3級フィクサーパンチ   作:アリマリア

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倦怠と待望

 

 

 

-反復26,802回目-

 

 

 

 俺は今、エレベーターに乗っている。

 

 服の一枚も纏わず生まれたままの身を晒すハレンチ野郎ことカルメン……の脳が元になった釣瓶。

 

『語弊がある! むしろ語弊しかない!!』

 

 釣瓶のあるダァトフロアには、3つの出入り口がある。

 俺が普段使っている、左右それぞれの扉と……。

 

 釣瓶の裏側にある、階下に繋がるエレベーターだ。

 

 

 

 基本的に出入りに用いられるのは左右の扉だけで、エレベーターはこれまでに一度たりとも使われたことはなかった。

 

 ……なんなら、左右の通路も認知フィルターと認識阻害技術によって隠されているため、職員やオフィサー、そして管理人はこれを認識できない。

 ダァトフロア付近に足を踏み入れようとする者自体、俺と騎士、女王くらいのものなんだけどね。

 

 寂しい;; お隣さんとか欲しい;;

 上層中層みたいに、同僚と一緒に働きたいよ~;;

 

『私たちは、仲間ではあっても同僚にはなれないからな~……。ごめんね、主ちゃん』

『あのビナーとホクマーという者ならいるのでは?』

 

 いやぁ〜……流石に、この手で殺した奴らと同僚ってのは、ちょい気まずくね?

 

『す、すみません、軽率な発言でした!』

 

 いや、いいんだけどね?

 騎士ちゃんはいつまで経っても固いにゃあ。

 

 

 

 ……と、それはともかく。

 

 何故俺が、ただでさえ使われない出入り口の内、これまでに使ったことのなかったエレベーターに乗っているかと言えば……。

 

 

 

 1人目の、到達者が出たからだ。

 

 

 

 反復もだいぶ進んで来た頃合い。

 今回の管理人Xは、45日の施設管理を遂げ、ついに彼の至るべき場所へと到達した。

 

 その地点の名をケテルフロア、または設計チーム。

 この会社の根幹を成す場所であり、始まりであり、そして終わりでもある地点だ。

 

 

 

 今回の管理人Xは、まあ、優秀な人間だったと言っていいだろう。

 真っ直ぐで、真面目、几帳面。

 目の前の物事にきちんと向き合い、事を為そうとする。

 そんな当たり前のようで得難い性質を持つ、極めて真っ当な青年だった。

 

 ……だが、同時。

 その心には、人間らしい弱さも見えていた。

 

 本来アインの持つ、狂気的なまでの推進力が、今回のXにはない。

 何を犠牲にしても、どれだけの外道に成り果ててでも、必ず事を為すのだと……。

 そう誓ったはずの、偏執的なまでの強さが損なわれていた。

 

 

 

 だから、その顛末は、あるいは当然と言うべきものだったかもしれない。

 

 彼は、セフィラたちの苦悩と絶望に、向き合うことができなかった。

 セフィラが崩壊してもそのコアを抑制することはなく、クリファの悲鳴から耳を塞いで、ただ逃げ続けた。

 

 しかし同時、なんとも真面目なことに、管理も投げ出すこともなかった。

 ただ淡々と、「それが今すべきことだ」とでもいうようにこなしていき……。

 

 その結果。

 なんとか45日目まで、這う這うの体で辿り着いたわけだ。

 

 

 

 そして。

 

 俺は今から、ソイツを排除しに行く。

 

 

 

 セフィラ・ダァトの普段の仕事は、鎮圧手伝い、掃除に運搬、折衝等の雑務だが。

 真の役割は、カルメン=釣瓶の護衛と、L社の特異点に近付こうとする者の排除。

 

 ……そして。

 誤った悟りを開いたAをぶちのめし、煉獄に送り返すのも、俺のお役目だ。

 

 本来ケテルフロアで待ち構える、アベルだのアブラムだのアダム。

 彼らは、俺がこの手で潰さんとならんらしい。

 

 

 

『……主よ、やはり、私がやりましょう。

 ベンジャミンという者もそうでしたが、彼ら、それも友だちとまで呼んだ者に刃を向けることは、主には……。

 どうか、私にその役目をお与えください!』

『いや、私がやるよ! 騎士ちゃんも、あの、アイン? って人とは知り合いだったんでしょ?

