3級フィクサーパンチ   作:アリマリア

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 (原作では)狂気堕ちと良い人症候群とヤケクソ死にたがりに挟まれた、ただ優しすぎただけの男





上層セフィラ唯一の良心

 

 

 

-反復683回目-

 

 

 

「イェソパ~イ、遊びに来たにょ!w」

「…………」

「無言こわい;; そんなんじゃ冷たいセフィラだって思われちゃうぞっ☆」

「あなたは職員の模範となるべきセフィラです。もっとそれを意識するべきでしょう」

「ひぃんっ、本当に冷たいっ!」

 

 

 

 しばらく前のループで、程々にならセフィラと触れ合っても問題ないことが発覚した。

 

 勿論、それが行き過ぎて、彼らの中のトラウマや膿を吐き出させてしまえば、シナリオリブートがかかってしまうようだが……。

 逆に言えば、表面上であれば多少親しくしても問題ない、ということだ。

 

 ……正直、そういう薄っぺらいお付き合いは、得意なもんじゃないんだけどね。

 せっかく付き合うんなら、しっかりその内面まで含めてお付き合いしたい。俺は外面だけの女には引っかからないタイプなのだ。

 

『♪』

『(誇らしげ)』

 

 ツッコまねえぞ。墓穴を掘るだけだし。

 

 

 

 ……しかし、こうしてセフィラたちと接触することには、確かな意味がある。

 

 700近い反復を繰り返しては来ているが、まだループは序盤も序盤。

 リブートの発生条件を探り、少しでも先に進める確率を上げるための事前調査の期間である。

 

 RTAだって本走の前に、チャートをちゃーんと組むために事前調査をするもんだからね。

 まさかそこを怠って本走中ガバる走者なんていねえよなぁ!?(1敗)

 

 

 

 そんなわけで最近の俺は、セフィラとの適した距離感を見計らうべく、彼らと付き合う日々。

 今日も今日とて、かつてガブパイであったセフィラ、イェソドとのコミュニケーションだ。

 

 あと、おまけ程度にお仕事もします。

 特に嫌な話は最初にするに限るし、さっさと済ませようか。

 

「はい、こっちが懲戒チームの名簿。

 その内、赤のバツ付けてるのが『退社処分』。情報抹消頼む」

「……確かに受け取りました」

「ん」

 

 情報チームの担当セフィラであるイェソド。

 彼の元には、このL社地下本部の(一部例外を除いた)あらゆる情報が集まる。

 

 勿論、社員たちの名前がズラリと並ぶ名簿も……。

 そして、勤務中の事故で亡くなった、あるいは亡くなったことになった職員たちの名もまた。

 

 それらの名前をデータとして打ち込み……。

 ……時には、赤い線で消していくのも、彼の仕事だ。

 

 

 

「……ごめんな。辛いことお願いして」

「あなたが謝罪することではないでしょう。役職を割り振り統括するのは、アンジェラさんの仕事です」

 

 淡々としたイェソドの言葉に、痛いところを突かれる思いだ。

 

 アンジェラは全てを取り仕切る統括AI。

 言わばXが来るまでの間の、責任者に当たる。

 

 トップに立つ者には、往々にしてヘイトが集まる。

 まあ、それを対価として様々な裁量権を握っているわけだから、当然のことではあるが……。

 

 アンジェラはL社地下本部を掌握しているように見えて、その実ただ台本通りに踊っているだけ。

 それなのに、ただ一方的に恨まれるってのは、酷く残酷なことだ。

 

 アンジェラにとっても……何も知らない彼らにとっても。

 

 

 

「恨んでるか? エラの……アンジェラのこと」

 

 俺の質問に、しかしイェソドは、そのモノアイを一本の線に閉じて言う。

 

「いいえ。私が今この仕事に就いているように、あなたがこのリストを持ってきたように……彼女もまた、与えられた役目を熟しているに過ぎませんから。

 思うところがないとまで言えば嘘になりますが、それぞれの立場と責務の必要性を理解しない程、狭量なつもりもありません」

 

 んお~~~♡ イェソにゃん理性的すぎる~~~♡♡♡

 

 いやマジでね。

 

 クソ程辛い仕事押し付けられて、でもそれを自分の役割だと受け入れて、感情を他人にぶつけることなく自分の中で消化する。

 あまりに人が出来過ぎてるわな。今は人じゃなくてAIだけど。

 

 ……でも、同時。

 そんな風に、息が詰まる程真面目だからこそ、そのテープの中には腐りが生まれてしまうんだろう。

 

