『ダァト、憎しみの女王が脱走したわ。あなたと処理チームで鎮圧をお願い』
「またですかぁ!?」
『管理人Xがクリフォト暴走のタイミングを見誤ったの』
「あのポンコツゥ!!!」
ついにループが5桁の大台に達しようという頃合い。
最近すっかり俺の前以外ではまぶたを閉じているらしいアンジェラから、連絡が飛んで来た。
今回の管理人Xは、ポンコツ系X。
元がアインなので賢いし、思慮深いし、俺よりずっと頭が回るが……。
なにかとめんどくさがってポンコツやらかす、駄目駄目管理人である。
いやぁ、これは駄目そうですね!
まあ詰むまでは精一杯頑張るけども!
Xがそんなんだと、セフィラたちにしわ寄せが来るのは自明の理であり。
それが特に酷いのが、俺の処理チームだ。
俺はいいとしても、職員をまともに休ませてやれねえのは辛いね!
そんなわけで、福祉チームのメインフロアで一緒にコーヒーを楽しんでいた部下に向けて叫ぶ。
「ハーリン、鎮圧行くぞ! 相手は憎しみの女王!」
「え~? またお仕事ですかぁ?」
「Exactly(そのとおりでございます)!」
「は~……処理チームは、相変わらず忙しいですねぇ。
ウチ、さっきオーケストラの作業終えたばっかなのになぁ。ケセド様のコーヒー飲みたいんですけどぉ……」
「しゃーないやろ職員とかオフィサー共の命が懸かってんねんで! ほらスタンダップ! ハリーハリー!!」
「それ言われるとどうしようもないですねぇ。はーい、ダァト様」
よっこらせ、なんて掛け声と共に、WAWクラスE.G.O「残り香」を担ぎ上げる、ウチのただ一人の職員ハーリン。
マイペースな奴だが、叩き込んだ実力と戦士としての志、そして根底にある善性は本物だ。
俺は彼女を伴い、騎士が開いた青い魔法陣を通って、憎しみの女王の元に飛ぶ。
もはや慣れ切ったその動きに、俺も彼女も躊躇いなんてなかった。
* * *
処理チームが雑用チームであることは、ご存知の通りではあるが。
アンジェラやセフィラたちと共に施設を管理した50日間と、管理人が到着してからの50日では、このチームの役割はちょっと変わって来る。
いや、変わって来るっていうか、制限されると言うべきかもしれない。
セフィラ管理時代の俺たちの役割は、言うならばL旧研時代の俺の延長線上にある。
それぞれの部門間の繋がりを保ったり、適度に協力したり、掃除とか整理とかの細かい業務をこなしたり、彼らの活動を円滑に取り持ったりするのがメイン。
メンタル的に抑圧されやすい他セフィラたちを支えるため、その辺りは割と頑張っているつもりだ。
序盤はゲブラーが赤い霧に目覚めていないため、武力として求められることも多い。
シナリオで必要にならない犠牲者は出させないよう、職員や騎士を伴ってびゅんびゅんと飛び回っているわけだ。
気持ちはさながら、交番のお巡りさん。
今日も今日とてL社地下本部の治安を守るため、パトロールの日々であります。
で、それらの業務は、勿論担当セフィラである俺が仕切る。
自己判断でアドリブも決めながら、精一杯に職務をこなしてきたつもりだ。
……しかし、管理人が到着してからは、そんなに自由に行動していられなくなる。
というのも、処理チームの統括権限が、管理人Xに移譲されるし……。
ウチの部署の扱いが、簡易版ウサギチームみたいな感じになるからだ。
処理チームの日常業務は、管理人到着以前と変わらず、雑務である。
そのため、管理作業やらアブノマの鎮圧やらは各チームに任せ、基本的には参加しないのだが……。
管理人Xは、その日に蓄積したエネルギーの一部を消費する代わり、俺たちに管理作業と鎮圧の命令を下す権利を持っている。
その命令が来た場合、俺は騎士の力を借りて転移能力を駆使し、職員を該当収容室や脱走アブノマの下に届けたり送り返したりしなきゃならない。
なんなら1日1回限定ではあるが、俺に直々にアブノマの鎮圧をしろと命令が下ることもある。
アインくんよォ! 俺を顎で使うとか偉くなったもんだなァ!
