3級フィクサーパンチ   作:アリマリア

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ちっぽけになった私だけでも止めてみせるさ

 

 

 

 調律者ガリオン改め、抽出チーム担当セフィラ、ビナー。

 lobotomyでは終盤に登場し、「上層中層と色んなセフィラと触れ合って、流石に慣れて来たな~」とか油断してる管理人のド肝を抜く、とんでもなくキャラの濃いセフィラだ。

 

 その最大の特徴と言えば、その例えなんだか事実なんだかわからん、小難しい喋り方だろう。

 あまりの難解さから「ビナー語」なんて呼ばれるそれは、流し読みでストーリーを消費していた管理人を振り落とし、世界観に没入していた管理人を大いに悦ばせる。

 

 もっと分かりやすく話せばええっちゅうのに、特に意味もなく難しい言葉を捻って相手を混乱させる様は、まさしく馬鹿の一つ覚えのようである……。

 

 ……が。

 

 実際に蓋を開けてみれば分かるが──セフィラの筐体を開けて脳みそ見てみろという話ではないので注意──、コイツの実態は、むしろ真逆。

 

 コイツは元々翼の頂点たるA社の人間、それも都市のトップオブトップたる調律者をしていたわけで。

 あの日に俺が確かめたように、武力においては、おおよそ比肩する者なく。

 その頭脳においても、ぶっちゃけアインと並ぶレベルであり、異次元のそれである。

 

 何がすごいって、別に情報を与えられたわけでもなく、反復の記憶を保有できるわけでもないのに、どうやってか光の種シナリオやリブートのことを理解してるっぽいんだよな。

 マジでどういうことなんお前? どこからどう情報を仕入れてどう推理したらわかるんだよ。

 

 

 

 ……あの日、俺が頭脳戦でコイツに勝てたのは、あくまで複数の条件が重なったからだ。

 

 まず、俺はコイツの手札の殆どを、軽くとはいえ知っており。

 逆に、俺の手札の殆どを、コイツは知らず。

 アブノマやE.G.Oがまだ頭に知られてなくて。

 コイツが途中までちっとも全力を出さず、舐めプをしてくれて。

 あの日の俺がバチクソにツイてて。

 極めつけに、誇りある守護騎士が、俺と共に戦ってくれた。

 

 互いの手札を知り、俺だけが殆どの手札を失った今、改めてコイツと知恵比べなどしようものなら……。

 俺は一手で押し負け、何も残せず死ぬことになるだろう。

 

 それだけ、俺とコイツの頭の回りの速さと手札の強さは隔絶している。

 

 騎士がいればワンチャンあったかもだが、彼女との繋がりの象徴たるプロト涙剣は手元にないし……。

 ……絶望の騎士というアブノーマリティを抽出することはできても、あの「正義の騎士」とは、もう二度と逢えないだろうしな。

 

 

 

 

 

 ……ちょっと話が逸れ過ぎたな。

 閑話休題。

 

 では、そんな頭の良いコイツが、なんでわざわざ小難しい言い回しをしているのかと言えば……。

 ぶっちゃけ、コイツの中では平易な言い回しなんだろうな、これでも。

 

 ほら、よく言うアレだ。IQが20違うと会話が成立しないってヤツ。

 コイツのぎゅんぎゅん回る脳の動き、それに合わせた言葉回しと展開に、俺たち凡人は付いて行けないのだ。

 

 ガリオンは特に酷いが、調律者ってヤツは何かと相手に配慮しないからなぁ。

 そもそも在り方として、「告げる」ことこそ大切で、「理解させる」のは二の次なのかもしれんけど。

 

 

 

 そんな感じで、アインとはまた別方向のコミュ障を患っている、かわいそうな厨二病ことビナーだが。

 

 彼女の、もう一つの、そして最も面倒くさい特徴と言えば……。

 

 破滅嗜好主義。

 自他問わず、降りかかる悲劇と犠牲を愛することだ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「…………はぁ」

