3級フィクサーパンチ   作:アリマリア

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灰と黒金の交差

 

 

 

 俺は床を蹴り、駆けだした。

 目標は5メートル前方、調律者ガリオン。

 

 調律者を相手する時、距離はこちらの味方をしてはくれない。

 図書館で全てのバトルページが遠距離ページで構成されていたことからも分かる通り、コイツらの攻撃には悉く距離の概念がないからだ。

 

 なんなら多分、わざとらしく手を向けたり振り下ろす必要すらもないんだろう。

 コイツらがそう考えさえすればそこに攻撃が発生するとかいう、クソみたいな法外リーチだ。

 

 そのため、まずはこちらの攻撃が届く位置にまで、距離を詰めなくてはならないのだが……。

 

 恐らく、俺のこの接近が功を奏することはないだろう。

 

 

 

「ふむ。ならば、再び試そうか」

 

 ガリオンが残された左手で指を鳴らせば、瞬時にその特異点が行使された。

 

 俺とガリオンの間にある距離が、まるで縮尺が狂ったかのように伸び……。

 そしてその歪みが是正されるかのように、俺の位置が、元々立っていた場所へと戻る。

 

 正体不明の特異点。縮めたはずの距離を再び空ける、不可思議な技。

 認識をイジっているわけじゃなく、むしろ現実を引き摺っているようにすら思えるこの感覚。

 概念への干渉、あるいは現実改変か? SFもいいところだな、おい。

 

 その効果は、距離……いいや、もっと大きく解釈できる何かを、広める、拡大する、大きくする、引き離すといったところか。

 ……これだけだと、流石に特異点の効果や意味まで絞り込むことは不可能だな。

 

 残念ながら、これを真正面から破る手札を、俺は有していない。

 流石に発動までにある程度の猶予はあると思うが……ガリオンが「そうしよう」と思えば、その瞬間、俺たちの距離は奴の思うままに離れる。

 真っ当な手段では、近接戦に持ち込むことすらできないだろう。

 

 

 

 そして再び距離を離された俺を前に、けれどガリオンはこちらに攻撃する素振りを見せず、俺の挙動を観察するかの如く漆黒の瞳を向けてきている。

 ……敵として認める、とは言わないまでも。こちらの出方を見る程度には警戒しているわけだ。

 まったく、買い被られたもんだよ。

 

 遠距離から攻撃するという札は、既に見せた。

 「赤」が高出力のレーザーを撃てることを、そしてそれが柱の特異点には出力負けすることを、既に調律者は理解している。

 攻撃方法と対処法を悟られた以上、アレはもう、ガリオンにとっての脅威足り得ない。

 

 であれば、ガリオンが今危惧しているのは……あの手札だ。

 奴が知っているようで知らないその意味を、探ろうとしている。

 

 そのために、俺を誘導しているのだろう。

 

 

 

 ……いいだろう。

 意趣返しだ、それに乗ってやる。

 

 知恵比べといこうや、都市最高級の頭脳さんよ!

 

 

 

 

「善なる道よ、貫け」

 

 俺の囁きと共に、俺の目の前に青の魔法陣が生まれる。

 正義の騎士の生みだす、転移の門だ。

 

 俺は即座にそれに飛び込み、直後、武装を振るう……。

 

 ……のではなく。

 

 俺の切り札たる、白の「祈り」を起動した。

 

 

 

 瞬間。

 

「ッ!」

 

 俺の視界が、黒と金の閃光に焼かれ。

 全てをひっくり返すような轟音が木霊し。

 

 同時、全ての不浄を祓うような、高らかな鈴の音が響き渡った。

 

 

 

 俺の真正面、たった40センチメートル先。

 

 ガリオンが立つ周囲の床には、爆発でも起きたのかと思うようなクレーターが形成され。

 

 そしてガリオン自身も、黒い外套に数え切れない斬撃による傷痕を作り、全身から血が溢れ出している。

 

 

 

 ……ああ、ああ、やっぱりな。

 

 そう来ると思ったよ、馬鹿が!

