3級フィクサーパンチ   作:アリマリア

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 今回がL旧研編、39(3級)話となります。
 別に、だから何というわけではありませんがね?





さようなら!

 

 

 

 ……戦いは終わった。

 

 いや、終わってねえが。

 今も研究所には、怒号や悲鳴、破壊音が鳴り響いているが……。

 

 申し訳ないことに、俺の戦いはここまでだろう。

 

 

 

 ガリオンには、確かに致命傷を与えた。

 丁度心臓に当たる場所を容赦なく抉り飛ばし、剣で斜面に縫い付けたのだ。

 

 今はまだ生きてるかもしれんが、特異点による止血もできないようで、胸に空いた穴からは血が溢れ出ている。

 もはや治療どころか、まともな行動もできず、放っておけば死ぬ。

 ……これで生き残ったら、それはもう、コイツらが固執する「人間」以外の何かだろう。

 

 実際、ガリオンは言葉を発することすらなく、微動だにせずにされるがままだ。

 俺の勝利を認めてくれているのだろう。多分。

 

 ……その顔が満足げに歪み、目線が俺を追い続けているのは、心底気色悪いが。

 

 いやマジでキモいよ~~~;; 

 このおばさんと将来同僚として働くことになるかもしれないって考えると、だいぶ鬱なんだが?

 

 

 

 まあでも……とにかく、だ。

 

 灰の従者のせいで余計に押し寄せた調律者という戦力は、1人分、確かにここで削った。

 これで残すは、調律者1人と爪2人。「頭」は原作通りの戦力となった。

 

 ……そもそも、俺が余計なことしなきゃ、そいつらだって来なかったんだけどな。

 あーほんと申し訳ない。情けなさ過ぎて血反吐出そう。出た。おろろ。

 俺のカスみてえな判断で、彼ら彼女らの命を脅かしてるんだから……この後ちゃんとセフィラになれたら、それこそ命懸けで償わんと。

 

 しかし……考えようによっては、悪いことばかりではない、はずだ。

 きっと今回の襲撃の被害は、致命的なものにはならない。

 少なくとも、原作みたいにL旧研壊滅まではいかないだろう。

 

 アブノマはそこらを走り回ってるみたいだが、クリフォト抑止力は残ってるっぽいし……。

 そいつらの脱走も、カーリーがここに戻って来た直後のものだった。

 

 原作みたいに、カーリーが辿り着いた時にはもう職員は殆ど殺されてて、クリフォト抑止力も極限まで下げられてた……なんて修羅場ではない。

 精神・肉体共に、相棒も余裕を持って事を進められるはずだ。

 

 ……調律者と足爪2体を相手に余裕を持って?

 調律者1人でもあんなに強かったのに??

 

 やっぱ俺の相棒おかしいよ……。

 

 

 

 本当は今すぐにでも、そんな相棒の助っ人に駆け付けたいところだが……。

 それはやっぱり、ちょっと欲張りだろう。

 

 俺の命、あと数秒で終わるだろうしね。

 

 

 

「げほっ」

 

 込み上げてきたままに血を吐き出す。

 いや吐き出すというか、げろげろと吐き出し続ける。

 あームスコン腹パン以来、久々の感覚だ。血反吐が止まらんわ。

 

 さっき「妖精」の中に突っ込んだのは、やっぱだいぶ無理があったなぁ。

 内臓までぐっちゃんぐっちゃんにされたし、あばら骨なんて体の表面に出てきてしまってる。

 ぶっちゃけ今の俺、並大抵の死体よりグロい状態だろうね。直視したくねー。

 

 それでもなんとか生きてられるのは、やはり騎士の加護と巨木の樹液のおかげだ。

 加護のおかげでダメージは半分で済んだし、4杯も飲み干した樹液が俺の体を急速に復元してくれてる。

 今もほら、アバラがぐにゅぐにゅって体内に戻って行こうとしてるし。

 ……いや、マジで直視したくない。SAN値チェック(W H I T Eダメージ)入るだろこの光景。

 

 

 

