L社の二次創作書くなら言及を避けるわけにはいかない例のアレです。
「ん? 開かないぞ」
エレベーターに乗っての移動中。
同行者たるゲブラーがそんなことを言い出すもんだから、俺はめちゃくちゃ嫌な予感がした。
普段は一瞬で移動を終え、扉が開くはずの、L社地下本部のエレベーター。
それが5秒経っても、10秒経っても、うんともすんとも言わない。
なんなら、ゲブラーが力を込めて無理やり開こうとしても、まるで最初から両の扉が繋がっていたかのように開かない。
そんな光景を見ながら、俺はアンジェラに通信しようとしたが……反応なし。
剣を通して騎士たちに語りかけても……ほんの微かに繋がりは感じるものの、言葉は帰ってこなかった。
うわ、嫌な予感が確信に変わっちゃったわ、これ。
「……あー、こっち側になっちゃったかぁ」
「あ? こっち側?」
「記憶を持ってる側。……アンジェラの忘れたいって気持ち、こういう時にはわかっちゃうな」
L社地下本部に敷設されたエレベーターは、実のところ、普通のものではない。
都市の物流やインフラを担う翼、W社。
その特異点を使った特別性、言わば小型のWarp列車なのだ。
なんとこれ、どれだけ距離が離れてもほんの一瞬で目的地に到着する。
移動の際の時間的コストをカットしてくれる、とんでもない優れものなのである。
……が、しかし。
都市において、ツゴウノイイ技術なんてものはそうそう存在しない。
このエレベーター、実は表に出てこないクソデカ欠点もある。
それが、この現状だった。
「実はW社の特異点ってワープじゃなくて原状回復機能なんだよね。ワープの方はW社が買い取った折れた特異点だったりする。
で、問題はこのワープなんだけど、実はこれって単純な空間跳躍じゃないんだよ。
異次元の空間を通過することによって、この世界の基準時間上では極限に圧縮された時間内で行われる、超高速移動なんだ。
ただ問題があって、このワープって基本的に生物には向いてないんだよね。なんでかっていうと、異次元の空間の方では、こっちの基準時間よりもありえん程馬鹿長い時間が経過するから。
こっちの世界の10秒が、異次元では2,000年以上に該当したりする。生存自体はできるとしても、こんな長い時間を生物の思考は受け止められない。余裕で発狂したり廃人になっちゃったりするわけ。
で、まあここまで言ったら分かると思うんだけど、俺たちは今その異次元に置き去りにされてる。
つまり端的に言うと、俺たちはこのエレベーターが到着するまでに、短くても数年、長くて数千年って時間を、この狭い箱の中で過ごすことになるわけだ。
幸い、腹も減らないし老いもしない、つまりは生理現象が停止した状態になるから、飢え死にしたりはしないけどね。
逆に言えば、大半の物事に刺激を感じなくなるから、変に刺激を求めて痛みに逃避しやすいのがポイント。これについては耐えないと廃人一直線だから我慢しようね」
「待て、おい、待て、一旦待て」
ぺらぺらとネタバレを始めた俺を前に、腕を組んで壁に寄り掛かったゲブラーは困惑の声を漏らす。
わぁ、そのポーズ、初対面の時の相棒を思い出せてエモいね♡
ゲブラーは、ビナーへの敵対姿勢を解くための初期化のせいで、初期こそ敬語キャラへと大胆キャラチェンジしていたが……。
日数の経過と共に、少しずつ思考が馴染んでいき、30~35日くらいでカーリーに近い人格へと戻る。
ちなみに、後日敬語のことで揶揄ったりすると、大切断-縦-が飛んでくるので気をつけよう!(36敗)
で、今は彼女がほぼ完全にカーリーに近づき、なおかつまだ管理人が到着していない時間帯。
俺としちゃあ、話してて楽しくもあり、懐かしくもあり、寂しくもある、複雑な時間だった。
あるいは、そんな段階の彼女だからだろうか。
いつもの迫真ミステリアスオーラを放棄し、ベラベラ情報をお漏らしする俺の三下ムーブに、困惑を禁じ得ないようだ。
「どうしたお前、なんだいきなり。
いや……お前がそういった、本来知り得ないような知識を持っているのは、今更驚きはしない。お前は元から変な奴だったからな。
だが何故、今、唐突にそれを話す? トラップにかかってからその解説をして何の意味がある。何故こうなる前に話さなかった?」
いやぁ、嬉しくなっちゃうな。
