…あなたがいなければ。
気軽にデートと言いはしたものの、L社地下本部にまともなデートスポットなんぞありはしない。
しかしL旧研の頃と違い、都市の巣に出るわけにもいかなかった。
頭の監視を免れるこの地下本部を出れば、人工知能倫理法改正案に反したアンジェラは、凝視者によって即発見即殺害されてしまう。
詰んだ、出れない。略してツン・デレだ。
要は、まともに楽しめるようなスポットもなく、どころか5,500年もの時間で見慣れ切ったこの地下本部で、なんとかアンジェラを楽しませなければならないわけだ。
このデートのエスコートは、極めて難易度の高いものと言えるだろう。
……が、しかし。
俺には一つ、とっておきの腹案があった。
生真面目なアンジェラは知らない場所、知り得ない楽しみがある。
俺の人生に落ち着く香りをもたらしてくれた、最高のコーヒーを出してくれるそこ。
そう、困った時の友だち。
ケセドのコーヒーカフェである。
気取ったデートもいいけど、友だちとしてダベるなら、やっぱカフェだよな!!
そんなわけで、俺は福祉チームセフィラであり俺の友だちでもある、ケセドの私室を目指すことにした。
勿論、頭にたくさんのクエスチョンマークを浮かべるアンジェラの手を引きながらね。
果たして、起動したてなんだろうケセドとは、福祉チームのメインフロアで邂逅することと相成った。
やあやあと手を挙げてみせると、彼は一度ピクリと震え、俺に倣って手を挙げてくる。
「ッ、やあ……ダァト。僕はケセドだよ」
「僕ケセド!?!?!?!? プロムン特有の翻訳ガバかな??
まあ開けロイトのゲームもドシリアスなシーンで『
「ああ──ふふ。いやいや、君だってこの挨拶する時は一人称を変えてるよね?」
「やあケセド、僕はコナー! ……ホントだ、僕って言ってる!?」
「まさかの自覚なしパターン?」
ケセドからすれば、今はセフィラに転生した直後で、色々と混乱があっただろう。
更に言うと、俺は箱ではなく、人の体のまま来た。
いきなりコナー(顔面蒼白)を見て、少なからぬ衝撃はあったと思う。
が、そこはL旧研でもトップクラスの天才兼、俺の友だち。
俺がビクビクせずに堂々と彼に接すれば、すぐに色々と事情を察してくれたようで、かつてのようにふざけ話に付き合ってくれた。
きっと聞きたいことはたくさんあるんだろうが、それは一旦さておき、俺に付き合ってくれているのである。
流石は俺の最高の友だちだ。
この分はいつか必ず恩返ししたるからな!
続けて、彼の視線が俺の背後のアンジェラに向き、誰何を投げかけた。
「ん? あなたは……ああ、もしかしてあなたがアンジェラさんですか? 俺たちを統括するAIの」
「そ……そうよ。私が統括AI、アンジェラ。あなたたちは黙って、私の言うことに……」
「こら!」
「あっ、えっ!?」
こつん、と頭に軽くげんこつを落としてやると、アンジェラはびっくりしたようにこっちを見て来る。
いやいや、びっくりするのはこっちですよエラさんったら。
今日はお休み、無礼講ですよ? なーにこんな日にまで上司面してんの!
「今は俺とのデート中だろ? お仕事の話はいいの!
だから、ほら。アンジェラじゃなく、エラとして、俺の友だちと向き合ってあげてよ」
「えっ……いえ、その、それは……」
その言葉に、彼女は口をパクパクさせた。
おさかなさんみたいでかわいいね♡
中には30日を突破する反復も増え始めた昨今。
アンジェラとケセドとの間柄は、かなり悪化している。
アンジェラから見て、ケセドは常に職員のことを考えて様々な福祉案を出す、優しい奴に映っていただろうし。
同時に、原作の彼と違って、どれだけ自分が精神を抑圧されようと、それでも諦めずに出来ることをする聖人でもある。
アンジェラはこの煉獄の先導者として、シナリオの進行のため、そんな彼も苦しめなくてはならなかったし……。
本当は善良な心を持つ彼女は、苦しみながらもなんとか職員を救おうとするケセドを見て、自己嫌悪に陥っていた。
そんな相手に、今更フラットに向き合えと言われれば、困惑が先立つのは当然だ。
これまで5,000年以上続けて来た演技をいきなりやめろってのも、なかなか難しい話だろうしね。
が! 無理にでもやってもらう!