 私、その人のことはよくわからないし、これまでずっと迷惑かけてばっかりだったし……だからここは私の出番! ね?』

 

 え、何々、どうしたどうした。

 俺、そんなに張り詰めてるように見える?

 

『見えは、しませんが……主は優しすぎます。

 友に刃を向ける度心が傷つくのは、何もアンジェラだけの話ではないでしょう』

『そうだよ! 主くんはいつも無茶しすぎ! 時には私たちに頼ってよね!』

 

 いや、気持ちは嬉しいけど、そういうんじゃなくて。

 

 ……今回は別に殺すまではいかないし、俺もそんなに気にしてないよ?

 

『え? そうなの?』

『ここは何かと物騒な場所ですので、そういうものかと思っていたのですが……』

 

 あー、まあ、場合によっては殺す必要もあるだろうけど。

 あの厨二病とか。

 

 ただまあ、それも殺す……と言えるのかはわからんね。

 実際、生命を奪うってわけじゃないんだろうし。

 

 

 

 ケテル──アベル、アブラム、アダムの3人。

 彼らは46日目以降で立ち塞がって来る試練であり、アインの想定とは異なる悟りを開いたXたちだ。

 

 要するに、アイン=管理人X=ケテル3人衆なのである。

 同一人物が多すぎる。Lobotomyの登場人物の内、実に30%がアインで構成されてるの、どういうことなのだよ。

 

 彼らは、真の悟りを開くXから見て、過去の自分たち。

 何万周も前の、つまりはTT2プロトコルによって初期化されたはずのXだ。

 

 じゃあなんでソイツらがここに残ってて、なおかつ今のXと同時に存在できるのかと言えば……。

 

 このL社地下本部がそういう場所だから、としか言えない。

 

 

 

 このL社地下本部は多分、アインのE.G.Oか、それに近いものなんだろう。

 アンジェラにとっての図書館と同じような感じね。

 

 カルメンのE.G.Oが内在型E.G.Oなら、アインとアンジェラのは場所型E.G.Oとでも呼ぼうか。

 装備としてではなく、空間に対して展開された、その人の心の表象。

 心模様によって塗り替わり変動し得る、不定の空間だ。

 

 だからこそ、教育チームには変な球体が浮かんでたりするし、中央本部チームのフロアは馬鹿みたいな設計だったりするし……。

 設計チームなんかアインのその時の心模様によって塗り替わるわけ。

 

 

 

 で、そんな空間だからこそ。

 たとえ想定とは違う形だろうと、悟りを開いた──つまりは本来のアインとは異なる自我を獲得したXは、独立した存在として根を下ろす。

 アインであり、同時アインでない存在として、このL社地下本部にこびりつくのだ。

 

 ただし、異なった悟りを有した以上、ケテルにこの反復を断ち切ることはできない。

 

 あるケテルは、そんな自分を諦めて腐り、後進たちの試練として自らを定め、老害と化した。

 あるケテルは、自らの犯した罪悪と絶望に溺れ、虚無の停滞の中に座り込み、終わることを選んだ。

 あるケテルは、心の解放の形を歪んで捉え、Xに反復を断ち切らせた上で、人々をねじれの更なる先へと誘おうとした。

 

 

 

 ……いや、まあ。

 

 俺はアインたち程頭が良くないので、正直この辺の理屈はよくわかってない。

 推論とかメタ知識とか、色々込々の考察なんだけどね。

 

 なんなら、なんでコイツらにTT2が効いてないのかもよくわからん。

 マジカル☆アイン☆E.G.Oパワーかな?

