苦痛を受けた人々達のために煉獄を開き、
自身に背を向けた後輩すら処断し、全ての責任を背負ったとある男について
ZAYINクラスアブノーマリティ、何百もの罪とたった一つの罰。
偉大なる人類の味方、罪善さんを想起させる名前。
翼やら光輪やらゴツい翼やらがなくなって、すやすやしている白夜という見た目。
色々と印象深い白夜変異アブノマであるコイツなのだが……。
やはりと言うべきか、ちょっとヤバげな感じだ。
というのも、コイツ、ペスト医師と同じ感じで、作業しすぎると覚醒するパターンっぽいんだよね。
昨日、収容されたコイツに対し、管理人は当然ながら管理作業を試みた。
その結果、職員による作業終了と同時……。
ゴーン、という重い音と共に、真っ白な円が少しだけ黒色に欠けるようなイメージが送り付けられてきたのであった。
作業を完了させた職員を見てみれば、頭上に何やら松明のようなものが浮かび、E.G.Oギフトの特殊枠に「啓蒙」なるものが追加されていた。
軽くカウンセリングしてみた感じ、罪罰の広げる「教え」への深い傾倒が見て取れた。
あかんわこれ。
完全にペスト医師の洗礼と同じヤツや。
管理人はその職員の状態を確認した後、他アブノマへの作業に投入したり、鎮圧に参加させたりと実験を繰り返した後に、TT2で時間を遡ってその日を再挑戦したのだが……。
遡った先でも当たり前みたいな顔で「啓蒙」を持ってるし、職員に為された精神汚染も取り除けないし、試しにもっかい他の職員に作業させたら白い円が前以上に黒く欠けたし。
オマケに言うと、罪罰自身の純白だった体に、黒い色が発生していた。
マジであかんわこれ!
今のところ完全に白玉と同じ流れなんだけど!!
管理人は罪罰の啓蒙に時間遡行が効かないのを確認して、一旦作業を取りやめた。
臭いものに蓋をするタイプではないので、見なかったことにしてるわけではないだろう。
一旦他の実験やアブノマの情報を集め、最後にコイツに取りかかるつもりなのかもしれない。
どうせチェックポイント戻りで消し去れる(はず)なので、せっかくならまずはチェックポイント直前までアブノマを集め、E.G.Oを抽出しよう、というわけだ。
というわけで、昨日は罪罰にクリフォト暴走が付かないようお祈りし、全収容室に暴走が付くようになったら早めに切り上げ。
珍しく残業の多くない、平和な1日と相成った。
* * *
で、今はそんなL社始まって以来のホワイト労働が終わった翌日の、業務開始時間前。
俺は管理人を連れて、安全チームへと向かっていた。
当たり前の話ではあるのだが、管理人は別に、セフィラストーリーでしかセフィラたちと触れ合えないわけじゃない。
職務的な兼ね合いで職員との接触は推奨されないが、セフィラとの接触は悟りに近付く可能性があるため、むしろ推奨されるくらいだ。
……まあ、Xの元となった男がどうしようもなく陰キャコミュ障クソナードなので、これまでの管理人Xの中でも、積極的にセフィラと接触していたのは一握りに過ぎなかったわけだが。
ともあれ、今回のXはかなり積極的な男だ。
俺に朝コーヒーを淹れさせたりしてることからも分かる通り、セフィラに対して前向きに信頼関係を築こうとする努力を止めない奴である。
そんな奴が「ホドとネツァクとの間に話し合いの時間を取りたい」と俺に言ってきたのだから、そりゃあ俺だってセッティングの一つや二つもしようってもの。
管理人くんが頑張ってくれてお兄さん嬉しい♡ 奮ってお茶会の機会作っちゃうよ♡
まあ、元の世界だと、やさぐれきった死にたがりヤク中と、善人志望のヤク中なりかけ自己中という、地獄みたいなメンツになっただろうが……。