何故なら、旅と反復の恥はかき捨てだから!!
あと、友だちと友だちには仲良くしてほしいから!!!
え、何? 恥ずかしくて勇気が出せない?
まああるよね~そういうことも。
任せろ、そんな時こそ、俺と友だちのゆ友情パパワー! の見せ所である。
ふっふっふ、何せ俺、コイツとなら一生くだらない話をできる自信あるからな!
今の君の張り詰めてる気持ち、だるんだるんに弛緩させたる!
ちらと視線を向ければ、ケセドはその瞳をニヤリと歪めてくれた。
流石、言葉などなくとも、アイコンタクトで十分だね。
「おやおや、コナーったら、またデートかい? まったく、君も隅に置けないよね~」
「お前に言われたかないわい伊達男が! O社にいた頃は週一で女引っかけてたやんけ! 俺は全然モテなくて毎日涙で枕を濡らしてましたよ;;」
「あの頃の君、俺以外とはまともに付き合おうとしてなかったじゃないか。
研究所に入って皆と接点を持ち始めてからは、むしろ君がモテてたけどねぇ。
ああ、アンジェラさん、コナーはこんな軽薄そうに見える男ですけど、俺と違って内面はとても真面目で優しい奴なんです。
その表情からするに、今も無理やり連れ出されたんでしょうけど、コナーなりのあなたへの思いやりで……」
「うるへ~~~! 営業妨害やめてね!
ギャグキャラの皮を剥ぐのとギャグを解説することは犯罪ですよ、都市の禁忌に触れますよ!! また左腕もがれたいんか!?」
「コナーのためならいいけど……それはそれとして。
どうか、仲良くしてやってください。俺の誇れる、最高の友だちなんです」
「はっ……恥ずかしいこと言うのもやめてよねっ♡ ダァトの好感度が65536上がった! ちっケセドとかいうヤツうざってーわー」
「オーバーフローしてマイナスになってるねぇ」
俺とケセドによる、熟練の夫婦漫才。
ふざけ散らかした会話を前にして、冷酷な機械の仮面を維持することは、今のアンジェラには難しかったようで……。
「……っ、ふふっ」
堪え切れず吐き出された、弛緩した吐息に。
俺とケセドは肩をすくめ、してやったりと笑った。
それだけ気が弛緩すれば、「ちょっとくらいはいいか」と思えるだろう。
ま、今日は俺に付き合ってくれよ、エラ。
きっと君に、「楽しい」ってものを教えてみせるからさ。
「それじゃ、はい。改めて自己紹介を」
「……そう、ね。わかった。
私は……エラ。どうやら今は、それ以上でもそれ以下でもない、みたい。
多分、短い付き合いになってしまうでしょうけど……よろしくね、ケセド」
流石はアンジェラ、完璧に意図を汲んだ挨拶だ。
そしてそれに、俺の友人もまた、完璧に意図を汲んだ笑顔を以て応えた。
「そっか。エラ、コナーに振り回される者同士、よろしくね~」
* * *
光の種シナリオにデートなんて項目はない。
絶無だ。マジで一文字も書いてない。
言っちゃなんだが当たり前である。終身名誉童貞コミュ障陰キャクソナードなアインから、そんな発想が出て来るものかよ。
つまり、何が言いたいかといえば……。
今、想定にない行動を取っている俺やアンジェラは、シナリオからすれば「何もしていない」状態に該当するわけだ。
光の種シナリオのリブート条件はある意味とても簡単で、「今後シナリオを進行しても、完遂できる可能性が潰える」こと。
時間を無駄にし過ぎたり、セフィラの精神を安定させすぎたり、逆に吐き出させ過ぎたりすると、達成不可と判断されて勝手に時が巻き戻る。
要はつみです、でなおしてまいれ……ということだ。
そんなわけで、こんな堂々とサボりかましてたら、半日足らずで残されたバッファを食い潰し、時が遡ってしまうだろう。
全く以て無意味で生産性のない行いだ。
ただの時間の浪費に他ならない。
でもさ、別にちょっとくらい時間浪費しても良くね?
