「宝くじで一等賞を」と願ったら、外れのサイコロ魔法を引かされました。 ~黒羽根に堕ちた私に救いなんてありません~   作:黒陽石

1 / 6
最悪の「ハズレ」を引かされた魔法少女。
巴マミに助けられ、黒羽根になる。
そこから絶望のダイスを振り直して、神浜の偽善をぶち壊すお話。


※Pixiv投稿版の全面改訂版。結末、登場人物も全面改訂。


※独自設定・残酷描写あり。
キャラの否定的な捉え方を含みますが、キャラヘイトではありません。
中学2年生から見た高校3年生や、OBという捉え方です。




的中率100%のハズレ魔法

七見(ななみ) 吾妻(あずま)だね?

 アズマと呼んでいいかな。

 

 僕はキュゥべえ。

 君の願い、なんでも1つかなえてあげる。

 そのかわり、僕と契約して……

 魔法少女になってほしいんだ!」

 

 

 染めてないミディアムショート。

 小柄で、ちょっと薄い体型。

 どこにでもいる、女子中学生。

 なのに私の人生、逆風ばかり。

 今度の引っ越し先は、見滝原市と神浜市に挟まれた、厚本市。

 お父さんがいなくなってから暗い顔ばかりだったお母さんに、ここに来て笑顔が増えた。

 

 対照的に、私は疲れていた。

 

 だから目の前に、白ウサギと白ネコとオコジョをかけあわせたような、奇妙で可愛らしい生き物があらわれた時も。

 驚かなかった。

 

「僕の名前はキュゥべえ。僕と契約して魔法少女になるなら、僕は君の願いをなんでも一つ、かなえてあげるよ!」

 

 キュゥべえと名乗った白い小動物は、少年とも少女とも判別できない声だった。

 陽気で、気さくな口調で喋りかけてきた。

 

 私は、キュゥべえの口車に乗った。

 

 キュゥべえの力は、本物だった。本当に奇蹟が起きた。どんなクジにも外れっぱなしのお母さんに、幸運が巡ってきた。一生苦労せずにすむ、とんでもない大金が入った。

 

 

 誰かが、その代償を払わなくてはならない。

 

 私は魔法少女となり、可愛い衣装を身にまとう。

 こんなアイドル風のコスチュームを着ていいの?

 鏡に映した自分が、私じゃないみたい。

 戸惑うような姿で、私は、魔女というバケモノと戦うことになった。

 

 

 私の武器は、二つの六十面ダイス。

 赤のダイス、青のダイス。

 

 

 ……それだけ。

 キュゥべえは私の肩に乗り、しげしげと眺めていた。

 

「面白いね。『宝くじに当たりたい』という願いが、確率を操る力になった。実に効率的だよ」

 

 試しに、空き地に転がっていたゴミの椅子に向かってダイスを投げてみた。

 手から離れた瞬間、脳裏に数字が閃く。

 

 ――赤『37』。青『53』。

 

 

 ドォン!!

 

 

 鼓膜を震わせる轟音。

 煙が晴れた後に残っていたのは、表面が少し煤けただけの、無傷の椅子だった。

 

「キュゥべえ。これ、外れだよ」

 

 音だけは一等賞。

 されど実害はない。

 虚仮(こけ)おどし同然の空砲だ。

 

「威力の期待値が分散しすぎているのかな」

 

 キュゥべえは、勝手に頷きながら分析している。私の手元には、次のダイスが魔力を消費して補充された。

 

「君の願いが『安易な大金』だったから、魔法も中身の伴わない虚飾になったのさ。たぶん、出目によって威力はかわると思うよ」

 

 キュゥべえは淡々と、私の浅ましさを指摘する。

 

「さあ、もっと試行を繰り返してデータを集めないと……おや?」

 

 キュゥべえは言葉を切って、耳をパタパタと動かした。

 パトカーの、サイレンが近づいてくる。

 

「君の力は、戦うためじゃなく、君を追い詰めるために回っているようだね」

「――最悪」

 

 吐き捨てて、キュゥべえを肩に乗せて走り出した。

 

 

 

 

 家の近くの公園にむかうことにする。

 大通りの横断歩道。

 信号が青になるのを待っていた、その時だ。

 赤と青のライトを眺めていて、ふと閃いた。

 

