オーバーロード -もう一人のUNDEAD- 作:サタン
「どこやねんここ」
ただっ広い平原の中で。男が呟いた。
男は異様な雰囲気を醸し出している。
上半身裸。下半身はズボンとブーツを着用している。
髪はロングで黒い。瞳は青い。
ワイルド系の顔つきをしている。
身長は百八十九センチと高い。
「なんだこの腕」
男の体は筋骨隆々だ。
筋肉が凄まじくパンプアップしているのか身長以上のガタイを持っているように見える。
男の中の人は筋トレなどしたことのない一般人だ。鍛えられているこの体に違和感しか感じない。
「……どっきり?」
男はテレビ局のドッキリ系番組かと思った。
だがどんな技術があれば寝て起きただけの自分の体を筋骨隆々にできるというのか。再生医療もドン引きである。
取りあえず人を探そうと男──アンデッドアンラックのヴィクトルになった男は歩きだした。
歩くこと三十分。ヴィクトルは幾ら歩いても人影どころか建物の影すらないことに焦燥感を感じ始めた。
もしや自分は北海道の平原にでも捨てられたのではないか、と。
そう思いヴィクトルは焦燥に駆られるがまま走り出した。
そして──三十分更に走っても疲労せぬ体にヴィクトルはついぞ疑問を抱いた。
「え、どゆこと?」
思わず止まってなんで披露しないのか考える。
そして、今置かれた状況を見て、自分の腕を見る。
ヴィクトルはなんとなく拳を強く握った。
指の関節から血が噴出した。
この現象に見覚えがあったヴィクトルは血が固まらないかとイメージする。するとあっさりと血は凝固し刃の形となった。
「
ヴィクトルはここでようやく己がアンデッドアンラックのアンデッド、ヴィクトルになっていることを悟った。
ならば、とヴィクトルは靴を脱いで靴下も脱ぐ。
左手で靴と靴下を持ち右手の
そして血をものすごい勢いで噴出。空へと飛びあがる。
斬った痛みは思ったよりもなかった。
「うっほほーい!」
ヴィクトルは初めての飛行に興奮しながら真っすぐと空を飛んで行く。
不死の力で血は尽きることない。
時速百キロを超える速度で飛ぶこと十分。ようやく平原以外の物を見つける。
それは壁だ。三十メートルはあろう堅牢な壁であった。
ヴィクトルは少し離れた位置に降りて足を再生させ、靴下と靴を履いた。
足から血を噴出し飛ぶ男など警戒されて当然なのでごく普通に振る舞おうとしたのだ。
何故己がヴィクトルになっているかはわからないが、ここが日本か、それ以外の場所でもなんとかなるだろうという謎の自信があった。
己は不死の力を持っているのだ。ならば最悪でも空飛んで逃げるぐらいはできるはず、と。
それにここが何なのか知りたかった。故にヴィクトルは壁へと歩き、門に近づいた。
門の前に着くと其処には槍を持った兵士らしき男が二人居た。
ヴィクトルは取りあえずヴィクトルロールしながら話しかけようと思った。この風体でコミュ障じみた話し方は変に思われると思ったのだ。
「すまない、少しいいか?」
「……あ、あぁ。いいが……あんた、ガタイいいな。どこから来たんだ?」
ヴィクトルは空を見上げた。
太陽は恐らく東に上っている。ならば自分は西から来たと判断した。
「西の方からだ」
「西……開拓村の方から来たのか? しかし一人で大丈夫だったのか? モンスターに襲われなかったのか?」
兵士のモンスターという言葉にヴィクトルは眉をひそめた。
やはりここは異世界か何かだろうか、と。
そもそも相手の唇の動きと耳に入る声があっていないのに加えモンスターというファンタジー御用達の単語の出現だ。
「ああ、運よく出会わなかったから問題ない」
「そうか……ようこそ法都シクルサンテクスへ。歓迎するよ」
そうしてヴィクトルは法都の中に足を踏み入れた。
(……いかにもファンタジーな世界だな)
見かけるは西洋建築。和の気配はどこにも感じ取れない。
街の奥には巨大な白い聖堂がある。世界遺産に登録されても可笑しくない規模だ。
取りあえずどうするかと適当に街を歩いていく。
しかしながら都市の名前にどこか聞き覚えがあった。
さて何の記憶だろうかと疑問を持ちながら歩いていく。
だが先に仕事を探さねばならない。
住所不定無職が今の自分だ。不死なので飢え死にすることはないが住む場所ぐらいは欲しい。
取りあえずそこら辺を歩いてる人に聞いてみようとヴィクトルは槍を持った兵士らしき人物に声をかけた。
「すまない。仕事を探しているのだが何かないか?」
「仕事? あんた、どっから来た?」
「……西からだ」
「てことは開拓村出身か、そこから出たのか? まぁ、仕事なら兵士の仕事がいくらでもあるから、兵舎に行くと言い。道は──」
「感謝する」
兵士の仕事か、と思いながらヴィクトルは考える。
戦うのは怖いが不死の体ならばなんとかなるだろうと楽観的に考える。
だから問題ないだろうと兵士から聞いた兵舎に向かう。
歩くこと十分で兵舎に辿り着いた。
兵舎前には見張りなのだろう槍を持った兵士が二人いる。
「すまない、兵士の仕事を探しているんだが」
「応募者か? いいぜ、ついて来い」
片方の兵士が面接官まで案内すると言い兵士に着いて行く。
兵舎の中に入り訓練場に入る。
訓練場は砂で転ぶと痛そうだ。
