3級フィクサーパンチ   作:アリマリア

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 時間は遡って、ダァトが虚無の道化師に呑み込まれたところから。





魔法(は使えない)少女(でもない)マジカル☆(要素のない)ダァト

 

 

 

 恐らくは虚無の道化師の攻撃と思われる、黒い泥のような闇に呑まれ。

 視界全体が黒く染まって、何もかもが見えなくなり、聞こえなくなった後。

 

 次に、俺の視界が捉えたのは……。

 

 涙を流す仮面を被った、人型の存在だった。

 

 白と黒だけで彩られる装いに、涙を流す道化師の仮面。

 どうやらツインテールが入ってるっぽく見える、二つの房に分かる大きな耳みたいな帽子が特徴的だ。

 

 

 

 う~ん困ったな、ちょっと見覚えがありすぎる。

 

 この仮面、道化師に憑依された職員たちも付けてたし……。

 前々世の原作知識で言うと、自然科学の階の最終解放戦、その最後のフェーズとかで見たことある。

 

 もはや疑うべくもないだろう。

 虚無の道化師だこれ!

 

 まさか職員への憑依体だけじゃなく、こっちの本体(?)に会うことになるとはね。

 ていうか、本体なのかこれ? それとも、なんかこう、お前に分かりやすいようにイメージを象ってやったぞ的なヤツ?

 

 

 

 ……しかし、思ってたよりちっこいな、この子?

 

 手足はひょろひょろと長いんだけど、身長は俺より一回りちっちゃい*1ので、150から155センチってところか。

 大体女王と同じくらいかな? 王はこれよりちょっと大きくて165cm強、騎士は170cm強あるんだけども。

 

 原作だとローランが取り憑かれた状態っぽかったし、それで大きくなってただけで、こっちが本来の大きさだったりするのかな。

 ……いやまあ、原作でも、ちゃんとした大きさとかは公開されてはなかったけどね。SDキャラからしてそういう印象あるってだけで。

 

 ふむ……多分胴体の骨格からして、成人してない女の子……かな?

 アブノマらしく、手足が不自然に細長く伸びたりしてるので、ハッキリとは断言できないけども。

 

 

 

 ……いや、そんな観察の前に、考えるべきことがあったわ。

 

 俺、今どういう状態なんだ?

 

 道化師に取り込まれた以上、てっきりロスト扱いで、クローンの脳で再起動するorバッファ食い潰してリブートするかと思ったんだけど。

 

「再起動しない……もしかして、まだ死んでないのか?」

「死なないよ 死ねないよ 何もかも あなたも私も ずっとずっと 繰り返すだけ」

 

 うわビックリした。

 え、何、この子喋るの?

 

 虚無の道化師って原作でも全然喋んないし、そっちタイプのアブノマだと思ってたわ。

 意思疎通とか可能なタイプなんやコイツ……。

 

 

 

 いや、今はそれ以上に気にすべきことがあるわな。

 

「そういう君は一体誰なのだよ? 唐突に俺の前に立ち塞がっとるけども。虚無の道化師(Twitterで擬人化された姿)?」

「道化師 愚者 アルカナ ジョーカー 何でもいい 私は私たち 彼女たちの絶望の先にいるもの 絶望から始まって彼女たちになるもの」

「思ったより饒舌!」

 

 へぇ、めちゃくちゃペラ回すじゃん、意外。

 こういう底知れない怪物的な存在って、喋れば喋る程陳腐になりがちだし、コイツもあんま喋らないと思ってたんだけどね。

 

 それに、訊いたことにはちゃんと──まあ独特な喋り方だし、ちょっとわかりにくいけど──自分なりに説明してくれるっぽいし。

 もしかしてこの子、実は良い奴なのでは???

 

「それなら改めて……やあ道化師! 僕はダァト!」

 

 いかにこれまで繰り返し殺しあってきた鎮圧対象と言えど、L社のイクサにおいてアイサツは絶対の礼儀だ。

 光の種シナリオにもそう書かれている。

 

 嘘です書いてません。

 書くはずが無いだろうそんなことを!! 陰キャクソナードが!!