 二つのダイスを、同時に握りつぶす。

 すると、その出目の『瞬間』だけ、未来の静止画が脳内に浮かぶ。

 

「それは面白い。僕にも想定できなかった使い方だ。すぐに試してみなよ」

 

 キュゥべえに促され、掌のダイスを砕いた。

 

 

 

 赤『00』、青『03』。

 

 

 

 脳内に、鮮明な『静止画』が叩き込まれる。

 

 そこに映っていたのは、反応のない屍。

 歩道に乗り上げたダンプに轢き潰され、片腕は千切れ、ボディは「くの字」に折れ曲がり、柔らかいピンクと灰色の何かを晒して転がる、私の死体。

 

 

 

「ひっ……あああああああっっっっっっ!!!!」

 

 

 

 悲鳴を上げ、全力で後方へ飛び退く。

 その刹那。猛烈なエンジン音と共にダンプが左折し、さっきまで私が立っていた場所を――猛然と駆け抜けていった。

 

「魔法で、三秒後の死を的中させたね」

 

 キュゥべえは、他人の不幸を祝うように謳う。

 

「君は『確定した未来』を無理やりねじ曲げた。人類の新たな一歩だよ。ところで吾妻。そのツケがどこに行くか、考えたことはあるかい?」

 

 震える手で、ソウルジェムを確認した。

 宝石の底に、どろりとしたヘドロのような濁りが溜まっている。

 

「魔法を使うと、ソウルジェムに『煤』が溜まるんだよ」

 

「宝くじを当てた代償が、これ……?」

 

 ヘドロよりも、予知の『使い勝手の悪さ』に吐き気がした。

 赤が59、青が59なら、約一時間後の未来をピンポイントで予知する。そんな一瞬の『点』だけ見えても、戦いどころか日常生活でさえ使い道がない。見たくもない自分の死を、一秒単位で突きつけられるだけ。

 

 

 

 最悪だ。

 

 とんでもないハズレを引いてしまった。

 

 

 

「夢と希望をかなえる魔法はどこ!?」

 

 抗議すると、キュゥべえは小首を傾げた。

 

「君はもう、完食したじゃないか」

 

「……え?」

 

「注文した料理を食べてしまった後で、取り消しはできない。君は、食べた料理の代金を払わなくちゃならない。それが君の選んだ『代償』だよ」

 

 

 

 結局、私の攻撃手段は……嫌々だけれど……サイコロを投げる事に落ち着いた。

 

「君は、その希望と代償によって『運』を操る力を得たわけだ。残念ながら、ダイスというものは、常に君の意図通りに転がるわけではない」

 

 キュゥべえのいうとおりだ。威力は出目によって変動がある。ロケット花火程度の爆発を何百発当てたところで、モンスターは倒せない。

 

「出目が大きければ、一撃で魔女を倒せるかもしれない。君の願いが『宝くじ一等当選』という明確な目標だったように」

 

 キュゥべえのアドバイスが具体的になった。

 

「攻撃の際も、強い意志持った方が良いかもしれないよ」

「ゾロ目が出たら、どうなるの?」

「それは実際に体験してみないと、僕には何とも言えないね。君の願いの報酬であり、代償の一部なんだから」

 

 キュゥべえは、瞬きのない、つぶらな赤い瞳で私を見つめる。

 

「大丈夫だよ、吾妻。誰だって最初は初心者だ。さあ、始めよう。君の『運命のダイス』で、この世界から絶望を刈り取るんだ」

 

 

 

 魔法少女になって、まだ数日。

 西日が死に絶えようとしている時刻。

 私は、薄暗い路地裏に導かれていた。

 

「これが魔女の『結界』だよ」

 

 私の肩にのって囁くキュゥべえの声が、死神の(いざな)いにしか聞こえない。

 目の前のビルの壁――ひび割れたコンクリートの隙間から、澱んだ魔法陣が脈打つように浮かび上がっている。

 

「さあ、吾妻。魔法少女に変身して、中に入って。ダイスを試す絶好の機会だ」

 

 鼻を突いたのは、湿ったコンクリートの臭いに混じった、腐った果実のような、吐き気を催す薔薇の甘い香り。結界から漏れ出してくる、悪意の混合臭だった。

 ビルの隙間を抜ける風が、まるで巨大な怪物の呼吸のようにヒュウヒュウと唸り、私の肌を冷たく撫でてゆく。

 

