3級フィクサーパンチ   作:アリマリア

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 前話でも言いましたが独自解釈の嵐なのでご注意ください。
 Wonder Lab というロストメディアの功罪。





ふたりはジュシャキュア

 

 

 

 騎士からのお願いは、なるほど、自らの信条すら曲げてでも口にし得るものだった。

 

「友だちを助けてほしい」

 

 そんな至極ありふれた、しかし同時差し迫ったお願い。

 誰もが口にし得る、強い善性の発露だ。

 

 俺にとって騎士は、大切な存在だ。

 この長い長い反復の旅を共にしてくれて、時に記憶の受け継ぎの時に、時に日常の中で、時に戦場にて、いつも俺を助けてくれる恩人。

 命を投げ出してでも助けてやりたい……って言うと騎士が困っちゃうので、命と誇りを懸けて共に戦いたい仲間、と言おうか。

 

 そんな彼女の友だちを助けるとなれば、そりゃあ気合の一つも入るというもので。

 俺にできることなんて限られてはいるが、やれることはやろうと思ったわけだ。

 

 

 

 ……ただ、強いて、そこに問題を見出すとすれば。

 

 彼女の友だちが即ち、かの悪名高き魔法少女たちを指すことだろうか。

 

 

 

 以前にも語った気がするが。

 プロムン世界の魔法少女は、本編開始時点で闇堕ちしている。

 

 いやまあ本編開始時点っていうか、正確に言えばそもそも彼女たちはアブノマなんで、最初から「そういうもの」として抽出されているわけだけども。

 

 騎士であれば、最初から人類の裏切りと絶望の表象として、「そのような過去を持つため、絶望以外の感情を失くした者」というイメージで形作られてたわけで……。

 残酷な現実を見るなら、彼女は本当にそういう過去を持ってるとか、魔法少女の友だちがいたとか、そういうわけではない。

 

 言うならば、「そういう設定を持って」井戸から抽出された存在だ。

 世界5分前仮説みたいな話になっちゃうけどね。

 

『……ええ。きっと、そうなのでしょうね』

 

 

 

 まあ、しかし。

 俺個人の意見としては、実際そこに何があったのかってのは、案外どうでもいいことだと思う。

 

 大事なのは、俺たちが今この瞬間に、何をどう思うかだ。

 

 たとえ俺が5分前に生まれてようが、そういう設定のキャラであろうが、んなこたどうでもいいんだワ。

 

 俺はコナーであり、ダァト。

 図書館の指定司書を目指しつつ、自分にできることを為すだけの存在であり。

 ダニエル/ケセドやアイン、アンジェラの友だちであり、そして騎士の主だ。

 

 俺自身がそう思っている限り、俺はそういう存在だし……。

 同じように、騎士が騎士たり、彼女たちを友だちと思い助けたがっているのなら、それは少なくとも俺たちの中では確たる事実となり得るわけで。

 

 俺は、彼女の騎士としての誇りも、友だちへの想いも、勿論俺への忠義も、一切疑ってはいない。

 少なくとも俺の中では、彼女は真実騎士であり、彼女たちは友だちであり、彼女は俺の騎士なのだ。

 

 であれば主なんて仰いでもらっている俺が、それを手伝わないような選択肢などありゃしないのである。

 

『主よ……本当に、ありがとうございます!』

 

 ええんやで。

 

 

 

 いや、ええんやで、というか。

 

 加護と夜空剣を渡してもらい、といざという時の出動、更には記憶同期化までしてもらってるんだ。

 恩には報いを返して然るべきでしょう。御恩と奉公ってヤツ。

 

 ……最近みんなに恩溜めてばっかで、全然返せてないからね!

 こういう時に頑張らないと主としての体裁すら保てねえや!

 タカキも頑張ってるし、俺も頑張らないと!

 

 

 

 そんなわけで、新規ミッション開放!

 騎士の友だちたる3人の魔法少女を、かつての騎士みたいに、良い感じで再度善堕ちさせよ!

 

 ……ふわふわしてんなあオーダーが!

