3級フィクサーパンチ   作:アリマリア

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 他の味方が死亡した場合、その舞台の間幕の開始時にパワー1と忍耐1を得る(最大2回)。舞台開始時に感情レベルを初期化。





絆/極限の断絶

 

 

 

 老婆心バリバリで忠言をくれたおビナ様とのお茶会を終え、改めて福祉チームに向かう。

 

 正直、ビナーの忠言はかなり助かった。

 冷静になって考えてみれば、さっきまでの俺、完全に焦燥に囚われてたもんね。

 

 とにかく早くケセドと……いいや、ダニエルと話したかった。

 そして、彼の左腕がなくなったことは自分の責だと認め、然るべき報いか償いか赦しか、そのどれかを求めてしまっていた。

 

 だけど、それは己の為の行動でしかない。

 さっさと俺自身の自己嫌悪や罪悪感を消し去りたい、楽になりたいという逃げだ。

 

 ……まったく、情けない。カルメンのことを笑えないな。

 俺が利己的な人間っていう自覚は持ってるつもりだったけど、これからは一層気を付けないと。

 

 とにかく、俺が今すべき行動は、それじゃない。

 皆が俺を信じ、希望を見てくれてるっていうんなら、俺はしっかりそれを体現せねばならないし……。

 

 ダニエルならざるケセドに対しても、正面から向き合わなければなるまいよ。

 

 

 

 そんなわけで、俺は福祉チームへと足を向けながらも、脳内の情報を整理することにした。

 幸い、アンジェラに渡されたようなものではないにしろ、俺の脳内にも大雑把な台本の流れは入っている。状況の整理くらいはできるはずだ。

 

 特に今考えるべきは……セフィラ化について、だな。

 

 

 

 セフィラ化。

 これは簡単に言うと、かつてL旧研に縁のあった人間の脳の複製を箱詰めしてAI化して働かせるという、とんでもねえ鬼畜の所業である。

 

 かつてコナーだった俺が、今はダァトとして生まれ変わったように。

 かつてガリオンだった彼女が、今はビナーとして生まれ変わったように。

 

 既にそれぞれのフロアで、元々人間だったセフィラたちが目覚めているはずだ。

 

 

 

 幸いと言えばいいのか、頭を抱えればいいのかはわからないが。

 セフィラのメンツは原作のそれと、殆ど変わらないらしい。

 

 指揮チームセフィラ「マルクト」となる、エリヤ。

 情報チームセフィラ「イェソド」となる、ガブリエル。

 教育チームセフィラ「ホド」となる、ミシェル。

 懲戒チームセフィラ「ゲブラー」となる、カーリー。

 福祉チームセフィラ「ケセド」となる、ダニエル。

 

 以上がL旧研の研究者から選ばれた、セフィラとなる者たちだ。

 

 例外的に、記録チームセフィラ「ホクマー」は、まだここにいない。

 いや、台本的に考えると、ホクマーになる存在は施設内にいるっぽいんだけど……とにかく今は、記録チームのセフィラは空席の状態だ。

 まあ、このセフィラも、しばらくしたら来ることになるだろう。

 

 多分、俺の手によって。

 

 

 

 で、職員以外のセフィラだと……。

 

 安全チームセフィラ「ネツァク」となる、ジョバンニ。

 中央本部チームセフィラ「ティファレト」となる、エノクとリサ。

 抽出チームセフィラ「ビナー」となった、ガリオン。

 

 彼らに至っては、殆ど巻き込み事故みたいなものだ。

 

 特にジョバンニなんか、アインとそう因縁があったわけでもなく、自分で生き方を定めたはずなのに、まさかのクソカスセカンドライフ。

 そら死にたがりにもなりますわ。マジでごめんね俺の友だちのせいでね……。

 

 

 

 以上、9つのセフィラとなった10人の死者たち。

 彼らは永遠の安寧から叩き起こされ、L社というとんでもねえブラック企業で働くこととなる。

 

 当然、拒否権はない。

 給料もない。

 休暇もない。

 福利厚生なんてあるわけない。

 死んでも後任に交換されて再起動するだけで解放されない。

 

 もうこれ勤めるってレベルじゃねえぞ!!!