「フフ……どうした? コナー。

 嗚呼、否。お前の名は、ダァト、と云うのだったね。

 嫌に気遅れした様子ではないか? あの研究所を襲撃者の魔の手より守り、遂には調律者すらも殺して見せた英雄の浮かべる表情とは、到底思えないが」

「そりゃあてめえ様がぶち殺した調律者当人じゃなきゃ、俺だってドヤ顔してるけどなぁ」

 

 まったく、運命というのは、なんとも奇妙なもので。

 俺はこの手で殺したはずの相手にお茶会に誘われて、今やティーテーブルを挟んで向き合っている。

 

 頭としての責務と、仲間の守護。

 お互い譲れないものを賭けた、避けられない殺し合いだったとはいえ……。

 

 まあ、なんとも気まずいもので。

 

 

 

 あの場でコイツを殺さなかったら、俺の友だちや仲間たちが殺されてたわけで。

 俺はあの殺害に対して、なんら後悔はない。間違っていたとも到底思わない。

 

 それと同時、コイツが実際にやったのはダニエルの左腕千切るくらいだったし、その分仇として命はもらったので、今はもう悪感情も残っていない。

 俺にとってはもう終わった話なんだ、アレは。

 

 コイツにとってもそうだろう。

 頭として行った調律だ。後悔なんてあるわけもなく、俺への負い目もゼロ。

 感情に呑まれることなく論理で思考を為すコイツからしても、既に戦いは終わっているんだろう。

 ……でも、自分を殺した相手にもニヤニヤ笑って絡んでくる辺り、ほんと調律者って頭おかしいよ。

 

 

 

 そんなわけで。

 お互い殺し殺されした関係でありながら、俺たちは案外、互いへの負の感情はない。

 

 が、それはそれとして……。

 コイツの命を絶ち切ったのは、俺だ。

 

 死の苦痛は、誰より俺の知るところ。

 それを押し付けた相手と話すというのは……まあ、なかなかに罪悪感のそそることで。

 

 

 

 気まずく目を背ける俺を見て、ビナーはニヤニヤと嗤っていた。

 

 ……これだ。

 これがコイツの何より厄介なところ。

 

 ビナーは──というか、ガリオンだった頃から一貫してそうだが──、自他問わず、破滅と皮肉を好む。

 調律者をやっていた頃も、処分対象の人間を悪辣な誘惑によって惑わせ、仲間を裏切らせた挙句、結局はソイツも殺して絶望の表情を愉しむ……などという、大層なご趣味をされていた。

 

 あの襲撃の際にも、危うくダニエルがその犠牲になりかけていたわけだ。

 まあ俺の友だちはスーパーハイパーマグナムゴッドエリートなので、その勧誘すら振り払ってしまったんやけどな! ダニエルTSUEEEE!!

 

 

 

 が、どうやら、その代わりと言わんばかりに。

 彼女の愉悦の対象は、俺に移ったらしい。

 

 ディスプレイ上に映る機械的な電光掲示だというのに、ビナーの金色の瞳からは、非常に強い嗜虐と愉悦の色が窺えた。

 俺が持つ罪悪感とか引け目とかを愉しんでいらっしゃるんだろう。

 

 別にいいけどね。

 本来ダニエルやカーリーの味わう苦痛を一部でも背負えるんなら、いくらでもコイツを楽しませるピエロになろうともさ。

 

 まあ、不快であることには変わりないんやけどな!

 早くダニエルんとこ行きたいんだけどな~~~! 用がないならもう行っていいか???

 

 

 

 ぶすっとした表情……はできないので、足を組んでアピールする俺に対し。

 ビナーは、くぐもった笑い声を響かせ、一度紅茶を含んだ。

 

 機械が紅茶を飲むって何? と思われるかもしれないが……。

 

 なんと、俺たちの使ってるこの箱の体、物を食べたり飲んだりできるのだ!

