3級フィクサーパンチ   作:アリマリア

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 今回もダァト以外の視点。
 前半と後半で別人物の視点となります。まぎらわしくて申し訳ない。





私たちは……私たちは本当に友だちになれる。そうだよね?

 

 

 

 * * *

 

 

 

 とある少女の話をいたしましょう。

 私たちの中で、最も勇気に満ち、正義と均衡を愛し……どこか主に似ていたようにも思える、少女の話を。

 

 

 

 彼女は、直截な戦いをする私達とは違い、婉曲な戦法を用いる子でした。

 

 ただ魔法を、拳を、剣を突き立てるのではなく。

 腐食によって相手の守りを弱らせ、こじ開けた隙を槌で穿つ。

 

 一見にして、自分の純粋な力だけでは足りないからと、武力と魔法を噛み合わせたような在り方。

 

 しかしそれは、幾度となく私たちを救いました。

 

 王の拳も、私の剣も、女王の魔法も通用しない、非常に強力な守りを持つ相手に対し、彼女の持つ腐食の魔法と強力な殴打は極めて有効で。

 私たちがどうしようもなくなった瞬間に、彼女は幾度も道を切り拓いてくれた。

 

 

 

 しかし彼女は、そんな自らの力を卑下していました。

 王のような力もなく、私のような技量もなく、女王のような才もない。

 だから自分は、このような方法でしか戦えないのだと。

 

 彼女は、他者には優しい反面、自分に厳しいところがあったのです。

 きっと彼女の内には気高く尊い理想があり、そこに届かない自らを恥じていたのでしょう。

 

 しかしながら……ええ、そうですね。主と同じように。

 自己評価と他者評価は、往々にして食い違うもの。

 

 体躯に優れるわけでもなく、それでも勇猛果敢に敵前へと飛び込み、傷付きつつも槌を振るい、がむしゃらに理想へと至ろうとする。

 そんな彼女の姿は、私たちから見て、不安定で心配に思えると同時……。

 

 確かに、頼り甲斐のあるものでした。

 

 そう、私たちは、彼女を強く信頼していたのです。

 その思慮深い知恵と、搦め手を伴う武力、そして何より、彼女の胸に秘める勇気を。

 

 

 

 けれど、そんな真面目で優しい、彼女だったからこそ……。

 

 自分を赦せなかったのでしょう。

 

 メジャーアルカナたる隠者に絆され、アルカナとも和解できるかもしれないという希望を抱いて、自らの世界に隠者を招き。

 手酷い裏切りを受け、住民諸共に、世界を滅ぼされた。

 

 自分を裏切った隠者も勿論のこと……。

 何より、そのような判断を下してしまい、正義と均衡を乱した自分を、どうしても赦せなかった。

 

 だから、「愚者」の闇に呑まれた時。

 自身への憤怒に、常に冷静沈着だったその理性すら、焼き熔かしたのでしょう。

 

 

 

 どうすれば、自らを責め続ける彼女を救ってあげられるのか、私にはわかりません。

 

 ですが……彼女が最後の一人。

 私たちと共に戦い続けた魔法少女の、友だちの、最後の一人なのです。

 

 どうか彼女に、再び暗がりから歩み出す勇気を。

 あの子が少しでも、自分を赦せますように。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ────私の世界が壊された、あの日。

 

 私は、勇気を喪ったんだと思う。

 

 

 

 かつて私は、王や女王、騎士と共に、アルカナと呼ばれる者たちと戦っていた。

 

 けれど……自身が、彼女たちと並び立てる戦士だったと、私は思わない。

 

 王のように、人を先導するカリスマや、拳一つで戦える武勇を誇ってはおらず。

 騎士のように、卓越した剣技や、他者を守護する誇りを持っていたわけでもなく。

 女王のように、凄まじい魔法の才もなく、明るく振舞って雰囲気を良くすることもできない。

 

 矮躯で、強い力も持たず、魔法もそこそこで、更に言えば愛想も良いわけじゃない。

 

 私はどこまでも半端者だ。

 みんなみたいに、すごい人じゃない。

 

