憎しみの女王改め「愛の女王」が 仲間になった!
愛の女王は 処理チームに 駆けこんだ!
「アイエエエエ!? 処理チーム職員!? 処理チーム職員ナンデ!?!?」
「主くんと一緒にいたいって言ったら、アンジェラが入れてくれたの♡」
「エラさん!?!? 何これどういう判断!?!?」
第9,229回、反復会議。
今回は俺とアンジェラのメインパーソナリティに加え、もう2人参加者がおります。
我が忠義の騎士こと正義の騎士さんに、なんかこれから俺の部下になるらしい、憎しみの女王改め、愛の女王さんです。
うぁぁぁ! あ……アブノマが俺の部屋に練り押しかけている!!
いやまあ、そこは今更だけど。
騎士が俺の部屋に来たり、一緒に活動することは、そう珍しくない。
しょっちゅう俺と一緒に出動してるから、アンジェラにとっても、もはや見慣れた光景だろうが。
ただまあ、この状況……。
俺の右腕が女王に引っ掴まれ、左腕が騎士に引っ掴まれた、大岡裁きみてぇなこの状況は、見覚えがないんじゃないでしょうか。
あとついでに言うと。
『……女王よ、そろそろ手を放すべきではないですか? 主も当惑しています』
『それなら騎士ちゃんが離してよぅ! いいでしょ? 騎士ちゃんはずっと前から主くんの傍にいられたんだもん、おすそ分け!』
『あのねぇ2人とも、そもそもコナーは、あなたたちのものではないのよ? だって彼は私のものなんだからねぇ!!!!!』
『……ねえねえ騎士ちゃん、なんかこの声からアルカナっぽさ感じない? 処す? 処す?』
『……丁度良い機会かもしれませんね。この女には一度
『にゃ゛ぁぁーッ、2対1は流石に卑怯!!』
カルメンが女王のことも脳内会話に加えたため、本格的にうるせぇ!!!
脳内がチカチカするこの感覚、慣れるまで時間がかかりそうだなぁ!
『え、あ……う、うるさくしてごめんね、主くん……』
『あ、今のは気にしなくていいわよ、女王ちゃん。これ、あなたが元気になって嬉しいって気持ちを隠すための、照れ隠しだから』
『主は「つんでれ」というものなのです。女王、あなたにもその内、この主の良さが染み入って伝わることでしょう』
…………。
なんかもう、口開いたら全部藪蛇になる予感がする!!
いやまあ、女王が自分の存在意味に期待を持てたのは嬉しいけどさぁ!! それは事実だけどさぁ!!
『あ、主くん……! 好きっ♡』
ぐっ、この……!
……いや、もういいや、うん。
自分の心に嘘を吐くのは意味がないか。
どうせ心を覗かれる以上、いつかはバレることだし。
俺も、まあ……なんだかんだ、君のことは嫌いじゃないよ。
バチクソに悩まされた日々もあったけど、そういうところまで含めてね。
『♡♡♡』
* * *
……と、脳内で続く姦しい会話からは、一旦意識を逸らして。
一旦状況を整理するため、回想から始めよう。
ほわんほわんこなこな~。
まず、ついさっき。
俺はリブートで初日に戻って来て、いつも通り抽出チームに向かった。
その際、騎士との再会を果たすまでは、いつも通りだったのだが……。
同時に女王までもが飛び出て来たのは、そりゃもうビビり散らかしたね。
なにせその時の俺って、騎士による記憶同期の前なんで、前の周の記憶がないわけで。
L旧研の頃は女王と半端にしか接触してなかったし、マジで彼女が出て来た意味がわからんかった。
しかも超ハイテンションだし、やけに好感度高いし、「愛の女王」なんて名乗るし。
トレードマークでもあったツインテールは下ろしてるし、それに伴って髪飾りだったハートはワッペンになって黒から白に染まり、腰元へ移動してるし。
少女趣味全開だった衣装も綺麗なドレス状に変わってるし、それで魔法少女感がだいぶ失せてたし。
なんならビナーもちょっと目ぇ見開いて驚いてたよ。
「おやおや、気が多いのだね」って。うるせえよまた殺すぞ。
……ただ、まあ。
冷静に考えると、道理でもあったかな。
ビナー曰く、これまで騎士は「道を拓いただけで、何の力を加えることもなく来てくれていた」らしい。
であれば、同じように変異し……どうやら、俺のことを好いてくれているらしい女王も、同じようになるわけだ。
まあ、一度の抽出で2体同時に飛び出してくるなんて、あの陰陽ですら起こらなかったことであり、そこに関しちゃ大いにイレギュラーではあったが。