 

 あの日、俺はなんとか死に体でポチをぶっ鎮圧した後、俺の記憶を見るだろうアインに向けて「人間っぽい機械作るんなら、人間らしい生活させてあげて~><」というメッセージを遺した。

 

 勿論あれは、将来生まれるかもしれないアンジェラを慮ってのものだったんだが……。

 

 どうやらアインは、それを拡大解釈したらしく。

 アンジェラだけでなく、俺たちセフィラにも、色々と余剰機能を付けてくれたようなのだ。

 

 そのため、俺たちは食事やコーヒーを楽しむこともできるし、睡眠を取ることもできる。

 なんなら俺に至っては、人の体の方であれば性交渉すら可能だ! あのすみません、どこで使う想定なんすかこの機能?

 

 

 

 でもまあ、つまりは!

 俺はダニエル改めケセドと、以前までと変わらず、コーヒーブレイクを楽しめるってこった!!

 

 うおおおおおおお!!

 アイン最高! アイン最高!

 お前もアイン最高と叫びなさい!! 

 

 ちなみに飲食のメカニズムとしては、注入口から入れられた物を高度に分解して最高効率でエネルギーに変換、電力の代替に当てる、というものらしい。

 本来は1日に2時間程度は充電しなければならないのだが、1日3食しっかり取れば、充電なしでもある程度の活動はできる、とのこと。

 

 こんな160cm強程度の箱の一体どこにそんな高度な機能があるんだ。半端者な俺では想像すらできん。

 アインは建築家としてはカスオブカスだけど、メカニックとしてはガチオブガチなんだよね。

 

 

 

 俺が友だちのハイスペックに戦慄している一方。

 悪の科学者に遺体を利用されて機械の体になるとかいう、闇堕ちヒロインみてえな来歴を持つ目の前のおビナ様だが……。

 

 彼女はガリオンだった頃から、生粋の紅茶党。

 そういう意味でも、俺とダニエル/ケセドにとって、永遠の仇敵と言っていい存在だ。

 

 どうやら機械の体になっても、その嗜好は変わらないようで。

 注入口に自分で淹れた紅茶をゆっくりと流し入れ……。

 

 ……その舌触りとコクのある味(の電気信号)を楽しんでいるのだろう。

 ゆったりと数秒の間を開けて、再び口を開いた。

 

「ふふ、済まないね。やはりお前は面白くてな。私の舌も、つい震えてしまうというものだ」

「俺たちもう舌ないけどね! 発声デバイスな! まだ人間気分でいるんすか敗北者さん^^」

「だが、先にも語った通り、此れは先日の礼に当たる。

 何時までも私自身の嗜好を満たしてばかり居るのは、些か不義理と云うものだね」

 

 スルーされた。もっぺん殺したろかボケ。

 

「礼ねぇ。俺はお前に何かをしてやれた、なんて考えはないが」

「お前がそう云うのならば、そうなのかもしれないな」

 

 

 

 言葉の上では納得したように言いながらも、ビナーはその声を愉し気に揺らした。

 

「けれども、お前は元より『誰かに何かをしてやれた』等と云う達成感とは、程遠い人間だろう?

 客観的に其れを観測することはあれど、自らの本質より其れを自負することは少ない。

 此れこそが、お前の殻。自我を保つ為の自己欺瞞、と云うことだろうか」

「…………」

 

 

 

 沈黙を返しながらも、試しにビナーの淹れてくれた茶を飲むことにする。

 ケセドのコーヒーを飲む前準備として、この体の「飲む」を体験しておきたかったんだよね。

 

 注入口にそれを入れると……第一の弁で引っかかる。

 謂わばここが口内なわけだ。

 甘ったるい香りとコクのある味わいが、味覚情報として与えられる。すげぇ、殆ど人の感覚と変わらないわ。

 

 ……なるほど、確かに良い腕前だ。俺みてえな貧乏舌ですら分かるくらいだもんね。

 

 箱の体と人の体との大きな違いの一つが、注入口と発声デバイスが分けられてること。

 俺たちは物を食べ飲みしながらも、お行儀を崩すことなく言葉を話すことができる。

 

 つまり、さっきビナーが黙って紅茶を味わっていたのは、単純な焦らしだったわけだ。

 死ね!