 でも、3人の足を引っ張るわけにはいかないから……振り回しやすい槌による殴打や、少しでも攻撃を通しやすくする魔法を組み合わせて。

 使えるものは全部使って、3人に追い縋っていたんだ。

 

 

 

 ……そんな半端な私が持っていた、唯一の取り柄が。

 

 勇気、だった。

 

 

 

 誰より勇敢に前線に飛び出して、傷を負うことも厭わず戦って。

 どんな強敵に対してでも、腐食の魔法で弱らせ、この手の槌で打ち砕く。

 

 その時々に「そうしよう」「そうすべき」と思ったことを、迷いなく為せる勇気こそが、私のただ一つの強み。

 

 だから私は、彼女たちと一緒に、アルカナと戦い続けることができて……。

 

 

 

 ただ一時の思い付き、くだらない感情一つで、全部を台無しにした。

 

 

 

 みんなを裏切ってまで偽りの平和を目指そうとして、ものの見事に失敗した。

 

 私のただ一つの誇りだったはずの勇気が、それによって選んだ判断が……世界を、滅ぼしてしまった。

 

 だから、私はもう、自分の判断を信じられない。

 

 今この瞬間にも、私が下した判断が間違っていないと、誰かを傷つけるものではないと、どうしてわかるのだろうか?

 私の振るう勇気が、さかしまに平和と均衡を乱すのではないと、どうして証明できるだろうか?

 

 私の軽挙妄動が、再び世界を壊すんじゃないか。

 そんな畏怖が、常に心を縛り続ける。

 

 勇気は萎び、失せてしまった。

 今の私は、行動1つ取れない臆病者に過ぎないんだ。

 

 

 

 だから、なんだろうね。

 誰かと親しくしようとすると……どうしても、心がざわつくんだ。

 

 この人も隠者と同じように、私を騙して利用しようとしているのではないか。

 私の世界を、大切なものを、大事な友だちを、壊そうとするのではないか。

 

 相手を、そして相手を信じようとする自分の判断を、私は信じられない。

 

 少しでも自分を信じようとする度、憤怒に呑まれそうになる。

 相手への憤怒に、裏切りへの憤怒に、そして何より私自身への憤怒に呑まれて、この槌を振り上げてしまいそうになるんだ。

 

 だから私は、新たな友だちを作れない。

 その人のためにも、私のためにも、作るわけにはいかない。

 

 

 

 ただ一人の、例外を除いて。

 

 

 

 主さん。

 騎士たちが「主」と呼ぶ、とっても変わった人。

 

 あの人だけは、信じられる。

 

 何故なら、騎士や女王、王が信じてるから。

 

 私はもう、私を信じられないけど……彼女たちのことだけは、信じられる。

 だから、みんながああまで信じ、その心まで捧げてる人が、悪い人だとは思わない。

 

 

 

 実際、彼と話していると、いつものように不安にはならず、むしろ不思議と落ち着いたんだ。

 

 多分、主さんの絶妙な距離感の開け方が良かったんだと思う。

 

 親し気に話しかけてくるし、時にはボディタッチするようなこともあって、一見ずけずけと近付いて来るようにも思えたけど……。

 でも実際には、どこか距離感を空けてくれていた。

 

 私が少しでも拒めば、すっと身を引いてくれるし。

 逆に、私が受け入れれば、自然と隣にいてくれる。

 細かい一挙手一投足を観察して、私がどこまで踏み込むことを許すか、測っているようだった。

 

 そうして彼の作り出す距離感は、私にとってすごく心地良いもので。

 ……主さんはきっと、意識的にそれを整えてくれていた。

 

 私にとって心地良い距離感と時間を提供しようと。

 ずっとずっと、私のために、そうしてくれていた。

 

 最初に会って以来、8年も……いいや。

 多分、もっともっと長く、何千年っていう間、ずっと。

 

 

 

 彼は、絶対に自分から踏み込んでこなかった。

 何かを求めてもこなかった。

 

