ヤンデレウマ娘に迫られて   作:カニ漁船

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創作意欲を回復するために趣味全開の小説を書くことにしました。


case.1 ドリームジャーニーの場合 ①

 ドリームジャーニーと駆け抜けたトゥインクル・シリーズは、かけがえのないものだった。

 

 彼女にとって御しやすいから選ばれたかもしれないと考えていた最初の頃。それでも自分なりに足搔いて、もがいて、相応しいトレーナーになろうと日々頑張り続けた。

 彼女の力になりたい。隣に立つのに相応しいトレーナーでありたい。そしてなによりも……彼女と一緒に、とあるウマ娘が辿った一筋の黄金、旅の果てを見たい。その一心で。

 

 強敵だらけだった。上手くいくことの方が少なかったかもしれない。迷惑をかけたことも、数えたらきりがないだろう。

 それでも、俺とドリームジャーニーはやり遂げた。中山レース場の大歓声を受けながら制した有記念。その果てに、俺は黄金を見た。

 

 ドリームジャーニーの名前がコールされる中で、思わずつぶやく。

 

「夢のような景色だっ」

「えぇ、本当に」

 

 隣に立つドリームジャーニー。この景色の素晴らしさを、2人で目に焼き付ける。

 

「皆さんの夢が、とても眩しく……愛おしい」

「君も眩しいよ。君もまた、黄金のように輝いている」

 

 驚いたように目を見開くドリームジャーニー。少しだけ呆然とした後、誰もが見惚れる笑みを浮かべた。

 

「貴方のそういうところは、最初から変わりませんね。とても眩しくて、愛おしい、守りたくなるもの」

「あはは。思えば、最初の頃はジャーニーに守ってもらってばかりだったなぁ。今は、どうだろう?」

「フフフ。口にしなくても、貴方なら分かるでしょう? 頼りにしていますよ……私のトレーナーさん」

 

 夢のような景色。彼女と歩んだ蹄跡はとても素晴らしいものだった、声を大にして言える。

 

 そんな景色から数ヶ月ほど経ったある日。ジャーニーがトゥインクル・シリーズ引退の申し出を正式に出して、少ししてからのお話だ。

 

 

 

 

 

 

 

「恋人、ですか」

「うん。この機会に作っておいた方がいいかなって」

 

 トレセン学園の一室。遠征支援委員会の部室となっている場所で、俺は担当ウマ娘のドリームジャーニー、ジャーニーと話をしていた。

 

 他愛もない世間話から、今後の計画。今頃ステイゴールドはどこにいるんだろうね、とかオルフェーヴルは大丈夫だろうか、とジャーニーに関連する話題を広げていた。

 いつも通りの世間話。取り留めのない会話。家族のように居心地の良い時間を過ごしていた。

 2人で紅茶を飲み、現役の忙しい日々が嘘のようなゆっくりとした時間。ジャーニーの微笑みが眩しく感じる。

 

 ただ、恋人というキーワードが出てきた瞬間、ジャーニーの表情がピシリと固まった。微笑んだまま、ティーカップを手に持ったまま微動だにしない。

 深い意味はなかった。世間話の延長線上で、他のトレーナーとの会話で出てきた話題を口にしただけ。そのせいで、ジャーニーは固まってしまった。

 

 やってしまった。と、とにかく。急いでジャーニーに説明しないと。

 

「いや、先輩から言われたんだ。早めに恋人を作っておいた方がいいって。後から手遅れになっても知らないぞ、って」

「それはそれは……ですが、トレーナーさんはまだお若かったですよね?」

「うん、まだ20代半ば。俺もそう言ったんだけど、時間はあっという間に過ぎていくもんだって言われてさ。確かに、って思ったよ」

 

 我ながら学生にこの話を聞かせるのはどうかと思ったけど、ジャーニーは信頼できる相手だ。問題はない。

 