 時には風通し良く換気でもしないと、膿んだ感情は本人を苦しめるだけだ。

 

 

 

 せめて俺といる時くらい、そのテープの下を晒させ、彼の痛みと苦しみを共に抱えてやりたい、という思いはある。

 多少なりとも痛みは伴うかもしれないが……それでも、ただ腐り続けるよりは些かマシだろう。

 思い切り絶望することすらできず、ただ腐るばかりの思いを、少しでも晴らしてやりたい。

 

 だが……。

 この舞台において、それは俺の役割ではないんだろう。

 

 いつか来る管理人Xが、彼の苦悩と絶望に向き合い、知って、受け入れ、共に罪として背負う。

 それまで俺は、彼と心から並び立つこともできない。

 

 ……ただ、あのコミュ障はその辺雑、というかドライなので、「悟りを得るのが主目的なんだから、抑制して絶望を吐き出させればそれで終わりだろう」とか思ってる可能性はある。

 

 俺にできるのは……それが終わった後のアフターケアくらいかな。

 あるいは、それが役割と言えば役割か。

 

 

 

 そんなことを考えていると、ふと、腰に提げた剣から声が響く。

 

『……コナーってなんでこう、男の人には距離感が近いというか、ふざけて絡むのかしら?

 私にはあんな甘い声音、ベッドでしか聞かせてくれなかったのに』

『あの……ええと、同性であるが故に気安いのではないでしょうか?

 私も王国の騎士であった頃は、異性の騎士より同性の騎士の方が気安く接してくれましたし』

 

 俺の脳内でなんか考察を進めてるカルメンと騎士。

 

 だが、その読みは残念ながら外れてる。

 

 答えは~……デレレレレレ、デン!

 普通にセクハラ扱いが怖いだけです。

 

 同性相手にメロ~い♡ なんて言って近寄っても、その場の空気も併せて冗談で済むじゃん?

 しかし、異性にそんなん言ったらガチ感出てしまう。相手にもいらん印象も与えてしまうし。

 

 特に、相手は職場の同僚だぞ?

 そんなんするわけないっしょ、社内コンプラ的にも。

 

 あとカルメンお前、白昼堂々ベッドとか言うな。下品。

 真面目な騎士が困ってるだろうが。

 

『あなたって昔から、変なところで真面目ねホント!

 あと騎士ちゃんにだけ優しいわよね! その優しさ、私にも分けて~!』

 

 必要性/Zero。

 

 

 

 ……てか。

 

 そんな心配しなくとも、お前らとのやり取りは楽しんでるよ。

 イェソドとのやり取りに劣ることなんて、決してない。

 

 ぶっちゃけ長らく続く反復に耐えられてる理由の半分くらいは、こうやって素直に話ができる相手がいてくれることだから。

 騎士、カルメン。ありがとな、いつも。

 

『あっ、主……!

 その、私も、主との会話はとても……騎士としてあるまじきことかもしれませんが、とても楽しませていただいております!』

 

『ちょっと待ってね今からなんとか受肉するから、貴重なコナーのデレなんて逃せないからキスさせて、いえやっぱり我慢するのは間違いね、今から寝室に行きましょう大丈夫優しくするから』

 

 ほんと温度感違うね君たちね!!!

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そうして脳内の声とお喋りをしていると……。

 イェソドが不意に、窺うような視線を向けて来た。

 

「……ダァト。最近、調子はいかがですか?」

「ん? いつでも真面目なイェソにゃんがそういう話題を振って来るのは珍しいね」

「あだ名での呼称は職員たちの風紀を緩ませます。特に、そのような不真面目なものは」

「つまり2人きりの時に呼べってこと? やんっ♡ イェソにゃん大胆っ♡」

「……………………はあ。職員の目のない場所では好きにしなさい」

 

 やったっ、憧れの先輩にあだ名呼び許してもらっちゃったっ☆

 

 まさかのお許しである。やっぱコイツ優しすぎひん?

 これからもイェソパイとかイェソにゃん呼びは続けていこう。

 

 

 

 内心ちょっと喜んでいると、ふと、イェソドがその目を少し暗くする。

 

 え、そんなに嫌? (´・ω・`)

 イェソにゃん、可愛いと思うんだけどな……。

 

「……ダァト。困ったことなどはありませんか?」

「え、何、なんか妙に気にかけてくれるじゃん? どしたん……あ、さては処理チームに何か融通利かせてほしい案件でも生えて来たな?

