結論から言うと、根明Xはまあまあ頑張った。
正直俺は、最初の10日くらいで音を上げるかな~と思っていた。
都市で根明な人間ってのは、要するに現実が見えてねぇ旧カルメンみてえなものなんで、Lobotomyのクソカスブラック労働環境を知る内にゲロ吐きながら折れるかと思っていたのだ。
しかし、どれだけ根明を振舞おうとも、やはり奴の根底はXだったのか。
現実を直視し、管理室にゲロ吐いて俺の清掃仕事を増やしてくれやがりながらも、そこそこ頑張って業務をこなしていた。
偉い! よく頑張ってるな!
まあ頑張っただけで報われるような優しい世界ではないのだが。
更に言えば根明Xは、なんとアンジェラとも程々にコミュニケーションを取っていた。
振られた言葉に応えるだけで積極的には話題を広げない辺りに、アインのコミュ力の限界、あるいは無意識下のアンジェラへの複雑な感情が見て取れるわけだが……。
初めてまともにXと……というかAと会話ができたことに、アンジェラは困惑しつつも、少しだけ嬉しそうに笑顔も浮かべていた。
総合的に言って、根明Xは、決して悪い管理人ではなかった。
このまま無事に完走してくれれば、L社にとってもアンジェラにとっても、この上ない結果だったのだろう。
が……まあ、やはりというか。
それにも限界が来た。
『あなたたちなんて、私じゃなかったら、とっくに虫ケラみたいに死んでたわ!!』
『どうしてみんなは、私の優しさを分かってくれないんですか……?』
『私だって、あの人みたいになろうって、全力で頑張ってるのに……どうして私を憎むんですか!?』
『やめて……やめてよ……っ! 私はただ、もう、逃げないために……ッッ!!』
オワタ(^o^)
なんで初手でホド抑制やっとんねんコイツ!
いや、確かに報酬はダントツで美味いが!! 達成できれば最高だが!!
普通にまずはマルクトだろうがよォ!! 出てるだろうがマルクトコア抑制!!
そのためにてめぇ頑張って夕暮試練乗り越えてたじゃねえか!!
ホドが可哀想だからって真っ先にやるんじゃねえよ、ソイツ上層の中じゃ普通に厳しい方なんだよ!!
ていうか、ホドの言う「あの人」ってさ……。
もしかして、自意識過剰じゃなかったら、俺ってかコナーだったりする?
『もしかしなくてもコナーしかいなくない?』
『あまりはっきりとは記憶していませんが……あの者は確か、主がいてくれればと、口癖のように言っていたかと』
え、何? ホド俺に憧れてくれてたの?
うわ恥ず、でも嬉し。
しかしねえ、君……俺としては、ミシェル/ホドが元から持つ、弱さの中に見える善性こそ美しいものだと思うし、無理に俺を真似る必要なんてないのだから……。
……と。
色々と込み上げる感情は押し留め、おくびにも出さず。
俺は管理室の壁によりかかり、管理人とアンジェラのやり取りを眺めた。
「ホド……どうしたの? ホド?
管理人さんっ、ホドの様子が変なんです! 確認してください!」
「…………ホド……?」
管理人はディスプレイに映ったその光景に、膝から崩れ落ちた。
あー……駄目だ、ついに折れたなこりゃ。
コイツ、根明(笑)ムーブでホドのメンタル取り持とうとしてたからなー。
それが目の前で精神の均衡を崩して、エンケファリンキメたりして、幻覚幻聴を見始めて……ぐずぐずと腐るように、崩れていく様を直視させられて。
その果てに、人型だったはずの彼女が、全身から触手を伸ばすクリファ体に変化するところを見てしまった。
まあ……心の弱い奴であれば、十分折れるに値するか。
平たく言えばSAN値チェック失敗、正気度が5以上減少かつ〈アイデア〉成功で一時的狂気突入である。
狂気内容は釘付けです。
「……暴走。そうなのね、これが…………あんなに、あんなにホドが苦しんでるのに……私は、何も…………。
管理人さん! お願いします、ホドのことを助けてあげてください!!」
「あ……ああ」
正史の彼女と比べれば幾分か素直に思えるアンジェラに、Xはハッとしたように気を取り直す。
セフィラ崩壊によるクリファ顕現。
それが何を意味するのかはわからずとも……。
ひとまずは何か行動を起こさなければ、状況が変わることはないと判断したのだろう。
折れた心の破片を手繰り寄せ、必死にいつもの自分を再構築し、管理人Xはいつものように業務を開始した。
* * *
……不幸なことがあるとすれば。
この管理人Xの手際が、比較的良かったことだろうか。
手際が良いのは幸運なことと思うか?
