3級フィクサーパンチ   作:アリマリア

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貫く夜空の剣

 

 

 

 青い魔法陣に飛び込めば、次の瞬間、景色が切り替わる。

 

 調律者を取り囲む、8つの魔法陣の内の1つ。

 本人から見て8時方向、後方左の位置から、俺は飛び出した。

 

「さあ、お出でご覧なさい」

 

 調律者は、俺の登場に動じることはなく、すぐさま向き直る。

 

 自分の周囲に無数の魔法陣が見えた瞬間、彼女は不意打ちを悟ったのだろう。

 魔法陣がただ1つであれば、そこから飛び出して来ると分かる。

 そこでフェイクを多数並べることで、どこから飛び出るかわからなくする。

 そんな攪乱戦術だと……彼女くらい賢ければ、即座に見抜いたに違いない。

 

 実際、今彼女が持つ情報を手繰れば、それは正しいものだっただろう。

 コナーは常に真正面からの戦闘を避け、不意打ちを狙い続けた。

 ナイフ対無手という、本来こちらに滅茶苦茶に有利なマッチでなお押し負けるくらいに、俺の実力は彼女に劣っているんだ。

 

 であれば、真正面からぶつかるのではなく、奇襲奇策を以て挑んでくる。

 魔法陣を多数並べたのもその一環か、と。

 

 偏見や予測というよりは、奴も俺の思考を辿っているんだろう。

 俺にとっての最善手、唯一ガリオンに負傷を与え得る方法がそれなのだから、予測を立てるのもそう難しくはないはずだ。

 

 

 

 果たして、その推測自体は、大きく間違ってもいない。

 実際、俺は重心低く、獣のように彼女に襲いかかろうとしている。

 

 ただ、彼女にとっての誤算は……。

 俺の手に握られる得物が、以前使っていた「赤」や「青」とは違うこと。

 

 プロトタイプE.G.O、涙で研ぎ澄まされた剣。

 灰色にくすみ、けれど切っ先の鋭さを失わないレイピアを上段に構え、彼女に切っ先を向けている。

 

 それを目に留めたんだろう、ガリオンが片眉を上げたのが見て取れた。

 

 ……あるいは、違和感を覚えたのかもしれない。

 

 これは、今まで俺が使っていた遺物、あくまで人類の積み立てた文明の遺産であるそれとは違う。

 最新の研究によって形作られた、人の心の殻。物質よりも精神に寄ったもの。

 

 誰より「人間」に詳しい調律者だものな、直に見れば、そこに何かを感じてもおかしくはない。

 

 

 

「ふむ」

 

 あるいは、俺の初見殺しに散々やられたからかもしれない。

 彼女はそれと真正面から打ち合うのではなく、様子見と回避を選択した。

 

 俺がレイピアを、その頭へと振り上げようとした瞬間……。

 ゆらと彼女が左手を振れば、俺と彼女の間にあった50センチメートルにも満たない空間は引き伸ばされ、余りにも簡単に2メートルの距離が開く。

 レイピアの切っ先は虚空を捉え、彼女を貫くことはなかった。

 

「……妙な武装だ。此処に居る化け物たちと同じ、人の内に在るものか」

 

 冷静に分析しながらも、彼女はその手の平に青と金の光を生み、それを俺へと向けようとして──。

 

 

 

 トンッ、と。

 

 あまりに研ぎ澄まされた切っ先は、磨き上げられた技術によって、気配すらなくその背を刺した。

 

 

 

「っ!」

 

 ガリオンは咄嗟に地を蹴り、体を捻り軸をズラすことで貫通を回避した。

 

 即座にその青金の光を、自分の背を貫かんとする剣に向け……。

 対する剣は、誰かに握られることもなくふわりと空中に浮かび上がり、再びその切っ先を彼女に向けた。

 

 直後、激しい閃光と甲高い音が響く。

 目にも止まらぬ速度で射出されたレイピアと、全てをぐちゃぐちゃに掻き乱す「妖精」の光が衝突した。

 

 

 

 その隙に、俺は手近な魔法陣へと飛び込み。

 瞬時にガリオンの背中に回り込み、レイピアを振るう。

 

「ほう!」

 

 ちらと向けられるガリオンの瞳は、興味深げに歪んでいた。

 

 ああ、そうだな。これもまたお前の誤算だろう。

 青い魔法陣は、その全てがフェイクでなく、本物。

 その上、先程俺が現れた魔法陣が、元いた収容室ではなくガリオンの背後に繋がったことからも分かる通り、繋がる先は常に変わり続ける。

 

 お前を背後の魔法陣から現れた剣が、その背を貫いたように……。 

 

 これより先、お前の視界の外は、文字通りの死の角度。

 あらゆる方向から、お前に死が襲い来るぞ!

