うおおおおお、セフィラ転生完了!
「半端小僧」と笑われ*1紫の涙塾から追放された*2転生者、ハズレスキル「カウンセラー」で縁を作って調律者打倒!! ~今更あの頃に戻りたくてももう遅い、箱の体になってます~
……なってない!?
なんで俺人の体なん!?(n連続n回目)
「コナー、調子はどうかしら」
色々と情報を把握しつつ起動した俺の目に飛び込んで来たのは、一人の女性型AI。
LobotomyとRuinaにおけるマスコット兼ラスボス兼ヒロインであるアンジェラは、ぱっと見平静を保ち、俺の反応を窺ってきていた。
……少々疲労は窺えるものの、まだそのまぶたは開き、琥珀色の輝きは世界に晒されている。
しかし、過度な混乱はなく、冷静で……俺にも人情的な対応をしてくれてる、と。
なるほどね?
「やあエラ、僕はコナー! ところで今は何回目?」
「73回目よ」
「そっか、了解だ」
まだまだ序盤だな!
いやまあ、まぶたが開かれている辺りから予想はしてたけどさ。
しかし、何万周と続く内の2桁台を引くとは、ちょっとビックリだ。
まだまだアンジェラも手慣れてない頃だろうし、色々と気を付けていかんとな。
「うし……さてと、エラ。これまでの俺に色々と聞いてると思う。
その上で、まず聞きたいんだが、俺にできることはあるかな。
君が何かに詰まってたり、どうすべきか迷ってるなら、相談に乗るよ」
「ありがとう、コナー。それならお願いがあるのだけど」
「ん? 何?」
そうしてアンジェラは、どこかその瞳に安堵を浮かべつつ……。
俺が思ってもみなかった「お願い」を、告げて来た。
「今からすぐ、ビナーのところに行って、アブノーマリティの抽出に協力してちょうだい。
ビナーの言うことには全て従って。……72回目のお願いよ」
……あー。
もしかしてこれ、俺が知ってる原作の流れと、この世界の台本、だいぶ乖離しちゃった感じかな?
* * *
違ったわ!!!
俺がちゃんと記憶を取り戻した方が話が早かっただけだわ!!!
アンジェラのお願い通り、俺は訳がわからんまま、ビナーの所に向かって。
そのまま抽出が始まり、再会した騎士に感動する間もなく、差し出して来る剣の柄を握って。
「マジカル☆カルメン☆E.G.Oパワーッ!!!」
非常に鬱陶しい、73回目になるその言葉を聞いた直後。
脳内に溢れ出した、存在したはずの記憶──。
自分がこれまでに経験してきた記憶がざーっと脳内に流れ込み、俺は大体の事情を理解した。
「──なるほどね!!」
おっしゃ、今回も無事、記憶の同期完了!
ざっとではあるけど、74回分のループの記憶を取り戻したぞ!!
ありがとう騎士! それと、毎度のことながら久しぶりとか言ってごめん、今回もよろしく!!
