海鳴産地の魔導戦鬼(旧題:ややガイオウモンのマジカル戦記) 作:町コアラ
「で?なにをチンタラやってんですかアンタは?」
「えっと…そ、その…」
俺は病室でプレシアを問い詰めていた
もう来ないんじゃなかったって?本当はそうするつもりだったさ、だけどさあ
「病床の母と見舞いに来る娘の穏やかな時間。感動的な画っすねえ~アンタが母親じゃ無けりゃって話ですけどねえ~?会話がほとんど無いってどういうことですかね!?」
「うぐぅ」
縮こまるプレシアを見てため息をつく。テスタロッサ本人が随分嬉しそうしてるからアルフにどんな様子か聞けば会話自体はほとんどないらしい…今までが底値過ぎて暴力や小言がないだけでも進捗があるように見える不思議
まあ先がある人間ならゆっくりでもいいさ
「本来なら口出しなんて野暮なことはしないはずだったんですけどね、アンタは体に限界が来るか、牢獄に入れられるか、どっちにしたっていなくなってしまう人間なんだってことは理解してるだろ」
「それは理解してるつもりなんだけど…その…正解がなにかわからないのよ…少しでもちゃんとした母親らしいことを…」
「それで何も出来なきゃ本末転倒でしょうが!」
「はい…おっしゃるとおりです…」
医者の先生やリンディさんじゃケツを蹴っ飛ばすような真似はできない、というかしない。境遇が複雑骨折してるからちゃんとした役職の人は下手に触れられない。だから発破掛けるなら俺がやるしかない
「アンタら親子はマイナスが振り切ったような関係だったんだ。取り繕ってる場合じゃないだろ。頭を撫でるなり、抱きしめるなり、滑ろうが引かれようがなんでも試せって事!」
俺はそう言いながら持ってきたフルーツをカットした。*1プレシアは不思議そうな顔をして少し考えこんだ
「どうしてここまで?フェイトのためだとしても」
「過剰だと?俺としては友達が親とのお別れを避けられないならサポートに回るのは当然だけどな?」
「それは…あなたが__」
「まった。そこからはアンタに踏み込んで欲しくない。許したわけじゃないのは照れ隠しとかじゃないんでそこは勘違いしないでくれ」
「分かったわ…あなたに踏み込むようなことはしないわ」
「じゃあ、ハイこれ」
渡したのはあやとり用のひも
「これは紐のわっか?」
「こっちの世界のレトロな遊びだよ。脳トレ兼手慰み兼話題作り。紐を組んでいろんな形にして遊ぶんだ。2人でやる技もあるから、教本もってきたし手本も見せてやるから練習な」
数日後
「みてみてタケミチ。東京タワー」
「飲み込みはやいなぁテスタロッサ」
「母さんとどっちが早く覚えるか競争してるの」
「そうかい」
この親子の間ではすっかりあやとりが会話の種となったようだ。うん、ホントにこればっかだな…後押しした甲斐はあるが…自分たちで別の話題を見つけて欲しくもある。そろそろ別の何かも提供したほうがいいのか?
「アタシはどうも苦手だねコレ」
「まあ、そんな感じはするよな」
アルフから飛んでくるジャブをいなしながら会話を続ける。新しい何かを提供するって言っても情報が要る
「まあ、会話が進んだならなによりだよ。他に何話してんの?」
「他は今まで通りリンディ提督にクロノにエイミィの話とリニスが地球でどう過ごしてたとか、なのは達の話…新しい話題で一番多いのはタケミチの近況だよ」
「なぁんでぇ?」
そこで俺の名前が?