 まあでも、雑用係の役目ってそういう曖昧なのを上手いこと処理することなんで、むしろ本分と言ってもいいんだけどね。

 

 まあビナーの話じゃ、俺は彼女たちアブノマを変異させる可能性を持ってるらしいし……。

 ひとまず、彼女たちと作業という名のコミュニケーションを取るところから始めようというわけだった。

 

 

 

 ただ、これに関しちゃ……騎士には申し訳ないんだが、最優先のタスクにすることはできないね。

 

 流石にシナリオをガン無視することはできない。

 アンジェラとの関係めちゃくちゃになる上、即座にリブートが起こってしまえば、また彼女たちが抽出されるのを待つ他なくなるしね。

 あくまで俺に許される範囲で取り掛かる、努力目標って感じになるな。

 

 1回や2回の反復で達成できる目標なら、アンジェラに許可を取ってそこに集中もできたんだが……これに関しちゃそうもいかない。

 なにせ、単純に難易度が高いし、時間もかかるんだ。

 

 俺が騎士と繋がったのは、ほぼほぼ偶発的な出来事だった。

 1年という長い時間、ほぼ常に彼女の声を聞き続け、窮地に陥って精神を呑まれかけ、それでも抵抗して見せた。

 それが彼女の根本を揺さぶる言葉だったからこそ、絶望に微睡んでいた彼女の自我は目覚め、変容したのだ。

 

 つまり、他の魔法少女たちを善堕ちさせるため、俺はこれに近いことをしなきゃならない。

 

 ……できるか? またあんな奇跡みたいなことを???

 

 

 

 ……と、思ったんだが。

 幸い、今の俺は一人ではなかった。

 

『そこは、彼女たちと繋がりのある私がサポートできれば、と。

 私の言葉ならば彼女たちにもある程度届くはずですし、私の主であれば、同調? というものも、やりやすくなると思います』

 

『彼女たちに声を届けるのは、私もサポートできると思うわ! 私のE.G.O、そういうの向いてるみたいだから、任せちゃって!』

 

 あのごめん、心強いんだけど、超心強いんだけどさ……。

 これ以上君たちに恩重ねることになるの、俺??

 

 そこまでサポートできるのかよ騎士とカルメン。ちょっと最強すぎひん?

 記憶同期といい、E.G.O提供といい、マジでこの2人がいてくれて助かってばかりだ。

 何かしらお返ししていかないと、このままじゃ本当に恩が膨らむばかりになってまう。

 

『主に仕えさせていただくだけでも、私は……』

『騎士ちゃん騎士ちゃん、そうじゃなくて……ごにょごにょ』

『……っ!? いえ、それは、そんな主を謀るようなこと、しかし……』

『ぽしょぽしょぽしょ……』

『…………た、確かに、その、ええ……その方が、心理的に、主のご寵愛を……』

 

 聞こえ辛いんだけど、なんか不穏なこと言ってない君たち!?

 とにかく恩は返していくからね! プランは立ってないけどなんとか返すからね!!

 

 

 

 とにかく、そんなわけで。

 魔法少女と触れ合う際には2人に協力をお願いすることとなった。

 

 カルメンはそのE.G.Oによって、井戸を通して彼女たちにアクセスし、声を通しやすくしてもらうわけだが……。

 一方で騎士には、直接収容室にお越しいただく形になる。

 

 つまるところ、収容室から脱走してもらうわけだが……そこに関しては、アンジェラに許可さえ取れば、特に問題も起こらない。

 

 

 

 L社地下本部において、騎士は共存アブノマの筆頭として知れ渡っている。

 

 まあ当然だろう。

 暴走はしないし、作業も極めて有情、その上とんでもないダウナー美人だもの。

 今じゃ職員と楽しくお話もできるんだ、人気にならないわけもない。

 

 その上、俺と共に戦い、アブノマや試練に襲われた職員・オフィサーを助ける姿も頻繁に目撃されてもいる。

 なんなら助け出した救助者を転移でメインフロアまで送り届けることもあるくらいで。

 

 アンジェラに有用性を認められていることもあり、彼女は今や、他のアブノマとは全く違う扱いを受けている。

 暴れ回ることなどそもそも想定されておらず、なんなら職員たちの味方、この施設を守ってくれる守護者と認識されているのが現状だ。

 

 なので俺が彼女を連れ出ても、「ああ、またダァト様とアブノーマリティの鎮圧に行くのかな」と思われ、それで終わり。

 なんなら応援の声とか、差し入れのお菓子とかもらえたりもする。

 

