3級フィクサーパンチ   作:アリマリア

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この人の体を作ったのは誰だあっ!!

 

 

 

-反復909回目-

 

 

 

 そろそろ反復も4桁に突入する頃合い。

 今回もビナーのところで記憶の同期化を完了した俺は、てくてくと歩きながら、最近の反復を思い出していた。

 

 少しずつではあるが……リブートの条件やメンタルケアの限界ラインへの理解が進み、俺とアンジェラの反復会議の議題は豊富になりつつある。

 

 アンジェラによる組織統制・アブノマ管理の腕も徐々に上達してきて、管理人が来るまでの50日までの内、30日を突破するケースも出て来た。

 光の種シナリオは、順調な推移を見せていると言っていいだろう。

 

 ……まあ。

 真の煉獄は、むしろこれからだが。

 

 なにせ、まだ管理人Xすら到着してないんだしね。

 

 

 

 そうして、事が順調に進んでいる反面。

 アンジェラのメンタルは、ちょっと本格的に沈み込んできている。

 

 というのも、これだけ反復を繰り返せば、心底から悟ってしまうんだろうな。

 

 彼女がセフィラや職員を救うことは……いいや。

 もっと言えば、このL社地下本部の一員として生きることは、許されていないのだ……と。

 

 

 

 アンジェラは、アインによって造られたAIだ。

 その役割は、煉獄の先導者。

 管理人に施設管理を教えながらも、この場をより悲惨に突き落とし、セフィラたちを追い詰めること。

 

 ……要するに、彼女は明確な「悪役」として、もっと言えば舞台装置として造られているのだ。

 

 アインの目標達成のためには、憎まれ役がいる。

 であれば、衝動的に造ってしまった機械に全てを押し付けてしまえば良い、と。

 セフィラたちを、あのビナーでさえも悪役に仕立て上げることのできない、不器用で優しい、しかし狂気に目を眩ませていた馬鹿の選んだ道がそれである。

 

 ……あと、まあ。

 アインは割と機械アンチな面があったので、その辺りの心理も働いてるかもね。

 俺が義体化した腕とか見せた時も「うわぁ」って反応してたし……やっぱ巣の人間ってそういうのに忌避観持ちがちだよなぁ。

 

 ま、そんな奴がカルメンに似せてAIを作ったってのも、なんとも矛盾だらけの話。

 流石は発狂の果ての選択って感じだが。

 

 

 

 そんなことを考えていると、脳内にカルメンの驚きの声が響いた。

 

『え? アンジェラって私に似せてるの? 全然似てなくない?』

 

 まーた俺の表層意識を読み取りやがったらしい。プライバシーの侵害!!

 

 まあそれはそれとして、多分アンジェラの誕生経緯はそれで間違いない。

 

 俺は原作はともかく、この世界の歴史について詳しくないので、あくまで推測に過ぎないけど……。

 原作のアンジェラと容姿が変わらなかった辺り、誕生経緯もそうは変わるまい。

 

 

 

 生前のカルメンは、艶やかな黒茶の髪に滴る血のような目、無駄に眩しい笑顔、ついでに言うと平たい胸が特徴的な女だったが……。

 

『まずまず失礼!』

 

 一方のアンジェラは、流れるような淡い水色の髪に神秘的な琥珀の瞳、基本的には笑顔はあまり浮かべない無表情、そしてとてもでかいのが特徴だ。

 

 まあ、似てない。

 見た目の時点で既に全然似てない。

 勿論中身も全く似ておらず、言われたって真似て作ったと思えんレベルだ。

 

 アンジェラの脳に当たるパーツは、カルメンのそれの複製を使っているらしいが……。

 ぶっちゃけ、その人の人格を作るのって育った環境だからね。

 仮に同じ構造の脳を使ったところで、同じ環境で育てないと、そりゃあ性格が似ることはないでしょうよ。

 

 

 

『うーん、釣瓶に使われることは同意してたけど、まさかAIの原型に使われるとは思ってなかったわねぇ。

 まあアインには中々迷惑をかけたし、ていうかかけてるみたいだし、その分の対価と考えればいいか。別に不快でもないしね。

 ……ハッ!? てことは、アンジェラって私の娘みたいなもの!? コナーが父親代わりみたいなことやってるし、これは私たちの第一子ねっ♡♡♡』

 

 (ガン無視)

 

『ひんっ♡』

 

 反論しても楽しそうだし、無視しても楽しそう。

 コイツ……無敵か?

 

『コナーと話してる時に限ってはね!』

 

 

 

 ……てかお前、意外とその辺の事情知らないんだな。

 なんかこう、井戸に溶けてから、都市を監視とかしてなかったん?