 

 

 

 ガリオンは「妖精」によって空飛ぶ剣が跳ね飛ばされたことを確認した後、振り返り。

 俺の握ったレイピアによる攻撃を、その手で弾くことでいなそうとした。

 

 あの距離を空ける特異点ではなく、直接対決を選ぶとは。

 やはり、特異点を連続して使うことはできないか、負荷が強いか。とにかく制限があるらしい。

 

 いくら脳くちゅ改造したとしても、人間の脳には処理の限界がある。

 連続して特異点を使うのは負荷が強いはずだ、と。

 かつて涙剣と武装を同時に使ってパンクしかけた経験から、そんな考察を立てたんだが……どうやらこれは正しかったらしい。

 

 あるいは、空飛ぶ剣に襲いかかられ、焦っているだけかもしれないが……。

 それならそれで好都合。その判断が間違いであったと教えるだけだ。

 

 

 

「ふッ──!」

 

 俺みたいな雑魚の剣術が、調律者に届くことはないだろう。

 それは先程の交差が証明している。

 いくらリーチが伸びたって意味はない。簡単にあしらわれるだけ。

 

 だが──国を守り、正義のために戦った、誇りある騎士の剣ならばどうか。

 

 瞬時に突き立てられた15の剣先と、彼女の体に空いた同数の小さな穴を見れば、その答えは明白だろう。

 

 俺は舐めてもいいがなぁ!

 俺の騎士を舐めるんじゃねえよッ!!

 

 

 

「っ、ふ……」

 

 このまま打ち合うのは危険と判断したんだろう。

 ガリオンは飛び下がりながら、再び俺に向かって「妖精」を放とうとする。

 

 俺は、その後を追う……ことはなく、再び飛び退いて魔法陣へ。

 

 コイツとの戦いにおいて最大のリスクであった、「自分から距離を詰める」という行為。

 その必要性は、もうない。

 

 騎士が、俺と共に戦ってくれる限り!

 

 

 

 俺はガリオンの右後方に現れ、レイピアを突き上げ……。

 

 そして同時。

 先程跳ね飛ばされた剣が浮かび上がり、再びガリオンへと飛び。

 魔法陣から現れた、新たな2本の剣と併せ、都合四方から剣先を突き立てる。

 

 明らかに俺の脳の処理速度を越えた強襲を前に、調律者はぼそりと呟いた。

 

「……成程、お前だけでは無いな。

 あの、蒼き夜空の如き騎士か」

 

 

 

 ああ、そうだとも。

 俺みてえな3級フィクサー並みのカスが、単騎で調律者に勝てるもんか。

 

 半端小僧な俺は、武装や協力者、アブノマに頼らねえと、お前みたいな化け物と戦うことさえできない。

 だから、全部を使って挑んでんだよ。

 

 魔法陣の向こうから、俺の動きに合わせてその転移先を変え、レイピアを自在に操り飛ばしてくれる、俺の騎士と一緒になぁ!!

 

 

 

「そろそろ死ねや!!!」

 

 いくら調律者であろうと、WAW級E.G.Oの四点同時攻撃を受けて、生き残ることはできない。

 

 特に、その本来の持ち主である騎士の振るう涙で研ぎ澄まされた剣は、ダメージタイプがPALE。

 調律者相手にでも、有用性を確認できている属性だ。

 

 俺と俺の騎士が声もなく汲み上げた、この以心伝心の一手は、必殺の形。

 当たりさえすれば、確実に敵を葬ることができる陣形だった。

 

 

 

 ……そう、当たりさえすれば。

 

 

 

 既に血だらけで顔も青白くしたガリオンは、しかし不気味な笑みを崩すことはなく。

 

 その手の中から「妖精」の光を消し、呟いた。

 

「────錠よ」

 

 瞬間。

 彼女に襲いかかろうとしていた4本の剣が、動きを止めた。

 

 ……特異点、「錠前」!

 

『主よ、これは……!』

 

 何をされたかはわからない。

 確かなのは、俺の持つものも含めたその場の全ての剣が、ガリオンに向かうことを止めたってこと。

 突き動かそうとしても、見えない壁にでも阻まれるかのように、剣だけがその場で止まってしまう。

 

 まだ手札を隠してやがったか。

 

 

 

 だがなあ、そこまでは想定内だ、ボケが!!

 

 

 

「騎士、出せッ!!」

『はい!』

 

 俺の叫びと共に、魔法陣から、更に2本の剣が飛ぶ。

 

 3本だけだと思ったか、間抜けが!

 

 クリフォト抑止力がLobotomy本編よりも低い今、騎士が同時に操れる剣の数は、5本。

 どうせ何かしらの特異点で対処してくるだろうと予測し、最初から全てを出すことはなく、2本は残しておいたんだよ!