とにかく、俺は過去に何があったかを把握すべく、すぐに騎士から剣を通して記憶の同期を受けた。
……女王もニッコニコで杖を差し出してきてたけど、まあ流石に剣の方を受け取った。
信頼度もあるけど、正直、成人男性にその杖はキツいねんな……。
こっちもリデザイン入ってちょっと落ち着いてはいたけど、やっぱ男にハートマークはね、うん。
『え~!? 主くんってカッコ良い上に可愛いし、きっと似合うよ!』
『ええ、その通り! コナーは黙ってれば美人なんだから……フフッw、ええ、似合うわよ!』
『主にはなんでも似合います』
純粋1、邪悪1、全肯定1と。
カルメンお前マジで憶えとけよ。
その後、不慮のアブノマ2人抽出をどう処理しようかと、俺は2人を連れてアンジェラのいる自室に戻り。
「少し考えがあるわ」と言って女王を連れて立ち去ったアンジェラを、騎士と共に待つこと1時間。
返って来た愛の王女は、その綺麗なドレスの上に、「D」と刻まれた腕章を巻いていたのだった。
「
そう。
まさかの、アブノマ職員化計画である。
* * *
以上、回想終わり。
改めて、これは何事かと、俺はアンジェラの方へ目を向けたが。
彼女はその琥珀の瞳に、純粋な合理を宿していた。
良かった~、パニックとかではないらしい。一瞬「白」使おうか迷ったわ。
「処理チームには前から、人員が少なすぎるという問題が挙がっていたわ」
「せやね。まあしゃーないけど」
これまでは基本、俺+職員1人の、限界ギリギリデスマーチだった。
かろうじて回らなくもないけど、まあ忙しい。
俺はともかく、職員にかなり無理をさせてしまっているのが心苦しいところ。
ただ、諸々を考えると、ウチにリソースを回さず他のチームに回すってのは、合理性のある話だ。
管理作業でも鎮圧作業でも、俺たち処理チームはピンチヒッターであり、メインメンバーではない。
その上、こうした方がイェソにゃんの抑圧効率も高くなるんだもの。
これはいわゆるコラテラルダメージにすぎない。
最終目的のための致し方ない犠牲だった。
しかし、エラはそれをなんとか解決しようと、考えを巡らせていたらしい。
「でも、最近は……チャート? と言うんだったかしら。それの効率化も進んで、イェソドの抑圧方法も安定してきた。
なら、これからは処理チームの負荷を下げる方にシフトするべきでしょう?」
「なるほどね、理屈とやりたいことはわかった。
でも、いくら記憶貯蔵庫があるとはいえ、割り振れるリソースには限りがある。職員は他チームに優先配備せざるを得ないわけだ」
俺の言葉に、アンジェラはどこか自慢げに人差し指を立てた。
どうやら彼女は、コペルニクス的転回によりこの解決を試みたらしい。
「愛の女王を配置すれば、それがある程度でも解決するでしょう?」
……まあ、そりゃあね。
アブノマである女王は、正規の職員ではない。
記憶貯蔵庫から引き出すのにリソース(LOBポイント)を使うようなこともなく、これからは毎周騎士と共にやってきてくれるつもりっぽいし。
更に言えば、転移魔法や浮遊の魔法も使えるはずだし、魔法の才に至っては騎士から「類稀なる」と評価される程。
処理チームに来てくれれば、大いに仕事も捗るだろう。
でも大前提として、その、すごく大きな問題があるんですが。
「エラさんや、この子一応アブノマなんだけど、大丈夫??」
俺の質問に、アンジェラはなんでもないことのように答えた。
「善良なアブノーマリティもいるでしょう。コナーが信頼するなら、私も信頼する。それだけのことよ。
暴れないのなら収容室に閉じ込める必要もないし、力を貸してくれるなら活かさない手はないでしょう?」
アンジェラが琥珀の視線を向けたのは、俺の左腕にぐいっと自分の体を押し付ける騎士だった。
とても距離感が近い女王に対抗するように、これまでになく引っ付いて来る彼女は……冷静に考えると、確かに極めて善良なアブノマだ。
この9,000回以上のループの中で、ただの一度も暴走なんてすることなく、ひたすらに施設(というか俺)を支え続けてくれた功労者。
最初期に起こった笑う死体の山事件で早期にアブノマは危険だと認識してたL旧研メンバーや、原作知識でアブノマ=やべー奴らと思っている俺とは違い……。