 痛み? そりゃあ当然ある。つうか文字通り死ぬ程痛い。

 ぶっちゃけ、これ以上はそう長いこと動けんだろうってくらい、体が悲鳴を上げてる。

 

 なので、さっさとすべきことを済ませよう。

 

 

 

「騎士よ」

『はい』

 

 小さな呟きすらも聞き逃すことなく。

 白い光と共に、俺の前に正義の騎士が舞い降り、跪いた。

 

 本当はそんな仰々しくしないでいいんだけど……。

 今は指摘する時間もないので、ひとまずそれでよし。

 

 俺は息を落ち着けつつ、落ちていた涙剣を1本拾いながら、告げた。

 

「良く、最後まで俺を守り抜いてくれた。あの敵に勝てたのはお前のおかげだ。

 共に戦ってくれて、ありがとう。本当に心強かった」

『いいえ。感謝すべきは、私の方です。

 あなたは最後まで自らの命も顧みず、誰かを守る為に戦い続けた。

 その正義を守るために戦わせてくださったことを、深く、心の底より感謝いたします』

 

 ……誰かのために、ね。

 俺がやったのは、結局自分のミスの尻拭いに過ぎないんだけど。

 

 でも、いいや。

 それで彼女の誇りが守られるのなら、嘘でも何でも吐く。

 自分だって騙してみせようじゃん。

 

 彼女に心底感謝してるのは本当だ。

 ぶっちゃけ彼女がアブノマじゃなくて人間なら、猛アタックして一生幸せにしたいくらいに感謝してる。

 いやこれ、感謝っていうか普通にタイプなだけかもしらんな。最後まで守り抜いてくれた騎士にこれって、俺の脳みそちょっと下劣すぎんよ~。

 

 

 

 ……いやまあ。

 これからすることを考えたら、下劣とかって次元ではないんだが。

 

 

 

 思い悩む時間も、無駄な言葉を吐く余裕もない。

 俺は、自らの為すべきことを為すべく……。

 

 左手に持つ剣を、騎士の胸元へと向けた。

 

「俺は、じきに死ぬだろう。

 悲しむお前を残し、相棒に斬らせたくない。

 俺の手で、死んでくれるか、騎士」

 

 騎士に、驚きの表情は…………ない。

 

 

 

 正義の騎士……は、ともかく。

 絶望の騎士の脱走・暴走条件は、加護を付与した職員の死。

 

 彼女が今加護を付与しているのは、俺だ。

 俺が死ねば……彼女は再び、絶望に堕ちる可能性がある。

 

 そうなれば、彼女は他の脱走アブノマ共と同じように、カーリーに鎮圧されるだろう。

 

 仮にも心を通じ合わせ、共に戦った彼女が、他の化け物共と同じように殺される、というのは──勿論、彼女の本性はそれらと同じだとわかってはいるが、それでも、どうしても頷けないし。

 

 ……そして、何より。

 ようやく取り戻した輝くような誇りが穢される、なんて。

 そんなことは、あってはならない。

 

 だからといって、「俺の手で死んで欲しい」というのは、我ながらなんとも。

 とんでもねえヤンデレというか、残虐な話だとは思うけどね。

 

 

 

 その非道な願いに対し。

 けれど騎士は、意味と意図を、正確に読み取ってくれたらしい。

 

 ずっと閉ざされていた彼女のまぶたが、ゆっくりと開いて……。

 その奥から現れた、美しい蒼の視線が、俺を捉える。

 

 そうして、正義の騎士は。

 華の咲くような、星の煌めくような、美しい笑顔を浮かべた。

 

『ありがとうございます。最期まで、私の誇りを守ってくださって。

 どうか──どうか、あなたに忠義を尽くす騎士に、その剣をお賜りください』

 

 

 

 ……騎士の誇りという奴は、誠に難儀だ。

 守り切れないよりは、守り切って死ぬことを選ぶのだから。

 

 俺にはそれを理解することはできないが、しかし、寄り添うことはできる。

 いいや……それしかできない、と言うべきだろうが。

 

 だから、「彼女にとっては一時的な死に過ぎない」「彼女の誇りを守るためだ」と自分に言い聞かせ、暴れ出そうとする感情を押し殺し……。

 