 

 今からでも頭とかに訴えた方が良いんちゃうかこの労働環境?

 いやまあ、L旧研時代の俺から給料なくせば、大体これになるんだけども。

 やだ……俺の前職の労働環境、劣悪すぎ?

 

 

 

 で、だ。

 

 このセフィラ化なんだけど、どうやら脳に強い負担がかかるらしい。

 元は人の精密器官だった脳を掻き出してAIに作り替えるんだから、当たり前と言えば当たり前か。

 

 この負担は、セフィラによってその大きさも耐性も個人差があるようだが……。

 アインは可能な限り自我への影響を抑え、なおかつ目的の支障にならないよう、影響範囲を絞った。

 

 結果としてセフィラたちからは、生前や光の体になった後に比べて、感情や情緒の抑制能力が劣っている。

 端的に言えば、キレたり絶望したりしやすくなっているわけだ。

 

 L社の煉獄化は、光の種シナリオのための犠牲でもあったが……。

 同時、Aが皆の自我を守るためにかけたセーフティでもあった、ということになるか。

 

 いや、だからって正当化はできねえぞボケ!!

 かつての仲間を蘇らせて、サビ残上等のクソカス労働環境押し付けるとか、人が犯せる中で最も重い罪だろうが!! 

 

 まあこっちの世界では、皆寝たり物食べたりしてストレス解消できる分、だいぶマシな状況ではあるけど……。

 それはあくまで比較の話であって、一般的に見ればWarp列車もびっくりの惨状だからねコレ!!

 

 

 

 ……そして、こっちが本題なんだが。

 

 もう一つ、セフィラ化による負荷は、あるものに大きな影響を与える。

 

 それが生前の記憶と、自己認識の連続性である。

 

 セフィラ化する際の負荷によって、ほぼ全てのセフィラたちは、生前の記憶を失っている。

 仮にそれを取り戻したとしても、連続性を喪い、生前と現在を繋げられない場合が多いのだ。

 

 マルクトなんかが顕著なんだが、Ruinaで生前の記憶を取り戻しても、一部のセフィラたちは「以前の自分」と「今の自分」を切り離して考える。

 記憶も人格も残ってはいるが、自己認識能力が切り離されているため、なんとなく自分のことだとは思えないわけだ。

 

 わかりやすいイメージとしては……頭に残っている、誰かの伝記か何かのように感じる、と言えばわかりやすいだろうか。

 どうにもそれを自分のことだと思えないわけだ。

 

 

 

 俺の前々世の原作知識だと、この記憶喪失の例外は2人だけ。

 

 Aへの信仰心でなんか耐え忍んでる狂信者、ホクマー。

 元調律者にそんなの効くわけねえだろこと、ビナー。

 

 なんならホクマーでさえ、自己認識はイカれてるらしく、ベンジャミンと完全にイコールではないらしい。

 極めて近しく、限りなく共感でき、けれど自分そのものではない……みたいな認識っぽかった。

 

 完全に記憶能力を残してるのはビナーだけで、やっぱ調律者ってイカれてんな~。

 

 ……なんて思ってたけど。

 なんか俺も普通にコナーの人生の続きって感覚なので、どうやらビナー側らしい。

 

 なんで??

 

 

 

 ……まあ俺のことはようわからんので、一旦棚に上げるとして、だ。

 

 ケセド。

 ダニエルが元になったそのセフィラもまた、記憶喪失の例外ではない。

 

 Lobotomyの頃は特に前世への言及がなかったため、生前の記憶が残っていなかったっぽくて。

 Ruinaの頃は、その記憶こそ取り戻したものの、「俺」の他に「ダニエル」という主語を使っていたこともあって、生前からの連続性は喪っているように思えた。

 

 勿論、確証はない。

 なにせダニエル/ケセドは高い演技力を持ってるからな。

 何が本音で何が嘘なのかわかったもんじゃない。

 

 あれは全部それっぽく演技してただけで、彼がダニエルの地続きであることは十分にあり得る。

 なんならダニエルは一人称に自分の名前を使うこともあったので、アレは単にそういう言い回しってだけだった可能性もある。

 

 

 

 ……だが、もし、そうではなかったら?

