「ンアーッ! 二級フィクサーが強すぎます!!」
いやもうほんと。
戦いの才能のない人間にカーリーぶつけるのはもはや犯罪だろ!
L社の前進となる旧研究所──これからもよく呼ぶ名前になりそうだし、略してL旧研でいいか──の一室。
恐らくは職員の運動用に作られたと思しき、トレーニングルームにて。
俺はカーリーと剣を交えていた。
いや剣っていうか、俺の方は短剣なんだけど。
「ふっ!」
「あかんこれじゃ俺が死ぬゥ!」
襲いかかる剣撃を短剣で受ける……のはどう考えても無理なので、上手いこと軌道を逸らしつつ、ひたすらに跳び下がって隙を伺う。
回避が強いのはRuinaでも現実でも同じだ。混乱を立て直し、考える時間をくれるからね。
改めて観察するに、カーリーが片手で抱えているのは、都市じゃそう珍しくない工房製の大剣。
その馬鹿みてえなデカさからするにホイールズ・インダストリー製とお見受けするが、あんなデカブツを片手でぶん回すとかやっぱ赤い霧と黒い沈黙(真/偽)は頭おかしいよ……。
ともあれ、今の彼女が握るのは、赤い霧の代表的な武装たるプロトミミクリーではない。
察するに、まだE.G.Oの抽出は成功してないんだろう。
そればっかりは不幸中の幸いで……。
それ以外の全てが不幸極まるわクソが!
そもそもカーリーなんて都市で敵に回したくないランキングで五本指に入りますからね! なんで俺こんな奴とタイマン張ってんの!?
振り切られた大剣の軌跡は、俺の眼前を通過し……。
次の瞬間には、その切っ先が俺の胸を向け直され、突き進んで来る。
速いよぉ切り返しが!!
連続で襲い来る攻撃を必死に逸らし、躱し、防ぐ。完全に防戦一方である。
仕方ねーだろ雑魚なんだから!
「恐怖! 短剣よりも速く振り回される大剣!」
「ちょこまかと、良く受ける!」
受け損ねると死にますからねぇ!
俺の筋力と短剣の質量的に、カーリーの攻撃を真正面から受け止めるのは到底不可能。
だが、その勢いを受け流し、損耗を抑える程度のことはできる。
何度目かの剣の交差は、今までと同じように大した成果を生まずに終わった。
膠着状態、と呼ぶにはこっちに不利すぎる盤面。
せめて反撃にと、脚で相手を蹴り飛ばそうとして……。
しかし、丁度あちらの脚とかち合ってしまい、お互いを蹴り飛ばす形になってしまった。
わーお、同じ師を持つ者特有の同じ技で相殺するヤツ! これ現実にあるんだ!
衝撃で少し距離を取ることになった状況。
それを良いことに、俺は思いっきり顔をしかめた。
「いっっったい! どんな脚力してんだいアンタぁ!」
「ふん、鍛え方が足りないな」
「アンタがゴリラすぎるんだよ!!」
いや、マジでヤバいわカーリーの筋力。
剣を振るうスピードも、切り込まれる勢いも、蹴り飛ばされる力も、全てが俺よりずっと上だ。
素直に競り合ってたら全然勝てんぞこれ。
言うならば、こっちが威力1~4で競り合おうとしてるのに、相手は3~8で殴ってくるイメージ。
わ~いすごいぞ、脳内で赤い感情コインがキラキラだ! これなら崩壊Ⅱも簡単に取れちゃうなぁ!!
どうすっぺなこれ、と必死に頭を回す俺。
対し、カーリーは口に咥えていた煙草を吐き捨て、言う。
「……思ったよりやるじゃないか。女みたいな優男のくせに」
どこがやねん!
こっちは全然有効打入れられてないんすよ! 捌くだけで精一杯なんすよ!!
いやまあ、俺がダニエルと同じく巣の人間だってことはあっちに伝わってるんだろうし、それにしてはやるやんけって意味かもしれんが。
一応は特色フィクサーに
……まあ、師事してた頃から既に失望されてたけども。
「おかげでいい具合に温まってきた。行くぞ!!」
「いやーっ来ないでーッ! 誰か、誰か男の人呼んでーッ!!」
「来世で鏡でも見てろ! ……いや、その外見じゃ鏡見ても微妙か?」
「変に冷静!」
いやーッ! 踏み込みが鋭い! バックステッポじゃ躱し切れんわ!! 回避ダイスは出目自体が低いのが弱点やねんな!