 ただ、私が笑ってくれていればいいと。

 そんなことだけを願ってくれていた。

 

 隠者のように、何かを求めてはこず。

 ただ私のために、笑って隣にいてくれたんだ。

 

 それが私は、本当に、本当に、嬉しくて……。

 

 

 

 

 

 

 ……だから。

 

「あ、あ、あああ……!!」

 

 だから今、私は、必死に耐えているんだ。

 

 唐突に噴き出した、自分の憤怒に。

 

 

 

 

 

 

 沸々と、煮え滾るように、怒りが湧き上がる。

 

 友だったはずの相手への怒り。

 裏切りへの怒り。

 悪への怒り。

 そして、自分への怒り。

 

 余りに唐突なこの衝動は、これまでに何度もあって。

 私はその度にそれに呑まれていた。

 

 けれど……。

 

 

 

「ある、じ……さん……っ!」

 

 

 

 今はそれに、疼く胸を掻きむしって、必死に耐えている。

 

 ……もう、嫌だった。

 

 あんな優しい人に、皆が心を預けてる主さんに、憤怒を向けたくない。

 あの人と戦うのは、もう嫌だ。

 

 私が憤怒のままに振り下ろした槌を受け止めるあの人の剣には、いつも哀しみが乗っていた。

 殺意を持って襲いかかる私に、けれど主さんは、いつも同情してくれていた。

 

『……ごめんな』

 

 いつだったかな。

 力尽きた私に、ぽつりとそう零してくれたことを、今でも思い出せる。

 

 本当に悲しそうな、申し訳なさそうな声だった。

 

 この衝突も、私に起きた悲劇も。

 何も止められない自分の非力を憎むような、そんな声。

 

 きっと、私と同じ……自分を信じられない人の、嘆きの言葉。

 

 

 

 あの人は……違う。

 「隠者」とは、他の人とは、違う。

 

 みんなが信じる、優しい人だ。

 私よりもずっと強いあの子たちが、その心を捧げた人だ。

 

 だから、もう、戦いたくない。

 憤怒に呑まれて、あの人に槌を向けたくない。

 

 

 

 

 

 

 ……いいや。

 

 いいや、違う。

 

 そうじゃ、なくて。

 

 

 

 みんなの大事な人だから、戦いたくない、傷つけたくないんじゃなくて……。

 

 

 

『やあ従者、僕はコナーだ! 今日も来たよ。

 ほらコーヒー、気に入ったって言ってくれたの嬉しくてさ、今日も持ってきちゃった♡』

 

 

 

『ごめんって? 何謝ってんのさ……ああ、昨日のアレ?

 いいよいいよ、むしゃくしゃすることなんて誰にでもあるし。気にせんといて~。

 ……え~、そんなに? まあそんなら……ゲームしようぜゲーム!

 いや、騎士から従者はすごい頭良いって聞いてさぁ、一回頭使う系のゲームしてみたかったんだよ!』

 

 

 

『じゃあな、また来るよ、従者。

 言っとくけど、次は負けないからな! 18連敗中だけど次は勝つ! 必勝法思い付いたから今! 君の天下もここで終わりや!!』

 

 

 

 

『なんで来てくれるって……俺、来ちゃ駄目? ああ、そうじゃなくて理由ね。

 まあ正直、騎士たちとの義理って意味もあるけど、何より君との話は楽しいよ?

 理知的だし、知識も豊富で、勉強になることも多いしね。

 正直最近は、君との話を楽しむために来てるまである。

 ……はは、ごめんって女王。別に君たちとの話が楽しくないわけじゃないよ』

 

 

 

 ただ……。

 

 私自身が、あの人を傷つけたくないだけだ。

 

 私に温かな笑顔を見せてくれる、あの人を。

 私が捨ててしまった勇気を持っている、あの人を。

 なんの私欲もなく、私と付き合ってくれる、優しすぎるあの人を。

 

 私はもう、傷つけたくない。

 

 

 

 

 

 

 だから、抑え込む。

 あの人に向こうとする憤怒を、必死に、必死に、抑え込む。

 

 抑えろ。抑えろ。抑えろ。

 駄目。すべきじゃない。しちゃいけない。したくない。

 

 あの人は……あの人だけは……あの人のことだけは!