 

 

 ただ、その剣を、前に押し進めた。

 

 

 

「……さようなら。俺の、忠節の騎士」

『きっと、また会いましょう。我が輝かしい、愛しの主よ』

 

 

 

 正義の騎士は、最期まで誇らしげに笑い。

 

 白い光の中に消えていった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 これで、為すべきことは、終わった。

 

 俺は崩壊したダニエルの研究室の中、でっかいクレーターになったそこに、大の字に寝転がる。

 

 本当は、周囲のアブノーマリティの鎮圧に向かいたいが……。

 俺に残された時間は、もう5秒もない。

 

 諸手を挙げて皆の前に出て、派手にパーンと爆散したら、かなりヤバい。

 何がヤバいって、親しい人の死亡は精神的ショック(W H I T E ダメ―ジ)を与えるのだ。

 特に、仲良くなった職員の前でそんなんなったら大惨事。

 最悪、連鎖パニックで本格的に施設崩壊の恐れがある。

 

 流石にそんな二次被害を出すわけにもいかず、俺はここで孤独死する予定だった。

 

 

 

 ……まあ、でも、うん。

 俺、これでも結構頑張った方じゃないかな。

 

 

 

 できるだけ皆の精神衛生を健全に保つようと頑張ってきたし、一定の成果は出したと自負してる。

 

 カーリーの相棒としてはちょっと及第点に届かないだろうが、それでも精一杯に力を振るってきたつもりだ。

 

 エノクの喪失っていうクソみてえな展開を止めたのは……まあ、俺のエゴでしかないんだけど。

 

 最後には、騎士とアブノマの力を借りたとはいえ、あの調律者を討伐したんだ。

 

 総じて、3級フィクサーレベルの半端な雑魚の働きとしては、おおよそ最上級だろう。

 そろそろお休みをいただいても、誰にも文句は言われまいよ。

 

 

 

 ……ああいや、しまったな。

 心残りを思い出してしまった。

 

 ミシェルやガブリエルとした、今度ゆっくり話そうって約束、果たせてねえや。

 

 うわーすまん2人共、まさかこんな急に頭が乗り込んで来るとは思わんくて……。

 セフィラになった後、もしくは指定司書になった後に改めてお話しようね。

 

 俺や2人がちゃんとなれたらだけど。

 

 そもそもL社ってちゃんと成立するのか、この流れで?

 

 俺、このまま死んで普通に終わりの確率もまぁまぁあるよな。

 まあ、それならそれで仕方ないかね。諦めるべし。

 

 

 

 あとは、不安な子で言うと……エリヤの精神衛生も心配だな。

 誰かちゃんと、あの子のこと見てあげてくれるといいんだが。

 

 エノクとリサは……ああそうじゃん、あの2人がいたわ。

 仕事する中でエリヤと結構仲良くなってたし、というか面倒見が良いエリヤが構ってあげてたし、どうか支え合ってあげてほしい。

 

 エリヤもただバブバブばっかしてないで、時には子供を愛してあげるべきだろう。

 

 

 

 カーリーは大丈夫だろ。

 アイツ心が強ぇし。

 たとえ俺のことが瑕になっても、それを抱えながら、しっかり研究所のために剣を振るっていけるはず。

 相棒として先に死ぬのは申し訳ないが、つーかこれが限界。流石に赦してほしい。

 

 同じ理由でダニエルも、まあ……いや、キツいか?