ていうかうっわ力強! 逸……無理!! 受け止める!? 無事で!? 出来る?
否、死……!!
いやこんな訳分からんまま死んでたまるか~い!!!
左腕に持った武装、「赤」の機能を切り替える。
エネルギーは充填済み、即時射撃可能。
下手に当たったら死ぬかもとか、施設への被害がどうとか、そんな余計な思考は反射でカット。
ただこの瞬間に命を繋ぐため、それを解き放つ。
瞬間。
俺の持っていた赤い短剣、その刀身部分が消失し……。
持っていた柄部分がぐっと広がって展開し、砲身を構築。
砲塔となったそれから、圧縮された赤いエネルギーレーザーが放たれた。
「あ、やべ」
撃ってから正気に戻った。
あかんわこれ、どう考えてもやり過ぎだ。
エネルギーで構築される短剣の刀身だけだったら、そこまでの破壊力はない。
もし直撃したところで、カーリーはカーリーなので大丈夫だろう。施設内の全アブノマと殴り合える女だ、面構えが違う。
だが、このレーザーは、流石にヤバい。
ある意味では特異点と並ぶやべー兵器である遺物、その真骨頂。
時間をかけてチャージしたエネルギーを一気に解き放つそれは、防護扉すら突き破る威力だ。
人がE.G.Oもなしに直撃すれば、簡単に焼け焦げる。
ていうかWAW級のE.G.Oあっても、赤弱点なら普通に死ぬ。ソースは原作。
そんなもんを模擬戦中に使うとか、殺意マシマシ過ぎる。明らかにライン越えだ。
しかし、覆水は盆に返らず、撃ったレーザーは戻らず。
俺はまだ見ぬアンジェラばりに蒼白の顔で、上手いこと避けてくれと祈るばかりで……。
「ふんっ!」
……平然とレーザーを大剣で裂き、散逸させたカーリーに、絶句することとなった。
「…………うっそだろお前。なんで普通の大剣でレーザー裂いてんの、常識とかないタイプ?」
超高出力のエネルギーレーザーだよ?
人とか余裕で死ぬ、どころか金属も溶かしかねない熱量だよ?
それを初見で、カウンターで、その上不意打ち気味に撃ったんだよ?
なんで生きてんの。
なんで平然と捌いてんの。
冷や汗の一つすら流さないのはどーいうことなの。
やっぱやべぇよ赤い霧。
カルメンの導きがすごいとかじゃないわ。
あんま伸びる機会がなかったってだけで、シンプルに素質が怪物すぎるだろこの女。
あまりの事態にちょっと忘我しかけたが……。
次の瞬間にも襲いかかってくる刃を見て、今が戦闘中であることを思い出す。
あーもう駄目だ付き合ってられん、このまま近距離戦してたら殺されるわ。
「赤」のモードを切替える。跳び下がりながら、エネルギー弾をバシバシ撃って牽制だ。
よし……有効打にはならんが、足止めくらいはできるか。
やっぱ時代は遠距離E.G.Oと遠距離ページなんだよね! Laetitiaと弾捨てビルドにはめちゃくちゃお世話になりました。
「コイツを2級認定とか、ハナ協会の目は節穴かな!? 仕事しろ!!
あとさっきのレーザーはごめんねちょっとやり過ぎたね! 次から気を付けるから許してくれるととっても嬉しいですはい!」
ひーんと泣き言と共に放たれる弾丸を斬り払いつつ、カーリーは極めて冷静に呟いた。
「……銃の一種か。ただその雰囲気、工房の手になるもんじゃないな。遺跡の遺物か?」
「そうですねぇその通りですね! なーんで遺跡最奥級の遺物の攻撃を片手間で捌いてんだこの女ァ! 強すぎて憧れちゃう♡」
俺の左手に握られているのは、普段はナイフの柄くらいのサイズに縮んでる、機械的な砲塔。
先端から固形化したブレードを展開したり、エネルギー弾を撃ち出したり、やろうとすればクソデカレーザーを撃ち出すこともできる便利な一品である。
俺が勝手に武装「赤」と呼んでいるこれは、イオリにお願いして取ってきてもらった遺物の内の1つであり、俺の主武装。
本来は死に際のクソデカ範囲薙ぎ払いレーザーで、多くの管理人を泣かせていたブツ。
……そう。
Lobotomyの蒼白の試練で出てきた、赤の便利屋のアレである。
なんとか俺が3級フィクサーラインまで育った頃、紫の涙が「何か欲しいものはないかい?」とか言うもんだから、無理を承知で色々頼んだら見つけてくれちゃったものの1つ。
すげえやイオリン、もう探し物だけで食っていけるだろ。ところで息子さんは探せましたか……?