 なんというゆるゆる風紀、こんなんでええんかL社。

 他支部のL社社員が見たら、精神汚染系アブノマの関与を疑いそうだ。

 

 

 

 さて、話は憤怒の従者の懐柔に戻って。

 

 幸い、アブノマが反復を越えて記憶を引き継ぐのは、騎士によって証明済みだ。

 稼いだ彼女たちとの同調率と好感度は、しっかり次の反復にも引き継がれていくはず。

 つまりは強くてニューゲームならぬ、善堕ちフラグを立ててニューゲームである。

 

 残る問題は、それを成し遂げるために、かなり長い時間が必要ってことだが……。

 これに関しては、現在のカスみてえな状況がむしろ優位に働く。

 

 騎士たちアブノマの基準からしても、シナリオ完遂には多分10年くらいかかる。

 常に抽出されるわけじゃなく、四六時中触れ合うことはできない相手ではあるが……。

 騎士とは1年で繋がれたわけだし、10年あればまあなんとかなるかなーという感じだ。

 

 今回は騎士とカルメンのサポートもあるらしいしね。

 

 

 

『……改めて、体感でも10年……実際には10,000年、繰り返すのね』

『それだけの時間、このような地獄を……』

 

 何、10年ならずっとマシな方よ。

 アンジェラなんて、体感にして100万年。過ごす時間は俺の10万倍だ。

 

 それに、原作と違って食事を楽しんだりもできる。

 ただ機械として在るしかできなかった原作に比べると、負担はかなり減ってる……と思いたいところだ。

 

『……誰かの方がずっと苦しんでいたとしても、それはあなたが苦しんでないことにはならないわよ』

 

 まーそりゃそうだけど……。

 言うて俺、そんな苦しいわけでもないよ。

 

 そもそもL旧研に来た時点で、俺はこの地獄を覚悟してた。

 記憶の引き継ぎができるようになるとは想定してなかったけども、むしろそれは状況を好転させられるチャンスであり、アドでしかない。

 

 それに加え、他にも予想外に良くなった状況も多いんだ。

 エノクやリサ、ケセドとは、好き勝手にとまでは言えないまでもコミュニケーションが取れるし、アンジェラからも信を向けてもらってる。

 L旧研で皆に愛着を持ったからこそ、彼ら彼女らを助けるためのモチベーションも沸々と湧いてくる。

 

 そして何より……君たちがいるんだ。

 案外、この煉獄の旅も、そうストレスにはなってないよ。

 

 うるせぇ。

 

『コナーっ!! ほんと最近デレてくれるようになっ……先置きですって!?』

 

 俺だって時には素直に感謝くらいするわ。

 

 

 

 ……それにさっきも言った通り、この煉獄の時間も、ただ悪いことだけじゃない。

 

 コナーに才能がなかったからこそ、エリヤに共感できたように……。

 10,000年もの時間があるからこそ、俺は騎士の友だちを助けようと試行錯誤できるんだからな。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 そんなわけで、その日もまさしく、魔法少女の一人とコミュる予定だったというわけだ。

 

 騎士を招聘し、俺が向かった収容室。

 そこには、1人の少女型アブノーマリティがぺたんと座っていた。

 

 彼女はその顔を俺たちの方に向け、仄かな笑みを浮かべる。

 

「主さん。また来てくれたんだ」

 

 「主さん」というのは、俺のあだ名だ。

 騎士が俺を主と呼ぶのに倣い、彼女は……憤怒の従者は、そう呼んでくれている。

 

 

 

 もこもこした緑の髪に、各所に光る緑の宝石、シャツとパンツのボーイッシュなスタイル。

 何より特徴的なのは、その赤い目を覆い隠す包帯と、手に握られた小振りな槌だろう。

 

 この子の名は、「憤怒の従者」。

 魔法少女のクラブ担当であり、とても管理の面倒なアブノマであり……。

 原作Lobotomyにおいては実装されなかった、没アブノーマリティだ。

 

 本来彼女は、施設に壊滅的被害をもたらす「虚無」イベントを避けるため、抽出され次第支部送りにされるはずだったのだが……。

 騎士からのお願いもあって、俺がアンジェラに頼み、ここでの管理を許してもらっているのだった。

 

