それからも随分長いこと、俺の人生上映会は続いた。
「腹も減らないし垢も出ないし、いわゆるWarp列車的な状態か。精神世界だから当然っちゃ当然だけど。
これならまあ、数年くらいは普通に過ごせそうだな。暇潰し用の映画もあるし」
「強がり 無意味 あなたも折れる どうせ折れる 自分の苦しみに 自分の悪性に 耐えられる人 どこにもいない」
「ちなみに俺の騎士ってどれくらいで堕ちたん?」
「3か月と少し」
「だいぶ耐えてて俺は誇らしいよ」
「女王 5日」
「メンタルよわよわなところも愛らしいな!」
「そろそろ観念してポップコーン実装して♡ しろ」
「拒否 必要ない」
「俺、実はポップコーンが怖くてぇ……あと熱いお茶ならぬ冷たいコーラも怖くってぇ……!」
「嘘 嘘 嘘やめて 無駄 意味ない」
「真面目な話、一時的に敢えて食欲とかの直接的刺激を満たすことで、刺激の変化のなさに絶望させるのは有用な戦術だと思うんすよね。
そもそも俺を堕とす算段なんて全く付いてないんだし、色んな側面からアプローチしていかないとどうしようもないと思うが?」
「…… 何味が欲しい」
「キャラメル^^」
「何故? 何故 悪意持たない? 何故 恨まない? 何故 憎まない?」
「俺、最強だから。3級の戦績、ここに刻む──!」
「嘘 嘘 あなた そんなこと 思っていない 最強なんて 認めない
あなたには 自信なんてなかった ずっと 今もそう」
「真面目な話すると、俺はそーゆー奴なんだよ。都市の病に罹患してないうんぬんかんぬん」
「………… 理解不能 あなたは 何故 私たちは 何故 何故 なんで」
「見てよこれ、俺結構頑張ってね? 抑止力なし環境でALEPH相手に持ちこたえてますよこんな雑魚が」
「なんで こんなこと? 意味がない 逃げればいい」
「コイツ野放しにしたら、まあまあ研究員が死んだでしょ。でも俺ならそれを防げるじゃん。だから、その時俺がすべきことをしただけ」
「構わない はず あなたには関係ない 仕方ない それ 自分を投げだす理由に ならない」
「は? いやいや、逆逆ゥ!www
目の前にできることがあるのにそれをスルーするんだから、関係ないことないし、仕方なくもないでしょ。
仮にそれで自分が犠牲になるとしても、それは避ける理由にゃ到底なんないよ」
「………… わからない あなたのこと なんでそんなに なんで…… あなたは あなたが …………」
「悩み込んじゃった!」
「なんであなたは カルメン 抱いた?」
「直截に言うねぇ~~~君! 危うくカルピス噴きそうなったわ。
……別に深い意味とかはないよ。ただ、その瞳に抗えない魅力を感じた。綺麗に感じてしまった。だから……その輝きに触れたくなっちまった。それだけ。
あ、これ、カルメンには秘密だからな?」
「………… 綺麗 綺麗って 何?」
「うーん、誰かとか何かとかを見て、すげーなーって思う感情、かな?
その中でも、『もっと見たい』って思うようなもの」
「あなたがカルメンに感じたもの それは ただの 綺麗?」
「……さてね。随分と昔のことで、ハッキリ覚えてねえからな」
「嘘 あなた 今でも その時のこと 忘れられない
赤い光 決死の覚悟を固めた 人の光 あなたが得られない輝き
まぶたに 脳裏に 焼き付いてる 何より綺麗なもの 気高く 美しい 本当の光」
「隠し事できないってめんどくせえなあ!!」
「それが 綺麗 …… 綺麗 ……」
「…………」
「なんか最近黙っちゃいがちだな。どしたん、話聞こか? てかLineやってる?」
「…… どうして どうして そう する?」
「そうって、チャラ男ムーブ? ガツガツ行くのは受け手としちゃ怖いだろ? できるだけ怖がらせないようにふざけて当たろうっていう気遣いですよ」
「違う そうじゃない なんでそんなに そんなに 人のためにばかり
…… 私たちと違う あなたはなんで そんなに そんなに 綺麗?」
「俺が綺麗だぁ? ……いやまあコナーの顔立ちは確かに綺麗だったから、そこは両親に感謝だな」
「ふざけないで」
「ごめんて。……ただ育った環境が違っただけだ。
俺にはいわゆるスーパーエゴってヤツを獲得するだけの余裕があって、時間があった。
この都市に生きる人、そしてその人々の心にある君たちには、それがなかった。
ただの巡り合わせ、運が良かっただけだ。俺が特別なわけでも、君たちがダメなわけでもないよ」
「…………」
「羨ましい?」
「少し 違う 羨ましい じゃない
ただ …… 私たちの傍に あなたが いれば …… 何か 違った?」
「どうだろうな。俺は全知でも全能でもない故、どうしたって取りこぼしは出たとは思うけど。
まあそれでも、その場でやれることはやってただろうな」
「………… そう
訂正 羨ましい 合ってる
私たち あの子たちが 羨ましい
あなたがいれば 私たちも きっと …… 今と違う 何かが あった」
「今からでも獲得すりゃええんちゃう? その『何か』ってヤツ」
「………… 遅い もう私たちは」
「遅くなんてないと思うがね。少なくとも、君にとっては」
「………… …………」
* * *
時間感覚は曖昧だったが……体感、1年から2年くらいかな?
