ターニングポイント、その4。
「あ~美味い! おかわりくれ!」
「はいはい、よそうからねー。大盛り?」
「超・大盛りで!」
「駄目で~す。今回は大盛りまでとなっておりま~す。これ以上は体重に響いちゃうし、満腹になったら食事の幸福感は薄れちゃうぞ☆」
「くっ! ……大盛りで!」
「はいは~い。他の皆は?」
「私は十分です。本日もご相伴に預からせていただいたこと、感謝致します」
「騎士ちゃん堅ぁ~い! 私もおかわりっ! 普通盛りで!」
「オーケーオーケー、ちょい待ち。……ほいよ! これ食べて今日も頑張ってくれよな!
騎士も遠慮はしなくていいからな。いっぱい食べてくれた方が嬉しいぜ」
「そ、それでは、その、もう一杯だけ……」
『私もお代わり~! 私の愛する3級フィクサー一丁!』
黙りな~?
何かと騒がしい元魔法少女組から視線を外し、今度は静かにカップを傾けていた彼女に話を振る。
「エラはどう? お代わりいる?」
「そうね。それじゃあ、コーヒーをもらえる?
今日の、美味しかったわ。いつも美味しいけど……なんだかいつもと、少し風味が違った気がするわね?」
「お、わかる? 実はちょっと時間があったから、気合入れてブレンドしてみたんだ。
嬉しいなぁ、違いが分かるくらいに、味、覚えてくれたんだ」
「あなたが毎日淹れてくれるからね」
アンジェラは神秘的な琥珀の瞳に穏やかな感情を乗せ、カップを差し出してくる。
俺はポットからとぽとぽとコーヒーを注ぎ、笑顔と共に差し出した。
彼女は湯気立つそれを手に、まずはゆっくりと嗅いで香りを楽しみ、一口含んで舌の上で転がし、最後に喉に流し込んで……ふぅと、満足気にため息を吐く。
俺がダニエルとの付き合いの中でコーヒーの魅力に堕ちたように、俺と長い時間を共にしてきたアンジェラも、すっかりコーヒー党に染まっている。
なんなら楽しみ方も、味の違いも、全部俺が教えたからね。
きゃっ♡ アンジェラのこと染めちゃった♡
「……美味しい。本当に、ほっとする味と香り」
「それは何よりで」
静かに呟くアンジェラに、俺は肩の荷を下ろす思いだ。
原作では味覚も持たず、こうした飲食を楽しむことすらできなかったアンジェラ。
そんな君が、穏やかで優しい笑顔を浮かべているってことは……。
ちょっとした心の支えにくらいは、なれているだろうか。
* * *
さて、現在、俺たちが何をしているかと言えば……。
まあお察しも付くと思うが、みんなで朝食を摂っているところだ。
参加メンバーは、俺、アンジェラ、騎士、女王、王。
要は反復記憶勢である。
あとついでに、脳内のカルメンも、定期的に茶々を入れて存在をアピールしてくる。
『最近のカルメンちゃん、体がないからかアピールが必死じゃない?』
『むしろアピール過剰なのはそっちでしょうに!
あの反復でコナーが騎士ちゃんのこと好きって言っちゃってから、元魔法少女組のアピールがすごすぎるのよ!!』
まぁ……そこは、うん。
騎士からは以前よりもすごい色気を感じるようになったし、管理作業の時はお願いされて、指を絡めて話してたりする。
女王は前にも増して飛びついてきたり、引っ付いて体を押し当ててきたりするし……。
王に至っては、直球で喰おうとしてくる。欲求に素直なところは変わってないなぁ!
……あと、まあ。
この子たちのアピールが目立ってきた理由は、もう1つ心当たりがあった。
アンジェラからのお願いで、しばらく前の反復から、彼女といる間は人の体を使うようにしたんだわ。
で、こっちの体にはカルメンとかいうアホが生殖能力を組み込んでおり……。
それを知る騎士たちからの目が一層鋭くなってる気がする。
最近は冗談抜きで喰われそうで、身の危険すら感じている。
皆と心を交わし、確かな繋がりがあるはずなのに、逆に針のむしろだ。
なんで俺は味方のはずの子たちに追い詰められているんだろう。
『むしろ半端に心を交わしておきながら、釣った魚に餌をあげない主くんサイドに問題があるよね?』
めっちゃ仲良くしてるじゃん;;
これ以上どうしろっていうんだよ!