「隊長──新入りっす」
兵士が声をかけたのはガタイの良い男だ。
鉄の鎧一式に身を包んでいる。ラウンドシールドを左手につけている。
「お、新入りか。ようこそ、俺は体調のモックナックだ」
「……ヴィクトルだ。よろしく頼む」
「まずはあんたの実力を見よう。そこにある好きな武器を使ってくれ」
そうモックナックは壁側にある武器の飾り棚を指さした。
そこには木製の武器が多数置いてある。なぜか刀も置いてあった。
取りあえずアンディ刀使ってたし自分も刀を使うかと刀を選んだ。
「じゃあ好きにかかってこい。受け止めてやる」
「……なら遠慮なく」
ヴィクトルは刀を構える。
不死の力で筋力を底上げする。
「ふん!」
相手を殺さない程度に威力を落とした斬撃だ。
ラウンドシールドに綺麗に命中し、木製の刀が威力に耐えきれず折れた。
「お、おぉ。強いな」
モックナックの盾を構えていた左腕が痺れた。それほどの威力だ。
「新人にしてはやるな。何かクラスでも持ってるのかもしれん」
「クラス?」
「職業ってやつだ。それを持ってるとより強くなれるらしい」
異世界特有の奴だろうか、とヴィクトルは考えた。
「さぁ来い。新人として受け入れてやる。バリバリ使うから覚悟しろよ」
にかっと、モックナックは笑みを浮かべた。
■
それから半年。ヴィクトルは言われた通りめちゃくちゃ使われた。
最初は周辺の村々の巡回に始まり、次にモンスター……主に亜人種のモンスター狩りに連れていかれた。
力を隠すとかそういった暇はなく、不死の力を最大限活用しなければ死ぬようなことに何度も巻き込まれた。不死なので死なないが。
そうして戦う事半年。ヴィクトルは聖堂の長──神に呼ばれていた。
(神、神ときたか……)
ヴィクトルは複雑な気分になる。
アンデッドアンラックの世界で見れば神は邪悪な存在だ。人をもてあそぶ邪神だ。
だがこの世界の神はそうではない。その逆の存在だ。
二十年と半年前。人間は狩られる獣だった。
持っているのは石の槍と剣で、適当な獣を狩って毛皮で服擬きを着ていた。
そしてそんな原始人類を狩るのが亜人種だ。
獣が人型になった種族ビーストマン。牛が人型になったミノタウロス。トードマンにゴブリンにオーガ。
人は餌だ。ちょっと食いでのある餌。人が家畜として飼われてるのがこの世界の常識だ。
それから逸脱しているのがこの国、スレイン法国だ。
二十年と半年前。六人の神がこの世界に降りてきた。
そして六柱の神が家畜だった人類を哀れに思い救った──というのがこの国の歴史である。
人が人として暮らせるのはこの都市シクルサンテクスと周辺の開拓村程度だ。それ以外では家畜扱いが常識である。
ヴィクトルとして驚いたのはこの国の文字は日本語が使われているという事だ。
それを知りヴィクトルはこの世界に降りたという神はもしや自分と同じように力を持ってこの世界に来た日本人なのではないかと思った。
ヴィクトルもこの半年の戦いで強くなっている。能力を持っているだけだったのが戦闘方法を知り戦術を組めるようになってきている。
聖堂の一室、神のいるという神室前の扉に居た。
(でっか)
扉はでかい。四メートルはあるだろう。
心して扉に触れると扉は自動的に開いていく。
この聖堂、というかほぼ城はこういったギミックが多数ある。
「失礼します」
流石に相手が神なので敬語を使う。
数歩歩くと神が居た。
(なるほど、これは神だ)
相手を目にするだけでヴィクトルは理解した。
身長は二メートル程だろう。
それは人型の骸骨の姿をしていた。
肉も皮もない骨だけの姿。眼孔には赤い炎が揺らめている。
黒いローブを纏い背後から漆黒の光が見える。
「初めまして、ヴィクトル君。そう緊張しないでくれ。私はただ一つ、君に確認したいことがあるんだ」
そのように神──死の神スルシャーナは口を開いた。
男の声がした。どうやらこの神は男らしいとヴィクトルは察した。
「なんでしょうか」
「……君は、ユグドラシルを知っているかね?」
その言葉にヴィクトルは目を見開いた。
驚きながらも素直に答える。
「……地球という星の北欧神話に登場する世界樹の事ですか?」
「……あっている、が間違っている。DMMORPGユグドラシルを知らないか?」
「……申し訳ないが存じ上げません。RPGは知っていますがDMMOというのは初耳です」
「……君は西暦何年から来た?」
「……二千二十五年から」
「え、てことは過去から来たのか……そうか。君もやっていたゲームから?」
途端スルシャーナの雰囲気が軽くなった。
それに合わせヴィクトルも緊張を解く。
「いや、読んでいた漫画のキャラクターになってここにいます」
「そうか……どんなキャラクターか聞いても?」
「アンデッドアンラックという漫画に登場する、不死の能力を持つ男です」
「……不死、か」
その言葉にスルシャーナは遠い目をした。
ヴィクトルは疑問に思った物の問いかけることはなかった。
「それで、だ。君に昇進の話がある。今度レベル三十以上の強者のみを集めた部隊を作ろうと思っていてね。君にはそこに所属してほしい」
「わかりました。その部隊の名は?」
「ああ。漆黒聖典という」
こうしてヴィクトルは漆黒聖典に所属することになった。