 

 

「やあ従者! 僕はコナー!」

「……あれ、主さんの名前、『ダァト』じゃなかったっけ」

「主は2つの名を持つのです。いえ、『灰色の従者』も含めれば3つですか。

 『ダァト』の名は、言うならば主に与えられた役割の名。私が騎士を名乗るのと同じようなものです」

「あ、騎士も。……従者か、私と一緒だね。私も従者って呼ばれてたんだ」

「いえーいお揃っち! てかいつまで付いて回るんこのあだ名? 特色みたいに聞こえて分不相応な上、従者と被ってて微妙に使い辛いんだけど」

 

 肩をすくめながらも、俺と騎士は収容室に入る。

 

 直後、後ろで勝手に扉が閉まった。

 一応これも作業扱いなので、しっかり作業こなすか、緊急事態発生までは、外に出られないようになっている。

 ……まあ、パニクって扉ぶっ壊そうとすれば話は別だろうが。

 

 基本的に危険な存在であるアブノマから逃げられない状況は、なかなか精神的にクるものがあるのだが……。

 その恐怖や絶望こそがアブノマを刺激し、エンケファリン精製を促すってんだから救いがない。

 

 他の翼も大概だが、L社もL社で、職員を搾取して本懐を果たすクソブラック企業なんだよね。

 職員は犠牲になったのだ……古くから伝わるエンケファリン精製法、その犠牲にな。

 

 

 

 とはいえ、目の前の従者からそういった圧を感じるかと言えば、否。

 

 むしろ落ち着いて優し気な口調からは、癒しすら感じる程なんだが……。

 正直、それに関してはいつ裏返ってもおかしくはない。

 

「改めて久しぶり、従者。本日は愛着作業ですわよ~!」

「久しぶり……なのかな。私の感覚だと、主さんに会ったのは、ついさっきのことなんだけど」

「ここじゃ時間の流れが歪んでるからね。体感する時間と流れる時間に差異がある。実際には53日ぶりだよ。バチクソ久しぶりです」

「へぇ、そうなんだ。それじゃあ、久しぶりに遊ぼっか」

 

 そう言って、彼女はニコリと笑った……ようだった。

 ……眼帯で目が見えないと、微妙に感情を推し量り辛くて困るなあ。

 

 正直、彼女の感情を掴みあぐねるのは、ちょっとばかり怖い。

 従者の性質的に、地雷踏んだ瞬間に俺は死んじゃうと思うので、かなりハラハラである。

 

 まあ現状からして、どうやら俺には、例の能力は免除されてるっぽいんだけどね。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 WAWクラスアブノーマリティ、憤怒の従者。

 

 彼女の性格を端的に言い表せば、理知的で優しく、フレンドリー。

 騎士の主である俺のことを「主さん」と呼び、仲良くしてくれる良い子であり……少なくとも表面上は、これといった精神的欠陥も見当たらない。

 どこぞのメンヘラとはえらい違いである。

 

 そしてこの子、俺だけじゃなく、他の職員でも疑似的な会話が可能なタイプだ。

 作業好感度も、魔法少女恒例の愛着作業が最大効率な奴なので、普通にやればお話や遊びが主軸になるだろう。

 

 そうなれば自然、作業担当職員は、彼女と仲を深めることになるわけだが……。

 

 

 

 ここで一つ、とんでもねえトラップがある。

 

 忘れてはいないだろうか。

 魔法少女は、騎士を除いてみんなカスであることを。

 

 

 

 憤怒の従者ちゃんはですね、とてもフレンドリーで、簡単に仲を深めることができるんですよね。

 でもですね、仲を深めることによるデメリットもあるんですよ><

 

 即死です。

 

 また即死だよクソが!!!

 

 

 

 憤怒の従者に対し、同じ職員に3回以上作業をさせると、特殊能力が発動する。

 

 その職員は即座に死亡し、WAWクラスアブノーマリティ「蒼い森の隠者」に変化。

 ついでに周りの職員も3人くらい「隠者の棒きれ」に変化させ、憤怒の従者も脱走&暴走モード突入。

 

 そうして隠者と従者は激突し、どこぞのアブノマスレイヤー=サンと一般ヴィラン狼のような、バチボコの戦いを繰り広げ始める。

 

 感覚としては、胞子とかいう神E.G.O武器をくれるキノコ、小さな王子の管理に近いだろう。

 作業回数上限の緩和方法がなくなり、即死職員が大幅に増え、アブノマ複数体の脱走が加わってるけどな!