 

 

 

 お前が何を警戒していたかは、手に取るようにわかるよ、ガリオン。

 

 俺がダニエルを助けるために最初にかまし、お前の右腕を千切り飛ばした、不意打ち。

 確かな有効打となったそれを安易に二度も受けてくれる程、お前は甘くはないだろう。

 

 特にお前が警戒したのは、「黒」の破壊力ではなく……。

 唐突に何もない空間から現れた、空間転移の力。

 

 転移。それは戦闘において、とんでもなく厄介なファクターだ。

 俺もイオリに擦られまくったからよく分かるとも。

 

 なにせ真正面から殴り合ってる時、いきなり後ろに回られるかもしれない。

 追い詰めた瞬間にどこぞへと逃げ、仕切り直しを強要されるかもしれない。

 相手の行動の連続性が途切れれば、見当識を構築していた思考は空転する。どこに行ったのかという疑問、それを解消しようとする思索にリソースを奪われる。

 そして何より、いつ転移をしてくるかわからないことへの警戒に、行動を制限されることになる。

 今回はそれらに加えて、お前の有利な長距離戦を保てなくなり、俺のリーチに入ってしまうことにもなる。

 

 ガリオンからすれば、その不可思議な瞬間移動は、貧弱な俺の持つ手札の中で唯一の脅威に映るだろう。

 というか、実際それで痛い目を見てるんだから、警戒しないわけがない。

 

 だからまずは、この能力を誘発してくるだろうと思っていた。

 その機能と限界を知り、適切な対処法を模索するために。

 

 さっき一度、愚直に突進する姿を見せたのは、お前の積極性を測るためだったんだよ。

 お前が距離を離すだけで追撃してこなかった時点で、俺は自身の推測が正しいものと確信した。

 

 お前は高威力で圧殺するのではなく、悠長に俺の手札の考察から始めるってな。

 

 

 

 相手の行動原理が透ければ、次の一手を読むのは、そう難しいことじゃない。

 

 自分の思い通りに事が進んでいると思わせるため、わかりやすく俺の前に青い魔法陣を出して見せた。

 こうすればガリオンは、転移を警戒せざるを得ないだろう。

 

 再び不意打ちが来る。

 であれば当然、どこから襲ってくるかもわからないそれを防御、あるいは反撃しようとするはずだ。

 

 そして、お前の性格。

 皮肉と諧謔を好むお前は、ただ攻撃を防御するだけでは物足りないだろう。

 だから、「相手が自分から攻撃の中に突っ込んで来る」状況を作ろうとする。

 これで勝ったと思ったら、いつの間にか死んでいた……そんな絶望の瞬間の相手の顔を、愉しむために。

 

 それらから推測できる、お前の行動は……。

 

 自分を球状に囲んだ範囲に、自衛用の攻撃を無作為にバラ撒く。

 

 これがガリオンの考える、自分の趣味嗜好に沿った最適解だ。

 

 

 

 それがわかった上で、俺はむざむざ、吹き荒れる破壊の嵐の中に突っ込んでいったわけだ。

 

 ただし……全ての攻撃を反射する、「白」の「祈り」を展開した状態で、だが。

 

 悪いな、俺の本懐は攻撃じゃない。

 防御、回避、カウンター。そして敵の意識外からの奇襲なんだよ。

 

 最初から不意打ちをしてくる、攻撃をしてくると決め打ちしていたお前には、「白」による反射を捌く時間は与えられない。

 

 そして、なにせ調律者自身の攻撃の反射だ。俺のような雑魚の放つそれと違って、ガリオンに確かな痛打を与えられるはずだった。

 

 

 

 果たして、恐らくは「妖精」なのだろう光に抉られたガリオンは、血にまみれながらも笑みを浮かべた。

 

「……面白い。良く、私の思考を読み取って居る」

 

 未だ余裕の崩れない態度ではあるが……その声には、微かな消耗が混じっている。

 

 なんらかの防御手段があったのか、即死はしていないが……。

 それでもやはり、彼女自身の特異点による攻撃は、有効打になっているんだろう。

 

 

 

 ……この女が無敵でないと知れて、内心安堵の息を吐く。

 

 調律者は、確かに恐ろしく強大だ。

 都市の守護者という役割に相応しいだけの力を持っている。

 その反応速度や特異点、痛覚への耐性に血流の操作。全てが常軌を逸していると言う他ない。

 

 だが、それでもやはり、コイツは完全無欠の存在ってわけではない。

 

 常に行動を先読みして、読み勝ち、有効な札を切っていけば……殺せない存在じゃない。

 

 勿論、その可能性は、決して高くはないだろうが。

 

 

 

 その為にも、今は攻勢あるのみ。

 

「ふッ!」

 

 俺は続けて踏み込み、「青」のナイフを振るおうとする。

 こちらから攻撃を仕掛けるのは、正直得意じゃないが……。

 遠距離攻撃主体の相手を前にまごまごしていても、こちらのディスアドバンテージにしかならない。

 

 何より、「白」の「祈り」はまだ続いている。

 ガリオンの攻撃が効かない今こそ、この女を殺し切る絶好の好機だ。

 

 故に、俺は奴の下へと飛び出して……。

 

 

 

「では、(これ)如何(どう)か」

 

 

 

 けれど次の瞬間、跳び退く暇もなく、全身が何かに縛られた。

 

「っ……!」

 

 見れば、両腕両脚、それから胴体に、金属製の鎖が巻き付いていた。

 どこから来たかもわからないそれは、俺の死角からいつの間にか体に絡み付き、行動を封じている。

 

 Lobotomyでは出て来ず、Ruinaでちらっとだけ出て来た……「鎖」の特異点か!