俺の人生上映会は、無駄にだらだらと続いた。
道化師は、そりゃあもう研究熱心な子だった。
俺がコナーとして都市に生まれてからをつぶさに観察し、必死に精神の欠陥を探そうとしていた。
相手を闇堕ちさせるキャラって、みんなこんな感じで、必死に相手の研究してるんだろうか?
そう考えると、闇側の組織もなかなか大変だな~と思うわけ。
で、一方、俺はと言えば。
そんな彼女を揶揄ったりけらけら笑ったりつつ、その黒い布に包まれた頭をガシガシ撫でていたのだった。
子供ってのはどれだけやんちゃでも可愛いもんだ。
殊にそれが、真面目な子であれば尚更ね。
原作において、虚無の道化師がどんな存在なのかは、明示されていなかったが……。
『道化師は全ての者が歩んだ道を辿りました。その道の終わりはいつも自分でした。』
『彼女らが集まって自分なのか、自分が彼女らに似たのか知る術はありませんでした。』
あの文章や、彼女が断片的に語る内容からして、恐らく。
彼女は、かつて魔法少女たちであったものであり、魔法少女たちが辿る共通した「終わり」であり、そしてそれらが集まった概念的な存在なんだろう。
要するに、まどマギの魔女の的な意味での、魔法少女の成れの果て、その集合。
たくさんの悲劇と悲しみの凝縮、闇堕ちした魔法少女たちの合体形態とでも言おうか。
騎士が絶望に、女王が憎しみに、王が貪欲に、従者が憤怒に堕ちたように……。
魔法少女たちはいずれ、現実とかエゴイズムとかの、何らかの闇に呑まれてしまう宿命にあるらしい。
この闇堕ちを引き起こすのが、虚無の道化師であり。
闇堕ちした魔法少女たちの、なんかこう、無念とか慚愧とかそういう負の精神的エネルギーみたいなもんが、虚無の道化師となり、また魔法少女たちを堕とす。
鶏が先か卵が先かはわからないが、そういうループが完成しているわけだ。
ちょこちょこ彼女と話してる感じ、この仮定は大きくズレてはいないっぽい。
いやまあ、ガリオン/ビナー語に並ぶくらい難解な喋り方をしていやがりますので、あくまでも推測に過ぎないんだけど、多分ね。
要するに彼女は、加害者であると同時に、被害者でもあり……。
何より、まだ大人ですらなかった少女たちが集まって生じた、子供なのだ。
そんな子に何をされようと、大人ってのは笑って許すもんですよ。
……え? 騎士みたいに成人済みで魔法少女化する例外もいるから、一概に彼女が子供とは言えない?
うるせえ! 大部分は少女なんだから実質少女なんだよ!!