 俺の友だちを、侮辱するなァアアァアアア!!!

 

 

 

 

 ……さてと、それはそれとして。

 

 どうしたもんかな、これ。

 

 状況からするに、俺はこの子に──虚無の道化師に、捕まってしまったっぽいね。

 

 

 

 今はどことなくふわふわしてて現実味がない感覚がするし、周りの風景もL社地下本部ではなく、一寸先も見えない真っ暗闇。

 

 これ、現実じゃないな。

 外郭のバケモンが稀にやってくるのと同じ、精神攻撃の類と見た。

 騎士たちを闇堕ちさせたと噂の例のアレが、今は俺に向けられてるっぽい。

 

 こんな忙しい時によぉ! 困りますよ本当に!!

 

 となれば……ふむ。

 無意味かもしれんけど、まずは脱出口でも探すべきかな。

 

 

 

 改めて周りを見回してみると……。

 

 んお? なんじゃこりゃ。

 俺が視線を動かすのと同時に、真っ暗だった世界が塗り替わっていくんだが?

 

 闇が少しずつ捻じれ、混ざり、色付いて……。

 それらは、徐々に一つの景色を成し始める。

 

 なんだこの、どこかで見たことがあるような気もする光景。

 

 

 

 あ? 待て。

 これ、もしかして……。

 

 いやもしかしなくても、前世(コナー時代)の俺の幼少期の学校やんけ!

 

 オイオイ、俺の記憶が勝手に覗き見られてますけど!

 プライバシーも何もあったもんじゃないな!!

 

 

 

 道化師が、相変わらず感情の籠らない、不思議に間延びした声音で言ってくる。

 

「あなたのことを 教えて いっぱい いっぱい 教えて」

「え、やだ……まだ仲良くなってない人に秘密を教えるなんて、恥ずかしいよう><」

「見せて あなたのこと 教えて 何があったか」

「おい待てェ勝手に見んじゃねェ。教えてって言ったなら、まずは先方に許可取らなきゃならねぇだろうが」

「再生 開始」

「コイツ……無敵か……?」

 

 あまりに話を聞かない道化師に戦々恐々としてる俺の目の前。

 

 完成した光景に、ノイズが走り……。

 一枚の静止画だったそれは、動画のように動き始めた。

 

 

 

 ははぁ~ん、なるほどね。

 過去とか未来のあることないこと見せつけて来るタイプの精神攻撃か。

 

 うわぁ、自分の黒歴史時代とか見たくないわ~。

 今日の夜はベッドの上でジタバタ悶えるの確定じゃん。

 

 勿論そんなのは嫌すぎるので、俺は騎士に向けて語りかける。

 お~い騎士、騎士さんや~、こっそり脱出させられへん?

 

 ……あ、駄目だ、返事ない。終わった。

 そもそも俺、夜空剣持ってないじゃん。

 箱の体だったはずなのに人の体になってるし、あーもうめちゃくちゃだよ。

 

「駄目 あの子たちには 頼れない

 あなたは独り ここで 何度も 何度も 繰り返す」

 

 あらら、しっかり思考も盗聴されてら。

 

 駄目か~。うーん、困った。

 騎士たちとカルメンの助力もないんじゃ、無理やりの脱出は無理そうだ。

 

 こういう精神攻撃って、大抵はかけられた時点で相手が主導権を握ってるので、どうにも詰んでいる感が強いんだよなぁ。

 

 

 

 ……しゃーない、切り替えるか!

 

 見たいって言うんなら、見せてやろうともさ。

 過去の己の愚行上映会、精々楽しむとしますか。

 

 あ、ねえ道化師さ、キャラメルポップコーンMとジンジャーエールMある? チュロスでもいいよ。俺好きなんだよね、劇場のチュロス。

 

「…… ない」

 

 え~マジっすか? ポップコーンがない映画館とかルーのないカレーだろ。

 ってそれ、ただのライスやないか~いw

 ライスで何が悪いっつうんだよ。良いだろライス、美味いだろうが。全日本人を代表して馬鹿にする奴は3級フィクサーパンチするぞ。

 

「………… ??? 何 あなた」

 

 何って……L社専属カウンセラー兼セフィラのダァトくんだが?