 

 「白」が反応しなかった上、俺自身痛みを感じていない。

 直接的な攻撃ではない、搦手……それで「白」の反射を掻い潜れると見たか。

 正解だよクソったれ! それが「白」の「祈り」の、数少ない弱点だ!

 

 

 

 これも拘束か何かの概念干渉か? だとすれば、拘束されている本人には解けないとか、そういう強制力があるかもしれない。

 今この瞬間に使ってきた辺りからしても、力で脱出しようとするのは現実的ではないだろう。

 

 そして……抜け出せなければ、死ぬ。

 

 俺を拘束して一拍置き、ガリオンは左腕をゆらりとこちらに向け、そこに柱を出現させる。

 どうにか抜け出さないと直撃コース。威力は……考えない方がいいな、青いオーラ出てるし。

 

 「祈り」は……クソ、もう切れるか。相変わらず頼りない効果時間だ。

 これによる反射は、まあ期待できないだろう。相手も白の様子を見て、力を失ってから打って来る。

 

 クソがよ、ほんの一瞬で形勢逆転とか、パワーバランスおかしいだろうが。

 

 

 

 ……だが、こればかりは噛み合わせが悪かったな、ガリオン。

 

 悪いが、この拘束は、俺にとっては大きな問題にならない。

 

 なにせ今、研究所内に「封じ込められている」べき存在は、皆お前たちのせいで脱走していて……。

 

 俺は今、「鎖」によって「封じ込められている」から。

 

 

 

「『黒』!」

 

 俺は左脚を……そこに仕込んである武装「黒」を、迷いなく起動した。

 

 そうすれば、直後。

 「『封じ込められている』ものを解き放つ」効果を持つそれは、黄色い波動を放つと共に……。

 雁字搦めになった「鎖」を緩ませ、俺を解き放ってくれた。

 

 所詮はルールの上で動く技術である特異点は、時にルールを逸脱せしめる遺物の前に、その力を失ったのだ。

 

 

 

「ほう……!」

 

 楽し気な吐息と共に射出される柱をすんでのところで躱し、カウンターで斬り込む。

 

 「鎖」に囚われた数秒の内に、「白」の時間は尽きてしまったが……。

 絶対のものであったはずの拘束を脱された今、ガリオンには思考に余白が生まれているはずだ。

 その刹那の隙を的確に刺すことこそが、俺の本懐。

 

 その血塗れの体を引き離すまいと、右手に握った「青」の刃を走らせ……。

 

 

 

 しかし。

 

「……ふふっ」

 

 繰り出した5連撃は、尽く捌かれてしまう。

 

 ゆらりと振り下ろされていたガリオンの左腕が蛇のようにしなり、ナイフの柄を持っていた俺の腕を弾き飛ばしてきたからだ。

 

「ッ、マジかよ!?」

 

 

 

 ドッと、冷や汗が噴き出すことを自覚した。

 

 それは、初めての読み負けで、致命的になり得る失敗。

 

 調律者。

 俺はその強みを、特異点であると思っていた。

 都市に蓄積した数多の技術を自在に使うからこそ、彼女たちは最強足り得るのだと。

 事実、彼女たちの脅威の殆どは、そこに依存しているのは間違いないだろう。

 

 ……だが。

 それ以外が疎かなどと、誰が言ったのか。

 

 その動きは、ただ技術を振るう者のそれではない。

 明らかに無手での戦闘に慣れた、己の身もまた武器とする武芸者のそれだ。

 

 クソが、特異点だけじゃなくてちゃんと体捌きまで鍛えてんのかよ!!

 流石に想定外だぞそこは!!

