶えた。ただし、どこで負ったのか青アザや切り傷だらけの死に体で登校し、逆に周囲を動揺させたという話だったか。

 高等部からは一転して真っ当な生活を送ってはいたが、高頻度での無断欠席が続いた。そしてダニエルと出会い、お前は落ち着……」

 

「怖い怖い怖い怖い」

 

 

 

 え、何、ストーカー? 恐怖。

 エグい恐怖で背筋が鳥肌立っている。

 

 アインの調査能力舐めてた。

 いや、舐めてたっていうか、流石にホラーの領域だろこんなん。

 

「あの、お前様、プライバシーとかって言葉知らんの……?」

「お前にそんなものはない」

「この憐れなサイコ野郎に誰か人権って言葉教えてやってくれよ……」

 

 流石は殺した相手の脳みそほじほじして知識を得る男だ。情報収集に迷いがなさすぎる。

 

 

 

「……はあ、それで? わざわざそんなありふれた来歴を調べたから何だってんだ」

 

 俺は気を取り直すように足を組み換え、肩をすくめた。

 秘技・開き直りの術である。

 

 俺のプロフィールなんぞ、都市じゃそう珍しいもんじゃない。

 いやまあ中等部の頃に紫の涙に出会えたのはそうない幸運だったが、他は一般都市住民って感じだ。

 

 アインとしても、叩けばなんか埃でも出ると思ったんだろうが……残念! ただの雑魚でした!

 イオリ師匠にボコられるまでの黒歴史時代を知られたのは恥ずかしいっちゃ恥ずかしいが、だからと言って別に困ることも後悔することもない。

 

 その上で、なんでわざわざそれを告げて来たのか、問おうとして……。

 

「確かに、多少の特異性はあれど、探せばいる程度の来歴だ。

 ……だからこそわからない。お前は何を求めて、今ここにいる」

 

 アインの鋭い視線と質問に、機先を制されてしまった。

 

 

 

「この研究所にいるのは、カルメンに惹かれた者か、あるいは何等か欠陥を抱える者だ。

 そうでなければ、翼に所属することによる安定した暮らしを放棄し、外郭にまで足を伸ばすわけがない」

 

 まあ……それはそうだろうな。

 

 エリヤもガブリエルもミシェルも、皆カルメンに惹かれ、彼女の夢に可能性を見出した。

 

 カーリーはこの腐った都市の中で、絶対に信じられる、守るべき対象を欲していた。

 

 ダニエルは根本的に都市の在り方に疑問を持っており、不完全な社会システムを疎んじていた。

 

 ジョバンニは自らの人生を憂い、自らの意志に沿った在り方と終わらせ方を求めた。

 

 そして誰よりアイン自身、カルメンに眩しすぎる光を見出した。

 

 ……ちょっと一旦ベンジャミンのことは置いておこうか、アイツは二次被害者みたいなもんだし。

 

 

 

「では、コナー。お前は?

 カルメンに惹かれた者か? 否だ。最近はともかく、最初期、お前はむしろカルメンを疎んじていた。

 では、お前は何か欠陥を抱えているか? これも否だ。お前は一人で完結している。それ故に誰かを気にかける余裕を持っているんだろう」

 

 そうかな……そうかも……。

 

 俺がここに来た理由は、都市とかいう住めば肥溜めなカスの環境を脱するためだ。

 そういう意味じゃ、俺には「安定した将来設計が欠けていた」と言えなくもないが……。

 

 アインみたいな都市の人間から見たら、「安定した将来設計」=「翼の羽として使い潰されること」。

 言っても理解されるとは思い難いか。

 

 

 

「お前が言っていた理由は、『この研究所の目的が頭のものよりも好ましいから』、だったか。

 それではお前は、ここの研究が成果を生むことに期待しているか? それも否だろう、なにせ皆が停滞に沈んでいた時、お前だけは何も感じてはいなかった。

 研究への協力もあくまで消極的で受け身のものでしかなく、自ら何かを生み出そうとしたことはない」

 

 うーん、よく見てるわ。

 ここに関しちゃなんら否定できないので、ただ口をつぐむ。

 

