本日の業務終了後……。
つまりは、クリフォト抑止力を上限まで高め、全ての──より正確に言うと、俺の騎士を除く全ての──アブノマを眠りに就かせた後。
「マルクト、今日のようなことは困るわ」
いずれXが本拠とするんだろう管理室で、俺とアンジェラは、1人のセフィラに向き合っていた。
綺麗な直方体のボディと、しょぼんと落ち込む黄色の瞳。
箱の体の上部にある「Malkuth」という記述からも分かる通り……。
彼女こそが指揮チームセフィラ、マルクト。
「もう働けないのかな?(圧)」とか「私の指揮チームに軟弱な職員は必要ありません!(笑顔)」とかの言動によって、多くの管理人に強烈なインパクトを植え付ける、Xが一番最初に会うことになるセフィラである。
ある意味では、管理人にLobotomy Corporationという会社の何たるかを
……とはいえ、アレはセフィラ化による負荷に加え、管理人到着前の精神抑圧が済んだ状態が重なったためのであり。
今の彼女は、あそこまでキチっちゃあいない。
「ごっ……ごめん、なさい。なんとか、ダァトを助けないとって、思って……」
まあ、既に兆候は見え隠れしてるけどね!
現在マルクトが叱られている内容は、本日の鎮圧時のアクシデント。
赤ずきんvs狼vs処理チームという、割と熾烈な戦闘の中に、いきなりマルクトの管轄する指揮チームが突っ込んで来たという案件だ。
言うまでもなく、赤ずきんと狼は、危険性の高いWAW級アブノーマリティだ。
特に赤ずきんの傭兵は、その攻撃範囲や連射力から、下手なALEPHアブノーマリティよりも高い戦闘力を持っていると言っていい。
なんと遠距離戦になれば、盲愛様すらも圧倒可能なのだ!
……駄目だ、盲愛様基準だとクッソ弱く思えてしまうから参考にならんな。
まあとにかく、つよつよ赤ずきんと、それには及ばずとも立派なWAW級アブノマがぶつかってる戦場だ。
高いクリフォト抑止力がかかっているとはいえ、かなりの修羅場であることに変わりはない。
で、その一方。
アンジェラの指令で遣わされた、俺たち処理チームはと言えば……。
セフィラたる俺が攻防ALEPH装備の戦士、職員たるジョシュアもランクⅤステータスカンストで、WAW装備だ。
少数精鋭ではあるが、この二者にも十分抗し得る力を持っている。
……というか、これまでにも何十回かこういう事例に対処してきたわけで、今更負けるわけもねーのだが。
そんなわけで、アブノマ2体と俺たちは、十分に戦いを演じられるレベルにあったのだが……。
問題は、残る第三勢力……いや、俺たちの助っ人か。
マルクトの指揮チームは、まあ……言い方は悪いが、寄せ集めだ。
毎度のことながら、今回の反復の指揮チームにも、そこまで危険度の高いアブノーマリティはいない。
正義の騎士を筆頭として、ランクがZAYINやらTETH止まりな上、墓穴とか灯篭みたいなカスもいらっしゃらない。
そのため、指揮チームは練度の低い職員たちの教習所のような扱いを受けており、まともに育った職員は一人も配属されていない。
みんなランクⅠやランクⅡばかりで、装備もZAYINからTETHで纏まっている。
そんなバブちゃんな職員たちを、赤ずきん童話の決戦場に突っ込めばどうなるかなんて、ルーレットに選ばれた職員の末路くらい目に見えてる。
目に見えてるはずなんだけど、突っ込んできやがったよ指揮チームがよォ!
マジで危なかったからねアレ!
騎士ちゃんいなきゃ、今頃あの子たち全員ひき肉だったぜ!