『普通に抱けばいいんじゃないのか? 私は……いつでも歓迎するが♡』
こっちは欲望に素直すぎる;;
社会人にはねえ! 建前とか義理とか社会常識とかコンプラとか、色々あるんですぅ!!
『主は、その、そういった規範に囚われる必要はないのでは……?
既にこの場所も、主の存在も、都市という世界の常識の範疇ではなくなっていると思われます。
一般的な規範が意味を成すかと言うと……その』
反論し辛いのはやめてぇ~><
俺の倫理観的にそういうのは受け入れ難いんじゃい!
身持ちは固いの!! 俺は!!
『ふふっ♡♡♡』
マジで黙ってくれ。頼むから今は本当に。
……いや違う、その話は一旦置いておこう。
朝から考えるような話題じゃないわ。
今は、この朝食会についてに話を戻そう。
しばらく前の反復から始まったこれは、毎朝の定例行事。
俺が朝食を作って、アンジェラや元魔法少女組に振舞う時間だった。
今では毎朝毎夜、俺が彼女たちに料理を振舞うのが通例になっているのだが……。
こんなことをするようになった発端は、少し前には発生した一つの問題。
騎士だけが一緒にいられる時間が少ないのは不平等じゃね? 問題だった。
女王と王は、俺の担当する処理チームに加わり、俺と共に業務をこなすことになった。
色んなチームの職員たちに接触したり、雑用を買って出たり、アブノマ鎮圧したりなどなど、毎日頑張ってくれている。
勿論、その中で俺と協調して動くことも多かった。
それに対し、騎士はあくまでも収容室にいて、新人職員たちの勇気/正義道場をやってくれている。
俺が呼べば秒で駆けつけてくれるが、逆に言えば、俺が呼ばない限り直に会うことは多くない。
精々、1日2回の愛着作業と、魔法少女族とコミュる時くらいだ。
最も長く俺に付き添ってくれた彼女への仕打ちとして、これはあんまりじゃないかということで。
俺は一つの策を講じた。
それが、お弁当である。
せめて少しでも、彼女のために何かできないかと考えた結果……。
朝から厨房でちゃちゃっとお弁当を作り、美味いコーヒーを淹れて、朝の作業の時に彼女に届けることにしたのだ。
これ自体は、騎士からかなり、というか驚く程に好評だった。
なんなら、ポジティブエンケファリンの精製効率がどちゃくそ上がった結果、アンジェラに怪訝そうな顔で問い詰められたりもしたんだが……。
そうこうしていると、今度は王と女王から不満が爆発した。
『ずるいずるいずるーい!! 愛妻弁当だ!! 騎士ちゃんによる愛妻弁当の独占を許すなー!!』だの。
『いくら付き合いの長い騎士だからって、ちょっとやりすぎだ。差別は不幸と不満を呼ぶぞ』だの。
割と本気で怒られてしまった。
そんなに……?
ちゃんと時間かけて作ったとはいえ、ただの弁当だぞ。
そりゃまあ、アンジェラのためにご飯を作ってる内に、料理にそこそこ拘りも出て来たし、栄養とか美味しさとか彩りとか色々整えてはいるけど。
なんなら、都市でもトップクラスに美味しいお弁当な自信もあるけど。
ていうかしれっと俺を妻扱いすんのやめなさい。
交際も結婚もしてないし、何より俺は男やぞ。
そこそこ紛糾したこの話題だったが、色々あって、弁当は取りやめることとなり。
もっと直截に、騎士も呼んでの朝食会という形で落ち着いた。
俺の井戸と繋がったアブノマはクリフォト抑止力がかなり効きにくくなるので、他のアブノマがすやすや眠ってる業務時間前にも活動できる。
それを利用した、一種のレクリエーションみたいなものだ。
日々の感謝を少しでも還元するための、せせこましい努力とも言う。
で、せっかくなら、毎朝コーヒーを淹れたりしてるアンジェラも呼ぼうということになり……。
朝ご飯を食べるなら夜ご飯も食べたいよね、って話になって。
最終的に、朝と夜の食事会という形に落ち着いた、というわけだ。
今や一家団欒じみた空気まで出てきて、騎士や女王、王と距離を置きがちだったアンジェラも、段々と馴染んで来つつある。
疑似的にとはいえ、彼女に家族ができるのは、きっと良いことのはずだ。
『……ねえねえコナー、体がないから飲食できない私、一番の負け組じゃない?』
どんまい^^
『私も食べたいっ!! コナーの愛妻料理っっ!!!
