先輩と歩いていた帰り道、借金を返すためにくたくたになるまで動いて帰っていた。
「そこのお嬢さん達、一つ占いはどうかな?今なら無料で見てあげるよ」
あの日のことは、未だに覚えている。
「え!?いいんですか!?占ってもらおうよ○○○ちゃん!」
道の端で椅子に座り、星……恐らくは星座らしき星々のデザインが入ったテーブルクロスで覆われたテーブルに両肘をついた人がそう声をかけてきた。
深くフードを被り顔が見えないその人は、そう言いながらその真っ白な手で私達を手招きしている。
占い師が今や、人の通りが少ないこの自治区で占いを?
頭に浮かび上がる疑問と疑いの心より、一緒に歩いていた先輩が反応し嬉しそうに私の手を引いて簡易に作られたテーブルへと私の手を引いていく。
いつの間にか用意された二つの椅子に座った先輩は、ワクワクした様子で占い師を見つめている。
そんな占いを信じている先輩に少しだけ呆れてしまう。
「占いって何をするんですか?やっぱり、水晶玉とか!それとも手相ですか?」
「フフフ、とても興味をもって貰えて嬉しいよ。ここで商売をしていたんだけど、誰も来ないから……帰る前に誰かを占えて嬉しいよ」
そう言いながら、猫はその手にカードケースのような物を取り出すと一枚一枚をテーブルへと置いていく。
「僕の専門は、タロット占いなのさ。せっかくだし君達の全てを占おうか」
「全て、ですか」
「そうさ。君達の未来、訪れる運命、向かえる結末……全ては定められているのさ」
いかにも占い師が言いそうな言葉に、私はすでに飽き飽きしてきた。
占いなんて所詮は迷信か、適当な放言だと私はそう思っているからだ。
でも、先輩は信じているのかキラキラした目で占い師が取り出したカードを見つめて興奮している。
「未来も分かるんですか!?凄いよ○○○ちゃん!もしかしたら、借金を返済できるかも分かっちゃうんじゃない!?」
「タロットカード占いはカードを選ぶだけじゃないんだ。そのカードを手にしたときの位置によって、その意味が変わっていく……ふふ、面白いと思わないかい?」
その言葉に先輩は黙ってぶんぶんと首を縦に振る。それに対して私は占いへの不信感と、早く終わって帰って寝たい気持ちが強くなっていた。
「じゃあ、どちらから引くのかな?」
「はいはい!私から!」
そう言いながら先輩が、星々の描かれたどこか神秘的にも感じられるテーブルクロスから一枚のカードを見つけて、ひっくり返した。
私はその一つ一つの動きから、何故か目が話せなかった。
そしてそのタロットへ描かれていたのは、
自分の知るタロットとは違う、見たことのないイラストに思わずテーブルへと身を乗り出す。
「見たことないタロットカード、ですね」
「ふふ、これかい?これは僕がデザインした大切なカードなんだ。普通のタロットカードとは違って、新鮮な感じになるだろう?」
そう言いながら占い師は、先輩の手にしたカードに刻まれた絵と文字を見て口を開いた。
「正位置の死神だね」
占い師はそう言って、先輩の前にカードを静かに置き直した。
砂嵐に呑まれ、輪郭を失っていく人影が、嫌になるほど鮮明に見える。
「し、死神!?」
「ずいぶんとおどおどろしい物を引きましたね、○○先輩」
ひぃん!と引いたカードの名称に小さな悲鳴を上げる先輩を横目に、二人で占い師の言葉に耳を傾ける。
「これは……終わりを示すカード。
淡々と、読み上げるように続く。
「特に――若い女性がこれを引いた場合」
占い師の指先が、カードの中央を軽く叩いた。
「計画していた未来が、成立しない。望んでいた形での結末は、訪れない事を示していることが多いね」
「け、結婚とか……そういう、ですか?」
「…せ、先輩?お付き合いされてる人が」
「ち、違うよ!?未来!未来の話だから!!」
「フフ、仲が良いようで何よりだ。さて、結婚についての意味かと聞かれたね、そうとも言えるし、言えないとも言える」
小さく笑う。
「重要なのは"何が終わるか"じゃない。
終わることそのものが、避けられないという点さ」
砂嵐の描かれた人影が、今にも消えそうに揺れている。
「抗ってもいい。足掻いてもいい……でも──」
一拍置いてから、優しく告げる。
「このカードは、
先輩は言葉を失い、唇を噛んだ。
「……それって、私が死んじゃうって………助からない、ってことですか?」
先輩の言葉に、私は持っていたショットガンを強く握りしめる。
「助かるかどうかは、問題じゃない」
占い師は首を傾げる。
「何かを失わずに済む未来が、もう
占い師の言葉を聞いた瞬間、持っていたショットガンの銃口を占い師へと向ける。
「先輩が死ぬ?そんなの、あり得ない。さっきからふざけた事ばかりっ!」
「○○○ちゃん!落ち着いて!私は大丈夫だから!」
先輩がショットガンを持つ手を掴んで下ろさせる、こんな聞いているだけで不愉快になる占いなんて、来なければ良かった。
「気にするかしないかは、当人しだいさ。さて……じゃあ、次は君だね」
そう思っていたとき、占い師の声に促され私はテーブルへ視線を落とした。
先ほどは先輩があのように言われたのだから怒ってしまったのであって、正直占いなんて信じていない。
占いなんて、偶然とこじつけの集合体だと思っている……思っている、はずなのに。
テーブルクロスに広がる星の模様が、やけに歪んで見えた。
「……一枚、ですよね」
指先で目に止まったカードに触れた瞬間、ひやりとした感触が走る。
紙のはずなのに、冷たい。
「君は、それを選ぶんだね」
占い師の言葉に何も返さず私は無言で一枚を引き、ひっくり返す。
そこに描かれていたのは、ガラス張りの建物の中心が爆発しており、見るからに落ちるのが想像出来た。
「これ、は……」
占い師の低い声が、耳の奥に響いた。
タロットカードにしては現代的なその建物の中央で爆発がおこる、そんな不思議なデザインのそれに目を奪われる。
「《塔》の逆位置」
私は喉の奥が、きゅっと締まるのを感じた。
「……それ、どういう意味なんですか」
聞き返したはずなのに、声が少し掠れていた。
おかしい、これは只の占いの筈だ。
「本来の《塔》はね、一瞬で全てを壊すカード」
占い師はカードに視線を落としたまま語る。
「
背筋に、冷たいものが這い上がってくる。
「
「……」
「
胸の奥が、じくりと痛んだ。
「
私は無意識に、拳を握りしめていた。
「破産。失望。精神の堕落、これらを意味するのが君の引いた塔、その逆位置だよ」
占い師はそこで一度、言葉を切る。
「○○○ちゃん、大丈夫?顔真っ青だよ?」
「だい、じょうぶです。所詮は、占いですから」
「どう思うかは君達しだいだけど、もう少し回りの声に耳を傾けるのも良いんじゃないかい?さて、今日の占いはこれでおしまい。よい子は帰る時間だよ……この占いが、外れる事を祈っているよ」
そう言われ私と先輩は帰路に着いた。
この占いを、私は信じていなかった。
所詮は占い、占いなんて迷信だ。
そう思い込む事で、引いたカードの意味に、占いの意味に向き合おうとしなかった。
私がこの占いをもっと信じるべきだと気が付いたのは、ユメ先輩が亡くなった後の事だった。
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CV石◯ 彰の名言、迷言
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続きはモモイがTSCにしました。