2030年8月5日 ハティリア王国シーラ魔法学園
「ふん、魔法も使えない野蛮な国ね」
彼女はハティリア王国の武器や防具の製造を担う工廠の貴族、イスウィッド公爵家の令嬢、ノワール・ド・イスウィッド。
年齢は十二歳。赤毛に近い茶髪が、若干のウェーブを帯びながら左右のツインテールに結われていた。それぞれのツインテールは、鮮やかな赤いリボンで丁寧に結ばれており、彼女の動きに合わせて揺れていた。
彼女はハティリア王国一の全寮制魔法学園、シーラ王立魔法学園に通う学生であり、学園の首席だった。王国の名門貴族の子息子女が多く通うこの学園で彼女は、魔法の才能・勉学の成績は共に優秀。同年代の中では群を抜いた実力を持っていた。
しかし、その才能ゆえに、ノワールは高飛車な性格になっていた。平民や貴族出身者でない者、魔法が使えない者を見下し、魔法こそが最高の力であると信じていた。
そんな彼女は、目の前に置かれた新聞を見て鼻を鳴らした。
「ノワール様、そのような物言いは...」
友人のエミリアが諌めたが、ノワールは聞かなかった。彼女は臆することなく言い放つ。
「だって事実でしょう?魔法が使えないから、武器に頼るしかない。哀れなものですわ」
実際、ノワールは魔法の才能に恵まれていた。十二歳にして既に上級魔法を複数使いこなし、学園の教師たちからも将来を嘱望されていた。
そんな彼女にとって、魔法を使えないロシアは「劣等な国」にしか見えなかった。
しかし、その認識が大きく変わる日が来た。
2030年8月7日 ハティリア王国 都市アルゴスタ
ある日彼女は、父であるアーサー・ド・イスウィッド公爵の執務室に呼ばれていた。
「父上、一体何のご用ですの?わたくしは学園の課題がありますのに」
ノワールは、少し不機嫌そうに言った。アーサーは、そんな娘の目を見て言った。
「ノワール。お前には、三日後のロシア連邦への外交派遣に同行してもらう」
「ロシア連邦…ですの?」
ノワールはその名前を聞いて、少し顔をしかめた。
「魔法が存在しない国…ですわね。そんな未開な国に、わたくしが行く必要があるのですか?」
「ノワール、その態度は改めるように。ロシア連邦は、魔法は持たないが、我々が想像もつかない技術を持っている。お前も、その目で確かめてくるべきだ」
「技術…ですの?魔法に勝る技術など、存在するはずがありませんわ!」
ノワールは、自信満々に言った。アーサーは娘のその傲慢な態度に、少し溜息をついた。
「お前は、まだ世界の広さを知らない。この機会に、学ぶべきだ」
2030年8月10日 アルゴスタ市内
ノワールは父と共に、ロシア連邦への外交派遣に同行することになった。
外交団にはイスウィッド公爵の他に、外務省の官僚数名と護衛の騎士たちが含まれていた。
「ノワール様、お荷物はこちらに」
侍女が、ノワールの荷物を運びながら言った。
「ありがとうございますわ。でも、本当に…魔法もない国に行く必要があるのかしら…」
ノワールは、小さく呟いた。
その日の午後、外交団はロシア連邦が用意した特別な輸送機が待つ、レイナス郊外に設けられたロシア軍レイナス空軍基地の飛行場に向かった。
そこにはIL-96と呼ばれる、大型の旅客機が待機していた。ノワールは、その巨大な金属の塊を見て驚愕した。
旅客機の全長は約64m、翼端幅は60m。白色の塗装に赤と青のラインが入った美しい金属で覆われた機体は、太陽の光を反射して輝いていた。
「あ…あんなものが…空を飛ぶと言うのですか?」
ノワールは、信じられないという表情で言った。
「そうだよ、ノワール。これがロシア連邦の技術だ」
「ふん…わたくしはまだ認めておりませんわ」
彼女はアーサーの言葉に対しそう言いながら、旅客機に乗り込んだ。
同日 ロシア連邦 モスクワ シェレメーチエヴォ国際空港
旅客機は数時間の飛行の後、モスクワのシェレメーチエヴォ国際空港に到着。