『いえ、主のお役に立てたのなら、これ程の喜びはありませんから』
騎士はしずしずと、しかし誇らしげに応えた。
あ~もうほんとこの騎士は! 健気すぎて好きになっちゃう♡ 嘘だよ、もう既にめっちゃ好き♡
『ぁっ、きょ、恐縮ですっ!』
あとは……ありがとう、カルメン。お前にも感謝する。
『んんっ♡ ……もう、コナーったら♡ この扱いの差、すっかり癖になっちゃった♡』
コイツマジでどうにかできんのか。無敵すぎるぞ。
井戸に溶けてからは前にも増して欲望に忠実というか、ぶっちゃけ変態性が加速したような気がするんですが。
お宅の水どうなってんすかホントに。
『安心して、影響は受けてないわよ! ……あなた以外の誰からも♡』
うるせえ。
リブートし続ける反復の記憶、その同期、あるいは復元。
ぶっちゃけ俺は、そんなことは不可能だと考えていた。
そもそもそれが可能なら、俺たちの体には、デフォでその機能が付くはずだ。
そうでない以上、アインの化け物じみた技術力を以てしても、俺たちの人格を曲げないままにそれを為すのは不可能と判断したんだろう。
純粋なAIであるアンジェラと違い、俺たちセフィラは、元の人間としての精神を強く保っている。
そのため、10,000年もの記憶をぶち込まれようものなら、即座に発狂してしまう。
ていうか10,000年もいらない。
3,000年経った時点で、残ってるのはゲブラーとビナー、あとついでのホクマーくらいだろう。
かの有名なトマリー案件でさえ2,000年だぞ? 耐えられるわけねえだろ凡人がよ。
俺たち人間の精神は、膨大な時間を受け入れるには、矮小に過ぎる。
だからこそ、記憶の同期化なんて……それも俺の自我を傷つけない形で、それができるとは思っていなかった。
思っていなかった、が。
『できるわよ!!』
できたのだった。
結論から言えば、これはおおよそ俺にしか使えない術だ。
というのも、条件がどちゃくそ厳しいのだ。
まず、正義の騎士という確かな知性を有したアブノーマリティと繋がり、表層意識を重ねていなければならず。
なおかつ、カルメンとかいう内在型のE.G.O覚醒者の声も聞けないといけない。
なんだこの無理ゲー!?
そもそも前者の時点で、都市の井戸に繋がってない奴限定になるし……。
後者に至っては、俺の知る限り、症例が1つしかないんだけど。
だが、この厳しい条件の分、とでも言うべきか。
彼女たちの手になる記憶の同期化は、本当に欠点というものがない、完璧なものだった。
『ぴーすぴーす! すごいでしょ!』
すごい。本当にすごいけど、うるさい。
……ふぅ。表層だけとはいえ、コイツに思考を読まれるってのは疲れるね。
あ、騎士、別に読むなってわけじゃないぞ。
むしろ君には読んでもらってもいいんだ。
俺の方も、騎士の考えてることがわかるからな。おあいこってヤツ。
だが、カルメンとかいうボケカスはもうちょい自重しろ。
そもそもこっちが覗き返せないのはズルだろうがよ!
『^^』
クソ、ニヤニヤ笑いやがって、コイツこんな性格だったか!?
誰の影響受けてこんなに性格悪くなっちゃったんですかね……。
……どこまで話したっけ。
ああ、そうそう、記憶同期の方法についてか。
記憶の引継ぎの何が問題かと言えば、その膨大すぎる時間にやられて、俺の精神が摩耗し、自我が擦り減ってしまうことだ。
……が。
そもそも、俺が抱え続けるストレスや精神負荷は、リブートによって物理的に吹っ飛ぶわけで。
騎士からの記憶同期という形なら、それらの蓄積に関しては考えなくてオッケー。
そうなると、記憶を同期した際に流れ込む膨大な記憶により、俺の自我が一気に摩耗することだけが恐ろしかったわけだが……。
『だったら、そんな膨大な量の記憶なんて、そもそもコナーの中に入れなければいいのよ!』
『まずは騎士ちゃんが読み取った記憶を、私がマジカル☆E.G.Oパワーでデータ化……とはちょっと違うけど、そんな感じで保存するわ。
その内、本当に大事なところだけ選別して、コナーに流し込む。
その他のたくさんの記憶は……「貫く夜空の剣」だったわね、それを通して、いつでも思い出せるようにしておけばいい』
『例えるならアレね、外付けの記憶媒体……いえ、図書館!