「何でってアンタ…フェイトの次に出入りしてんのタケミチとリンディ提督だよ?そりゃ自然とそうなるさ」
「タケミチのあやとりすごいよねってそういえばワイヤーの扱いも凄いよねって、何回も別の技につなげたりして」
「あーそりゃあ手先の器用さはそれなりに鍛えてるから…」
「リンディ提督と母さんの会話は真面目な話になりがちだし、母さんと私の話で共有できる取り留めの無い話なんてタケミチ関連ばっかりだよ」
「しっかし、よくもまあプレシアのとこに通い続けられるよねぇ?一番の
アルフは呆れた目でこちらを見てくる
「そこは一番
「それは…そうだね…」
テスタロッサの表情が少し曇る
「で、俺は別れの準備なんて出来なかったからな。結末に予想が付くのになかなか動けないでいるのが目に入ってほっとけなかったていう…個人的な感情もあるから善意だけで動けるほどじゃねえよ俺は。ホントはそっちのペースに任せて余計な口出しはしないつもりだったけど…結局圧掛けたマシだったようだし?」
「う、うん、タケミチが話題作ってくれなかったら全然話せないままだったかも…」
「あとあれだ、もっと自分の事を話題にしてみな。好きな味、色、音楽なんでもいい。アリシアの代わりじゃない
「良い…のかな」
こいつが気にしてるのは過去にプレシアが狂ったのはアリシアと
「正解かどうかは保障できないな。だけどもっと先に進みたいなら痛みを伴ってでもやるべきだと思う」
「でもそれはフェイトの傷にも触るんじゃ…」
「あのプレシアと親子の関係を進めるってそう言う事だろ?もちろんアルフが言う事ももっとも。そこに触れるのが嫌なら俺もこれ以上ケツを蹴り上げるような真似はしない」
「私…私は母さんにアリシアとの思い出も話してほしい…私を知ってほしいって思う」
「フェイト…」
「そんじゃあ頑張れ。今日もこれから行くんだろ?」
「うん。タケミチにもこっちからお願いする。私たちが何かぐずぐずしてたら蹴っ飛ばしてほしい」
「了解。任された」
「じゃあ行ってきます。行こうアルフ」
「うん、じゃあねタケミチ」
さてと俺も仕事に行きますか
それからは時は流れ
俺は仕事の傍ら色々サポートに回ってたら
「はい。今日はバルンアートです」
すっかり娯楽提供係となってしまった俺は今回、ハラオウン家*2とテスタロッサ家*3+ユーノの身内連中が集う中で芸を披露するなどしていた。手先の器用さを生かして時にはトランプで手品をお手玉をヨーヨーを随分アナログな芸ばかりだって?諸々事情込みでマジカルもデジタルも厳禁だからねショウガナイネ
色々やったかいもあり、あとは高町との文通も効果があったらしくプレシアの衰弱も緩やかなものだった
9月下旬
「今日は、あいつら来れるの午後からだってさ」
「…そう」
この頃にはプレシアの体力も落ちてきて、あやとりをする体力すら失われつつあった
「12段のはしご…もうすぐ出来そうなところだったのだけれどね…」
「…」
ベッドの傍らの紐にすら手を伸ばし、掴むのがやっとだった
「あなたにはお礼をしなくてはね…随分楽しませてもらったわ…」
「…そうかよ」
プレシアは弱弱しく拳を握りしめた
「ああ、こんな体になる前にもっと遊んであげればよかった…抱きしめてあげればよかった…なんで、なんで…あの子を、フェイトを憎まなければいけないなんて…!」
プレシアは涙を浮かべ慟哭する
「私は…!あの子を傷つけてばっかりで…!」
「……」
俺はなにも言わずに聞いていた
「このまま…傷ばかり遺して…死にたく…無いぃ…」
俺はこれを今更とは思わなかった
「確かにアンタは多くの傷を遺していくよ。ただその傷はこれからを生きる力にもなる。強く育った。その点についてだけはアンタの方針の利点だ」
プレシアは弱弱しくも呆れたようにわらって言った
「………あなた………ほんとう………やさしいのね………」
「うるせぇやい」
それから半月ほど経って
俺は、最近管理局内で騒がれるようになってきた事件の調査とその後始末にとある世界にやって来ていた。…というのも
「「「GYAAAAAA!!!」」」
なんでもリンカーコア持ちの魔法生物が襲われリンカーコアを奪われたり、魔導師が襲われて、管理局にも被害が出てる。で、今回の俺の仕事は縄張り内のトップ層がごっそりいなくなってしまった地域で暴れ始めた猛獣、怪獣どもの
「全く、人使いの荒いことで…」
気絶した怪獣たちの山の上、ため息をついていると通信が入る
「アイアイ、こちらタケミチ。なんすか
『…ああ、つい先ほど…プレシア・テスタロッサが亡くなった。フェイトとアルフが看取ったよ…穏やかに逝ったそうだ』
「…そうすか」
『帰ったら、フェイトに会いに行ってくれないか』
「分かった」
『…すまない』
「なんの謝罪だよ…気にすんなよテスタロッサのケアぐらいなんでもないさ」
『そうか…頼んだ』
遠くで雷鳴が鳴ったような気がした
これにて幕間終了
次回からA’s編です