飛行機から降りた瞬間、彼女は言葉を失った。目の前に広がっていたのは、想像を絶する光景だった。
巨大な建物。ガラスと鋼鉄で作られたターミナル。その規模は、ハティリア王国の王宮全体よりも遥かに大きかった。
「こ、これが…空港…?」
ノワールは、その巨大さに圧倒されながら、呟いた。
空港のターミナルの中は、さらに驚くべき光景が広がっていた。
天井には無数の照明が取り付けられており、昼間のように明るく照らされていた。床は磨かれた大理石のように滑らかで、壁にはガラスや金属が使われている。
そして空港内では多くの人々が行き交っていた。
その数は、ノワールがこれまで見たどの街よりも多かった。そして彼らの服装は、ハティリア王国のものとは全く異なっている。
「父上…これは一体…」
ノワールは、父親に向かって、震える声で言った。
「これが、ロシア連邦だ、ノワール。魔法がない国…だと思っていたでしょう?」
アーサーは、娘の反応を見て、少し微笑んだ。
「…」
彼女は、何も言えなかった。
外交団はロシア側の案内で、空港から市内へと向かった。移動には、自動車が使われた。
「これが…自動車…ですの?」
ノワールはその乗り物を見て、また驚いた。
自動車は馬車のような形をしていたが、馬も御者 もいなかった。代わりに、金属の箱のような構造が前方に突き出ており、そこから低い音が一定のテンポで響いていた。
「はい。エンジンと呼ばれる機械で動きます」
ロシア側の案内人が、丁寧に説明した。
自動車は空港を出て、モスクワの市内へと向かった。窓の外を見た彼女は、再び言葉を失った。
高層ビルが立ち並び、道路にはアスファルトが敷かれていた。道路の両側には街灯が等間隔で設置されており、夜になると街全体を明るく照らすという。そして、道路には無数の自動車が走っていた。
「こ、こんなに…たくさんの自動車が…」
ノワールは、その光景を見て、呆然とした。
ハティリア王国では、馬車が主な移動手段だった。しかし、ここモスクワでは、馬車は一台も見当たらない。代わりに無数の自動車が、驚くべき速度で道路を走っていた。
「ノワール。これが魔法がない国の姿だ。しかし彼らは技術で、我々が魔法で成し遂げることを、そしてそれ以上のことを成し遂げている」
「…信じられませんわ…」
ノワールは、小さく呟いた。
その声にもはや傲慢さはなかった。代わりにあったのは、純粋な驚きと、そして少しの恐怖だった。
同日 モスクワ 外交官用宿泊施設
外交団は、モスクワの中心部に位置する外交官用の宿泊施設に案内された。その建物は、十階建ての高層ビルだった。
彼女はその高さを見上げながら、もはや信じられないという表情で見つめるしかできなかった。
ハティリア王国の建物は、最も高いものでも四階建て程度だった。十階建ての建物など、ノワールは見たことがなかった。
「これからエレベーターで上に上がります」
案内人が説明すると、彼女は首を傾げた。
「エレベーター…?」
案内人は、ノワールたちを建物の中に案内した。そこには、金属の扉があった。案内人がボタンを押すと、扉が開いた。
「こちらへどうぞ」
案内人に促されて、ノワールは中に入った。
金属の箱のような空間。その中には、数人が立てる程度の広さがあった。
扉が閉まると、突然、箱が上に動き始めた。
「きゃっ!」
ノワールは、その感覚に驚いて、思わず声を上げた。
「大丈夫です、ノワール様。これがエレベーターです。上の階に運んでくれる装置です」
案内人が、優しく説明した。
数十秒後、エレベーターは十階に到着した。扉が開くと、そこには長い廊下が広がっていた。
ノワールの部屋は、廊下の奥にあった。部屋に入ると、ノワールは再び驚いた。
部屋は広く、清潔で、そして何よりも、窓から見える景色が圧倒的だった。
窓の外には、モスクワの夜景が広がっていた。
