渡鴉と砂狼   作:爪ワッサン

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孤児二人、記憶なし、異変あり

 

 ──ブルーアーカイブ。

 

 数千もの学園がそれぞれ運営する自治区で構成された学園都市「キヴォトス」を舞台に、先生と生徒が紡ぐ銃声と青春の物語。

 多種多様な性格の生徒たちに時に振り回され、時に助けられながら、笑いあり涙ありの青春を過ごすソーシャルゲーム。

 

 砂狼シロコという生徒はそのゲームのアイコンを務めるメインヒロインであり、クールな面から借金返済の手段として銀行強盗を大真面目に提案し、目的は違えど本当に実行したクレイジーな性格の少女だ。

 

 前世では彼女の強烈なキャラに惹かれてゲームを始め、最初に受け入れた星3生徒ということもあり多くの戦場を共にした生徒だった。

 通常衣装のシロコの絆ランクは50を超えていたし、すり抜けで出てくる生徒も心なしかシロコが多かったような気がする。すり抜けのみで別衣装をコンプリートしたこともあって、俺のブルーアーカイブは彼女と共にあったと言っても過言ではないと言える。

 

 そんな彼女が所属する学園は、俺が目的地として定めていたアビドス高等学校。

 そして、何の因果か彼女は俺の隣に立っていると来た。これなら道に迷うことなくアビドス高校に辿り着き、先生と出会うことができると思っていたのだが……。

 

「アビドス高等学校って知ってるか?」

「?知らない」

 

 一縷の望みに縋ってみるも、ふるふると首を振って答えるシロコに嘘をついている様子はない。

 そんな予想していた通りの反応に内心で頭を抱えながらも、こちらを見つめるシロコに「何でもない」と返しながら、頭の中で情報を整理するために、今一度隣に立つシロコの姿を観察する。

 

「?」

 

 アビドスに所属する生徒が学園の名前を知らない。そんな明らかな異常に加え、目の前のシロコの背丈は高校生にしては明らかに低すぎる。格好はゲームで散々見てきたアビドスの制服ではなく、ボロ布同然の黒い服。どこからどう見ても学園生活を送っている少女のそれではない。

 

 何より、彼女の首元にはトレードマークであるはずの水色のマフラーが巻かれていなかった。過去にホシノに巻いてもらって以降、よっぽどの事がなければ脱ごうとすらしない、彼女にとって最も大切なマフラーがどこにも見当たらない。

 

 そして、その事を気にするそぶりすら見せず、まるで最初からこの格好だったかのように自然体でいる彼女の姿は、本編よりも前の、アビドス三章に登場した過去のシロコに酷似していた。

 

「……どうするべきか」

「……ん」

 

 当初のプランを考え直そうと、掲示板に背を向けて膝を抱えて座り込む。俗に言う三角座りの姿勢を取っていると、その様子を見ていたシロコも真似をするように隣に座ってきたのだが、雪の上は冷えるのかぶるりとその身を震わせている。

 

「寒いなら立ってた方がいいと思うが……」

「ん、確かに寒い。…………!」

 

 俺の言葉に頷いて立ち上がったシロコだが、何かを思いついた様子を見せた途端、俺の目の前に現れた。

 何をするつもりなのだろうと観察していた俺の視線を気にも止めずに、俺の膝を勝手に開き、作ったスペースに座り込むと共に俺に背を預けた。

 こいつ、俺を椅子代わりにしやがった。

 

「不満?なら、勝負しよ、クロト。私は自分より強い人の言葉しか聞かない。だから、退いて欲しいなら勝負するべき」

 

 どこか期待したような声色で告げるシロコの様子に、そういえばこの頃のシロコはこんな感じだったなと思い出す。

 

「……いや、まあ、別にいいけどさ。せめて一言言ってからにしてくれ」

「ん?意見?勝負?」

「何でもかんでも勝負に結びつけるな、怪我したらどうすんだよ。……俺が」

 

 自分で言ってて情けなくなるが、将来的に物凄く強くなる事を知っている身としては、例え幼少期のシロコが相手でも戦うことは避けたかった。転生してキヴォトス人ボディを手に入れたことで、銃弾程度なら痛いだけで済むようになったとはいえ、殴り合いの喧嘩ぐらいしか経験してこなかった俺が、野生児同然のシロコに勝てるとは思えなかった。

 転生の際にこいつと同程度の身長になってしまったことも相まって、勝負する気力が微塵も湧いてこない。

 

 そんな俺の内心など知るはずもなく、勝負の誘いに乗ってこない事が不満なのか、当てつけのように体重を掛けて座るシロコ。背が縮んだせいで前が見えねえ。後純粋に手のやり場に困るんだが……。

 

 

 とりあえず気にしたらやばい気がするので、改めてこれからどうするべきかを考える。

 