 

 

 

 ……まあでも、それくらいの距離感の相手だからこそ、言えることもある。

 

 俺の殻、自我を保つ自己欺瞞……ね。

 なんとも大層な言い方をしたもんで。

 

 あんま誰かに話すような内容じゃないが、コイツにならいいだろう。

 どうせコイツは、誰かに言いふらすこともなければ、俺への対応を変えることもない。

 コイツの中で何を思っていようと、外に与える影響がないのであれば、それは話していないのとなんら変わらないわけだし。

 

「ま、敢えて否定はしねえよ。

 俺に背負えるものは少ない。……そう思わなければ、きっと俺は傲慢になる。

 もっと多くを救わないと、なんてくだらないことを考え出したら終わりだ。あの時のカルメンみたいに自信だけが肥大化して、周りを巻き込んで破滅するだろう。

 『半端なら半端なりに、身の程を知る必要がある』。師匠は、屑だった俺にそう言った」

 

 仏の手からさえ水は漏れるんだ、英雄願望なんて雑魚には釣り合わない。

 その辺、自重は常に心がけておりますとも。

 それを殻だの自己欺瞞だの呼ぶのは、ちょっと大げさだとは思うがね。

 

「クク。実際には、そんなお前が齎してくれた情報こそが、私達を招いたのだがね」

 

 うるさ。

 

「だから、誰かを救ったなんて自信は持たない。何かができる程ご大層な人間だなんて思わない。

 やあビナー、僕はコナー。……たとえ死んでも代替可能なポンコツクソ雑魚主人公。まさしく俺に相応しい名前ってわけだ」

 

 ビナーにしては甘い攻め手を、意趣返しに無視してやる。

 ……駄目だまるで効いてねえ、優雅にお紅茶しばいてやがる。

 

 もしかして、今のってヘイトコントロールとして誘導されたか?

 クソ、論争でコイツに勝てる気がしねえんだけど!

 

 でも紅茶美味いからムカつかね~~~! 完全に術中~~~!!

 

 

 

 内心唇を尖らせながら紅茶を啜っていると、ビナーは言葉を投げ返してきた。

 

「されど、お前は既にコナーではないだろう?」

「まあ、お前と同じように、ダァトっていうご大層な名はもらったな」

「否、私と同じではないだろう」

 

 は? 自分は正規のセフィラだけどお前はいなくてもいいオマケじゃんってか?

 いきなり差別かよ、調律ッパリらしいな。

 

 からかい半分に反論しようとした俺に、けれどビナーは瞳を閉じ、淡々と言った。

 

「私に与えられたのは虜囚の首輪だ。永劫に近い時の中、人の井戸の底を見続けることを運命付けるもの。

 されども、お前に与えられたのは、彼の者達の夢だ。

 只一人、真意と知識を持ち、其れによって彼の者たちの眼を開けられると……そう願われている。

 其れこそが、お前に与えられしダァトと云う名の真意だろう」

「…………」

「目を逸らすのはお止め。そして、理解なさい、ダァト。

 お前はもはや、コナーと云う名を持って生まれた、代替可能な都市の人間ではないのだよ。

 ダァトと云う期待を押し付けられて生み落とされた、彼の者らにとっての『特別』なのさ」

 

 お前に殺されることで、ただの人間に堕した私とは違ってね、と。

 ビナーはそう付け加え、口を結んだ。

 

 ついでに刺さないと気が済まんのか貴様ァ!