無数の明かりが、街全体を照らしていた。高層ビルの窓からは光が漏れ、道路には街灯が等間隔で並び、自動車のヘッドライトが流れるように動いていた。
「こんな…こんな光景…見たことありませんわ…」
ノワールは、窓に近づいて、その景色をじっと見つめた。
ハティリア王国では、夜になると、街は暗くなった。油ランプや蝋燭の明かりが、わずかに街を照らす程度だった。
しかし、ここモスクワでは、夜でも昼間のように明るかった。
「これが…電気…というものの力…ですの…」
ノワールは、小さく呟いた。
その夜、ノワールは長い間、窓の外を見つめ続けた。
2030年8月11日 モスクワ 市内視察
翌日、外交団はロシア側の案内で、モスクワ市内の視察を行った。
最初に訪れたのは、ロシアの心臓とも言える場所、クレムリンだった。
クレムリンは、ロシア連邦の政府の中枢が置かれている場所で、赤い壁に囲まれた広大な敷地には、複数の宮殿や大聖堂が立ち並んでいる。
「これが…ロシアの首都…なんて壮観な光景でしょう…」
ノワールは、その壮大さに圧倒された。
しかし、ノワールが最も驚いたのは、クレムリンの歴史的な建物ではなく、その周辺に広がる近代的な街並みだった。
クレムリンの周囲には、高層ビルが立ち並び、道路には無数の自動車が走っていた。歴史と近代が、見事に融合していた。
「我が国は歴史を大切にしながらも、近代化を進めている国です」
案内人が説明した。
「古いものと新しいものが、共存している…」
彼女は、感心したように呟いた。
次に訪れたのは、モスクワ大学だった。
モスクワ大学は、ロシア連邦の最高学府の一つだった。その建物は、巨大で威厳に満ちていた。
「こちらが、モスクワ大学です。我がロシアの科学技術の中心地の一つです」
ノワールたちは、大学の中に案内された。そこでは、学生たちが様々な研究を行っていた。
物理学の実験室では、学生たちが複雑な装置を使って実験を行っていた。化学の実験室では、様々な薬品が試験管に入れられ、反応を観察されていた。
「これが…科学ですの…」
ノワールは、その光景を見て、驚きと興味が混ざった表情を見せた。
魔法学園では、魔法の理論と実践を学ぶ。しかし、ここでは、魔法ではなく、自然界の法則を学び、それを応用して技術を生み出していた。
「魔法がなくても…こんなことができるのですか…」
ノワールは、小さく呟いた。その声には、もはや軽蔑はなかった。代わりにあったのは、純粋な驚きと、そして敬意だった。
午後には、モスクワの商業地区を訪れた。
商業地区には、巨大なショッピングモールがあった。その中には、無数の店が並んでいた。
衣料品店。食品店。電化製品店。書店。その種類は多岐にわたっていた。
「こんなにたくさんの店が…一つの建物の中に…」
ノワールは、その規模に圧倒された。
特に、ノワールが驚いたのは、電化製品店だった。
そこには、様々な電化製品が展示されていた。テレビ。冷蔵庫。洗濯機。掃除機。
「これは…何ですの?」
ノワールは、テレビを指差して尋ねた。
「これはテレビです。映像と音声を映し出す装置です」
店員が説明をした後、テレビの電源を入れると画面に映像が映し出された。
『おはようございます』
「きゃっ!」
彼女はその映像に驚いて、思わず後ずさった。
画面には、ニュース番組が映っていた。アナウンサーが、今日のニュースを読み上げている。
「こ、これは…どうやって…」
「電波と呼ばれるものを使って、映像と音声を送信しています」
彼女はその説明を聞いても、完全には理解できなかった。しかし、目の前の映像は現実だった。
「魔法じゃないのに…こんなことが…」
2030年8月13日 モスクワ郊外 アラビノ演習場
外交視察の三日目、一同はロシア軍の演習を見学することになった。
アラビノ演習場はモスクワから車で約一時間の場所にある。広大な土地に、様々な軍事施設が設けられていた。
