アインに押し付けられた、beta71の始末。
取り敢えず俺は、マルクトに「気持ちはわかるし確かに君の担当部署だけど、一応俺も折衝役だし、一旦beta71側の話も聞いてみていい?」と説得して、彼女の身柄を預かり。
軽く精神崩壊したのか、蹲ってべそべそ泣き続ける彼女を抱えて、福祉の階へ向かった。
パニオフィは出荷よー(´・ω・`)
『そんなー』
その後は、アブノマが罪善さん以外全員消し飛んだことで暇になったケセドと俺で、メンタルケア開始。
彼女の話を聞き、宥めすかし、コーヒーを飲ませ、落ち着いて来たら一緒にこれからを考えた。
何が辛いのか。
まだ働けるか、辞めるべきか。
働けるとしたらどうすべきか。
辞めるとしたらこれからどうするか。
俺とケセドがどのようにサポートできるか。
結構長いこと3人で話し合い、なんとか丸く収めた形だ。
まあ、ここを辞めるとかできるわけもねえのだが……それができると思うだけで救われる心もあるだろう、ということで。
アイン?
業務開始時間も迫りつつあったので、管理室に戻しました。
一応本人的には、最低限の責任として付いて来るつもりっぽかったので、投げっぱという程でもない対応と言えよう。+200D(ダァト)ポイント。
あるいは見方によっては、適材適所を理解して部下に仕事を割り振る、有能な上司とも言えるだかな。
実際、Xは人のカウンセリングとかとてもできないし、俺はカウンセラーが本分で、福祉チームセフィラな友だちもいるわけで。
beta71を俺に預けたのは、ぶっちゃけ適切な分担と言う他ない。
なもんでそこに関しちゃ、実のところ、そこまで不満はないんだが……。
「悪いね、ケセド。迷惑かけた」
「構わないよ~、ダァトや職員、オフィサーたちのためなら、どんとこい、だ。
むしろ頼ってくれてありがとう、ダァト。君に頼られるのは、いつだって嬉しいね」
コーヒーカップを洗いながらも、彼はにこやかに笑っていたが……。
不意にその中に、微かな澱が混ざった。
「できれば、こういったことは事前に防ぎたかったんだけど……そうも言っていられないかな。
管理人が着任したことで、俺やティファレトは、これまでみたいに自由には動けなくなる。
マルクトたちの様子も、どことなくおかしいように感じるし……。
これからは事前予防じゃなくて、事後の対処が中心になっちゃうかもねぇ」
ケセドはヘラヘラとした表情の奥に、自嘲と心苦しさを湛えていた。
……毎回のことではあるが、マジで申し訳ない。
今は耐えてくれ、ケセド。
もう少しすれば、状況はある程度改善されるはずだ。
いつか、俺たちが必ず、この煉獄を終わらせるから。
* * *
さて、そうこう言っている間に業務時間がやってきた。
とはいえ、本日収容しているアブノマは、罪善さんただ一体。
騎士と並ぶ人類の味方枠筆頭たる罪善さんは、脱走しないどころか施設に何の悪影響ももたらさないし、ZAYINということで作業も極めて容易。
その上、DAY 1はどれだけ作業したって、黎明の試練すら発生しないイージーモードだ。
むしろ、この状況で何らかの事故を起こせるなら、逆に大したものだよ。
これまで経験した80,000回弱の反復の中でも、1日目で事故が起こったことなんて……まあ、2回くらいあったけど、ほぼほぼ絶無と言っていい。
『例外は、たった一つの罪と何百もの善の代わりに、初手から紅炎蛾が抽出された周ね!
あれは酷い事件だった……作業しようとした職員が一瞬で燃え尽きて、管理人も困惑してたし』
『それから、シャーデンフロイデを収容したこともあったね。
不慣れな管理人に、あのアブノーマリティは流石に厳しかったみたいで……うん』
原作も大概バグがひでぇゲームだったが……。
この世界のL社も、定期的にバグる。
なにせ相手はアブノマだ、絶対と言えることなど何もないんだろう。
原則的には罪善さんだけが抽出されるはずの初手抽出で、極々稀なことではあるが、WAWやらHEやらが抽出されてしまうことがあった。
そういう時は、まあ妥当にリセ。
ホド抑制すらしてないのに、雇ったばかりの職員でWAWとか世話できるわけないだろ!!
『まあ、私たちが出れば不可能じゃないだろうが……処理チームが運用され始めるのは、最速で2日目以降だからなぁ。
どう足掻いても、1日目は自力で乗り越えてもらう他ないってのが難しいところだ』
バグらなかったら簡単なはずなんだけどね??