 

 

 

 * * *

 

 

 

 てきとうにくっちゃべっている間に、俺たちの眼前で始まった、黒歴史上映会。

 第一部は、俺の初等部時代だった。

 

 いや~マジで懐かしい、もう体感でも20年以上前、実時間にして8,000年ちょっと前のことになるか。

 

 

 

 この時代を一言で纏めると、イジメの時代だ。

 あ、当然する方じゃないぞ。される方ね。

 

 子供ってヤツはああ見えてなかなか聡いもんで、特に自分たちとは違う異物へのセンサーがとても鋭い。

 

 俺は周りと違うこと──後にカルメンに「病に罹患していない」と評される例のアレ──をあっさりと見抜かれ、あえなく孤立。

 子供特有の残酷さで、そのままイジメの対象となったのであった。

 

 で、まあハブにされるとか陰口叩かれるとか罵倒されるとか、その程度なら可愛いもんだし、別にいいんだけど……。

 あんにゃろうどもめ、可愛くないことに、割と頻繁に暴力に走って来た。

 

 が、しかし、これはただ一方的なイジメにはならかった。

 何故なら……ああそう、今まさに映像でも出てるけど。

 俺も俺で、抵抗しないわけではなく、むしろ血気盛んに殴り返してるからね。

 

 俺の精神は俺のものだから、別に傷つけられてもいいけども……。

 コナーの体は、両親が生んでくれたものなんだ。

 都市の悪意なんぞにくれてやる程、安くはねーのである。

 

 

 

「いや~我ながら、戦士でもねえのによくやるわね」

 

 俺と道化師が眺める映像の中。

 

 俺は、髪引っ張られながらも無理やりマウントポジションを保持し、ひたすらに拳を振り下ろしまくって、相手の顔面をでこぼこの岩みてえにしてる。

 おー、今のなんて良いゲンコツだ。骨までイッてるかもね。

 

 周りのガキ共は「何コイツやば……」みたいな感じで引き気味だが、一度イジメを始めた以上引っ込みが付かないのか、なんとか数の優位でやり返そうとし。

 俺は多数の暴行を受けながらも、この問題の根っこを断つため、とにかくリーダー格の1人に絞って、相手が気絶してもなおぶん殴り続けている。

 

 Oh! 雑魚さん雑魚なりに抵抗してFight……カワイイカワイイね♡

 まあこの後結局ズタボロにされるんやけどな! ガハハ!

 

 ……しかし、今改めて見ると、子供がボコボコになってて可哀そうに見えちゃうな。

 俺の方も、あっちの方もね。

 

 

 

 ちなみに、後日談になるが。

 

 この一件は当然のように、俺が一方的に暴力を振るったということに歪められ、教員にはバチクソに怒られることとなった。

 俺も俺で打撲痕とかすごいんだけど、教師さんはめんどくさがってガンスルー。

 とにかく俺が悪いってことで、この一件は決着である。

 

 まあイジメ側が大多数だし、俺の味方なんていなかったし、証言の力が弱すぎますねこれはね。

 

 ……え? この光景を見てたクラスメイトが1人くらい、真実を密告するんじゃないかって?

 ここは都市だぞ? 善性が発露することなんてそうそうないわよ!

 

 

 

「しかしこの頃の俺、クッソ無様でございますわねwww もうちょっと相手と打ち解けるなり公権力を頼るなり穏当に収める方法はあるのに、コナーップさぁ……その乱暴は何だい?」

 

 当時の俺、かの悪名高き都市に転生したってことで、クッソビビってたし追い詰められてたからなぁ。

 

 少しでも隙を晒せば食い破られる。

 だからとにかく強気で挑み、負けても爪痕を残す。

 

 そういうプレイスタイルこそが、学生時代の孤立に繋がっていると言っても過言ではないだろう。

 

 そんなんだから、ダニエル以外に友だちの一人も作れなかったのである。

 いやまあ、このスタイルを止めてからも、自分から作ることはなかったけどさ。

 

 本当、師匠に叩き直してもらえて助かったわ。

 

 

 

「苦しい? 辛い? 痛い? 悲しい?