 

『んん……実は私って、死んだ後、この世界に殆ど干渉できなかったのよ。

 ていうか今も、騎士ちゃんの剣を通さないと、会話さえまともにできないんだけど』

 

 ああ、そういえばそうだったか。

 余りにもフリーダムな奴すぎて忘れそうになるが、コイツ井戸に投げ入れられてずっと沈んだままなんだった。

 

『ほら、アブノーマリティだって、抽出でもしない限りこっちに干渉できないじゃない?

 基本的に井戸は人の意識の底にあるもので、表に出たり影響を与えたりすることはない。

 そこに釣瓶として落ちちゃった私も、あの釣瓶から世界を感じるくらいしかできなくて……。

 だから、コナーが初めて来てくれた時は本当に、本っ当に、嬉しかったのよ!!

 箱の姿でも、一目であなたって分かったしね! 愛の力で!!』

 

 はえ~、そうなんだ。

 

『反応軽すぎ;;』

 

 

 

 ……確かに、原作のコイツも、Lobotomyでは大人しいものだった。

 全人類ねじねじおばさんとして暴れまわり始めるのはRuinaからだったもんな。

 

 Lobotomyで光≒濃縮された井戸の水が都市中にばら撒かれたからこそ、色んなところに出現するクソリプ魔と化していたのかもしれない。

 

 更に言うと、軽く聞いた感じ、カルメンが死んだ順番は俺の次……エノク、リサ、エリヤ、俺に続く5人目らしい。

 それじゃあ、この辺の事情についてあんまり詳しくないのも仕方ないだろう。

 

 騎士もこっちで再抽出されて「正義の騎士」として装いを改めるまで、微妙に人の区別付いてなかったっぽいくて、微妙に信頼性に欠ける情報しか持っていなかった。

 

 それらの結果、あの後L旧研がどうなったのかについて、俺たちは微妙な知識しか持ち合わせていないのであった。

 

『お役に立たず、申し訳ありません……』

 

 いや、謝ることじゃないんだけどね?

 しゃーないしゃーない、そもそも俺が死んだのが一番悪いんだし。

 

 

 

 ふと、カルメンが空気を変えるように、どこか照れた声を上げた。

 

『んん……でも正直、他の世界の自分の話を聞くのは、ちょっと気恥ずかしいわね。

 コナーがいない世界の私、なんというか……ちょっと、うん!』

 

 悪意なく人の心をへし折って「幸せにしてあげた!」って言い張ってるクソリプ女でしたねぇ!

 

 多くの人がお前にねじれにされて人生狂いましたねぇ!!

 

 ついでに言うと、アインに労いの言葉一つありませんでしたねぇ!!!

 

『やめてぇ! 言わないでぇ!

 うぅぅ、思想自体は理解できなくもないのが辛いのぉ!!

 私ったら、どうしてそんな極端な手段に……罪悪感に打ち勝つにしても、もっと他にやり方もあるでしょうに……よよよ』

 

 

 

 夜空剣を通して、俺の思考の表層は、自動的に騎士とカルメンに共有される。

 まあそうしないと記憶の同期が進まないから仕方ないんだが……。

 

 である以上、俺はもはや、彼女たちに秘密を作ることもできない。

 ……逆に言えば、隠し立てする必要もなくなったわけだ。

 

 そんなわけで、俺が前々世の記憶を持ち続けていることや、そこでゲームという媒介を通して彼ら彼女らの旅路を観測したことは、既に彼女たちに話している。

 

 というか、ちょっと前にカルメンから「いい加減コナーのことちゃんと教えて♡ 教えてくれないと毎晩耳元で愛の告白ASMRしちゃうぞ♡」と脅され、根掘り葉掘り聞き出された。

 

 いやまあ、話すこと自体はいいんだけどね。

 対価として、彼女たち視点での俺の死後の話を聞けたし、フェアトレードだ。

 

 ……なにより、カルメンと騎士とは、既に何十年単位の長い付き合いにもなる。もはや運命共同体とすら言っていいだろう。

 

 今や、ダニエル/ケセドの次に信頼を置いていると言っていい相手だもの。

 これくらい教えることに、今更躊躇いもない。

 

 

 

『その言葉はすっごく嬉しいけど……ねえ、おかしくない? 

 未だにダニエルとの仲を越えられないの、これもう何らかの不具合じゃないの? バグとして報告上げた方がいい?』

『友だちとの縁は強いものですよ、カルメン』

『騎士ちゃんそっち側!?』

『私にも、大切な友だちがいる……いいえ、いましたので』

 

 その友だち、今やメンヘラ化してとんでもねえ困ったちゃんになってるけどね^^

 

『うぅ、お恥ずかしい限りで……』

 

 

 

 ……なんでこんなに話が逸れたんだっけ?

