3級フィクサーパンチ   作:アリマリア

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 …あなたがいなければ。





…without you.

 

 

 

 気軽にデートと言いはしたものの、L社地下本部にまともなデートスポットなんぞありはしない。

 

 しかしL旧研の頃と違い、都市の巣に出るわけにもいかなかった。

 頭の監視を免れるこの地下本部を出れば、人工知能倫理法改正案に反したアンジェラは、凝視者によって即発見即殺害されてしまう。

 詰んだ、出れない。略してツン・デレだ。

 

 要は、まともに楽しめるようなスポットもなく、どころか5,500年もの時間で見慣れ切ったこの地下本部で、なんとかアンジェラを楽しませなければならないわけだ。

 

 このデートのエスコートは、極めて難易度の高いものと言えるだろう。

 

 

 

 ……が、しかし。

 俺には一つ、とっておきの腹案があった。

 

 生真面目なアンジェラは知らない場所、知り得ない楽しみがある。

 俺の人生に落ち着く香りをもたらしてくれた、最高のコーヒーを出してくれるそこ。

 

 

 

 そう、困った時の友だち。

 ケセドのコーヒーカフェである。

 

 気取ったデートもいいけど、友だちとしてダベるなら、やっぱカフェだよな!!

 

 

 

 そんなわけで、俺は福祉チームセフィラであり俺の友だちでもある、ケセドの私室を目指すことにした。

 勿論、頭にたくさんのクエスチョンマークを浮かべるアンジェラの手を引きながらね。

 

 果たして、起動したてなんだろうケセドとは、福祉チームのメインフロアで邂逅することと相成った。

 やあやあと手を挙げてみせると、彼は一度ピクリと震え、俺に倣って手を挙げてくる。

 

「ッ、やあ……ダァト。僕はケセドだよ」

「僕ケセド!?!?!?!? プロムン特有の翻訳ガバかな??

 まあ開けロイトのゲームもドシリアスなシーンで『発砲だ!(F i r e !)』を『火事だ!』ってとんでもねえ誤訳してたし、それくらいは起こり得るわな」

「ああ──ふふ。いやいや、君だってこの挨拶する時は一人称を変えてるよね?」

「やあケセド、僕はコナー! ……ホントだ、僕って言ってる!?」

「まさかの自覚なしパターン?」

 

 ケセドからすれば、今はセフィラに転生した直後で、色々と混乱があっただろう。

 更に言うと、俺は箱ではなく、人の体のまま来た。

 いきなりコナー(顔面蒼白)を見て、少なからぬ衝撃はあったと思う。

 

 が、そこはL旧研でもトップクラスの天才兼、俺の友だち。

 俺がビクビクせずに堂々と彼に接すれば、すぐに色々と事情を察してくれたようで、かつてのようにふざけ話に付き合ってくれた。

 

 きっと聞きたいことはたくさんあるんだろうが、それは一旦さておき、俺に付き合ってくれているのである。

 

 流石は俺の最高の友だちだ。

 この分はいつか必ず恩返ししたるからな!

 

 

 

 続けて、彼の視線が俺の背後のアンジェラに向き、誰何を投げかけた。

 

「ん? あなたは……ああ、もしかしてあなたがアンジェラさんですか? 俺たちを統括するAIの」

「そ……そうよ。私が統括AI、アンジェラ。あなたたちは黙って、私の言うことに……」

「こら!」

「あっ、えっ!?」

 

 こつん、と頭に軽くげんこつを落としてやると、アンジェラはびっくりしたようにこっちを見て来る。

 いやいや、びっくりするのはこっちですよエラさんったら。

 今日はお休み、無礼講ですよ? なーにこんな日にまで上司面してんの!

 

「今は俺とのデート中だろ? お仕事の話はいいの!