いや、コイツ元から偉かったわ。L旧研時代も普通に顎で使われたわねそういえば。
ウサギチームは多数によるアブノマの圧殺に特化しているわけだが、職員に被害を出してしまう可能性があるというデメリットがある。
一方俺たち処理チームは、少数のみの派遣になるが職員に被害を出さず、管理作業も行うことができ、そして何より殆どタイムラグなしで目的地に転移できる。
たとえば、「クリフォト暴走見逃して対処が間に合わん!」って時とか、「緑の夕暮が出たけど場所が悪くて手近に殴れる職員がいない!」って時とか、あるよね。
そういう時は、アンジェラに指示一つ飛ばせばそれでオーケー。
俺たち処理チームが魔法陣で颯爽登場、ずばばーっと片付けちゃいます!
こちら、俺ことダァトを派遣する場合、なんと今なら一日一回限りで、ノルマエネルギーの50%分!
職員のみの派遣なら、なんとなんと! 1人につきたった10%の提供で、回数無制限となっております!!
安い! 安すぎる!
いや冗談抜きで安いわ。
序盤なんて、職員はエンケファリンボックス1つ分で働かないといけないし。
セフィラたる俺ですら、ハゲ! の生成エネルギーに毛が生えた*1くらいの量で働かなきゃいけない。
どうなってんのこれ。薄給とかって次元じゃないよ。
まあそもそも、そのエンケファリンは別にウチの部署のために使われるわけでもなく、普通に光の抽出の補佐に使われるので、給金なんて元々ゼロなんだけどさ!
これじゃ完全にタダ働きだよ;;
とほほ~、もう傭兵稼業はこりごりだ~;;
と、そんなわけで。
急ぎで管理作業が必要になったり、ヤバめなアブノマが脱走すれば、俺と処理チームは割と気軽に出動させられる。
特に、転移で逃げ回ったり機敏に動く徘徊型のアブノマや、アホみたいな速度で逃げ回るパニック職員の鎮圧に関しては、俺たちの専売特許。
どこに逃げても騎士の転移で瞬時に追い縋れるので、かなり便利使いされている。
で、今回脱走した憎しみの女王も、転移を使う危険なアブノマの一体であり。
今日も今日とて、俺たちにお呼びがかかったというわけだ。
しかし、ごめんね騎士、いつも雑用みたいに使っちゃって。
『いえ、むしろ主に使っていただけるのは光栄です!
是非とも、もっともっと頼っていただきたく!』
俺の騎士が良い子すぎて泣ける;;
お前も見習って働かんかいニート。
『私も頑張ってるわよ! コナーの記憶の編集とか!』
それは素直にありがとうね。助かってます。
『今はね、コナー活躍場面集の総集編、パート41の編集中なの。
今回の私のイチオシは、騎士ちゃんと共に「何もない」に正面から打ち勝つシーン!
いつか都市のみんなに見せてあげたいわね!』
お前はマジで何をしてんの?????
『あ、主よ、お言葉ですが……カルメンの編集は非常に丁寧でセンスが良く、主の功績を世に知らしめるにはこれ以上ない手段かと!』
騎士よ、君までそっちに行ったら誰がカルメンを止めるんだ。
* * *
なんか推し活でもやってるらしい2人は一旦放置して、視点を現実へ。
青い魔法陣を潜り抜けた先は、教育チーム。
今まさにビームを放とうと溜めを行っている、ターゲットの背後だった。
今は巨大な蛇の化け物になってしまっている、憎しみの女王。
かつての騎士の友だち、そのなれの果てである。
WAW級アブノーマリティ、憎しみの女王。
原作Lobotomy Corporationの顔の一つとも言えるアブノマであり……。
同時にちょっと、いやかなり、どころか途轍もなく、頭を抱えるくらいに管理の面倒なアブノマでもある。
魔法少女族と言えばやっぱこれだね!
『……その、お、お恥ずかしい限りで……』
『連帯責任の罰として、魔法少女衣装とか着とく? コナー喜ぶわよ、そういうの』
『い、いえ、それは…………喜ぶ? カルメン、その話詳しく』
だまらっしゃい! お前はそろそろモラルってもんを取り戻せ!!
……さて、憎しみの女王の話だ。
まず彼女は、収容室でおとなしくしている間は、白とピンクを基調としたフリフリの衣装に身を包む表情豊かな可愛らしい少女の姿だ。
おおよそ「魔法少女らしさ」では他の追随を許さず、騎士の美しさとはまた違った可愛さという面では、おおよそアブノマの頂点に立つ存在だろう。
え、何? キュートちゃん?
なんか俺、アイツの魅了効かないっぽくて、ただのちっちゃい犬っころにしか見えないんだよね。
よく見たら入れ墨入ってるしこれ実質捨て犬だろ。ヤクソギ!!