「待って……まだ心の準備が……」

 

 震えが止まらない。練習でダイスを投げた時は、錆びた椅子を少し焦がしただだった。あんなオモチャを投げるのだ。壁の向こう側で虎視眈々と獲物を狙う、名状しがたき化け物に、勝てるわけがない。

 

「キュゥべえ、もし変な目が出たらどうなるの? ゾロ目とか……」

 

 白い獣は、説明書を読み上げるように答えた。

 

「おそらく『0と0』が出れば敵は消滅する。

 究極の幸運だ。当然ながら、逆もあるよ」

 

 キュゥべえは、数秒間沈黙する。

 

「そうだね……たとえば『44』や『99』。

 死や苦しみを連想させる数字。

 この場合、負荷は君へ直接跳ね返るだろうね」

 

「跳ね返るって……どういうこと?」

 

「幻覚、幻聴、あるいは精神の崩壊。ソウルジェムへの負荷」

「……」

「君の願いである『宝くじの高額当選』には、常に破滅のリスクが付きまとう。その負の側面が、ダイスに具現化されただけだよ」

 

 キュゥべえは、自販機でジュースを買うかのような軽さで言い放つ。私の指先は、自分の意思に反してガチガチと音を立てていた。

 

「回避できないの……?」

 

「幸運と不運は、あざなえる縄のごとし、だ」

 

 後悔が、どろりと胸の奥に広がった。私は、とんでもない契約をしてしまったんじゃないか。掌の中の二つのダイスが、今は毒蛇の卵のように感じられた。雪の下から掘り出した鋼のように、容赦なく指先を刻んでくる。

 そのくせ、ひどく脆くて、頼りない。

 

「さあ、行ってごらん。君の運を証明するんだ」

 

 一歩踏み出せば、もう戻れない。

 結界の縁が、じりじりと空間を削り取る。路地裏の景色が、異形の庭に書き換えらえる。

 私は、胃の底からせりあがる恐怖を飲み込み、引きずり込ませるように、闇の中へ足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 そこは工事現場とお化け屋敷を継ぎ接ぎしたような、迷宮だった。

 重機がのたうつ。

 鉄骨が骨肉のようにうねる。

 コードとホースが、血管や神経の束みたいに電信柱に絡み付いている。

 

「……ここが、魔女の胃袋なの?」

 

 無機質な鉄錆の匂いと、生温い臓物の甘い腐臭が、肺の奥まで侵食してくる。反射的に食道を逆流してきたものを、なんとかこらえた。

 

「そうさ。魔女の結界は、魔女の住処なんだ。

 同時に、迷い込んできた餌の狩場でもある」

 

 キュゥべえの説明で、ここが敵地なのだと肌で理解した。

 未完成の足場が奈落へと伸び、壁には錆びたシャッターが列になっている。剥き出しの配線が血管のように壁を這う。そこにぶらさがった裸電球の明滅が、断末魔のようにチカチカと、私の影を刻んでいた。

 重機が噛み砕くのは、鉄ではない。無造作に積み上げられた、かつて「人間」だったかもしれない残骸。

 

 

「誰か、いませんかぁ?」

 

 

 私の震える声は、シャッターが巻き上げられる悲鳴に、一瞬で飲み込まれた。

 綿毛のような頭に、ミミズの胴体、蝶の羽根の脚。奇怪な虫たちがガレージの奥からゾロゾロとあらわれ、工事現場を埋め尽くす。

 そいつらは、ハサミとイバラを振りかざして一斉に飛びかかってきた。

 

 

「ひっ……あああああ!!」

 

 

 無我夢中で、生成したダイスを投げつけた。

 出目は……『19』 と 『19』。

 最悪。

 よりによって、中途半端な外れ値。

 

 

 

 パチンッ!

 

 

 

 ダイスは、クラッカー程度の情けない音を立てて弾けた。使い魔のヒゲが、少し焦げた。私の攻撃は、化け物たちを怒らせるための呼び鈴にしかならなかった。

 

 

 

 キシャアアアアアッッ!!

