3級フィクサーパンチ   作:アリマリア

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ガキがよ……美味いもん食ってぐっすり寝てろ……。

 

 

 

 俺がダニエルの金魚の糞としてL旧研に所属してから、暫く時間が経った。

 

 既にL旧研には、例のメンツ(セフィラ組)が殆ど揃っている。

 

 熱意はあるんだけど、どうしてもポンな面が目立つ研究者その1、エリヤ。

 潔癖症だが、こう見えて割と融通も利く研究者その2、ガブリエル。

 カルメン推薦の気弱で未成年な研究者その3、ミシェル。

 カーリーが外郭で拾ってきたロリショタ、エノクとリサ。

 ご存知最強フィクサー、この前ついに1級に上り詰めたバケモン、カーリー。

 俺の友だちでもあり、アインやベンジャミンに並ぶレベルの天才カフェイン中毒者、ダニエル。

 アインファンボ、ベンジャミン。

 

 ここに諸悪の根源カルメン、魔王アインを加えたものが、L旧社研究所の主要メンバーとなる。

 まあ実際には、そこに用心棒の雑魚な方こと、俺も加わっているんだけども。

 

 

 

 ぶっちゃけ俺は、L旧研のメンバーは全員カルメンキチな一神教徒のイメージを持ってたんだが……。

 実際に属してみると、案外そうでもなかった。

 

 というのも、地味にアインが求心力あるんだよな。

 いつもむっつり黙り込んでて、しかし話して見るとすごく理知的でクールな大人の男性。

 まあ人気が出るのもわかるって属性だ。俺は嫌われてるっぽくて、あんま親交ないけど。

 

 アインファン会員1号こと狂信者ベンジャミンは言うに及ばず。

 エリヤは所属の発端こそカルメンだったみたいだが、研究所に入ってからアインの才能に脳を焼かれたか、割と心酔気味。

 後はガブリエルなんかも、その服装のだらしなさをたしなめつつも、アインの能力に対しては敬意を抱いているようだった。

 この3人は、どちらかと言えばアインに付いて行っている感じだな。

 

 一方で、気弱なミシェルはアインの放つ無意識の圧が辛いのか距離を置きがちで、ダニエルも微妙にソリが合わないらしくそこまで距離が近くはない。

 この2人に、カルメンと絡む(右側)ことに定評のあるカーリーを加えて、3人はカルメン側である。

 

 勿論全体的に見れば、研究員たちは明るく前向きなカルメンを中心に結束してるんだけど……。

 なんだかんだ、カルメン亡き後リーダーを任される程度には、アインもまた皆の信を集めているわけだ。

 

 L旧研は現状、この2人を核として回っていると言っていいだろう。

 

 

 

 では、そんな研究員やフィクサーに対して。

 ここまで俺が言及しなかったエノクにリサ、そして俺自身はどんな立ち位置でいるかと言えば……。

 

 俺たちはアインにもカルメンにも付かず。

 

「やあリサ! 僕はコナーだ!」

「うるっさいわね相変わらず! 早く行くわよ、ほら、エノクも!」

「うん」

「エノクは素直で可愛いなぁ。それに比べてリサ!!」

「何よ!」

「可愛いね^^」

「キモっ」

「;;」

 

 3人で楽しく遊んでます。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 エノクとリサ。

 この2人は他の奴らと違って、研究者でもなければフィクサーでもない。

 いわば居候とでも言うべき存在であり、研究所のメンバーの大半からは年の離れた少年少女だ。

 

 少し前、外郭に捨てられていた彼らをカーリーが発見してしまい、心優しい彼女がそれを無視できるわけもなく、研究所に連れてきてしまった。

 そしてカルメンはその行為をいたく気に入り、彼らの世話をすることに決めたのだ。

 

 アイツさ、研究所のこと託児所か何かと勘違いしてない?

 誰が面倒見るんだよみんな忙しいのに。

 

 はい、俺ですね。

 そういう雑用的なことは俺の役目ですわよ。

 

 

 

 ハッキリ言って、ここを守る武力という点では、カーリー一人で事足りるのだ。

 外郭のバケモン共は確かに強いが、カーリーはなお強い。剣振ってるだけでバケモンが肉塊にジョブチェンジしていく様は、グロテスク以上に爽快だ。

 流石は1級フィクサー、都市の中でも上位の武力が保証されている人間。もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな。

 

 となれば、もう一人の用心棒として雇われた俺は、ぶっちゃけ持て余されがちなわけで。

 主に雑用とか補充とか使い走りとか運搬とか手伝いとか、そんな風に便利に使われているのが現状だ。

 

 言うならば図書館ならぬL旧研の召し使いである。

 ド底辺の3級フィクサー(偽)として頑張るぞい。

 