 気づいたら30代。結婚するには手遅れになる年齢はすぐにやってくる。そうなった時に行動しても遅い。

 俺は人生で一度も恋人を作ったことがない。今からでもいいから作った方がいい。その方が、今後の人生のタメになる。

 なにより、若いトレーナーというのは希少性が高い。中央のトレーナーなら、女の方からすぐに食いつく。

 ジャーニーがトゥインクル・シリーズを引退して、暇な時間ができたはずだ。次の担当を探す前に、恋人を探した方がいい。

 

 これが先輩から言われたこと。要約すると、お前は今暇なんだから人生のパートナーを探しておけ、というありがたい助言だ。

 間違ってはいない。最近は時間の流れが早くなっているように感じるし、30代に突入するのもあっという間だろう。今の内に彼女の1人でも作っておかないと、独身貴族まっしぐらだ。

 それは嫌だ。俺だって人波の欲はあるし、彼女は欲しい。じゃあなんで今まで作らなかった、って突っ込まれると、耳が痛いけど。

 

 とにかく、今の内に彼女の1人でも作りたい。今後の人生のために、パートナーを見つけたいのだ。

 

「ですが、トレーナーさんは今まで彼女をお作りになったことがないのでは? 学生時代も、浮いた話は1つもなかったはずです」

「あはは……恥ずかしい話だけど、一度もないんだ。勉強勉強で遊んでる時間がなかったから」

「勉強というのは、トレーナーになるための?」

「うん、そうだね。俺は、絶対にトレーナーになりたかったから」

 

 幸いにも、ジャーニーもこの話題に乗り気みたいだ。先ほどの気まずい雰囲気から少しだけ前に進む。微動だにしなかった姿勢を解いてくれて、嫌がる顔を見せずに続けてくれた。

 

 問題は、どう恋人を作ったものか。頭の中でいろいろ考えていると。

 

「では、私がトレーナーさんの恋人になるというのはいかがでしょうか?」

「……え?」

 

 ジャーニーから驚くべき提案が飛んできた。思わず阿呆みたいな声を出してしまう。完全に虚を突かれた。

 

(ジャーニーが? 恋人に?)

 

 考えたことがなかったな。担当ウマ娘と付き合うなんて発想自体ないし、なによりジャーニーはこれまで旅を共にしてきた仲間、同士のようなもの。恋人になるなんて想像したこともない。

 きっと彼女もそう思っているはずだ。俺のことは同士で、そういう目で見たことはない。目的を共にした同士、それ以上の関係は望まないと、勝手に想像していた。

 けれど、ジャーニー側からの提案で崩れ去る。今まで保っていた距離感が、考えてこなかったことを叩きつけられて、嫌でも想像してしまう。彼女との、この先の未来を。

 

 悪くないと思う自分がいた。ダメなことなのに、だ。

 

「う、うーん……」

「トレーナーさんは恋人が欲しいのでしょう? 人生を共にするパートナーが」

「そ、そうだね。欲しいよ」

「では、私なんていかがでしょうか? 私はトレーナーさんのことを好ましく思っていますし、恋人になるのも嫌ではありません。どうでしょう?」

 

 ジャーニーはいつもと変わらない笑みを浮かべている、はずだ。なのに、どうしてか心臓は早く脈打っている。さっきから顔どころか体が熱い。

 なんとか落ち着こうとするけど、落ち着かない。ジャーニーの言葉にドキドキしている自分がいる。

 いつもと同じ笑顔のはずなのに、前後に言葉1つ加わっただけで別の意味に感じてしまう。いつもなら受け流せる笑顔が、今は受け流すことができない。

 

「貴方の心は、とても綺麗だ。素直で、純粋で、無垢」

「う、あ、じゃ、ジャーニー?」

「誠実な人柄、何時いかなる時も、貴方は偽ろうなんて考えようとしない。その純粋さがとても眩しく、私を惹きつけて止まないのです」

 