幸いこの世界じゃ、2人は割と相性が良いしね。
俺がL旧研であれやこれやと色々やらかしたせいで、原作のセフィラたちとこの世界のセフィラたちには、ちょっとばかりの違いが生まれている。
マルクトが原作に比べて更に自信を失って見えるのもそうだし、イェソドが自分のチームに結構なハードワークを強いるのもそう。
その点で、マルクトと並んで大きな変化を遂げたのが、ホドだ。
この世界の彼女は、とにかく積極的に行動を取ろうとする。
原作でも職員の福祉のためだと、気休めばかり程度のカウンセリングに精を出していたホドだが……。
こっちじゃ、そりゃあもう、原作以上の頑張りホドちゃんだ。
自己流カウンセリングはやって当たり前として。
ケセドやティファレトと組んで福祉案を組んだり。
職員の勤務体制変更の届出を出して来たり。
職員の家族と面談させられないかと言ってきたり。
目安箱的なものを設置してみたり。
2日に一度の頻度で教育プログラムを見直したり。
ものすごい数のマニュアルを量産して辞書みたいにしていたり。
……俺に対抗してか、職員に料理を振る舞おうとしたこともあったな。
とにかく、目の前にある、出来ることに懸命に取り組む。
それが現世に舞い降りた大天使、ホドリエルの習性なのである。
前世から変わらず、ホドは本当に努力家だ。ダァト的には点数高い! +30,000
……まあ、けれども。
都市とかいう肥溜めみたいな環境じゃ、そうして蒔いた努力という種が、必ずしも実を結ぶとは限らない。
彼女の積極的な行動は、その多くが空回りしてしまって、あまり成果を生むことはできていないのだが。
その一方、ネツァクもネツァクで、原作から結構大きく変化している。
原作の彼は生きる意味を完全に見失い、そりゃあもう荒みまくっていた。
実質的な殺処分になることを前提に、むしろそれを望むかのように、仕事中に居眠りし、サボタージュして、エンケファリンをキメていた。
コレが許されるんだから、もしかしてLobotomy Corporationってとんでもないホワイト企業か??
だが、この世界のネツァクは……まあ、それほどでもない。
確かに仕事はサボりがちだが、職員の生死が関わることに関しては決して手を抜かずに取り組むし。
やさぐれているというよりは、何かをじっと考え込んでいるという気配が強いのだ。
今度こそ何かを為そうと、自信のなさを押し殺し、強迫的なまでに仕事に取り組むマルクト。
規範と均衡を守るべく、冷淡さを取り繕って過剰な業務をこなすイェソド。
職員の心身の安全のため、出来ることをしようと足掻き続けるホド。
そんな他上層セフィラに比べると、ネツァクは落ち着いている、と言っていいだろう。
これまでの反復でも何度か、彼のセフィラコア崩壊を迎えてはいるわけだが……。
その時の様子を見ても、もう少し何かが違えば試練型のコア抑制になっていたのではないかと、そう思えるくらいにはアイツは精神的な均衡を保ってた。
……俺は、生前のネツァク──ジョバンニに、何もしてやれなかった。
彼の意志は俺が会った時点で既に固まっており、それを歪めることは俺には許されなかった。
なので正直、なんで今のネツァクがあそこまで落ち着いているのか、俺は考察こそできても確信までは持てていないのだが……。
とにかく。
自分の人生を決めて逝った彼が、少しは苦痛を免れていることに、俺は少なからず安堵を覚えていたりする。
で、そんなホドとネツァクだが。
2人が並ぶと、何が起こるかと言えば……。
「お招きいただきありがとうございます~……」
「ネツァク、ふらふらよ。またビールを飲んでいたの?