 さて、そんな俺に任せられた仕事の一つが、エノクとリサの面倒を見ることだ。

 Lobotomyでは、カルメンの最たる信者のアインが仕方なさそうに面倒を見ていたが……ぶっちゃけ彼は研究所の中核、技術と知識面における最高峰だ。

 そんな人間に、誰でもできるような子供の相手をさせるのは、非効率極まるというもので。

 

 そこで、微妙に役に立たない俺の出番というわけだ。

 俺がL旧研ではやや珍しい、人とコミュニケーションを全く苦にしないタイプということもあって、彼らを守ったり一緒に遊んだりすることが俺の業務に組み込まれているのであった。

 

 

 

 で。

 

 さっきは面倒と言ったが、この2人はぶっちゃけあんまり手の掛からない子供だ。

 エノクは視座がバチクソ高いので全然面倒を言わないし、リサは外郭の地獄が記憶に染み付いているので捨てられないようにと結構自制をしてくれる。

 

 個人的には、子供なんぞ大人に迷惑かけまくってなんぼ、我がまま言いまくってなんぼだと思うんだけどね。

 そして大人は、子供が安心してそれらを出来る状況を作ってなんぼである。

 

 最初の頃のリサは俺にも遠慮がちに接してきやがったので、視座を合わせて楽しくお話しまくったら、数日も経たずにフレンドリーになってくれおったわ。

 がっはっは、ガキは元気が一番!

 

「今日はどこに行くのよっ」

「どこに連れて行ってくれるのコナーお兄ちゃんっ♡ だろォん!?」

「コナー、どこに連れて行ってくれるの?」

「隣の区域の海辺まで歩こうか。一応、俺から離れないようにね」

「うん、わかった」

「ちょっと! なんでエノクにはちゃんと反応するのよ! ズルいじゃない!!」

「そりゃあお前……男ってのは、好きな子にイタズラしたくなっちゃうもんだからよ……言わせんなって、恥ずかしい///」

「えっ!? そ、な、あんた私のこと……!?」

「嘘〜^^」

「歯のぜんまいに喰われて死になさい!!!」

「俺の方が強いから無理^^」

 

 むきーっと突っかかって来るリサ。俺はその頭をむんずと掴む。

 するとあら不思議、ガキであるリサの両腕は短すぎて俺に届かず、ぶんぶんと虚空を殴りつけるばかりだった。

 

 ふーはっはっは、悔しいかガキ!^^

 悔しいと思うんなら、いっぱい飯食っていっぱい寝て身長伸ばせよ!^^

 

 

 

 普段の鬱屈を吐き出すように爆発しているリサ。

 腕をぐるぐる回す彼女を見て、エノクはどこか嬉しそうに微笑んでいた。

 

「……ありがとう、コナー。リサと遊んでくれて」

「構わんよ。それが俺の役割だし、子供が子供らしい顔してないのは解釈違いだし。

 ていうか、エノクももっとはしゃいでいいぞ。この可愛いプリンセスみたいに」

「か、可愛いプリンセスって!? それ、それ言うのやめなさい!! もう禁止!!」

「ふふ……僕も、そうした方が良いのかな」

 

 照れて顔真っ赤wwwなリサの横で、エノク少年はポケットに手ぇ突っ込んで、世を儚むような表情を浮かべていた。

 お前齢10も数えてねぇだろ、なんでそんな達観した感じしてんだよ……。

 

 ガキはもっと、馬鹿みたいに感情的であっていいんだ。

 自分の苛立ちとか鬱憤を他人のせいにしてぶつけて、楽しいことがあったら手の平返すように爆笑して、周りにめちゃくちゃ迷惑かけながら生きてりゃいい。

 

 ……そんな当たり前の在り方すら許されないんだから、やっぱこの環境って終わってるんだよな。

 巣には割と子育ての為の施設も揃ってて、場所によってはそれも可能なんだけど……。

 裏路地となるとかなり危険度が上がって、外郭じゃあ気を抜いたら簡単に死ぬ。

 やっぱ子育てしようと思えば巣一択だな。

 

 ……撒いて来た種、ちゃんと芽を出せばいいがね。

 まあ望み薄か。10年の月日は長いもんなー。

 

 

 

 俺にむかむかぷんぷんなプリティ☆リサが、繋いでいた手を振り払い、たったったっと駆けていく。

 感情的になりつつも、最低限の理性と危機感は手放さない真面目な少女は、俺の視線からは外れないくらいの位置で立ち止まって、「謝ったら許してあげるけど!?」みたいな視線を向けて来た。

 

 しゃーない、俺の渾身の土下座を見せ付けてやりますか……と。

 無意味に腕まくりをする俺の横から、声がかかる。

 

「……コナー。僕はね、時折、感じることがあるんだ。僕は何のためにいるんだろう、って」

「ほう。哲学的な問いだな」

 

 足を止め、きっとリサには聞かせられないのだろう彼の話に耳を傾ける。

 

