3級フィクサーパンチ   作:アリマリア

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いつもの お通し 初手処刑弾加護心臓 1幕目終止符 カウンセリング開始

 

 

 

 アンジェラはアインの手になるAIであり、現時点ではまだ情緒に乏しい。

 彼女は人の心を持って生まれてこそいるが……なにせまともな人付き合いもしていないので、十分に育っているとまでは言えないのだ。

 

 今の彼女には、これといった自分の意志がない。

 良くも悪くも、自身がAIであることに自覚的で、なおかつ役目に忠実。

 

 要は根本的に、とても真面目なのである。

 

 

 

 だが、真面目な気質は、常に良い結果だけをもたらすわけではない。

 

 彼女は自らの心を揺らす微かな感情も見ないふりをして、今すべきことを片付けようとしてしまう。

 状況をより良くしようと、誰かにかかる負荷を解消しようと、努めてしまうのだ。

 

 その在り方は、管理者としては理想的と言っていいが、人として見るとだいぶ問題がある。

 なにせ、言っちゃえばその身で集団の負を全て受け止めるかのようなもの。

 真っ当な人の心で行えば、その内ぶっ壊れてしまうだろう。

 

 実際それでぶっ壊れたのが原作のアンジェラだ。

 もう完全にヤケクソになって、自分の鬱憤発散と幸福追求のため、あらゆるものを犠牲にしながら突き進む無敵の人になりかけていた。

 

 こーいう症例を生まないためにも、最低限の社会福祉とか文化的な生活とかが必要なわけですね。

 

 

 

 それでは一方で、こっちの世界のアンジェラは現状、どうなのかというと。

 

 ひとまず、そこまでは擦り切れてはいない。

 まあ今は2桁周目、まだまだ序盤なので、当たり前ではあるんだが。

 

 

 

 ……しかし、同時に。

 

「また、失敗したのね。

 結局、12日目に、職員は決して助けられない。助けては……いけない」

 

 既に、その兆候は見え始めている。

 

 

 

 俺の自室で待ってくれていたアンジェラは……。

 椅子に座り、視線を落として、どこか物憂げに言葉を零し始める。

 

「どうにか……どうにかして、職員の被害を減らしたいの。

 でも、どうしたってみんな死んでしまう。彼らの死を、シナリオが求めている。

 ……私は彼らを十分救い得るのに、救ってはならない……」

 

 ああ……。

 

 これは、今までの反復の中でも、トップレベルで落ち込んでいらっしゃるな。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 騎士とアンジェラから記憶の同期を受けた2周目の俺は、すぐさまアンジェラに「記憶の保持ができるようになった」と告げた。

 彼女の孤独な反復の旅路に、俺も同行できるようになった、と。

 

 アンジェラはそれを、確かに喜んでくれたが……。

 けれど、それはそれとして、公私混同しようとはしなかった。

 

 彼女は俺に対し、他のセフィラたちと同じように接しようとしてきた。

 これもまた、彼女が自身を統括AIとして自認する故の行動だろう。

 

 自分はあくまでも、セフィラを率いる存在であり、彼らと同列ではない。そこから踏み出すわけにはいかない。

 だから、ダァトを特別扱いはできないと……そう考えたわけだ。

 

 この真面目ちゃんがよぉ! 真剣に役目に向き合えるのって素敵だね♡

 

 

 

 素敵ではあるが、しかし、彼女がそんなままじゃあ困るのも事実だ。

 いつか溜め込んだ鬱憤が爆発しちゃうだろうしね。

 

 そんなわけで、ひとまずこの関係をぶっ壊すことにした。

 

 おうおう任せろ!

 俺、L旧研時代から、歪んだ関係ぶっ壊すのは得意だったからね!

 

 

 

 ……とはいえ、今回は3級フィクサーパンチで全てを解決するわけにもいかない。

 別にアンジェラは、悪いわけでも、不愉快なわけでもないしな。

 

 ていうかそもそもの話、人との関係性を変えるとか、拳なんて使わなくとも、口先八丁で簡単にできるわけで。

 

 今回は急がないと取り返しの付かない被害が出るというわけでもなし。

 長い長い反復の中、急ぐこと無いし、ゆっくり始めようか……というわけで。

 

 

 

『やあエラ、僕はコナーだ。おはよう! 調子はどうだ?

 この後の予定は……ホドのところで心理相談の打ち合わせか。

 俺も参加しようか? これでもあっちではカウンセラーなんかやってたんだよね、俺。まあ専門職でも何でもないド素人なんだけどな、ガハハ!

