3級フィクサーパンチ   作:アリマリア

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あなたはグロテスクでなければならない

 

 

 

 しばらく待つと、アンジェラは台車に乗せて、箱の体を持ってきてくれた。

 そう、アインの認知フィルターを解除したら見える、セフィラの真の体……実に機械らしい四角張った箱状ボディである。

 

 とはいえ、それに見覚えがあるかと言えば、否。

 細かい形状や色合いは、前世じゃ見たことのないものだ。

 

 濃い目の灰色をベースとした、ちょっと小さ目のこれが、セフィラ・ダァトのボディらしい。

 

 

 

 知っての通り、セフィラは皆、この箱ボディを使っている。

 これに関しちゃあ、元調律者たるビナーですら例外ではない。

 

 その中で、俺だけ人の体を使ったりすれば、まあ浮いちゃうだろう。

 別に皆に馴染まなきゃいけないってわけでもないが、無駄に諍いの種を蒔く意味もない。

 セフィラの皆に噂されると恥ずかしいし……ってことで、こっちの箱ボディをメインで使うつもりだ。

 

 勿論、理由はただそれだけじゃない。

 これはアイン、もとい管理人X──もっと言えば、プレイヤーのためでもあった。

 

 まあ考えてもみてほしい。

 管理人はセフィラコア抑制を越えて、それぞれのセフィラたちと向き合っていく。

 それにより目を背けるのを止め、彼らの本当の姿を直視できるようになるわけだが……。

 

 そしたら当然、俺の抑制の時も──どうやら台本的には、俺の抑制はやってもやらなくてもいい、いわゆるチャレンジ枠らしいが──俺が箱の姿になることを期待するわけじゃん?

 

 それなのに、抑制が終わっても人の姿のままだとさ……。

 あれ? これちゃんと抑制できた? 何か間違えた? って思って、達成感が薄れちゃうと思うのよ。

 

 予想は存分に裏切るべきだが、期待は裏切るべきではない。

 やっぱりちゃんと箱の姿になって、管理人を……新たなアインを送り出してやりたいと思うわけだ。

 

 プレイヤーの気持ちも慮れるエンターテイナー系雑魚です、どうぞよろしく。

 

 

 

 そんなわけで、俺はアンジェラに頼み、箱に意識を移してもらった。

 

 実のところ、意識移植の行程は、想像の100倍くらい簡単だった。

 一時的に俺の意識をオフにして休眠状態にし、専用の機械(俺の部屋の隅に寄せてあった)で開頭。

 改造済みの脳みそを取り出して、機械にイン。

 

 これだけである。シンプルでいいね!

 いや、脳の信号どうやって伝えてんだこれ。すげえ技術力だ。

 

 時間にして30秒もかからないし、体は割と気軽に変えることができそうだな。

 なんなら俺一人でもできるわこれ。まあこっちの人の体に戻る機会があるかはわからんけど。

 

 そんなわけで、俺は箱の体で再起動したわけだが……。

 多少独特な感覚こそするものの、元の体を動かすのと同じ要領で新たな体を動かすことができた。

 おお、すごい。感覚の同調が完璧だ。

 

 この手の義体化は割と拒絶感とか感覚麻痺とか出やすいんだけどね。

 あんなクッソ雑な脳の移植しといてその手の副作用が全くない辺り、流石は天才クソナード。技術力はガチなんだよね、俺のちょっと困った友だちは。

 

 

 

 さて、改めて鏡を見れば、そこにあるのは灰色の箱……。

 

 ……なんだけど。

 

 あの、改めて見ると、なんか……なんだろう。

 

 ボロくね?

 

 なんか傷だらけだし、ところどころに穴が空いてて、中に入れた俺の脳がチラチラ覗いてんだけど。

 

 なんで?

 

 おいふざけんなアインコラ。見せパンならぬ見せ脳とか誰が得するんじゃボケが。

 

 

 

「エラ、この見た目なんとかできん?? 気が弱い職員が見たら気絶するわよこれ」

 

 軽く体を動かしながら言うと、アンジェラは小首を傾げて返答してきた。

 

「確かにそうね……わかった、職員たちに周知することで対処しましょう」

「いやエラさんそうじゃなくてね? 普通に新品の箱くれって言ってんだよね!