 

 

 

 で、だ。

 この歪んだXたちをXの心に叩き戻すには、別に武力や痛みを伴う必要もない。

 

 要は、何とかして心ぶち折ればいいんだもん。

 超簡単じゃん! 任せてほしい、俺性格最悪なんで、人の心の痛いトコ突くの超得意なんですわ。

 

『知ってる~! J社の巣でのことは多分、私の自我が擦り切れるまで忘れられないわね!』

『そうなのですか? 私が知る主は、いつも人の心を支えていましたが……心を知るが故に、それを乱すことも得意、ということでしょうか』

『主ちゃんが人をチクチクするところ、あんまり想像できないなぁ』

『ふっふっふ、そういう時のコナーすごいわよ~?

 すっごく鬼畜! って感じで、今思い出しても……っ♡♡♡』

 

 おい、変な風評広げるのやめーや。

 いやまあ、性格悪いことは事実なんだけどね。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 チン、という音が響いた。

 

 ダァトフロアから出発したエレベーターが、階下……設計チームのメインフロアへと辿り着いた音だ。

 

 お喋りはここまでだな。行こう。

 

 

 

 ゆっくりと開かれた、白の扉の先。

 そこには、きっと彼の居場所だったんだろう、古い研究室が再現されている。

 

 そして、そこに杖を突いて立つ、初老の男性が一人。

 

「……ああ、来てくれたか、コナー。

 どうやら、このような私でも、君による裁定を受けるだけの価値はあったらしい」

 

 ケテルの一人……に、なるはずの男。

 

 アベルが、そこにはいた。

 

 

 

 つい先程までは、あの頃のアインと殆ど変わらない見た目だったXだが……。

 ある種の悟りを開いたことで存在が分化し、その精神に相応しい年齢になった感じだろうか。

 

 アベルは、ぱっと見40から50代に見える、酸いも甘いも嚙み分けたような老紳士。

 かつての彼に比べて、その顔には皺や髭と共に余裕と愛嬌が増え、右手には杖を突いている。

 

 ……妙に似合うせいで、思わず苦笑が漏れちゃうね。

 

 

 

「やあ管理人X! 僕はダァトだ!

 いや、今はもう、アベルって呼ぶべきか。ジェントルマン風、素敵だね♡」

 

 そう声をかけてみれば、彼は喜びと、それから驚愕に表情を歪めた。

 

「ああ、本当に……久しぶりだな、コナー。

 しかし、相変わらず、君には驚かされるな。そこまで見えていたのか。

 であれば……この先、甲斐なく全てが決することも、理解しているのかな?」

「それが白い夜と黒い昼のことなら。他の要因ならちょっとわからん」

「…………そう、か。無為に潰えると分かって尚、君は、ここまで……。

 本当に、すまない」

 

 アベルは深く、深く、頭を下げる。

 

 Xであった存在として、そしてかつてアインであった者として。

 こんな煉獄に俺を巻き込んだことを謝ってくれているらしい。

 

 お~……ちゃんと謝れるとか偉いじゃん!

 どうやら見た目通り、大人になれたらしい。

 

 ま、どっちかっていったら謝罪より感謝の方が嬉しいんだけどな!

 

 

 

 続けて、彼は頭を上げ、小さく笑った。

 

「……このようになってようやく、君が頻繁に口にしていたこれらを伝えることが、どれだけ大切な事だったかを理解できたよ」

「おうおう、それは重畳。お前は言葉足らずだったから、感謝や謝罪は積極的に口にした方がいいだろう。

 願わくば、毎反復の管理人にもそうなってほしいがね」

「饒舌な管理人も、これまでにはいたのではないかね?」

 

 どことなく探るような言葉を聞いて、俺の脳裏に……というか、夜空剣を通してカルメンから送り込まれて、記憶が蘇って来た。

 

「あー、うん、いたいた。ギャップで笑いそうになったわ。

 てか爆笑したよねアレは。お笑い芸人レベルで喋り倒すアイン見て笑わんとか無理でしょwww」

『あれは面白かったわね~! アインには悪いけど!』

 

 確か2,000周くらい前のことだったか。

 あの反復、俺と脳内カルメンは、ほぼ常に爆笑してたもん。

 俺が笑い死にで再起動しそうになって、アンジェラがすんごい焦ってたのが懐かしい。

 

 

 

