3級フィクサーパンチ   作:アリマリア

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 前回のあらすじ

 復 活 の C





導きの月光よ

 

 

 

『改めて久しぶりね、コナー! ……あ、いや、違うわね。ここはやっぱりアレよアレ。

 やあコナー! 私はカルメン!! ふふっ、これ1回言ってみたかったの!』

『ちょっとあなた! 誰だかは知りませんが、私と主のパスを勝手に使うのはやめてください!!

 これは私と主の! 私と! 主の! パスなんです! 他人が土足で踏み込んでいい領域ではありません!! 大切な主従の繋がりなんです!』

『ああ、あなた、正義の騎士ね! ずっとコナーを守ってくれていた子でしょう?

 私のコナーを守ってくれてありがとう! あの頃はちゃんと挨拶もできなくてごめんなさいね』

『はい!? 主は私の主なのですが!? そして主を守るのは騎士として当然ですが!? あなたに言われるまでもなく主は私が守りますが!?』

『あははっ、そう言ってくれると頼もしいわね! 私じゃあコナーのことを守ってあげられないから……あなたの騎士としての誇りを信じて任せるわ、騎士ちゃん!』

『な、何ですかいきなり、騎士ちゃんなんて……いや、というか本当に何なんですかあなた!?』

『私? 私はコナーのよ!』

『奥方様!?!?』

「普通に嘘吐くのやめろ」

 

 

 

 所変わってダァトフロア。

 

 俺は緑色に輝く水槽の前で、ALEPH級E.G.O「貫く夜空の剣」……略して夜空剣を手に、脳内に響き渡る会話に眉根を寄せていた。

 

 騎士は無論俺にとって快い相手であり、もう一方のアホも……まあ、少なくとも、不快な相手ではない。

 そんな2人と話すことそのものは、むしろ俺の心を震わせてくれるはずだった。

 

 ただ、単純に脳内がビカビカしてうるせえ。

 

 普通、頭の中に響くのは、自分の声だけだ。

 そこに1人追加されるだけなら、まあ処理できる。普通に話し合ってるのと変わんないしね。

 

 だが、そこに更に1人追加されると、一気に話が変わる。

 特にそれが、生前からクッソやかましかった、姦しさが服を着たような女であると。

 

 ていうか騎士まで乗せられてハイテンションなっちゃってるし。

 大丈夫? キャラ崩壊してない? 可愛いからいいけど。

 

『可愛い!? 私以外に可愛いって言った! もうっ、コナーったら相変わらず浮気性なんだからっ!』

 

 うるせぇ。

 あと浮気はしてねえ。

 そもそもお前と付き合ってるないし結婚しているという事実は存在しないんだよ。

 

 

 

 …………さて。

 

 俺はゆっくりと水槽に歩み寄り、その表面に触れる。

 

『あんっ♡』

 

 あのごめんね、今シリアスシーンだから、マジでちょっと黙っててもらえませんか?

 

『主よ、お任せください! この無法者は私が黙らせてみせ……!?

 なっ、なんですかこれっ、何故私の開いたパスなのに遮断できないんですかっ!?』

『マジカル☆カルメンパワーッ!!』

『マ、マジカ……うっ、頭が……!』

 

 駄目だこれ、騎士もすっかりこの女のギャグギャグしい雰囲気に呑まれてやがる。

 ていうかカルメンコイツ、いつにも増してテンションが高ぇよ。

 

『当たり前じゃない! 久しぶりに……本っ当に久しぶりに、コナーに会えたんだもの!

 いや、会うで言えば、ここ数日も会ってたんだけどね? ふふっ、毎日通ってくれたもんね♡』

「仕事なんだから当たり前なんだよなぁ……」

 

 大っぴらには言えないけど、俺の本命の役割は、あくまでお前の護衛とアホXの間引きぞ?

 定期的に護衛対象を見に行くのは当然でしょうよ。

 

『ほんと~? 本当の本当の本当に、ただお仕事ってだけで私に会いに来たのかしら?

 だったらあんなに俯いて物思いにふけったりしないわよね? 試しに水槽に触ったりしないわよね~? あんな泣きそうな瞳で寂しいよ~なんて言わないわよね~~~!?』

 

 カルメン。

 

『はい黙ります! 腹パンだけはやめて!』

 

 結局1回もしたことなかっただろうがよ。

 

 

 

「…………ふぅ」

 

 話の間の取り方。

 俺の意思の汲み取り。

 互いの精神への理解度。

 楽し気で弾んだ口調。

 焼け付くような言葉の熱量。

 

 その全ては、確かに、俺の知るカルメンのものだ。

 少しばかり、テンションがイカれてはいるが……それも彼女に起こり得た範囲のものでしかない。

 

 だが、だからこそ、訊いておく必要があるだろう。

 

「お前は、本当にカルメンか?」

『んん? なんというか、おかしな質問ね?