 だから、ほら。アンジェラじゃなく、エラとして、俺の友だちと向き合ってあげてよ」

「えっ……いえ、その、それは……」

 

 その言葉に、彼女は口をパクパクさせた。

 おさかなさんみたいでかわいいね♡

 

 

 

 中には30日を突破する反復も増え始めた昨今。

 アンジェラとケセドとの間柄は、かなり悪化している。

 

 アンジェラから見て、ケセドは常に職員のことを考えて様々な福祉案を出す、優しい奴に映っていただろうし。

 同時に、原作の彼と違って、どれだけ自分が精神を抑圧されようと、それでも諦めずに出来ることをする聖人でもある。

 

 アンジェラはこの煉獄の先導者として、シナリオの進行のため、そんな彼も苦しめなくてはならなかったし……。

 本当は善良な心を持つ彼女は、苦しみながらもなんとか職員を救おうとするケセドを見て、自己嫌悪に陥っていた。

 

 そんな相手に、今更フラットに向き合えと言われれば、困惑が先立つのは当然だ。

 これまで5,000年以上続けて来た演技をいきなりやめろってのも、なかなか難しい話だろうしね。

 

 

 

 が! 無理にでもやってもらう!

 

 何故なら、旅と反復の恥はかき捨てだから!!

 

 あと、友だちと友だちには仲良くしてほしいから!!!

 

 

 

 え、何? 恥ずかしくて勇気が出せない?

 まああるよね~そういうことも。

 

 任せろ、そんな時こそ、俺と友だちのゆ友情パパワー! の見せ所である。

 

 ふっふっふ、何せ俺、コイツとなら一生くだらない話をできる自信あるからな!

 今の君の張り詰めてる気持ち、だるんだるんに弛緩させたる!

 

 

 

 ちらと視線を向ければ、ケセドはその瞳をニヤリと歪めてくれた。

 流石、言葉などなくとも、アイコンタクトで十分だね。

 

「おやおや、コナーったら、またデートかい? まったく、君も隅に置けないよね~」

 

「お前に言われたかないわい伊達男が! O社にいた頃は週一で女引っかけてたやんけ! 俺は全然モテなくて毎日涙で枕を濡らしてましたよ;;」

 

「あの頃の君、俺以外とはまともに付き合おうとしてなかったじゃないか。

 研究所に入って皆と接点を持ち始めてからは、むしろ君がモテてたけどねぇ。

 ああ、アンジェラさん、コナーはこんな軽薄そうに見える男ですけど、俺と違って内面はとても真面目で優しい奴なんです。

 その表情からするに、今も無理やり連れ出されたんでしょうけど、コナーなりのあなたへの思いやりで……」

 

「うるへ~~~! 営業妨害やめてね!

 ギャグキャラの皮を剥ぐのとギャグを解説することは犯罪ですよ、都市の禁忌に触れますよ!! また左腕もがれたいんか!?」

 

「コナーのためならいいけど……それはそれとして。

 どうか、仲良くしてやってください。俺の誇れる、最高の友だちなんです」

 

「はっ……恥ずかしいこと言うのもやめてよねっ♡ ダァトの好感度が65536上がった! ちっケセドとかいうヤツうざってーわー」

 

「オーバーフローしてマイナスになってるねぇ」

 

 

 

 俺とケセドによる、熟練の夫婦漫才。

 ふざけ散らかした会話を前にして、冷酷な機械の仮面を維持することは、今のアンジェラには難しかったようで……。

 

「……っ、ふふっ」

 

 堪え切れず吐き出された、弛緩した吐息に。

 俺とケセドは肩をすくめ、してやったりと笑った。

 

 それだけ気が弛緩すれば、「ちょっとくらいはいいか」と思えるだろう。

 

 ま、今日は俺に付き合ってくれよ、エラ。

 きっと君に、「楽しい」ってものを教えてみせるからさ。

 

 

 

「それじゃ、はい。改めて自己紹介を」

「……そう、ね。わかった。

 私は……エラ。どうやら今は、それ以上でもそれ以下でもない、みたい。

 多分、短い付き合いになってしまうでしょうけど……よろしくね、ケセド」

 

 流石はアンジェラ、完璧に意図を汲んだ挨拶だ。

 

 そしてそれに、俺の友人もまた、完璧に意図を汲んだ笑顔を以て応えた。

 

「そっか。エラ、コナーに振り回される者同士、よろしくね~」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 光の種シナリオにデートなんて項目はない。

 絶無だ。マジで一文字も書いてない。

 言っちゃなんだが当たり前である。終身名誉童貞コミュ障陰キャクソナードなアインから、そんな発想が出て来るものかよ。

 

 つまり、何が言いたいかといえば……。

 今、想定にない行動を取っている俺やアンジェラは、シナリオからすれば「何もしていない」状態に該当するわけだ。

 