 コツ、コツ、と。ジャーニーが俺との距離を詰めてくる。座っていたソファから立ち上がり、俺の近くへと寄ってくる。俺の良いところを上げ続け、俺のことが好きだと主張しながら、こちらの心をかき乱してくる。

 ジャーニーはずっと微笑んだままだ。いつもなら安心感を覚えるそれに、今は妖艶さを感じる。思わず身を委ねてしまいそうなほどの蠱惑さを。

 ダメだと分かっているのに、逃げ出せない。口にできない。されるがままになっている。

 

 気づけば、目と鼻の先。お互いの吐息がかかる距離に、ジャーニーは近づいていた。

 

「どうでしょう? 私を恋人に、という案は」

「そ、その、ジャーニーっ」

「まぁ、私はこんな体躯です。トレーナーさんの好みからも外れていますし、この体に欲情できないというのであれば……それは仕方ないと受け取るしかありませんが」

「よくっ!? い、いや、ジャーニーにはジャーニーの良さがある! 俺も、ジャーニーみたいな子は好きだよ!?」

 

 待て、勢いでとんでもないことを口走らなかっただろうか。いや、そんなことを考える暇がない。ジャーニーの悲しい表情は、俺は見たくないから。

 

 ただ、それはそれとしてジャーニーの真意が分からない。彼女がなにを考えていて、どういう結末を望んでいるのか。

 何故自分から恋人になると言ったのか。何故今も微笑みを崩さないのか。先程の驚いていた顔と関係があるのか。彼女は一体、何を考えているのか。

 

 焦る思考の中、意図を探ろうと必死に考えを巡らせて……今も微笑みを絶やさない彼女を見て、1つの可能性に思い至った。

 

「……ジャーニー、俺のこと揶揄おうとしているでしょ?」

 

 あるかもしれない可能性。俺を揶揄っているのかもしれないと、ふと思った。なんとなく、だけど。

 

 そう指摘すると、彼女はいたずらっぽく笑った。バレてしまいましたか、と言いたそうな顔で。

 

「おや、分かりましたか。フフフ」

「あ、焦った……俺を揶揄っていたんだね?」

「申し訳ございません。トレーナーさんの反応が可愛らしくて、つい意地悪をしてしまいました」

 

 この反応から察するに、俺を揶揄うための嘘だったらしい。なんとも可愛らしい嘘だ。

 いや、可愛らしくはない。一瞬、本気で俺の恋人になろうとしているんじゃないかなんて考えがよぎったほどだ。それくらい真に迫っている演技だったし。

 

「意地悪って。こっちは心臓に悪かったよ、ジャーニーが本気なんじゃないかって」

「フフ、やはり貴方は可愛らしい人だ。とても良い反応をしてくださる」

 

 今も愉快そうに笑っているジャーニーの姿に安堵する。冗談であってくれてよかった、と。

 

 まぁ、仮に本気だとしても俺は断るつもりだった。というよりは、断らないといけない。理事長達からなんて言われるか。

 

(俺はトレーナーで、彼女は担当ウマ娘。恋人の間柄になるのはよくない)

「けど、冗談も程々にね? ジャーニー。俺が本気にしちゃったらどうする気だったの?」

「本気でも私は構いませんが」

 

 大丈夫、大丈夫だ。これはジャーニーの嘘、俺を揶揄うための嘘を今も続けているだけ。もう惑わされないぞ。

 

「ダメだよ。俺はトレーナーで、君は担当ウマ娘。その関係が変わることはないんだから」

「──左様ですか」

 

 変わることはない。そう言った瞬間、ジャーニーの表情に少し寂しさのようなものが見えたのは、気のせいなのかもしれない。

 

 

 改めて、恋人のことについて考えてみる。いかにして作るか? その方法を。

 

 目についたのはスマホのマッチングアプリ。今では当たり前になりつつある、出会い系というもの。

 

「マッチングアプリは鉄板だと思うんだよね。ウマチューブの広告でよく流れてるんだ」

「あぁ、あの。最近では利用者が増えているのだとか」

「うん。誰でも持ってるスマホでお手軽にできる、登録方法も凄く簡単なんだ。早速1つ入れてみたよ」

 

 前日の夜のうちに粗方終わっていた。後はどれだけ興味を持ってくれるかだ。

 

 どれだけのメッセージが届いたのだろうか。アプリを起動する、ってうわ!?