「…………そうか。どうやら君は、私の想定を越えて、長く苦しい旅を歩んで来たと見える。

 全く、お恥ずかしい限りだよ。あれだけの時間をかけて書いた台本も、君の前では形無しだな」

 

 あ、やべ、記憶の同期のことバラしちゃった。

 ……まあいいか、どうせすぐに忘れてもらうし。

 

「まあ確かに、お前程お恥ずかしい奴は都市を探してもそうはいないが……。

 悟りを得るためとはいえ、ちょっとばかりひっどい煉獄作り過ぎな? カルメンも草葉の陰で泣いてますよ」

『しくしく……』

「……ああ、至極道理だ。本当にな」

 

 老成したアベルにとっては、あるいは若気の至り的な感覚なんだろうか。

 少し懐かしむように、彼は顎に手をやり……。

 

 改めて、こちらに目線を投げて来た。

 

 

 

「さて……それで、私はどうかね、ダァト。

 私の悟りは、君の目からして、『正しい』もの足り得るのか」

「分かってるだろ、お前がその姿になったことからして。

 それなのに、わざわざ言葉にしてほしいのか?」

 

 自分で間違ってると思ったのなら、正せばいい。

 そう思っての言葉だったが……アベルは緩やかに、首を横に振る。

 

「……すまないとは思う。だがね、これは必要な工程なのだよ。

 私は、我々は、既に『正しさ』を見失ったのだから。あの日、研究所から君を喪ったその日に」

 

 

 

 そうして、どこか遠い目で、遠い過去を懐かしむように、彼は語り出した。

 

 俺の知らない空隙を。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「あの日。私が君と調律者の遺体を発見し、保管した後。

 彼女は、君を取り戻そうとした。研究所の皆もほぼ全員が賛同して、私たちは動き出した」

 

 そこはカルメンに聞いたことがある。

 彼女たちは、あろうことか俺の蘇生を試みていた。

 あの人の体は、その時に使われる予定だったらしい。

 

 ……しかし、それは成し遂げられはしなかった。

 

 その理由は……。

 

 再度、頭に襲撃され、研究所が半壊したから。

 

 

 

「頭はそんな私たちを赦すことはなかった。

 君の体が完成した、そのすぐ後だったか。

 研究所は、調律者3人と爪4人による、苛烈な襲撃を受けた」

 

 いやごめん戦力は初耳だわ。

 調律者3と爪4とか、いくら何でも本気すぎるだろ頭。

 明らかに過剰だろ、誰が勝てんねんそれに。

 

「カーリーと正義の騎士の尽力により、敵勢力自体は退けられたが、彼女たちはその身を犠牲にせざるを得なかったし……。

 研究所の基盤を落とされたことで、施設は完全に崩壊した」

 

 相打ちに持ち込んでるわ、俺の相棒と俺の騎士。

 いくらなんでも強すぎるだろ、俺の相棒と俺の騎士。

 

 

 

「その崩壊に巻き込まれ、私たちはガブリエルと、アブノーマリティを喪った。

 ……そして、カルメンまでも。

 調律者たちは、真っ先に彼女を狙った。私たちが彼女を避難させようとした時には、既にその下半身はなくなり、脳死寸前だった。

 ただ……新たに君のものになるはずだった体だけを、大切そうに抱き締めて」

 

 ……そうか。

 

 頭はどこかから、カルメンが研究所の中枢だということを探り当てたんだろう。

 前回力技で攻め入ろうとした結果、俺とカーリーに真正面からぐちゃぐちゃにされたことを反省し、ちゃんと中枢を狙い撃ちしてきたわけだ。

 

『いや~、あの時はビックリしたわね!

 やっとのことでコナーの体を完成させたからシャンパンでも開けようと思ってたら、いきなり下半身が吹っ飛んじゃったんだもの!