 

 

 

 ……少なからず、こそばゆい話ではあるが。

 流石に、カルメンと共に「ダァト」を託され、あの男に友だちとまで言われたというのに、その言葉を否定するのは道理が通らないか。

 

「はいはい、肝に銘じとくよ。

 要は、もうちょっと自分を高く見積もっておけってことだろ?」

「相違ない。時に過ぎたる謙遜は皮肉となってしまうからね」

「はぁ……皮肉ね。能力が劣等なのは割と事実ベースなんだが」

 

 なーんでみんな、俺を高く評価してくれんのかね。

 そりゃあ都市の意志から独立してるっていう特異性はあるけど、俺なんてそれだけの人間だろうに。

 あっ、今はもう人間ですらねえか! ガハハ!

 

 

 

 ……なんて。

 そんなことを考え、紅茶を味わっていた俺に。

 

 ビナーは、静かに告げた。

 

 きっと、この世界で、彼女にしか告げられないそれを。

 

 

 

「あの研究所が滅んだのは、確かにお前の所業の招いたところだが。

 お前が其の所業を為さずとも、何時か頭は此れを成し遂げて居ただろうよ」

 

 

 

 …………。

 

 それが本題かよ。マジで回りくどいぞ、お前。

 

「口が達者な調律者にしては、下手クソな慰めだな」

「否、確たる事実を告げたのみさ。

 あれだけの集団が頭から逃れて事を成し遂げる等、到底不可能だよ。仮にお前が居なくとも、必然的に歪みは生じ、何れか露呈して居ただろう。

 お前の行動は結局の所、数多く分岐した可能性の内の1つを決定付けたものでしかなかった」

「だが、その可能性の結実がこの世界であり、他の世界を認識できない俺たちにとっての全てだ。

 イフなんて考えても不毛だし、ただの責任転嫁と現実逃避以外にならん」

 

 首を振って……振る首はないので、ディスプレイ上の瞳を軽く横に揺すって言えば。

 ビナーは、興味深げに、その金の瞳を煌かせた。

 

「……フ。成程な」

「何勝手に納得してんだ」

「いいや、何。一つ納得したのだよ。

 遥かに劣った能力しか持たぬ身でありながら、お前が調律者を打ち倒したのは、その優れた戦術眼と強力な武装、そしてアブノーマリティによるものと思っていたが……。

 ……都市の濁り水ですら染めきれない、その自我の確たるこそが、私を殺したのだとな」

 

 

 

 彼女は愉快そうに嗤い、ポットの紅茶をカップに注いだ。

 

「そう思うのであれば、尚の事。

 其の様な顔をして、青髪の坊やに会いに行くのはお止しなさいな」

「……そんなに顔に出てた、俺? お前だから分かったとかではなく?」

「お前は少々……否、多々か。自身に対する客観的な観察が足りていないようだな」

 

 え~、そんなことないだろ。

 俺、これでも自分のことはよく知ってるつもりだけどな。

 

 ちょっと不満げにする俺のことを無視し、ビナーは続けた。

 

「彼の者たちは、お前に光を見て居るのだよ。

 陽の光の如く、周りを焼き付けて焦がし、無理にでも動かせるものではなく……月の輝きの如く、周りを落ち着け癒し、静かに道行きを照らすものをね。

 そんなお前が自らの罪悪に翳ってしまえば、既に陽を失った此処は、完全に暗闇に閉ざされるだろう。

 まあ……お前たちにとっては、そちらの方が都合が良いのかも知れないが」

「良くねーよ、俺無意味な曇らせってヤツが大嫌いなんだから」

「であれば、道は一つ」

 

 再び開いた金の瞳が、俺を貫く。

 そこに込められているのは……愉悦か、観察か、慈眼か、あるいは激励か。

 

 常に泰然としたセフィラは、どこまでも愉し気に。

 

 とんでもなく難しいアドバイスを、送って来た。

 

 

 

「其の罪悪感さえ、愛しなさい。

 お前の好いた、あの女の様に。

 自らの一部と受け入れ、組み込み、悪を含む己を恥じながら、けれどその自身を愛するのだよ」

 