で、そんなカワイイ!!!!女王だが。
ぶっちゃけ平常時は、とても有能なアブノマだ。
作業を終えると、担当職員を魔法の投げキッス(?)で回復してくれるし。
緊急事態レベル2になると自力で脱走して、アブノマを鎮圧&職員を回復してくれたりもする。
しかし、そんな共存アブノマかのように思われた憎しみの女王にも、一つだけ致命的な弱点が存在します。
それは、あり得ない程のメンヘラっぷりです。
女王は優れた魔法技術によって施設を守ろうとしますが、逆に施設が平和になってしまうと、アホみたいに情緒不安定になります。
この情緒不安定っぷりは皆さんご存知、あの育成に向いているようで向いていないアブノーマリティ、恥ずかしがり屋の今日の顔にも並ぶと言われています。
自分で施設を平和にしておきながらその平和にキレ散らかすという、サバンナに記憶を置き去りにしてきたダチョウの如き生態をする彼女ですが、更にここからとんでもない発想の飛躍を見せます。
悪がいないなら正義はいらない、それなら私が悪になるというものです。
自身の存在意義を見失った彼女は、多くの槍のような魔法に貫かれ、最後に自身の杖に突き刺されることで、何故か翼を持つ蛇のような化け物に変身するのです。
シンプルにイカれています。
正気の沙汰ではない変身バンクを挟んだ憎しみの女王は、魔法少女特有の転移能力を使って施設内のどこかへと飛び去り、そこでとんでもない射程距離のクソデカレーザーをぶっ放します。
真の悪であるオフィサーを焼き払ってくれる辺り、もしかしたら彼女にもまだ正義の心が残っているのかもしれませんが、それで団子クリーチャーを解き放つのでは本末転倒です。
さて、こんなことをしていれば、至極当然の末路を迎えます。
害悪アブノマとして鎮圧されるのです。
正義に拘ろうとした結果悪とされた彼女は、鎮圧されると何故か元の少女の姿に戻り、まるで壮絶な戦いの果てに打ち負かされたかのように横たわります。
ご覧ください、見事な被害者面です。天職は魔法少女ではなく当たり屋でしょう。
ただ存在するだけで憂慮の材料を1つ増やす唾棄アブノマ。
それが魔法少女随一のカス、憎しみの女王なのです。
「というわけで悪即斬!!!」
騎士と心を繋げ、貫く夜空の剣を振るう。
アブノーマリティから抽出した借り物のE.G.Oは、本来その心の殻を通し、それを使う術や技を模倣して振るうもの。
しかし、騎士と精神を繋げている俺は、ただ模倣するだけでない戦い方もできる。
剣を通して、彼女の技と記憶を一時的に自身の内に受け入れ、自らの技として再構築して振るうことを可能とする。
……要は、ただ真似るだけではなく、自身の体に最適化した動きに組み直せるわけだ。
かつての涙剣よりも洗練されたラッシュは、今や秒間20発を数える。
PALEタイプで秒間20発の攻撃なんぞしようものなら、どうなるかはお察しだ。
特に憎しみの女王は、PALE属性が1.5倍通りやすい弱点。
暴走形態の憎しみの女王は、ビーム以外に攻撃手段も持っていないし、数分もかけず鎮圧できるはずで……。
……しかし。
今回の鎮圧では、想定にないイレギュラーが発生した。
「……っと!?」
苛立ったように振るわれた太い尻尾を、剣で捉え、逸らし、受け流す。
何事かと、改めて目を向ければ。
既にこちらに向き直っていた憎しみの女王の、黒い涙の溢れる空っぽの眼孔と、視線が合った気がした。
ビームじゃなく、尻尾による、明確にこちらを捉えた攻撃……?
まともにこっちを見ることもなく、ただ「悪として振舞おうとするだけ」なはずの憎しみの女王が。
……成程ねぇ。
『主よ、彼女は……!』
わーってるわーってる、どうやら繋がったっぽいね。
……ま、何にせよ、まずは鎮圧せんとな。
黒い涙なんて流されてちゃ、まともに話もできやしない。
食らい付いて来る顎をいなし、勢いをそのまま受け流す。
その頭頂部から生えた両腕が掴みに来たので、容赦なく剣で斬り飛ばす。
それでも諦めずに追い縋り体当たりしてきたので、E.G.O防具と騎士による加護で緩和し、無理やりに跳ね除ける。
ははっ……いいね、ドッグファイトも悪くない。
少なくとも、いつもの無意識に暴れ散らかす君よりは、ずっと!