駄目よ、飲み過ぎると業務に支障が出るし、職員の皆も不安になっちゃう」
「相変わらず、本当に真面目。もっと気を抜いてもいいと思うけど」
「私たちセフィラがしっかりしないと、職員の皆が心配になっちゃうよ。
だから、ほら、口元はこれで拭いて。それからネクタイも締めて」
「はは、どこぞの毒蛇みたいだ」
「もう、そんな意地悪な言い方しちゃ駄目よ。イェソドも悲しむわ」
ホドによる介護だ。
ママかな? ママだったわ。なんなら天使だったわ。
意外なことにというか、ある意味当然というか。
この2人、実はかなり相性が良かったりする。
ホドは何かと自分の為した善行への見返り──つまりは結果や感謝を求めがちで。
その点、存分に世話を焼ける上、なんだかんだ言いつつ内心で感謝するネツァクは、好相性なのだ。
ネツァク自身、表面上はめんどくさそうな態度こそ取っているが、他のセフィラたちのように、ホドの好意にため息を吐くことはないしね。
あとはネツァク以外にも、ケセドとかティファレトも、ちゃんとホドに向き合ってくれるんだが……。
あの2人もとい3人は試練型の抑制組、ホドがケアする必要もないくらいにしっかり自立している。
なのでホドは彼らにケアのしようがなく、むしろ彼らこそ職員の福祉を試みる側。結果もそこそこ出ているため、ホドからすると軽く嫉妬する対象になってるみたいだ。
そんなわけで、ネツァクとホドは、比較的楽しそうにお茶会に参加していた。
上層セフィラでギスギスしない組み合わせは希少なので、俺としてもちょっと居心地が良いね。
で、だ。
「…………」
その一方で、彼らを呼びつけた当人、陰キャクソナードが元になってる管理人Xはといえば……。
そんな空気を前に、気まずそうにもじもじしている。
既に2人と顔を合わせたXではあるが、まだそこまで親しくしているわけではないからね。
とはいえ、このまま黙っていても埒が明かない。
今日は管理人が、何かしら話があると言って、この2人を呼び出したのだ。コイツから口火を切るのが道理ってモンでしょう。
というわけで、テーブルの下でXの足を蹴っ飛ばす。
3級フィクサー屈弱K!(発生2F持続2~6F硬直4F)
「っ!」
まったくもう、この子は隙あらば陰キャするんだから。
俺のじとっとした目線を受けて、管理人Xは咳払い一つ。
「……ネツァク、ホド。それで、話だが」
「あっ、はい! 管理人さん、今日はどんなご用件ですか?」
「……めんどくさい案件を持ち込むのだけは勘弁してほしいんですがね」
管理人が声を上げるとなると、流石にセフィラたちも反応せざるを得ない。
ホドは居住まいを正し、ネツァクはめんどくさそうにため息を吐いて応える。
管理人がどんな話をするつもりなのかは、俺も聞いていない。
しかし、その時のXからはどことなく思い詰めたような、不退転の覚悟を固めたような雰囲気を感じたので、何か大事な案件なのだと感じてこの会をセッティングしたわけだ。
管理人Xがわざわざ自分から、それも2人同時に接触しにいくとは。
果たしてどのような要件かと、俺は内心で結構楽しみにしてるんだが……。
果たして、俺たち3人のセフィラの前で、Xは一度まぶたを閉じ……。
そして、かっと見開いて、言った。
「────お前たちのことを、教えてくれ」
…………?
何……は? いや、は?
なんだその、とんでもなく直球かつ具体性のない言葉!?
おま、普通人のことを探ろうと思ったら、日常の中で自然に触れ合いつつ、言葉の端々から相手の思考回路を読み取るもんだろ!?
んな直球に言っても相手を困惑&警戒させるだけだぞ!!
「え、っと……教育チームセフィラ、ホドです。
それから、趣味は……教育マニュアルの再考。好きなものは……う、熟れたトマト? ですかね?」
「はぁ…………ご存知の通り、安全チームのセフィラ、ネツァクです。
嫌いなものは面倒な仕事。好きなものはお酒、それと処理しなくていい白紙の紙ですかねぇ。
僕に回す紙はぜ〜んぶ真っ白だと嬉しいですね〜」
おい、見ろこの反応! どうすんだこの何とも言えない空気!