絶対、絶対、ぜーっっったい!! その内新しい体を手に入れて、コナーの料理食べてやるんだからっ!!!』
やれるもんならね~^^
がんばえ~カルメ~ン^^
精神体になったお前に何ができんねんwww とは思うけど^^
『むき~~~ッ!!!』
* * *
「しかし、主ちゃんが飯まで作れるとはなぁ。しかもめちゃくちゃ美味い。嬉しい誤算だ」
「でしょ~! 主くんの料理、元々上手だったけど、どんどん上手くなるんだよね~!」
「そういえば、主の料理の腕前が程々だった頃を知っているのは、私とアンジェラだけですか」
「そうね……元からコーヒーだけはとても上手に淹れてくれたけれど」
王は、皆と笑いあっている。
うん、もうすっかり仲間の一人って感じだな。
貪欲の王改め、幸福の王。
煽情的で動きやすいドレスから、華美ではあれど少し落ち着いたものに衣変えした彼女は、ちょっと前の反復で俺たちの仲間になってくれたわけだが……。
幸いなことに、持ち前の積極性や面倒見の良さもあり、すぐにここに馴染んでくれた。
旧い友だちたる騎士や女王は勿論、度量の広さと豪気な振る舞いで、毎周の職員たちとも折り合い良く働いてくれている。
その上、戦力としても十二分。
彼女は騎士すら遥かに超える転移魔法のエキスパートであり、魔力的なものの消費がかなり少ないらしく、最近は転移役は彼女が負ってくれている。
その分手の空いた騎士は、剣を飛ばして敵を攻撃したり攻撃を弾き、俺や職員のサポートに集中してくれている。
これまではちょっと無理をさせてたけど、ついに騎士の本分に戻って来たわけだ。
……例の「ラブリースレイブ☆ジャスティスロード」を聞けなくなったことは少しだけ寂しいけど、仕方ないね。
照れる騎士、かわいかったんだけどなぁ。
そういった仲間とのコンビネーションも勿論だけど……。
俺自身の身で確かめた通り、王は単体戦力としてもバチクソ頼れる。
彼女の剛腕は凄まじい威力を持ってる上に、非常に素早く小回りが利く。
チャージが必要な女王や、対単体に長けた騎士と違い、集団を素早く薙ぎ払うのに長けている印象だ。
特に強いのが、対琥珀の黎明とか赤の黎明だね。
職員を廊下から退避させれば、あとは彼女の独擅場。
彼女のおかげで、クソカスピエロによる事故率は大幅に低下した。
と、既にめちゃくちゃ有能極まる彼女だが。
何より有難いところは……。
「アンジェラ、昔の主ちゃんってどんな感じだったんだ? 興味あるな」
こう見えて、かなり周りに気を遣ってくれるタイプなところかもしれない。
騎士はあくまで騎士なので、分が過ぎないようにと自重し、前に出ることが少なく。
女王は天真爛漫なので、誰かを気にするというより、明るく引っ張って行くタイプ。
彼女たちに比べると、元々魔法少女のリーダー的存在でもあったらしい王は、周囲に気を遣うだけの視野の広さと積極性を持っている。
そして、そんな彼女が一番気にかけてくれてるのが、アンジェラだ。
彼女が未だ幼いながら、機械と人の狭間で心を揺らし、親にまともに認知されることもなく、この煉獄の中で他者への抑圧を強制されていると知り──改めてエグいなほんとに──、王は彼女と積極的にコミュニケーションを取ってくれている。
そしてアンジェラもアンジェラで、そんな幸福の王に対して、どうしていいかわからずあたふたしたりしつつも、満更でもなさそうな様子だった。
実際今も、アンジェラはちびちびと口にしていたコーヒーから口を離し、遥か昔を思い出すように遠い目をして答えた。
「コナーは……いつも、変わらないわ。
ずっとふざけているようで、いざという時には真剣で、目を逸らさずにこっちを見てくれる人」
「あー……なるほど、言いたいことはよくわかるよ。主ちゃん、そういうとこズルいよなぁ。
しかし、なんだ。やっぱりアンジェラもこっち側か」
「こっち側?」
「言うならば、主ちゃん被害者の会? まったく、すごい奴に捕まっちまったよ。
……ま、後悔なんて欠片もないけどな」
「被害者? いえ、私は、コナーにたくさんのものをもらってばかりで……」
「ああうん、大丈夫大丈夫。今ので全部わかったわ。
まったく、罪な男だよなぁ、私たちの主ちゃんは」
王はアンジェラの肩を抱き、どこか同情的な表情でちらちらこっちを見て来る。
……なんだろうね、どことなく名誉の棄損を受けている気がするのは。
『自業自得よね? 女の子引っかけすぎ罪よ?』
そっか! 全部俺のせいなんだ!!