「本日は、我が国の軍事力の一端をご覧いただきます」
ロシア側の軍事顧問が、外交団に説明した。
「よろしくお願いいたします」
イスウィッド公爵が、丁寧に答えた。ノワールは、その隣で少し緊張していた。
軍事演習。それは、ノワールにとって初めての経験だった。
外交団は、演習場の観覧席に案内された。観覧席は、演習場全体を見渡せる高台に設けられていた。
「まもなく、演習を開始します」
演習は、まず歩兵部隊の行進から始まった。
数百名の兵士たちが、整然と隊列を組んで行進していた。彼らは統一されたデジタルパターンの戦闘服を着ており、手にはAK-74Mを持っていた。
「あれが…ロシア軍の歩兵ですの…」
彼女はその光景を見て、純粋に驚いていた。
ハティリア王国の軍隊も、行進の訓練は行っていた。しかしロシア軍の行進はその規模と統制において、ハティリア王国軍を遥かに上回っていた。
次に装甲車両が登場した。巨大な鋼鉄の塊。それが轟音を響かせながら演習場を縦横無尽に走っている。
「あ、あれは…何ですの…?」
ノワールは、その巨大さと迫力に圧倒された。
「あれはT-90戦車です。装甲で覆われた戦闘車両で、強力な大砲を搭載しています」
軍事顧問が説明した。
T-90は演習場の中央に到達すると、停止。そしてその砲塔が回転し、遠方の標的に向けられた。
「これより、戦車砲の射撃を行います」
軍事顧問が説明した数秒後、轟音が響いた。
T-90の125mm滑腔砲から砲弾が発射された。その音は彼女を始め、その場にいる外交官達が今まで聞いたどの音よりも大きく、地面が震えるほどだった。
「きゃあっ!」
その大きさに驚き、彼女は思わず耳を塞いだ。
砲弾は約二キロメートル先の標的に命中した。標的は一瞬で破壊され、土煙が上がる。
「に、二キロメートル先の標的を…一撃で…」
「あ、あんな兵器を…大量に配備しているというのか…」
外交官の面々は、その威力に顔を青ざめさせた。
魔法でも、二キロメートル先の標的を攻撃することは可能だった。しかしそれには高度な魔法の技術と、莫大な魔力が必要だった。
しかし戦車は、魔法を使わずにそれを成し遂げた。
次に、砲兵部隊の演習が行われた。
2S19ムスタ-S自走榴弾砲が一列に並ぶと、152mm主砲の砲口が上へと向かって上がり始める。そして全車がほぼ一斉に砲弾を発射。その轟音は先ほどの戦車砲を遥かに上回り、耳の奥が痛くなるほどだった。
砲弾は空を飛び、遠方の標的地域に一斉に着弾した。
爆発 爆発 爆発 爆発
巨大な爆発が、次々と起こった。土煙が上がり、地面が大きく抉れる。後に残るは巨大なクレーターのみ。
「こ、こんな…こんな破壊力…」
彼女はその光景を見て、完全に言葉を失った。
魔法でも大規模な破壊魔法は存在した。しかしそれは最高位の魔法使いでなければ使えない、非常に高度な魔法だった。
しかし、ロシア軍は魔法を使わずにそれ以上の破壊力を、それも大量に一斉に行使した。
「も、もし…もしこれが…わたくしたちに向けられたら…」
その想像をして、全身の毛が逆立つ。
恐怖。純粋な恐怖が、ノワールの心を支配した。気づけば彼女の体は微かに震えていた。
演習は、さらに続いた。
Su-25対地攻撃機が、演習場の上空を飛行した。
「あ、あれは…何ですの…」
ノワールは、空を見上げて、呆然とした。
Su-25は急降下し、地上の標的に向けてS-8ロケット弾を発射。ロケット弾は標的に命中し、巨大な爆発を起こした。
「空から…攻撃を…」
彼女はその光景を見て、完全に恐怖に支配された。
現時点で人種が空を飛ぶ手段はワイバーンのみ。それにも長い訓練が必要である。
しかしロシアは飛行機という機械を使って誰でも空を飛び、そして圧倒的火力でもって攻撃することができる。
「これが…魔法がない国の…軍事力…ですの…」