 

 やはり先程の「錠前」は、その場にある4本の剣を対象にしていたのだろう。

 新たに飛来した剣は、特異点に囚われることなく、凄まじい速度で調律者へ迫り……。

 

 

 

「……()れは、(まず)いな」

 

 対するガリオンは、その左腕を上へと掲げた。

 

 

 

 来たか。

 

 一度は致命傷を食らった、調律者の「衝撃波」。

 

 俺に時間制限があり、それがもはや15秒と残っていない以上、逃げるなんて選択肢は取れない。

 だが同時、その動きを潰せる隙がないのは分かってる。

 「白」は強力な手札ではあるが、まだ祈りのクールダウンが終わっていない。

 全周への攻撃であるため、回避も不可能。

 

 故に、俺にこの攻撃を防ぐ手段はない。

 

 だが、それでも。

 前へと走る足は止めない。

 

 前へ進まなくなったレイピアから手を放し、無手の状態で、ガリオンへと走り出す。

 

 

 

 そうして俺の目の前で、調律者の手から、不可視の衝撃波が放たれた。

 

 彼女に迫っていた2本の剣は跳ね飛ばされ、片方は大きく曲がり、ひしゃげ。

 その周囲を覆っていた転移魔法陣も、尽くが破壊されてしまった。

 

 常軌を逸した、衝撃の奔流。

 エネルギーの波は、ガリオンを中心に、世界すら歪めるようで……。

 

 

 

 ……けれど。

 

 俺にだけは届かない。

 

 

 

『我が主よ──今こそ、信頼にお応えします!』

 

 ガリオンの錠前によって止められていた3本の剣が行き先を変え、俺の前へと踊り出る。

 

 騎士の剣の本義は、敵を殺すことにはない。

 それは仲間を、民を、そして主を守るためにある。

 

 だから……俺は、彼女の守護を信じる。

 俺の騎士が、必ずや俺を守り抜くだろうことを!

 

 

 

 

 

 

 一撃。

 

 一本の剣が衝撃をまともに受け、粉々に砕ける。

 

 

 

 

 

 

 ……二撃。

 

 一本の剣が衝撃を受け止め、競り合い、されど折れ朽ちる。

 

 

 

 

 

 

 …………三撃!

 

 一本の剣が衝撃に剣筋を沿わせ……。

 

 不可視のそれを、斬り払う!

 

 

 

 

 

 

 確かに。

 確かに騎士は、最後の最後まで、俺を守り抜いた!

 

 であれば──次は、俺の番ッ!!

 

 

 

 

 

 

『主よ、後は──』

 

 「衝撃波」に弾き飛ばされていた剣の一振りが、俺の手元へと寄せられた。

 

「任された!!!」

 

 託された希望を手に、俺は凄まじい破壊によってできたクレーター、その中心に立つ敵へとひた走る。

 

 

 

 恐らくは調律者の神髄である、衝撃波。

 それを防ぎ切られたことで、ガリオンはついに、その目を見開き驚愕を露わにしていた。

 

 その手から咄嗟に放たれた「妖精」。

 避けない。最短最速で突っ切る!

 

 赤金の眩い輝きの中、体中を切り刻まれながらも、俺は騎士による加護と樹液による回復に身を任せ、足を止めることなく駆け……。

 

 

 

 ついには、調律者の懐にまで潜り込んだ。

 

 

 

「────ッ!!」

 

 正直、皮肉の一つでも言ってやりたかったが、もはやそんな余力もない。

 

 まあ、いい。

 もはや言葉も必要ないだろう。

 

 残された全ての力を奮い起こし、騎士から託された想いのままに、左手の剣を突き動かす。

 

 

 

「嗚呼──」

 

 「錠前」、「衝撃波」、「妖精」と、連続で特異点を使うという無理の直後。

 完全な予想の外にあったのだろう、「衝撃波」の完封。

 そして、これまでに重なり続けているはずの消耗。

 

 それらの状況が重なれば……。

 俺と騎士の全てを乗せた、この一撃を避けることは、もはや能わず。

 

 

 

 

 

 

「──()れが、私を終わらせる表情か」

 

 

 

 

 

 

 夜闇すら貫く剣は、俺が、あるいは調律者が望んだまま、その核を抉り抜き。

 

 勢いそのまま、クレーターの中へと、敗者を縫い留めた。

 

 

 







 3級フィクサーレベルの木っ端に殺される調律者がいるらしい。
 ガリオンは本当に仕事をいい加減に処理したよ……。



 Q.なんで騎士を前に出して戦わせなかったの?
 A.騎士と収容室をセットにして「閉じ」られたら詰むから。1番の切り札だからこそ、絶対に対策されないよう、知られないよう、慎重に立ち回っていました。



 (懺悔作業)
 ここに懺悔致します。
 作者は巨木の樹液を扱っておきながら、ツール使用時の即時全回復機能のことを完全に忘れ去り、リジェネだけの唾棄ツールとして描写を行いました。
 いやまあ即時全回復あっても唾棄ツールだけど。
 つきましては、前話の方を少しだけ手直しさせていただきました。
 読者のみなさまにおかれましては、ご迷惑をおかけしまして申し訳ありませんでした。
 セルマが皮を剥がれてお詫びいたします。
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