 あの子供 嫌い? 憎い? 殺したい?」

 

 横から道化師が聞いて来る。

 何、心配してくれんの? ありがと^^

 

「いや別に? あ、痛くはあったわ、うん。

 でもまあ、こういうのって集団心理の自浄作用じゃん? まだガキって本能に操られるお年頃だし、実際俺は異物なわけだし、仕方ないにゃあ……って感じ?

 てか俺も殴り返してるから同罪だし、むしろ精神的には大人な俺が我慢できなくて申し訳ないと思うよ」

「…… そう」

 

 おいなんで残念そうにしてやがるてめぇ。

 そこは俺の心に悪い影響がなくて良かった~って安堵しとけよ! 俺と君の仲じゃん;; 出会って1時間そこらだけど。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 あ、俺が否定したからか知らんけど、景色がぐにゃあと塗り替わっていく。

 

 どうやら第一部の上映が終わり、これから第二部に移るらしい。

 

 

 

 さて、その舞台は一体どの…………あっ。

 

「まずいまずいまずい消せ消せ消せ消せ消せ消せ」

「こわい? この記憶 こわい?」

「こわいこわいこわいこわい!!」

「??? こわがってない 嘘 それは 嘘」

 

 は? 怖いが!?

 

 だってこれから映る景色、絶対アレじゃん!

 この薄暗い廃墟見覚えあるもんっ!!

 

 あっ、あかん、視点が持ち上がって……。

 

 

 

『……へぇ。アンタの顔、始めて見るね。

 これまでに渡ったどの世界にも、アンタはいなかった……何者だい?』

 

 

 

「ぎゃああああああ紫の涙(師匠)だああああああ!!!」

「悲鳴? 違う 感情は感謝と尊敬 畏怖はほんの少し 何故? 食い違っている?」

「おい馬鹿やめろ」

 

 そういうこっ恥ずかしいことを言うのはやめてね。俺のキャラが崩れるだろ。

 

 あと、言っとくけど腹パンだけは全然許してないからな!

 それだけは主張しておくから!!

 

「? 本当に許してない 憎悪 何故? 感謝と尊敬 矛盾していない 何故?」

 

 

 

『むっ……紫の涙、イオリ!?!? あのすみません弟子にしてください、お願いします何でもします勿論息子さん探しにも協力します』

『…………ほう、思ったよりも大物が釣れたようだねぇ。

 弟子入りね。あんたが何を知ってるか聞くのも兼ねて……少し、テストをしてあげようか』

『テスト!? 頑張りまーす!!』

 

 

 

 オイ馬鹿俺やめとけ。

 それテストはテストでも、耐久度テストや。

 

 今からお前、情報吐くだけ吐けっつって腹パンされ続けるぞ。

 打撃体勢の腹パンで内臓ぐっちゃんぐっちゃんになって、いやその傷自体は塞いでもらえるんだけど、明日はずっとゲロと血反吐の混合物を吐くことしかできなくなるぞ。

 今でも時々夢に見るわあの地獄。

 

「辛い? 怖い? 嫌い? 憎い? 恨めしい? 殺したい?」

「うん!!!!! できるもんならぶっ殺してやりてぇよあのババア!!!」

「嘘 嘘 嘘 ぜんぜん怖がってない むしろ好き それじゃだめ」

「にゃお~ん……><」

 

 深層意識レベルの好悪なので、表層意識しか共有されない元魔法少女組にはバレなかったんだが……。

 どうやらこの道化師には、スケスケのバレバレらしい。

 

 そもそも記憶を勝手に引き出されてるし、俺の意識とか認識は丸々ぶっこ抜かれてるんだろうな。

 きゃあっ道化師さんのスケベっ♡♡♡ えっちっ♡♡♡

 

「????? すけべ えっち 該当しない 意味不明 ずっと意味不明」

 

 

 

『へえ、根性は一流だ。なかなか悪く……ん?』

『がっ、ぁ……ど、う、しまし、た……?』

『どこかから、見られてるね。……ちょっと目を閉じな』

『えっ……あ゛っ』

 

 あ、映像が切れた。

 

 ……そういやこんなこともあったか。

 師匠、気付いてたんだなぁ。ほんまスゴい人やでな。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 第三部! 次はなんだなんだ~?