 おーけー、エラには秘密だぜ? しれっと仕事入れといたる!」

「違います」

 

 あらら、違った。

 700周してきて初のイベントなんで、素直に分からん。

 

 

 

 700周と言うと凄まじい物量にも聞こえるが、管理人XのようにTT2プロトコルを使って時間を自由に遡ったりできない以上、回収できる情報や会話は限られる。

 

 アブノマの脱走や管理の成否、職員の性格とかアンジェラの態度で、L社地下本部で発生する出来事は細かく分岐するわけで……。

 流れる時間も膨大なら、知るべき彼ら彼女らの情報も膨大だ。

 

 そのため、まだまだ彼らの知らない顔は多く……。

 今のイェソドの表情もまた、俺のデータにはないぞ! データキャラの敗北。

 

 俺、なんか変なことしちゃったかね。

 ……マジであだ名呼びが嫌だったらどうしよう。

 

 

 

 イェソドは溜め息一つ、そのほっそい脚(金属製)を組み直し、言った。

 

「ダァト。あなたの処理チームは、職員が1人しかいない最小のチームです。

 反面、あなたたちの処理すべき業務は膨大だ。

 情報の統合と伝達といった私たち情報チームの補助の他にも、各チームの業務補助、廊下やエレベーターの整理清掃、チーム間の折衝に、果てにはアブノーマリティ鎮圧の補助まで行っている。

 ……処理チームの業務は、明確に許容量を超過しています」

 

 まあ、はい。

 何一つ否定できないっすね……うん……。

 

 L旧研での俺が分刻みのスケジュールに追われてたように、雑用ってのはとても多忙だ。

 だって何でもかんでも手伝って、何でもかんでもやらなきゃいけないんだもん。

 

 過度に特化しなくていい分、武力も知識もコミュニケーション能力も、様々なものが広く浅く要求され。

 どうしても発生してしまう組織の部門間の問題、そのしわ寄せを一身に担うことになる。

 

 専門職は専門職で気苦労が多いとは思うが、雑用も雑用で大変なのだ。

 みんなは組織を回す頑張り屋の人たちにもちゃんと感謝しようね!

 

 

 

「特に、あなたのチームの職員──アセラ、でしたか。

 彼女をサポート・教導する分、あなたは殆ど休息を取る暇もなく働いていると聞きました」

「……誰から?」

「ティファレトです。少年型の」

「あー……流石エノク、よく見てんな」

 

 頭をぽりぽり掻く。

 

 まあ確かに、ここ最近は忙しかった。

 数日という意味ではなく、この数百反復は。

 

 ある程度であればセフィラたちの負荷を軽減できると分かった以上、それをしない意味もない。

 俺はビナー除く全セフィラと接触して、話を聞いたりなんだりしてたし……。

 ……徐々にアンジェラが限界に近付いてきていたので、そっちのケアもしなきゃならんかった。

 

 日常的な業務にそれらが重なった結果、確かに忙しかったな。

 

 まあ、そんな毎日にも、もう慣れたけど。

 体感はともかく、実際にはもう15年くらいこの生活続けてるしね。

 もはや熟練のカウンセラーと呼んでくれても良くてよ!

 

 

 

 しかし……察するにイェソパイ、俺が潰れないか気にしてくれてるのかな?

 相変わらず優しい奴だな、ほんとに。

 

「心配してくれてんの? ありがとー、嬉しいっ☆」

「…………いえ、少し違いますね」

「違った! なんか勘違いしてる人みたいになっちゃったわっ!」

 

 うわ恥ず。

 てっきりイェソにゃん、俺のことが大好きなのかと思っちゃった。

 

 じゃあなんでそんな気にかけてくれるん、と視線を向ける俺に。

 彼は……どこか苦しそうに、その目線を逸らし、言う。

 

「ただ……ただ、そこに不均等があるのではないかと。

 あるのなら、正さなくてはならないと、そう思っただけです」

 

 そうして彼は、巻かれたテープの上から、自分の箱の体を擦った。

 その下にあるものを、抑えるように。

 

 

 

 ……なるほどね。

 イェソド的には、その辺りが肝要な点なのか。

 

 あ~~~!! 踏み込みて~~~!!!

 でも踏み込んだ瞬間にリブートしたんだろうな! クソがよ!!!

 

 はよ来いや管理人X!!

 てめぇの友だちと部下たち一同が首を長ぁ~~~くして待っておりますよ~!!

 

 

 

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