他の味方が死亡した場合、その舞台の間幕の開始時にパワー1と忍耐1を得る(最大2回)。舞台開始時に感情レベルを初期化。
老婆心バリバリで忠言をくれたおビナ様とのお茶会を終え、改めて福祉チームに向かう。
正直、ビナーの忠言はかなり助かった。
冷静になって考えてみれば、さっきまでの俺、完全に焦燥に囚われてたもんね。
とにかく早くケセドと……いいや、ダニエルと話したかった。
そして、彼の左腕がなくなったことは自分の責だと認め、然るべき報いか償いか赦しか、そのどれかを求めてしまっていた。
だけど、それは己の為の行動でしかない。
さっさと俺自身の自己嫌悪や罪悪感を消し去りたい、楽になりたいという逃げだ。
……まったく、情けない。カルメンのことを笑えないな。
俺が利己的な人間っていう自覚は持ってるつもりだったけど、これからは一層気を付けないと。
とにかく、俺が今すべき行動は、それじゃない。
皆が俺を信じ、希望を見てくれてるっていうんなら、俺はしっかりそれを体現せねばならないし……。
ダニエルならざるケセドに対しても、正面から向き合わなければなるまいよ。
そんなわけで、俺は福祉チームへと足を向けながらも、脳内の情報を整理することにした。
幸い、アンジェラに渡されたようなものではないにしろ、俺の脳内にも大雑把な台本の流れは入っている。状況の整理くらいはできるはずだ。
特に今考えるべきは……セフィラ化について、だな。
セフィラ化。
これは簡単に言うと、かつてL旧研に縁のあった人間の脳の複製を箱詰めしてAI化して働かせるという、とんでもねえ鬼畜の所業である。
かつてコナーだった俺が、今はダァトとして生まれ変わったように。
かつてガリオンだった彼女が、今はビナーとして生まれ変わったように。
既にそれぞれのフロアで、元々人間だったセフィラたちが目覚めているはずだ。
幸いと言えばいいのか、頭を抱えればいいのかはわからないが。
セフィラのメンツは原作のそれと、殆ど変わらないらしい。
指揮チームセフィラ「マルクト」となる、エリヤ。
情報チームセフィラ「イェソド」となる、ガブリエル。
教育チームセフィラ「ホド」となる、ミシェル。
懲戒チームセフィラ「ゲブラー」となる、カーリー。
福祉チームセフィラ「ケセド」となる、ダニエル。
以上がL旧研の研究者から選ばれた、セフィラとなる者たちだ。
例外的に、記録チームセフィラ「ホクマー」は、まだここにいない。
いや、台本的に考えると、ホクマーになる存在は施設内にいるっぽいんだけど……とにかく今は、記録チームのセフィラは空席の状態だ。
まあ、このセフィラも、しばらくしたら来ることになるだろう。
多分、俺の手によって。
で、職員以外のセフィラだと……。
安全チームセフィラ「ネツァク」となる、ジョバンニ。
中央本部チームセフィラ「ティファレト」となる、エノクとリサ。
抽出チームセフィラ「ビナー」となった、ガリオン。
彼らに至っては、殆ど巻き込み事故みたいなものだ。
特にジョバンニなんか、アインとそう因縁があったわけでもなく、自分で生き方を定めたはずなのに、まさかのクソカスセカンドライフ。
そら死にたがりにもなりますわ。マジでごめんね俺の友だちのせいでね……。
以上、9つのセフィラとなった10人の死者たち。
彼らは永遠の安寧から叩き起こされ、L社というとんでもねえブラック企業で働くこととなる。
当然、拒否権はない。
給料もない。
休暇もない。
福利厚生なんてあるわけない。
死んでも後任に交換されて再起動するだけで解放されない。
もうこれ勤めるってレベルじゃねえぞ!!!
今からでも頭とかに訴えた方が良いんちゃうかこの労働環境?
いやまあ、L旧研時代の俺から給料なくせば、大体これになるんだけども。
やだ……俺の前職の労働環境、劣悪すぎ?
で、だ。
このセフィラ化なんだけど、どうやら脳に強い負担がかかるらしい。
元は人の精密器官だった脳を掻き出してAIに作り替えるんだから、当たり前と言えば当たり前か。
この負担は、セフィラによってその大きさも耐性も個人差があるようだが……。
アインは可能な限り自我への影響を抑え、なおかつ目的の支障にならないよう、影響範囲を絞った。
結果としてセフィラたちからは、生前や光の体になった後に比べて、感情や情緒の抑制能力が劣っている。
端的に言えば、キレたり絶望したりしやすくなっているわけだ。
L社の煉獄化は、光の種シナリオのための犠牲でもあったが……。
同時、Aが皆の自我を守るためにかけたセーフティでもあった、ということになるか。
いや、だからって正当化はできねえぞボケ!!
かつての仲間を蘇らせて、サビ残上等のクソカス労働環境押し付けるとか、人が犯せる中で最も重い罪だろうが!!