 第二部はだいぶグロ映像だったんで、次はスカッとする楽しいヤツがいいな!

 

「何? 楽しんでる? 楽しめてる? 何故?」

 

 何故って、せっかくなら楽しまんと損ですし?

 俺のスタンスは、今できることをすること。

 脱出が叶わないんなら、せめてこの上映会を楽しむことが目標になるわけで……。

 

 おぉ、次はダニエルとの学友時代か!

 

 うんうん、やっぱここは抑えないとだよね~!

 ダニエル/ケセドのカッコ良さと尊さは、都市中に知れ渡るべきなのだから。

 

「何故? 何? わからない 何? どうして?」

 

 

 

 さて、映像が何を映したかと言えば……テスト前の俺だ。

 

 勉強してる俺。

 ずっと勉強してる俺。

 延々と勉強し続けている俺。

 半日くらい勉強し続けている俺。

 

 ……代り映えしねーな!

 もっとカメラ映り意識しろやボケ、遊びじゃねえんだぞ舐めてんのか!?

 

 

 

 そうして待つこと12時間。

 俺が就寝したことで、ようやくこの退屈な時間も終わりを告げた。

 

 そうして次の日、どうやらテスト当日が来たらしい。

 

 早朝、俺は友だちたるダニエルとの待ち合わせ場所たる、ハムハムパンパンへ。

 既に待ってくれていた彼と軽く挨拶を交わし、コーヒーを飲みながら会話を交わす。

 

『ダニエル、テスト対策はどう? ちゃんと勉強した~?』

『いや~、特別にはしてないよ。コナーは?』

『俺も全然してねえ~』

 

 してねえ~ ……だっておwwwww

 

 クッソイキってて草。お前昨日とか12時間ぶっ続けで勉強してたろ。

 これで負けたらマジで恥ずかしいぞ~俺。大丈夫? 満点取れそ?

 

 さあ、果たして結果は!?

 

『どうだった?』

『満点だね~』

『ぐあああっ、97! 負けた~~~!!』

『最後の問題、意地悪だったからねぇ。多分翼の入社試験級じゃないかなぁ』

 

 ま、負けてる~~~wwwww

 コナーさん顔真っ赤www はっずwww うおwwwww 効いてる効いてるwwwww

 

 

 

 いや~しかし、流石はダニエルだぁ(惚れ惚れ)。

 

 彼は天才 of 天才なので、俺が勝てないのは当然ではあるのだが……。

 あれだけ努力してもなお超えられないとなると、やはり俺の友だちは超ハイパー天才なんだぁと、誇らしい気持ちになるね。

 

「悔しい? 羨ましい? 嫌い? 憎い?」

「羨ましいはちょっとある。才能への憧れは止められねェ……!」

「………… 悪意 ない 全く 何故 何故 何故 何故 ???」

 

 なんでって君、友だちを嫌うわけねーじゃん?

 

 ああそっか、道化師さん、友だち少なくてそんなこともわからないんだね。かわいそ……。

 

 天才はいる。悔しいが。

 であれば雑魚は雑魚なりに、友として隣に並ぶため、がむしゃらにその背を追うだけである。

 それくらいしかできないからね!

 

 

 

 * * *

 

 

 

 さあさあ続きましては第四部!