今回抽出されたのが罪善さんであることは確認しているので、その点に関しては安心だ。
管理人もアインに似て生真面目そうなタイプだったし、無難に仕事をこなしてくれるだろう。
この50日の管理作業を乗り越えようとすれば、しっかりサービス残業しないとマズいのだが……。
初日からその辺りの勘所など、掴めるわけもない。
これまでの経験から言って、1日目の業務は、早ければノルマであるPEボックス15個分のエネルギーを集めた段階で終了。
遅くとも、罪善さんの管理情報を開示して、E.G.Oの抽出を済ませた辺りで切り上げになることが多い。
それまでの間、俺はと言えば、このL社の職員の一人として働くのみ。
というわけで、今日も今日とてお仕事だ。
現在のL社地下本部は、多くの施設がアブノマを収容しておらず、半休眠状態にある。
まだ開放されてない指揮チーム以外の部署は、割とやることがない状態で、退屈してるみたいだが……。
その唯一の例外が、俺たちこと処理チームです。
「やあネツァク! 僕はダァトだ!
ほらおじちゃーん、お仕事ですよ~。……おい仕事の時間じゃボケェ!! 起きろサボリ魔ァ!
再生リアクターの点検業務は終わったの!? 各チームへのエンケファリンの支給は!? チーム内設備の保守は!?
安全チームの解放もそう遠いわけじゃねーんですから、今から動いてないとヤバいわよ!!
あ、それとこれ、要請されてた救急用の医療用品。説明書が中に入ってるから確認してね♡」
「え、資料ぶちまけた? おー久々にやっちまったねぇ女王。おっけー、そっち行くわ。
まあまあ、落ち着いて。本格的に業務が始まる明日以降じゃなくて良かったと思おう。
従者は何してる? ……うん、じゃあ集合頼む。ぱぱっと整理しちゃおうか」
「よし時間空いた! ジョシュア、鍛錬行くぞ!!
俺たち処理チームは、発生したインシデントを可及的速やかに片付ける必要がある、勿論戦闘もだ!
お前にもウチの一員として相応しい、戦士としての心得を刻んでやる! その骨身に、物理的になァ!!」
「騎士、在庫どうだった? ……え? モップ折れすぎじゃね? 先週も破損出たよね。……あーそうか、暴れん坊のデクスターがいたんだったわ……。
あとは洗剤とコピー用紙、タオル……エンケファリンボックスは? ……オーケー、じゃあエラに伝えとくね、ありがと。この後は清掃作業に戻ってくれ。
「王? ……はぁ、まーたゲブラーが施設破損させたんか! 了解、あとで俺が補修行くわ。ついでに皮肉の一つでもぶつけてこないとな!
え? ビナーもいる? それはマジでマズいヤツだなよし転移魔法頼む急行します」
「何してるって……見りゃ分かるだろ? 昼食の準備だ。
訓練中あんだけ動いたんだから、腹減ってるだろ? しっかり栄養もあって味も満点なメニュー作ってやるから、しばらく待ってな!
作れるのかって……そりゃあねえ。今日もあくせく働く妻たちが、俺のご飯を待ってますから。
ジョシュアはちょっと濃い目が好きそうな顔してるし、その辺も調整したげるねー」
折衝とは名ばかりの雑用チームである俺たちは、在庫管理やら発注やら補修やら書類仕事やら荷物運搬やら清掃やら、やることが無数にあるし。
それに加え、俺はセフィラとして、今回の反復で配属された後輩気質の可愛い職員ジョシュアを育て上げたり、皆のために食事を作ったり、セフィラたちの折衝もしないといけない。
ぶっちゃけクソ多忙である。
まあ、今は騎士たちの助けがあるし、こっそり道化師にバフかけてもらってるので、だいぶ疲労もマシになって、ホワイト化しているのだが……。
ともあれ、そうして働いていれば、時間なんて飛ぶように過ぎていくわけで。
TT2を使える管理人Xがいる以上、もはや何時間という単位は役に立ちはしないだろうが……。
それでも、なにせ初日だ、しばらくすれば業務終了のアナウンスが流れるだろう。
今日も疲れて帰って来るだろうエラを迎えるためにも、俺はそのアナウンスを待ちながら、奔走するのであった。
* * *
* * *
『いい? 落ち着いて聞いてね、コナー。
リブートしたわ。それも……現在、12回目』
???
はい?
なんで?