 

 

 

 紫の涙にしごいてもらって、俺もある程度までの技術は会得してこそいるが……。

 相手がただの素人ならばともかく、ガッチリと鍛えた調律者相手に勝てる程、俺に才能はない。

 

 ナイフと無手で何度か打ち合う内に、趨勢は簡単にあちら側に傾いた。

 

「ッ!」

 

 大きく腕を弾かれ、隙を晒した俺。

 「甘かったな」とでも言いたげに瞳を嗜虐に歪めるガリオンは、その左手に黒と金の不吉な光を宿した。

 

 妖精だとは思うが、正確には分からない。

 ただ分かるのは、それが俺にとって致命的な攻撃になるということだけ。

 

 俺が腕を引き戻すよりも数瞬早く、黒金の光宿す魔手が、俺の喉元に迫って……。

 

 

 

 

 

 

 しかし。

 それが辿り着くよりも、更に数瞬早く。

 

 彼女の胴体を、俺の腹から飛び出した、青い触手が貫通する。

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 咄嗟に跳び下がったガリオンからは、これまでの雄弁さが鳴りを潜めた。

 寡黙に穴の空いた腹を抑えるその表情には、色濃い疲弊と消耗の色が窺える。

 

 今の一撃は、調律者を相手にしてすら、かなり強力な一撃となったらしい。

 

 それを見て、俺は内心で歓喜の声を上げた。

 

 俺の持つ、「黒」に並ぶ最大威力の一撃が、確かに効果を為したこともそうだが……。

 使いにくいそれが、ちゃんと命中してくれたことにも。

 

 

 

 まさか、綺麗にカウンターを決めたはずのナイフの連撃を弾かれるとは思ってなかった。

 だから正直、今のはラッキーヒットの側面が強い。

 

 元々は、ナイフの攻撃で足止めして、触手を確実に当てるって心算だったからな。

 

 そもそもガリオンが退かず、素直に打ち合ってくれたこと。

 俺の攻撃を捌き切って、ガリオンが油断したこと。

 腹ではなく、首元に攻撃しようとしてきたこと。

 

 そんな幸運が重ならなかったら、今のは躱されていたかもしれない。

 

 

 

 武装「青」は、他三種の武装と違って、2つの道具に分けられる。

 近接攻撃用のナイフと、化け物の青い触手を収納した異次元に繋がるスーツケースである。

 

 俺は普段使いしやすいナイフを武器として用い。

 ぶっちゃけ使い辛いスーツケースは、普段小型化して義体化した腹部にしまっている。

 

 どちらもPALE、つまりは相手の命に直接被害を与える強力無比なダメージタイプではあるが、特に触手によるダメージは大きい。

 きちんと抉れば、E.G.O防具を着ていない人間なら、簡単に命を奪うことができる程に。

 

 だがその分、この触手はとても使い辛い。

 そもそも他の武装と違い、生物だ。素直にこちらの指示に従ってくれるとは限らない。

 

 青の便利屋は、自在に触手を伸ばしたり、時にスーツケースをワープに使ったりもしていたが……。

 残念ながら、俺は「青」のスーツケースをそこまで上手く扱えない。物の出し入れが精々だ。

 それどころか、下手に触手の機嫌を損ねれば、自分が触手に貫かれかねないくらいで。

 そんなリスクのある武装を普段使いするわけにもいかず、基本的には封印している。

 

 だから、これを使うのは、本当に最後の最期。

 どうしようもなくなった時の切り札、あるいは自決用だ。

 

 ……今回は素直に前に飛び出てくれて、本当に助かった。

 

 

 

 そして、もう1つ幸運なことがある。

 ガリオンが「鎖」を出してくれたおかげで、なんら違和感ない形で「黒」を使えたことだ。

 

 スーツケースを開けるために、敵の眼前で腹に手を突っ込んだりすれば、何か来るのかと警戒を煽ってしまう。

 故に、この「青」の触手には、手で触れずに発動できるギミックが仕込んである。

 

 それが「黒」の機能だ。

 

 「黒」の機能の効果範囲は、それを中心とした周囲おおよそ100メートル。

 その範囲内に「封じ込められたもの」があるのなら、それらを問答無用に全て解き放つという、なんとも誤爆が怖すぎて使いにくい力である。

 

 しかし、不幸中の幸いと言うべきか、調律者共が研究所の全てのアブノマを解き放ってくれやがった。

 今の研究所の中で「黒」の機能を使ったところで、脱走という弊害は発生しないし……。

 

 ……俺が腹に収納してあるスーツケースの中に「封じ込められた」触手もまた、わざわざ手で開けずとも出て来てくれるわけだ。

 

 まあ、スーツケースの中はちょっと時空がぐちゃぐちゃになっているようで、数秒のタイムラグは発生してしまうんだが。

 それもまた、相手の油断を誘う、良いディレイにもなってくれる。

 

 

 

 そうして多くの幸運が積み重なり、「青」は調律者の腹を貫いたのだ。

 

 正直、僥倖と言う他ない。

 純粋な幸運が、俺のミスを埋めてくれた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「ふっ──」

「…………ふむ」

 

