オーバーロード -もう一人のUNDEAD- 作:サタン
スルシャーナが死んでから五百年の時が経った。
その間、人類は目覚ましい発展を遂げた。
スレイン法国以外の国がいくつも出来たのだ。中には亜人が王になった国もあるが、そこには人類がちゃんと市民として入っている。
スレイン法国のギルドのNPCが資産切れで魔神となって暴れまわったのは二百年も前の事だが、それも悪いことだけでなくヴィクトルはちゃっかりと版図を広げていた。
結果今はリ・エスティーゼ王国。バハルス帝国。ローブル聖王国。アーグランド評議国。都市国家連合。五つの国がある。
どの国も特にこれといった問題はないが、しいて言えばローブル聖王国が南部と北部に別れて政争を繰り広げているぐらいだろう。
ヴィクトルは原作知識を元に人類の主要国を文字通りに飛び回りリ・エスティーゼ王国で八本指が生まれるのを阻止し麻薬も発見はするも栽培させないようにするなど尽力した。
その結果王国は原作のような腐敗国家ではなくなっていた。もちろん腐ってないところがないとは言わないが真っ当な国となった。
そんな原作開始時期の王国のエ・ランテル周辺をヴィクトルは飛び回る。
下半身を消し
探しているのは当然ナザリックだ。下手にナザリックを放置してマッチポンプ劇場を繰り広げられる訳にはいかないので先手を打って交渉をしに来たのだ。
「あったな」
そうして飛んでいると分身の一人がナザリックを見つけた。
分身を本体にしヴィクトルは地上へと降りた。
今のヴィクトルはいくつかのマジックアイテムに身を包んでいる。
着ている服は自己修復能力が強い服。ほかには指輪を付けている。
探知阻害の指輪。食事・睡眠無効のリング・オブ・サステナンス。窃盗無効の指輪に精神操作無効の指輪、日に数度
地上に降りてヴィクトルはナザリック前を歩く。
(さて、中に入るとさすがに戦闘になるな)
今の時刻は夜だ。転移初日だと思うのでこの場で待っていればだれか出てくるだろうと思ったヴィクトルは待つことにする。
待つこと数分。ナザリックの地下へ降りる階段から二人組が登ってきた。
白髪黒目の執事。セバス・チャンと金髪碧眼のミニスカ縦ロール美女ソリュシュン・イプシロンだ。
「あなた、何者ですか?」
ナザリック前に居たヴィクトルを警戒するようにセバスとソリュシュンが動く。セバスは拳を構えた。
「待て、こちらとしては敵対する気はない……そちらはプレイヤーとNPC、どちらだ?」
その問いかけにセバスは眉を潜めた。
「……NPC、です」
「そうか。ならばプレイヤーはいるな? そちらのプレイヤーと話したい。この世界の者として」
「……その前に周辺を確認してもよろしいでしょうか? 我が主からの命令は周辺地理を確認せよというものなので」
「構わないとも。更に補足もしよう」
そうして三人になって歩き出す。
「(セバス様。この者、相当に強いかと)」
ソリュシュンが小声でセバスに告げた。
「(えぇ。最低でもレベルは八十以上はあるでしょう)」
セバスはヴィクトルの立ち振る舞いと装備からレベルを推測する。
実際正面切って戦えば負けるのはセバスの方だろう。不死のヴィクトルを殺しきる手段をセバスは持っていない。ソリュシュンはレベルが低すぎて話にならない。
といってもタイマンでの話になるが。
「申し訳ありませんが、貴方の名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
セバスは慎重に問いかけた。
「ああ。俺はヴィクトルだ」
「ありがとうございます。私はセバス・チャン。こちらはソリュシュンです」
「ああ。よろしく頼む。セバス、ソリュシュン」
三人は夜の平原に立つ。
(完全な平原、ですね)
セバスは聞いていた話と違うと周囲を見渡す。
至高の御方たちの話ではナザリックがあるのはグランベラ沼地という毒沼のはず。ここは正常な空気かおる何の変哲もない平原だ。
セバスは軽くジャンプする。
軽くといっても百メートル以上の大跳躍だ。レベル百は伊達ではない。
