『最強』へと至る道   作:まるもも

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新生活前でめっちゃ忙しかったです。すみません。
呪術アニメ最終話最高過ぎた……


参歩目

 

 

 

「領域展開―――『無冠之影坐(むかんのえいざ)』」

 

 

 

 影が、世界を包む。

 どこまでも、果てしなく、全てを。

 京都府北部の山間部―――その一つの山に生息する呪霊、およそ二三四体。

 その全てが、一斉に動きを止める。

 

 死への恐怖?

 領域の衝撃?

 

 そんなものではない。

 その全てはただ、そう在らざるを得ないだけだ。

 

 領域展開、無冠之影坐。

 己が生得領域に、影操術の術式を付与した領域である。

 

 影の領域が、山全体を飲み込む。

 無論、縛りは付与している。

 

 一つ。外郭として、『帳』を転用すること。

 二つ。領域の必中効果を無くすこと。

 

 これら二つの即席の縛りを以て、半径二キロメートルの領域とする。

 

 帳を転用することで、領域内の全てに対し『出入り自由』の選択を課す。

 必中効果をオフにし、自身への縛りとする。

 

 無冠之影坐は現在、影操術の潜在能力(ポテンシャル)を120%発揮するためのものに過ぎない。

 

 領域内の全てに対し、マニュアルで術式を発動しなければならないが……問題ない。

 

 全てが、停止する。

 まるで時間が止まり、自分だけ動けているかのような。

 そんな風に思える情景を眺め、言葉を漏らす。

 

「……詰みだな。諦めろ」

 

 そう告げながら、どこか退屈そうに目を細めた。

 

 目先およそ五メートル先。

 準一級と目算した呪霊は、既に行動を停止していた。

 

 ギチギチと、歯軋りを繰り返したような雑音が、常に木霊していた。

 唯一足掻けるのは、この呪霊のみ。それもただ、身体を震わせることしかできないが。

 

 先日、直哉との鍛錬で使用した、影操術による行動の阻害。

 それを強制し、領域内の全てを停止させるのがこの領域だ。

 

 影を因とし、実体を果とする。

 まさしく因果の逆転とも言うべきその御業は、領域という奥義によって漸く成り立つ。

 

「領域無しでやれば呪力をどれほど使うか分からんな。少なくともまともには運用できまい」

 

 ぼやきのように打ち漏らした疑問も、応える者は誰もいない。

 全てはこの領域……『影』に平伏しているのだから。

 

 それを、終わらせる。

 

 影を操作する。

 呪霊が、潰れる。

 ミチミチと肉が擦り、骨が軋み、削れていく。

 

 山のあちこちで、同時に音が鳴る。

 視界の端で、木陰に潜んでいた呪霊が平たく潰れる。

 岩陰のそれは、影に縫い止められ動かない。

 空中に浮いていた個体は、そのまま地面へ引き摺り落とされた。

 目の前を見れば、準一級呪霊の肩が沈む。

 膝が折れる。

 首が傾く。

 

 抵抗はしている。

 呪力を噴き上げ、脱しようとしている。

 

 だが。

 

 影は逃がさない。

 

 みしり、と。

 

 

 なんの苦難もない。

 ただ、影をそう動かしているだけだ。

 それが、この領域の理なのだから。

 

 そうして影は、全てを飲み込んだ。

 

 

「任務完了……ということで良いか」

 

 

 影が戻る。

 山を覆っていた影が、ゆっくりと薄れていく。

 

 止まっていた時間が動き出したかのように、木々の影が元の長さへ戻る。

 岩の影が地面へと張り付き、空気が僅かに動き始めた。

 

 音が、静けさを保っていた音が戻り始めていた。

 半径二キロに及んだ影の支配は消え失せ、平凡な夜が戻ってきたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「だっはっは、まさか領域とはな」

「半径二キロの領域展開……本当ですかコレ。異常すぎますよ」

 

 再び、禪院家の本邸。

 先日よりも顔が赤く、酒が進んでいる様子が見て取れるダメ爺を前に、我は答える。

 

「と言われてもな。残穢でも何でも見てみれば良い」

 