ちょこっっと手を差し伸べただけで全部俺が悪いんだ!!
勝手に好きになって俺のせいにして、俺なんかどんどん君たちのこと好きになっちゃえばいいんだ!! そう言いたいんだ!!
あぁー「好き」!! 「好き」「好き」「好き」お前ら「好き」!!!
『いや本当にそういうところよ。好きって軽く言わない方がいいわよコナー。
誰にでも優しくばかりしてないで、時には優しい嘘も吐かないと、本当に刺されるわよ?』
軽くは言ってねえよ本当に好きなんだから仕方ねえだろ!
あとてめぇ言動一致させろ!!
心に素直になれって言ってんのはてめぇだろうがよ、ダブスタクソリプおばさんがよ!!!
『おばさん!? おばさんって歳じゃないわよ私!
あ、でもお母さんなら呼んでもいいわ、子供の名前は何にする?♡』
まずは子を成せる体を得てから言ってくださ~い^^ 話はそこからで~す^^
『言ったわね!! ちゃんと体を作ったら責任取ってもらうからね!!』
……やべ、もしかして今、致命的な軽口言っちゃったか?
『ちなみに私たちはもう体があるわけだが』
『あるわけだけど?』
『あ、ある、わけ……ですが!』
…………。
あかん。王のスタンスに影響されてか、最近2人も攻勢がヤバい。
正直受け止め切れなくなりつつある。
『いや、私の影響とかじゃなくて、カルメンも言ってた通り、あの日の主ちゃんの発言のせいだと思うぞ?
私たちにとってお前は最高の理解者で、救世主で、大恩人で、心を繋げ合う唯一の異性だぞ? そんな奴に好きって言われちゃ、なあ?』
んんんっ……いや、それは流石に言いすぎっていうか、なんていうか。
そりゃあ君たちの良き隣人でありたいとは思うし、精神が繋がってるのはそうなんだけども。
『あとはまあ……これは主ちゃんにはちょっと分かり辛いかもしれないが。
私たちアブノーマリティって、局所的な感情の表象? って奴なんだろ?
つまりは、私で言えば「貪欲」が私の中核、芯だったんだ。
でも……それを全部、主ちゃんの色に、染めつくされちゃったんだ……♡♡
自分そのものが、相手に与えられた幸せで染まっていく衝撃、すごいんだぞ?
ハハっ、「恋に落ちる」なんて言葉じゃちょっと収まらないくらいだ!』
え? そ、そういうもんなの!?
咄嗟に騎士や女王を見れば、しれっと顔を背けられる。
……ちょっと頬が赤い! 恥ずかしくてその辺黙ってたのかこの子ら!!
『もう私たちにとって、主ちゃんは世界の半分みたいなもんだ。
そんな奴に「ライクでもラブでも好き」とか言ったら、もう終わりだろ、色々』
……………………うん。
だって仕方ねーじゃん、本当に好きなんだから!!
どんだけ誤魔化したって、ふとした瞬間に本心覗かれるんだから誤魔化しようがねーよ詰んでるよこれ!!
てかさ、むしろさ!!
こーんな美人&美少女軍団がさ!!
俺のことを主だなんだって呼んできてさ!!
めちゃくちゃ好きとか愛してるって言ってくれてさ!!
俺のために命懸けで一緒に戦ってくれてさ!!