そんなわけで。
俺としちゃあ彼女を恨む気持ちはないし、バチバチに敵対することもできない。
今はもう抜けてるみたいだけど……。
騎士や女王、王だって、かつては彼女たちの中にいて。
そして今も、騎士たちのような子が、たくさんたくさん、その内にいるんだろう。
責められるもんか。
俺はそんな元魔法少女たちを愛するって、あの日に決めたんだからな。
……ていうかそもそも、「この子」には全然悪意とかないしね。
ただ、その時すべきことをしてるだけ。
それを恨むってのは、筋違いですらあると思う。
「なんで君は、騎士たちとか職員たち、そして俺を、虚無に堕とそうとする?」
今も俺の隣に座り、映し出される人生を見続けている道化師に問いかけると。
彼女は映像から目を離すこともなく、仮面の下の口を開く。
「…… 理由 ない 私はそういうもの
私たち 知ってる 直感で理解する
この道しかない 他に道は ない」
まともに雑談もできなかった初期に比べると、随分と流暢に話をしてくれるようになったもんだ。
まあ彼女からすれば、余りにも俺の思考が意☆味☆不☆明なものだったが故に、理解促進のために会話を始めてくれたのかもしれないけど……。
最近では、特に意味のないことでも、普通に話をしてくれるようになった。
つまりは……ただ鏡の前で自分らしく在るのではなく。
俺の言葉を聞いて、言葉を投げ返してきているのだ。
俺は今、虚無の道化師と、繋がりかけている。
かつて彼女の一部であったのだろう騎士や女王、王とも繋がっており。
ここで長いこと、一緒に時間を過ごしてきた。
それも、だらだらと時間を浪費したってわけじゃない。
道化師は自分から、俺の人生を見て、俺の思考を覗き、俺を理解しようとした。
そして俺はそんな彼女の言葉を聞き、意図を探り、こっちもこっちで理解しようとしたんだ。
互いに互いの意思を重ね、理解を重ねた。
こうして繋がるのは、ある意味当然の結末だったと言えよう。
……そして、それが進んだからこそ。
彼女をこのままにはしていられないと、そう思うわけだ。
そうしないと、他の誰かが不幸になるとか、俺がここから出られないとか、そういう都合は一旦横に置いておくとしても……。
「彼女」のためにこそ、俺は手を伸ばさねばならない。
「理由もないんなら、やめたら?
別に闇堕ちさせなきゃ自分が死ぬ、ってわけでもないんでしょ?」
道化師は、俺の言葉に返事を投げ返すことなく……。
俺の過去から、今ここにいる俺へと、視線の矛先を移した。
俺はそんな彼女に、何でもないことかのように、軽く語りかける。
「君がそれをする必要があるんなら、別にいいと思うよ。
俺は自分の人生とか命の使い方決めたヤツを否定しないって決めてるし。
でも、ただ直感に従ってなんとなく、意味もなくやってるなら、他の道に進んでもいいんじゃない?」
……彼女の顔は、涙を流す道化師の仮面に覆われ、覗けない。
けれど、今、その意識が俺の言葉に向けられていることだけは確かだ。
ぼんやりとした集合的意識でもなく、ただ義務的に事を為す機構でもなく。
「彼女」は今、俺の言葉を聞き、解釈し、理解しようとしている。
「…… 私たちは そういうもの だから」
「それは自己存在定義か? いーや違うね、君のそれはあくまで、生まれ持った立場や与えられた指向性に過ぎない。
たとえ一度そういう名前とそういう立場になったとしても、違う名前を名乗り、異なる意義を持つことは許されるはずだ」
彼女の意志で、自分はそういう存在だと定義し、規定したわけじゃない。
ただ彼女たちが、正しいと思っていた道を見失い、世界のシステムの一部として組み込まれ、それ以外が見えなくなっただけ。
であれば、改める余地もあるだろう。
「愛と正義の魔法少女」という在り方に固執し、それでしか自分を認められなかった女王が、今は愛だなんだと楽し気に笑っているように……。
人は、他者を通して、自分を認めることができるんだから。
「私たちは 私たちだから
私たちを 増やさないと それが 自然だから」
「そうして心に空虚さを詰め込んで、それで君は満たされるのか?
それはただ、君たちをいたずらに傷つけるだけだと思うけどな」
ただそうすべきと悲劇を起こし続けて、その先には何がある?
虚ろに数字が増えていくだけの、文字通りの虚無ゲーだろう。
幸福を得るためには、自身の満ちるを知るため、時に他の尺度や視点が必要になる。
全てを貪欲に食らい、欲を満たすことで幸福を得ようとした王が、再び友だちと、そして俺と並び立つことを、この上なく喜んでくれているように……。
人は、他者を通して、歩むべき道を見定めることができるんだから。
「私たちには これしかない これを繰り返すしか ない
心を 空っぽにしないと 恐ろしい 何もかも また 喪ってしまうだろうから」
「それ以外の在り方が見えてないだけじゃない?