L社では案外そうとも限らないぜ。
流石は俺の友だち(?)と言ったところか。
驚くべき速度で業務手順を習得した彼は、結局一度もチェックポイントを使うことなく、ここまで進んで来た。
故に、E.G.Oが揃っていない。
現在収容しているアブノマに、WAWランクは2体、ALEPHランクは1体。
しかし、今抽出してあるE.G.Oは、WAWランクのものが1つだけ。
手際良くノルマエネルギーを稼いできたために残業もせず、ヤツらの作業を積極的には進めなかった結果、慢性的に戦力が不足していた。
更に言えば、職員育成や観測情報開け、E.G.Oギフト取得も、おざなりと言っていいレベルだ。
少なくとも俺から見れば、本気でこの先に……中層の抑制に進めると思えるような状況ではない。
……せめて、X到着前に俺の処理チームにいたメイソンが残っていればね。
管理人Xが到着した時点で、全ての職員は退職処分され、E.G.Oも破棄、観測情報もアンジェラの脳内以外からは抹消される。
勿論俺が大事に育てたメイソンも、今はリセットされ記憶貯蔵庫ですやすやだ。
ちなみに、俺とアンジェラが抽出してきたアブノマたちも、TT2による時間の巻き戻りによって全員送還される。
騎士も例外ではなく、一度送還された後、ビナーの協力によって速攻で呼び戻す形。
以後彼女は、俺の部屋の横に特設された、特別収容室で過ごしてもらうことになるのだが……それはさておき。
職員の話に戻ろう。
当然ながら、X到着後に新しく処理チームに配属されたジャンのことも、しごいてはいるんだが……。
なにせ残業がないもんで時間が足らず、本人も微妙にやる気がないので、未だランクⅣ止まりだ。
その上、俺たち処理チームはちょっと扱いが特殊で、イメージとしちゃウサギチームのような感じだ。
管理人がいつでも自由には使える&動かせるわけではないため、直接的な戦力になってはくれない。
現L社のトップ職員たるジャンは、少なくともメインの戦力にはならないわけだ。
そして何より……収容したALEPHアブノマがよろしくない。
O-03-93。
白夜と並ぶ宗教系アブノマの筆頭株こと、蒼星、または蒼い星。
管理人経験者であれば「なんだ優良枠じゃん」と思うだろう。
実際、簡単に管理させてくれて、エンケファリンを多量に生み、EGOも有用な神アブノマなわけだが……。
それはあくまで、蒼い星の性質を知り、なおかつ脱走させない場合に限る話。
今回の管理人は、コイツの仰々しい見た目と初回の作業失敗で怯えまくり、まともに管理作業を行わなかった。
基本的に放置気味で、クリフォト暴走が発生すれば対処する程度のもの。
管理情報こそ開けているもののそこ止まりで、まだE.G.Oの抽出すらできてはいない。
そして、ホドの暴走で心の折れた管理人に、コイツの複雑な管理手順を見る精神的余裕はなかったんだろう。
いいや、正確に言えば……職員一人一人を見る余裕が、か。
Xはぼんやりしたまま、職員リバーに対し、蒼い星への洞察作業を指示した。
「ッ……」
微かに、アンジェラが息を呑んだ音が聞こえた。
時間を100倍に感じる彼女だ。引き伸ばされた刹那の内に、それが失策であると悟ったのだろう。
俺も勿論分かってたので、「あー、初心者管理人らしいミスだ」と、半ば諦めの感情でそれを見ていた。
だが、止めることはできない。
管理人に管理の全てを任せることは、光の種シナリオの前提条件。
そこに俺たちが口出しすれば、その瞬間にリブートが確定してしまうから。
職員リバー。
今回のL社地下本部の初期職員の一人であり、HEランクのWHITE耐性防具を身に付けている男。
慎重に特化した育成を施したが故に、その慎重ランクは5だ。
彼はこのL社地下本部で、現状唯一蒼い星の面倒を見られる職員であり……。
結果として、殆ど蒼い星の専属作業員と化していた。