 咄嗟にコナーの体を庇えたのは良かったけど、めちゃくちゃ痛かったわ!』

 

 めちゃくちゃ痛かった(致命傷)

 

 マジかコイツ。調律者の猛威に襲われて、出る感想がそれかよ。

 あと、また作り直せる体じゃなくて、まずは自分の身を優先してもろて。

 

『それができないくらいギリギリだったのよ、当時は、色々と。

 ……ま! こうしてコナーと話せるようになった今となっては、笑い話ね!』

 

 いや笑えねえよ。

 お前が傷付いたって話で笑える気は毛頭しない。

 

 俺を笑わせたいなら、まずは幸せにしてろ。

 

『っ……もうっ、コナーったらそういうところズルいわよね♡♡♡』

 

 

 

 ……てか、調律者3人と爪4人をぶち殺してるの、改めて考えてもおかしくない?

 

 俺調律者単騎でも普通に死にかけましたけど???

 

 え、化け物かな? 化け物だね??

 

『申し訳ありません、主よ……。

 本来は、主以外の者に剣を預けるつもりはなかったのですが……あの時は、主の守ったものを少しでも多く救おうと、彼女と肩を並べてしまい……』

 

 いや、そこはいいんだけど。

 むしろ俺は、俺の愛したものを守ろうとしてくれたお前を誇りに思うけど。

 

 そうじゃなくてさ、単純に戦力の話でさ。

 

 ……そっかぁ。

 騎士の加護と協力付き、かつE.G.O二刀流の全盛期の赤い霧って、そんな戦力相手に真正面からぶつかれるのかぁ。

 

 マジで俺いらんなこれ!!

 

 やっぱり加護はカーリーに付けた方が良かったか?

 でも加護なかったら、俺それまでの間に何回か死んでたんだよなあ。

 

 ま、結局はこちらを立てればあちらが立たずか。

 イフの話ばっかしててもしょうがないし、そろそろ本題に戻ろう。

 

 

 

 脳内で情報を整理しつつ、改めてアベルに問いかける。

 1個気になったことがあったんだよね。

 

「ガリオンかエコンの脳は? 知識吸わなかったのか? それ使えば安全な研究場所の確保もできたろ」

「調律者エコンはカーリーが霧にしてしまったから情報を絞ることは能わなかったが、ガリオンの脳に関してはそうしたさ。

 ……しかし、場所を移すだけの時間も資材も足りなかった。

 君の蘇生にリソースを割いたため、対応が遅れ、間に合わなかったのだ」

 

 ズコーッ!!

 ヤバい、余りに脱力し過ぎてマジでずっこけそうになった。

 

「アホか! いやアホだろマジで!!

 どう考えたって俺の蘇生なんかより先に安全確保だろ! テメェ様はなんでそれを指摘しなかったじゃ!!」

「……道理だ。いや、全くね。

 そして、そんな道理を弁えられなくなる程に、あの日の私たちは正気を失っていたのだろう」

 

 

 

 えぇ……お前アイン、いつでも冷静なのがお前の長所じゃんよ。

 別にカルメンがリスカ自殺したって訳でもねえのに、なんでその時点で狂気堕ちしてんのよ。

 

 ……俺か。

 まあ俺のせいですね、ハイ。

 そもそも俺が死ななきゃ全部解決でしたよね。足引っ張っちゃってましたよね。

 

 いやごめんてぇ;;

 流石に調律者戦で疲れ切っちゃったって言うかぁ……。

 心臓ぶち抜かれちゃってぇ、全然動けなくなっちゃってぇ;;

 

『それを言うなら、主を守り切れなった私が……!』

『そんなこと言うなら、あの時主くんの敵だった私も!』

『はーいやめやめ、これ以上は不毛よ。私だって戦力にならなかったしね。

 過ぎちゃったことは変えられないし、これからどう名誉挽回するかを考えましょう!』

 

 

 

「あの襲撃を生き残ったのは、私とベンジャミン、ダニエル、ミシェルだけ。

 それでもなおと、私とベンジャミンは、全てを取り戻そうとしたが……既に明かりの絶えた道は、共に歩むにはあまりに暗すぎたのだろうな。

 ミシェルは悲劇を前に心を壊し、ダニエルは私とは道を違え……ベンジャミンもまた、私のためを思い、去って。

 そして今や皆が、死の淵に微睡み、この煉獄の底に封じ込められている」

 