 

 彼が、カルメンとアンジェラのような関係性……。

 

 つまりは、似た形を持つだけの、赤の他人であったら?

 

 

 

「…………どうしよう、『友だち!』って感じの距離感で行って、苦笑いとかされたら」

 

 そう。そこが不安なんだわ。

 

 

 

 福祉チームセフィラ、ケセド。

 果たして彼は、ダニエルの地続きなのか?

 それとも、彼によく似た新たな命なのか?

 

 それ次第で、俺が彼に対して取るべき距離感は、めちゃくちゃ大きく変わる。

 

 だってさ、想像してみ?

 遠目に見て友だちっぽい人がいてさ、「おーい!」って呼びかけるじゃん?

 

 はい、振り返ったらよく似てるだけの他人でした。

 

 気まずすぎるだろ!!!

 

 あー、いやー、あなたの後ろにいる人に呼び掛けてたんスよ~……みたいな感じで誤魔化すしかねえじゃん!

 で、相手も普通に勘違いだったんだなって気付いて、苦笑いするじゃん!!

 

 嫌すぎる……! この気まずすぎる空気、とても耐えられない!!

 調律者の「妖精」のただ中に突っ込む方がまだマシだわ!

 

 

 

 ケセドはダニエルの続きなのか?

 あるいはダニエルではない、新たな命なのか?

 

 それは俺にとって、凄まじく重い問題だ。

 

 まぁどっちにしたって、ケセドとは絶対友だちになるけどさ。

 やっぱりファーストインプレッションって大事じゃん?

 流石にそこはキッチリ決めたいっていうかさ、ミスって変な感情持たれたくないわけよ。

 

 

 

「……手鏡とか持ってくれば良かった。髪、乱れたりしてないかな」

 

 あ、俺今箱だから髪ねえわ。

 

 ものすごいハゲ!!!!!!!!!

 

 

 

 * * *

 

 

 

 時間が無限にあるわけもなし、うだうだしていても仕方ない。

 俺は足を止めることなく、福祉チームに向かい……。

 

 そうして、辿り着いたそこに、彼の姿を認めた。

 

 

 

「ふんふふ~ん♪」

 

 青をテーマカラーにした箱の、後ろ姿。

 

 その箱の見た目だけであれば、それが誰なのか、解釈の余地も生まれただろうが……。

 俺のよく知る鼻歌なんか歌っちゃって、見慣れた要領でコーヒーを淹れているその様は、どう見たって彼がケセドであることを明かしていた。

 

 

 

「っ!」

 

 俺は咄嗟に物影に隠れ、悩む。

 

 どう声かけよう!? 結局結論が出ないまま着いちゃった!!

 

 

 

 いつもの? いつものいっとくか? お決まりの「やあダニエル」しとくか?

 これなら相手の反応窺えるもんな。もしかしたらエモい感じの再会も演出できるかもしれんし。

 

 いやでも待て、彼はダニエルじゃないかもしれないんだから、「は?」ってなって微妙な空気が漂うかも。

 ちょっとリスクがデカすぎるなこれは。気まずくなったら嫌だし。

 

 じゃあ、「やあケセド!」か?

 やや日和った感はあるけど、ローリスクハイリターンなハイブリッド選択肢。

 

 よしオーケーこれで行こう、

 何気無い感じで「やあケセド! 僕はダァト!」だ。

 で、なんか「はっ!」的な反応があったら「またの名をコナー!」で。

 反応がなかったら素直に自己紹介から入って、友達になってくれって握手求める感じで……うん、イケる!

 

 よし、チャートは完璧だ! いくぞ!!

