「……と、そんなわけで。
憤怒の従者改め勇気の従者、そして虚無の道化師改め兆しの道化師。
2人が新たに仲間になりました~! ぱちぱちぱち!」
「「「「えぇ……」」」」
俺の言葉に、その場にいた元魔法少女4人からは、困惑の声が漏れた。
あれーおかしいね、誰も拍手してくれないね。
「私 拍手する ぱちぱちぱち」
ありがとね道化師ね。
君、何気に結構気を遣えるタイプだよな。偉いぞ~。
今回の反復会議は……いや、恐らくはこれからの反復会議も、だろうが。
これまでにない程の大人数での開催となった。
俺ことダァトとアンジェラの、メインパーソナリティに加え。
すっかりスタメンとなった、騎士、女王、王。
そこに新たに加わったのが、従者と道化師。
なんと計7人。脳内カルメンも加えると8人である。
ここまで増えると、結構広めの俺の私室も、流石に手狭に感じてしまうね。
「消えとく? 私 省エネ スペース開けれる」
そーいうところで気を遣わないでいーの。
幸い、各自ある程度自由に過ごせるくらいのスペースはあるし、こういうのも和気あいあいとしてて悪かないよ。
そんなわけで改めて、新たに加わった新規メンバーを見やる。
まずはやはり、憤怒の従者、改めて勇気の従者か。
俺が視線を向けたことに気付くと、ニコリと笑みを向けてくれる。……シンプルに美少女なんで破壊力ばつ牛ンだ。
彼女とお話すること体感8年、実時間で8,000年余り。
俺としてはあんまり自覚がなかったんだけど、どうやら従者とは、あともう一歩で繋がるってところだったらしく……。
俺が虚無の中からおはようした時には、既に覚醒していらっしゃった。
俺が発破なんてかけなくても、騎士たちや俺のため、自分の力で立ち上がったのだ。
頭の良さといい、その迸る勇気といい、素直に尊敬です。
彼女は他のメンバーに比べると、衣装や見た目の変化が大きくない。
ボーイッシュでシンプルだった服装が、ガーリーな落ち着いた意匠も取り入れるようになり、各所に付けられた緑色の宝石が澄んだ輝きを放っていること。
そして……彼女の最大の特徴でもあった、目に巻かれた包帯が解かれ、涙も斑点もない綺麗な赤い瞳が見えていることくらいか。
性格は相変わらず理知的で冷静沈着、何よりとても賢くて、頼り甲斐がすごい。
いつもの初回アブノマ抽出確定ガチャで、元魔法少女組4人と共に道化師の化身が現れた時も、彼女が咄嗟に止めてくれなければ大惨事になっていただろう。
前回の反復、ごたごたあってまともに説明もできないままリブートしちゃったので、道化師も仲間になってくれたことを伝え損ねてたんだよね。
いやぁ本当に、彼女が冷静で助かったわ。
……仮に応戦であったとしても、できればもう、道化師には望まない戦いをしてほしくはなかったからね。
そして、そんな騒動を起こした張本人であり、彼女たちの敵でもあったもの。
元魔法少女組とアンジェラの視線を独占している彼女こそは、虚無の道化師、改め兆しの道化師。
彼女は従者とは違って、見た目の変化がかなり大きい。
かつては異様に細く長かった手足は人並みのものに収まり、小柄な体躯と併せてより幼く見える。
全身を覆い隠していた道化師然とした服装は、白黒を基調とした可愛らしいワンピースに変わり。
以前は帽子に包まれていた、大きな二房の白いツインテールは、今やその艶やかさを露わにしている。
以前から変わってない点なんて、道化師の仮面を被ってることくらいで。
それだって、黒い涙を流す歪な道化ではなく、どこか子供の落書きのような可愛らしいペインティングの為された、笑顔の仮面となっている。
総じて、以前のような異様で不気味な雰囲気は失われ、お祭りの日の子供みたいな感じでとてもかわいい。
歳の程は、恐らく15にもならないくらいに見えるし、どうしても庇護欲をそそられてしまう外見である。
で、その性格はといえば……。
いや、正直まだ付き合いも短くて、ちょっと掴み切れてないけども。
あの精神世界で話していた感じ、「虚無の道化師」という役割から飛び出した彼女は、思いの外愉快な性格をしてると思う。
世間知らずでマイペース。