 

 流れを追うなら、次はL旧研編か? と思ったんだが……。

 残念ながら、そこは殆どスキップされた。

 

 まあ楽しいことの多い記憶だからなぁ。仕方ない。

 できれば映像でもいいから、またみんなを見たかったんだがね。

 

 

 

 で、その代わりに見せられたのは……。

 なんとL旧研時代の末期も末期、頭襲来中の映像である。

 

 きっ、効くゥ~www 嫌なところ切り抜いてきますねコイツぁ……!

 

「嫌? 嫌い? 見たくない? 恥ずかしい? 痛い? 苦しい? 悲しい? 怖い? 憎い?」

「いやそういうんじゃないが」

「そういうんじゃない……」

 

 気持ち、しょぼんと肩を落とす道化師。

 恐らくは浸食を受けている身で言うのもなんだけど、なんか憐れに思えてきたな……。

 撫でとこ。なでなで。

 

「撫でる? 何故? 不要」

「いいからいいから」

「何? …… 子供扱い?」

「実際子供っぽいし、君?」

 

 ていうか、正確には少女かな?

 

 

 

 さて、そうこう言ってる間にL旧研襲撃編、スタート。

 

 映像の中の俺は、ガリオンに不意打ちをしかけたり、ダニエルを逃がしたり、ガリオンと長話したり、戦ったり、殺しかけたり、殺されかけたり、樹液とかいう(クソカス唾棄)ツール使ったり、騎士と共に戦ったりして……。

 

 そうしてついには、ガリオンを打ち倒していた。

 

「自分で言うのもなんだけどさ、3級フィクサーレベルの木っ端が調律者打倒は大金星すぎへん??? まあ赤い霧の相棒と考えたら当然だろうけど。

 手前味噌ながら見応えも抜群だな、さっきのダニエル編の俺に爪の垢を煎じて飲ませたいね」

 

 傍目から見ても、運の良さと懸命な足掻きが実を結んだ大健闘。師匠にすら胸を張れる戦績である。

 正直、ここだけなら自分を褒めてやりたいまであった。

 

 

 

 ……が、問題はその後だ。

 

 エリヤを逃がすことに夢中になっていた俺は、背後から近づいて来るポチに気付かなかった。

 俺はそのポチにGood Byeされ、目が覚めたら……体が箱になってしまっていた!

 

 見た目は箱、頭脳は三下!

 その名は、処理チームセフィラ・ダァト!!

 

 

 

「クッソ盛り上がらん死に方してて草ァ!! 恥ずかしくないんか? 恥ずかしいですね正直><」

「苦しくない? 悔しくない? あなたは死んだ 守れず死んだ

 あなたのせいで大勢死んだ あなたが殺した エリヤを殺した」

 

 ククク……酷い言われようだな。

 まぁ事実だからしょうがないけど。

 

「それはそう。いや~ホントここの俺、あまりにも馬鹿すぎるよな……。

 ……と言いたいところだけど、こんな不運予想とかできるかボケェ!

 あと調律者と戦った後に注意力保ては流石に無理がありますぜよ!

 これでも一切手は抜かず頑張ってたわけだし、単に都市の意志さんカスすぎ案件では?」

「………… 何故 自責と自戒だけ 受け入れてる 悪意がない

 苦痛の中で? 何故? 何故? 何故、何故、何故 何故何故何故何故何故何故何故何故何故?」

「うるさっ」

 

 どうしよ、道化師が同じ単語を吐き続ける機械になってしまった。

 生成AIのループかな?

 

 

 

 まあでも、当たり前じゃね?

 

 あれから8,000年……俺たちの体感で見ても8年よ?

 これだけの時間生きてりゃ、身体的には成長しなくとも、割り切りの一つくらいはできるようにもなるさ。

 

 エラを支え、元魔法少女たちと想いを交わし、じゃれて来るカルメンをいなし、ビナーと茶会をすること、数えきれず。

 そんな中で、俺は少しずつ、あの事件と向き合ってきた。

 

 ……未だに自責は止まないし、悲しくも思う。

 自身を愛することなんて、出来てるのかもよくわからんが……。

 

 それでも、かつてあった自らの罪を、落ち着いて受け止めることくらいならできるようになったさ。

 

 どんな雑魚だって、時間があれば成長するのだわ。

 ていうかむしろ、雑魚だからこそ、ガンガン成長しなくてはならんのですよ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ……それからも、上映はずっとずっと続いた。

 

 今はどうやら、俺の8,000年の旅路上映会が行われているようだが……。

 もう、俺はまともに映像も見ていなかった。

 

 だってこれ、無意味だろ。

 自分で言うのもなんだけど、俺が闇堕ちする未来見えないぞ?