空から周囲を見渡す。そこは完全な平原で特に何もなかった。
すたっと地面に降り立つ。そこにヴィクトルが補足を加える。
「この平原に特に名前はない。ここはリ・エスティーゼ王国という国の領土でな。近く……南西の方にエ・ランテルという城塞都市がある」
「なるほど。国にはどのような種族がお住まいで?」
「人口の主な相手は人間だが、一部亜人種も暮らしているし、王都には異形種……アンデッドも暮らしている。といってもアンデッドは三人だけだがな」
この世界の状況はヴィクトルがなんやかんやめちゃくちゃ頑張ったので違う。
八本指が生まれず国の腐敗もあんまりないのでデイバーノックが研究者
ゼロなどの他の六腕になるはずだった者たちは竜王国に援軍に行っていたりする。
セバスに
「モモンガ様。何か御用でしょうか?」
『……いや。何。周囲はどうかと思ってな。何かあったか?』
「いえ。周囲には人口物の類はなし。フィールド効果も特にない単なる平原のようです。いるのはモンスターなどではなく小動物の類のみです。それと、報告したいことが」
『ほう? 誰かいたのか?』
「はい。ヴィクトルという方です。ご命令通りナザリックに連れて行こうと思うのですが問題ありませんか?」
『あぁ。問題ない。今は第六層に居るから第六階層に連れてきてくれ』
「畏まりました」
そういうと
「ヴィクトル様。我が主、モモンガ様が貴方にお会いになりたいとのこと。ナザリックにお連れしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、問題ない。連れてってくれ」
「畏まりました」
そういうと三人はナザリックへと戻っていく。
ナザリックの階段を降りて第一層に入っていく。
地下墓地を進んでいく。
少し進むとセバスを先頭に小部屋に入る。
「ヴィクトル様。この先にトラップがあります。ですがこのトラップは転移トラップでして我が主が居る第六層に直接転移できる物です。こちらを利用してもらいたいのですが構いませんか?」
「ああ、問題ない」
「ありがとうございます」
セバスがトラップを踏み転移し、続いてヴィクトル、ソリュシュンと踏んで転移する。
転移したヴィクトルの目に映るのは通路であり、少し先には光が見える。
闘技場の通路内だ。ヴィクトルはセバスに着いて行く。
その先は砂の大地で出来た闘技場。そこには異形の守護者たちが揃っている。
銀髪と白磁の肌を持ち、赤と紫を基調としたボールガウンとヘッドドレスを纏った赤目の美少女、真祖の吸血鬼シャルティア・ブラッドフォールン。
黒い肌に尖った耳。左右で色が違う瞳を持つダークエルフの双子の姉弟アウラ・ベラ・フィオーラとマーレ・ベロ・フィオーレ。
白い氷のような肌を持つ異形。カマキリと人を悪夢のように融合させた姿。四本腕に肩からは氷が飛び出している。
長い棘のついたしっぽを持つ虫系モンスター、コキュートス。
紅いスーツを纏った悪魔。黒い肌に少し尖った耳。鉄のような尻尾を持つ大悪魔デミウルゴス。
黄金の瞳に漆黒の髪が麗しい傾国の美女である。純白の胸元が開いたドレスを着ているが下品さはない。
瞳は金色で瞳孔は縦に割れ、頭から突き出した山羊の様な角、腰から漆黒の天使の翼が生えている。
女悪魔アルベドだ。
そして最後。
スルシャーナとそっくりの外見を持つが装備は違う。
漆黒のローブには骨をかたどった肩パットがついている。
胸元には赤く輝くワールドアイテムの姿がある。
ナザリックの主人にしてアインズ・ウール・ゴウンのギルドマスターモモンガだ。
ヴィクトルは内心リアルおばろだぁと興奮しているが顔には頑張って出さずに堪える。
「ほう。貴方が客人か」
モモンガはこの世界初の知的生物との会合に若干の緊張をしながら対面した。
ヴィクトルはある程度モモンガに近づこうとしたが守護者たちの目線が痛かったので途中で止まった。
「初めまして、俺はヴィクトル。アダマンタイト級冒険者を務めさせて貰っている」
「……アダマンタイト級冒険者?」