子供らしい無邪気さを持ちながら、同時世界の冷たさや醜さも理解していることもあり、不思議な感じの子である。
俺がジロジロ見ているのに気付いたのか、あるいは最初から気付いていたのか。
道化師は薄い胸を張り、手を当てた。
「どう 綺麗?」
「うん、綺麗だと思うよ」
「ふふ 嬉しい とは言っても この体は コミュニケーションのための 仮のもの だけど」
「まあ君、本来は実体ないしね。
むしろ用意してくれてありがとね。窮屈かもだけど、こっちとしては助かるよ」
「いい パパと 触れ合うの 楽しみだったから」
「「「「「『パパ!?』」」」」」
「うるさっ」
「びっくり した」
今度はアンジェラとカルメンまで加わって、大声が降り注いだ。
良かった~、ダァトフロアが他のフロアから離れてて。
もし他の部署に近かったら、騒音被害で壁ドンされてたかもわからんね。
「いや、なんかパパ呼びしたいってさ。勿論血縁関係はないんだけどね」
「私に 道を教えてくれる 導いてくれる 育ててくれる だからパパ
ぱ~ふぇくとに 正しい解釈」
「言う程正しいか???」
俺のツッコミを気にした様子もなく。
道化師はその仮面を口元まで押し上げ、俺が作って来たフライドポテトを、ぽいぽいとちっちゃな口に詰め込んでいく。
あらあらもうもう、口元ケチャップ塗れやんけ。よっぽど気に入ってくれたらしい。
「もうちょっと落ち着いて食べなさいな。ほら、拭いたげるからこっち向いて」
「む まだ食べる こういうの ジャンク? 好き」
「みんなの分がなくなっちまうでしょうが~」
「これ美味しい 食べたい パパ もっと作って
ポップコーンの お礼 ね ね いいでしょ きらきら〜」
「仕方ないにゃあ……」
仮面越しだというのに、きらきらお目目でねだってきてるのがわかる。
なんなら口にも出してるし。
まったく、可愛いガキがよ! おねだり上手だね♡
作った飯を美味いと言われて喜ばない奴はいないわけで、とても愉快な心地。いっぱい作ってあげようじゃないの。
幸い、L社地下本部の食堂には、結構しっかりしたフライヤーもある。
フライドポテトは王のお気に入りメニューってこともあって作り慣れてるし、ちゃちゃっと用意しますか。
さて、そんなフリーダムな道化師に対し、元魔法少女組は……。
まあ当然と言うべきか、目を剥いて驚いていた。
「ほ、本当に、道化師が子供のようになっていますね」
「巨悪とかラスボスとか打倒不可能な概念とか、そういう感じの不気味な相手だったよね? なんか、その、イメージが全然違うんだけど……」
「主ちゃん……なんかもう、いくとこまでいったな。天晴れだよここまでいくと」
「主さん、その、やっぱり……すごい人? なんだね?」
まあ、自分たちを虚無に引き落としたラスボスが、主を呑み込んだ巨悪が……。
気付いたら道化師としての在り方を放棄して、俺に3級フィクサーお尻ぺんぺんされていて、果てには主の子供を名乗ってるんだ。
その気持ちもわからんでもない。
何なら俺もちょっと困惑してる。
思ったより愉快でかわいい子すぎて。
だが、だからといって、今の彼女たちが険悪なのかと言えばそうでもなかった。
「みんな これまで ごめんね 私 反省してます
これからは パパの娘として 心を入れ替えて 生きていきます」
「あ、主のご息女……!」
「騎士ちゃん騎士ちゃん、悪いとこ出てるよ」
「……まあ、思うところがないって言えば嘘にはなるが。
心を入れ替えて生きるとまで言われて拒むわけにもいかないな。
お前も被害者だったって話は、ざっとではあるが聞いたわけだし」
「そもそも、私たち自身にも心の弱さがあったしね。
えっと……兆しの道化師、だったよね。これからよろしくね」
素直にぺこりと頭を下げた道化師に、みんなそれぞれに思うところはあれど、受け入れ態勢を整えてくれていた。
いやまあ騎士のそれは、うん。君それでいいのかと思わなくもないが。
『毎度恒例のことだもんね! ダァトが女の子堕としてくるの!』
やめんかその言い方は。
堕としてるんじゃなくて、自分らしく生きられるよう説得してるだけ。
俺のいない世界のお前がやってることとそう変わんないよ。
……お、俺はクソリプおじさんだった……?