 いくら雑用係の雑魚とは言っても、こんな余り物の中古品みてぇな体に押し込まれるのはちょっと嫌ですわよ!?

 てか、穴空いてたら普通に弱点じゃん!! アブノマとかにここ攻撃されたらあたし、しぬわよ」

「ああ、そこを心配していたのね。大丈夫よ」

 

 アンジェラはその細い指を俺の箱の穴へと伸ばす。

 おい馬鹿やめろ、脳は精密機器だ、指紋すら致命傷になりかねん。

 俺はマスコットキャラではねーので、頭を押されて「アーウ!!」と鳴く程度じゃ済まないんだぜ。

 

 

 

 ……と、思っていたのだが。

 

「……あ? 止まった?」

 

 アンジェラの指先は、俺の脳のちょっと前のところでピタリと止まった。

 それなのに、触られている感覚はある。

 

 いや、脳じゃなく……これは、体に触られてる……?

 

「先生、これは一体!?」

「これは穴のように見えるだけの、透明な素材による構造なの。

 余程強い衝撃が加わって箱自体が損傷しない限り、あなたの中身は無事よ。

 この箱自体も、傷付いているように見えるけど、ちゃんと新品のものだから安心して」

「あっそっかあ。……いやなんでわざわざ透明かつボロボロにした!? いとグロし!!」

 

 アインく~ん! コナーの人生でただ二人の友だち、その片割れの君~~~!!

 

 これ君の設計だよね!? なんでこんなことにしたんかなお前!!

 さっきからさぁ、お前が俺をどう扱いたいのか全くわからんのだが!?!?

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そんなこんなで、箱の体に移していただいて。

 俺はアンジェラといくらか業務的な打ち合わせや情報共有を行った後、どうやら俺の私室に割り当てられているらしい部屋を出る。

 

 ……セフィラにも私室とかあるんだなぁ。

 やっぱアインとしても、その辺思うところがあるんかね。

 なにせ知り合いを勝手にAIにしてるんだし、せめて福利厚生は整えようとか思ったんだろうか。

 

 まあ、アンジェラには私室ないらしいけど。

 ほんまお前さぁ!!!

 

 

 

「さて、と……」

 

 部屋を出た俺は、迷いなく、進むべき方向へと足を向けた。

 俺には今、行かねばならぬところがあるのだ。

 

 目的地は、俺の友だちから続く存在である、彼の居場所。

 

 L社地下本部の中層、福祉チームだ。

 

 

 

 福祉チーム担当セフィラ。その名はケセド。

 俺の友だち、ダニエルから糸を引く存在だ。

 

 目覚めたばかりの俺は、当然ながら掴み損ねている情報が多い。

 色々と考えなきゃならんこと、やらなきゃならんことが目白押しな現在だが……。

 

 そんなもんは一旦さておき!

 

 俺の大切な友だちがどうなってるか確認しないと、食べ物も喉を通らんわ!!!

 まあ喉なんてこの体にはないけどね! なにせ箱なので。

 

 そんなわけで、俺は福祉チームに向かっているのだ。

 少しでも早く、あのエリート天才マイフレンドと話すために。

 

 

 

 ……が、しかし。

 

 一つ、俺の前には、大きな問題が立ちはだかっていた。

 

 

 

 廊下が長ぇ!!

 

 

 

 俺の私室は、ダァトフロア=例の釣瓶ルームのすぐ隣にある。

 つまりは、抽出チームと記録チームから続く、あのありえんくらい長い廊下の境だ。

 どこに向かうにしてもこの馬鹿廊下を渡ることになる、とんでもねえクソ立地の物件である。実質牢獄だろこれ。

 

 いやしかし、長い! ほんと長いよ!

 馬鹿だろこれ設計した奴! アイン、てめぇのことだよ!