 とにかく、これまでの反復と、これからすべきことに視点を戻そう。

 

 反復も1,000回近い今、もはや最初の1日の流れはすっかりテンプレ化している。

 

 まずはアンジェラと反復会議を行い。

 もし落ち込んでるようなら慰めが入って。

 まだ人の体なので、脳の箱詰めをしてもらって。

 それから、セフィラたちとの自己紹介をする流れだ。

 

 前回のリブートは、アンジェラのやらかし(ホドに気を遣いすぎて許容条件オーバー)だったので、今回は多分なでなでタイムからのスタートになるかな。

 

 ……アンジェラ、すっかり気に入っちゃったんだよなぁ、頭撫で。

 まあ、父性に飢えてるって意味じゃエリヤすら遥かに越えるレベルだろうし、あるいは仕方ないのかもしれないが。

 

 

 

 ま、今の俺の指からは、無駄に皮脂も垢も出ない。

 人の頭を撫でる時に、気兼ねなくやれるのが良いところだな。

 

『ふふーん、私たち研究所の自慢の一作だからね! コナーが気にしてた点はバッチリ対策済み!

 アインは私に似せられなかったみたいだけど、私はしっかりコナーに似せたわよ? なにせ隅々まで見てたから! 隅々まで!!』

 

 やかましい。

 

 いや、確かにお前謹製らしいこの体、マジですごいとは思ってるけどね? 欠片も違和感とかないし、俺の記憶ともほぼ全く相違ないし。

 

 たださ、そもそもお前ら、死んだ人を再現しようとするとかちょっとアレだよ。

 非道いなぁ……倫理観とかないんか?

 

『再現っていうか、生き返らせようと思ったんだけどね~。

 それに私だけじゃなくて、みんな同意の上だったし? カーリーやダニエルなんてすごく気炎を上げてたわよ? アインは慎重派だったけど』

 

 アイン、安心しろ。少数派だったかもしれんけど、お前が100正しい。

 蘇生って普通に都市の禁忌だぞ? ただでさえ頭に敵視されてるのに、まだ喧嘩吹っ掛ける気かよ。命知らずすぎへんコイツら?

 

『コナーの脳は回収時点でギリギリ生きてたからセーフよ! 禁忌はあくまで、脳が死んだ生命を蘇生させることだからね!

 体はズタズタだったから、そうして新しく作るしかなかったけど、脳はK社のアンプルと現状保存容器でなんとか生き永らえさせたし……。

 ……今更だけど、あんなミンチみたいな状態で、よく脳だけでも生きてたわね。アレって地味に奇跡だった?』

 

 脳は一番の急所だからね。そりゃ全力で守ったとも。

 初手で心臓と肺潰されたんで、体までは守れんかったが。

 

『私の夫が頑丈すぎる。惚れ直しちゃう♡』

 

 夫じゃねえ。精々情夫が良いとこだろ。

 

 

 

 ……しかし、こんな雑魚をそこまで求めるの、みんな余裕なさすぎだろ。

 

 俺としては、なんかこう、出てしまった犠牲を踏み越えてより強く生きていくみたいな、そういう流れを期待してたんだけどな。

 

『本気で言ってるの、それ?』

『主よ、流石にお戯れが過ぎるかと』

 

 なんでぇ……。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そんな会話を交わしている内、自室前に到着してしまった。

 オイ!! ろくに考えが前に進まんかったが!! 誰かさんが話の腰をバキバキに折るせいで!!

 

『ごめんね;; コナーと話すのが楽しくてつい……』

 

 ……まあいいけど。

 どうせまだまだ、あと数万回くらいはこの道を歩くわけで、今すぐ考えなきゃいけない案件でもなかったし。

 

『私の旦那チョロすぎてかわいい^^』

 

 やっぱしばらく無視しようかなコイツ。

 あと旦那じゃねえ。

 

 

 

「……ふう」

 

 さて、そろそろ切り替えて、今回の反復に専念するとしよう。

 

 というわけで、まずはお決まりの2回ノック。

 そして同じくお決まりの挨拶を、努めて明るく、向こう側に届けた。

 

「やあエラ! 僕はコナー!」

 

 扉に触れれば、殆ど音もなく、ドアがスライドして開いていき……。

 

 

 

 その先に見えたのは、テーブルに突っ伏したアンジェラの姿だった。

 

 

 

「──ッ!」

 

 すわ敵襲かと、意識が戦場のそれに切り替わりかけたが……直後に弛緩する。

 それは到底、あり得ないことだからだ。

 

 そもそも、L社地下本部に外部の人間が迷い込むことはない。

 なにせここ、凝視者の監視すらも届かない、完全に隠蔽された空間だ。

 アインのことだから、特異点を用いた認識への欺瞞とかもかけてるだろうし、地下を掘り進めていた一般都市住民が偶然侵入する、なんてこともおおよそ起こり得ない。

 