彼女は小さく呟いた。その声は、自分でも抑えが効かない程、震えていた。
演習が終わった後、外交団は観覧席を後にした。
ノワールは歩きながらも、先ほどの光景が頭から離れなかった。
戦車の砲撃。砲兵部隊の一斉射撃。攻撃機の対地攻撃。
その全てが、魔法を使わずに行われた。
「わたくしが信じていた…魔法こそが最高の力…という考えは…間違っていたのかしら…」
彼女は、心の中でそう呟いた。
2030年8月14日 夜 モスクワ 外交官用宿泊施設
その夜、彼女は自室で窓の外を見つめていた。眼下にはモスクワの夜景が、今夜も美しく輝いている。
しかし彼女の心は複雑だった。この三日間で見たもの全てが、彼女のこれまでの価値観を根底から覆していた。
魔法こそが最高の力。それがノワールがこれまで信じてきた世界だった。
しかしロシア連邦は、魔法を持たない。
それなのに彼らは高層ビルを建て、電気で街を照らし、自動車で移動し、そして魔法以上の軍事力を持っていた。
「わたくしは…何を信じてきたのかしら…」
彼女は、小さく呟いた。
その時、部屋のドアがノックされた。
「ノワール、入ってもいいか」
父の声だった。
「はい、父上。どうぞ」
「ノワール、今日の演習は…どうだった?」
アーサーは、娘に優しく尋ねた。彼女は少し躊躇した後、正直に答えた。
「…恐ろしかったですわ、父上」
「恐ろしかった?」
「はい…あんな破壊力を…魔法を使わずに…しかもあれほど大量に…。もし…もしあれが…ハティリア王国に向けられたら…わたくしたちは…何もできないと思いますわ…」
アーサーは、娘のその言葉を聞いて、少し表情を和らげた。
「ノワール。お前が、それを理解したことを、私は嬉しく思う」
「父上…」
「ノワール。魔法は確かに素晴らしい力だ。しかし、この世界には、魔法以外にも素晴らしい力が存在する。それを理解することが、真の賢さだ」
彼は、娘の肩に手を優しく置いた。
「ロシア連邦は魔法を持たない。しかし、彼らは科学技術という力を持っている。その力は魔法に劣らず、いや、ある面では魔法を超えている」
ノワールは父の言葉を聞いて、少し俯いた。
「父上…わたくしは…これまで…間違っていましたわ…」
「間違っていた?」
「はい…わたくしは、魔法こそが最高の力だと信じて、魔法を持たないものを見下していましたわ…。でも…この国を見て…わたくしは…自分がいかに愚かだったかを…思い知りましたわ…」
「ノワール…、お前が、それに気づいたことが、何よりも大切だ」
彼は娘を優しく抱きしめた。彼女は父の胸で、静かに泣いた。
しばらくして、ノワールは涙を拭いて、父を見上げた。
「父上…わたくしは…ロシアのことを…もっと学びたいですわ」
「学びたい?」
「はい…科学や技術について…そして、彼らがどのようにして、魔法なしでこれほどの国を築いたのかを…わたくしは…魔法学園の首席ですわ。でも、それだけでは…不十分だと思いましたの。この世界には、魔法以外にも、学ぶべきことがたくさんある。それを知ることが、真の学びだと…今、わたくしは理解しましたわ」
彼女の目には、強い決意が宿っていた。アーサーは娘のその言葉を聞いて、深く頷いた。
「ノワール。お前がそう思うなら、私は全力で支援しよう」
「父上…」
「ロシア連邦との関係を深め、お前が学べる機会を作ろう。そして、お前が学んだことを、ハティリア王国のために活かしてほしい」
「はい、父上!わたくし、頑張りますわ!」
ノワールは、力強く答えた。
その目には、もはや傲慢さはなかった。代わりにあったのは、純粋な学びへの渇望と、強い決意だった。
その夜、ノワールは再び窓の外を見つめた。モスクワの夜景が、相変わらず美しく輝いていた。
しかし今の彼女にとって、その景色は以前とは違って見えた。それは単なる美しい景色ではなく、人類の英知と努力の結晶だった。