あと、みんなが驚いてるように、俺だって驚いたけどね。
道化師じゃなく、従者にだけど。
確かに従者とは繋がりかけている感覚こそあったものの、目ぇ覚めたら完璧に繋がりができてて、めちゃくちゃ前向きになってたし。
どうやら俺が道化師の浸食を受けてる内に、王たちが奮闘してくれた結果らしいけど……みんな可愛い&綺麗な上にすごすぎ~!
俺なんてみんなが頑張ってる間、2年くらい映画の同時視聴に付き合うくらいしかしてなかったわよ。
なんかサボってたみたいでお恥ずかしいね☆
ま、従者とはこれまでも友好的な関係を作れていたわけだし……これからも同じように、付き合っていこう。
改めてよろしく、勇気の従者。
君と隣あって並び立てることを、嬉しく思うよ。
『うん……改めてよろしく、主さん』
* * *
で、そうして元魔法少女ーズがわちゃわちゃしている一方。
「…………」
俺のデスク横の椅子に座ったエラは、ちょっとむすっとしていた。
いやごめん、ちょっとじゃない。すごくむすっとしている。
反復直後はボロボロ涙を流して腰にしがみついて来ていた彼女だが……。
記憶同期のため、俺が騎士たちと再会して戻って来ると、途端に機嫌が悪くなってしまった。
時間の経過と共に、ゆっくりと情緒を育てつつあったアンジェラ。
彼女は最近では、もはや少女というより、女性的な落ち着きを獲得しつつあるように思えた。
まあ、それも当然のことか。
なにせ彼女は、ここで長い長い時間を過ごして来て、既に発生するイベントや出会うアブノマ、職員たちの顔ぶれにも慣れ切っている。
落ち着きは冷静さからもたらされ、冷静さは驚かないことで生まれる。
俺や騎士たち以外に強く感情を揺らされることが多くないアンジェラは、傍目から見れば、常に冷静沈着な大人にも見えるだろう。
しかしその内実はと言えば、まだまだ人との関わりを多く持たない女の子だ。
彼女たちに絡みたいと思いつつも、既に完成しちゃってる関係性へ踏み込むのに、二の足を踏んでいるのかもしれないな。
あるいは、注目の的になってる道化師に嫉妬してるとか? 年相応でかわいいね♡
……なんて思っていると、不意にカルメンが割り込んで来る。
『いや、あのねコナー、そうじゃなくて……あー、うーん、何をどこまで言うべきなのかしらね、これ。
ほら、そもそもアンジェラって、私とコナーの子じゃない?』
アインの娘だけどね? 俺は引き取って育ててるだけだけどね?
『それはもういいから。アンジェラの自認としては、とっくにそっちでしょうに。
……でもそんな中、ここに来ていきなり、あなたを「パパ」呼びする甘え上手な子が現れたわけじゃない?
そりゃあアンジェラとしても思うところがあるわよね? って話で……』
ッツ──!?
ああ、そうか、成程……!
アンジェラお姉ちゃん概念、か……!!
『??? 今豪快に理解がすれ違った感触があったけど、ひとまずどういうことか聞いてもいい?』
道化師が俺をパパ呼びするってことは、つまりあの子は俺の娘枠。
しかしカルメン曰く、エラは自認俺の娘。
少なくとも彼女の認識からしてみれば、道化師よりずっと先に、そのポジションに着いていたわけだ。
2人共に俺の娘枠で、アンジェラはずっと先に俺の娘になっていた。
とすると……アンジェラは道化師の姉、ということになる。
もしかして、いきなりできたかわいい妹に、緊張してるのか……!?
『!? ……! ああ、そうか、そうよね! 私たちの第二子ってことになるのね道化師ちゃん!