 この暖かくて優し気な声に、あなたは聞き覚えがあるんじゃない?』

「…………」

 

 

 

 正直に言うと。

 俺は、井戸の中に投げ込まれることを、カルメンがあの後辿った道行きを、理解しきれていない。

 

 だがそれでも、こうなんじゃないかという、考察にもならない妄想ならある。

 

 それは即ち……。

 カルメンは、釣瓶に加工され、井戸に投げ込まれた時。

 

 井戸の水に、思考を汚染されたのではないか、ということだ。

 

 

 

 光は、人の自制心を破り、心を解き放つ力を持っている。

 10,000年の煉獄を経て悟りを開き、それに溶けていったアインは、人の宿す心の殻の剣の肯定者となった。

 

 その一方、並べて語られやすいカルメンは……しかし、最初から光に溶けたわけではない。

 彼女は「生きたい」と望みながらもその命を絶たれ、釣瓶として加工された上で、濁り水の溢れる井戸の中へと投げ落とされたのだ。

 

 カルメンは釣瓶として、井戸の中に緩慢に溶け行かないだけの適性を備えていた。

 だがこれは、必ずしも井戸の水から影響を受けないとまで保証されるものではない。

 

 人生で初めて自身の悪性を直視し、根源的で利己的な望みを自覚した、その瞬間。

 都市の人々の集合無意識、汚泥が如き井戸水の中に投げ込まれたのだ。

 

 だからこそ、彼女の精神は「そう」なったんじゃないか?

 

 誰かの迷惑や苦痛、あるいは死すらも、顧みる必要はない。

 何故なら、最後の最期に望んだ「生きたい」という根源的な欲求こそ、自分の唯一の本心で……。

 それを解き放つことこそが、都市の人々の救いに繋がるのだと。

 

 そんな風に、思考と視線の方向性を、固定されてしまったんじゃないか?

 

 苦痛の連鎖を形成する集合無意識の中に、ただ一人溶けていったカルメン。

 彼女が、周りの汚濁に染められるようにして、自らを決定づけてしまったとして。

 

 ……ソレは、果たして。

 

 「誰もが自由に生きられるように」と純に願い、行動した……。

 その目に恒星のような輝きを持っていた、あのカルメンと、同一人物なのか?

 

 俺を誘うかのようなこの楽し気な声は、本当に、あの日々の中俺の隣にあった「彼女」のものなのか?

 

 

 

 行き過ぎれば、テセウスの船やらスワンプマン問題にも繋がる、連続性への懐疑。

 

 果たしてそれに応えたのは……カルメンではなく、騎士だった。

 

『いえ、違います主よ! そもそもこの女、井戸の中で自己の絶対性を保ち影響を遮断している……!

 何か防護膜のようなもので自分を覆い、それを使って私の引いたパスに割り込んでいるのです!

 ……いいえ、違う? これは膜ではなく……もしや、『貫く夜空の剣』と同じ、殻!?』

『おお、流石は騎士ちゃん、目敏いわね!』

 

 俺の脳内で、驚愕の声を響かせる騎士に。

 

 カルメンは、いつもの勝気な口調で、自慢するように言った。

 

 

 

『そう、E.G.O!

 私、いつの間にかカーリーと同じように、E.G.Oを開花させてたみたいでね?

 釣瓶に加工されて井戸の中に投げ込まれた後も、それで自我を守ってたのよ!』

 

 

 

「…………はい???」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 E.G.O。

 

 人が自らの本心と向き合い、その殻を外界と戦うための剣として形成したもの。

 襲い来る敵を、害意を、影響を、自らを冒すものを跳ね除けるための力だ。

 

 光の種が都市中にばら撒かれ、人の心が解放的になった後ならばともかく……。

 今の人類の心は暗がりに落ち、囚われ、抑圧されている。

 そのため、自らの殻を破ることも、あるいは剣にすることも、多くの人にとっては不可能な芸当だ。

 

 俺の知る限り、これを為せたのはただ一人。

 試製E.G.Oに触れ、その浸食に逆らい続け、さかしまに自らの心の殻に触れた女、カーリーだけだ。

 

 ……だけ、だった。

 

 

 

 まさか、光の種も宿っていないどころか、E.G.Oにまともに触れたことのない人間が、自分だけのE.G.Oを花開かせるなどとは……。

 