 カルメンはあまりその頃について語ろうとしなかったし、知っていたのはあくまで生前のことだけ。

 騎士はここに再抽出されるまで、俺以外の個人への認識が甘く、事態を正確に把握できていなかった。

 

 だから、その後の事情はほぼ完全に初耳だったんだが……。

 そうかぁ……セフィラになったんだから当然ではあるんだけど、みんな、死んだんだよなぁ。

 

 ダニエルやミシェルなんかは、どうしてそうなってしまったのか。

 気になるような、怖いような、複雑な心地だね。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 アベルは、遠くに向けていた視線を、俺に向け直した。

 

「君を喪ってから、私たちは正しい道を見失い続けた。

 あの日、君に残したメッセージにもある通り、もはや私には何が正しいのかわからないのだよ。

 だからこそ、君にこの役目を押し付けてしまった。

 煉獄を築いた罪人として、あるいは役目を遂げる遂行者として、君に正しく裁いてもらうために」

 

 ……何とも、ご大層なことで。

 俺なんかにその役割を任せていいんすかねホントに。

 

 

 

 俺には、自分が必ずしも正しいなんて思えない。

 ていうか間違ってばっかだ。

 L旧研時代だって、ミスって何度も死にかけたし、何より……。

 

「俺は、研究所の情報、頭に流したんだぞ。

 その上、油断して『何もない』に殺されて、お前たちが暗がりに転げ落ちるきっかけを作った。

 そんな俺に、お前を裁けって言うのかよ」

 

 我ながら卑屈な言葉に、アベルは大きく頷いて見せた。

 

「ああ、言うとも。

 私たちは……いいや、私は。

 それでもなお、君こそが一番正しいと、友として信じているのだから」

 

 買いかぶりすぎやろコイツ。いつもの冷静な判断どこ行った?

 

『私も信じてるわよ!』

『当然、私も』

『私も~!』

 

 プレミして破滅の原因作った奴に対してこの評価 is 何?

 狂ってんのみんな? 俺ってキュートちゃんみたいな洗脳作用とかあるんか???

 

 

 

 ……はあ、もう、まったく。

 まあいいよ、最初から背負う気ではあったから。

 

 期待されれば応えるのが、俺の主義なんでね!

 

「ほな、やりますわ」

 

 答えは最初から決まってるので、迷うことはなかった。

 

 左腕に力を込めて、ずんずんと歩み寄る。

 

 アベルは、引き下がることも、身構えることもなく、むしろ待ちかねたように口端に笑みを浮かべ……。

 

 

 

 

 

「すべきこともせずに合格なわけあるかい!!」

 

「失☆格!!

 3級フィクサーパァンチ!!」

 

 

 

 俺の左腕にストレートでぶん殴られて、3メートルくらい吹っ飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 武力による説得なんて、交渉術としては下策も下策。

 文明人としては取るべきでない一手だ。

 

 いつかそれを、コイツに……コイツの元になった男に、責められたこともあった。

 俺は何も言い返さなかった。その言葉はどうしようもなく正しかったから。

 

 

 

 ……けれど。

 

「ああ、そうだ……やはり、君が、お前こそが……」

 

 倒れ伏したアベルは、今、満足げに笑っていた。

 

 

 

 言葉は時に力を持たず、ただ1つの力が、100の言葉すら超えることもある。

 

 俺の拳は、どれほど温かな言葉よりも、どれほど冷酷な言葉よりも、正しくコイツに伝えた。

 

 馬鹿な友だちを叱り飛ばし、そして叱咤する、俺の心を。

 

 

 

「……お前こそが、俺の、ただ一人の友だちだった。

 

 俺に、俺たちに、必要な導きの片割れだったんだ」

 

 

 

 まるで水の中に溶けていくように、アベルの輪郭が溶け、歪み……。

 

 ……数秒後。

 

 そこには、元の姿に戻った、アイン……。

 いいや、管理人Xのみが倒れ伏していた。

 

 

 

 俺はその傍に歩み寄り。

 少し荒れてしまったその前髪を、軽く正してやった。

 

「まったく……酷く、身に余る評価を受けちまったもんだ。

 それじゃあまた、次の周回でな、アイン。

 