ここでは実際の1/1,000の速度でしか時間が進行しないんだぜ?
目標達成までの間、無尽蔵に反復が繰り返されるんだぜ?
それなら、1回くらい捨て回にして、遊びに使ってもいいじゃんね。
別にそれでセフィラや職員たちが苦しむわけでもなし、TT2プロトコルが続かなくなってしまうわけでもなし、頭がここを発見するわけでもなし。
何も喪われるものはないんだ、むしろちょっとくらい楽しませてもらわないと損ってものだろう。
ま、真面目で善い子なアンジェラからは、そんな怠惰な発想は出てこなかったようだけど……。
俺は自己中のカスなんでね! この手のズルの発案は大得意だ!
* * *
そんなわけで、カフェと化したケセドの管理室で楽しくお話を開始する。
いや~、カフェに集まって駄弁るとか、学生時代を思い出すね。
……まあ、俺には駄弁る相手なんて、1人しかいなかったけど!
というわけで、まずは掴みに、ソイツとの思い出話でも一つ。
「それでさぁ、俺が言ったわけ。『おいダニエル、それじゃまるで俺が力を求める悲しきバーサーカーみたいじゃんか』って。
そしたらコイツ、何て言いやがったと思う?」
「ええと、『そうじゃないよ』とか?」
「ふふっ……答えはね、『力だけを求める悲しきバカだとは思ってるけど?』だよ~」
いやはや、なんとも懐かしい。
知り合い立ての頃、ダニエルがやたらと俺を煽ってきた時代の一幕である。
多分、俺の正体とか真意とかを探るトラッシュトークだったんだろうけど、当時の俺は真に受けて、対抗意識をメラメラ燃やしてた。
まだダニエルの天才っぷりを理解してなかった俺は、ワンチャン勝てるって思ってもいたからね。
「いくら温厚な俺でもこの煽りにはブチ切れた。
28回目の罵倒だぞ! 確実に怒らせたんだろう!! とな」
「え、え、まさか、手を出してはないわよね?」
「それじゃ勝ったことにならないだろ? 次のテストで見返してやる! って超猛勉強し始めたわけよ」
「……何というか、コナーって、変なところで真面目よね?」
「ね~。そういう所もコナーの魅力なんだけど。
ま、それでも結局は、俺の勝ちだったけどね~」
「ぐぎぎぎぎぎっ、悔しいぃ〜!! お前は毎日1時間程度の勉強、俺は6時間以上勉強して、それでも負けるって! 才能ってヤツが憎いぃ!!」
「そ、それは、なんというか……残念だったわね?」
アンジェラは慰めるためか、歯軋りする俺の頭を恐る恐る撫でてくれた。
うううう、情けない、こんなちっちゃい(でっかい)子供に慰められるとは……!
「まあ、コナーの失点はケアレスミス1つだけだったんだけどね。
いざって時に足元がお留守なんだよ、コナーはさ」
「ううっ、言うな、言うなケセド! アレは未だにトラウマなんだよ!
