『最強』へと至る道   作:まるもも

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キャラの口調を守るのがほんとに難しい。
私にネーミングセンスを下さい。


弐歩目

 

直哉 Side

 

 

 

 

 その日、敷地の平原に行ったんは偶然や。

 俺は禪院家の相伝の術式を受け継いだ。みんな言うとる。次の当主は俺やってな。

 

 俺にも兄さん方がおる。

 ただ、全員もれなく相伝の術式なんてないカスどもや。俺の相手やない。

 そのうちの、一人の兄さんの噂を耳にした。

 

 曰く、相伝になれなかった出来損ない。

 曰く、ませた生意気なガキ。

 

 性格の面はどうでもええとして、相伝になれなかった、ってのは気になる。

 調べてみると、どうやら一個上の兄さんらしいわ。

 術式は『影操術』。成程、十種のなり損ないってわけやね。

 

 どんなアホ面しとるんやろ。

 どんな惨めな術式なんやろ。

 

 影の術式やったときはさぞ喜んだやろ。

 でもできそこないや。俺の敵やない。

 

 禪院家当主は俺や。

 

 よう平原に行っとる噂を聞いたから、偶々気分が乗って行った。

 どれだけいびってやろうか。

 

 

 そう考えて行った俺の思惑は―――兄さんの呪力を見た時、全部吹き飛んだ。

 

 何やこの呪力は。

 何やこの圧は。

 

 あの人を除いて、家の誰からも感じたことのない猛烈な"死"の気配を前に、俺は息を飲んだ。

 

 アッチ側。

 俺が追い求めてやまん領域に、その人は軽く立っているように感じたんや。

 

 それからや。俺が兄さんを『兄さん』と呼ぶようになったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   δ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オマエももう十。そろそろ外の世界を知る時だ」

 

 父である、禪院直毘人の声が響く。

 酒の匂いが鼻に突く当主の間で、父は酒をまた呷る。いつものことだ。

 胡坐をかき、徳利を片手に飲み続ける父に倣い、我も父の前に座り、胡坐をかく。

 

「……オイ、当主の前だぞ、少しくらい敬わんか」

「逆に敬わせてくれ、父さん。我には飲んだくれにしか見えんぜ」

 

 ふん。と、上機嫌とも不機嫌とも言えないような顔で酒をまた呑む。

 

「……で、任務の話だろ。最近よくやっている」

「直哉から聞いたか?」

「ノーコメントだ。で、階級は?」

「可愛げのないやつだ全く。三級の群れだ。家の忌庫にある呪霊は知っていよう? あれ程度だ。訳もないだろう」

 

 禪院家忌庫の呪霊。

 一度だけ見たことがあるな。全滅させて怒られた記憶がある。

 

 ただ。

 家の外でやれるというのはいい。家は不自由だからな。

 

「試し、ということか」

「まあな。家の中じゃずいぶん大人しい。直哉はオマエに懐いているそうだが、俺はそれを知らん。俺に魅せてみろ」

 

 視線が鋭くなる。

 飲んだくれで酔っていても、当主の眼だ。

 

「……で、任務受けるか?」

「断る理由がないな」

 

 即答すると、父は楽しそうに笑った。

 

「無茶はするなよ、死んだら困る」

「それはこちらの台詞だ。少しは節制しろ」

「はっ、十のガキが親に説教するな」

 

 そう言いながらも、どこか満足げだ。

 

 軽い会話。

 だが、言うべきことはすべて言い終えた空気だった。

 

 立ち上がり、襖に手をかける。

 

「生きて帰れよ」

 

 背中越しに投げかけられる言葉は、期待か。それとも。

 父の真意は分からない。

 

 ただ。

 

「了解」

 

 見たいと言うのなら、魅せてやろう。

 呪術全盛の、その強さを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「直毘人様。良かったのでしょうか? 至人様に単独任務など」

「フン、低級の群れよ。家の者はアレを十種の成り損ないと評すが、俺はそう思わん」

 

 至人が去った後。

 傍に控えた『炳』の術師が尋ねた言葉に、直毘人は軽く返す。

 

「異なる、と。直哉様は彼に随分入れ込んでいるそうですが、その理由も」

「恐らくそうであろうな。アイツが兄を敬うなど、余程の訳があったのだろう」

 

 直毘人は、また酒を呷り、くつくつと嗤う。

 

「何であろうと良い。相伝であろうがなかろうが、強者が上に立つことで禪院は存続する」

 

 せいぜい魅せてみろ、と、内心で綴る。

 直哉だろうが、至人だろうが。

 