今回のゲブラーもまた、殆どカーリーに戻ってくれた。
俺に疑いの視線は向けつつも、既に仲間と認めているために、剣を向けることはない。
慎重さ、戦士としての心得、そしてあまりに優しすぎる性。
まさしく、かつての俺の相棒だ。
強いて言えば、アブノマに対する加虐性だけが玉に瑕だが……。
アブノマが絡んでなけりゃ過度に攻撃的になることもないし、特に俺に対しては冷静に(なんならちょっと引け腰に)対応してくれる。
無意識的にでも、俺のことを相棒だと思ってくれてるのかね。
そんなことを思いながらも、俺は肩をすくめる。
「そりゃあね、これまでは話しちゃいけない理由があったんですわよ。凝視者の視線とかシナリオリブートとか、その辺ね。
話していい状況になれば、俺だって色々話すさ」
「つまり……今は、話してはいけない理由が消えた、と?」
「うん」
良くも悪くもね。
俺は床にどっかり座り込み、壁にもたれかかって尋ねた。
「そもそもゲブラー、俺と君がこの会話をするのは初めてだと思うかにゃ?」
「少なくとも、私にその記憶はない」
「そだね、俺にもない。どうやら夜空剣の記憶のバックアップは、これを対象にはできないっぽいしな」
「……?」
あっちの10秒は、こっちでは2,000年になったりする。
時間の拡大倍率は、なんと驚きの63億倍だ。アンジェラの100倍すら比べ物にならない比率である。
つまりだ。
今ここで、俺が10秒かけて、夜空剣を通して騎士にメッセージを伝えた場合。
騎士はそれを、6億分の1秒という、おおよそ感覚できない程の須臾にしか感じ取ることができない。
精神が繋がっているのに言葉が届かないのは、それ故だろう。
届かないっていうか、より正確に言えば、データが馬鹿みたいに圧縮されるせいで解読不可になるというか。
もっと言えば、騎士が俺の言葉を認識→解読→理解→思考→返答するまでの数秒が、俺にとっては何千年にあたるというか。
とにかく、確かなこととして。
俺はこの空間においては、カルメンや騎士、女王、王との会話も、勿論協力要請も、不可能なんだろう。
協力を求められないってことは、記憶同期も不可能になる。
夜空剣の記憶の同期は、あくまで俺の表層意識を騎士が読み取り、その記憶をカルメンがデータ保存してくれるものでしかない。
俺自身ではなく騎士の記憶を参照するシステムは、何かと都合の良いものだったが、今回に限っては例外だ。
ほんの一刹那、ノイズの如き思考を騎士が読み取るのは不可能だろうし、持ち越せないのも道理だね。
そんなわけで、俺はこれまでこっち側だった記憶を持っていない。
……の、だが。
それは確かに、これまで、数えきれない程にあったはずの時間なんだ。
覚えていないだけで、忘れることができただけで。
俺たちは、幾度となく、この時間を繰り返している。
特に俺なんて、度重なる反復の中で、エレベーターなんて何十万回乗ったかもわからんくらいだしね。
俺の語り口に不穏なものを感じたか、ゲブラーの目がきゅっと引き締まる。
「待て、お前のその言い様……まさかこれは、故障などではなく……」
「イグザクトリー! そう、なんとこちら正しい挙動となっております。往々にして、バグかと思った挙動の90%くらいは仕様なんだよね~」
ほんま特異点ってカス!
犠牲を出さずに使える優しい技術ってないんですか??? ないんだろうね、都市だもんね。
「言っただろ? W社の特異点は原状回復だ。この時間のギャップ自体をどうこうするモンじゃないんだわ。
ここでの待機時間が終わったら、俺たちの肉体とか記憶には原状回復が働いて、何もかも元通りになって、『一瞬で着いたな!』って思うわけ。
世は全て事も無し、一瞬で離れた距離を移動できるワープ装置の完成だ! ノーベル特許はWarp社のもんだぜ~~!」
そう。
最後には全部忘れるし、絶対に誰からも覗かれたりしないからこそ、この異次元の空間では何をぶっちゃけてもいいわけですね。
なんなら俺の前々世のことさえ言ってもいい。
まあ俺もゲブラーも何も得のない情報だし、積極的に言おうとは思わんけども。
なるほど、と。
一言だけ漏らして、ゲブラーは黙り込み、考え出して……。
しばらくして、ぽつりと言った。
「……それ、別に問題なくないか?