 そう答えて見れば、父とその配下である炳の一員は心底驚いたような表情を見せた。

 

「領域ですら習得している人間は少ないのですよ。特級である九十九……くらいでしょうか、できるのは」

 

 配下のその言葉を聞き、我は少し考える。

 確かに、現代ではいくらなんでも領域を扱える人間が少な過ぎる。

 父も扱うことはできないし、家の他の連中も同様だ。外にも、特級の一人である九十九という女性が可能性ありとのこと。

 

 文献を読んでみたところ、現代の術師は『必中必殺』の領域に拘り過ぎているように感じる。もっと自由でいいのだ。領域というものは。

 人間の心が、性格が、術式が千差万別であるように、それぞれにあった領域の形があり、それぞれ違う領域の正解があるのだ。平安の世では『必中』の部分を重視して領域を成り立たせているものが多かったな。『無冠之影坐』もその一つだ。影操術である故、こちらの領域は十分に磨けていない。先ほどは効果範囲を山全体へと広げるため『必中』すら捨ててマニュアル操作での運用を強いたが。

 

「通常の領域であれば、精々が半径50メートルの効果範囲が限界です。それを山一つ丸ごと覆うなど……常軌を逸しています」

「まあともかくだ。オマエが期待以上……というより規格外の存在であることは十分に分かった」

「はあ。まあそれが父さんの狙いだろう。で、これからどうする?」

 

 我の言葉に、父は愉快そうに顔を緩ませた。

 

 

「至人。オマエをこれより『特別一級術師』とする」

 

 

 ほう。これは予想外だな。

 目を見開いていると、父は続けて言葉を放つ。

 

「まあ、あと五年限りの話だがな」

「五年? どういうことだ」

 

 

 

「オマエ、東京の高専に行ってこい」

「……はあ?」

 

 

 

 高専。

 平安の頃も、呪術を教える教育機関のようなものは設立されていたが、あくまでも貴族の面々や余程の才を持つものが、莫大な金銭を投じて漸く入れる場所だったのを覚えている。

 

「呪いを扱う術を教え、将来の術師を育てる場所、か」

「そうだ。ただの学校ではない」

 

 父は杯を傾け、口元を歪めた。

 

「呪術界の人脈が集まる場所でもある」

「……人脈か」

「上層部に顔を売る、将来の呪術師、もしくは高専所属の術師と縁を持つ。当主になれば前者は容易だが、後者はそううまくはいかん」

 

 淡々とした口調で意義を話すが、その実かなり打算的な話なわけだ。

 我はわずかに眉を寄せる。

 

「我が行く必要はあるのか? 前者が容易であるのなら、我以外の若者を高専へと向かわせてもよいだろう。直哉も将来は炳に入る潜在能力(ポテンシャル)はある」

「あるさ」

 

 即答だった。

 

「五条の神童は知っているな?」

「あぁ、六眼と無下限の抱き合わせだったか」

「四百と余年ぶりに産まれたアレは、必ずこの先数十年の呪術界を牽引する存在となるだろう。放っておけば、確実に呪術界は五条に傾く」

 

 成程。

 納得した表情で、我は父の先の言葉を紡ぐ。

 

「直哉では五条の神童に力が及ばん、と」

「そういう訳だ。オマエは今の禪院の子で最も才に溢れ、それは五条悟にも劣らんものだと俺は確信している」

 

 父は嗤う。

 愉快そうに、そして冷酷に。

 

「禪院が下に見られるなどあってはならん」

「我を送り、五条が動く前に盤面を抑える、という訳か」

 

「そうだ。五条家はアレを余程甘やかしておるようだし、五条悟が高専に来ることはないだろう。上層部と繋がりを持ち、そして均衡を取る」

「……成程な。しかし、東京校である理由は?」

「まあ単純なものよ。オマエ、京都から出たことないだろ」

 

 ……確かに。

 

「それに」

 

 一拍置いて、父は言葉を放つ。

 

「五条悟以外にも、同世代で張り合える相手がいるかもしれんぞ」

「―――ほう」

 

 それは、少しだけ興味を引かれた。

 

 

 

 

 

 

 