 光の種シナリオのリブート条件はある意味とても簡単で、「今後シナリオを進行しても、完遂できる可能性が潰える」こと。

 

 時間を無駄にし過ぎたり、セフィラの精神を安定させすぎたり、逆に吐き出させ過ぎたりすると、達成不可と判断されて勝手に時が巻き戻る。

 要はつみです、でなおしてまいれ……ということだ。

 

 そんなわけで、こんな堂々とサボりかましてたら、半日足らずで残されたバッファを食い潰し、時が遡ってしまうだろう。

 

 全く以て無意味で生産性のない行いだ。

 ただの時間の浪費に他ならない。

 

 

 

 でもさ、別にちょっとくらい時間浪費しても良くね?

 

 

 

 ここでは実際の1/1,000の速度でしか時間が進行しないんだぜ?

 目標達成までの間、無尽蔵に反復が繰り返されるんだぜ?

 

 それなら、1回くらい捨て回にして、遊びに使ってもいいじゃんね。

 

 別にそれでセフィラや職員たちが苦しむわけでもなし、TT2プロトコルが続かなくなってしまうわけでもなし、頭がここを発見するわけでもなし。

 何も喪われるものはないんだ、むしろちょっとくらい楽しませてもらわないと損ってものだろう。

 

 ま、真面目で善い子なアンジェラからは、そんな怠惰な発想は出てこなかったようだけど……。

 俺は自己中のカスなんでね! この手のズルの発案は大得意だ!

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そんなわけで、カフェと化したケセドの管理室で楽しくお話を開始する。

 

 いや~、カフェに集まって駄弁るとか、学生時代を思い出すね。

 ……まあ、俺には駄弁る相手なんて、1人しかいなかったけど!

 

 というわけで、まずは掴みに、ソイツとの思い出話でも一つ。

 

 

 

「それでさぁ、俺が言ったわけ。『おいダニエル、それじゃまるで俺が力を求める悲しきバーサーカーみたいじゃんか』って。

 そしたらコイツ、何て言いやがったと思う?」

 

「ええと、『そうじゃないよ』とか?」

 

「ふふっ……答えはね、『力だけを求める悲しきバカだとは思ってるけど?』だよ~」

 

 

 

 いやはや、なんとも懐かしい。

 知り合い立ての頃、ダニエルがやたらと俺を煽ってきた時代の一幕である。

 

 多分、俺の正体とか真意とかを探るトラッシュトークだったんだろうけど、当時の俺は真に受けて、対抗意識をメラメラ燃やしてた。

 

 まだダニエルの天才っぷりを理解してなかった俺は、ワンチャン勝てるって思ってもいたからね。

 

 

 

「いくら温厚な俺でもこの煽りにはブチ切れた。

 28回目の罵倒だぞ! 確実に怒らせたんだろう!! とな」

 

「え、え、まさか、手を出してはないわよね?」

 

「それじゃ勝ったことにならないだろ? 次のテストで見返してやる! って超猛勉強し始めたわけよ」

 

「……何というか、コナーって、変なところで真面目よね?」

 

「ね~。そういう所もコナーの魅力なんだけど。

 ま、それでも結局は、俺の勝ちだったけどね~」

 

「ぐぎぎぎぎぎっ、悔しいぃ〜!! お前は毎日1時間程度の勉強、俺は6時間以上勉強して、それでも負けるって! 才能ってヤツが憎いぃ!!」

 

「そ、それは、なんというか……残念だったわね?」

 

 

 

 アンジェラは慰めるためか、歯軋りする俺の頭を恐る恐る撫でてくれた。

 

 うううう、情けない、こんなちっちゃい(でっかい)子供に慰められるとは……!

 

 

 

「まあ、コナーの失点はケアレスミス1つだけだったんだけどね。

 いざって時に足元がお留守なんだよ、コナーはさ」

 

「ううっ、言うな、言うなケセド! アレは未だにトラウマなんだよ!