 ……応援してるからな、頑張れよ」

 

 

 

 

 

 

 

〈! 光の種シナリオ オーバー !〉

 

〈! 光の種シナリオ オーバー !〉

 

〈! 光の種シナリオ オーバー !〉

 

 

 

〈! 裁定:未達 !〉

 

〈! エネルギー:不足 !〉

 

 

 

〈! 光の種シナリオ 再起動 !〉

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ……これは、だいぶ先の話になるけど。

 

 俺はこれから計2回程、同じように変な悟りを宿したAをぶん殴ることになる。

 

 

 

 やさぐれ絶望希死念慮おじさんことアブラムは、数発ぶん殴ることでそのひん曲がった根性を解消できたけど……。

 

 アブノマこそ新人類とか言い出す厨二病セカイ系ナードことアダムは、「私こそが正しいんだ!!」とか宣って当たり前のように抵抗してきた。

 

 設計チームの構造を自在に操って壁とか床とかを突き刺そうとしてきたり、アブノマを解き放って攻撃させてくるクソ馬鹿アダムの鎮圧は、コア抑制レベルで大変だったが……。

 

 最終的には、元魔法少女とゲブラーの協力でなんとかなったのでヨシ!

 

 馬鹿がよ! 厨二心はあの日に書いたノートの中で永遠に眠ってろ!!!

 

 

 







(追記)

 細かいことですが、過去のお話の描写を一部変更しております。
 具体的に言えば、カルメンの作っている総集編動画のpart数が変わっております。
 めちゃくちゃどうでもいいと思いますが、こっそり変更するのも不義理な気がするのでご報告です。



(Limbus近況報告)

 最近近況報告多くて、うるさくしてごめんなさい。

 今回は8章終わったので感想です。ネタバレ注意!



 アランとハナフダ!
 シィレン……。
 パラソルwww
 ガリオン!?!?!?!?
 ダイユ……。
 ンル~~~;;
 チォウ~~~;;
 ズールゥ~~~;;
 レイホン!?
 ダンテ!?!?!?
 老人!!!!!!
 ファン……。
 クボ。
 ンル×チュン!!
 シーチュン~~~;;
 シィレン……!
 凧~~~;;

 という感じでした!
 今回も本当に面白かった!
 ンルのことすっごい好きになれたし、今後イサンと翼/心取り戻し同盟組んでほしいし、シーチュンは永遠にイジられてほしい。翼の代表の姿か、これが?

 いやしかし、今回情報量が多い本当に!!
 「H社と言えばガリオンティーテーブルだな~」とか思ってたら10年前のテーブルがまだ残ってて爆笑したし、ガリオンご本人出てきてひっくり返ったし。
 親指と小指を兼ねるとかいうとんでもなく色濃い奴出て来たし、めちゃくちゃ強いし、ダンテがヤバすぎるし。
 チョウはンルに余りにも脳を焼かれ切ってるし。
 それに、5望……5望? E.G.O覚醒前の頃のヴェル、確か2望でも程々に消耗してたんですけど、それを5望……? チョウさんこれひょっとして特色レベル??

 あと、囚人たちがどんどん仲良くなっていってて、身体的にも技術的にも成長してて、カリジャナリはもう感無量です。
 ウーやパウともちゃんとした信頼を築けてきてる感があって、本当に泣きそう。

 ンルのE.G.O演出が本当に良かったり、相変わらずmili曲が良かったり、演出面もどんどんグレードアップしていって底が見えない……!
 9章はしばらく塩漬けにする予定ではありますが、楽しみですね!

 ↑これを書いた3時間後、君主ホンルのエピ読みました。
 うおぉ……(悶絶)



 鏡EXTREMEで遊んでたらnなんかカリストさんが乱入してきました。
 相変わらず鏡はネタバレが激しいなぁ!! 結構強くて楽しいですね!

 あと刀良秀、専用ギフト取ったらフル制約15層でも普通に非常に有利でワロタ。
 なんならコイン裏出ても素の値でマッチ勝っててワロタ。
 なんだコイツ……(畏怖)。
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