 どちらが当主になろうが、禪院は続く。

 しかし、至人であればあるいは。

 

 麒麟児が産まれた五条の鼻を明かすことも―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   δ

 

 

 

 

 

 

 

 

「闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え」

 

 何度も繰り返した詠唱を紡ぎ、『(とばり)』を降ろす。

 結界術としては最も簡単な部類に入る帳だが、結界術というものがそもそも向き不向きが大きいものだ。

 使えない術師はどれだけ練習しても使えんし、使える者はすぐに使える。

 

 効果として、内部を視認できなくする効果が主である。

 平安の世と違い、大々的に呪術師が活動しているわけではない現代で必須の術といってもよい。

 呪霊を炙り出すことにもよく使う。

 

 さて。

 場所は京都府北部の山間地帯。

 特に被害者等が発生しているわけではないが、この場所はある種の『心霊スポット』として確立している地である。

 この山が霊場として成り立っていることも所以なのだろうが、非術師にとっても何か異常を感じるのだろうな。

 この山に畏怖が集まりやすく、低級の呪いの群れが周期的によく形成される、というわけだ。

 

 と。特徴、地形、所以を纏めた書類を見た記憶を思い返す。

 特に重要な書類でもなかったのか、書類の端には水でも零した跡が残されていた。杜撰な書類管理に飽き飽きする。

 まさに禪院家といったところか。

 

 憂鬱になった気分を打ち切り、降ろした帳を通して、山に足を踏み入れる。

 周囲を見渡せば、既にこちらを見られていた。

 

 ここだけではない。

 山全体にうじゃうじゃと、眩暈がするほど蔓延っているのを感じる。

 

 呪霊の存在は感じる。数も多い。だが、近寄ってこない。

 

「……妙だな」

 

 本来、三級の群れであれば、数の利を活かして襲い掛かってくる。

 知性は低くとも、本能だけは正直だ。

 

 それが今は、遠巻きに様子を窺っている。

 木々、寂れた小屋、転がる大岩……それらの向こうから、こちらを見ている。

 

 影を、少しだけ足元で動かす。

 術式を大っぴらには使わない。ただ、自分の影を動かすだけ。

 それだけで、数体の呪霊が後退した。

 

「……なるほど」

 

 我の呪力量……出力……質。

 どれが正解なのか、あるいはそれら全てが要因なのかは分からないが、この山周辺の呪霊は我を嫌悪し、近づいてくる気配はないようだ。

 前世ではよくあったことだ。領域展開後の呪力の残滓に、低級の呪霊ならばそう易々と近づくことはない。

 

 呪力の流れも、滲み出る呪力も完璧にコントロールしていたつもりだったが、甘かったか?

 それとも、呪霊とはいえ野生の存在を甘く見すぎたか。

 少なくとも、飼いならされた禪院家の呪霊ではこうはいかなかった。

 

 歩みを進める。

 地形、呪霊の配置が自然と頭に入ってくる。

 

 烏合。

 そう形容するしかないが、これほどの数がいるのも面倒だ。

 

「ククッ、試してやるか」

 

 全身に呪力を巡らせ、身体を強化する。

 これだけで、風よりも疾く、岩より堅く、正に金剛と評する体へと変わる。

 容易く刀をへし折り、矢を掴み、鎧を貫くことができる。

 

 最初に動いたのは、木陰に潜んでいた一体だった。周りが動いていないのを急き、我に向かってくる。

 四足の獣型。腹部に歪な口を持ち、地面を擦るように突進してくる。

 

 遅い。

 

 半歩横にずれるだけで、呪霊は虚空を噛んだ。

 すれ違いざま、肘を叩き込む。

 

 鈍い感触。

 核が潰れる感覚だけが手に残り、呪霊は形を保てず崩れ落ちた。

 

 それを合図に、周囲が一斉にざわめく。

 

 瞬く間に呪霊との距離を詰め、一撃で核を粉砕する。

 消失反応とともに返り血が揮発していく。

 

 囲まれる。

 

 左右、背後、上。

 考えるまでもなく、把握できる。

 

 跳躍してきた人型の呪霊を空中で掴み、地面へ叩きつける。

 衝撃で土が舞い、同時に核が砕けた。

 

 直後、足元から伸びる影。

 絡みつこうとした呪霊の腕を踏み潰し、そのまま頭部を踏み砕く。

 

「数だけは多いな」

 

 薙いだ手刀の一撃は、呪霊を両断し、血の雨が降り注ぐ。

 