また喪失を味わうのが怖いから心を閉ざし、もはや何も得ようとせず、ひたすら誰かに喪わせ続ける。
……ちょっとばかり寂しいぜ、そんなの」
かつて自分の味わった喪失を広めるだけでは、ただ世界が昏くなるだけだ。
苦痛の連鎖は、己の意志で断ち切らなきゃならない。
いつか、新たにできた大切なものまで、喪ってしまわないように。
かつての失敗から自分を信じられなくなり勇気を失った従者が、きっといつか誰かのために、勇気を込めた偉大な一歩を踏み出すように……。
人は、他者を通して、恐怖に打ち勝つ強さを得ることができるんだから。
「…… 私たちは 悪 アルカナ 愚者 虚無 だから 駄目
そういう定め そういう呪い そういう繰り返し 終わらない 繰り返すだけ」
「一度グレたからって、更生しちゃいけないワケじゃない。
むしろ、そっちの方が評価されることが多いんだぜ? ヤンキー捨て犬理論とか、光堕ち展開とか、まさにその筆頭だ。
悪因悪果を断ち切るのに、遅すぎるなんてことはないよ。絶対に」
彼女たちはきっと、苦悶の涙を流し過ぎた結果、黒く深い海の中に沈んでしまっているんだろう。
一人では溺れて顔を出せないってんなら、俺も潜って手を差し伸べようじゃん。
絶望にまぶたを閉じ、誇りを空っぽにしてしまった騎士に、いつかの日、小さな灯を宿せたように……。
人は、他者を通して、かつての誇りを取り戻すことができるんだから。
……だから。
どうか今、改めて、考えてほしい。
ただ直感を信じるのではなく、君自身の意思で選んでほしい。
君が本当にしたいことと、歩んでいく道を。
俺に手伝えることなら、なんでも手伝うからさ。
* * *
俺の言葉を受けて、道化師は口ごもり、少しの間口を閉ざした。
そして再び開かれた仮面の奥の口からは、これまでのように無感情ではない、微かに動揺の籠った言葉が届く。
「………… なんで そう してくれる?
ここに閉じ込めて あなたを 私たちにしようとした 敵に
これまで 何度も あなたの仲間を 私たちにしてきた 敵に
なんで …… なんで そんなに 温かい感情を 向ける?」
温かい感情、ときたか。
俺はそんなご大層な動機で動いてるわけじゃないぞ?
ただここから脱出するためには、君といい感じに和解するのが最適解だし……。
「嘘 嘘 嘘 嘘ばっかり
あなたは 自分のことなんて どうでもいい
あの子たちと 私たちが 幸せなら 少しでも救われるなら 自分はずっと ここにいてもいい なんて そう思ってる
みんな知ってる あなたのその心 言葉じゃなく 行動が示してる
なのに なんで嘘を吐く? 意味がない 誰も騙されないのに」
…………くそっ、本当にやり辛いな。
なんで君に優しくするかっつったら、そりゃまあ……同情しちまったからだ。
可哀想だと思ったし、救われてほしいと思ったし、何より子供には幸せになってほしいって、そう思ってるからだよ。
それ以外に理由なんぞいるかよ。
そもそも俺は、綿密に組んだチャートをその場の気分とノリで破り捨てる、生粋のオリチャー魔だぞ?
チャート違反だろうが相手がアブノマだろうが元々敵だろうが、そんなつまんない理由だけでやめるわけないじゃんね。
で、なんで嘘吐くかっつったら……。
恥ずかしいからに決まってんだろ!! 言わせんな尚更恥ずかしい!!
大人にもなって尚、こんな情に流されまくってガッバガバにやらかしまくる意志薄弱っぷりも!
誰かのことが好きだとか、だから助けたいだとかいう、あまりに安直で理性的に判断できてないガキみてえな理屈も!!
ぶっちゃけ自分で自分が恥ずかしいですよ、本当にねぇ!!!
「………… 違う あなたは …… あなたは 恥ずかしくない
空っぽじゃない キラキラして 眩しくて
とても 綺麗 …… 綺麗な 心」
「そりゃありがとねぇ!」
なーんで助けようとしてる相手に慰められてんだ俺ぁ!