だからこそ、管理人は蒼い星の収容室にクリフォト暴走が付いたのを見て、反射的に彼をそこへと送ったんだろう。
普段であれば、その判断は間違いではなかった。
……そう。
職員のステータスが減少する、ホド抑制中でなければ。
ホド抑制の段階が進んだ今、リバーの慎重ランクは4にまで下降しているし……。
自制ランクも、3まで下がっていた。
これは職員の即死条件、そして蒼い星のクリフォトカウンター減少条件を、両方満たしている。
……で、更に最悪なことに。
管理人のアホが赤の黎明のクソカスピエロを1匹見逃した結果。
既に、蒼い星のクリフォトカウンターは、1にまで下がっていた。
以上の条件が揃った時に、何が起こるかと言えば、だ。
コォ~~~ン^^(脱走)
はい、おしまい。
蒼い星さんは収容してたら安全なアブノマだが、育成状況の進んでいない施設で脱走したら、そりゃあもう手が付けられないことになる。
冷めた俺の視線の先、ウィンドウに映ったのは、指揮チームに降臨した蒼い星の姿。
多くの人間の残骸を身に付けた星の脈動は、施設全体に波及し……。
職員とオフィサーは皆、目を虚ろにして吸い込まれていった。
か い め つ 。
当然ではあるが、俺とアンジェラはこんな光景など、とうの昔に見慣れている。
何回目、どころではなく何百回目の、イージーミスによる管理失敗。
いつもなら「やらかした」と頭を抱え、あるいは「最初からやり直しかー」と諦めていたそれだ。
……しかし、今回は管理人がいる。
管理人ならば、この日の始まりからやり直すことができる。
もう何千回と繰り返した「初めから」ではなく、今日の朝からの「続きから」を選ぶことができる。
そう思ったからだろう、アンジェラに気落ちした様子はなかった。
「管理人さん……残念ながら、職員は壊滅しました。これ以上の施設管理続行は不可能でしょう。
どうか彼らの犠牲を忘れることなく、次こそは未来を……管理人さん?」
……だが。
彼女は1つ、大事なことを忘れている。
やり直すことができるのは、管理人Xがそうしたいと望んだ時だけだということを。
「…………あ……」
どさりと。
体が、あるいは心が崩れ落ちる音がした。
自分の判断で、大切な職員を死に追いやったという事実。
悍ましいアブノーマリティの脱走と降臨。
それによって、手塩にかけて育てて来た職員たちが、一瞬で全滅する光景。
蒼い星の悍ましい狂信への恐怖と絶望。
それらは、俺やアンジェラにとっては、もはや慣れ切ったものでしかなく。
けれど……無理に根明に振る舞い、様々なストレスを自らの内に封じ込めていたのだろうXにとっては、致命的なものだったんだろう。
彼の瞳は、二度と立ち上がることができないくらいに、空っぽだった。
……そして、管理人Xが歩む意志をなくしたということは。
このシナリオが、詰んだことを意味する。
けたたましく鳴り響くエラー音と、震動を始めたL社地下本部。
それを掻き消そうとするかのように、アンジェラの悲痛な声が響く。
「っ、待って! 待ってください管理人さんっ!
大丈夫です、やり直せます! まだ、まだ……っ、私も頑張りますから! だから、待ってっ!!」
……駄目だ、アンジェラ。
そいつはもう、心が折れてる。これ以上歩くことができない。
管理人が管理人足り得なくなったからこそ、シナリオはリブートを確定させたのだ。
俺としては……まあ、こういうこともあるよな、という感じだ。
ここらへんであまりのハードさに心折れ、萎えて、管理を諦めてしまう
俺だってそうなっていたかもしれないんだ。責めることはお門違いだろうな。
残念ではあるが、こればっかりは仕方ない。
……さてと。
俺は俺で、今できることをするか。
管理人室の壁から背を離した俺に、アンジェラが目を向けて来る。
「コっ、ダァト! あなたからも何か言って!