こんな状況で好きにならない方がちょっとおかしいって!!!
俺って精神的には旺盛な20代半ばなんすよ!?
いやL社での時間も加算すればもう30代なのかなぁ、おじさんっぽくてちょっと嫌だな! やっぱカルメンの死んだら歳ノーカン法使おうかなぁ!!
『いや本当にね。すごい美人が友だちとか仲間とか言ってくれて、君のこういうところが素敵とかすごいとか言ってくれて、いざという時に命懸けで戦ったり止めてくれたりして、好きにならない方がおかしいのよね。
というわけでコナー!
おいカルメン! てめぇはいいのか!?
俺はお前の……何? なんかこう、いつもそういうこと匂わせて来る関係だろ!? いいのかこの状況!?
『え? 別にいいわよ?』
は!? オイ何裏切っとんねん!
さんざっぱら羨ましいとか脳が破壊されるとか言っとったやんけお前ェ!?
『いや、そりゃあ嫉妬はするわよ? まだ体がないから触れ合う機会がないし、羨ましいもの。
でも、コナーはその子たちが好きなんでしょう? で、その子たちもコナーが好き。うん、素敵なことじゃない!
人もアブノーマリティも、自分の心を抑圧すべきじゃないわ!
生前の私みたいに、ちょっとだけ周りのことも見ながら、その時やりたいことを全力でやる。これがきっとベストね!
みんな、自分の好きって感情を表に出していいのよ! あの日の私みたいに!』
…………あークソ、最近大人しかったから忘れてた!
そういえばコイツ、思想とか宗教観がアレなタイプだったァ!!
『あと……コナーは最後には、私の横に来てくれるって信じてるから♡』
っ…………ノーコメントォ!!!
「……なるほどなぁ。最大の難関だと思っていたが、話せば分かるタイプだったか。
それならもう、この欲求を抑え込む必要はないな!」
「主くんっ♡ もう、私たちの愛を止めるものなんてないよねっ!♡」
「あ、主よ……その……ぅ…………い、今一時、剣を置き女へ戻る、はしたない私をお赦しください!」
「待て待て待て待て待て教育に悪い」
穏やかな朝餉の空気は、カルメンの発言によって一変。
突如として、好意と情欲の吹き荒れる、爛れたマッポーの世と化してしまった。
明らかに(俺の尊厳にとって)よからぬことをたくらむ元魔法少女組は、一斉に食卓から立ち上がる。
一人は幸福そうに笑みを浮かべ、一人は愛を証明せんとその指をわきわきさせ、一人は大いなる苦悩の中で正義を棚に上げることを決心して。
そうして、ジリジリと俺に迫って来た。
いよいよマズいなこれは!!!
あのごめん、タイム! ちょっと待ってもらっていいかな!
アンジェラがさ! 怪訝そうに見てるんだよね!
まだ人間の心5年生くらい*1のアンジェラに、この手の話題は早いんじゃないかなーって思うな俺!!
子供の前で下ネタ言う大人はちょっとアレですよ!
だから一旦落ち着こう、な!!
話せばわかる、話せばわかる!!
この言葉使って本当にわかったケース見たことないけど!!!
『む、確かに、アンジェラには少し早いな。じゃあ攫うか』
は?
「アンジェラ、悪いな、少し主ちゃんを借りるよ。
私たち、少し『お話』が必要みたいだからさ、構わないだろ?」
「え? ……まあ、業務開始時間までならいいけれど」
「駄目だエラ! これは罠だ! 俺(の尊厳)を貶めるために仕組まれた罠だ!!」
「え? え?」
俺の言葉に困惑するアンジェラに、しかし愛の女王がインターセプト。
「あー駄目だねこれは、主くんったら最近働きすぎてたじゃない? ちょっと錯乱してるみたいだね~。
でも安心して、アンジェラ! 私たちが主くんのことをいっぱい『癒して』治してあげるから!
だからごめんね、今日は一日、私たちで主くんを借りちゃうかも><」
「ええと……わかったわ。確かに最近、コナーは良く働いてくれていたもの。
まだ日数も進んでいないし、今回の反復は休憩に使いましょう。私も休むわね」
あか~~~ん! 数的有利があっち側にある!
否定の言葉が追いつかん、押し切られる!!