ぶっちゃけあの便利屋共って、試練である以上アブノマの一種みてえなもんだし、これらの武装も実在するか怪しいもんだったけど……。
めちゃくちゃ探したら、遺跡の最奥に転がってたとのこと。
紫の涙の言う「めちゃくちゃ」ってどんだけだよ。
見つけたっていうか、コレがある世界線探し当てた感じですよねアンタね。
本当ありがとうイオリン、おかげでカーリーとなんとか競り合えてます。ごめん見栄張りました競り合えてはいません逃げ回ってます。
……しっかしやべーなカーリー。レーザーぶった斬っちゃったよ。
どうしよっかねこれ。この武装でできることは一通り見せちゃったし、どれも有効打にならんとは。
師曰く、「半端小僧、あんたみたいな小手先で戦うタイプの人間は、極力手札を伏せておかなきゃいけないよ」とのこと。
そもそも弱いんだから、勝利のためには不意打ち上等、奇襲上等。汚い手なんて使ってなんぼ。
手札がカラになったと思われ、敵が油断したその時こそ、最大の反撃チャンスなのだ、と。
正しく金科玉条だ。
その言葉とやり方は、クッソえげつねえ腹パンの痛みと共に、俺の骨身に刻まれている。
そういう意味で、この場ではこれ以上の力は振るいたくはない。
いや、別にL旧研が敵に回るとか思ってるわけではないんだけど……俺は小心者なんでね。
都市ではちょっと臆病なくらいが丁度良いってそれ一番言われてるから。なお臆病すぎるとミシェルみたいになる模様。どないせいっちゅうねん。
そんなことを考え、冷や汗を流していた俺の前で……。
カーリーは不意に、ゆるりと、構えていた大剣を下ろした。
「お?」
「殺すための攻めじゃなく、守るための受けに長けた剣筋。急に戦いに巻き込まれても感情的になり過ぎない理性。そして、死を前にしても怯えないその目。
巣の出身にしては、悪くはない。……少なくとも、あの青髪みたいな、ただの臆病者じゃあないな」
「んほぉ~この賞賛たまんねぇ~^^」
正直、カーリーにここまで言ってもらえるとは思わなかった。
やけに高評価をもらっているが、俺なんざ3級フィクサー相当の一般転生モブに過ぎん。
感情的になったり臆病になったりしないのは、紫の涙とかいうムスコンクソババアに何百回とぶん殴られ続けた経験があるからだ。
熟練の特色フィクサーである師匠の圧と力は当然ながら凄まじく、俺の感性とか常識とかはそこでガリガリ削られて消耗してしまった。
流石のカーリーでも、プロトミミクリーなしE.G.Oなしの今じゃ、俺を「!!!絶望」させることはできない。
あの日が俺を強くした……というか、痛みに鈍感にした。
これもまた一種の成長。大人になるって悲しいことなの……。
……それに、別にあっちも本気を出してはいなかったしな。
さっきまでカーリーがやってきたのは、縦斬り横斬り突きといった、基本的な攻撃だけ。
一度守りを固めて力を溜めたり、一気呵成に突進してきたりといった戦法を見せていない。
要は、全然本気じゃなかったわけだ。
……アレで本気じゃない!?
やっぱコイツやばいわ……。
まあ丁度良いし、その期待にただ乗りさせてもらおう。
「んじゃ、試験は合格ってことでいいかな。
アンタ程じゃあないだろうけど、俺もこの研究所を守る剣の一本くらいにはなれると思うよ。非力ながらも皆のために頑張るつもり」
「……いいだろう。私は認める」
カーリーは一つ頷き、興味を失ったように歩いて行ってしまった。
……肩に担いでるけど、そのくっそデカい大剣邪魔にならないんだろうか。
そして彼女と入れ替わるように、部屋の外から監視していたらしい2人が駆け寄って来る。
ダニエルはいつも通りの微笑に見えて、少しばかりの安堵を覗かせ。
カルメンはその赤い瞳を爛と輝かせ、楽しそうに、嬉しそうに。
……ふぅ。なんとかL旧研に所属することはできそうだな。
でもそれはそれとして、カルメンさん抱き着いて来ないでください、ちょっと離れてください。何よりこっち見ないでください。
見られただけで洗脳されそうで怖いんだよお前の目ェ!
あと嫉妬に満ちてそうなアインの視線も怖い!!
師匠のクッソえげつねえ腹パン
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