ネツァクがちょっとちゃけてくれたから多少雰囲気もマシになってるけど、だいぶ酷いぞ今の状況!
ともあれ、ボールは返って来た!
上手く投げ返せよ、会話はキャッチボール!!
「…………そうか……」
相手から話題をくれたんだから広げんかいアホォ!!
そうかじゃねーんですよそうかじゃ!! 受け取ったボールポケットにしまってどうすんねん!!
聞くだけでコミュニケーションになると思ったら大間違いじゃぞコミュ障陰キャクソナード!!!
くそっしゃーない、俺がなんとかしたるか。
任せんしゃい! 俺はこれでも、数多のオリチャーと同時に数多のリカバリをキメてきた男やで!!
「じゃあ次は俺やね!」
「いやお前はもう知ってるからいい」
「やあ管理人、ホド、ネツァク! 僕はダァト!」
「いいと言っているんだが」
「一般通過3級フィクサー並カウンセラー兼処理チームセフィラだよん☆」
「コイツ、相変わらず話を聞く気がないな……」
「まぁ、ダァトですからねぇ」
「あ、あはは……」
Xは呆れてこめかみを押さえ、ネツァクは苦笑し、ホドは苦笑い。
ま、これでちょっとは空気も温まったかね。
「そうだな~、趣味は料理とコーヒーのブレンディング、ガキに構うこと、気持ちばかりのカウンセリング……最近はあんまりする余裕がないけど、うたた寝もかな。
それから好きなものはね~、ケセドの淹れてくれるコーヒーと俺を好きでいてくれる物好きな子たち、無垢なガキ共、同僚であるセフィラ一同、真面目に職務に励んでくれる職員に管理しやすくて育成効率の良いアブノマ、特殊能力付きのE.G.Oに正義ステを上げてくれるギフト、それから外郭の辺鄙な場所にある研……」
「そろそろ黙れ」
「ハイ」
管理人に割とガチ目に凄まれちゃた♡
テメェのために雰囲気柔らかくしてんだよボケ!!! ぶっ飛ばすぞォ!!!!!!
仕方ない、クソナードのXくんに、会話のお手本ってヤツを見せてやりましょう。
「なんだよも~~、俺たちのこと知りたいんじゃなかったの~?
お前が教えてほしいって言うから教えてあげてるのにさ!」
「それは……間違いではないが……」
よし、怒りとか反意はへし折った。
困惑するXから目を逸らし、俺はふと思い出したように、ホドの方に目線を向ける。
「ていうかホド、トマト好きなんだ! 知らなかった~(大嘘)。
トマト良いよね~、俺も料理の素材としてめちゃ好き。トマトソースパスタとかどう? 好き?」
「え、ええ、そうね……うん、好きだよ。
ダァトは時々、職員に料理を作ってあげてるよね。もしかして、自分で料理を作ったりするの?」
「もち! 今度ホドにも作ったるわ! 試食会ってことで。
あ、ちなみにその時にはビールも飲み放題にするわよ!」
「やはり飲み放題ですか。僕も同行します」
「安全チームセフ院ラ……!」
このようにして、相手の言葉を拾って話題を広げたり、次の機会を作るのです。
ね? 簡単でしょ?
そう思い、Xの方を見ると……。
オイ、なんやねんその「ぐぬぬ」みたいな顔ォ!!
わかっとるんか、お前のためにやってるんですよ!?
仮にも俺を理想にしてるんでしょ!? 人の振り見てって言うでしょうが、ちゃんと勉強しなさい!
コラX! 宿題はもう終わったの!? 遊びに行く前にゲームの前に勉強しなさいって言ったでしょうが!!
……お前はもうじき、お前自身の意志で彼らと向き合い、対話しなきゃいけないんだからさ。
至るべき場所は、遠い。
少しでも、走り方を覚えないとな。