「そして、そもそもこの研究所の目的は心の病の治療。

 しかしカルメン曰く、お前は心の病を罹患すらしていないという。

 ……改めて訊く。お前は、どんな理由でこの研究所にいるんだ」

 

 コイツ、やっぱ頭も目も良いな。当たり前だけど。

 

 他の皆が仲の良さとか同僚意識、友情で曇らせてくれる瞳を、しかしコイツだけは正しく保っている。

 

 俺という存在の異常性をきちんと直視し、その真意を探ろうとしてるわけだ。

 

 ……ちょいヤバいかな。

 アインにガチで詰められたら、俺、隠し事を貫けるかわからん。

 記憶への干渉については対策済みだが、誘導尋問とかされたらやべーぞこれ。

 

 

 

 しかし、そっか、まーだ疑われてるんすね俺……。

 

 まあ転生者である以上、多少なりとも怪しさは出ると思ってたので、それを補えるくらいにお仕事頑張ってきたつもりだったんだけどな。

 

 なんて、少し悲しくなっていると。

 

「…………別に、今更お前が頭や翼の尖兵だとか、何か企みを持ってるなんて疑ってるわけじゃない」

 

 とんでもなく意外な言葉が降って湧いた。

 

「ほにゃ??」

「気色が悪いぞ」

「んにゅ……」

「不快感を煽る天才かお前は」

 

 マジか。朗報、俺アインに疑われてなかった。

 

 疑心暗鬼の化身みてえなイメージあったけど、この鬼畜外道にも人を信じる心とか残ってたんだな!

 

 感動した! 15区の俺の家に来て兄をファックしてもいいぞ! ガチムチのムキムキマッチョにそのマッチの棒みてえな細腕で勝てるんならの話だがな!!

 

 

 

「……はあ。お前のこれまでの貢献を見れば、どれだけ用心深くとも疑いなど失せる。

 お前は何度俺たちのために死にかけた? どれだけ俺たちのために奮闘している? 最後にきちんと休暇を取ったのはいつだ?」

「キュウカ……? 何その言葉、知らない。

 知らないはずなのに、あれ、なんだろう、何故か涙が止まらない……大事な、とっても大事なことを、忘れてるような気がして……」

「…………す、すまん」

 

 あかんマジで涙出て来た。60連勤で涙腺が壊れちゃったのかな……。

 

 

 

 しかし、どれだけ奮闘したとか、ちょっとおおげさだわな。

 

 確かに、俺は皆を守って負傷する機会は多かった。

 だが、それは用心棒という役職上、当然のことだ。

 皆が真面目に研究するのと同じく、俺は俺の役目を果たし、できることをしているだけ。

 

 それに、言うても死にかけた回数なんて両手両足の指があれば足りるくらいだし、その殆どが俺が弱いから起こったものだ。

 

 例を挙げるとすれば、しばらく前の笑う死体の山抽出事件とか、人差し指の指令殺意高すぎ事件とか、先日のクソバカR社事件とかに加え……。

 

 お散歩中のポチ(第四形態)に不意打ちGood Byeされ、それ自体はなんとか躱しはしたものの、続く連撃に当たり、皮を持ってかれそうになったり。

 

 脱走したメンヘラにマジカルビームされて、後ろのガブにゃんを守ろうと「赤」と「白」でなんとか張り合ってたら、あっちのビームが二段階くらいパワーアップしてきて、消し炭になりかけたりとか。

 

 唐突に降ってきた家に押しつぶされかけたダニエル助けるため、意地と根性で現代版アトラスになったりとか。

 

 カーリーに全力大切断-縦-されたりとか。

 いやマジふざけんな、模擬戦で全力出すんじゃねえ死ぬぞ俺が。

 

 エノクとリサと一緒に遊んでたら外郭のゴミカス住民に襲われ、リサ人質に取られて、俺が自殺のフリするハメになったりとか。

 

 どこかの翼に雇われたらしい刺客のフィクサー共が研究所荒らしまわってたので、ぶち殺しまくってぶち殺されかけたりとか。

 

 ミシェルが一回家に帰省するってんで護衛してたら、なんだかんだで裏路地の夜に巻き込まれ、死に物狂いで守ることになったりとか。

 

 収容室を間違えて赤い靴を履くというとんでもねえポンを見せ付けたエリヤを押し倒して拘束、ダニエルがクリフォト抑止力全力展開してくれるまで斧でグサグサされながら耐えしのんだりとか。

 今思うと、騎士の加護なかったら普通に死んでたわねアレ。結果的には2人とも生存できて何よりだ。

 

 あとは……うん……情けなく、そしてお恥ずかしいいことに、カルメンに絞り殺されるかと思ったこともあった。

 いや、あの日は体調クソ悪かっただけだから……ちゃんと後日目にもの見せてやったから……!