まだ何とでもなるのよ! 状況は何も悪くはなっていない! 私たちはまだ……!」
「ごめん、エラ。ちょっと席を外す」
「っ、え……?」
「騎士」
「はい、主よ」
呼びかければすぐさま、俺の後ろに正義の騎士が現れる。
もはや声に出すまでもなく開けてくれた、青い転移魔法陣。
そこへ進もうとする俺たちに向けて、アンジェラは焦燥に満ちた声を上げた。
「待って、コナー、どこに……!?」
「そら、蒼い星の鎮圧よ」
「無意味よ、だってもう、どっちにしろ、TT2プロトコルが……!」
TT2プロトコルが発動すれば、時が遡る。
この日の始まりに戻るか、記憶貯蔵庫に刻印された段階に戻るか……あるいは、一番最初にまで遡るか。
まあ、今回の場合は最後のヤツなんだろうが。
そうでなくともどの道、蒼い星は収容室の中に叩き戻されるか、そもそもL社地下本部にいない状況に戻る。
だから、鎮圧なんて無意味だ。何の意味もない時間の無駄。
そう、確かに意味はない。
だが、意義はある。
「短い間とはいえ、一緒に過ごした職員たちなんだ。
全部が覆る前に、せめて仇くらい取ってやらんとね」
「……ッ!」
その台詞から、俺が既にリブートの停止を諦めていることを悟ったのだろう。
アンジェラ……ああ、本当にごめんな。
戻ったら、ちゃんと慰めるから。
今は少しだけ時間をくれ。
ジャンたちの仇を取らないと。
「じゃあ、またな、エラ。次回も、頑張り過ぎないくらいに頑張ろうぜ☆」
「っ、コナーっ!」
夜空剣を構え、俺は青い魔法陣に飛び込んだ。
……さて、これで、もうエラの目を気にする必要もない。
貼り付けていた、楽しげな笑顔の仮面を叩き捨て。
奥底から溢れ出す激情に身を委ねる。
時に将来の夢を聞かせてくれた職員の脚を。
時に共にテーブルを囲んだ職員の脚を。
何度も一緒に戦場を駆け抜けた大事な弟子の脚を……。
まるで、戦利品か何かのように生やしやがって。
ふざけんなよ。
くたばれ。
* * *
* * *
しゃあっ! 2+n回目の転生、完了!
雑魚にこんな重責負わせるじゃねえとか言いたくなる気持ちもあるが、まあアインにあそこまで言わせたんだ、俺なりに頑張って……。
「コナーっ、コナーっ!!」
「お、あ、あ、あ」
目覚めて開幕、まぶたを開ける間もなく、ぶんぶんと肩をゆすぶられる感覚。
肩? あれ?
俺、箱の体のはずでは?
てかちょっと待って、止めて止めて。
いやあの、すみません、俺今起きたてなんすよ。
誰? 誰なの? 怖いよぉっ!
いやまあ察しは付くけど、え、これ何周目? 前回の反復で何かあった感じ?
薄っすらとまぶたを開けた先には……やっぱりというか、アンジェラがいた。
いた、んだけど……オイ、まぶた開いとる!!
てことは、まだ割と初期の反復なのか。
多くても3桁ってところかな?
「え、エラ? あの、何、その、俺、前回までの記憶なくて……」
「今すぐ! 今すぐに、ビナーのところに行って、アブノーマリティ抽出に協力してきて!」
「アッハイ」
鬼気迫る……というか、明らかに悲惨に目に涙を滲ませたアンジェラの願いを、断ることなんてできるわけもなく。
俺はすごすごと立ち上がった。
……ってか、俺人の体な上、裸やんけ!!!
危ない危ない、変質者の誹りを受けるところだった。
俺は部屋の隅に保管されていたらしい4色武装の「白」と「黒」を取り付け、用意されてたL社のスーツと思しきものを身に纏い。
わけもわからんまま、とことこ抽出チームに向かったのだった。
この後めちゃくちゃ慰めた。
(Limbus近況報告)
深夜清掃のネタバレ注意です。
囚人が明らかに成長してる&関係性が円満になってきてるのが分かって……カリジャナリは、カリジャナリは嬉しいです……!
あ~、セルマァ……俺、涙が出そうだよ……!
あの日絶望の象徴だったリカルドがギャグ時空の存在になるくらいには強くなったんだなぁ、囚人たち。誇らしい。
あとダンテェもリカルドダのHPを計測できるようになっててすごい!
……え、なんでダンテェも成長してるの? 時間が帰属してるから?