まさか体を持つより早く、2人も子供を産むことになるとは思わなかったわ!』
産んでねえよ。
『ママ? 私 娘?』
『っ!! ふふっ、そうよ、私がママです! よろしくね道化師ちゃん!』
『ばぶばぶ ママ ミルクほしい』
『ごめんね、私ったら今、おっぱいどころか体がなくて……』
『仕方ない フライドポテトで 妥協』
『コナー、フライドポテト一丁!!』
道化師も道化師で地味にノリが良いよなぁ!!
俺としても、元魔法少女たちとしても、そしてアンジェラやカルメンとしても。
前回の反復で、俺の危機やら従者の光堕ちやら道化師の光堕ち(?)やら、終わった直後のリブートとやら、色々忙しなかったからな。
互いに情報交換こそしたが、まだ整理の付かない部分はあるんだろう。
どこか落ち着きがない空気が俺の自室に漂っている。
まあでも、それもじきに、良い形に落ち着くだろうね。
この反復もいよいよ終盤とはいえ、原作通りなら、まだ体感にして1、2年……実時間で言えば1,000年から2,000年程度は続くはずだ。
それだけの時間があれば、どんな形になれど、関係性を築き直すには十分だろう。
望むべくはそれらが、彼女たちの背を押し、より前に進ませてくれることを。
そんなことを思いながら、俺は立ち上がった。
「じゃ、俺は注文通り、追加のフライドポテト作ってくるわ。
あとはお菓子とかジュースもてきとうに持ってきますわね~」
「主さん、私も行くよ。一人じゃ重いでしょ」
「お、ええんですかい従者。そんなら手伝ってもらっちゃおっかな~」
俺は道化師を中心にわやわやする集団から抜けて。
従者を伴い、食堂に向かうことにした。
『まあ夜空剣を通した交信があるから、アンジェラちゃん以外のみんなはいつでもコナーの声が聞けるし、なんなら表層意識を覗いたりもできるわけだけど』
『いつでも一緒だな、主ちゃん♡』
『えへへっ、ラブラブだねっ♡』
『…………♡』
……今更ながらこの状況、本気でやり辛いなぁ!
まあ記憶同期のこと考えたら仕方ないんだけどさぁ!!
「嫌なの?」
「嫌ではないけどね、いつでも本音フルオープンは恥ずかしいっていうかね」
「ふふっ……かわいいね、主さん」
「なにをぅ、言ってくれますねコイツっ!」
従者は楽しそうにニコニコ笑っていた。
それは、今までの少し寂し気な笑顔とは全く違う、心底からのもので。
……ま、多少の恥くらいなら呑み込もうかなと思えるくらい、眩しかった。
『なんなら 私 剣なくても パパの心 奥まで すっけすけ
パパ 今 とても嬉しい 綺麗な みんなとの繋がり 愛 大事』
……あの、お願いだから深層心理まで暴いて来るのはやめてね道化師。
それはガチで恥ずかしいヤツだから!!!
道化師はさっきみたいに、仮初の体を使ってこそいるが……。
実のところ、アレはアバターの一つに過ぎず、本体ではない。
その本体は、概念的なふわふわした存在であり、現在は俺の精神に憑依している状態なんだとか。
要するに今の俺、虚無イベントの職員たちと似たような状況なのである。
まあ、今の彼女が俺を乗っ取ったり、危害を加えてくるとは思っていないが……。
あの上映会の時と同じく、俺の心情がほぼ完全に読み取られてしまうのはね、めちゃくちゃ恥ずかしいですねぇ!!
『パパとの繋がり 私が最強 ぴーすぴーす みんなひざまずけ』
『くっ、羨ましい……!』
『いいもーん、私たちの間には確かな愛があるからっ!!』
『主ちゃんも私も幸福ならオールOK!』
『ふむふむ……これなら、剣を通さなくても記憶の共有ができるかも? それにコナーの記憶を直接保存もできそう!
すごいわね、私たちの赤ちゃん!』
『ばぶばぶ』
赤ちゃんという年ではない気もするが。
……なんか、既にめちゃくちゃ馴染んでるな、道化師。
ちょっと気を遣って席を外したりする必要なかったかな、こりゃ?