 俺は到底、想像もしていなかったのだ。

 

 チャート? やっこさんはもう死んだよ。

 

 

 

『多分、あの時ね。J社の巣のホテルに泊まった、あの夜。

 コナーが導いてくれたおかげで、私は、目を逸らし続けた本当の私を直視できた。

 そして私はそんな自分を受け入れて、善も悪も含んだ私として、この残酷な世界に立ち向かうと決めた』

 

『あの日、あなたの手で容赦なく、私のちっぽけな世界が壊されて。

 そしてやっぱりあなたが、私の見上げる新たな世界を教えてくれたの』

 

『エクリプス。

 私を私にした、冷たく、けれど優しい、導きの月の光……。

 コナー。あなたが私に、これをくれたのよ』

 

 

 

 俺ぇ……?

 

 いや、なんかカッコ良くキメてるところ申し訳ないけどさ、それもう俺関係ないよ。

 ちょっと人から諭された程度で光の種なしにE.G.Oを開花できるんなら、そりゃもう本人の資質以外の何物でもない。

 

 いや……マジかぁ。

 

 元より、カルメンが精神的にバケモンだってことは、わかってたつもりだったが……。

 あそこで、たった十数秒程度で、恐らく完全なE.G.O覚醒にまで至ってた、と?

 

 こわ~……。

 カーリーがフィジカル最強、アインがインテリ最強なら、カルメンはメンタル最強だわこりゃ。

 

 

 

「え、じゃあ何、お前やろうとすれば鎧ドーン! とか出せたの? もしかして頭の襲撃の時も裏で戦ってたりしたの?」

『ああいえ、期待させて申し訳ないんだけど、私、外にはE.G.Oを出せないみたい。

 ほら、私ってか弱い乙女じゃない? 荒事は似合わないっていうか?』

 

 乙女って歳か? 流石に恥ずかしくないか?

 

『んん! ……私のE.G.Oは、体でなく心を守るもの。

 物質的には表出しない、内在的、内在型のE.G.Oってところかしら?』

「はえ~……」

 

 ……なんだっそら!?

 

 内在的E.G.O!?

 普通に初耳! そんな概念あんの!?

 いやまあ、今カルメンが名付けたんだから、この瞬間に初めて発生したんだろうけど!

 

 

 

 カルメンは「あくまで仮説だけど」と言葉を続けた。

 

 曰く、カーリーのもののような開花E.G.Oは、外界から来る物理的な侵害を押し留めて身体を守り、それを通して心を守るもの。

 対し、内在型E.G.Oは、外界から来る精神的な侵害を跳ね除け、心と同時に身体を守るもの、ってところかしら……と。

 

 要するに、対物理ではなく、対精神特化E.G.O。

 はぁ~、そういうのもあるのか!? 面白~~!!

 

 

 

 いや、それにしたってお前、人類総体の意思による汚染を単騎で跳ね除けてるのは……ちょっとお前さん怪物すぎないかい!?!?

 

『えへへっ、照れるわね!』

 

 褒めてねえよビビってんだよ!!!

 

 

 

 * * *

 

 

 

『そんなわけで、理解してもらえた? 私は私のままってこと!

 心配しなくとも、あなたの愛しいカルメンその人よ! まあ、体は脳と脊髄以外なくなっちゃったけど!』

「いやまあ……ひとまず理解はした。正直、ちょっとまだ受け止められてないけど。

 あと、愛おしくはない」

『酷いっ! でもそんなツンツンっぷりも懐かしい!

 ああ、やっぱり私、あなたのことが好きよ、コナー!』

「体と共に恥を捨てた奴は強ぇなあ。

 いや、元々持ち合わせてないタイプだったっけ?」

 

 もはや思考停止、呆れの領域である。

 すげえなコイツ、無敵かよ。

 

 ……まあ、でも。

 嬉しいっちゃ嬉しいけどな。

 

 久しぶり、カルメン。元気そうで何よりだ。

 

『えへへっ、嬉しいなんてっ♡

 私もコナーがコナーのままで、本っ当に嬉しいわ♡』

 

 ていうかお前も心読めるんか~~い!!

 クソッ、もう下手なこと考えられなくなっちまった!!

 

 

 

 俺が思わず口を閉ざした一方で。

 俺の騎士は、慌てたように声を出した。

 

『そ、その、主とあなたが良い仲……で、あることは理解しましたが。

 そうだとして、どうやってあなたはこのパスに割り込んで……!?』

『ん? ああ、あなたたちって、その剣をアンテナみたいに使ってるじゃない?