「オイオイ、今日はいやに情熱的じゃないか、女王!」
「ガァァアアアアッッ!!」
再び迫る蛇の、大きく開いた口から、眩い光が溢れた。
──直接ブチ当ててくるつもりか!
ああ、確かにそれは強力な手札だ。
部屋に「白」を置いたままにしている俺では、クソデカビームをまともに受けきるのは困難。
なんならかつては、「赤」と「白」で応戦しようとして、無惨に焼け焦げかけたこともあったっけな。
……だが!!
「ふんッ!」
「ガッ!?」
その顎を思い切り蹴り上げ、射出方向を捻じ曲げる。
上方向に伸びたビームは天井にぶつかり、散逸。
その隙に、俺はその胴に夜空剣を突き立てた。
俺は、あの頃の俺のままじゃないし。
お前も、あの頃のお前じゃないんだ。
こっちはなぁ、抑止力が殆どなかった頃のお前とか山田君を相手に、数えきれないくらいに死にかけたんだ。
このL社地下本部でも、1,000年くらいお前らアブノマの相手をし続けて来た。
それが、クリフォト抑止力がしっかり効いたこのL社地下本部で……。
それも今の、半端に理性を保ったお前なんかに!
今更、負けるわけねえだろうが!!
俺たちの交差の隙を見て撃ち込まれる、WHITE属性のクロスボウ。
その体に何度も何度も突き立てられる、PALE属性のレイピア。
それらの連撃を前に、憎しみの女王はまともに抵抗もできず、苦悶の声を上げ、身をよじり、血を流すばかりで。
そうして、10秒としない内。
蛇の体がその場に倒れ伏し、白い光と共に消えて……。
その場に生まれた魔法陣の上に、少女の形の女王が現れた。
鎮圧終了。
……いや、ある意味では、まだか。
「……状況終了。ハーリン、先に戻れ」
「ん? ……んん、わかりました。ハーリン、先に戻ります。
ダァト様のことですから大丈夫とは思いますが、お気を付けて」
「俺の前に自分の心配をしろ、目線フラついてんぞ。
後の業務は引き継ぐから、仮眠室で休んで来い」
「んはぁ……ダァト様、ほんと目敏いですよねぇ。そーいうとこなんだろうなぁ。
……すみません、今日は甘えさせてもらいます」
ハーリンはぺこりと頭を下げ、騎士が開いてくれた魔法陣の向こうに消えていった。
……目敏いのはそっちだ、アホ。
普段なら意地でも最後まで働く癖に、素直に従いやがって。
だが、今回は、その察しの良さに助けられたな。
軽く夜空剣の血を払い、鞘に収めて、通信機能を起動。
今も管理室のモニターを通してこちらを見ているだろう、管理人Xとアンジェラに語りかける。
「それじゃ、今日はこんなもんで。
女王の卵は俺が運んどくから、オフィサーの手配はいらないよ」
『ご苦労』
オイなんやねんその態度はよぉ!
ポンコツ管理人ならせめてちゃんと感謝くらいしろや! ありがとうございますダァト様だろォん!?
『……ダァト、あなたの今日の業務は終了したわ。以後あなたは自己判断で業務の補助に回って』
「りょーかい、エラ。……ありがとね」
一方でアンジェラは、色々と察してくれたのか、俺にそんな言葉をかけてくれて。
管理室と繋がる通信回線を、遮断してくれた。
流石の観察力と洞察力、そして何よりありがたい気遣いだった。
エラは本当に良い子だね……。
「……さて」
管理人Xの認識フィルター越しでは、この施設の情報は「管理に必要なだけしか」拾えない。
今日もメインフロアで職員たちに指示を飛ばす、各チームの管理者たるセフィラたちが、セフィラコア暴走以外のタイミングでは見えないように……。
俺の姿や、鎮圧済みのアブノマの姿もまた、表示はされないわけだ。
その上で通信を切ってしまえば、もはや俺が何をしても、管理人に感知することはできないだろう。
……悪いな、管理人X。
今のお前じゃ、悟りには到底届きそうにないし……。
何より、俺の大事な騎士が、たった一度言ってくれたわがままなんだ。
そっちを優先させてもらうぜ。
俺は卵に
……今日の白昼試練が緑だったこともあって、オフィサーたちはもはや殆ど残っていない。
目撃されることもないだろうし……小声でなら大丈夫か。
「で、どうだったよ。悪者になる気分は」
「…………っ」
びくん、と。
俺が背負った少女の体が、震えた。
【大きくて悪くなる】ダァトさん、幼気な少女を送り狼www【意味深】