* * *
さて、そんな脳内会話をしながらも、食堂に向かう道中。
俺は隣をとことこ付いて来る従者と、いくつか会話を交わす。
とは言っても、別に特別な会話って程じゃない。
情報交換とか、これからどうするかとか、そういう真面目な話はさっきまでに済ませたしね。
なので俺たちが交わすのは、いつも作業の時にしていた雑談の延長線上。
騎士たちの話、コーヒーの話、ゲームの話、俺の過去の話。
そういった世間話がメインだ。
「ガイスターあるじゃん? 結構前にやったゲーム。
この前さ、アンジェラとアレやったんだけどさぁ、最初の頃はすんごい弱かったんだけど、後半人読みでガンメタ張られたんだよね」
「主さん、結構顔に出るから。そういうゲームは不利かも?」
イタズラっぽく微笑む従者の頭をわしゃっと撫でて、俺も笑った。
「むむっ! 言ったな~! そーいう従者こそ、心理戦苦手なくせに!」
「それは……正直、相手の考えを読みすぎるのが、怖かったから。
でも、主さんにはもう負けないよ。私、主さんのことなら、もう怖くないからね」
赤い瞳に好意の色を乗せ、従者はその赤い瞳で見上げて来る。
俺はその時、そこにいてやれなかったが……。
一人でも立ち上がった彼女は、きっと悟ることがあったんだろう。
ずっと座り込んで耐えてばかりいた従者が、少しでも前を見られるようになったのなら、俺もすごく嬉しいね。
……しかし、きっと。
それだって、焦って行う必要はないはずだ。
「そりゃ嬉しい。まあでも、無理をすることはないからな」
俺は肩をすくめてその視線を躱し、言う。
「身体でも精神でも、深い傷を負った後は、急激じゃなくゆっくりと体を慣らしていく必要がある。
怖くなったら一旦引いてもいい。ちょっと疲れたら足を止めてもいい。
俺が擦り切れてしまうまで、そりゃあもう長い長い付き合いになるんだ。気長にやってこう」
別に、急いで何かを変えたりする必要はない。
ゆっくりでいいんだ。
反復はまだ続くし、それが終わった後も……光でできた体に寿命の類があるとも思えないし。
俺は最後まで、この子たちと同じ道を歩むと決めている。
だから、大丈夫だ。
君のペースで歩いていけばいい。
「……主さんは、やっぱり、主さんだね」
従者はそう言って、ニコリと笑い。
……ちょっと頬を赤くして、俯いた。
「そんなだから、その……女王とか王とか、騎士まで、主さんに惚れちゃったんだろうな、って」
「んんんっ!」
俺は思わずせき込んだ。
そこを突っ込まれると、気まずい。
とんでもなく気まずい。
彼女の友だち3人に加え、更にもう1人とお付き合いをしている身としては、そりゃもうとんでもなく気まずい。
流石に弁明の一つも必要だろうと、俺は必死に口を開く。
「いやあの、一応言っておくと、彼女たちを裏切るつもりはなくてだな、これでも頑張って彼女たち全員との時間を作ろうとしてて……」
「大丈夫。ちゃんと3人から聞いてるよ。……その、色々と、うん」
かあっと、従者の頬が更に赤らんだ。
ちらりと向けられた視線の先は、俺の…………。
ねえ、何言ってんの君ら!?
改めて仲間になれた旧い友人に対して、何言ってるの本当に!?