 

 

 

 俺、たった1年弱で死にかけすぎでは?

 雑魚って辛いわね~ほんと。

 

 カーリーなんて、一回たりとも死にかけたりしてないんだぞ?

 なんならK社製アンプルすら使ってない。俺は余裕で30本以上打ってるのに。

 

 しかし、良い方向に考えれば、俺もなかなかの数の死線を潜り抜けたとも言えるだろうか。

 フィクサーでもない一般用心棒としちゃ、結構頑張ってる方かもしれない。

 

 ……そんな歴戦の戦士にしては、技量はともかく、身体能力が成長した気がしなくて悲しいところだが。

 結局俺3級フィクサー止まりか~い!! 師匠の見立ては限りなく正しいのであった。

 

 

 

 ほのぼのと過去を振り返る俺に、アインは呆れたような視線を向けてくる。

 

「お前は敵じゃない、俺たちの味方であり、同胞だ。それはお前自身の献身が証明している。

 ……だが、わからないのは、お前の目的だ」

「いやお前言葉足らず過ぎて会話の着地点がわからんねん。

 もうちょっとちゃんと話してくれる? お前の考えてること」

 

 疑われてるわけではない。そこは安心した、とても。

 

 だが、だとしたら、コイツは何を訊きたいのか。

 

 

 

 腕を組む俺に、アインは「こんなこともわからないのか」とでも言いたげに眉を寄せた。

 まったく、いつでも自分を基準にしてんとちゃいますよ。俺はお前よりずっとアホなんだからね?

 

「だから、目的だ。お前が最終的に得たいものだ。

 ……少なくとも、この都市の人々の救いやカルメンの目標達成は、お前にとってどうでもいいことだろう。

 では、この研究が成し遂げられた時、お前には何がもたらされる? 何が与えられる?

 お前のその献身には、何か対価が発生して然るべきだろう。

 金なら出す。名誉なら与える。好きに言え」

 

 

 

 ……え? 何?

 

 要するに、俺が頑張ってきた分報われてほしいってこと!?

 

 優しい!?

 アインが優しいだと!?

 

 

 

 お前そんな……そんな人情的なキャラだったのかよ……! 見直したぜ!

 親としては相変わらずゴミだが、人間としてはギリ友だちにはなってもいいくらいにランクアップだ!! おめでとー!

 

「ハッ、俺を心配してくれたのかよ? お前らしくもないなあアイン。とーっても嬉しい♡ ありがとね♡」

「……心配した覚えはない。働きに正当な対価が与えられないことはあってはならないと思った、それだけだ」

「今時ツンデレは流行んねーぞって言いかけたけど、男のツンデレはまだ需要あるし、お前の顔なら割といけそうだな……」

「何を言ってるかはわからないが、馬鹿にされていることには察しが付くな」

 

 

 

 俺はクツクツと笑い、椅子の背もたれに体を預ける。

 あーコイツ揶揄うのたのしー、反応が丁度良い温度感でたまんねえわ。

 

 まあでも、その心配は的外れだ。

 肩をすくめ、冗談めかして告げる。

 

「心配すんなよ。これは俺にもちゃんと益がある行為だ。

 最後にはちゃんと得るもんを得るし、お前たちの目的と相反するものでもない。

 ま、それを俺の口から語ることはないが……そうだな。

 もし俺が死ぬようなことがあったら、脳でもかっ開いて中身を覗いてみたらどうだ? びっくりするくらい空っぽかもしれないけどね!」

 

 

 

 ……俺が死んだ後、アインに脳くちゅされて、前世の原作知識を持って行かれてルートが逸れないよう、既に対策は済んである。

 