 友だちが死んだら、そら辛えわな。俺だってダニエルが死ぬとか想像もしたくない。

 セフィラになれたらちゃんと謝ろ。1か月コーヒー抜きくらいで赦してもらえるといいが……。

 

 ……そもそも、ケセドがダニエルのこと覚えてるって保証すらないわ、そういや。

 あー、ちょっと死ぬの嫌になってきた。寂しくなっちゃう。

 

 

 

 アインとベンジャミンは大丈夫だ。

 

 ベンジャミンにとっては、俺なんぞそこらの職員と変わんねえだろうし。

 アインは狂気に入ってからがめちゃくちゃ強いので、これで変な方向に歪んだりはしないはず。

 

 あ、でもアイン。お前が知りたい情報は、殆ど脳手術で封鎖しちゃったので見れん。そこはごめんね。

 

 いや、ほんと……裏路地の脳手術とか受けるもんじゃねえな……はぁ。

 改めて、苦痛の連鎖って怖えわ。こんなところから苦痛押し付けてくんのかよ。

 

 

 

 カルメン? 知らん。頑張れ。

 

 いや真面目な話、今のアイツギラギラ光って無敵だし、大丈夫だろ。

 

 セフレは、まあ……これを機に良い人捕まえて、いい加減落ち着いてくれ。

 

 ああでも、強いて言えば。

 アイツ、俺に執着しまくってたからな。勢い余ってアンジェラ-ver.雑魚-とか作らないかだけ不安だ。

 

 ここぞという時に倫理観ねえんだよなあ、あの馬鹿。

 需要なんぞどこにもないんでやめてくれ。カウンセラーが欲しいなら素直にプロを呼べ定期。

 

 

 

 ……ジョバンニ。

 

 俺もお前と同じ形で、後を追うハメになっちゃったな。

 

 今になってお前の気持ちがわかったぜ。

 人間、自分の命の使い方を決めた時って、案外落ち着いてるもんなんだな。

 

 俺もきちんと為すべきことを果たしたよ。

 そっちに行ったらエンケファリンかビールで乾杯でもしようか。

 

 いや、元日本人として、エンケファリンキメるのはちょっと抵抗あるけど。

 

 

 

 イオリ師匠。

 

 あんたの言った通り、結局俺、3級フィクサー止まりの雑魚のままだったよ。

 でも、これもあんたが言った通り、全力で生き足掻けば、為すべきことは為せた。

 

 あんたには、この終わりも見えてたんだろうか。

 その上で、あの時俺をぶん殴ってくれたんだろうか。

 

 だとしたら……ありがとう。

 あんたの教えのおかげで、俺はここに居られた。

 楽しい奴らと知り合えて、一時でも肩を並べられた。

 

 ……あのクッソえげつねえ腹パンだけは今でも許さないけど。

 

 無事に図書館に至れたら、是非とも頼ってほしい。

 あんたの息子の捜索のため、俺はいくらでも手を貸すよ。

 

 

 

 あとは、両親と兄に。

 こんなカスの息子と弟でごめん。

 

 昔から超心配かけてたよなぁ。最近はあんま顔も出せなかったし。

 一応、かなり高い保険はかけてるんだが……俺の死の通知ってあの家にまで行くんだろうか。

 アイン辺りが取り計ってくれたら嬉しいんだが、流石にそんな余裕もないかね。

 

 ……いや、そういう問題じゃねえよな。わかってる。

 

 親不孝、兄不幸な馬鹿でごめん。

 どうか幸せに、満足のいく人生を送ってほしい。

 

 

 

 ……さて、こんなところかな。

 

 他には、ええと、誰かいたかな、言葉を遺すべき相手……。

 俺、あんまり交友範囲広い方じゃないからな。

 

 うーん……世話になった人か。

 O社の羽だった頃、警備シフト代わってくれた先輩とか?

 でもあの人、会社のブツ横領した結果粛清されたし、感謝していいのか微妙なんだよなぁ。

 

 

 

 

 

 

 …………いや、つうかさ。

 

 えらい長くね? 5秒。

 

 ガリオンとの最終決戦から騎士との別れを15秒弱でこなしたハイパークイックマンの俺が今更どの口でって感じではあるけどさ。

 

 ぶっちゃけ、5秒ってもう過ぎてね?

 

 

 

 

 

 

 むくりと起き上がり、小首を傾げる。

 

 あれ、思ったのと違うな。

 もっとこう、雑魚なりにエモい感じで死ぬと思ってたんだけど。

 

 デスクの上の時計を見ると、当然ながら、秒針はこちこちと動き続けており……。

 

 それが5回以上動いても、俺の体に変容は見られなかった。

 

 

 

「…………マジ? 13%引いたわ」

 

 巨木の樹液を4連一気飲みすれば、死亡率はおおよそ87%。

 逆に言えば、13%の可能性で生き残る計算だ。

 

 そして俺は今、その運ゲーに勝利したらしい。

 正しく九死に一生であった。

 

「えぇ……」

 

 何? 俺、ここで急に主人公補正に目覚めちゃったの!?