 

 

 

 ため息一つ、隣に座った道化師の頭をガシガシ撫でながら言う。

 

「ほら、もうわかったか? 俺に君の精神攻撃は効かんのよ。

 精々が『恥ずかしっ』ってなるのが限度で、それで誰かを責めたり妄執に陥るようなこたあない。

 井戸が違うことに加えて、相性が悪いわねこれは」

 

 仮に俺が孤独であれば、そりゃあ思い悩んでいたかもしれない。

 俺は精神面でも雑魚なので、あるいは心が折れるようなこともあったかもな。

 現に、L社で目覚めたばっかの頃とか、だいぶアレな精神状態だったしね。

 

 

 

 だが。

 幸い、俺は孤独じゃなかった。

 

 隣には師匠が、友が、先達が、騎士が、変態が、仲間が、部下が、同僚がいた。

 

 たくさんの人間が、俺なんてちっぽけな存在に、何かを期待してくれていた。

 

 だから俺は、理想を張り続けられた。

 

 

 

「友だちが信じた男が。

 陰キャクソナードが信じた裁定者が。

 ギラギラした太陽が信じた月が。

 あの子たちが信じた主が。

 ……こんなことで、挫けてらんねえだろ」

 

 

 

 俺は、俺のことが嫌いだし、自分のことなんて信じられないけど……。

 皆が俺を信じてくれるのなら、それがたとえハリボテのメッキでも、張り続けることができる。

 

 誰かに信じられている限り、俺が折れることはない。

 

 ……いやはや、なんとも他者に依存しているな。

 自分一人で存在もできないとか、まさしく雑魚って感じでウケんね!

 

 

 

 ちょっとドヤ顔な俺に対し、道化師は……。

 感情のなかった声を、ほんの少しだけ震わせた。

 

「ない ない あり得ない

 絶対に そのはず 探す あるはず あなたにも 絶望が

 だって だって そうじゃないと

 …… 私たちは なんで」

 

 仮面を貼り付けた頭を振り、道化師は俺の意思を拒絶する。

 

 彼女にも彼女なりのバックボーンがあるんだろうな。

 信じたいものがあり、認められないものがあり、だからこうして今、俺と戦っているんだろう。

 

 まあ、それが俺の折れる理由にはなりゃせんのだが。

 

 

 

 再び視界の中の景色が塗り替わって行き、また別の幼少期の記録が映し出される。

 

 どうやらもっと細かく、俺の過去を探って行く腹積もりらしい。

 上映会はまだまだ続くみたいだ。

 

 「真面目だなぁ」と思いながらも、俺はその場に座り込んだ。

 

「まあ、好きにすりゃええんでない?

 でもその内、俺の信じる騎士たちが駆けつけるよ。そっちはどうすんの?」

「無理 無理 彼女たちは 私たちを 超えられない

 それは魔法少女の限界 それはいずれ至る必然」

 

 はっ、なんだ、そんなことかよ。

 そこに関しちゃ、なんら問題はないね。

 

「君は知らないかもしれんけど、彼女たちはもう、『魔法少女』に縛られる存在じゃないんだわ。

 そんな名前に、肩書に、宿命に、素直に従うような子たちじゃない。

 ふっふっふ、今に見てな? 彼女たちは君の予想なんて、当たり前みたいに越えてくれるよ」

 

 

 

 彼女たちが俺を信じるように。

 俺もまた、彼女たちを信じている。

 

 騎士は生真面目なんで、少なからずショックに感じるかもしれんけど。

 王は絶対に折れずに、彼女を引っ張り起こしてくれるし。

 女王は、たとえ泣きながらでも、自身の意義を果たすだろう。

 あとは……まあ、カルメンだって何かしらしてくれるだろう。今のアイツマジですごいしね。

 

 なにせ一度闇に堕ちながら、しかし自らの足で再び立ち上がったんだ。

 強い女たちなんだよ、俺が愛したのはさ。

 

 

 

 で、実際に立ち上がってからは……まあ……。

 

 なんか上手いこと救出作戦立ててくれてるだろ、多分!