「壮観だな。これほどの呪霊の群れはそう居ぬぞ」

 

 ―――だが、これでは終わらない。

 

 息を整える間もなく、次が来る。

 呪霊が湧く。絶え間なく、際限なく。

 

 斬り、砕き、踏み潰す。

 動きに無駄はないが、それでも。

 

「……キリがないな」

 

 胸の奥が、僅かに熱を持ち始める。

 血が騒ぐ感覚。

 

 ならば。

 

「……使()()()。折角の機会だ」

 

 血が巡る。

 己の血を自覚する。

 心臓の鼓動。

 

 そのすべてを、加速させる。

 

 血の巡りが変わり、心臓が跳ねる。

 幼いこの身では身に余るが、短時間なら動く。

 

 我に刻まれた、生来のもう一つの術式―――『修羅身(しゅらしん)』。

 血の巡りを加速させ、自らの身体能力を強化向上させる。

 

 単純な術式だが……それ故に強力。

 発動させた我の顔には、正に修羅と言える文様が浮かぶ。

 

「ハハッ、もっと……楽しませろォ!」

 

 先ほどよりも、遥かに鋭く。強く。堅く。

 研ぎ澄まされた一撃に、呪霊は消滅するしかない。

 

 視界が変わる。

 呪霊の動きが、止まって見えた。

 

 踏み込み一つ。

 次の瞬間には、三体が消えている。

 

 腕を振るえば衝撃が走り、

 足を動かせば地面が抉れる。

 

「遅い、弱い、脆い――」

 

 久方ぶりの、全力。

 戦いの愉悦に、笑みが浮かぶ。

 まさに蹂躙。塵殺とも呼べるそれに、呪霊はただ声も上げずに消え失せるのみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして蹂躙した後。

 それでも蛆の様に湧いて出る呪霊に、そろそろ辟易してきた頃だ。

 

「つまらん……歯応えがない。これでは直哉の方がマシだ」

 

 折角の外出の機会だ。

 分かりきっていたこととはいえ、これほど張り合いがないとは思わず、我の内心は冷めきっていた。

 

 すると。

 山の中腹に一際大きな呪力反応を感じる。

 階級にして二級……準一級でもおかしくないか。

 

「ハッ、なら丁度いい」

 

 新たな呪霊に、身を震わせる。

 修羅身を解除する。

 

 瞬間、肺がひくりと引き攣れた。

 胸の奥が焼けるように痛み、呼吸が一拍遅れる。

 

 まだ、早いか。

 

 自嘲気味に息を吐き、反転術式を巡らせる。

 強度に耐えきれず悲鳴を上げた肉体が、軋みながら修復されていく。

 

 この身は、まだ十だ。

 無理が利くほど、完成してはいない。

 

 その時。

 目算で準一級ほどの呪霊が、こちらに接近してくるのを感知する。

 

 さて。

 経験はある。

 最期の死合では、実際にやってみせた。

 アレよりも範囲が広く、成り立つかは不明だが……まあ、低級の群れなら問題ないだろう。

 

 資料で見た山の概要と、その大きさを思い返す。

 標高は関係ない。

 現在地から、山の全体までの距離を思い返す。

 

 

 静かだ。

 

 先ほどまで蠢いていた呪霊の気配が、一斉に沈黙する。

 風が止み、木々の葉擦れすら聞こえなくなった。

 

 音が消えたわけではない。

 ただ、この山が息を殺している。

 

 足元の影だけが、異様なほど濃く揺れていた。

 それが何よりも、心地よく感じた。

 まるで、世界そのものが我の為に動いているかのような。そんな自己中心的な考えを抱いた。

 

 結ぶのは外縛印。

 しかし。完全には結ばない。

 指先をわずかにずらし、()()()

 

 指が嚙み合わない。

 ただ、それがいい。

 

 

 

「領域展開―――『無冠之影坐(むかんのえいざ)』」

 

 

 

 発動するは、呪術の極致。

 

 

 

 





禪院直毘人
産まれた息子の一人が影の術式であり、クッソ喜んだが、十種の下位互換で一瞬落胆した。
しかし直哉が謎に懐いていたり、本人の呪力量もかなり高い(制限中)ため、強かったら当主でもええなと考え中。
酒飲みながら書類見てたらガッツリ零した。



禪院至人
前世では修羅身を用いて、近接戦闘では無類の強さを誇っていた。
完全体平安すっくん(飛天・神武解)相手でも、近接戦闘では互角に立ち回った。
呪術における技術は大概なんでも扱える。(反転アウトプット、閉じない領域を除く)





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