まあこっちの世界では、皆寝たり物食べたりしてストレス解消できる分、だいぶマシな状況ではあるけど……。
それはあくまで比較の話であって、一般的に見ればWarp列車もびっくりの惨状だからねコレ!!
……そして、こっちが本題なんだが。
もう一つ、セフィラ化による負荷は、あるものに大きな影響を与える。
それが生前の記憶と、自己認識の連続性である。
セフィラ化する際の負荷によって、ほぼ全てのセフィラたちは、生前の記憶を失っている。
仮にそれを取り戻したとしても、連続性を喪い、生前と現在を繋げられない場合が多いのだ。
マルクトなんかが顕著なんだが、Ruinaで生前の記憶を取り戻しても、一部のセフィラたちは「以前の自分」と「今の自分」を切り離して考える。
記憶も人格も残ってはいるが、自己認識能力が切り離されているため、なんとなく自分のことだとは思えないわけだ。
わかりやすいイメージとしては……頭に残っている、誰かの伝記か何かのように感じる、と言えばわかりやすいだろうか。
どうにもそれを自分のことだと思えないわけだ。
俺の前々世の原作知識だと、この記憶喪失の例外は2人だけ。
Aへの信仰心でなんか耐え忍んでる狂信者、ホクマー。
元調律者にそんなの効くわけねえだろこと、ビナー。
なんならホクマーでさえ、自己認識はイカれてるらしく、ベンジャミンと完全にイコールではないらしい。
極めて近しく、限りなく共感でき、けれど自分そのものではない……みたいな認識っぽかった。
完全に記憶能力を残してるのはビナーだけで、やっぱ調律者ってイカれてんな~。
……なんて思ってたけど。
なんか俺も普通にコナーの人生の続きって感覚なので、どうやらビナー側らしい。
なんで??
……まあ俺のことはようわからんので、一旦棚に上げるとして、だ。
ケセド。
ダニエルが元になったそのセフィラもまた、記憶喪失の例外ではない。
Lobotomyの頃は特に前世への言及がなかったため、生前の記憶が残っていなかったっぽくて。
Ruinaの頃は、その記憶こそ取り戻したものの、「俺」の他に「ダニエル」という主語を使っていたこともあって、生前からの連続性は喪っているように思えた。
勿論、確証はない。
なにせダニエル/ケセドは高い演技力を持ってるからな。
何が本音で何が嘘なのかわかったもんじゃない。
あれは全部それっぽく演技してただけで、彼がダニエルの地続きであることは十分にあり得る。
なんならダニエルは一人称に自分の名前を使うこともあったので、アレは単にそういう言い回しってだけだった可能性もある。
……だが、もし、そうではなかったら?
彼が、カルメンとアンジェラのような関係性……。
つまりは、似た形を持つだけの、赤の他人であったら?
「…………どうしよう、『友だち!』って感じの距離感で行って、苦笑いとかされたら」
そう。そこが不安なんだわ。
福祉チームセフィラ、ケセド。
果たして彼は、ダニエルの地続きなのか?
それとも、彼によく似た新たな命なのか?
それ次第で、俺が彼に対して取るべき距離感は、めちゃくちゃ大きく変わる。
だってさ、想像してみ?
遠目に見て友だちっぽい人がいてさ、「おーい!」って呼びかけるじゃん?
はい、振り返ったらよく似てるだけの他人でした。
気まずすぎるだろ!!!
あー、いやー、あなたの後ろにいる人に呼び掛けてたんスよ~……みたいな感じで誤魔化すしかねえじゃん!
で、相手も普通に勘違いだったんだなって気付いて、苦笑いするじゃん!!
嫌すぎる……! この気まずすぎる空気、とても耐えられない!!
調律者の「妖精」のただ中に突っ込む方がまだマシだわ!
ケセドはダニエルの続きなのか?
あるいはダニエルではない、新たな命なのか?
それは俺にとって、凄まじく重い問題だ。
まぁどっちにしたって、ケセドとは絶対友だちになるけどさ。
やっぱりファーストインプレッションって大事じゃん?
流石にそこはキッチリ決めたいっていうかさ、ミスって変な感情持たれたくないわけよ。
「……手鏡とか持ってくれば良かった。髪、乱れたりしてないかな」
あ、俺今箱だから髪ねえわ。
ものすごいハゲ!!!!!!!!!
* * *
時間が無限にあるわけもなし、うだうだしていても仕方ない。
俺は足を止めることなく、福祉チームに向かい……。
そうして、辿り着いたそこに、彼の姿を認めた。
「ふんふふ~ん♪」
青をテーマカラーにした箱の、後ろ姿。
その箱の見た目だけであれば、それが誰なのか、解釈の余地も生まれただろうが……。
俺のよく知る鼻歌なんか歌っちゃって、見慣れた要領でコーヒーを淹れているその様は、どう見たって彼がケセドであることを明かしていた。
「っ!」
俺は咄嗟に物影に隠れ、悩む。
どう声かけよう!? 結局結論が出ないまま着いちゃった!!