 

 普通、一発勝負でそんなん引けないと思うんだけど!?

 

 

 

 ……どうしよう。

 完全に死ぬ気で事進めちゃったんだが?

 

 騎士とはあんな「こっちはもう再会を諦めてるけど、相手は祈りを込めて『また会いましょう』って言ってくれた」的な名シーンやったり。

 ギャグキャラにしては珍しく、しみじみと脳内に色んな人の顔が浮かんで、最期の言葉を遺したり。

 

 色々感動的なシーンやったのに、結局普通に生きるんか~い!(ズコーッ!)

 

 どんな顔で騎士の作業行けばいいんだよ俺!

 気まずいわ! いや多分あっちは「また会えましたね」って笑ってくれるだろうけどさ! 気恥ずかしすぎて顔から火が出るわ!!

 

 

 

「……あっやべ! 鎮圧に参加せんと!」

 

 そうだ、これからどうするとか考えてる暇ねえわ!

 生きてるのなら、やるべきことをやらなければ。

 

 俺は涙剣を引っ掴み、騎士に声を投げるが……返事がない。

 形としちゃ、俺に鎮圧されたようなもんだからな。今は卵になって復活待機中か。

 加護も外れちゃってるみたいなので、これはひっさびさの完全ソロだな。

 

 とはいえ、クリフォト抑止力も高い状態だ。

 ALEPHクラスだろうと、油断せずに防御と回避優先を心がければ、鎮圧自体はできるはずだ。

 

 そんなわけで、俺は40秒前に辛気臭い顔で入って行ったダニエルの研究室を、クッソ焦った状態で駆け出していくこととなった。

 雑魚らしい無様さ♡ なんか久々♡

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そして、ひとまずは喧噪の大きい方向目指すかと、廊下を走ること数十秒。

 樹液の効果も切れる頃合い、俺は曲がり角の向こうから現れた彼女と、ばったり出くわすこととなった。

 

「コナー!」

「エリヤ!? お前、どうしてこんなとこをうろついてる!?」

 

 エリヤ。俺が親しくしている研究者の一人。

 未だ破壊音や怒号が響く研究所の中、彼女は笑顔を浮かべ、こちらに走って来る。

 

 てっきり既にどこかに避難、籠城していると思っていたが……。

 ちょっとばかりドジでどんくさくてポンコツな彼女のことだ。

 混乱の中に取り残され、どうしようどうしようとうろたえていたのかもしれない。

 

 そんな中で武力が保証された俺を見つければ、まあ安堵から笑顔になる理由もわからなくもない。

 やや不謹慎だとは思うけどね。周りでは悲鳴とか上がってるんすよ!?

 

 

 

 アブノマ共を鎮圧することにばかり意識が向いていたが……。

 救助対象を見つけた以上、ひとまず彼女を安全な場所に届けるのが先か。

 

 現在この研究所のどこかでは、赤い霧vsアブノマ&足爪2人&調律者とかいう、この世の終わりみたいなマッチが発生しているはずだ。

 護衛対象がいるのなら、努めて慎重に動かなければならない。

 

 ……いっそカーリーに助勢する方が優先か?

 いや、落ち着け、違うだろ。

 研究所にかかるクリフォト抑止力が高い以上、原作よりも簡単に事が進むはず。

 原作の状況ですらカーリーは調律者と相打ちになっていた。条件が良い今回は、間違いなく生き残るはずだ。

 

 そう考えればやはり、護衛対象たるエリヤを安全地帯に届ける方が先だろう。

 

 ていうかそもそも、安全地帯なんかあるのかこの研究所?

 もう戦いが終わるまで外郭の街にでも送った方が安全じゃね?