 なんで素人なのに頼られてたのかって? ……な、なんでだろう、わかんないッピ……』

 

 

 

『ヘイヘイヘ~イ、エラ~! お昼作って来たから一緒に食べない? 君にも食べる機能あるんだろ?

 食事は不要? ほーん……俺のお弁当食べて同じことが言えるかな!?

 食らえいっ、とろとろに煮込んだビーフシチューとシャキシャキサラダのタマゴサンド~! 友だち直伝激ウマコーヒーを添えて!

 まあ食べてみ食べてみ、そう悪くはないはずだから。

 ん……美味しい? ああ、急いで飲み込まなくていいよ、ふふ。

 これが初めての食事? マジか。エラの初めて奪っちゃった♡

 ……ああ、もう、そんな顔しなくてもいいって。だいじょーぶ、これから毎日でも、色々作ったげるよ。

 どんな顔してたかって? ふふ、「もう食べ終わっちゃった」って顔!』

 

 

 

『どうした、エラ? ……指揮チームが試練突破に失敗?

 懲戒チームは……ああ、抽出チームでHE級アブノマの鎮圧中か。

 オーケーわかった、俺が行く。エラ、通信でサポートを頼める?

 ……ん? ああ、大丈夫大丈夫、任せちゃって! 俺ってこれでも、結構戦えるんだぜ?

 さあ……我が騎士よ、道を拓け!』

 

 

 

『君は良くやったよ。

 確かに全力でセフィラたちを支えていた。職員たちを守ろうとしていた。

 君の頑張りは、それを覚えている俺が保証するさ。

 ただ……未知ばかりは、誰にも、どうしようもない。

 あんな初見殺しのアブノマが出てくれば、その人の優秀さに関わらず、誰もがこうなるだろう。俺だってそうさ。

 だからこそ未知は恐怖であり、けれど俺たちは恐怖に直面し、立ち向かわなければならない。この舞台より先の、未来を創るために』

 

 

 

『ん? どうした、何かあった?

 ……な~んだ、そんなことか! 気にすんなって! 俺は元より用心棒、戦うためにここにいる。死ぬことにだって慣れてるからさ。 

 どうしても罪悪感が消えないっていうんなら、そうだな……今度さ、一緒にコーヒー淹れてみない?

 俺、エラの淹れてくれるコーヒーが飲んでみたいな~って! ……マジ!? ありがと!』

 

 

 

 ……と。

 そんな感じでコミュニケーションは進めている。

 

 適度にギャグキャラを維持しつつ。

 彼女に食事や遊び、趣味なんかを教えていき。

 コーヒーを布教し、楽しみ方を教え。

 緊急時にはきちんと働き、頼れるアピールを欠かさず。

 彼女が落ち込んでいる時には、当然、いつものように慰める。

 

 まあ結局のところ、L旧研でやってたカウンセリングの延長だな! もはや手慣れたものである。

 ……おかしいな。俺って用心棒兼雑用だったはずなのに、なんでこんなことに手慣れてるんだ……?

 

 

 

 そんなことを思い出していると、脳内でビカビカと声が響く。

 

『騎士ちゃん、どう思う? この人いつもこうなのよ! この女ったらし! 女の敵!!

 騎士ちゃんも何か言ってあげて!』

『いえ、これも主らしさですので、私からは何も。むしろ誇らしく思います。

 主の正義の光は、人にもアブノーマリティにもAIにも、相手も問わず降り注ぎます。

 アンジェラという少女もまた、主の正義に救われるのでしょう』

『狂信者かな?』

 

 狂信者だね。

 ……いや真面目な話、騎士ちゃんのそれは、純然たる信頼の証だ。

 

 嬉しくは思う。

 思うけど……流石にそこまで言われると、こそばゆいな。

 

『まあそんなこと言いつつ、私も騎士ちゃんの気持ち分かるんだけどね!