どんだけ頑張っても、結局はちょっとしたミスで全部瓦解するんだよなぁ……」
「俺はミスとかあんまりしないから、よくわからないなぁ」
「私も、失敗はプログラムにないのよね」
「この天才AI共めぇッ! 俺も仲間に入れて~♡」
* * *
話を続ける内、話題はアンジェラのことへとシフトした。
まあ自然にそうなったってわけじゃなく、俺とケセドがそう誘導してたんだけどね。
「エラには好きな食べ物とかってあるのかい?」
「私は……そうね。その、コナーが淹れてくれるコーヒー、かしら」
「へえ、興味深い。それじゃあ、俺がとびきりのコーヒーを淹れて、好みを塗り替えちゃおうかな?」
「NTRの文脈じゃん。ま、ぶっちゃけケセドには勝てる気しないけどね。俺の師匠だし」
武力面での師匠がイオリなら、コーヒー面での師匠はダニエル/ケセドである。
淹れる方でも味わう方でも、コーヒーに関してはコイツに勝てる気が全くしない。
まあそもそも、競うべきことでもないとは思うけどね。
コーヒーを飲む時はね、誰かと競ったりせず自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……。
「ほら、どうぞ。コナーも」
「いただきまーす! へへへ、友だち2人と一緒にコーヒー飲むとか、俺ってばリア充してるぜ」
「と、友、だち……。
……うん、確かに、とても美味しいわね。いつも飲んでいる物より複雑で……こういうのを、深みがある、って言うのかしら?」
「分かる~! 俺、ケセドのコーヒー飲んで一生を過ごしたいくらいだもん」
「ふふふ、嬉しいこと言ってくれるね。これからも毎朝淹れてあげるから安心しなよ」
「うっひょ〜!^^」
L旧研に入るくらいから、ガバに次ぐガバでチャートがぶっ壊れてしまい、忘れがちになっていたが……。
そもそも俺の将来的な目標は、外郭の図書館の社会科学の階で、美味いコーヒーを飲みながら文化的かつ健全な生活を送ることだ。
そこに友だちが2人もいれば、これはもはや幸せライフである。
……ついでに言うと、もう1人2人。
クッソ口下手で絶賛狂気堕ちネグレクト中のアホとか、クッソ強くて腹黒い特色フィクサーモドキとか。
あの辺りのメンツがいれば、これ以上求めることもないんだが……。
流石にそれは夢見すぎかなぁ。
「…………でも、ごめんなさい、ケセド。
やっぱり私、コナーの淹れてくれるコーヒーが好きみたい。
いつも最初の会議の前に、コナーが私に淹れてくれて……それが、すごくほっとする味なの。
温かくて、優しくて……一人じゃないんだって、そう思えるような味で」
「エラ~~~;; 嬉しすぎて涙で大湖できちゃう」
「おお……びっくり。惚気られちゃった」
「惚気? いえ、違うの、そうじゃなくて……」
アンジェラはわたわたと手を振って誤解を解こうとしながら、俺の方をちらちら窺ってきていた。
歳相応に焦っててかわいいね^^
いや歳相応ではないか、まだ精神年齢1歳か2歳くらいだろうしこの子。
* * *
「それでね、コナーはね、いつもすごく優しいの。
私が疲れた時はいつも、コーヒーを淹れるのに加えて、食事も作ってくれるのよ。
私は電力さえあれば活動できるし、食事を取るつもりはなかったんだけど……職員のための食堂で、わざわざ自分で作ってくれてね。
最初に食べた時は、本当にびっくりしたわ。鮮烈な感覚刺激が思考回路を焼いたようにすら思った。
あの時食べたミートシチューとタマゴサンド、コーヒーの味も、忘れたくないことの1つね」
「そっか、うんうん。アンジェラにとっては、それが初めての食事だったんだねぇ」
「…………」
き……気まずい。
いや、気まずいっていうか、気恥ずかしい。
話を続ける内、アンジェラの緊張が解けたところまでは良かったんだが……。
そしたらこの子、楽しそうに延々と俺の話をし始めてしまった。
いや、まあ……この煉獄に閉じ込められた彼女にできる愉快な話って言ったら、旅の同行者たる俺のことくらいしかないのかもしれないけどさ。
だからってここ何百周のことをずっと話すのはさ、ね!