いつもの? いつものいっとくか? お決まりの「やあダニエル」しとくか?
これなら相手の反応窺えるもんな。もしかしたらエモい感じの再会も演出できるかもしれんし。
いやでも待て、彼はダニエルじゃないかもしれないんだから、「は?」ってなって微妙な空気が漂うかも。
ちょっとリスクがデカすぎるなこれは。気まずくなったら嫌だし。
じゃあ、「やあケセド!」か?
やや日和った感はあるけど、ローリスクハイリターンなハイブリッド選択肢。
よしオーケーこれで行こう、
何気無い感じで「やあケセド! 僕はダァト!」だ。
で、なんか「はっ!」的な反応があったら「またの名をコナー!」で。
反応がなかったら素直に自己紹介から入って、友達になってくれって握手求める感じで……うん、イケる!
よし、チャートは完璧だ! いくぞ!!
ケセドと友達になるRTA、いざ鎌──
「どうしたんだい? そんなところに隠れてないで、入りなよ」
「ひゃいっ!?」
突如としてかけられた声に背を跳ねさせ、振り返ると。
ケセドは、コーヒーカップ片手に、既にこちらに振り向いていた。
ば……ばれちゃった。流石は天才エリート、気配察知までできるとは。
いつも通り右手にカップ──L社のロゴ入ってるってことは、まさか正規のグッズなのこれ?──を持ち、ほかほかの湯気の中で微笑む、青色の箱。
ケセドは薄っすらと喜色を浮かべ、こちらを見ている。
「あー、ええと、その……」
驚きの余り二の句が継げない俺に、彼はニコニコエモートを浮かべ、言ってきた。
「ふふ、大丈夫、君のことは知ってるよ。
パス担当セフィラ、ダァト。俺たちの仕事のサポートをしてくれるんだろう?
ほら、せっかく来てくれたんだ、コーヒーでもどうだい?」
…………ああ。
ダニエルの友だちだったから、わかる。
その声音は、友だちではなく、ただの知人に向けられるものだった。
……………………。
うん。
まあ、そうだよな。
正直、ちょっと期待はしてたけど……。
ああ、わかってる、仕方のないことだ。
ダニエルは死んだんだろう。
何があって死んだのかはわからないが……。
あの頭の襲撃で負った傷の治療が間に合わず、手遅れになったのかもしれないし。
そうでなくとも、なにせ都市だものな、死因なんてそこら中に掃いて捨てる程転がってる。
死は、絶対の断絶だ。
ダニエルが如何に天才でも、良い奴でも、俺の友だちでも……その原則からは逃れられない。
死んだ者が生き返るなんて、そうある話じゃない。
実に2度の転生を重ねた俺や、未だ自意識を保ってるビナーが異常なだけ。
ダニエルにはもう会えない。
そして、ケセドに罪はない。
……大丈夫、受け止められる。
覚悟してたことだから。
苦い想いを噛み砕き、呑み下し。
俺は、ニコニコエモートを表示した。
……便利だね、電光掲示は。
自分の覚えた感情じゃなく、出すべき感情を表に出せるんだから。
「ああ、そうだな。ダァトだ、これからよろしく頼むよ。
もし何かサポートできることがあったら言ってくれよな、格安でサービスしちゃる☆」
そう言ってウインク。
いや、ウインクはできねえや。目が1つしかないから。
ダニエルは消えて、ここにいるのはケセドだ。
であれば……俺は改めて、ケセドの友だちになろう。
煉獄の中で自らを恥じ続けるかもしれない彼の、ほんの細やかな支えとなろう。
それがきっと、消えていった俺の友だちへの、最後の手向けになるはずだから。
……と、我ながら、ちょっと悲愴な感じで決意を固めていたんだが。
ずいと、淹れたてのコーヒーの入った温かなカップと共に。
彼は、その言葉を俺に届けた。
「おや~? いつもの挨拶はないのかい?
ほら、『やあダニエル!』ってさ。
俺、あの挨拶、結構好きだったんだけどな~」
……………………。
な~~~るほど、ね!!
このイタズラっ子がよォ!!!
「おい騙したな!! 全然憶えてるじゃねえか!!」
「何のことかな~? 風邪気味なのか、ちょーっと声音がおかしくなっちゃったかもしれないけど、それだけのことだろう?」
「AIになった俺たちに風邪なんて概念はありませ~~~ん!
も~っ、お前、俺がこういうの緊張するって知ってんだろうに!!」
「ふふっ。だからこそ、良い具合に解れただろう?」
「そーだねっ、ありがとよっ!!!」
ぺちんと、3級フィクサー弱パンチを1発。
俺は改めて、友だちに、挨拶を投げかけた。
「やあダニエル、そしてケセド! 僕はコナー改めダァトだ!」
あー、箱の姿で良かった。
人の体あったら、真っ赤になった顔と隠せない笑み、それからちょっと漏れた涙を見られて、更に揶揄われるところだったな。