……一度、ぶんと首を振り、気分を切り替える。
柄にもなく照れてる場合じゃないわな。
「……それを言ったら、俺だって言えるわ。君たちは綺麗な心を持ったヤツだったって」
「綺麗な 心? 何故? 私たち 何もない からっぽ」
「今はそうかもしれないけど……君たち、昔は違ったんだろ?」
繋がってる今ならワンチャンできるかと思い、軽く手を振ってみると……。
……あ、できた。
思ったより汎用性があるなこの空間。
「これ は」
「昔の君たち。それぞれの理由で、悪と戦ってた少女たちだ」
先程まで俺の過去を映してた空間には、数多の少女たちが悪と戦い続ける雄姿が映っていた。
……いや、本当にすごいな。
何百何千という数の、善の心を持つ子供たちが、人を守ろうと奮闘している。
都市という濁り切った水の中で、こんな眩しい光景はそうそう見られないぜ。
「最後に何かの感情に囚われたり、たとえ悪いことをしたとしても。
それだけで、君たちのこの戦いが、輝かしい日々が消えるのか?」
「違うね。仮に今、正しい道が見えなくても、歩んで来た道自体がなくなるわけじゃないんだから」
「君たちは確かに善を為そうとする、強く優しい少女たちだった。
本当に……すぐにブレちゃう俺じゃあ絶対できない、立派なことだよ」
言葉もなく、ただ映像を……かつての自分たちを見る、道化師。
その頭を優しく撫でながら、俺は語る。
「君が今のままでいたいと、君自身の意志で思うのなら、俺は止めはしない。
でも……少しでも思うことがあるのなら、手を貸すよ。
魔法少女たちがそうであったように、人間は助け合いだろ?」
結局は、この子が何をどう望むか。それ次第だ。
……ある意味で、彼女の境遇は、アンジェラのそれに近い。
本当に長い間、役目に縛られてきたんだ。
自由に自分を決める権利くらい、与えられて然るべきだろう。
「………… でも 私たち は もう」
「おおっと、今は『君たち』の言葉を聞く気はないんだな、これが」
彼女の躊躇いがちな言葉を聞きつつ、俺はするりとその手を下ろし……。
彼女の顔を覆っていた、ピエロの仮面を取り払う。
「えっ あっ 何を」
……なんだよ。
ビックリするくらい綺麗な顔じゃん。隠すなんてもったいない。
まあ魔法少女ってみんなクッソ美人なんだけど……。
その集合兼、ラスボス兼、悲劇のヒロイン的な存在だからだろうか。
彼女は幼いながらも、すごく儚げで淡い、完成された美、という感じの顔立ちだった。
のっぺらぼうだったらどうしよう、って思ってたけど……。
ちゃんとあるじゃんね、君の個性。
「俺は『虚無の道化師』に聞いちゃあいない。
君に、今目の前にいる女の子に、聞いてるんだよ。
たくさんの少女たちが折り重なった結果そこにいる、全であり一であり、けれど一人の少女としての自我を持つ君。
善き存在であった彼女たちが集まって織り成した、ただ一人の君に」
「わた し は ……」
正直、ここに来るまでは、予想すらしていなかったけど……。
道化師は、明確な人格を持っていた。
それも、一人の少女としての人格を。
きっと目の前の少女は、かつての魔法少女たちという群体、その一部であり表象に過ぎないのだろう。
けれど同時、彼女は単一の存在としての自我を有してもいる。
多くの魔法少女たちから、その想いと苦痛と能力と記憶を引き継いだ、彼女という個人の人格を有しているのだ。
であれば、苦痛の連鎖を断ち切ることは、きっとできる。
彼女の……そして、彼女の背を押す魔法少女たちの、意志次第で。
彼女はこれまで、自由意志の一つもなく、ただ世界の意志に従っていたんだろう。
「虚無の道化師」という存在の核であり、アバター。
圧倒的な力を持って魔法少女たちを堕落させる、世界の循環の一つとして。
俺には、どうにもその姿が、アンジェラと被って見えてしまう。
心の底で愛を渇望しながらも、結局最後までそれを得ることなく、ただ淡々と役目を果たし続け……。
その果てに、自らの心さえ壊しそうになっていた、こことは違う世界のアンジェラ。
俺が今、彼女の手を取らなければ……。
いつか目の前の少女もまた、アンジェラのように、壊れてしまいそうで。
そんな状況を看過できる程、俺は大人ではなかった。
だから、その意志を問う。
彼女が自分というものと、そして本当に欲するものについて、考えられるように。
彼女たちが、新たな道を踏み出すだけの勇気が出せるように。
そして……俺が、それに寄り添えるように。
白銀の瞳が細められ、俯き。
しばらく……長いこと、考え込んだ。
今までただ直感に従ってきた彼女にとっては、考えること、決断を下すこと自体が重荷かもしれない。
あるいは、ただ苦痛を与えることしか世界との関わり方を知らない彼女には、その先のことが全く想像も付かないのかもしれない。
けれど、彼女は俺に何かを乞うこともなく。
ただじっと何事かを考え込んで、きっと彼女の中にいる多くの彼女たちと、意思を確かめ合って……。
「…… ねえ あなた」
しばらくした後に顔を上げ、俺に尋ねて来た。
「…… それで 私たちは …… 違う
彼女たちは 満たされる?