  δ

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、五年。

 五回の季節の一巡に、この時代の風情ある景色を堪能し尽くした頃。

 漸く、高専へと入学する時が来た。

 

 この五年、我は特別一級術師として活動を続けてきた。

 禪院の中での評価も変わった。

 

 ―――禪院の異端。

 ―――規格外。

 ―――次代の当主筆頭候補。

 

 好き勝手言わせておけばいい。評価など、どうでもいいことだ。

 

 ただ一つ。

 あの時、父が言った言葉だけは、未だに、頭の片隅に残っている。

 

『同世代で張り合える相手がいるかもしれんぞ』

 

 ……果たして。

 本当にそんなものが存在するのか。

 

 

 

 春。

 東京。

 

 初めて乗る新幹線に、浮足立つ心を抑え、東京へと降り立つ。

 見慣れぬ街並みを前に、我は足を止める。

 

 人の数が違う。

 空気の質が違う。

 呪いの濃度もまた、京都とは比べものにならない。

 

「……なるほどな」

 

 小さく呟く。

 これが、東京か。

 

 東京都立呪術高等専門学校。

 新幹線から降り立った東京駅とはまた様子が違い、首都として「都会」の印象をそのまま再現したかのような場所ではなく、どこか京都のような、自然と伝統的な日本家屋の融合を果たした親近感のある建物が揃っている。

 

 ……警戒していたほどの圧は感じない、

 天元のお膝元らしいが、結界を通っても何の反応もない。

 あの婆のことだ。千年ぶりの我のことなど記憶から消え去ったか?

 

 若干拍子抜けだ。

 

 校内へと足を踏み入れる。

 案内に従い、指定された教室へ向かう。

 

 廊下は静かだった。

 人の気配も少ない。

 

「……本当に学校か、ここは」

 

 京都で見た、小中学校の和気あいあいとした雰囲気は何だったのだ?

 想定が幾度も崩壊しながら、戸惑いを胸に教室へ進む。

 

 教室の前で立ち止まる。

 軽く息を吐き、戸に手をかける。

 

 ―――さて。

 どれほどのものか、見せてもらおうか。

 

 ガラリ、と。

 何気なく、戸を開けた。

 

「お、来た?」

 

 いた。

 教室のど真ん中。

 机の上に腰掛け、足をぶらつかせながら。

 

 こちらを見てにやりと笑う男が一人。

 

 特徴的な白髪。

 軽薄、自己中心的な笑み。

 

「遅くね? 初日からサボりかと思ったわ」

「……」

 

 一瞬、思考が止まる。

 

 ……なんだ、コイツは。

 

「俺、五条悟。よろしくな」

「………は?」

 

 脳内で一瞬浮かんだ疑問に対して、ものの0.2秒で返答が返ってきた。

 思わず、間抜けな声が出る。

 

 脳裏に浮かんでいた「想定」が、我らにとって都合の良い「想像」に変わった瞬間だった。

 

 四百年振りの六眼と無下限の抱き合わせ。

 呪術界の均衡を揺るがす存在。

 

 ―――そのはずの男が。

 

「で、オマエの名前は?」

 

 足をプラプラ揺らせながら、気軽に尋ねてくる。

 

「……面倒そうだな」

「あ? なんて言った?」

「いや、別に」

 

 小さく息を吐く。

 どうやら、退屈はしなさそうだ。

 

「禪院至人。四年間よろしくな、五条」

 

 ―――むしろ。

 厄介極まりない四年間になりそうだ。

 

 

 

 






禪院至人
身長185cm、体重83kg。
五年間の時を経て、立派に成長してゴリラになって高専へ殴り込み。
ちなみになぜか知らないがクソ甚爾に似ている。
五条悟とかいう男への印象は今のところかなり好印象。



五条悟
束縛されまくりの実家から漸く出れて、新しい新生活に胸を躍らせ中。
どこかで見たことあるような顔のゴリラが遅刻ギリギリに来たので、興味津々で話しかけてみる。
禪院家と知って一瞬凄い顔する。



禪院直毘人
いろいろ考えた末に息子を高専に送り出したものの、その想定が一瞬で崩れて爆笑中。
至人なら何とかなるだろの信頼で安心して爆笑している。
 

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