 どんだけ頑張っても、結局はちょっとしたミスで全部瓦解するんだよなぁ……」

 

「俺はミスとかあんまりしないから、よくわからないなぁ」

 

「私も、失敗はプログラムにないのよね」

 

「この天才AI共めぇッ! 俺も仲間に入れて~♡」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 話を続ける内、話題はアンジェラのことへとシフトした。

 

 まあ自然にそうなったってわけじゃなく、俺とケセドがそう誘導してたんだけどね。

 

 

 

「エラには好きな食べ物とかってあるのかい?」

 

「私は……そうね。その、コナーが淹れてくれるコーヒー、かしら」

 

「へえ、興味深い。それじゃあ、俺がとびきりのコーヒーを淹れて、好みを塗り替えちゃおうかな?」

 

「NTRの文脈じゃん。ま、ぶっちゃけケセドには勝てる気しないけどね。俺の師匠だし」

 

 

 

 武力面での師匠がイオリなら、コーヒー面での師匠はダニエル/ケセドである。

 

 淹れる方でも味わう方でも、コーヒーに関してはコイツに勝てる気が全くしない。

 

 まあそもそも、競うべきことでもないとは思うけどね。

 コーヒーを飲む時はね、誰かと競ったりせず自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……。

 

 

 

 

「ほら、どうぞ。コナーも」

 

「いただきまーす! へへへ、友だち2人と一緒にコーヒー飲むとか、俺ってばリア充してるぜ」

 

「と、友、だち……。

 ……うん、確かに、とても美味しいわね。いつも飲んでいる物より複雑で……こういうのを、深みがある、って言うのかしら?」

 

「分かる~! 俺、ケセドのコーヒー飲んで一生を過ごしたいくらいだもん」

 

「ふふふ、嬉しいこと言ってくれるね。これからも毎朝淹れてあげるから安心しなよ」

 

「うっひょ〜!^^」

 

 

 

 L旧研に入るくらいから、ガバに次ぐガバでチャートがぶっ壊れてしまい、忘れがちになっていたが……。

 そもそも俺の将来的な目標は、外郭の図書館の社会科学の階で、美味いコーヒーを飲みながら文化的かつ健全な生活を送ることだ。

 そこに友だちが2人もいれば、これはもはや幸せライフである。

 

 ……ついでに言うと、もう1人2人。

 クッソ口下手で絶賛狂気堕ちネグレクト中のアホとか、クッソ強くて腹黒い特色フィクサーモドキとか。

 あの辺りのメンツがいれば、これ以上求めることもないんだが……。

 

 流石にそれは夢見すぎかなぁ。

 

 

 

「…………でも、ごめんなさい、ケセド。

 やっぱり私、コナーの淹れてくれるコーヒーが好きみたい。

 いつも最初の会議の前に、コナーが私に淹れてくれて……それが、すごくほっとする味なの。

 温かくて、優しくて……一人じゃないんだって、そう思えるような味で」

 

「エラ~~~;; 嬉しすぎて涙で大湖できちゃう」

 

「おお……びっくり。惚気られちゃった」

 

「惚気? いえ、違うの、そうじゃなくて……」

 

 

 

 アンジェラはわたわたと手を振って誤解を解こうとしながら、俺の方をちらちら窺ってきていた。

 

 歳相応に焦っててかわいいね^^

 いや歳相応ではないか、まだ精神年齢1歳か2歳くらいだろうしこの子。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「それでね、コナーはね、いつもすごく優しいの。

 私が疲れた時はいつも、コーヒーを淹れるのに加えて、食事も作ってくれるのよ。

 私は電力さえあれば活動できるし、食事を取るつもりはなかったんだけど……職員のための食堂で、わざわざ自分で作ってくれてね。

 最初に食べた時は、本当にびっくりしたわ。鮮烈な感覚刺激が思考回路を焼いたようにすら思った。

 あの時食べたミートシチューとタマゴサンド、コーヒーの味も、忘れたくないことの1つね」

 

「そっか、うんうん。アンジェラにとっては、それが初めての食事だったんだねぇ」

 

「…………」

 

 

 

 き……気まずい。

 

 いや、気まずいっていうか、気恥ずかしい。

 

 話を続ける内、アンジェラの緊張が解けたところまでは良かったんだが……。

 そしたらこの子、楽しそうに延々と俺の話をし始めてしまった。

 

 いや、まあ……この煉獄に閉じ込められた彼女にできる愉快な話って言ったら、旅の同行者たる俺のことくらいしかないのかもしれないけどさ。

 だからってここ何百周のことをずっと話すのはさ、ね!