 

 

 ……ああ、そう、か。

 なるほどね。

 

 カルメンが、ものの数十秒で為した、自己の革新。

 俺はそこで詰まってたのか。

 

 この罪悪感を、どこかで拒んでいた。

 

 「ダニエルの左腕は俺のせいで落とされた」「エリヤたちは俺のせいで死んだ」「多くの研究員たちを救えなかった」。

 

 ……その罪の意識は、受け入れるにはあまりにも冷たく痛々しくて。

 だから自分の中にそれを認められなかった。

 

 無意識にそれを解消しようとして、罪悪感の払拭が第一に来てしまっていた。

 皆に謝って、償って、どうにかその重荷を下ろしてしまいたかったんだ。

 

 だから、焦っていた。

 

 

 

 だが……そうだな。

 確かに、これは違った。

 

 取り返しの付かない罪を、この肩から下ろすことなんてできない。

 それを為したのは過去の俺で、その所業もまた、今の俺を作る構成パーツの一つだ。

 

 それを認め、受け入れ、そして愛する。

 

 ……ったく。

 本当、言葉にすりゃあ簡単だけど、ハードなことを要求してくるよね、この世界は。

 

 あーあ、俺も人にお説教とかできる立場じゃないわな。

 心よわよわのくそざこおにいさんw そんなんで上から目線の転生者とか恥ずかしくないの?www

 

 

 

「……ありがとう。今の助言は本当に助かった」

 

 ムカつく気持ちも苦手意識も罪悪感も、全部しまい込んで、素直に頭を下げる。

 

 結局何のお礼なのかはよくわからんかったけど、ビナーは俺のためにアドバイスをしてくれた。

 それも、ケセドに会いに行って、俺が致命的に歪んでしまう前に、先んじて。

 それに感謝できないようなクズには、なりたくない。

 

「自分を愛する、ね。……正直、言葉としては理解できても、感覚が掴めないな」

「であれば、時折此処にお出でなさいな。

 都市の人間である私との会話の中で、お前の求める答えを見出すが良いだろう」

「……お許しいただけるんなら、そのように。これから暇な時にでも話しに来るよ、ビナー」

 

 まあ……1周目である以上、その言葉が叶う可能性は低いけどね。

 ま、これからの反復では、その慈悲にお応えしようか。

 

 

 

「構わないとも。……フフ、折角なのだから、其の苦味と刺激に麻痺した舌に、本当の味というものを教育し直す事も一興だろう。

 丁度、あの青髪の坊やの隣にばかりお前を置くのは損失であると、そう思って居たところなのだよ」

 

 金の瞳が嗜虐に輝き、彼女は紅茶の入ったポットを差し出して来る。

 

 ……なんかNTRみたいな文脈だな。

 

 

 

 うっっっま……♡♡♡

 

 い、いや! そんな綺麗に澄んだだけの紅茶なんて、飲んでもどうってことはないんだから!

 

 あひぃいい、らめえ、美味しいぃぃぃいいい♡♡♡

 

 わっ、私の舌が屈しても、心までは屈さないわ!!

 

 んほぉぉおおおお紅茶! 紅茶もっと飲みたいのぉぉおおお♡♡♡

 

 ごめんね、ダニエル/ケセド……紅茶も美味しかったよ……。

 

 

 

 







 愉悦勢だけど真面目にアドバイスもしてくれるビ様、好き♡
 好きだから謳う機械と暖かい心のきこりに黒霧と柱の暴走付けるのやめて♡ やめろ(真顔)



(追記)
 また設定ミスが発覚しました;;
 ボックスボディの性能をかなり高く見積もっちゃってたみたいです。
 解釈の浅さがお恥ずかしい……。感想爛で誤解を与えてしまった読者様、申し訳ないです。セルマが皮を剥がれてお詫びします。
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