割と施設半壊級の判断を下しやがりおったマルクトは、どうやら酷く失意に沈んでいるようで、しょぼんと視線を床に向けていた。
相変わらずのポンコツ落ち込みムーブ、可愛いね♡ 撫でちゃいたい♡
で、そんな彼女に対して。
アンジェラは自分の眉間を揉み、どうしたものかと頭を巡らせているようだ。
うん、まあ、わかる。
こうなったマルクト、かなーり厄介だからね……。
「あなたの意思は分かるわ。同僚を助けようという意気込みは、私も肯定するところ。
でも、まだ新人に近い指揮チームの職員たちをあの戦場に送り込むのは危険よ。あなたも、冷静になった今なら分かるでしょう?」
「……そう、だよね。ごめんなさい」
どよーん。
マルクトは完全に鬱モードに突入してしまっている。
さっきも言ったけど、こうなるとこの子は結構厄介である。
何が厄介って、俺の立場が。
俺は今、壁に寄りかかって2人のやり取りを聞いている。
直接的な被害者ポジなので同席を許されている形だ。
で、俺の本音としちゃあ、当然ながらお叱りを仲裁してやりたい。
マルクトを慰めて、相談にでも乗ってやりたい。
なんでかっていうとそりゃあ、彼女を見てれば、エリヤの顔が脳裏をよぎるからね。
マルクトの前身となり、陰ながら彼女の精神の軸を為しているであろう女性、エリヤ。
その高い能力に反し、定期的にやらかすドジのせいで高い評価を得られず、これまであまり褒められたことがないと語っていた彼女と、俺は親しくしていた。
大体2日に1日くらいは1時間程の愚痴に付き合って、頭を撫で、おまけ程度にちょっとしたアドバイスを送ったりするくらいの距離感だ。
で、そんな交友の中。
俺は、彼女のこれまでの話や、今持っている考えを聞いた。
両親がとても厳しい人たちで、優秀だった過去の彼らと、常に比べられていたこと。
一つのことに没頭することは得意だけど、並行していくつも作業を進めるのが苦手なこと。
コーヒーか紅茶かで言えば紅茶派なこと*1。
皆には隠しているが、実は設計や工学に興味があって、ひそかに勉強中だということ。
……好みの男性のタイプは、明るくて楽しくて、けれど同時落ち着いていて頼り甲斐があって、よく話を聞いてくれる人だということ。
それだけ色々なことを知っていれば、そりゃあ感情移入もするし、仲だって少なからず深まるわけで。
たとえ、今のマルクトがコナーのことを記憶していなかろうと、俺は彼女のことを好いている。
この場合は、同僚の娘とか友人の娘とか、そういう意味合いでね。
だから、今も自信なさげに俯き、どこか焦燥感を滲ませる彼女を存分に慰めて、抱える荷物を一緒に背負ってやりたい……。
……のだが。
そうもいかないのが難しいところだ。
光の種シナリオ進行中の今、俺が彼女を過度に支え、ストレスを軽減しすぎることは許されない。
ていうか、許されなかった。
アンジェラに許可を取って試しに一回やってみたんだけど、2時間使ってしっかり彼女の心の闇を吐き出させたら、一発アウト。
俺の箱の体にすがるようにしがみつくマルクトをあやしていたら、問答無用にリブートが発動して、俺は頭を抱えることとなった。
……まあでも、そのおかげで、マルクトが何故こんなにも自信なさげにしてるのか、その理由は知れた。
リブートの条件の調査って意味でも、全くの無駄ではなかった。
まったく、彼女も大概気にしいだよな。
リサやエノクのことはともかく、俺のことは別に気にしなくていいのに。
確かに、コナーが死んだのは、彼女の「皮」が遠因にはなっているが……。
下手人はあくまで「何もない」であり、エリヤはただ脱走したアイツに偶然出くわしちゃっただけなんだろう。
彼女に責任なんてないし、償うべきこともない。
だというのに、マルクトはそんな所以も忘れ、ただ「正しいことをしなきゃ」「足を引っ張るばかりじゃ駄目」「今度こそ私が助けないと」と……そんな妄念にばかり囚われている。
……アインめ、本当に残酷なことをするわ。
知らずに終わった、知らなくてもよかったことを、わざわざ脳に差し込むなんて。
* * *
「……ダァトは何かあるかしら」
「んん?」
沈みこんでた思考が、アンジェラの声で現実に引き戻される。
やべ、全然話聞いてなかった。ごめんねエラ><
『いつも通りのお説教が終わったところです。
今は、今回被害を負うことになった主からは何かあるか、とアンジェラが』
騎士、カンペありがと~;;
テレパシー(?)で繋がってる協力者がいるとこういう時にありがたいね。
うーん、しかし、言うことかぁ。
何気に難しいことを聞いてくれるね。
ここでマルクトの肩を持ちすぎると、シナリオリブート。
しかし、だからと言って俺まで彼女を責めるというのは……多分、俺に求められる役割じゃないからな。
アインは
脳をイジイジして性格とか自認を歪めることは、あの天才からすればとても簡単だったはずだ。
それこそマルクトのように、台本の存在など知らず、ただ自身を抑圧してストレスを溜め込ませ、いつかXにぶつける……そんな普通のセフィラにしてしまうこともできた。
それなのに、あくまでコナーの地続きとして、俺はここにいる。
ただのセフィラではなく、カルメンと共に「ダァト」の名を冠し、Xの悟りを見定め……このシナリオを監督する者としての座に就かせた。
それが示す意味は、アインが俺に求めた役割は、多分……。
少なくとも、ここで心にもない叱責をするようなものではないはずだ。
……いやまあ、「じゃあ具体的に何?」って言われるとわからんけど。
俺があんな天才の考えなんか読めるわけねえだろ!