 

 ……それらはシナリオのリブートを知らず、ついさっき目覚めたばかりと思ってるケセドにとっては、矛盾に満ちた話に聞こえるはずだが。

 人の出来過た俺の友だちは、野暮なことを聞くことはなく、ニコニコと聞き役に徹してくれている。

 セフィラミズカラガ⁉︎ サスガダァ……!

 

 でもそろそろ恥ずかしいからその辺にしてくれるかなエラさァん!!

 わかる!? 俺の蒼白のはずの頬が赤くなってるの! 俺って褒め殺しに弱いんだよねぇ実は!!

 

 

 

「え、エラ、まあその辺りで……」

 

「それでね、最初の頃はサンドイッチみたいな軽いものだったんだけど、段々料理も凝って来て……前回は確か、肉じゃがモドキ? というものだったかしら。独特な味と感触で、とても美味しかったわ。

 それに、最近は私のためにレシピを考えるのが楽しみ、なんて言ってくれてね。私も、その、コナーの作ってくれる料理を実は楽しみにしてて……」

 

「へぇ~、それは羨ましいなぁ。俺には手料理なんて作ってくれたことないのにね~?」

 

「作ってほしいんなら言ってくれれば作るが!? 俺、今や料理スキルかなり上がってるから、期待は裏切らないと思いますわよ!?」

 

 

 

 照れ隠しに胸を張る。

 

 実際、今の俺はかなり料理ができる。

 なにせ1000回弱、50年強の反復の中、幾度となく料理を作って来たもの。

 隙間時間には前々世の料理の再現や独自レシピの開発もしてるし、師匠と呼べる人こそいないが、もはや熟練の料理人と言っても遜色ない腕のはずだ。

 

 ただ……そろそろリブートの時間も近いだろう。

 ケセドに飯作ってやれるのは、次回の反復でのことになっちゃいそうだが。

 

 

 

「……ふふ。いや、やめておくよ。俺もコナーとエラの恋路の邪魔をしたいわけじゃないからね~」

 

「こい……恋、なの、かしら? これは……」

 

「ケセドやい、ちょっと悪趣味だぞ。エラはまだ情緒が初等部1年生なの、あんまり惑わすもんじゃない」

 

「ふふ、怒られちゃった。ごめんね~」

 

「そ、その……ええと、あの……」

 

「照れちゃった! かわいいね♡」

 

「コナーもそういうとこ悪趣味だと思うけどねぇ」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ケセドに定期的にコーヒーを淹れてもらい、軽食をつまみつつ話し込むこと、6時間。

 

 いやー、やっぱ友だちとの会話ってヤバいね。

 無限に話題が湧いて来るし、一瞬で時間が溶けていった。

 

 

 

 そして幸い、楽しんでいたのは俺とケセドだけではなかったようで。

 アンジェラは、ぶっちゃけリブートの情報がだいぶ透けちゃうくらいに、ひたすら俺の自慢話(?)を続けていた。

 

 計算され尽くした、丁寧でわかりやすい、機械的な説明ではない。

 思い付いたことをそのままに口にする、お世辞にも上手いとは言えない、幼さを感じさせる話し方。

 

 だが、きっと彼女には、そういう話をする機会が必要だったんだろう。

 だって彼女は今、わざとらしい笑いではない、あどけない笑顔を浮かべてくれてるんだから。

 

 

 

 そんなアンジェラを相手に、ケセドは多分色々と察しながらも、俺の意図を汲み、最後までアンジェラの話に付き合ってくれた。

 一期一会、きっとすぐに失われてしまう繋がりでも、アンジェラの心を取り持ってくれたのだ。

 

 多少気恥ずかしく居心地の悪い思いをしながらも、最高の友だちと新たな友だちに囲まれ……あとついでに脳内では騒がしい奴に茶化されたりもして。

 俺だってその一時の息抜きを、楽しく思っていて……。

 

 

 

 ……だが。

 

 そんなかけがえのない時間にも、終わりは必ず来るものだ。

 

 

 

 

 

 

〈! 光の種シナリオエラー !〉

 

〈! 光の種シナリオエラー !〉

 

〈! 光の種シナリオエラー !〉

 

 

 

 

 

 

 ……シナリオさんは、いよいよ時間の無駄遣いで詰んだと判断したらしい。

 あるいは、ケセドにリブートの情報が漏洩したと判定したか。

 