 

 どうやらリブートも起こってないみたいだし、俺の再起動システムが自動的に動いてない以上、まだ生きてるって認識されるはずだ。

 きっといい感じに鎮圧して、助けてくれるよ、うん!

 

 てか最悪俺ごと破壊すればいいしね。

 道化師から解放されるなら、それはそれで。

 ……まあ、その道は彼女たちが嫌がりそうだし、エラも泣くと思うので、できれば無事な助けてほしいってのが本音だけどさ。

 

 更に言っちゃうと、最悪俺が救出されなかったとて、問題はない。

 

 今はまだ管理人到着前、施設が完全に壊滅すればリブートだもの。

 そうなったらそうなったで、俺は初期状態に戻り、当然道化師のこれからは解き放たれるだろう。

 後は、また騎士とカルメンに記憶を同期してもらうだけだ。

 

 

 

 そんなわけで、この拘束強制上映会は、どうあったって時間制限付き。

 もうしばらくすれば、俺は無事現実に戻るか、再起動するか、あるいはリブート開始地点に戻る。

 

 俺としてはビビる要素なんて皆無であり、道化師に悪意が欠片もないことも合わせて、緊張感ゼロ。

 むしろこの上映会を楽しむ余裕まであったんだが……。

 

 

 

 ……残念ながら、そうは問屋が卸さないらしい。

 

「駄目 駄目 戻れない 戻さない

 ここでは 時間は遅い とっても とっても」

 

 首を横に振る道化師の言葉に、俺は思わず後ろ頭をカリカリ掻いた。

 

「……あ、もしかして、数十数百とかじゃなく、何万倍何十万倍も時間が遅く過ぎる感じなの、ここ?」

「そう ここではずっと 長く 永く 繰り返すだけ

 何度でも あなたが闇に堕ちるまで 私たちになるまで 繰り返すだけ」

 

 ああ~、そういうね。

 騎士たちもここで、ず~っとひたすらトラウマを掘り返され、塩を塗りたくられ、その最果てに闇堕ちした感じか。

 

 まあ、俺には効かないけどね、それ。

 

 

 

 ……てかさ。

 そもそもこれ、コンセプト崩壊してません?

 

「いやあの、すみません。君ってアレでしょ、魔法少女たちが絶望に堕ちた、成れ果てとか集合とか概念とかでしょ?

 俺って男だし……いや男の職員も乗っ取られたから性別は関係ないのか?

 それにしても、俺ってばそもそも人間じゃなくて箱だし、今見たように絶望もしないから、どうやったって取り込むの無理では?

 なんかもう全方面詰んでね?」

「………… ………… …………」

「黙るなァ! さては何も考えてなかったなポンコツめ!

 どうすんねん、俺魔法も使えんし少女でもないし元男の箱機械やぞ!!! タイトル詐欺が酷すぎて景品表示法に引っかかるでコレ!!」

「………… 大丈夫 たぶん そういうのも 需要ある」

「分かってんじゃん君」

 

 現代において、基本的に性癖は自由。

 闇堕ち魔法少女セフィラ(男)も、間違いなく需要はあることだろう。

 

 ケセドとかはすげえ需要ありそうだよね。見たい!

 ネツァクとイェソドも見たい見たい見たーい!

 ホクマーは……うわきつ。

 ケテル? …………まあ、アダムならギリギリやってくれそうではあるか。

 

 え? 何?

 ダァト?

 変なこと考えさせんな吐き気がする。

 俺にそういう需要あるわけないだろ。

 

 

 

*1
箱ボディの大きさは生前の身長とほぼ同じ

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