 いやいや待て待て、それだと護送に時間がかかり過ぎるだろ。

 俺も戦力になれるんだから、せめてアブノマ鎮圧に参加してカーリーの負担を減らさないと。

 

 いっそ研究員たちを一か所に集めて、そこの守りを固めるべきか?

 いや……俺なんかがしなくとも、既に誰かが集合を試みてるか。

 

 ここに勤めるのは、頭の良い奴らばっかりだ。

 緊急時にはヒスったり孤立したりせず、集団になるべきとは考えるはず。

 

 そうなると、どこかの……アイン辺りの研究所を目指すのが妥当な判断か?

 

 ……ああクソ! なんか変な感じで生き残っちゃったばかりに、どうにも頭がシュッと回らん!

 ぶっちゃけこっちは調律者戦の直後でへとへとなんだよ、許してぇ;;

 

 

 

 脳内の散漫な考えを纏めつつ、俺はエリヤに背を向けて言う。

 

「エリヤ、俺の後に付いてこい。ひとまずアインの研究室を目指すぞ」

「コナー、ねえ、コナー!」

「ちょーっと静かにしてお話聞こっか、エリヤちゃん。今超緊急事態やねんで! 押さない! 駆けない! 喋らない! 戻らない! 近づかない!」

 

 あーまったくもう! どうにも緊張が緩むなあこの子の声は!

 

 俺、ただでさえさっきまで死闘を繰り広げて集中力切れてるんだよ。

 できれば落ち着いて付いてきてほしいんだけど可能か?

 

「コナー、コナー、コナー!」

「いやだから何! ピーという音声の後にメッセージをどうぞ! 急ぐからね! ちゃんと付いて来てね? はいピーッ!!!」

 

 ああもう、その名前大好きかよ! 俺も好きだよポンコツアンドロイド!

 

 個人的に一番好きなシーンは、やっぱカムスキーテストで撃てなかった時の逆ギレコナーかな!

 めちゃくちゃ人間的で良いよねあのシーン。元から確かに人間味はあったんだけど、あそこで爆は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 さ よ う な ら ! 」

 

 

 ドズン、と。

 

 何かが、俺の胸を、貫通した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あ?

 

 何? 何が? なんだこれ。

 

 

 

 混乱しながらも、咄嗟に渾身の力で後ろを蹴り飛ばし、胸に食い込んだ刃物のような何かを抜く。

 

 ……あ、やばい。

 

 駄目だ。

 

 致命傷だ、この傷。

 

 

 

 たたらを踏みながらも、なんとか涙剣を握り締め、振り返った。

 そこにいたのは、やっぱり、笑顔のエリヤ……では、ない。

 

 一見して、それは確かにエリヤと見分けが付かない。

 

 けれど、ただ一点……その左腕だけが、異常だった。

 

 肘辺りから肉が服を巻き込んで赤く変色し、あり得ない程に伸びて、先端は鎌のようになり、俺の血に塗れている。

 

 そして、何より。

 

「コナー、コナー! やめて! ありがとう。大丈夫、頑張るわ! リサ、平気? 助けて、助けて! この子を逃がしてあげないと。なんでこの子がここに!? さようなら。コナー、ねえ……。カルメンさんはどこに行ったの?」

 

 その口から発される言葉は、めちゃくちゃで、意味不明で。

 それは正しく、人が発するものではなく……人の言葉を真似ただけの。

 

 

 

 中身が「何もない」、単語の羅列。

 

 

 

 …………ああ。

 

 クソが。

 

 せっかく生き残れたのに、エリヤの姿を見て警戒を解いてしまい、こんなミスを犯したこと……ではなく。

 

 エリヤが死んだ、という事実に。

 

 本当に、最悪な気分になる。

 

 

 

 よろめき、壁に手を付いて、涙剣を構える。

 ……ヤバい。多分心臓と肺が一気に持っていかれたからか、全然力が入らん。

 

 衝撃波食らった直後くらい……。

 いいや、あれより、もっとやばい。

 

 あの時は騎士の加護もあったし、多少の受け身も取れたし、気構えもできてたけど……。

 今回は加護を失い、疲労困憊の状態で、エリヤを見て気が抜けてしまい……完全な不意打ちで、致命傷を入れられた。

 

 クソッ……油断しやがって。

 この、これだから、俺は雑魚だっていうんだよ……!