 

 

 

 そう、蹲って、必死に耐えていた、その時……。

 

「従者ッ! まだいるかッ!?」

 

 部屋のドアが、乱暴に叩き開けられる。

 

 

 

 視線を向けた先にいたのは、私も見慣れた黄金の人影。

 

 王。

 ……今は、幸福の王、だったっけ。

 

 いつかの日よりも大人っぽくなり、落ち着いていた彼女は、しかし。

 珍しく必死の形相で、部屋の中の私に声をかけてきた。

 

 

 

 

 

 

「主ちゃんが、『愚者』にやられたッッ!!

 頼む、手を貸してくれ! 主ちゃんを助けなきゃいけないんだッ!!」

 

 

 

 

 

 

「…………え」

 

 愚者。

 私たちが敗北した、最悪のメジャーアルカナ。

 人を、憎悪に、絶望に、貪欲に、そして憤怒に……闇の中に突き落とす、最悪の敵。

 

 アレに……主さんが、やられた?

 

 あの虚無の中に、突き落とされた?

 

「まだ間に合うかもしれない!

 頼む、お前の腐食で弱らせて、愚者の皮を剥げば……主くんを取り戻すこともできるかもしれないんだ!

 だから、手を貸してくれ! お前の力が必要なんだッ!!」

 

 

 

 いつも冷静で余裕のある印象の強い王は、けれど今、本気で焦っていた。

 

 当たり前、だよね。

 あれだけ……あれだけ恋し、愛していた人が、私たちが味わったのと同じ、虚無の闇を味わうことになるかもしれないんだから。

 

 だからきっと、他の皆も同じ。

 騎士も女王も、それぞれの場所で、主さんを助けようとしてるんだろう。

 

 ……こんな暗いところで蹲ってる、私なんかと違って。

 

 

 

「来てくれッ、従者!!」

 

 入口に立つ王から、手が伸ばされる。

 

 いつかのように……再び一緒に戦ってくれと。

 誰かを、大切な人を救うために、この手を取ってくれ、と。

 

 ……ああ、眩しいな。

 廊下から差し込む照明の光も……誰かのために戦う、王たちの姿も。

 

 

 

 ゆらりと、どこか熱に浮かされたように立ち上がり、その手に歩み寄る。

 

 助けなきゃ。

 自然と、そう思えた。

 

 あんな優しい人が虚無に呑まれるなんて、あっちゃならない。

 私でも何かができるなら、立ち上がらないと、って。

 

 

 

 ……でも。

 

 収容室を出る、一歩手前で、足が止まってしまう。

 

 この判断が、間違っていたとしたら?

 私はまた、愚かな欲望によって、全てを壊してしまうんじゃないか?

 

 そんな恐怖が、臆病さが、この足を竦ませた。

 

 勇気が……かつては心の底から湧き出ていたそれが、どうしても出てこない。

 

 

 

 あと一歩踏み出せば、何かが変わるだろうか。

 この収容室から自分の意思で飛び出せば、私は何かを変えられるだろうか。

 

 変えた先にあるのは、優しさに包まれた平和な世界か?

 あるいは、多くのマイナーアルカナによって滅ぼされる世界か?

 

 私の判断で、また、全てが滅茶苦茶になって、壊れてしまうのか?

 みんなの想う主さんを……私の慕う主さんを、殺してしまうんじゃないか?

 

 そうなった時、私は……私を、赦せるのか?

 今度こそ、壊れてしまうまで、自分を痛めつけてしまうのではないか?