 月の光は冷たく、けれど優しく、いつでも人に進むべき道を指し示してくれるものだから……!』

 

 お前のはなんかねっとりしててちょっと怖い。

 

『なんで!?』

 

 

 

 俺の騎士とストーカーは、なんか雑魚には不釣り合いな期待を抱いてくれてるっぽいが……。

 

 ぶっちゃけ、俺にアンジェラの救済は無理だ。

 

 俺が真に100万年の苦痛を共にできるのなら、あるいはその可能性もあったが……。

 俺が感じる苦痛は、彼女のたった10万分の1。

 真の意味で彼女と並び立ち、共感者となることはできない。

 

 人の心を救い得るのは、大抵の場合、同じ立場や条件の人間だけだ。

 

 上位の人間に差し伸べられた手は、人を嫉妬と卑屈に浸し。

 逆に下位から伸ばされた手は、蔑視と恐れを抱かせる。

 全く別の場所から言われた言葉なんて、無責任な外様の意見にしかならない。

 

 結局のところ、多くのものを与えられて生まれ、何も奪われなかった俺は、アンジェラを救い得ないのだ。

 

『…………』

『ほんとぉ?』

 

 ほんと。

 

 

 

 ……ま、救い得ないとはわかっていても、できることはするけどね。

 

 あの頃と、何も変わらない。

 俺は俺にできることをして、可能な限り、好きな人たちを支える。

 

 それだけだ。

 

『それでこそ主です!!』

『(無言でスタンディングオベーションしている)』

 

 ついに言葉じゃなくてイメージまで流し込んできやがった。

 どんどん内在型E.G.Oの操作技術が上がってないか、コイツ?

 

 

 

 * * *

 

 

 

 さて、そんな趣旨で70周くらい、程々の距離感からアンジェラを支え続けてきたわけだが。

 その結果、そこそこの信頼度を得たと思っていいだろう。

 

 現にアンジェラは、40周目くらいからは、自分の考えや都合を共有してくれるようになった。

 

 ここまでの反復にかかった時間は、おおよそ2年強。

 俺にとっては1日弱程度の体感だが、一方アンジェラにとっては早くも200年だ。

 

 その長すぎる時間は、やはりどこか機械的だった彼女に微かながら感情を抱かせ、そして俺に親近感を抱かせるには十分なものだったらしい。

 

 

 

 ……で。

 今回の反復では、アンジェラは、ちょっとばかり不安定なようだ。

 

 前の反復までで確かめたことが、相当に重荷になったらしい。

 まあ光の種シナリオってだいぶ人の心がないからね。俺も正直直視すんのはキツいレベルで。

 

 まだ人間1年生で苦痛への耐性のない彼女からすれば、やはり受け入れがたいものがあるんだろう。

 

「……私は、何のためにここにいるのかしら。

 職員にも、セフィラにも、何もできない……何のために……私は……」

 

 鬱屈とした感情を吐露するアンジェラは、今までになく追い詰められているようだった。

 

 

 

 200年だ。

 彼女の体感にして200年の間、アンジェラは必死に、セフィラや職員たちを助けようとしていた。

 

 どこか自信なさげなマルクトのドジに付き合いながら、懸命にサポートして。

 イェソドの少々生真面目すぎる統制に対し、職員との仲を取り持って。

 ホドと共に積極的に職員のサポート案を考え、改良し続け。

 どこかぼんやりしているネツァクを気にして、発破をかけて。

 

 そんなことを、200年以上、決して曲げずに貫いてきたんだ。

 

 すごいことだ、これは。

 俺だったら絶対に頭イカれてるよ。

 

 カルメンも大概、悪すら呑み込んで進むイカれた善人だったが……。

 彼女の脳の複写を使用したこともあってか、アンジェラもまた、確かな善人なんだ。

 

 少なくとも……今は、まだ。

 

 できれば、そんな純粋な彼女に歪んで欲しくない、なんて望んでしまうのは……俺のエゴだろうか。

 

 

 

「……ごめんなさい。なんだか、とりとめのない言葉になってしまったわね」

「謝らなくていいんだ。むしろ、何を考えてるか教えてくれてありがとう。

 言っただろ? 俺も君と共に歩く。一緒に悩ませてくれよ。

 まあ……まずはコーヒーでも淹れようか。茶菓子でも食べながら、ゆっくり、君の考えること、思うことを話してくれ」

 

 言って、俺はいつも通りにコーヒーを淹れた。

 反復が始まる時の、お決まりの流れだ。

 

 果たして、彼女の心に決定的な亀裂が開くまで、どれだけ俺が取り持てるだろう。

 ……この香りが、彼女の心を、少しでも癒してくれればいいんだけど。

 

 

 







 本格的なメンタルケアはまだ先に。
 今はまだ、アンジェラ側の準備ができていないので。

 次回からいよいよ、L社地下本部での日々が本格始動です。
 精々煉獄を楽しもうね♡

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