 今俺を椅子にして座っているシロコが過去のシロコであるのなら、この世界のキヴォトスには先生が来ていない可能性が高い。

 

 シャーレの先生の不在。

 その事実が指し示すのは、アビドス高校から先生に連絡を入れてもらって、とりあえずシャーレに住まわせてもらおうという俺の計画が破綻したことを意味する。

 

 D.U──正式名称をDistrict of Utnapishtim──にある連邦生徒会まで行けば何とかなりそうではあるのだが、生憎と俺が今いる場所はアビドス自治区。

 周辺に人の気配が全くない上に、ここがアビドスの何処なのかすらも定かではない以上、人に頼って連邦生徒会に連絡することはおろか、辿り着くことも絶望的だった。

 

 そして、そもそもの話として連絡手段を手に入れたとしても、連邦生徒会が身元不明の俺を相手にしてくれるとも思えない。

 ただでさえキヴォトスでは問題ばかりが起きているのに、俺みたいな正体不明の誰かに構っている時間などあるはずもなく。掛け合ったところで真面目に取り合ってなどくれないだろう。

 だからこそ、生徒であれば犯罪者であろうとも対応してくれる先生を頼ろうとしたのだが、いない人を頼ることはできない以上、他の方法を取るしかない。

 

「一応、当てはあるんだが……」

 

 気は進まないけれど、先生に頼らずに何とかする手立てはあった。その中で最もクリーンかつ安全な方法として、俺が何処かの学園に入学するという方法がある。

 もちろん、俺みたいな怪しい奴をわざわざ入学させるような学園は普通なら存在しないのだが、ゲーム本編で俺と同じ条件の生徒を受け入れた学園がキヴォトスには存在している。

 

 幸が不幸かその学園はキヴォトスの地理に詳しくない俺が現実的に行ける範囲にあり、何なら最初から探していた学園でもある。

 

 二桁に届かない生徒数によって、まず間違いなく入学する事が可能なその学園──アビドス高等学校に辿り着くことさえできれば、当面の問題は解決したようなものなのだ。……9億6235万もの借金を返済しなければならないという、途轍もないデメリットを許容することができるのなら。

 

「シロコ、悪いが退いてもらってもいいか?」

「ん?」

「いや、不満とかそういうんじゃなくてだな。目的地が決まったからそこに向かいたい」

「目的地?」

 

 首を傾げるシロコの脇に手を通して、真横に優しく下ろして立ち上がる。

 若干痺れている気がするが、この程度ならすぐに治るだろう。

 

「どこに行くの?」

「アビドス高等学校。多分近い場所にある学園だ」

「どんなところ?」

 

 どんなところかと聞かれれば、地獄のようなところと返す他ないだろう。

 

 約10億の借金に加えて、毎月払う利息分だけでも約800万円を稼がねばならず、それらを稼いだ上で借金返済に掛かる時間は大体300年。オマケに砂嵐の影響で人がいなくなっているからか、居場所を持たない不良生徒が集団で屯していると来た。

 

 更に金貸しであるカイザーローンの目的はアビドスから生徒を追い出して、自治区そのものを手に入れると言う狡猾なもので、目的達成のためなら手段を選ばない。それらに加えて将来的にシェマタとかのゴタゴタに巻き込まれることが確定しているのだ。これを地獄と呼ばずに何を地獄と呼ぶのか。

 

 そんなアビドスの地獄っぷりを語ってやろうとした時、そもそもこいつがここにいる事がおかしい事に気づいた。

 確か原作だといつの間にか校舎の中にいたんだったか。というか、ここでシロコが付いてこなかったら早くも原作崩壊するじゃねえか。

 

「……そんなに酷いところなの?」

 

 黙ったまま何も言わない俺の様子から、とんでもない場所だと思い込んでいるシロコ。その表情は少しワクワクしているように見えた。……いや、何でワクワクしてんだよ。普通怯えるだろ。

 

 しかし、酷いところである事に間違いはない。アビドスに入学すればまず間違いなく過酷な運命に晒されることが確定しているのだから。

 ただ、例え行き着く先が地獄だと分かっていても、今の俺が取れる最善手でもあるのだ。他に手段がない以上、俺はアビドス高校に行くしかない。

 そして、それはきっとシロコもだろう。

 

「……まあ、少なくともここより寒くはないところだ。一緒に行くか?」

「ん!」

 

 返答は力強い頷きだった。

 

 

*******

 

 

 それからしばらくして、何回かヘルメット団に襲われかけながらも何とかアビドス高校に辿り着いたわけだが……。

 

「ひぃん……!」

「……ん」

 

 俺の目の前では、何故かユメ先輩の上で踏ん反り返るシロコの姿があった。

 

 ……風向き、変わりそうね。

 

 

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