朝の業務前、beta71を指揮チームに送り届け、マルクトに「彼女はこれから心機一転頑張るつもりらしいから、君も支えてあげえてほしい」と取りなした直後。
唐突に脳内のカルメンがそう言い出して、俺は大いに困惑した。
……ああわかった、アレか。
記憶貯蔵庫に刻まれた、チェックポイントからのやり直し。
つまりは、3日目とか4日目から遡ってきたってことね?
いや、それにしたって指揮チーム開放中に12回もやり直すこととかある? って思うけど……。
『いえ、あの……1日目よ』
はい?
『だから、今回のXは、DAY 1を12回やり直してるの……』
??????????????
は? なんで??
1日目だぞ? 罪善さんだぞ??
そりゃまあ、1回2回は変なミスとかでやり直すこともあるかもしれないけど、何やってんのアイツ???
『コナーも毎回同じこと言ってるけど……ひとまず記憶同期するわね。
マジカル☆カルメン☆E.G.Oパワーッ!』
い つ も の
さて、記憶同期が完了したわけだが……。
その上で、なんでこんなにループしてるかは、よくわからなかった。
というのも、俺って今日は管理室に立ち入る時間が短くて、アインの意図を探る機会が少ないのだ。
分かることと言えば、再挑戦までの時間がまちまちで、6時間くらいで遡ることもあれば、24時間くらい働かされることもある、ってことくらい。
……こうなったら、近くにいる子に直接聞いてみるか。
というわけで、俺はこの箱ボディに搭載されている通信機能をオン。
今もアインの後ろで業務を見守っていると思しきエラに連絡を飛ばした。
『やあエラ! 僕はコナーだ!』
『コ……ダァト。おはよう』
『良いご挨拶! んでもって、今12回目だと思うんだけど、何が起こってる?』
俺もエラも管理人Xの補佐は慣れ切っているし、10,000年を共にしたことで阿吽の呼吸状態だ。
管理人が何度再挑戦を選ぼうとも、特別なことでもない限り、わざわざ連絡を取ったりすることもない。
精々、その日の終わりにホットミルクとか飲みつつ「今回のXポンコツだねぇ」とかちょっとした陰口で盛り上がるくらいだ。
だが、流石に今回は緊急事態。
あと何周くらいで終わりそうとか、そもそも管理人Xがイカれてないかの確認にも、連絡を取る必要がある。
そんなわけで、俺は少なからぬ緊迫感を持って、あちらに問いかけたのだが……。
果たして、エラが投げ返してきたのは、疲れ果てたため息だった。
『……調査、ですって』
『調査。ふむ』
『一度業務を終了して、あの人は作業によって職員のステータスが鍛えられることを理解したみたい。
そうしたら、すぐに再挑戦を選んで……どれだけの作業量でどこまで成長するのか、その上限はどこなのか、職員によって成長率や成長限界に差異があるのかの調査が始まったわ』
『oh……』
『今は、職員の性別や性格によって成長率に違いがないのか、調査しているみたい。
ダァト、あなた、あの人に何か変なことを伝えたりしなかった?
時々「ダァトはああ言っていた」「今できることは全てすべきだ」なんて呟いているんだけど』
瞬間、俺の脳裏に過る今朝(A社基準時間約12日前)の出来事。
……やべ。
『で、出来る限り慎重に作業を進めた方がいいとは、伝えた、かな……』
『…………』
『ごめんてぇ!』
だってぇ、管理人Xがこんなバカ真面目&素直なことなんて、今までなかったじゃん!!
俺の忠告聞いて、素直に百時間以上も検証するようなキャラじゃなかったじゃん!!
* * *
結果的に、アインは18回の再挑戦、とんでもねえ時間の残業の果てに、3人の職員の慎重と自制ステータスをカンストさせた。
お前やり込みますねスギィ!
その日は、酷く疲れたOLみたいにへろへろで帰って来たエラや、とんでもない時間働いてくれた騎士たちを癒すため、パーティができるんじゃないかってくらいのお菓子とかスナックを作ることとなった。
……まあしかし、初日から残業上等で進めてくれれば、ハードなアブノマやコア抑制を前にも心が折れにくくなるだろうし、良いこととしよう。
頼むぜX、俺も彼女たちのケア頑張るから、折れずに進んでくれよな。
やり込み過ぎて飽きたとか言い出したら、マジでぶっ飛ばすからね!! 3級フィクサーアッパーが炸裂!!
できらあっ! 倍速機能もなくアブノマがZAYIN1体しか収容されてない初日に、職員3人の慎重と愛着ステをカンストさせてやるって言ったんだよ!
えっ!? 倍速機能もなくアブノマがZAYIN1体しか収容されてない初日に、職員3人の慎重と愛着ステをカンスト!?