 

 

 

 

 奇怪な絶叫に耳を覆う。

 逆上した綿毛たちが、一斉に青黒い唇を歪ませて嗤う。

 強い魔法少女なら、百体いても一掃するような、ただの「手下」。

 

 私にとっては……。

 

 

「こないで……っ、こないでよぉ!!」

 

 

 雨のように降り注ぐ黒いハサミが、私の頬を、腕を、容赦なく切り刻もうとする。奇怪なハサミが耳元でガチリと鳴る。イバラの蔓が足首に絡み、重機の音が、私の骨を噛み砕く音に聞こえて——。

 

 

 狂ったようにダイスを召喚し、投げ、叫ぶ。

 ゾロ目が出たら死ぬ?

 ソウルジェムが汚れる?

 

 知るもんか!

 この瞬間の恐怖から逃げ出せるなら……。

 

 

 全部 捨てたっていい!

 

 

 ……何匹倒したかなんて、覚えていない。

 気づいた時には、鼻水と涙でぐちゃぐちゃになった顔で、壁に体重を預けていた。

結界の外。

 現実の、冷たい、けれど安全な路地裏。

 私はそこから一歩も動けず、汚れた手のひらを見て、ただ、ガタガタと震え続けていた。

 

「あんなに投げたのに、撃破したのは2体だよ。効率が悪いね」

 

 キュゥべえの批評を聞いて、膝が折れる。

 路地裏のコンクリートに這いつくばる。

 込み上げる酸っぱい胃液を吐き出す。

 

 死ぬかと思った。

 あんな、おぞましい場所が、この世に、あるなんて。

 

「……大丈夫かい、吾妻」

 

 頭上から、穏やかな声が降ってきた。

 キュゥべえは私のすぐそばに座り、まるで私の震えを観察するように見つめていた。

 

「もう嫌……。警察とか、学校の先生に相談すれば、なんとかしてくれるかな……」

 

「それはお勧めしないね。魔法少女のことは、普通の人間に話しても理解されない」

 

「お母さんに、全部話して……」

 

「うーん。君が狂ったと思われるか、大切な人を魔女の呪いに巻き込むことになるよ」

 

 キュゥべえの冷静な言葉が、私の唯一の逃げ道を塞ぐ。彼は次に、驚くほど優しいトーンで話題を変えた。

 

「……謝るよ。君をいきなり実戦に放り込んだのは、僕のミスだ。今の君には、魔女との戦いは、まだ早すぎたみたいだね」

 

 その言葉に、熱くなっていた頭が ふっ と軽くなった。

 戦わなくていい。

 あんな恐ろしい場所に行かなくていい。

 生存本能が、彼への警戒心を一気に解いていく。

 

「キュゥべえ、本当なの……?

 私、魔女と戦わなくてもいいの?」

 

「当面は、弱い使い魔を相手に慣れていこう。

 僕も全力でサポートする。

 君は素晴らしい可能性を秘めているんだ」

 

 キュゥべえの瞳には、感情のかけらも見えない。

 

「どんな天才だって、使いこなすための訓練が必要だ。そうだね……まずは、自分の力を把握することから始めよう」

 

 私には、それが冷静で客観的で優秀なコーチの態度に見えた。

 

「君の願いは、とても尊いものだよ。その希望を今から絶望に変えてはいけない。さあ、一歩ずつ始めよう。僕がずっと、君の側にいてあげるからね」

 

 

 

 孤独な戦いだと思っていた。

 魔女の結界で味わった心細さ。

 それを埋めるように、この白い生き物だけは、私の味方でいてくれる。

 

 

 宝くじの一等当選。

 

 

 あんな安易な願いで魔法少女になった後悔も、彼の「サポートする」という言葉で、溶けるように消えていった。

 

 

 キュゥべえがいれば、きっと大丈夫。

 

 

 立ち上がった私の背後で、キュゥべえが何を思っていたのか。私は、それを知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 




【第2話予告】溺れる者は藁をつかむ。すがった奇跡の正体が明らかになるとき、開かれるのは新たな希望か、それとも絶望か。一瞬の判断が運命を変える。
次回:『注文:幸福。お届け:絶望……返品は「魔女」で。』 魔法少女は、いつだって孤独だ。


キュゥべえ(薔薇園の魔女の手下も倒せないようじゃ、先が思いやられる。このままじゃ、早晩、戦死するだろう。そうなったら大損だ。上手くナビゲートしないと)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。