『私、察し付いてるけど、教えてあげましょうか?』
いらん。
人の心は、その人自身と触れ合う中で測るもんだ。
誰かの類推で偏見を持つ気はねえよ。
『でしょうね!(したり顔)』
……とにかく。
俺は、俺のしたいようにする。
いつだって、自分の感じる正しさを信じる。
なにせアインが、俺の友だちが、その在り方を許してくれるんだ。
それなら、シナリオに許される範囲で、やりたいようにやらせてもらうぜ!
ていうかまずは許される範囲を調べるため、やりたい放題させてもらうぜ!!
「ま、あんま気にすんな、マルクト。
失敗するってことは、それだけ挑戦してるってことだ。ただ突っ立ってるより何億倍もマシだよ。
種を蒔けば必ず実る程世界は優しくはないが、しかし種を蒔かなければ決して実りは得られない。
だから俺は、君のことをすごい奴だと思う。その努力、他の誰が認めなくとも、俺が認めるさ」
言い、俯いた彼女に近付いて……。
その角ばって無機質な、箱の上部を撫でた。
いつかのように、もう一度。
頑張り屋の彼女に、立ち上がるだけの元気を与えられればいいな、と思って。
「…………」
そんな俺に対し、マルクトは。
ただ硬直して、その一つの瞳を大きく見開いて……。
じっと、俺のことを見つめていた。
……な、何? 駄目?
俺たち箱の体で、髪もないわけだし、別に良くない?
たじろいで手を放そうとしたら、彼女の手にはっしと掴まれ……。
ゆっくりと、頭の上に引き戻されてしまった。
「…………」
それは、いつか頭撫でを執拗にねだってきたエリヤの動作そのもので……。
……あー、クソ。
表情なんてないはずなのに、その黄色い瞳に、どうしても彼女を思い出してしまう。
今の彼女はエリヤのことを覚えてもいない、マルクトというセフィラだ。
あんま重ね過ぎないようにしないと、失礼だとは思うんだけどね。
……さて、それから10分程。
お説教と謎のなでなでタイムも終わって、マルクトを帰した後。
「コナー……いえ、非難するつもりはないのだけれど」
「ごめんね……ごめんね……」
アンジェラに何とも言えない視線を向けられ、俺は平謝りすることになったのでした。
精神抑圧しないと、すぐシナリオエラーが起こるってことは分かってるんだけどね……ついやっちゃったよね……。
* * *
結論から言うと。
今回の件で、リブートは発動しなかった。
多分、ちょっと際どくはあるんだろうが……これくらいの干渉なら許されるらしい。
……あるいは、アインの言う「丁度良い距離感」っていうのは、これくらいのことを言ってたのかね。
目的からは逸れず、しかし自分のせいで苦しむセフィラたちの支えになれるくらい、ってか?
最初からそう言えや、この頭が良いだけの馬鹿が!
テメェの報連相不足のせいで、300周使った今もリブートの条件が全然絞り込めてねえんですわよ!?
あとそういうのは他人に任せず、まず自分でやってみろっつってんだろ!
そんなんだから俺にカルメン寝取られんだ馬鹿!!!
『寝取られちゃった♡』
黙りな!! 俺が罪悪感で死にそうになるから!!!
いやまあ、今回は流石にアインにはできない範疇だろうし、俺が頑張るけどさぁ!!
まったくもう、困った友だちだわ! 仕方ねーヤツ!
脳内でぷんすこしていると、騎士がどこか不安げに声をかけてきた。
『主よ……どうか、ご無理はなさらぬよう。
あなたはいつも、誰かのため、頑張りすぎてしまう人ですから』
ん? あれ、そんな辛そうに見えた?
いやいや、全然平気よこれくらい。
負荷がかからないと言えば嘘になるが、むしろ心は軽くなったくらいだ。
いつか避けられない破滅を迎えることを知りながら、痛み苦しむだけの道中の負担を、少しでも減らす。
それはある意味じゃ、L旧研にいた頃の俺のスタンスと何も変わらない。
まあ、前回は感情的にオリチャーした果てに、ぜーんぶちゃぶ台返ししちゃったわけだが……。
今回は、その初志を貫くだけなんだし。
ああ。あの子たちのためなら、無茶でも無理でも喜んでやれるってもんさ。
……それに、ね。
俺よりずっと悲しんで、苦しんで、陰で泣いてる子供がいるんだ。
膝を折っていられるかよ、大人がさ。
(Limbus近況報告)
クーポンニキ襲来に備え、実装済み中指全員交換してレベルMAX同期MAXにしてきました。
6章はこのイカれた中指チーム+絶望ロージャ+赤眼懺悔良秀orAEDDグレゴールで、毎ターン反撃S3地獄で轢き潰しにいきます。
ヒース念願のフサフサヘアスタイルで舞踏会(か何かよくわからない上流階級っぽい何か)に殴り込むぞ!!
ヒース、よくわからんけどお前に悲しい思いをさせた奴らの名前、全員分帳簿にメモったからな! 思い知らせてやろうぜ!
ところでムルソー、反撃でs3撃つことってできる?
「できない」