 L社地下本部全体に、大きなアラートが響き、施設が揺れ始めた。

 

 

 

 流石に驚きから目を見開くケセドの横で、俺とアンジェラはため息を吐く。

 

「……ああ、もう終わりなのね」

「そうだね。楽しかった?」

「ええ。もっともっと、って……そう望みたくなってしまうこれが、楽しいって感情なのね」

 

 ああ、良かった。

 昏く濁っていたアンジェラの瞳は今、本来彼女が有していた、澄んだ琥珀色を取り戻している。

 

 ……これからも、彼女が煉獄の中、生きなければならないことは変わらない。

 なんなら、今以上に絶望することもあるかもしれない。

 

 でも、ほんの少しでも彼女の苦痛を軽くできたのなら、心より嬉しく思う。

 

 

 

 どんどん酷くなる揺れの中、アンジェラは倒れないようにと床に横になり……。

 少し寂しそうに、その目を細めた。

 

「……楽しかったからこそ、そう、惜しいわね。

 私はもう、ケセドとこんな風に話すことはできないでしょうし」

「ん? そんなこたないでしょ。

 またキツくなったらケセドと話しにきてもいいし、なんなら他のセフィラと話してみてもいいじゃん」

「それは……でも、私の役割を果たさないと」

「むしろそれを果たすためにこそ、だよ。張り詰めた糸はいつか切れちゃうもの、時には気を抜くことも必要なもんだ」

「ま、まあ……その、またコナーが連れて来てくれるのなら、構わないけれど」

 

 少し恥ずかしそうに、けれど微かな期待を込めて、嬉しそうに笑うアンジェラ。

 俺は彼女の隣に座り、こくりと頷いた。

 

「勿論、何度でも。君の旅の同行者として、俺に君を助けさせてくれ。

 ……っていうか、無理にでも連れて来ちゃうもんね! 俺も時にはこうやって気を抜いてたいからさ~!

 いやはや、ギャグキャラは堅苦しい空気が苦手なんですわ~!」

 

 

 

 ちょっとふざけた、その肯定を聞いたからか。

 あるいは、優しく撫でられた、頭の感触からか。

 

 アンジェラの表情から、負の色は解けて……。

 ゆったりと、まるで眠りに就くように、彼女はまぶたを閉じた。

 

 

 

「……ねえ、コナー。お願い。また、抱きしめてくれる?

 

 私の隣にいてくれる人の鼓動と体温を、何より確かに感じ取れるくらい、強く。

 

 そしたらきっと……今度は、ちゃんと眠れる気がするの」

 

 

 

 

「ああ……温かい。

 

 この体温は、あなたは、私の隣にいてくれるのね。

 

 ずっと昔から、今も、そしてこの先だって変わらずに」

 

 

 

 

「……ねえ、コナー。

 

 あなたは私のことを、ずっと見てくれるんだったわよね。

 

 なら、お願い。

 

 あなただけは、私から目を背けないで。

 

 もう誰からも視線を向けられないのは……独りでいるのは、もう嫌なの」

 

 

 

 

 

 

「その代わり私も、起きたら、ずっと……。

 

 あなたのことだけは、ずっと、見ているから」

 

 

 

 

 

 

 そんな彼女の、小さく健気なおねだりと共に。

 

 俺とアンジェラの関係を大きく変えた反復は、終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

-反復909回目 終了-

 

 

 







 これからきっと舞台の片隅で何度も行われるだろう、2人のささやかなデート、1回目終了。






(Limbus近況報告)
 時間殺人時間、読了。

 あの~~~すみません、すみませんちょっと。
 内容もしっかり面白かったんですけど、それはそれ、これはこれ。
 2章で雑ゥ~な感じで流した結果、ロジオンの感情が縺れまくったまんま、むしろ悪化してるんですけどそれは……???
 大丈夫なんですかねこれ。普通に闇墜ちしかねませんけど? てかしかけてたけど??

 あとしれっと最後に最悪の告知されたんですけど。
 Warp列車にだけは乗りたくないんですけどぉ……嫌だよォ発狂するイサンとかイッシュ見るの。薬指点描派とかピークォド号船長になったらどうしよう……。
 頼むから1等車に乗せてくれ。十中八九Limbusの社長はディアスなんだろうしその程度の金あるでしょ、お願いだから1等車で頼む(命乞い)。
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