「わたくしも…いつか…いつか、この国の人々のように…科学技術を学んで…ハティリア王国のために…何かを成し遂げたいですわ…」
その夜、ノワール・ド・ラ・イスウィッドは、新しい自分に生まれ変わった。 高飛車で傲慢だった少女は、謙虚で学びに貪欲な少女へと変わった。
これが、ノワールの覚醒だった。
ロシア連邦からの帰国後、ノワールは大きく変わった。
魔法学園では、依然として首席の成績を維持していたが、その態度は以前とは全く異なっていた。
平民や貴族出身者でないものを見下すこともなくなり、むしろ、彼らと積極的に対話するようになった。
そして彼女は、魔法以外の学問にも興味を示すようになった。
数学。物理学。化学。
これらは、魔法学園では教えられていない学問だった。しかし、ノワールは、独学でこれらの学問を学び始めた。
「ノワール様、最近は魔法以外の本も読まれるのですね」
侍女が、ノワールの部屋の本棚を見て言った。
本棚には魔法の教科書の他に、ロシアから持ち帰った科学の入門書や、数学の教科書が並んでいた。
「ええ。魔法も素晴らしいですけれど、科学や技術も同じくらい素晴らしいものですわ」
ノワールは、そう答えた。
「わたくしは、両方を学びたいと思っていますの」
侍女はノワールのその言葉を聞いて少し驚いた。
以前の彼女なら、こんなことは言わなかっただろう。
「ノワール様は、本当に変わられましたね」
「変わった…?」
「はい。以前は、魔法こそが全てだとおっしゃっていましたが、今は違います。ロシアの技術を見て…わたくしは…自分の視野がいかに狭かったかを知りましたわ。この世界には、まだまだわたくしが知らないことがたくさんある。それを学ぶことが、わたくしの新しい目標ですの」
ある日、魔法学園の授業で、教師がロシア連邦について触れた。
「皆さん、ロシア連邦という国をご存知ですか?」
「はい、先生。魔法が存在しない国だと聞きました」
教師が生徒たちに尋ねると、一人の生徒が答えた。
「その通りです。しかし、彼らは魔法を持たない代わりに、科学技術という力を持っています」
「科学技術…ですか?」
「はい。詳しいことは、ノワールさんに聞いてみるといいでしょう。ノワールさんは先日、ロシア連邦を訪問されましたから」
教師が、ノワールの方を見た。クラス中の視線が、彼女の元に集まった。
「ノワール様、ロシア連邦はどのような国でしたか?」
一人の生徒が尋ねた。彼女は少し考えた後、答えた。
「ロシア連邦は…わたくしがこれまで想像していたものとは、全く違う国でしたわ。魔法は確かに存在しません。でも、彼らは科学技術で、わたくしたちが魔法で成し遂げることを、そしてそれ以上のことを成し遂げていましたの」
「それ以上…ですか?」
「はい。例えば、彼らは電気という力で、夜でも街全体を明るく照らしていました。自動車という乗り物で、馬車よりも遥かに速く移動していました。そして…」
ノワールは、少し声を震わせながら続けた。
「そして、彼らの軍事力は…わたくしたちの魔法を…遥かに上回っていましたわ…」
クラスが、静まり返った。
「わたくしは、これまで魔法こそが最高の力だと信じていましたわ。でも、ロシアを見て…その考えは間違っていたと気づきましたの。この世界には、魔法以外にも素晴らしい力がある。それを学ぶことが、わたくしたちの視野を広げることになる…そうわたくしは信じていますわ」
ノワールのその言葉を聞いて、クラスの生徒たちは、様々な反応を見せた。
ある者は驚き、ある者は疑問を抱き、ある者は興味を示した。
しかし、全員が、ノワールの変化に気づいた。以前の高飛車で傲慢なノワールは、もうそこにはいなかった。
代わりにいたのは、謙虚で、そして学びに貪欲な新しいノワールの姿だった。
ノワールちゃんのキャラクターは、某超電磁砲のジャッジメントが元ネタです