海鳴産地の魔導戦鬼(旧題:ややガイオウモンのマジカル戦記) 作:町コアラ
「オオオオオ!!」
次々群がる人形兵の急所を赤熱した菊燐が的確に溶断していく
「弱いぞ!」
頭部をくり抜き
「役立たずの…メタルのクズが!」
ワイヤー状にしたバインドで頭部を引きずり出し
「ガラクタの…スクラップめ!このぉ!」
そのまま放り投げまた別の獲物にぶつける
「皆殺しにしてやる!!」
倒れ伏した人形兵達から尚も流れる溶解した部品の数々が積み重なり川を成すに至り始める。
「選んだ町が悪かったな!その顔を剝いでやる!」
遂には自身を握りつぶせるサイズの物にも狙いを定め攻撃を搔い潜り顔部分を剥いだかと思えば
「地に墜ちろ」
後ろからコアを的確に抉り、仁王を鈍器形態の火撥に変えて殴り飛ばし、その巨体は他の人形兵を大勢圧し潰す
「ガラクタめが」
「怖いよぉ!!」
その鬼気迫る有様に特にエイミィ・リミエッタなどはもう泣きそうだった。
宮園武道にはどうにも通話が通じない。どうやらそれほどまでに魔力が荒れる激しい戦場のようだった
(出力を絞って刃の赤熱化に留めることで持続力を驚異的なまでに高めている…一度の実戦でここまで…)
リンディ・ハラオウンなどは感嘆としていた。今は宮園武道そのものの心配をするよりもその刃がプレシア・テスタロッサに本当に向かうその前に逮捕することで手を汚させないことに注力していた
「プレシア・テスタロッサの今の所在は把握できているの?」
「は、はい!プレシア・テスタロッサは現在、武道くんから離れてアリシア・テスタロッサの遺体とともに最下層に向かっているようです。あのままでは娘も巻き込まれると考えたと思われます。」
「動力炉はクロノに任せてあとはプレシア・テスタロッサの確保に向かって。武道さんとの戦闘でも本人は大分消耗しているはず、あれほど殺したがっている彼を人形兵の後ろから狙わずに撤退しているのがいい証拠だわ。彼が全て片付ける前に逮捕するわよ!」
そこにフェイト・テスタロッサとリニスとアルフが息を切らせて入ってくる
「リンディ艦長!私たちが行きます!」
「大丈夫なの?あなたの母親を逮捕する現場なのよ?」
少々厳しいようでも念を押さなくてはならない。どうやっても傷つくことになるのだ。このまま休んでいても誰も彼女を責めないだろう。高町なのはの方もついさっきカタが付いたことも確認できている。恐らくだがもう送られてくることも無い。ほぼ全ての戦力が1人に集中している
「結界内では最後はなのはに任せきりになってしまいましたし、ここで止めることが母さんを守ることにもなるんでしょう?」
周りの職員たちには罪の重さの話に聞こえたが、リンディ・ハラオウンにはそれで伝わった
(艦内の職員たちには武道さんの発言をブラフってことにしたけどこの子も感づいている。アリシア・テスタロッサに対する敵意以外の部分は本物だと)
「直接逮捕するのは管理局に任せて頂戴。あなたは武道さんの援護にいってください」
(これならフェイトさんがまだ母親と思っていることを直接伝えられるし彼女なら邪魔にならない救援。それで止まるハズ…彼はそれをむげにはしないわ…何も直接対面しなくてもいいのよ)
リンディ・ハラオウンなりの気遣いだった。既に彼女はプレシア・テスタロッサを見限っている。対面したところで傷が増えるだけだと
『リンディさん!行かせてあげてください!』
ここで高町なのはから通信が割り込んでくる
『タケくんの方には私たちが行きますから!』
「なのはさん!?」
『決着を!着けさせてあげてください!お願いします!』
リンディ・ハラオウンはハッとした。確かにフェイト・テスタロッサのこれからのため、それには何らかの形でプレシア・テスタロッサとの決着をつける必要がある。それは確かだった。艦長としてというより子を持つ親として子供たちを送り出すことを決心した。後のことは大人として自分が尻拭いしよう、と…
「エイミィ?これから結界内に流れ込んできても多少は耐えられますね?」
「モチロンです艦長!」
「いいわ、なのはさんとユーノくんは武道さんの方に向かってください。」
『ありがとうございます!リンディさん!タケくんにはこんなやり方したことについても少しオハナシしたかったので!』
キレているのが察せられた。確かに引っぱたいて止められるタイプはこの場では彼女だけだろうとリンディ・ハラオウンも納得した