……それらはシナリオのリブートを知らず、ついさっき目覚めたばかりと思ってるケセドにとっては、矛盾に満ちた話に聞こえるはずだが。
人の出来過た俺の友だちは、野暮なことを聞くことはなく、ニコニコと聞き役に徹してくれている。
セフィラミズカラガ⁉︎ サスガダァ……!
でもそろそろ恥ずかしいからその辺にしてくれるかなエラさァん!!
わかる!? 俺の蒼白のはずの頬が赤くなってるの! 俺って褒め殺しに弱いんだよねぇ実は!!
「え、エラ、まあその辺りで……」
「それでね、最初の頃はサンドイッチみたいな軽いものだったんだけど、段々料理も凝って来て……前回は確か、肉じゃがモドキ? というものだったかしら。独特な味と感触で、とても美味しかったわ。
それに、最近は私のためにレシピを考えるのが楽しみ、なんて言ってくれてね。私も、その、コナーの作ってくれる料理を実は楽しみにしてて……」
「へぇ~、それは羨ましいなぁ。俺には手料理なんて作ってくれたことないのにね~?」
「作ってほしいんなら言ってくれれば作るが!? 俺、今や料理スキルかなり上がってるから、期待は裏切らないと思いますわよ!?」
照れ隠しに胸を張る。
実際、今の俺はかなり料理ができる。
なにせ1000回弱、50年強の反復の中、幾度となく料理を作って来たもの。
隙間時間には前々世の料理の再現や独自レシピの開発もしてるし、師匠と呼べる人こそいないが、もはや熟練の料理人と言っても遜色ない腕のはずだ。
ただ……そろそろリブートの時間も近いだろう。
ケセドに飯作ってやれるのは、次回の反復でのことになっちゃいそうだが。
「……ふふ。いや、やめておくよ。俺もコナーとエラの恋路の邪魔をしたいわけじゃないからね~」
「こい……恋、なの、かしら? これは……」
「ケセドやい、ちょっと悪趣味だぞ。エラはまだ情緒が初等部1年生なの、あんまり惑わすもんじゃない」
「ふふ、怒られちゃった。ごめんね~」
「そ、その……ええと、あの……」
「照れちゃった! かわいいね♡」
「コナーもそういうとこ悪趣味だと思うけどねぇ」
* * *
ケセドに定期的にコーヒーを淹れてもらい、軽食をつまみつつ話し込むこと、6時間。
いやー、やっぱ友だちとの会話ってヤバいね。
無限に話題が湧いて来るし、一瞬で時間が溶けていった。
そして幸い、楽しんでいたのは俺とケセドだけではなかったようで。
アンジェラは、ぶっちゃけリブートの情報がだいぶ透けちゃうくらいに、ひたすら俺の自慢話(?)を続けていた。
計算され尽くした、丁寧でわかりやすい、機械的な説明ではない。
思い付いたことをそのままに口にする、お世辞にも上手いとは言えない、幼さを感じさせる話し方。
だが、きっと彼女には、そういう話をする機会が必要だったんだろう。
だって彼女は今、わざとらしい笑いではない、あどけない笑顔を浮かべてくれてるんだから。
そんなアンジェラを相手に、ケセドは多分色々と察しながらも、俺の意図を汲み、最後までアンジェラの話に付き合ってくれた。
一期一会、きっとすぐに失われてしまう繋がりでも、アンジェラの心を取り持ってくれたのだ。
多少気恥ずかしく居心地の悪い思いをしながらも、最高の友だちと新たな友だちに囲まれ……あとついでに脳内では騒がしい奴に茶化されたりもして。
俺だってその一時の息抜きを、楽しく思っていて……。
……だが。
そんなかけがえのない時間にも、終わりは必ず来るものだ。
……シナリオさんは、いよいよ時間の無駄遣いで詰んだと判断したらしい。
あるいは、ケセドにリブートの情報が漏洩したと判定したか。
L社地下本部全体に、大きなアラートが響き、施設が揺れ始めた。