 

 既にだいぶ面倒くさいぞオイ! 管理人のマメさが試されますねこれは。

 

 

 

 で、更に厄介なのが、この子の脱走時の鎮圧方法だ。

 

 まず、蒼い森の隠者は職員の攻撃では絶対に倒せない。

 与えたダメージが即時回復してしまうからだ。

 

 この回復力を食い破ってダメージを与えるには、毒と腐食に長けた憤怒の従者に攻撃してもらわねばならず……。

 しかし、この二者の攻撃/耐性と、周りに群がる棒きれの援護故に、憤怒の従者は単身では蒼い森の隠者に勝てない。

 

 そのため、職員たちで棒きれを折ったり本体のヘイトを買って、従者をサポートせねばならないのだ。

 Ruinaの赤ずきんさん戦を思い出せば、その面倒くささもわかるというものだろう。

 

 ちなみに従者と隠者の攻撃はほぼ全てが広範囲攻撃なので、職員は問答無用で巻き込まれる。

 威力はWAWクラスに相応しく、まあどちゃくそ痛い。並みの職員なら3発も耐えきれまい。

 

 

 

 総評:魔法少女に相応しき唾棄。

 

 なーんでこんな厄介な特性持っちゃったんですかね!

 

『本当にご迷惑をおかけします……』

 

 

 

 ……彼女の旧友たる騎士に聞く限り。

 憤怒の従者はかつて、正義と均衡を重んじ絆を信じる、真面目な魔法少女だったらしい。

 

 彼女の友だちでもあった魔法少女たち4人組は、自由奔放さが目立つ王と女王、冷静で落ち着いた従者と騎士、という組み合わせだったとのこと。

 

 ただし騎士との相違点として、従者はいざ敵との戦いになると、誰より積極的に前へと飛び出していく勇気を持った子でもあったらしい。

 そのため彼女たちの戦いは、前衛に王と従者、後衛に女王と騎士、という陣形が基本だったとか。

 

 

 

 彼女たちは性格面・戦力面においても折り合いが取れており、公私ともに仲良く活動できていた。

 騎士が穏やかに微笑み、「今と並ぶ私の黄金期」と言い切る程だ。どれだけ満たされていたかは想像に難くない。

 

 ……しかし、そんな仲良し4人組にも、崩壊の時が訪れる。

 メジャーアルカナ「愚者」による、精神攻撃だ。

 

 騎士もあまり話したがらないその攻撃によって、真っ先に崩れたのが……。

 まさしく、この従者だった。

 

 

 

 彼女はかつて、魔法少女の敵たるメジャーアルカナ、「隠者」と友誼を結んだことがあった。

 

 誰より真面目なその心に付け込まれたと見るべきだろう。

 敵たるアルカナとも絆を結べるかもしれないと……そんな希望に満ちた未来を、彼女は棄てられなかった。

 

 仲間であった3人に心配をかけたくないと、黙って隠者と友好を深め、彼を友として自らの世界(故郷のようなもの)に招待して……。

 

 そうして、あっさりと裏切られた。

 

 多数の手下を引き連れた「隠者」は、従者の油断を突き、彼女の世界を攻め滅ぼしたのだ。

 

 いわゆる、楽しかったぜぇ、お前との友情ごっこォ!! というヤツである。

 

 

 

 その結果、それまで常に落ち着いて冷静だった彼女は、激情に呑まれた。

 

 信じていた絆を裏切った隠者と……。

 そして何より、確かに抱いていた正義と均衡を乱した自分に対して。

 決して抑えられない憤怒に、心を窶したのである。

 

 それでも彼女は自制し、旅を続けていたが……。

 その心には、確かに決定的な傷ができて。

 愚者はそれを抉り、彼女を「憤怒の従者」へと突き落とした。

 

 

 

 ……はぁ、胸糞悪い話だ。

 

 俺は訓練されたオタクなので、基本どんな作品でも楽しめるんだけど……。

 ただひたすら鬱なだけで救われない奴は得意じゃない。

 