「違うんだエラ! 待って! いや君が休むのは賛成だし、作っといたおやつを厨房に取り置きしてもらってるから後で食べてほしいんだけど、それはそれとして暴走してるんだよこの子たちは今!!」
「暴走? ……あの、ええと、どういうことなのかしら? あなたが影響を与えたアブノーマリティは、暴走しなくなるはずじゃ……?」
あかんアンジェラも混乱してるわ!
どうしていいかわからずあたふたしてるわ!
俺を信じたい気持ち7割、元魔法少女組を疑いたくない気持ち3割くらいで行動起こせてないわ!
いやでも大丈夫だ、いける!
自分を信じろ、俺!
アンジェラとどれだけ長い付き合いだと思ってんだ、彼女の信頼を勝ち取ることくらいできるはずだろ!
冷静に、落ち着いて反論を……ッ!
その時。
そっと、俺の両頬に、手が当てられた。
これまでに幾度となく握った、強く、しなやかで、けれど温かく優しい手が……。
けれど今、俺を逃がすまいと、目を逸らさせまいと、顔の角度を固定した。
「主よ……私も、覚悟を固めます」
俺の視野に飛び込んでくるのは、その蒼い瞳に高揚と緊張を乗せた、とびっきりの美人の顔貌。
それが、ゆっくりと、俺に迫り……。
「どうか、剣と誇りだけでなく……あなたに捧ぐこの心もまた、お受け取りください」
震える唇が、決して傷付けないようにと、優しく、触れ合った。
プツンと。
脳内で何かが切れる、あるいは切り替わる感触があった。
「……………………はぁ」
俺は何をしてんだ、という呆れが込み上げる。
くだらん常識と卑屈なんぞに踊らされて、周りが全く見えてないじゃん。
この子らにだけ勇気を振り絞らせて、俺は知らんぷりかよ。
わかってるくせに見ないフリ、都合良く視線を逸らしてばかり。
ほんまくだらん、アホなんかな俺。
彼女たちに返すべき、与えるべきは、俺だ。
何をどうとち狂ったら、受け取ってばかりの状況を看過するのか。
は~~~、あほくさ!
俺がつまらん人間ってことは理解してたつもりだが、限度ってもんがあるわい!
……よし、切り替えよう。
意識を、常識を、判断基準を。
それだけで、この胸に募る罪悪感が消えることはないだろうが……。
これまで成してきたこと、この場で取る判断も、全て含めて、俺だ。
そんな最悪な自分を愛そうじゃないか。でき得る限りでね。
……さて、騎士、女王、王。
今から、マジで最低なことを言うぞ。
俺は、お前たちから、ただ一人を選べない。
義理で言えば騎士を選ぶべきだろうが、それでお前らの誰かが不幸になるくらいなら、最初から誰も選ばない方がずっとマシだ。
だから……自分で言ってても、マジでゴミカスだとは思うけど。
お前ら全員、俺のものにする。
その代わり命を懸けて、全員等しく、文句なんて言えないくらいに満たしてやる。
それでいいな。
『ひゃっ、はいっ!』
『主くん今更~! 私、もう3,000年くらいず~~~っと、そんな君を愛してたんだよっ?♡』
『どうか、誰より自由に、あなたの道をお歩みください。我が、最愛の主よ』
……うん。
自分で言っておいてなんだけど、こんな最低すぎるハーレム宣言、秒で受け入れられるとこっちに混乱が来るな。
でもいい。
もう色々と割り切った。
そんな自分の決断も受け入れて、お前たちごと愛していく。
俺の人生は、それでいい。
俺は、既に顔真っ赤でへたり込んでる貪欲の王を抱え上げ、言った。
「王、道を開け」
「はいっ」
俺たちの前に、黄金の道が現れる。
行先は、職員用の仮眠室だ。
悪いが今日は点検中ってことにして、明日までに片付け……。
いや、どうせ明日にはリブートするか。便利だねぇTT2!
