オーバーロード -もう一人のUNDEAD- 作:サタン
八十年の時が経った。
ヴィクトルは最古の漆黒聖典隊員兼隊長としてスレイン法国に貢献し続けていた。
スレイン法国も版図を多少は広げていた。といっても都市は首都のシクルサンテクスしかないが。
これは生存圏を広げようとするとこの世界の生態系の頂点に君臨する種族竜王たちがいい顔をしないからだ。
多少の都市ぐらいは慈悲で作らせてやるがそれ以上はするなよ、という事である。
スレイン法国側の戦力、降り立った神であるユグドラシルのプレイヤー六人は全員がロールプレイ……お遊びようのクラス構成だ。
そのために竜王たちと戦っては勝てないので大人しくしていたのだ。
そして何十年物時が経てば老いで弱体化する──不老不死のスルシャーナ以外は。
「スルシャーナ、元気がないな」
八十年の時が経って。ヴィクトルとスルシャーナは仲が深まっていた。
ヴィクトルはオーバーロードのキャラクターというのもあって積極的に交流していた。ヴィクトルはオバロを知っている。
「あぁ……ヴィクトル。そう見えるかい?」
スルシャーナはまるで老人のようだった。
会った時と変わらぬ白い骸骨の姿のままだが、精神は変容していっているのだろう。
アンデッドの精神に引きずられつつあるのだ。
「アンデッドだから疲労とも病とも無縁なのはわかっているが……何かあったら言え」
「……あぁ」
そうしてヴィクトルはスルシャーナの元を去った。
ヴィクトルは多忙だ。
ある程度発展したせいか、このスレイン法国にちょっかいをかける者たちが居る。
それは亜人種や異形種だったり、あるいは外から来たプレイヤーをよく思わない竜王の部下だったり。
現状そういった勢力と真正面斬って戦えるのがヴィクトルとスルシャーナのアンデッドの副官で作ったアンデッドとNPC達しかいないためヴィクトルはスレイン法国各地を文字通りに飛び回っている。
スルシャーナ以外のプレイヤーは人間だ。そのために八十年も経てば全員老衰で亡くなっているのだ。
超戦力がレベル九十代以上はあるヴィクトルとスルシャーナ、アンデッドの副官のルーファスぐらいのものだ。
六大神の子たちは最大でも八十レベルとヴィクトルには見劣る。
それらを殲滅するのが漆黒聖典隊長のヴィクトルの仕事だ。
「外部勢力との接触?」
ヴィクトルは久しぶりに法都シクルサンテクスに帰還し聖堂を歩いていた。
「はい。八人のプレイヤーが来訪しました」
「そうか……それで今は?」
「スルシャーナ様が先方のリーダーと思わしき方と会合しています」
「そうか」
ヴィクトルは客間に着いた。
ノックをする。
少し待つが返事が来ない。不審に思ったヴィクトルは再度ノックをするも返事がない。
「入ります」
そう言ってヴィクトルはドアを開けた。
そこで繰り広げられていたのは、剣を構えるスルシャーナの首に添える剣士らしき男とそれをただ受け入れているスルシャーナだった。
「何をしている!」
ヴィクトルは怒声を出した。
この世界に来て習得したこの世界独自の能力、武技を使う。
使うのは<自傷>というただダメージを負うだけの武技。
これを使い右手に
ヴィクトルは戦士の首を切り落とさんと
「待ってくれ!」
そう叫んだのはスルシャーナだった。
「待たん。相手はお前を殺す気だぞ」
ヴィクトルはそう告げるもスルシャーナは再度声を荒げた。
「違う、私が頼んだんだ! 殺してくれと!」
「──なんだと?」
その言葉に流石のヴィクトルも動きが止まった。
「事実だ。俺が言っても仕方がないだろうが、俺は頼まれて剣を抜いた」
「……」
ヴィクトルは取りあえず足を再生させ立って
「全部話せ。スルシャーナ」
「……君には、話したくなかったんだが……来るのを遅らせたはずだが?」
「何もわからぬ相手とこちらの首領を一対一で話させるわけにはいかんと無理をして通ってきた」