 一瞬、睨み合いの時間が過ぎる。

 ガリオンも俺も、ここからどう動くか、その計画の組み直しが必要だった。

 

 E.G.O防具なしで「青」の触手が直撃・貫通し、胴に大穴を空けられて。

 そんな重傷を負ってなお……腹を左腕で抑え、顔色を悪くしつつも、ガリオンは未だ健在だ。

 

 ……クソ。まだ死なねえのか。

 

 今のは、俺の最大火力と言っていい一撃だ。

 PALEでの、おおよそ50ダメージ。E.G.Oのない人間であれば、どれだけ膨大な体力を持っていようと決して避けられない死を与えるはずの一撃だった。

 

 なんでそれで死なねえんだよ、コイツ。

 

 そもそも俺が最初に千切り飛ばした右腕とか、「白」で反射した妖精のダメージも残ってるはずだろ。

 そこに常人なら即死する、避けられない死が加わったんだぞ?

 普通に死んでくれよ。もうこっちは手詰まりが近いんだから。

 

 ……カーリーが致命傷を与えられたことからして、不死になる特異点なんかは使わないはずだ。

 そもそもそんなことをすれば、コイツらが信奉する「人間」から離れるし。

 

 であれば、外からの影響を軽減する、あるいは自身への被害を逸らすような特異点でも使ってるのか?

 あるいは超回復……いいや、それだったら今消耗している説明が付かない。

 単純に生命力が膨大になる……「青」のPALEダメージはそれを貫けるはず。

 

 ……駄目だ、情報が足りん。今探り当てるのは難しいか。

 

 

 

 だが、とにかく。

 趨勢は、こちらの有利に傾いてると言っていい。

 なにせ俺はほぼ無傷、あちらはかなり消耗しているんだから。

 

 「赤」「白」「黒」「青」。俺の持つ武装は全て明かしてしまったが、それに見合う……どころか、法外なレートでダメージを入れることができた。

 心理戦の読み勝ちやラッキーヒットが重なった結果とはいえ、調律者をここまで追い詰めたのだ。この時点で3級止まりの雑魚としては大金星だろう。

 

 だが、まだだ。

 この千載一遇の好機を、勝利という未来へと繋げなければならない。

 

 腹に空いた大穴から溢れ出る血を止めることすらしてない辺り、ガリオンは見せかけではなく、本当に弱っているはずだ。

 このまま畳みかけ、まともに状況の整理もさせないまま、初見殺しで圧殺する。

 それがこの盤面における最善手。

 

「ふッ!」

 

 俺は「青」のナイフを握り締め、ガリオンへと走って……。

 

 

 

 

「嗚呼……何と、斯くも甘美なものか。

 矢張(やは)り、お前こそ、私に生と死を齎してくれる者かもしれないね」

 

「……けれど」

 

「私は、調律者なのだよ、コナー。

 お前と同じ様に、この都市を、人間を愛する者を於いて、他にない」

 

 

 

 ゆらりと、ガリオンの左腕が上へと持ち上がるのを見て。

 俺は、これから何が起こるかを悟った。

 

 

 

 「衝撃波」が来る。

 

 

 

 選択肢は2つ。

 転移で逃げるか、発動する前に止めるか。

 

 ……駄目だ、逃げるわけにはいかない。

 

 下手に時間を渡せば、回復に纏わる特異点でも使われる可能性がある。

 読み勝ちと幸運の果てに巡って来た、一縷のチャンスだ。これを逃せば、ガリオンを殺せる機会は二度と回ってこないかもしれない。

 

 それに、何より……。

 一秒でも早くコイツをぶち殺して、カーリーに合流しないと……アイツが死ぬ。

 研究所のメンバーが、アブノマに、爪に、調律者に殺される前に、一人でも多く助けなければ。

 

 であれば……選択は一つ。

 

 発動する前に、殺し切る!

 

 

 

 

 

 

「故に、私も、死力を尽くすとしよう」

 

 

 

 

 

 

 俺はそれが、二度目の読み負けになるともわからないまま、選択を下して。

 

 幸運の女神の髪は、二度も掴める程に長くもなく。

 

 「衝撃波」は、想定したよりもずっと早く俺の体に打ち付けられて。

 

 ……その結果。

 

 

 

 

 

 

「……ぅ、あ」

 

 

 

 その三度の衝撃によって、いともたやすく、俺は瀕死にまで追い詰められた。

 

 

 







 広域1発直撃しただけで瀕死になる雑魚がいるらしい。



 なおその広域は、残HP30%でストッパーかかった調律者の本気衝撃波(広域個別、打撃30~35、打撃30~40、打撃40~50)。
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