この後の予定に遅れるわけでもないし、私たちがいなくなっている間に、アブノーマリティ共が暴れ出すようなことも、あっちで何か困るようなこともないんだろ?」
「あっちは大丈夫。問題はこっち側かな。
閉じ込められる時間次第では精神が擦り切れて発狂するし、痛みを求めて肉塊になるような奴もいるね」
「私たちなら問題はない。瞑想でもして時間を潰せばいいだろう」
「まあそれはそう」
俺たちは、RuinaでWarp列車に乗っていた乗客とは違う。
紫の涙に鍛えられ、戦士としての心得を骨身に叩き込まれている。
模擬戦か瞑想すれば時間はほぼ無尽蔵に潰せるし、発狂への耐性も高い。あと腹パンへの耐性も高い。
その上、Warp列車と違って長距離を移動するわけでもないので、恐らく移動にかかる時間はその数千分の一程度になる……と思う。
俺の理解の及ばないシステム的な側面なので、確証はないけど。
予測される待機時間は、数年程度。
その程度であれば、鍛錬や瞑想で十分時間を潰し得るだろう。
多分、これまでの俺も、そうして待ってきたんだろうね。
なんなら職員と一緒した時は、その職員を上手いこと誘導してブートキャンプとかやってたかもしらん。
まあ現状回復で何の意味もなくなっちゃうわけだが。
「……それに、お前と閉所での模擬戦をするってのも、面白そうだしな」
「コイツっ、転生してもバーサーカーっぷりが健在でいやがりますね! 誰か男の人呼んでーッ!!」
「来世で鏡でも見てろ! ……いや、私たちが性別を求めるのもナンセンスか?」
「変に冷静!」
このあとめちゃくちゃ模擬戦した。
ちょっと、「再生リアクターがあればもっとやれたのにな……」とか言ってるんですけどこの人。
ひょっとして俺のこと、サンドバッグか何かと思ってないかい?
いやまあ、結構体を気遣ってもらったりしたし、ないとは思ってるけどさ。
* * *
──チン、と音がして、扉が開く。
エレベーターは無事、目的地に到着したらしい。
「行くぞ」
言い、ゲブラーは先んじて歩き出した。
ふぅ、良かった良かった。今回も原状回復はちゃんと働いてくれたらしい。
あっちの俺がどんな風に時間を過ごしたか興味がないわけでもないが……。
まあ多分、上手いことゲブラーと時間を潰してたはずだ。
まったく……毎度毎度、エレベーターに乗る時に警戒しないといけないとはね。
都市において、知ることは必ずしも幸せではないわよね、ホントに。
『主よ、また……』
気にしない気にしない!
俺は覚えてないんだから、そんなのはないと一緒だ。
騎士も女王も王も、カルメンも。あんまり気にしないようにね。
仕方がないことで君たちが傷つくのは、俺も嫌だからさ。
「ダァト?」
怪訝そうにゲブラーが振り返る。
おっと、いけないいけない、さっさと足を進めねば。
「いっけな~い、遅刻しちゃ~う^^」
俺はゲブラーの背を追って駆けだした。
時間を無駄にはできない、急がないとな。
なにせ今日の仕事は、1,000年に一度の重要な案件がある日なんだから。
しかもシナリオリブートでも取り返しが付かないヤツだ。
エラの顔のためにも、失敗は許されない。
俺たちの目的地は、管理室である。
本日はさる翼との、契約更新の日。
その相手が武力にバチクソ秀でた方々なもんで、俺とゲブラーという抑止力の同席が必要……ってことになってる。
まあ、仮に襲われたとしても、アンジェラが傷を負うことはないだろうけどね。
俺たちセフィラと違い、替えが利かないアンジェラには、特異点レベルの極めて分厚い保護がかけられている。
物理的損壊によって彼女を破壊することは、まず不可能だ。
俺の兄弟子(?)でもある、あのクソヤバド底辺9級フィクサーですら、「どうやったって殺せはしない」と判断したんだぜ?
つまりはロジックアトリエ製の銃弾ですら破れない堅固さだ。兎たちの弾丸如きで傷が付くもんかよ。
でもまあ、それはそれとして。
政治的な意味では、見せる武力は必要だ。
俺たちの必要性はそこで、つまりはただ立ってるだけでいい楽なお仕事である。
幸い、初代の暴れん坊と違って、今代のウサギチームのリーダーは、(戦場に立たない限り)かなり温厚なタイプ。
ここ3回は大きな問題もなく、契約更新が行われていた。
今日も何事もなく済めばいいなー、なんて思っていた俺は……。
「それじゃ、自己紹介ね。
R社第4郡、ウサギチームのリーダーを引き継いだ、ミョだよ。
これから契約更新と部隊指揮のために定期的に来ることになると思うから、そこのところヨロシク!」
ヘルメットを脱いで出て来た、白髪と赤い瞳に、思わず一つきりの目を見開いた。
ミョだこれ!!(10+n年ぶり2回目)
感想爛でどうなったか気にされてた、懐かしのウサギが草を食みに来たぞ!