 とはいえ、俺は既にその内容を知ってるんだがね。

 彼の苦悩、彼の絶望、年の程からかけ離れたその求道。

 それは彼の存在を確かに証明するものであり……リサと、そしてL旧研を破滅に突き落とす選択肢だ。

 

「何か、僕にもできることがあるんじゃないか。

 この辛くて苦しい、暗いばかりの世界に生まれた意味があるんじゃないかって思うんだ」

「そうか」

 

 それに思うところがないかと言えば……否。

 正直、止めたい気持ちはめちゃくちゃある。なんなら喉まで出かかっている。

 

 だが、俺は今のところ、それを止めるつもりはない。

 

 その思考、苦悩自体はおかしなものじゃない。

 追い詰められた人間がそこに理由を見出すことは、正常な思考の内だろう。

 殊に子供であるエノクのそれは、未来の彼を形作るために必要な工程。それを邪魔したくはない。

 

 ……たとえ。

 これから数年としない内に、彼も俺も殺されて、無為に潰える祈りだったとしても。

 それがそこにあったことには、きっと意味があるはずだから。

 

 そして、俺がすべきことは、他にあるからな。

 

 

 

「ま、考えに考えて結論を出すといい。人生の意義を決めるのは、いつだって自分自身だからな。

 たとえそれが間違っていたって構わん。その時は俺たち大人が指摘して、それを止めるから。

 そうして何度も道を探して、引き返して、また探して、いつかこれだという生き方を見つけるといいわ」

 

 触り心地の良い茶髪をわしわしと撫で、大言壮語な夢を語る。

 そんなことは不可能だと誰より理解していながら、現在を慰める嘘を吐き捨てた。

 

 どうせいつか、人は死ぬ。

 その未来は変えようもなく、かつての俺のように、為した全てが無為に消える日は必ず来る。

 

 いずれ来るその日、仮に研究所を襲う破滅に抗し、全てを守り抜いたとして。

 それでも都市で生きる以上、いつかは爪がその身と命を抉るだろう。

 たとえ頭を叩き潰したとしても……それでもいつか、人という有限の生き物は死に至る。

 

 喪失の悲劇は避けられず、それに纏わる憎しみの連鎖は絶たれることはない。

 

 

 

 ……けれど。

 

 未来に約束された破綻が待っていたとして、それが俺たちの全てを終わらせるとして、そこで全ての試みが水泡に帰すとして。

 

 それは、未来に歩もうとする足を止める理由にはならない。

 

 「もっといい存在になれるという希望」を抱いて。

 諦めるのではなく、挑み続けるのが人生だろうからな。

 

 

 

「なーに!? 私抜きで面白い話をしてるの!?」

 

 おっと。可愛らしいお姫様に、秘密の囁きがバレてしまった。

 珍しく驚いた表情をしているエノクの頭を最後にくしゃっと撫で回し、未だ幼い子供に視線を向けた。

 

「いーや? 今日の晩飯は何だろうなーって予想してた」

「どうせいつもの味気ないパンとシチューでしょ?」

「アインってそーいうとこ配慮足りないよなー。こっちは子供と子供舌だってのに。

 あ、そうだ良いこと思い付いた! 今日はカルメンに言ってちょっと美味しいもの作ってもらわん? アイツ料理できるか知らんけど」

「えー……私、あのカルメンって人、微妙に好きになれないのよね」

「わかるー! ギラギラ光るネオンみたいだよな。めっちゃ目を惹くけど、どことなく嫌味っていうか」

 

 都市の子供は、排水溝の水面に反射するネオンの星しか見えない。

 光のある世界を知らない子にとって、時にそれは唯一無二の道標のようにも思えるだろう。

 

 ……だが、その光は所詮、他人の目を焼くだけ焼いて、自分の熱でフィラメントを焼き焦がして力尽きる、有限の照明に他ならない。

 

 既に数多の人の目を焼いた光。

 己すら熔かし事を為そうとするエゴ。

 

 俺にそれをどうこうすることなんぞできようもない。

 というか、変にそれを変えようとすれば、俺自身の目的すら破断してしまうだろう。

 

 

 

 だが……それでも。

 

「それより、ほらエノク、行くわよ! ついでにコナーも!」

「……うん。行こうか、リサ」

「へいへい、お嬢様。行けるところまで行きましょうかね~」

 

 それでも……たとえほんの一時でも、虚しいものでも。

 

 彼ら彼女らの生きる道に、温かな支えがあればいいと願ってしまう。

 俺がそうなれればいいなと、くだらない望みを抱いてしまう。

 

 ……まったく。どうにもガキに甘いなぁ、俺は。

 

 

 







 tips

 コナーは結構な子供好き。
 精神年齢とか視座問わず、クソガキだろうがマセガキだろうが平等に可愛がれる親戚のおじさんお兄さん。
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