 ケセドと友達になるRTA、いざ鎌──

 

 

 

「どうしたんだい? そんなところに隠れてないで、入りなよ」

「ひゃいっ!?」

 

 

 

 突如としてかけられた声に背を跳ねさせ、振り返ると。

 ケセドは、コーヒーカップ片手に、既にこちらに振り向いていた。

 

 ば……ばれちゃった。流石は天才エリート、気配察知までできるとは。

 

 いつも通り右手にカップ──L社のロゴ入ってるってことは、まさか正規のグッズなのこれ?──を持ち、ほかほかの湯気の中で微笑む、青色の箱。

 ケセドは薄っすらと喜色を浮かべ、こちらを見ている。

 

「あー、ええと、その……」

 

 驚きの余り二の句が継げない俺に、彼はニコニコエモートを浮かべ、言ってきた。

 

 

 

「ふふ、大丈夫、君のことは知ってるよ。

 パス担当セフィラ、ダァト。俺たちの仕事のサポートをしてくれるんだろう?

 ほら、せっかく来てくれたんだ、コーヒーでもどうだい?」

 

 

 

 

 

 

 …………ああ。

 ダニエルの友だちだったから、わかる。

 

 

 

 

 

 

 その声音は、友だちではなく、ただの知人に向けられるものだった。

 

 

 

 

 

 

 ……………………。

 

 うん。

 まあ、そうだよな。

 

 正直、ちょっと期待はしてたけど……。

 ああ、わかってる、仕方のないことだ。

 

 ダニエルは死んだんだろう。

 何があって死んだのかはわからないが……。

 あの頭の襲撃で負った傷の治療が間に合わず、手遅れになったのかもしれないし。

 そうでなくとも、なにせ都市だものな、死因なんてそこら中に掃いて捨てる程転がってる。

 

 死は、絶対の断絶だ。

 ダニエルが如何に天才でも、良い奴でも、俺の友だちでも……その原則からは逃れられない。

 

 死んだ者が生き返るなんて、そうある話じゃない。

 実に2度の転生を重ねた俺や、未だ自意識を保ってるビナーが異常なだけ。

 

 ダニエルにはもう会えない。

 そして、ケセドに罪はない。

 

 ……大丈夫、受け止められる。

 

 覚悟してたことだから。

 

 

 

 苦い想いを噛み砕き、呑み下し。

 俺は、ニコニコエモートを表示した。

 

 ……便利だね、電光掲示は。

 自分の覚えた感情じゃなく、出すべき感情を表に出せるんだから。

 

「ああ、そうだな。ダァトだ、これからよろしく頼むよ。

 もし何かサポートできることがあったら言ってくれよな、格安でサービスしちゃる☆」

 

 そう言ってウインク。

 いや、ウインクはできねえや。目が1つしかないから。

 

 

 

 ダニエルは消えて、ここにいるのはケセドだ。

 であれば……俺は改めて、ケセドの友だちになろう。

 

 煉獄の中で自らを恥じ続けるかもしれない彼の、ほんの細やかな支えとなろう。

 

 それがきっと、消えていった俺の友だちへの、最後の手向けになるはずだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……と、我ながら、ちょっと悲愴な感じで決意を固めていたんだが。

 

 

 

 ずいと、淹れたてのコーヒーの入った温かなカップと共に。

 彼は、その言葉を俺に届けた。

 

 

 

 

 

 

「おや~? いつもの挨拶はないのかい?

 

 ほら、『やあダニエル!』ってさ。

 

 俺、あの挨拶、結構好きだったんだけどな~」

 

 

 

 

 

 

 ……………………。

 

 

 

 な~~~るほど、ね!!

 

 このイタズラっ子がよォ!!!

 

 

 

「おい騙したな!! 全然憶えてるじゃねえか!!」

「何のことかな~? 風邪気味なのか、ちょーっと声音がおかしくなっちゃったかもしれないけど、それだけのことだろう?」

「AIになった俺たちに風邪なんて概念はありませ~~~ん!

 も~っ、お前、俺がこういうの緊張するって知ってんだろうに!!」

「ふふっ。だからこそ、良い具合に解れただろう?」

「そーだねっ、ありがとよっ!!!」

 

 ぺちんと、3級フィクサー弱パンチを1発。

 

 俺は改めて、友だちに、挨拶を投げかけた。

 

 

 

「やあダニエル、そしてケセド! 僕はコナー改めダァトだ!」

 

 

 

 あー、箱の姿で良かった。

 

 人の体あったら、真っ赤になった顔と隠せない笑み、それからちょっと漏れた涙を見られて、更に揶揄われるところだったな。

 

 

 

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