「こっ、コナー、あなた、さっきの……」
「悪いエラ、ちょっと抜けるわ。責任取って来る。
……それから、友だちとしてお願い。今は何も聞かず、仮眠室の監視カメラは見ないまま、停止しておいてくれ」
騎士とのキスを見てか、顔を赤くして狼狽えている、初心なアンジェラを後目に。
俺は王を抱え、女王と騎士を伴い、魔法陣の中へと踏み入った。
……まさか、アブノーマリティとそういう関係になるなんて、L旧研に行く前までは思いもしなかった。
当然だ、思えるわけないわな。
あの頃の俺は、アブノマのこと、井戸の底から湧き出たバケモンとしか思ってなかったんだし。
でも今は、彼女たちの人生を知り、誇りを満たし、愛を与え、幸福を約束したんだ。
彼女たちがただの化け物なんて、そんなこと思えやしない。
俺の好きな女だ。
それ以上でも、それ以下でも、ない。
だから、この選択に悔いはない。
好きな相手と結ばれておいて、何の不服があろうか。
いやまあ、王はまだ付き合いも短くて、多分10年弱だろうけど……。
……冷静に考えると10年って十分だな。俺の感覚は完全に狂ったと見えるね。
あとは、女王の年齢問題だが……まあ、これに関しては棚に上げよう。
最近の彼女の精神はちゃんと安定し、しっかりと地に足が付いている。もう子供扱いも必要なくなる頃合いだろう。
もう3,000年も一緒にいるんだしね。
よし、問題なし。
準備は万端、覚悟も完了。
いざ、決戦のベッドフィールドへ。
* * *
元魔法少女組は強敵でしたね……。
なんとも満たされた顔で、すやすやと眠ってる3人。
俺は彼女たちを後目に、ベッドの縁に腰掛けて、煙草……は吸わないので、食堂からもらってきたきゅうりみたいな野菜をぼりぼり齧る。
何十周か前の処理チーム職員、ネビルのイチオシメニューだ。なんか滋養強壮に良いらしい。
……思ったよりは楽に済んだ、なんて言うと、失礼にあたるかもしれないが。
無事に彼女たちを満足させられて、正直、安堵してる。
幸福の王は、普段あんなに強気なくせ、幸せを感じると即座によわよわのざこざこになったし。
正義の騎士は、普段の感謝と素直な好感のASMR攻撃で、混乱させて脆弱にできた。
一番年若く見えた愛の女王はしかし、名は体を表すと言わんばかりの強敵ではあったが……カルメンに鍛えられた俺相手に、マッチ勝利にまでは至らなかった。
L旧研にいた頃は、カルメンに自信を叩き折られていたんだが……なんとかそれも取り戻せたか。
……っていうかアイツ、WAW級アブノマとか3級相当のはずの俺より旺盛なの、マジで何なの???
本当に普段体を動かさない研究職か?
何だったんだあの無限の体力???
都市の人間の欲望ヤバ……と思っていたんだが、どうやらアレは初手例外だったらしい。
さて、ほうと、切り替えるために一息吐いて。
……アイツにも、言うことを言わねばなるまいと、意志を固める。
言葉を届けるため、枕元に置いてあった夜空剣を、脱ぎ捨てられた服の中から漁り出すと。
それを通して、彼方から声がかかった。
『…………コナー、その……』
カルメン、不安に思うくらいなら、どうにか体作れよ。
……そもそも、不安に思う必要もないんだけどな。
俺のものにするっつったのは、当然お前も入ってるんだから。
『っ、うんっ!!』
……はぁ。これで俺、クソカス4股野郎かぁ。
前々世からずっと、女を作るとしても、一人を最期まで愛し抜くスタンスだったんだけどなぁ。
しかも相手はアブノマ3人と、あのカルメンだ。
はは、死にて~~~!www 罪悪感と何してんだ俺感がエグいぜ!!
『死んじゃ嫌よ、コナー?』
当たり前じゃいっ!
もう俺だけの命でもねえですからね!
これからは、ってかこれからもなんだけど、可能な限り死は避けていく心積もりですわよ~!
チャートも洗練されて、最近じゃ俺が死ななくても管理人招けるようになってるしね!
よーし、心機一転! これからも頑張るわよ~~~!!(ヤケクソ)
一体いつから……ターニングポイントはシリアスな展開しかないと錯覚していた?
無事ハーレムクソ野郎となってその身と命で以て責任を果たすことになったので今回はここまで。
こんな自分も愛さなきゃならないってマジ?
また、タグに「ハーレム」を追加しました。
もはや言い逃れはできない。