 更に言えば、光の種シナリオの核であり、セフィラや職員から恨みを買うことになるアンジェラには、アインによる凄まじく厳重な保護がかかっている。

 

 単騎中指ぶち折りおじさん、もといマジヤバフィクサーのローランでさえ、「どうやっても殺せない」と言わしめるレベルの防御能力だ。多分保護99混乱保護99くらい付いてると思う。

 ビナーが本気で叛意を抱かない限り、彼女が傷付くことはおおよそあり得ない。

 

 で、更に言えば、アンジェラが傷付けば台本が破綻するわけで、その時点でリブートは不可避だろう。

 舞台が遡ってない以上、そうなっているとは考え辛い。

 

 それらから、総合的に考えて……。

 おおよそ、アンジェラが敵に排除されたという可能性はゼロだ。

 

 

 

 ……が、それはそれ、これはこれ。

 

 いつもは俺の部屋に用意された椅子に座り、落ち込むor安堵した様子で出迎えてくれるはずの彼女が、倒れ込んでしまっているのだ。

 緊急事態であることは間違いない。

 

 俺は慌てて彼女に駆け寄った。

 

「エラ! どうした!?」

「…………コナー」

 

 俺の声に反応し、彼女はゆっくりと体を起こす。

 ひとまず意識はあったか、それとも取り戻せたか。意識不明よりずっと良い。

 

 そうして彼女は……どこかぼんやりとした表情で俺を見た後。

 ふるふると顔を横に振り、答えた。

 

「……ごめんなさい、心配させてしまったわね。

 大丈夫、一時的に睡眠を取っていただけよ」

 

 それは普通の返答のようでいて……しかし、異常な答えだった。

 

 

 

 俺たちセフィラやアンジェラには、人間らしく活動できるだけの機能が付け足された。

 その中には食事は勿論、睡眠もまた含まれている。

 

 人間と違うのは、極端なことを言えば24時間寝て過ごすことも可能な点だ。

 ネツァクなんかは、アンジェラが活を入れないと割とそんなライフスタイルをしてる。お休みの日のパパかな?

 

 ……だが、睡眠はあくまで「できる」ものであって、しなきゃいけないものではない。

 一日に数分程度、自己メンテナンスも兼ねたスリープモードに切り替える必要はあるが……俺たちにとって、それ以上の睡眠は娯楽の範疇になる。

 

 そして、統括AIとして気を張っていたアンジェラは、これまでの1,000回近い反復の中で、ただの一度も必要以上の睡眠を取っていなかったのだ。

 

 

 

 だからこそ……空き時間とはいえ、睡眠を取っていたという言葉に、俺は思わず眉をひそめてしまい。

 

 アンジェラはそんな俺を見て、顔を俯かせ、片手で頭を抑えた。

 

「……こうすれば、疲労が取れると思ったの。

 最近、反復の中で、私の思考領域にノイズが走るような、上手く論理が纏まらないような感覚があって。

 システムのメンテナンスをしてみたんだけど、それも意味がなくて。

 であれば、疲弊しているんだろうと思って、あなたが帰って来るまで眠ってみようとして……でも、駄目で。

 結局、不調は抜けなかったけれど、その代わりに分かったことがあるの」

 

 

 

 いつもの理路整然とした喋り方ではなく、時系列順に思い出すような喋り方。

 朦朧としているらしい意識に、くらりと揺らぐ目線。

 いつものように胸を張りもせず、むしろ肩を落としているその様に。

 

 

 

「少なくとも、まぶたを閉じていれば……色んなことを見ずに済むわね。

 彼らが苦しむ姿も、彼女たちが死ぬ様も、何度も何度も繰り返される見慣れた光景も……何もかも」

 

 

 

 そして、何より、その言葉に。

 

 俺は、早くも、その時が来たことを悟った。

 

 

 

「コナー。私は……私は、職員たちを、セフィラたちを……皆を、ただ苦しませることしかできないのね。

 彼らを苦しめ、痛めつけ、心を抑圧するための、舞台装置。

 その為だけに用意された……生きていない、自分の意志で選択もできない、ただの機械」

 

 

 

 その虚ろに濁る、琥珀の瞳は、今。

 

 

 

「それなら、何故、私には人の心なんてものがあるの?

 何故、彼らを見て、こんなにも苦しくなってしまうの?」

 

「何度も、何度も、何度も何度も何度も……台本通りにこの舞台を繰り返す中で、この心の冷たい感覚は、避けられないのよね」

 

 

 

「それなら、もう、私は…………」

 

「何も、見たくない」

 

 

 

 ……今、鬱屈と絶望と共に、閉じられようとしていた。

 

 

 







 ターニングポイント、その3。
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