記憶を本の形にして、きちんと本棚に整理して、いつでも取り出して読み返せるようにしておくわ!』
『これで、膨大なデータに圧迫されて自我が消耗することはないし、記憶はいつでも参照可能でしょ?』
……ということらしい。
簡単なことのようにも思えるが、俺は全く思いつかなかった。
まさしくコロンブスの卵、発想の勝利だ。
……そういえばコイツ、忘れがちだけど天才科学者だったわ。
アインやベンジャミン、ダニエルには及ばないにしても、なんだかんだ研究所4番手だったわ。
L旧研で4番手ってことは、殆どイコールで都市で4番手。
この頭の回りの早さ、そしてそれを実際に行う行動力は、流石と言うべきだろう。
『ふふーん、すごいでしょう! たくさん褒めてね!』
毎周褒めてるが、ここに関しちゃ、手放しで感謝だよ。
本当にありがとう、カルメン。
この礼は、必ずいつか。
『お礼は結婚ね! 式は何区で上げる? コナーの古巣の15区か、私の故郷でもいいけど……やっぱり治安が安定してる区の方がいいかしら?』
そもそもお前、もう入れるべき籍がないぞ。
俺もないけどね。死んじゃったし。
ちなみに、この記憶同期化の方法だが。
実のところ、俺がもらってるこの記憶、本当は俺のものではない。
これ、騎士の記憶、というか認識なんだよね。
だから正確に言えば、これは同期ではなく、再現というのが近かったりする。
俺と騎士は、貫く夜空の剣を通して、意志を繋げている。
そのためこれを持っている間、俺たちはお互いの表層意識を共有し、重ね合っているような状態だ。
勿論、こうして反復を重ねている間もそう。
俺の見て居るもの、感じていることは、騎士に共有されている。
そして逆もまた然りだ。……プライベートに障るし、俺はあんまり認識しないよう、努力してるけども。
そうして騎士が読み取った俺の意識という記憶を、カルメンが井戸を通してE.G.Oの力で干渉、良い感じにデータ化して整理・編集。
改めて、騎士がそれを自身の意思として剣に載せ、俺に送信する。
……という形で、同期化は行われているのだ。
2人共めちゃくちゃお手数かけてごめんね。ありがとう。
『いいのよ、私たちの仲じゃない!』
『あなたの騎士として、当然のことです』
そういった都合があるため、俺が同期で知り得る記憶は、反復の中で俺が騎士と再会し、夜空剣を受け取った時点以降のものに限られる。
さっさと騎士と再会しないと、喪われる記憶情報が多くなってしまうのだ。
強いて言えば、これが本当に少ない、同期化の欠点だと言えるかもしれない。
とはいえ、カルメンは最初からそれを見抜いていたため、対策も立てている。
何も難しいことはない。
単に、俺がアンジェラに対して「俺が記憶を引き継ぐ方法を見つけた。そのために、ループが始まったらすぐに俺とビナーで抽出をさせてくれ」と言うだけだ。
アンジェラは、自分だけが繰り返しの中にあることに、寂寞を感じていたようだった。
その長い孤独の旅を、2人旅にできると言えば、従わないわけもない。
それが、今回の反復でも最初に言われた、「すぐにビナーの所にいけ」発言の真相である。
* * *
俺が騎士に剣を渡され、記憶を同期した姿を見て。
それを為してくれた協力者の一人であるビナーは、「ふむ」と腕を組む。
「其の顔。察するに……」
「ああ、『私の助言は不要に成った』よ。
とは言っても、別に俺が急に悟ったとかじゃない。ずっと前にお前から、然るべき『礼』はもらった」
俺の曖昧な言葉に、しかしビナーは頷いて見せた。
「成程な。では此れにて、私がお前達に返すべき恩義は終わりを告げた。
今はお行きなさい、お前の役割を果たす為に。
この繰り返しが終わるか、その翼が悲劇に濡れた時、若しくは……お前が自らを愛する事を学ぼうとした時にでも、再び相見えるとしようじゃないか」
「ありがとう、ビナー。あんたの美学に心から感謝する」
一度深く頭を下げ、俺は騎士を伴い、ビナーに背を向けて歩き出す。