アンジェラは、俺がアブノマと協力して敵と戦う様を見続けてきたわけだ。
それも体感にして、おおよそ1万年ほど。
となれば、「アブノマは大半が危険だけど、そうじゃない子もいる」……と認識しても、おかしくはないか。
俺としちゃ、職員の中にアブノマが紛れ込んでるとか、「何もない」的な意味で嫌な予感しかしないんだけど……。
まぁ、でも、騎士や今の女王なら大丈夫かな。
『ねえ騎士ちゃん、「原作知識」ってなに?』
『主が前々世で獲得した、ゲームというものを媒介としてこの世界を観測した知識のことですね。今は、簡単な未来視のようなものと思えばいいでしょう』
『未来視か~、懐かしいな。「運命」のメジャーアルカナが使ってきたよね』
『敵にすると大変厄介な能力ですが、味方となればとても頼りになりますよ』
『後で色々解説してあげるわ! 時間はたくさんあるからね!』
説明たすかる。
アンジェラの言っていることは、まあ、道理ではあった。
やけに愛とか正義とかに拘って明るくするわけでもなく、だからと言ってヒステリックでもない……。
普通の女の子然とした愛の女王は、以前までの憎しみの女王とは、全く違う。
どうやら、局所的な感情の表象たるアブノーマリティというより、明確に人間らしい感情と情緒を取り戻しているらしい。
騎士もそんな感じだし、多分俺と繋がるとそうなるっぽいんだが……。
今のこの子を見れば、そう危険とは思えないってのは同意する他ない。
そもそもアブノマを収容室に入れているのは、高いクリフォト抑止力によってその場に押し留め、その能力を封じることで疑似的に無力化するためだ。
暴走もしなければ人も襲わない、施設に悪影響を与えないようなアブノマなら、収容室に押し込める意味そのものがない。
散歩に出た罰鳥が放置されるようにね。
更に言うなら、どうやら俺が変異させたアブノマには、クリフォト抑止力がかなり効きにくくなるっぽい。
そもそも閉じ込めることだって難しくなるわけだ。
なんなら騎士だって、忙しい時はずっと俺に随行する時もあるし……。
このL社地下本部では、そういう光景も珍しいものじゃないんだ。
俺が変異させたアブノマを、今更アブノマ扱いして収容室に入れる必要があるかと問われれば……まあ、ないか。
だからって職員に雇うというのは、なかなか思い切った判断*1だとは思うけどね。
ていうか、それを受け入れる方も受け入れる方だわ。
何をほにゃほにゃした笑顔を浮かべていらっしゃるんですか、この女王さんは。
「女王としては良いの? この会社ありえんブラックだから、多分まともに休暇もお給料も出ないぞ」
「え? いいよ? そもそも私が前やってた魔法少女だって、お休みもお給料もちゃんとはなかったし。
それに今は、主くんや騎士ちゃんと一緒にいられれば何でもいいもん♡ えへへ~♡」
あかんこの子脳が溶けてる。
余りにも幸せそう過ぎて、否定する気にもならない。
なんだからこっちまで流されて、楽しくなっちゃいそうだ。
何も言えず口をもにょもにょさせていると、アンジェラが少し視線を逸らし気味に言ってくる。
「それにその、彼女は、正義の騎士のように収容室で管理するのも、ちょっと……。
少しシミュレーションを組んで調べたんだけど、どうやら彼女は正義の騎士と違って、職員の育成効率はそう高くないみたいなの。
更に言うと、エンケファリンの生成効率も、職員の精神状態や個人的な関係、彼女の機嫌次第で大きく変動するようだし……。
クリフォトカウンターの上限値も低くて、ゼロになると勝手に収容室を抜け出して、あなたの元に飛んで行ってしまうみたいだし。
その上、緊急事態レベルが1になっても、あなたが心配になって脱出しちゃうみたいで……」
オイ! 脱走し過ぎ!!
とんでもねえ管理めんどくさアブノマじゃねえか!!!
「女王さん!?」
「だ、だって、退屈なんだもん、あそこ! 主くんに会いたくなっちゃうんだもん!!」
ぶーっと頬を膨らませ、ぐりぐりとほっぺたをこすりつけて来る女王。
まずい、可愛いので許してしまいそうになる。てか許した。
ガキはあんま怒らず、褒めて伸ばすタイプなんだわ俺。
騎士の前例からして、俺が変異させれば、彼女たちはバチクソ優良アブノマになるんじゃないかと思っていたが……そうでもなかったか?