 頭脳面じゃ万能の天才と思われたお前にも欠陥があったみたいだな! 建築家としての才能はゼロ!!

 

 中央本部にはエレベーター置かねえし!

 ダァトフロア開放まで抽出と記録は行き来できねえし!

 記録チームの左右の廊下も無意味にクッソ長ぇし!

 

 これならエリヤの方がよっぽど建築家向いてんぞ!

 あの子はなんだかんだ、物事を積み立てるのは得意だったからな!!

 

 

 

 ……まあ、多分。

 こんなにも廊下を長く感じるのは、俺の焦りも影響してるんだろう。

 

 実際には、L旧研が頭に襲われたあの時から、随分と時間が経っているんだろうが……。

 今しがた目覚めた俺の感覚としては、ついさっき調律者ぶっ殺して、ポチとぶち相打ちになった直後。

 当然ながら、あの時にはアブノマや爪によって殺される職員の悲鳴を聞いたりもしたし、なんならエリヤに至っては彼女の残骸まで目にしていたわけで……。

 

 ……あの時片腕を落とされ、なんとか戦場を脱した俺の友だちがどうなったかも、全くわからない。

 

 

 

 正直、気が気ではない。

 

 ダニエルはあの襲撃を生き残れただろうか。

 切断された左腕は取り戻せただろうか。

 あの時俺に謝って来たのは何故だったのか。

 何か気に病んでいることはないか。

 ちゃんと飯食ってるか。

 コーヒー飲み過ぎて夜更かししてないか。

 また綺麗な女の子を引っかけたりしてないか。

 

 知りたいことと話したいことが、無数にあったし……。

 

 何より、謝りたいことがあった。

 

 

 

 あの日、頭が研究所を襲ったのは、俺の軽挙妄動故だ。

 ダニエルが左腕を落とされるなんてことも、それさえなければ発生しなかっただろう。

 

 だから、彼に……ダニエルから続く存在である、ケセドに会いたい。

 どんな状態か見て、可能ならちゃんと話して、話を聞きたい。

 そして、あの時のことをしっかり謝りたいんだ。

 

 そのために俺は、このあり得ないくらい無意味に長い廊下を走り続けて……。

 

 

 

 

 

 

「おやまあ……何故、そんなにも焦って居るんだい?

 

 お前も知っての通り、此処には永劫にすら近しい時間が流れて居る。

 

 お前がそうする事で、此の流れを速める事も、また心根を洗う事も、能わぬと云うのに」

 

 

 

 

 

 

 ……やべ。

 

 今一番会いたくない奴に見つかっちった。

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりと振り向いた先にいたのは、想像通りの相手。

 

 黒のベースカラーの上に、ハニカム模様の金のラインで彩られた箱。

 

 その背には、黒一色のマントを羽織り。

 セフィラ特有のただ一つの瞳を以て、こちらに愉悦の金色を向けてきて。

 その瞳の上には、「Binah」の刻印が刻まれている。

 

 抽出チーム担当セフィラ、ビナー。

 それが彼女の二つ目の名前であり……。

 

 

 

「あー……お久しぶりだな、襲撃者のカス?」

 

 ……「こう」なる前の、元となった女の名を、ガリオンと言う。

 

 俺が殺した、調律者だ。

 

 

 

 ビナーはその金の瞳を嗜虐に染め、嗤った。

 

「嗚呼、久方ぶりの再会となったね、都市の異分子よ。

 さて……彼の者の許に向かう前に、少しばかり、私が時間を頂こうじゃないか。

 

 

 

 お前には、あの時の礼もせねばならないからね」

 

 

 







 その時私はこう言ったと思います。
 なんてことだ、もう逃げられないゾ♡



(謝罪)
 誠に申し訳ありません。
 今回は本筋に関わることではありませんが、また都市の禁忌を誤解してたっぽいことが発覚しました。くっ、複雑すぎる!!
 二次創作書いてるくせにこのザマ、本当にお恥ずかしい。これは作者都市では絶対生きていけませんでしたね……。日本に生まれて良かった。
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