「ああ、この世界には対モンスター用の、そして未知を知るための存在として冒険者という仕事がある。アダマンタイト級というのはその冒険者の中で最上位の者の証だ」
これが証拠だ、とヴィクトルは胸元にあるアダマンタイトのプレートを示した。
(アダマンタイトが最高って、案外鉱石のレベルは低いのか……いや。名称が同じなだけで実際は違う可能性もある。気を付けなければ)
モモンガはそう警戒を続ける。
「初めまして。私はモモンガ。このナザリックの主人だ。よろしく頼む」
「ああ。よろしく頼む」
「……人間。モモンガ様相手に頭が高いですよ。"平服──」
「辞めろデミウルゴス! 支配の呪言は使うな! ……部下が失礼をして済まない」
モモンガは思いっきりデミウルゴスに向かって怒声を吐いた。
それに驚いたのはデミウルゴスとアルベドだ。
だがすぐにモモンガの意図を察し「申し訳ありません」と謝罪した。
「それで、だ。出来ればそう……二人っきりで色々と話したいのだが、構わないか?」
「問題ない。個室まで案内してくれ」
「ああ、すぐに連れて行こう……守護者たちよ。先ほど言った業務に取り掛かるのだ」
モモンガはヴィクトルに近づく。
「では転移するので受け入れてくれ」
「わかった」
「
そうしてモモンガとヴィクトルは客間まで転移した。
■
「では部下に頼んで何か飲み物でも持ってこさせようか」
「ああ。紅茶で頼む」
ヴィクトルはロールプレイを兼ねて紅茶を嗜んでいたら普通に好きになったので紅茶を日常でも飲むようになった。
モモンガが
それを終えると客間のふかふかのソファに二人は向かって座る。
「では改めて、モモンガです。先ほどは部下の前だったので高圧的に振る舞ってしまいました、申し訳ありません」
「……気にすることはない。だが、ロールプレイをしているのかもしれんが、早いとこNPCにも心を開いた方がいい。演技を永遠に続けるのは心労がひどくなるぞ」
「……忠言、ありがとうございます」
そこに部屋にノックがかかる。
「入れ」とモモンガが告げると「失礼します」とメイドが入ってきた。
(モブメイドも美人だな)
流石は天下のナザリックだとヴィクトルは感心する。
メイドが紅茶を置いて去っていく。
「ではこの世界について教えよう──」
二十分ほどかけて。ヴィクトルはモモンガにこの世界について教え終わった。
「人類詰みかけてません?」
「まぁ、そうだな……」
現状ヴィクトルが表立って亜人主要六大国家に攻め入るのは禁じられている。これはツアーたち竜王との世界盟約のせいだ。
そのために攻めてきたとしても防衛しかできない。攻めに行くことが出来ないのだ。
これは人類の生存圏を広げたくない真なる竜王たちのせいだ。
そのために現状竜王国が人類生存の最前線だが戦場の様子は芳しくない。
無限にも思える兵力を持つビーストマンの国家──六大国家とは別──が常に攻めてきているのだ。
更に相手は人肉を食えばその場で補給が可能というクソ戦法をとってきている。
「では、我々ナザリックとしてはギルドの維持費を得る必要があります。そういった問題に対し行動する我々にスレイン法国の者としてそちらはどう動きますか?」
「……元スレイン法国の組織の者に過ぎないが、まぁ人類殲滅とかのやばいことをしない限りは俺は何もせん。というか逆に人類国家全て征服して維持できるとかならしてもらいたいところはある。やはり人類全員一丸となって戦わなければ亜人には勝てないからな」
何故スレイン法国が巨大な国家として樹立しなかったのかというと単純な人手不足だ。
広大な領土を支配、維持できるだけの人材とインフラが整ってなかったのである。
「なるほど、ありがたい意見です。ですが人類国家を支配するにあたって必要な戦争による犠牲者は?」
「多少は仕方ないが、都市包囲で都市の人間皆殺しとかはしない限り動くことはない。戦争にもルールがあるからな。それを守ってくれればいい」
「なるほど、なるほど。ありがとうございます」
こうしてヴィクトルとモモンガの邂逅は平和的に終わった。