俺にとってはおおよそ70回目のことであり、彼女に対して余計な言葉を交わす必要性を見出せず。
反復の記憶までは持ち越していないはずのビナーも、けれど訳知り顔で俺の背を見送ってくれた。
……さて。
記憶の同期を済ませて、ひとまず行くべきはどこか。
そんなもんは決まってる。
ダァトフロアの隣、俺の部屋。
アンジェラはいつも通り、そこで俺を待ってくれているはずだ。
俺がアンジェラの孤独な旅に同行するようになって、おおよそ70周。
日数にして、820日と少し。おおよそ2年強か。
煉獄に堕ちてから、そこそこの時間が経過しているのだが……。
俺の感覚としては、まだまだ真新しく、摩耗を感じないレベルだ。
俺に落とされる記憶の時間感覚は、騎士の──つまりは、この時間の牢獄の外側にいる大多数の人々の──ものを基準としている。
そのため、知識としては2年強の時間が経過していると理解しているのだが、俺に落とされる記憶から感じられる体感は、その1000分の1……20時間弱程度のものにしか思えない。
その上更に、カルメンが俺の負荷を極力減らすように、直接落とす情報を減らしてくれている。
俺のざこざこ精神でも耐えられるよう、上手いこと調整されているわけだ。
マジでめちゃくちゃキャリーされてる俺!!
どうしよう地雷プレイヤーとして通報されたら。ここまでもらってばかりだと何も反論できねえや!
……しかし。
そうして俺が、他者の力を借りて楽をさせてもらっている一方で……。
アンジェラは、地獄を味わっている。
彼女は高度の計算・処理能力を持つが故に、1の時間が経過する間に、100の思考の猶予が与えられる。
要するに、実際に経過する100倍もの時間を体感してしまうのだ。
俺が10,000年の煉獄を、10年程度にしか感じないのに対して。
彼女はそれを、100万年に感じてしまう。
これはアンジェラ自身にも伝えていることだが……。
彼女の旅に同行こそできたものの、それでも彼女の感じる苦痛の尽くを、俺は受け止められはしないのだ。
であれば、俺がアンジェラのことを慮るのは当然のことで。
ここ70周余り、俺はケセドの様子を見に行くことすら二の次にして、彼女との用事を優先している。
で、その典型が、ループ直後の話し合い……。
題して、「反復会議」だ。
前回の反復での失敗・反省点の纏めや、彼女の為したいことの整理、またその可否についての相談、そして何より落ち込むアンジェラのカウンセリング。
短くても30分程、長いと半日かけて、俺たちは前回のループの所感や次回に活かせる点を話し合い、整理し、今回のループに挑むための心構えを作っておく。
『研究所専属カウンセラーの本領発揮といったところね!』
『主の正義の光は彼女も癒すのですね……!』
君たち俺のことなんだと思ってんの???
なんかいつの間にかカウンセラーを押し付けられただけで、俺はその辺完全に素人なんだが??
脳内でやんややんやとはやし立てる世界で一番うるせー声と、妙にこっちを持ち上げて来る俺と相思相愛な騎士の声を聞きながらも。
俺は、辿り着いた自室のドアを開ける。
「やあエラ、僕はコナーまたはダァト!
お待たせ~、今回も記憶同期、完了したよ」
「そう……良かったわ」
椅子に座ったアンジェラが俺に向けたのは、ちょっと陰のある笑顔だった。
……うん。なかなかに疲れていらっしゃるようで。
tips! 内在型(内在的)E.G.O
通常のE.G.Oは物質的に現れ、物理的に干渉する。
対し、内在型は物質的には現れず、精神的に干渉する。
最大の敵を外ではなく内に置くことで目覚める、対精神特化の剣と鎧。
このような形で精神が表出することは、都市では非常に珍しい。
カルメンの開花E.G.O『エクリプス』は、特に「相手に意思を伝えること」「道と選択肢を示すこと」に長けている。
その意は「日食」。
太陽に月が重なり黒く染まった時、輝きはむしろ熱を増した。