 

「今開いたら、凄い数のメッセージが飛んできてる!? な、なんで!?」

 

 アプリを開いたら、膨大な量のメッセージが来ていることに気づく。試しに1つ確認してみると、お誘いのメッセージ。次も、その次もだ。

 ということはつまり、届いたメッセージは全てお誘いのものだろう。間違いない。

 

 一応、トレーナーという職業が人気であることは知っていた。だとしてもこんなに? と思わずにはいられない。下手したら数十件レベルで来ている。

 

「それだけ、トレーナーという職業が人気なのでしょう。高収入でお金持ち、世の女性が狙わないはずがありませんから」

「そ、そうなのかな?」

「えぇ、間違いなく。マッチングアプリを使う女性というのは、大多数がそうですから。それでも、一晩しか経っていないのにこれだけの数は、さすがの私も予想できませんでしたね」

 

 ジャーニーの呆れているような声をよそに、1つ1つ確認していく。いや、確認するにしてもさすがに多すぎるな、これ。

 それでも、送ってくれたのだからちゃんと中身を見ないと。時間がどれだけかかってもいいから、丁寧に返信していく。

 

「えっと、まずはどの人から会ってみよう……う~ん、これだけ多いと決めるのも一苦労だなぁ」

「でしたら、趣味が合いそうな方とマッチングしてみるのがよろしいかと。プロフィール欄から確認できるはずです」

「あ、本当? ありがとうジャーニー。でも、こんなことまで協力してくれなくても大丈夫だよ? 俺1人でもできるから」

「お気になさらず。それに、貴方の伴侶となる相手にはとても興味があります……えぇ、とても」

 

 ジャーニーの助力もあり、会ってみる女性の相手を決める。今度の休日、約束を取り付けることができた。

 

「ふぅ……ごめんね、ジャーニー。こんなことまで手伝わせちゃって」

「気にしないでください。私が好きでやっていることですので」

 

 優しく微笑む彼女の姿。さっきの恋人発言を思い出して、少しだけどきりとしてしまう。雑念を、煩悩を振り払うように頭を払った。

 というか、気づいたらジャーニーに手伝ってもらってたな。最近ではそんなこともなくなったんだけど、話の流れで付き合わせてしまった。

 こういうところはよくない。未来の彼女も、担当ウマ娘に恋愛指南されるような男とは付き合いたくないだろう。自立できない男だと思われるのは嫌だ。

 

 そのためにも、この先は1人でやっていかなくちゃな。

 

「ありがとうジャーニー。君が少しでも安心できるように、俺も頑張るよ!」

 

 現役の頃からお世話になりっぱなしだった。それも今日で終わらせる。彼女の力無しでもできるんだってとこを見せて、安心させないと。

 

 宣誓。ジャーニーの力を借りなくても、立派にやり遂げることができる。そう誓う。

 ジャーニーは。

 

「──はい。陰ながら、応援していますよ」

 

 なにも心配はしていないとばかりに、俺を送り出してくれた。いつものように優しく微笑んで、思わず安心してしまうような笑顔を浮かべて、恋人探しを応援してくれた。

 俺も、その期待に応えるぞと、ひそかに決意を固める。

 

 

 ──ドリームジャーニーの瞳。薄く開かれた彼女の瞳が、暗く淀んでいたことに、気づかないまま。

 

 

 

 

 

 

 あれからどれだけ経ったのか? 恋人探しは順調とは言えない。

 

 何故なら最初のデートに行ったきり……一人の例外もなく音信不通になったのだから。

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