 

 

 

「……ぁ、ぐっ……」

 

 殺さないと。

 

 今すぐ、目の前のアブノーマリティを、鎮圧しないと。

 

 これ以上、エリヤの皮を使わせるわけにはいかない。

 俺の皮で、誰かの心を乱させるわけにはいかない。

 

 そんなことはわかっているのに、クソ、どうしても手が震える。

 

 

 

 どうする。

 巨木の樹液の収容室まで戻るか?

 

 ……無理だ。

 

 第四形態のコイツは、まあまあ足が速い。

 対し、俺はショックのせいか、足腰にもまともに力が入らない。

 背中を見せて逃げたら、追い付かれて裂かれるか、そのまま針でも飛ばされてザックリだ。

 

 じゃあ、この近くの収容室のアブノマは。

 ……クソ、駄目だ、思考がぼやけてすぐに思い出せん。

 

 そう……そうだ、思い出した。

 寄生樹と、歌う機械だ。

 ふざけんな、何の役にも立たねえクソ唾棄アブノマ共が。

 

 カーリーは、近くに……いない、か。

 いるんなら、アイツや頭、アブノマたちの立てる破壊音が聞こえて来るはずだが、今耳に届くのは、悲鳴や絶叫、足音ばかりだ。

 

 騎士の復活も……まだ、時間がかかる。

 転移で逃がしてもらうことも、できない。

 

 一か八か、「青」のワープ……。

 ……さっき無理やり引き出したから、触手の機嫌は最悪だ。入れば俺が無駄に貫かれて終わりか。

 

 

 

 

 

 

 ああ……こりゃ、まずいな。

 

 打開策が、思い浮かばん。

 

 

 

 

 

 

「コナー、コナー! 聞いて、私ね、この前の研究でね! アインさん……名前、憶えてくれてなかったのかな……。カーリーは本当に強いわね! 私だって頑張らないといけないのに。あの子たちのお手本になりたいの! えへへ、そうかな」

「……黙れよ……エリヤの言葉で、喋るんじゃねえ……」

 

 ゆらり、ゆらりと。

 そのアブノーマリティ──人の模倣をする化け物が、俺の方へと歩み寄って来る。

 

 俺の皮を剥ぎ、より多くの人を殺さんと。

 

 

 

 ……ああ、クソ。

 本当に、今日は失敗ばっかりだな。

 

 俺だけのE.G.Oがあれば、さっきの一撃も、耐え切れたかもしれない。

 

 あの奇襲を躱していれば、コイツなんて普通に鎮圧できた。

 

 エリヤを見ても警戒を続ける精神力があれば、油断なんてしなかった。

 

 調律者を余裕で片付ける力があれば、疲労すらしなかった。

 

 いいや、そもそも……俺がもっと早く調律者を片付けていれば……エリヤは。

 

「…………はぁ」

 

 心を占めるのは、自責ばかりで。

 

 ……もう。

 その全ては、取り返しなんて付かない。

 

 

 

 エリヤの喪失も。

 研究所の損壊も。

 そして、これから至る、俺の死も。

 

 もう、何も変えられないだろう。

 

 そんな中で、精々俺に出来るのは……。

 

「……せめて、てめえも道連れにしてやる」

 

 冷たくなっていく手で、涙剣を握り、「白」の展開準備をすることくらいだ。

 

 

 

「いつも本当にありがとう! あなたのことが、その、好きよ、コナー!」

 

 

 

 その模倣された言葉に、俺は思わず、苦笑いを漏らしてしまった。

 いつかガブリエルに言われた台詞が、脳裏に過ったから。

 

 ……こんな最悪な形で、予言が現実になるとはな。

 本当に、皮肉なもんだよ。

 

 

 

「……エリヤ。俺も君のこと、同僚としても異性としても、嫌いじゃなかったよ」

 

 

 

 さあ、弔い合戦だ。

 