『だってだって、従者ちゃんが聞きたいって!』
『従者、何気にむっつりっていうか、耳年増っていうか、その手の話を恥ずかしがりつつも楽しむタイプだからな……』
『やめましょう、女王、王。友だちへの情けとかないんですか。黙ってあげましょうそういうことは』
「ああああっ、なんで言っちゃうの!!」
従者は腕をぶんぶん振りながら、涙目で脳内に響く声に叫ぶ。
え、どうしようめちゃくちゃ可愛い。普段から冷静な子が焦ったり恥ずかしがるのってギャップがすごいわ。
この可愛さはまだ心の病には効かないが、そのうち効くようになる。
『それで治されたら、この身を装置にまでした私の立つ瀬がないけど!? あとアインは泣くわよ普通に!!』
俺が「仲が良くていいなぁ」なんて思いながらニコニコしてると。
従者は、チラチラとこちらを覗き見ながら、もごもご口を動かした。
「そ、そのぅ……私としても、主さんのこと、憎からず思ってはいるんだけど……あの……なんていうか……」
その瞳の奥には、羞恥と同時……。
ほんの少し、欠片程度ではあったが、躊躇いや恐怖に近いものも滲んでいた。
「……ああ、そういうこと」
何故こんな話を振って来たのか。
彼女が何を言いたいのか。
それを察して、俺は冗談めかして肩をすくめた。
「さっきも言ったろ、無理する必要はない。彼女たちと同じである必要も、今全部を決める必要もな。
友だちであれ、知り合いであれ、仲間であれ、恋人であれ、妻であれ、それ以外の何であれ……君に手を差し伸べた以上、俺は必ず君の傍にいるから。
だから焦らず、ゆっくり探していこう。俺たちにとって一番良い距離感を」
俺の言葉に、従者はその赤い目を見開いて……。
深く感じ入ったように、まぶたを閉じ、胸に手を当てた。
「……本当に。私に、何も求めないんだね、あなたは」
「あったりめぇよ、俺は君たちと、実利でしか繋がらない関係になりたくない」
自分に利益がなかろうと、困ってれば勝手に助けるし。
相手のためになるんなら、喜んでこの身も削る。
友だちってのは、そういうもんでしょ。
「…………うん。そう、だね」
従者はその目を細めて……一瞬、その目尻に、温かな雫が浮かんだのが見えて。
「ね、主さん」
「ん?」
「ありがとう。本当に、全部。
……改めて、私の友だちに、なってくれるかな」
「勿論。改めて、これからもよろしくな、従者!」
「うんっ!」
ちなみにその後。
従者に手取り足取り教えつつポテトを揚げて、それから女王や王が好きそうなおやつを色々持って、俺の自室に戻ったら。
「あの道化師がこうまで可愛らしくなるとは」なんて言いながら、騎士が道化師を膝の上で可愛がっていたり。
「ほらほら、もっと食べて食べて!」と、動物への餌やり感覚で、女王がおやつを食べさせたり。
「丸くなったもんだなぁ」と感慨深そうに、王がその頭を撫でていたりした。
……すごい、めちゃくちゃ馴染んでる!
そして死ぬ程可愛がられている!!!
道化師、甘えるのが上手いとは思ってたけど、結構コミュ強なタイプかもしらん!
こりゃ都合が良いぜ!
道化師、せっかくなんで、アンジェラとも仲良くしてやってくれ。
この子、あまり人と接する機会がないんで、君との会話もきっと成長に繋がるだろうから。
『おーけー おまかせあれ』
というわけで。
俺は隅っこの方で独りでいじけていたアンジェラを、存分に構い倒し、なでなでし、あと何故か膝の上に乗せたりもして。
それからは道化師との仲を取り持って、皆と話したりゲームしたりしたのだった。
ま、シナリオの攻略再開は、次の周からでええやろ!
どーせまだまだ1万リブートくらいするんやろうし、1つ増えたところで誤差誤差!
* * *
────反復は巡る。
その後もずっと、巡り続けた。
巡る。巡る。巡る。
何度も何度もリブートし、最初から繰り返す。
俺たちは似ているようで違う、違うようで似ていることを、ひたすらに繰り返し続け……。
……そうして、ついには。
俺たちは、その反復に辿り着いた。
「アイツと近いタイプのXかよ、大ハズレじゃねえかボケ!
ガバどころかリセ案件だ、再走しろ!! オラッエラー吐けクソ台本が!!」
俺の友だちと、殆ど変わらない管理人Xが訪れる、その反復に。
というわけで、1万年のループの果て、ついにDAY 0に辿り着いたので今回はここまで。
本当はLobotomy編も40話程度で終わらせようと思ってたんですけど、書くことが多すぎて本編すら辿り着けませんでした。泣ける。
というわけで、続くはLobotomy Corporation(後編)。
ついに辿り着いたDAY 0から、最後の反復が始まります。
前編はアブノマや施設等が中心の話でしたが、後編はセフィラたちとXがメインのお話になる予定です。
果たして彼ら彼女らのコア抑制はどのようなものになるのか。
そして、このL社の煉獄の結末は、どのような形になるのか……?
リアルの多忙+他作品の連載のため、後編の更新再開は少しお時間をいただく予定です。恐らく2、3ヶ月程度。
ダァトくんの次の珍道中、是非お楽しみに!