 

 

 

 私はもう……もう、動かない方が良いんじゃないか。

 

 そう、自分を諦めて、まぶたを閉じかけた、その時に。

 

 

 

 

 

 

『大丈夫だよ』

 

 

 

 

 

 

 いつか聞いた、主さんの優しい声が聞こえて来た。

 

 

 

『判断が怖いって気持ちは、俺もすごいよくわかる。

 なにせ俺も半端者なんでね。間違った判断を下した結果、皆にバチクソ迷惑かけちゃったこともあったから。

 でも、君ならきっと大丈夫だ。なにせ君は、君が思ってるより賢いし、優しい。

 きっと次は、もっと正しい判断が下せるよ。

 それでも、もし心配になったら……ま、俺のことを思い出しな!』

 

 

 

 へらりと笑って、ただ隣にいてくれた、あの人の声が。

 

 

 

『君のミスも失敗もやらかしも、全部俺が一緒に背負うよ。

 俺は君のあらゆる判断を肯定する。

 つまり、君の判断は俺のダブルチェックを通ってることになるし、となればそれは君だけの判断じゃなく、君と俺の判断になるわけだ。

 だから、もしそれでヤバいことになったら、俺も一緒に罪を背負ったる! みんなに謝罪行脚でもしようぜ!

 それでもどうしようもない時は……一緒に逃げるか! 10反復くらい逃げたらみんなも許してくれるよ多分! きっと!』

 

 

 

 楽しそうに、けれど同時、優し気に笑って。

 

 

 

『自分を信じられなくなったら、君を信じる俺を信じろ、ってヤツだ。

 君は一人じゃないってこと、思い出してくれよな』

 

 

 

 あの人は、主さんは、そう言ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 あくまで自分で判断を下して行動しろ。

 

 でも、その判断の責任は、俺も一緒に背負ってやる、と。

 

 そんな、少し冷たいようで、しかし確かに優しい、あの人の想い。

 

 

 

 

 

 

 それに、歩むべき道を照らされたように……。

 

 私の足が、一歩先、光の中へと歩み出る。

 

 

 

 

 

 

「従者!」

「……案内して、王」

 

 何も見ず、何も憎まずに済むように、自分の目を塞いでいた包帯。

 それを、自分の手で解く。

 

 一人では耐えられなかった現実。

 けれど……あの人と、主さんと一緒になら、きっと立ち向かえるから。

 

 

 

 いいや。

 今度こそ、立ち向かいたいんだ。

 

 残酷な現実と、自分の憤怒に。

 

 あの人と、友だちのみんなと……自分自身のために。

 

 

 

「私も、主さんを助ける」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 王から聞いた戦況からして、勝負は一瞬だ。

 主さんの状態からして、時間をかけるわけにはいかないし……。

 何より、不意打ちで全てを終わらせないといけなかったから。

 

 愚者は、強い。

 全ての魔法少女の力を使うアレに、かつての私たちは対抗だってできなかった。

 

 だから、真正面から戦うのは愚策。

 主さんの救出は、転移魔法を使った不意打ちで、速攻で決める必要があった。

 

 

 

 何故か徘徊することもなく、黒い波動も放たず、安全チームのメインフロアに留まっていたという「愚者」……いいや、「虚無の道化師」。

 

 王の魔法陣に乗って、私はその直上に転移し。

 手に持った槌を振り上げて巨大化、そこに腐食を全開に纏わせた。

 

「ううぅッ、ああぁあ──ッッ!!!」

 

 最後の躊躇と恐怖を、咆哮を以てかなぐり捨てて。

 心の中から、ありったけの勇気をかき集めて。

 

 巨大な槌を、全力で振り下ろす。

 

 

 

「────」

 

 道化師はすぐさま私に気付き、抵抗してきた。

 

 今まで放たなかった黒い波動を、一点に凝縮し、ビームのように放って来る。

 その闇を受けてしまえば、きっと私の槌は跳ね飛ばされて、それどころか私まで闇に呑まれてしまうだろう。

 

 

 

 だけど……。

 

 私は、一人で戦ってるわけじゃないっ!!

 

 

 

「愛のぉっ、力でっ!!」

 

 私の背後に転移してきた女王が、とんでもない出力の魔法を放つ。

 

 白の愛と、黒の虚無はぶつかり合い……、相殺した!