「さて、それではあなた達3人はプレシア・テスタロッサの方に向かってください。アルフとリニスさんはフェイトを支えてあげてください。管理局の職員も向かわせはします」
それぞれが最終局面に動いていくなか宮園武道は__
***
「まだまだ行けるな仁王!」
『当然です若!節約によって装甲もしばらく問題なく機能できます!』
俺はペースを落とすことなくスクラップの山を築き続けていくなかで考えていた
高町やテスタロッサがこの鎧を着ているときは残虐さが増す。なんて言っていたことをそれはたぶん増してんじゃなくて素が出てきていただけなんだろうなにせ__
俺、いま笑っちまってんだもの
頬が引きつり、吊り上がっているのが分かる。結局のところ、これが俺の本性ってことなんだろう。父さんや母さんや爺様それに周りの人たちによって育ててもらったからなんとか人並みにできているが外付けの倫理感なんだろう
外敵を前にして顔を覆う兜があればこの通り残虐な本性が顔を出してくる。高町やバニングスに月村そしてテスタロッサもプレシアを除けばその家族にいたるまで皆根っから優しい人間だ。こんな敵を前にする度に殺す殺すと自分の中を木霊して、それを作ってもらった倫理観で何とか沈めている獣など本来交わらないはずの時代錯誤の異物なのだ
で、あるならば
自身が獣であるならば、獣なりの仕事をしなくてはならない。優しい人たちが笑って過ごせるように1人でも多く、1つでも多くの障害を排除する
俺の魔法はそのためにある
「まずはプレシア・テスタロッサを片付ける」
また新たなスクラップが出来る
『敵の勢いが弱まって来ています向こうもそろそろ出涸らしかと』
高町やテスタロッサが結界内で頑張ってくれた賜物だ。引き付けもそろそろいいだろう、クロノ執務官が動力炉を止めてくれれば動力炉とジュエルシードのエネルギーで成り立っていた転移も収まり、町ももう大丈夫
「なら追うぞ、あの女が今度は何しでかすか見当もつかない」
これ以上しでかす前に息の根を止めてやる。人を殺したら皆離れていくかもな…まあその方が皆にとっていいのかも知れない。もし1人になったとしても…それで守れるなら
仁王を火撥の形態に変えて床に叩きつければ足元に大穴が開く残った人形兵やスクラップも一緒に下に落ちていく。落下の衝撃と落ちてくる残骸で残りも大方潰せるだろうそのあとで下りながら処理しようと考えていた…その時
「ディバインバスター!」
高速で飛来しながら人形兵を撃つものがあった
「高町!?何でここに!?」
「何でじゃない!こんな無茶して!もっと自分を大事にしてよ!」
高町はいつもの真っ白なバリアジャケットに戻っていた
「ぼ、ぼくもいるよー」
「ユーノも来たのか!?」
「もう向こうは大丈夫だからね、駆動炉の方も封印完了したってさ」
「色々言いたいけどそれは後!ここからは私たちも一緒だから、早く全部終らせてお母さんのところに向かったフェイトちゃんに合流しよう!」
「な!?行かせたのか!?」
「フェイトちゃんが自分で選んだことだよ。フェイトちゃんはまだプレシアさんをお母さんだと思ってる。タケくんが手を汚す必要なんてないし、むしろ余計なお世話だからね!」
これから何やろうとしてたか見透かされてたみたいだ
「タケくんのことだって絶対に1人になんてしてあげない!」
***
時の庭園最下層
「まだ…終われないのよ。」
プレシア・テスタロッサは試験管のようなものに保管されたアリシア・テスタロッサの遺体とともに居た。そこに…轟音と共にドリルで突っ込んでくるものがたちがいた。海中ほどの機動力は得られずとも地下に突き進む程度なら容易いことだった
「母さん!」
フェイト・テスタロッサとアルフそしてリニスも共にいた
「久しぶりですね…プレシア」
「何を、しに来たの…!」
「私のやる事なんて決まり切っています。今はフェイトの話を聞いてください」
「フェイトの…?消えなさい、あなたに用なんてないわ…」
拒絶されてもフェイト・テスタロッサは前に出る
「あなたに、言いたいことがあって来ました」
「「…」」
アルフもリニスも後ろに控えて見守る
「私はただの失敗作で偽物なのかもしれません…アリシアにもなれなくて、期待にも応えられなくて…それでも、あなたを1人にしたくありません…放っておいたら、怒らせるとすごく怖い人を怒らせて大変な目にあってしまうから。だって、生み出してもらってからずっと、今だって母さんに笑ってほしい、幸せになってほしいって気持ちは…これだけは絶対に本物だから」