とはいえ、話を聞くに、前までみたいなトンデモメンヘラお化けではなくなったみたいだけどね。
どうやら脱走しても、あの蛇形態に変身して暴れ回るのではなく人間形態のままふよふよ漂い、俺のところに遊びに来ちゃうだけみたいだし。
その中でアブノマや試練を見れば、職員を守るために戦ってもくれるみたいだし。
その攻撃は原作と同じく、アブノマにはダメージを与え、職員は逆に回復してくれるっぽいし。
……これ、多分アレだな。
無理に収容室内で管理するんじゃなく、むしろ収容室から積極的に出して、疑似的な鎮圧要員として活用するタイプだわ。
ただひたすらに優良とは言い辛い、女王らしい癖の強さは残ってるけど……。
彼女も、ちゃんと人類の味方枠になってくれたらしい。
『任せて、主くん! 君への愛にかけて、君とここを守っちゃうからっ!♡♡』
おぉ、あの女王をここまで信頼できる日が来ようとは。
なんかちょっと感慨深い。
……いや、何故そこで愛ッ!?
時折唐突に生えて来る文脈に慄いていると、脳内に呆れた声が響く。
『主くんさぁ……。あなたはあの虚無の闇の中にいた騎士ちゃんと私に、また歩き出す道を示してくれたのよ?
しかも、これからいつか、残った2人の友だちを助けてくれる大恩人。
更に更に! こんなに可愛くて、こんなにカッコ良くて、何よりこんなに優しいんだもん!
これで好きにならないなんて普通に考えて無理があるわよっ! この人たらし!』
『わかる~~~!!』
『否定はしません』
えぇ……。
俺、そんな大層な人間じゃないんだけどな。
ビジュアルはともかく優しいって……自己中のカスだよ?
まあ、でも、人の純な気持ちを否定するのもおかしな話か。
その……なんだ?
……ありがとう、女王。
その気持ちに今応えることはできないけど……不快ではない、っていうか……まあ、嬉しくは、思ってるから。
『っ……! あ、なんか今、ちょっとゾクッと来た。
駄目だよぉ、そんな恥ずかしそうな、くすぐったそうな声……っ♡
主くんのえっち♡♡』
『わかり過ぎる~~~!! コナーはエッチ!!!』
『否定はできません。主はえ……魔性です』
しろ。そこは否定しろ。
どこに需要があるんだよ、俺のエロス。
むしろ君たちの方が……いや、これはセクハラか。
クソッ反撃すら許されないとは!! フェミニストとしてこの男女間不均衡に異を唱えます!!!
* * *
と、まあ、そんなこんなで。
処理チームは、愛の女王という新たな戦力を迎えた。
それでは果たして彼女が、どれだけの活躍を見せてくれたかと言えば……。
「正義よりも純な者よ、愛よりも熱き者よ!
運命に導かれしその意味の下に、我、ここで君に誓う!
我が眼前に立ちはだかるお仕置きすべき存在達に、私と君の力をもって、偉大な愛の力を見せしめん事を!」
なんか前以上に恥ずかしくなった詠唱と共に、彼女の背後には、ハートの意匠の魔法陣が展開された。
女王は、杖を前へとかざして……並び立つ騎士に、叫ぶ。
「行くよっ、騎士ちゃん!! 『ラブリースレイブ』──!!」
「っ、じゃっ、『ジャスティスロード』っ!!!」
その言葉と共に、魔法陣からピンクと白の超極太ビームが発射される。
それは、部屋の向かいの壁へ向けて射出されて……。
そこに展開されていた青の魔法陣を通し、別部署の廊下へと続き。
その先にあった魔法陣を跨いで、また別の廊下へ。
「いっけえええええ!!」
廊下、フロア、エレベーターを問わず。
ビームは施設中を駆け抜け続け、当たった職員を癒しながら、敵だけを的確に焼き焦がしていき……。
「ふぅ……ふぅ……よしっ!
ねえねえ、見た、主くんっ!? すごいでしょ、私と騎士ちゃんの合体技!」
女王の魔力切れ(?)でビームが収まる頃には、「お仕置き」は果たされていた。
『コナー、報告よ。琥珀の夕暮、鎮圧完了。……すごい汎用性と火力ね』
「つんよ」
騎士と抜群のコンビネーションを見せる女王は、ちょっとぶっ壊れだった。
俺、もういらなくない?
『いらないならちょうだい!』
『私のだからあげないわよ!』
『いえ、私の主なのですが?』
元気だね君たち。
tips! ラブリースレイブ☆ジャスティスロード
女王と騎士による(割と即興で考えた)合体技。
女王の放つビームの行き先を騎士が転移魔法によって操作し、施設内の自由な位置への同時砲撃を行う。
接触したアブノマに継続的なREDとWHITEの多段ダメージを与え、また接触した職員のHPとSPを回復する。
デメリットとして、ビームを射出し続ける女王は勿論、騎士も転移魔法が専門ではないので、攻撃中に他の動きはできない。
また、ビームを撃ち終わった後、女王は魔力切れの疲労から、騎士は叫んだ技名の恥ずかしさから、しばらく動けなくなる。