 この手の純朴な人間が裏切られる奴は特に勘弁だ。

 頑張った奴は報われて然るべきだろ常識的に考えて。

 

 

 

 ともあれ、だ。

 そんな経緯を持つ従者の地雷は、まあ見え透いてるだろう。

 

 特定の相手と、親交を深めることだ。

 

 彼女は特定の職員との仲を深めると情緒不安定になっていき、最後には過去のトラウマを再現してしまう。

 職員を裏切り者の「隠者」として、怒りのままに叩き潰そうとするわけだ。

 

 変に仲を深めすぎるとヤバいという、テディとかペスト医師とか銀河の子とか寄生樹とか溶ける愛とかに似た、メンヘラタイプのアブノマなのである。

 改めて数えると多すぎだろ、メンヘラタイプ。

 

 

 

 ちなみに俺の作業回数は、今回で少なくとも50回目を超えています。

 

 しかも井戸に繋がらない都市外の人間として個別に認識されているため、その日の内に限らず、作業すればする程仲が深まって行きます。

 

 ……俺、もはや収容室に入った瞬間に隠者化しない? 大丈夫?

 

 

 

 * * *

 

 

 

 と、そんな危惧を抱いていたんだが……。

 

 結果から言うと、これは杞憂に終わった。

 

 実際には、俺と彼女は楽しく会話をすることができている。

 

 

 

「最近、ここはどう? みんな平和に暮らせてる?」

「平和、とはお世辞にも言えないわな。バケモンの管理とか鎮圧で人はポンポン死んでる。

 ……出来るだけ抑えようとはしてるんだけどなぁ」

 

 後ろめたさから後ろ頭を掻く俺に、しかし彼女は緑の髪を揺らし、緩く首を振った。

 

「きっと、自分に守れるものを、自分にできる全力で守ってるんだろうね。

 あの子の誇りに満ちた声から、主であるあなたが、すごく良い人なんだってわかるよ」

「ん……まあ、その時々にやれることは、やってるつもりかな」

 

 少々こそばゆい評価だが、騎士を通した賞賛を突っぱねることはできない。

 後ろ頭を掻き視線を逸らす俺に、従者はくすくすと笑った。

 

「ふふっ、だよね。……少し、騎士が羨ましいな。あなたみたいな素敵な人に知り合えて」

「現在進行形で君とも知り合ってるが?」

「そうだね……そうなんだけどね。なかなか難しいんだ」

 

 

 

 穏やかに、しかしどこか寂しそうに笑う彼女からは、あんまりヤバげな気配はしない。

 多分それは、俺には特殊能力が効かないとか、そういうわけじゃなく……。

 

 俺たちの間に、騎士という彼女の友だちが挟まっているからなんだろう。

 

 

 

 憤怒の従者は裏切り者への、そして自分自身への憤怒に呑まれている。

 

 正義と均衡を破ってまで下した自分の判断で、世界が滅ぼされたんだ。

 もはや今の彼女には、自身の判断を正しいと信じることすら難しいだろう。

 

 だけど……あるいは、かつての友だちのことなら、信じられるのかもしれない。

 騎士がどこまでも誇らしく主と仰ぐ人なら、と。

 

 そんな理由で、俺という他者を、受け入れているのかもしれない。

 

 

 

「主さんといる時の騎士は、いつでも楽しそうだね」

「そ、そう……でしょうか?」

「うん。いつも真面目な顔をしてた騎士が、そんな顔するなんて……ふふっ、とっても良い出会いだったんだね?」

「むぅ……あまり揶揄うのはやめてください、従者よ」

 

 

 

 楽し気に会話を交わす、旧い友だちの様子を眺めながら、思う。

 

 他者と関わることに、そして何より自分自身に、底知れない憤怒を抱く従者。

 

 彼女のために、何をしてやれるか。

 その煮え立つような憤怒を、どうすれば軽くしてやれるか。

 

 ここから先、長く付き合いながら、考えていかないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………未だに水晶の中に閉じこもってる貪欲の王と、情緒不安定さがすごいことになりつつある憎しみの女王への対応と一緒にな!!

 

 コミュニケーション取るのヤバそうだった従者が実は一番落ち着いてるの、どういうこと!?

 

 

 

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