 死に腐れ、ポチ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ……そろそろ死に際か。

 

 最後に一つ、お願いでもしておこう。

 

 こんな雑魚の記憶を覗く悪趣味な奴なんて、どこにもいないかもしれないけど……。

 光の種を都市にばら撒きたがる、どうしようもない陰キャクソナードには、心当たりがあるしな。

 

 

 

 そんなわけで、アイン。

 頼みがあるんだけど。

 

 もしもお前が、人の心を持つ、誰かを模倣したような機械を作ることがあったなら……。

 

 ……まあ、「愛せ」とは言わないよ。

 それは流石に押し付けがましいもんな。

 

 だけどせめて、人らしく作るのなら、人としての生を許してやってくれ。

 

 

 

 忘れることは、許されないかもしれない。

 高速の思考も、必要かもしれない。

 

 だから、そういう必要な機能は削らなくていいから。

 

 ただ、不必要な余剰を加えてあげてくれ。

 

 物を食べて、風呂に入って、時には眠って、落ち着いてコーヒーを楽しむ。

 そんな、人間的な在り方を許してあげてくれ。

 

 きっとそれが、お前のためにも、その子のためにもなるから。

 

 頼む。

 

 お前の友だち……って名乗ることを、許してもらえるかはわからんけど。

 俺からの、文字通り一生に一度のお願いだ。

 

 

 

 それから、きちんと、謝罪もしておく。

 

 もうわかってると思うが、L旧研究の情報が頭に漏れたのは、俺のせいだ。

 全部、俺が悪かったんだ。

 

 本当にすまなかった。

 この償いはいくらでもするし、していくつもりでいる。

 

 俺っていう素材は、どんな使い方をしてくれても構わない。

 お前が考えてる通り、苦痛の巡礼の道標にしてくれてもいいし。

 あるいは、何らかの生体部品として使ってくれてもいい。

 ただ苦しみを味合わせたいのなら、それでもいい。そうされるだけのことをしてしまった。

 

 

 

 故意ではなかったが、お前たちの大切な場所を壊したのは、俺だ。

 お前たちは皆、ちゃんと役目を果たしていた。

 俺のくだらないミスが、この事態を生んだんだ。

 

 だからどうか、俺を憎んでくれ。

 

 ……あまり、自分を憎み過ぎないでくれ。

 

 ただでさえ一人で抱え込みがちなお前に、これ以上荷物を増やしたくはない。

 どうか俺のことは抱え込まず、先に進んでくれ。

 お前たちの理想通り、自分自身のことを、愛してやってくれ。

 

 

 

 もう読んだとは思うが、念のため。

 俺の私室のデスク、上から2段目の引き出しの底に、遺書が入ってるから、読んどいてくれ。

 

 ……最後まで一緒に行けなくて、ごめんな。

 

 お前のこと、俺は結構好きだったぜ。

 

 

 

 じゃあな。

 どうか元気で。

 

 

 

 

 

 










 「何もない」さん、指令です。

 万が一異分子コナーが生きていた場合、警戒が緩み全ての守りを手放したタイミングで、彼が最も油断する姿で以て、かけがえのない苦痛を与えながら命を奪ってください。






 L旧研編はこれにて終了になります。



 いや終了じゃねーよ、どーすんだよ!
 この後遺されたL旧研はどうなるんだよ!
 セルマァ……俺、キレそうだよ……!

 ……等々お思いの読者様もいらっしゃると思いますが。
 どうしようもない感じで終わった物語のその後を、「なんとかなれーッ!!」していくのもまた、プロムン仕草と存じます。

 そんなわけで、続くはLobotomy Corporation編。
 いよいよ本編に入ります。長いプロローグでしたね。

 あ、ちなみにコナー君には、諸々のやらかし(主に女性関係)の責任、ちゃんと取ってもらうゾ♡
 1回死んだくらいで縁が切れると思うなよお前。



 改めまして、ここまでご愛読いただき、本当にありがとうございました!
 続編にあたるLobotomy編は現在執筆中。書きあがり次第毎日投稿致します。お楽しみに!
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