フェイト・テスタロッサは笑いかける
「あ…」
「これが私の、フェイト・テスタロッサの本当の気持ちです。」
差し出された手に一瞬、プレシア・テスタロッサの目に揺らぎが起きた…しかし
「くだらないわ」
それでも止まらない、否、止まれない。彼女は自らの杖を構えた
「私は絶対にアリシアを諦めない!そんなに止めたければ力づくで___
そこにまたしても轟音が響く
「承った」
黒鬼のエントリーである。そしてそのまま強襲する
「まっ__
フェイト・テスタロッサが制止しようと声を上げきるその前に黒鬼は二刀の射程圏内にまで接近していた。そしてそのまま斬り裂いた
「な…!?」
しかし、音を立てて崩れ落ちたのはプレシア・テスタロッサ本人ではなく、彼女の杖だった
そして宮園武道の開けた穴から高町なのはとユーノ・スクライア、少し遅れてクロノ・ハラオウンも現着する
「これでもうどうにもならんだろ、預けてたジュエルシードも回収したし本職もついたことだしな」
刀を収めたその手には6つのジュエルシードが握られていた。杖を切ったと同時にワイヤーを利用してかすめ取っていた
「情けを掛けたっていうの?あれほど殺したがっておいて?」
「アンタの娘にな。っていうか、ここまで想われてもダメなのかよ、アリシアとして見れないのは仕方ないにしてもその妹のようにしたりとか何かできなかったのかよ。あまりにもあんまりだろうが…」
その言葉でプレシア・テスタロッサは思い出した。
『アリシア?お誕生日のプレゼント、何か欲しいものある?』
『うーんとねえ、あ!わたし妹が欲しい!』
『えっ!?』
『だって妹がいればお留守番も寂しくないし、ママのお手伝いもいーっぱい出来るよ!』
『そ、それは…そうなんだけど』
『妹がいい!ママ!約束!』
「………」
「こっちも今日は店仕舞いだ。もうおとなしくしておけよ。ハア…帰ったら説教かあ」
宮園武道が離れていくと入れ違いにフェイト・テスタロッサが駆け寄る
「母さん!」
「まだ…そう呼ぶのね…」
「私、何度だって手を伸ばすから」
そういってまた手を差し出す少女に
「詰み…なのね」
プレシア・テスタロッサは膝から崩れ落ち、両手を差し出した。
「これは…?」
「さあ、早く縛りなさい。…手柄にでもすればいいわ」
既に心は折れていた。おとなしく両手を差し出す姿に場の空気が緩む
(これで終わりなのね…何もかも、アリシアを蘇らせることももう出来ない。これで…アリシアは…本当に、終わってしまうの?)
だからこれはもはや反射に近しいものだった
彼女の本能がそれをまだ拒否していた
「「え?」」
プレシアとフェイト、両者から間の抜けた声が出される
縛られようとしていた手から雷撃が迸ろうとしていた
反応できたのは3名
クロノ・ハラオウンがとっさに障壁を2人の間に出した
ユーノ・スクライアは距離が近すぎると判断し、バインドを利用してフェイト・テスタロッサの体を後方に引き寄せようとした
雷撃が迸る。無意識、故に制御ましてや手加減などあるはずもなく、とっさに広げた障壁1枚では少し時間を稼いですぐに突破される。しかしそれがフェイト・テスタロッサに届くことは無い
最後の1人、宮園武道がなけなしの魔力を使って跳び、自らの体を2人の間にねじ込んで正面から抑え込んでいた
しかしその代償は大きい、体から煙がたち、装甲がボロボロと崩れ始める。下から始まった崩壊はついに兜へと到達し、特徴的な角が折れて遂に素顔が露わとなる
「がふっ」
そのまま前のめり倒れこみ、思わずプレシア・テスタロッサは受けとめる
「はは、まもりきったぞ、あっちでほめてくれるかな」
プレシア・テスタロッサの耳には届いていた
「あいたいよ、とうさん、かあさん、じいさま」
誰かの絶叫が響いた
***
真っ暗だ
「ここどこ?」
何か気づいたら真っ暗な空間で1人立っていた。直前の記憶がない
「さあ?どこだろうね?」
後ろから声がする。気配は感じなかったはずなのに…振り返ってみるとそこには
「やっ!初めましてと言えば初めましてだね!私アリシア!アリシア・テスタロッサ!」
試験管のようなものの中で浮かんでいたまんまの少女がそこにいた
何故か全裸で
ガンダムとかもそうだけど精神体とかそういうのになると皆なんでか全裸化するよね