「……君らしいな」
ふふ、とスルシャーナは笑った。
「ああ、話そう。私は、死にたいんだ」
そうして語ったのは、アンデッド故の苦悩。
苦楽を共にした仲間が寿命で死んだこと。自分だけは子を作れないという事。食事も睡眠も不能の体。
そして最大の悩みはアンデッドの殺戮衝動だ。
無性に生者を襲いたくて仕方がない。絶望のオーラ(即死)を全開で街を歩きたくて仕方がない。守って育てたはずの仲間の子たちを縊り殺したくて堪らない。
解決する方法のない悩みにこの世界に来てからずっと苦悩してきたと告げるスルシャーナにヴィクトルは言葉をかけることが出来なかった。
八十年もの間ずっと一緒に、そして故郷を同じく同じ境遇となれば友情も湧くという物。
何故自分に相談してくれなかったのか、とヴィクトルは歯ぎしりした。
「だからどうか──私を殺してくれ……ヴィクトルにも、ツアーにもこんなことは頼めない。君にだからこそ頼めるんだ、■■■」
「…………」
長い沈黙が流れた。
「ああ、わかった。スルシャーナ。君の望みは俺が……俺たちが次ごう」
「ありがとう」
ヴィクトルはもう止められなかった。
■■■の剣がスルシャーナを両断し、破壊した。絶命という表現は正しくないだろう。既に死んでいるのだから。
そうしてスルシャーナは多数のドロップアイテムを残しこの世界から消えた。
■
それから八人のプレイヤーは世界に繰り出した。
亜人を殺し異形を殺し竜王さえも殺した。
そしてスレイン法国も動き出した。
八人のプレイヤー……八欲王が救出した人間牧場から人を貰い住む場所を作るなど。
領土を広げつつ、流石に手が足りないので多少人を派遣してそのままにするなど。これを機に版図拡大を狙った。
実質的な七人目の神のような立場になったヴィクトル主導での事であり、これは八欲王が望んだことでもあった。
一年後。聖堂に一人の竜王が来た。
「ツアーか」
ヴィクトルは聖堂でツアーと対峙した。
ツアー、本名ツァインドルクス=ヴァイシオン。
ここにいるのは本体ではない。端末だ。
白銀の鎧である。頭部はどこか竜を模しており肩には竜の咢をモチーフにしたデザインがある。
「ヴィクトル。単刀直入に聞こう」
ツアーの雰囲気は剣呑だ。
突如現れたユグドラシルからのプレイヤー。それが暴れまわっているのだ。
同じユグドラシルプレイヤーが作り出したこのスレイン法国も関係があるのではないかと疑っているのだ。
返答次第では即座に殺す用意がツアーにはあった。不死のヴィクトルを殺す手段を持っているのだ。
「今世界で暴れている八人のプレイヤー、彼らは君たちスレイン法国の関係者か?」
「違うな。どちらかというと我々も敵対側になる」
「というと?」
「連中のリーダーにスルシャーナが殺された」
その台詞にツアーも驚愕した。
スルシャーナはロールプレイ用のビルドだが仮にもレベル百だ。ヴィクトルよりも強い。
それが死んだとなると相当の相手となる。
「そうか……すまない。悪いことを聞いた」
「気にするな。立場が同じなら俺も同じことを聞いただろう……」
ツアーとヴィクトルはそこそこの関係がある。
ツアーはスルシャーナと親交がありそこの会話で何度かヴィクトルが話題になるなどしてヴィクトルもその会話に参加するなどしていたのだ。
「……君たちのスタンスは理解した。では、こちらが八人のプレイヤーを討伐することについては?」
「こちらとしては領土拡大こそこの時期に狙うがそれ以上はしない。倒してくれるのならば倒してほしい。ただ現状は人類の生存圏を広げるので手一杯だから討伐協力は悪いが出来ない」
「……いや。こちらの邪魔をしないというだけでも充分だ。では、私は本国に戻り──八欲王討伐について考えるとする」
「……あぁ。またな、ツアー」
こうしてツアーはヴィクトルと別れ──三百年間一度も会うことはなかった。