 先日都市の裏路地でやってきた、研究所の給料半年分くらいを突っ込んだ、折れた翼の特異点による脳手術。

 廃人化の恐れもある、まあまあリスキーなものではあったが、成功したので無問題だ。

 

 施術内容は、記憶の暗号化、固有化、及び隠蔽。

 

 教えられた仕様通りであれば、俺の死後に脳みそから搾れる情報は、今回の人生の分だけになる。

 アインは俺に前世の知識があることすら気付かないはずだ。

 

 やけにメタ的な知識など最初から存在しない。

 騙して悪いが、チャートなんでな。走らせてもらう。

 

 

 

 ……ま、それはそれとして。

 

 友だちになってもいいと思える相手が、せっかく時間を取ってくれたんだ。

 せっかくだもん、ゆっくり話をしてきましょうか。

 

 不吉な話に眉をひそめるアインに、バッグから取り出したコーヒーパックを見せた。

 

「ま、この話題はここまでとして……せっかくだしもうちょいお話しようぜ!

 ほら、さっき言ってたダニエル謹製のヤツ。ここ、ポットとかある?」

「ケトルなら。使え」

「あざーっす! まあ安心してくれよ、俺のドリップはダニエル仕込み、結構上手いんだぜ?」

「……はあ。まあ、いただこうか」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 それから1時間程。

 俺とアインは、色々な話をして過ごした。

 

 最近の研究所のことから、都市で流行ってたもの、食べ物の好物に子供の頃の思い出まで、話題は多岐にわたる。

 

 基本は俺が揶揄ったり笑ったり、アインが呆れたり頭を押さえたりの繰り返し。

 アインの方ではどう思ってるかわからんけども、俺としちゃなかなか楽しい時間だったね。

 

 

 

 常識人で打てば響き、しかしマイペースで塩対応。

 そんなアインとのコミュニケーションは、なんというか、小気味良い。

 俺、どうやらコイツと相性が良いっぽいな。

 

 最終的には、カルメンの諸々のあれやこれやが気にならなくなるくらいに、距離を詰められたと思う。

 アインの方も、時々ではあるが、小さく笑みを浮かべてくれてたしな。

 

「じゃあな。また話そうぜ~、アイン!」

「時間のある時にな」

 

 社交辞令ではない誘いには、満更でもなさそうな声が返ってきた。

 

 

 

「…………」

 

 後ろ手に研究室の扉を閉めながら、考える。

 

 アイン。

 煉獄の指揮官、になるかもしれない者。

 天才故に孤独たり、天才故にそれを許され、されどいつか、天才故にそれを悔いることになる者。

 

 狂気に呑まれながらも事を為し遂げたコイツのことを、俺は嫌いになれなかった。

 

 そして、実際に話してみた感想としては……。

 頭はバチクソに良いくせに、人付き合いは下手だし、気遣いも不器用で分かりにくい。

 そのくせ義理堅く、こっちの投げたボケには丁寧にツッコミを返して来るし、案外付き合いも良い。

 

 なんというか……。

 コイツも、普通の人間なんだな。

 凄まじい天賦の才があることを除けば、真面目で不器用でコミュニケーションが下手な、都市の中に数えきれない程いる普通の男の一人。

 

 勿論、アインも都市の人間だ、井戸の濁り水は流れているんだろう。

 だが同時……わかりにくいが、人を思いやるだけの善性も、確かに持っている。

 

『今日だけは誰も苦しまず、 誰も死なないで欲しい』

 

 ……あの言葉は、嘘でもなく、建前でもない。

 10,000年の煉獄に狂った果てにも、そんな言葉を言える人間なんだ、コイツは。

 

 

 

 こんな奴が、自ら死を望む程に何度も何度も、煉獄を繰り返すのか。

 

 ……エグいな、流石に。

 

 せめて少しでも、その求道に、報いと救いがあればいいのだが。

 

「……支えられるかね。俺に、Xを」

 

 もし、「そう」なったのなら……。

 ちょっとばかり、対応を考え直してみるか。

 

 

 

 ま、今のところ、原作に合流するかすらわからんのだけども!

 

 

 







 DAY 0 「^^」
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