流石に驚きから目を見開くケセドの横で、俺とアンジェラはため息を吐く。
「……ああ、もう終わりなのね」
「そうだね。楽しかった?」
「ええ。もっともっと、って……そう望みたくなってしまうこれが、楽しいって感情なのね」
ああ、良かった。
昏く濁っていたアンジェラの瞳は今、本来彼女が有していた、澄んだ琥珀色を取り戻している。
……これからも、彼女が煉獄の中、生きなければならないことは変わらない。
なんなら、今以上に絶望することもあるかもしれない。
でも、ほんの少しでも彼女の苦痛を軽くできたのなら、心より嬉しく思う。
どんどん酷くなる揺れの中、アンジェラは倒れないようにと床に横になり……。
少し寂しそうに、その目を細めた。
「……楽しかったからこそ、そう、惜しいわね。
私はもう、ケセドとこんな風に話すことはできないでしょうし」
「ん? そんなこたないでしょ。
またキツくなったらケセドと話しにきてもいいし、なんなら他のセフィラと話してみてもいいじゃん」
「それは……でも、私の役割を果たさないと」
「むしろそれを果たすためにこそ、だよ。張り詰めた糸はいつか切れちゃうもの、時には気を抜くことも必要なもんだ」
「ま、まあ……その、またコナーが連れて来てくれるのなら、構わないけれど」
少し恥ずかしそうに、けれど微かな期待を込めて、嬉しそうに笑うアンジェラ。
俺は彼女の隣に座り、こくりと頷いた。
「勿論、何度でも。君の旅の同行者として、俺に君を助けさせてくれ。
……っていうか、無理にでも連れて来ちゃうもんね! 俺も時にはこうやって気を抜いてたいからさ~!
いやはや、ギャグキャラは堅苦しい空気が苦手なんですわ~!」
ちょっとふざけた、その肯定を聞いたからか。
あるいは、優しく撫でられた、頭の感触からか。
アンジェラの表情から、負の色は解けて……。
ゆったりと、まるで眠りに就くように、彼女はまぶたを閉じた。
「……ねえ、コナー。お願い。また、抱きしめてくれる?
私の隣にいてくれる人の鼓動と体温を、何より確かに感じ取れるくらい、強く。
そしたらきっと……今度は、ちゃんと眠れる気がするの」
「ああ……温かい。
この体温は、あなたは、私の隣にいてくれるのね。
ずっと昔から、今も、そしてこの先だって変わらずに」
「……ねえ、コナー。
あなたは私のことを、ずっと見てくれるんだったわよね。
なら、お願い。
あなただけは、私から目を背けないで。
もう誰からも視線を向けられないのは……独りでいるのは、もう嫌なの」
「その代わり私も、起きたら、ずっと……。
あなたのことだけは、ずっと、見ているから」
そんな彼女の、小さく健気なおねだりと共に。
俺とアンジェラの関係を大きく変えた反復は、終わりを告げた。
これからきっと舞台の片隅で何度も行われるだろう、2人のささやかなデート、1回目終了。
(Limbus近況報告)
時間殺人時間、読了。
あの~~~すみません、すみませんちょっと。
内容もしっかり面白かったんですけど、それはそれ、これはこれ。
2章で雑ゥ~な感じで流した結果、ロジオンの感情が縺れまくったまんま、むしろ悪化してるんですけどそれは……???
大丈夫なんですかねこれ。普通に闇墜ちしかねませんけど? てかしかけてたけど??
あとしれっと最後に最悪の告知されたんですけど。
Warp列車にだけは乗りたくないんですけどぉ……嫌だよォ発狂するイサンとかイッシュ見るの。薬指点描派とかピークォド号船長になったらどうしよう……。
頼むから1等車に乗せてくれ。十中八九Limbusの社長はディアスなんだろうしその程度の金あるでしょ、お願いだから1等車で頼む(命乞い)。