あなたと一緒にいれば あの子たちのように
彼女たちの苦痛 それへの対価は 与えられる?
あなたは 彼女たちに ……
私に 希望を 与えてくれるの?」
……全く、難しいオーダーをくれるものだね。
何百何千人という彼女たちの苦痛に相応しい対価とか、そう簡単に用意できるものじゃあないだろう。
そもそも俺は凡人なもんで、届く腕の範囲はそう広くないってのにさ。
なーんでみんなこんな奴に頼るかねぇ?
もっと良い人、きっといますヨ!
……でも、まあ。
「他の良い人」なんて都合の良い存在がいなくて。
今この瞬間、やれるのが俺だけだって言うんなら、やろうとも。
多くの少女たちの、涙と苦痛。
その連鎖の中に生まれたという意味じゃ、この子は都市の子供たちと、何も変わらないわけで。
こんな俺で良ければ、全力を以て、君に希望を届けよう。
君たちが味わってきた苦痛を忘れられるくらい、希望で満ちた未来を見せよう。
大人ってのはいつだって、子供の規範であり目標。
その道を照らして示すのは、俺の役目だろうから。
「………… そっか
うん わかった」
俺が床に置いていた手に、彼女の手が重ねられる。
小さくて、柔らくて、少しだけ冷たい手。
それが悲しくて、きゅっと握り込む。
仮面の向こうの表情が、少しだけ……微笑んでくれた気がした。
「正義と勇気に満ちて 愛と幸福をくれる 嘘つきだけど 綺麗な心の あなた
誰かのために 自分の闇に耐えられる 優しすぎる あなた
騎士と 女王と 王と 従者 彼女たちの一欠片が 信じた あなた」
「どうか 空っぽの私に 彼女たちに あなたの 希望を ください
この虚無を あなたで 満たしてください」
「代わりに 私は 彼女たちは
あなたと共に道を歩み あなたのために在ります」
……あなたのために在るとか、ちょっと重くね?
「幸せにしてください」。これだけで伝わります。
まあとにかく、これからよろしくなぁ!!
「よしそれじゃあケツ出せェ!!」
「あ 待って そっちは 待って 嫌じゃない 嫌じゃないけど シャワー浴びさせて せめて」
「違わいアホ!!! 悪い子が善堕ちする前には、まずお仕置きって相場が決まっとるんじゃい!!!
オラッ行くぞ3級フィクサーお尻ペンペンだ!! 騎士たちが(俺を)助け出してくれるまで続けるからなァ覚悟しろォ!!!」
「待って 待って 嫌 やめて こわい 打撃体勢は本気すぎる 助けて騎士 今すぐ助けて お願い へるぷみー」
これにて魔法少女族のアブノマ、名実ともに全陥落となります。
『O-01-291-02』
勇猛な犬は、結局見つかることはなく。
ただ灰色の月明かりだけが、私の知らない道を照らしていたのです。
識別名:兆しの道化師
ランク:ZAYIN
E-BOX:32
クリフォトカウンター:4
E.G.O:兆し
武器
ランク:ALEPH
装備条件:全ステータス130以上、ダァト抑制済み
ダメージ:???(18~25)
速度:最高速
射程:超遠距離
能力:装備中、同部屋内の自分を含む味方に、攻撃威力上昇(1.5倍)、全属性耐性上昇(-0.2)、移動速度上昇(1.5倍)を付与。パニック状態の職員にはWHITE属性で攻撃し、その他の鎮圧対象には最も有効な属性で攻撃する。
防具
ランク:ALEPH
装備条件:全ステータス130以上、ダァト抑制済み
RED:0.5(0.25)
WHITE:0.5(0.25)
BLACK:0.5(0.0)
PALE:0.3
能力:同武器と共に装備することで以下の効果を得る。
・攻撃時に部屋内の自分を含む味方のHP・SPを回復
・RED、WHITE属性耐性が向上
・施設内を移動する際転移を使用可能
・BLACK属性と殆どの状態異常に免疫