 井戸に連なる存在である騎士ちゃんから、物質世界のコナーへ、あるいはその逆に声を届け合える、送受信のためのアダプター。

 それを使えば、ずっと見ているしかできなかった私も、コナーに声を届けられるかなーって思って』

『……思って?』

『なんとなく、E.G.Oでこちょこちょーってやったらできちゃった☆』

『主! なんですかこの人は!?』

「変人」

『やんっ♡ これこれ、この酷いあしらい方っ♡ 好き♡♡』

「ごめん、変態の間違いだったらしい」

 

 

 

 ……ていうか、今の騎士はカルメンを個人として認識できてるんだな。

 

 そういえばビナーのことも「あの時主を殺そうとした者」って言ってたし……。

 これも性質の変異による差異なのか。彼女は今、俺以外の人間も、少なからず個人として見ることができるらしい。

 

 騎士も、カルメンも。

 変わらないようでいて、ぐんぐん前に進んでるんだな。

 

 ずっと停滞するしかない雑魚としちゃ、羨ましいことこの上ないぜ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「ふぅ……」

 

 ケセド、騎士に続き、カルメンまで。

 俺が喪ったと思っていた繋がりが、なんか続々と集ってきた。

 

 正直に言うと、めちゃくちゃ嬉しい。

 本当に、死ぬほど、頭が割れるくらいに嬉しい。

 

 そりゃそうだ。

 死んだと思っていた友だち、騎士、そして……何? セフレ? の意志が、未だ生きていたと知れたんだ。

 そんなの、嬉しくないわけないじゃん?

 

 

 

 そんなわけで、俺はカルメンの手前渋い顔こそしているが、内心では……まあ、ちょっとばかり、歓喜に浸っていた。

 

 これまで頑張ってきて良かったなあ、なんて達成感を得て……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈! 光の種シナリオエラー !〉

 

〈! 光の種シナリオエラー !〉

 

〈! 光の種シナリオエラー !〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 唐突に響き出したエラー音と、意味深なアナウンスに、冷や水を浴びせられる。

 

 

 

 ……まあ、1周目だもんな。そら数日だわな。

 

 あー……くそ、割と幸せの絶頂気分だったんだけどな~。水差されちゃったわ。

 

 

 

『主よ、これは……!? 敵襲ですか!?』

『これって……シナリオ……?』

 

 全く状況が掴めていないらしい騎士と、微妙に測りかねてるっぽいカルメン。

 彼女たちに事情を説明している暇は……ないだろうな。

 

「今回はここまでか。あーくそ、この感情、忘れたくねー。

 あ、でも記憶を消してもう1度、っていうオタクの夢ではあるか、これ」

 

 俺はその場に大の字に寝転がる。

 そうすると……フロア全体が、いいや、L社地下本部全体が、揺れているのがわかった。

 

 そのまま、揺れはどんどん酷くなる。

 このまま際限なく大きくなっていきそうな程に。

 

 

 

「主よ、お傍に!」

 

 俺を心配してか、眩い光を伴って騎士が現れ、周囲を警戒しながら俺の体を抱き起そうとしてくれる。

 相変わらず健気な騎士に苦笑しつつ、俺は……。

 

「騎士、次の俺にもよろしくな。

 カルメンも……まあ、どうなるかわからんけど、また会えたら嬉しいわ」

 

 最後に、そんな言葉を遺した。

 

 

 

 ……そうして、揺れが最高潮に到達した時。

 

 白い光が全てを呑み込んで……俺たちを、消し飛ばした。

 

 

 

 

 

 

-反復0回目 終了-

 

 

 

 

 

 

〈! 光の種シナリオ再起動 !〉

 

 

 

 

 

 







 ダァト「カルメン恋しいんだよ! 出でよ!!」
 カルメン「ほいよw」ゥゥゥス(復活)

 リブート「カルメン邪魔なんだよ! 消えろ!!」
 カルメン「ほいよw」スゥゥゥ(パス断絶)



(Limbus雑記)
 先日おはガチャでアナウンサーキラさん当たって、お布団の中から飛び起きました。こんなことあるんだ……。
 まあ作者はまだキラさんが誰か存じ上げないんですが、Xでよく回ってくるので多分人気キャラですね! ヤッター!

 それと、中指末兄さんはつい先日戦り合ったので印象深いんですが、よりにもよってクーポン泥棒に人格被せられてて笑っちゃった。
 せっかくなので、6章はクーポンで突っ込みたいと思います。全員、処刑だァーー!!
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