 

「後はお願いっ、従者ちゃんっ!」

「っ……!」

 

 私なんかを信じてくれる女王の言葉に、腕に籠る力が増した気がした。

 

「主、さん……ッ!!」

 

 そうして、私の振り下ろした槌は、道化師に直撃し──。

 

 

 

 ──けれど、その寸前。

 

 

 

「……ッ!?」

 

 道化師は元々取っていた、主さんの箱の体の形状を放棄し……。

 

 まるで風船のように、球状に膨らんだ。

 

 叩き付けた槌の衝撃は、柔らかな感触と共に、完全ではないにしろ防がれてしまう。

 

 

 

 腐食は通った。その表面は今、溶け出しつつある。

 

 けど……直前になって、衝撃に対する自分の耐性を変えた!?

 

 これじゃ、威力が足りない! 詰めきれないっ!!

 

 まずい……また、私が間違えて……っっ!!

 

 

 

 ……その時。

 

「いいえッ!

 従者よ、あなたは確かに為しました!!」

 

 月と共に在る、数多の星を思わせるような、閃光が煌いた。

 

 

 

 聞き慣れた声と共に、しかしあの頃よりもなお研ぎ澄まされた剣先が、腐食部分に対して瞬時に何度も突き立てられ。

 

 最後に、大きく突き出す一閃が……道化師の膨らんだ表皮を、ついに貫いた。

 

 

 

 そして、その瞬間。

 

 

 

 

 

 

『マジカル☆カルメン☆E.G.Oパワーッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 掠れて聞き取り辛い、誰かの声が聞こえた気がして。

 

 まるで風船のように膨らんでいた、道化師の表皮が。

 その一点から弾けて、割れた。

 

 

 

 何が起こったかはわからないけど、とにかく確かなことは……。

 

 ついに、道化師の闇は祓われたということ。

 

 

 

 なら、きっとその先には、主さんがいるはずで。

 

 問題は……まだ、主さんの心が、無事かどうか。

 

 

 

 果たして、私たちが視線を向けた、その先には……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おらっ3級フィクサーお尻ぺんぺん! 3級フィクサーお尻ぺんぺんッ!!」

「やめて もうやめて 悪いこと やめます やめますから」

「これは騎士の分! これは女王の分! これは王の分! そしてこれはぁ! これまでの周回でやられた職員たちの分だぁぁあああ!!」

「あいたっ 反省してます ごめんなさい 3級フィクサーお尻ぺんぺん 痛い 打撃体勢はやめて 助けて騎士 助けて女王 助けて王」

 

 ……道化師の仮面を付けた小さな少女(?)を膝の上に抱え、リズミカルにお尻を叩き続ける、主さんの姿があった。

 

 

 

 ……………………?

 

 ええっと、うん。

 

 元気、そう……だね?

 

 

 







 囚われのヒロインの生還だぞ、泣けよ。

 次回、ダァト視点に戻り、少し時間が巻き戻ります。






 『O-01-116-02』

 相手に何かを求めることが、友情と言えるのかな?



 識別名:勇気の従者

 ランク:ZAYIN
 E-BOX:23
 クリフォトカウンター:-

 E.G.O:瞳を開く勇気

 武器
 ランク:ALEPH
 装備条件:自制120以上
 ダメージ:BLACK(20~24)
 速度:普通
 射程:近距離
 能力:この武器の攻撃を受けた対象に50%の確率で10秒間全属性の耐性低下(乗算系耐性低下と共存可能、乗算後の数値に+0.5)を付与

 防具
 ランク:ALEPH
 装備条件:自制120以上
 RED:0.4
 WHITE:0.4
 BLACK:0.3(0.0)
 PALE:1.0
 能力:同武器と共に装備することで、一部例外を除く殆どの状態異常とBLACK属性ダメージに免疫になる。



(追記)
 いつも感想等いただきありがとうございます。楽しく返信させていただいております。
 現在感想欄で、未返信の感想の表示ができないバグ? が発生しているようで、過去の話への感想に気付きにくくなっているみたいです。
 もし返信漏れあったら申し訳ありません……。
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